借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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渋谷から追い出される

 ばーちゃんに転移門を錬成したと言ったら、大喜びしてくれて飴をくれた。

 

 昔から褒められる時にもらっていたので、子供に戻ったような、懐かしい気分になる。

 

 悪くはない。ずっと続いて欲しいとすら思う。

 

 軽い近況報告を済ませてから、俺は倉庫へ行って転移門を設置した。これで自宅との行き来は楽になったはずだ。

 

 緊急の用事が終わったので、そろそろ帰ろうかな。

 

「マスター、知晴さんから電話がきました。出てもいいですか?」

「うん」

 

 ポーチからスマホを取り出したユミが聞いてきたので許可を出した。

 

 どうして俺にかけなかったんだろう。

 

「ユミです」

「近くに裕真はいるか?」

 

 スピーカーモードにして、俺にも会話が聞こえるようにしてくれた。

 

 なんて気の利く精霊なんだろう。

 

「いるよ。どうしたの?」

「よかった。お前に電話しても出なかったから、何かあったのかと思ったぞ」

 

 通信代は支払っているのにつながらない?

 

 ポケットに入れっぱなしのスマホを見ると、ディスプレイは真っ黒だった。画面を叩いても動かない。

 

「ごめん。電池が切れていたみたい」

「マスター……」

 

 充電なんてうっかり忘れること多いでしょ。そんな目で見ないで欲しい。

 

「ユミとつながったから問題なし! ってことで、何か用?」

「錬金術ギルドから辞令が出た」

 

 うぁ~。それは嫌だな。

 

 たいていの場合、錬金術師にとって歓迎できない依頼が多い。しかもギルド会員の義務として、年に一度は依頼を受けることに同意しているため、断れないのだ。

 

 望まぬ強制依頼ってことで、錬金術師の間では赤紙や不幸の手紙といった別名で呼ばれている。

 

「それで今回は、どんな不幸を運んでくるのかな?」

「放置ダンジョンの現状調査だ」

「ちょっと時期が早くない?」

 

 年末の大掃除代わりに行われるのが、放置ダンジョンの調査依頼だ。

 

 まだ夏だというのに早すぎる。

 

 ピンときたね。裏の理由があるって。

 

「階層を上がってきたドラゴンがいただろ? 後は謎の魔物。あれらが放置ダンジョンに居るかもしれないと思ったらしい」

「それは……否定出来ないね……。確かに早急な調査が必要だ」

 

 精霊とは違って、神霊はめったに自然発生しない。あの神官の死体を使って儀式で呼び寄せ、人工的に現世へ定着させたのだろう。

 

 犯人は恐らく錬金術師。

 

 放置ダンジョンに潜んでいる可能性もあるから、探索者と一緒に調べて来いってことなんだろうね。

 

「他の錬金術師にパスできないかな?」

「今回は一斉調査だ。裕真以外にも話はいっている。それは難しいな」

「だよね~」

 

 日本各地にある放置ダンジョンをまとめて調べるのか。

 

 不幸の手紙の名に恥じない、内容だね。

 

「依頼を受けたとして、お金はもらえるの?」

「月に30万と経費までギルドから支払ってもらえる」

「それってお得かな?」

 

 邪魔しないよう、黙っているユミに聞いてみた。

 

 お金については俺よりも詳しいからね。

 

「マスターレベルの錬金術師であれば、ハッキリ言って舐めた報酬ですね。ドラゴンの素材で潤っているのですから、もう少し出せないのでしょうか?」

 

 30万あれば家賃や食費、ちょっとした素材まで変えるから十分かなと思っていたけど、ユミの反応からすると低すぎたらしい。

 

 頬を膨らませて怒っている。ちょっと可愛い。押してもいいかな。

 

「交渉したが、これ以上は出せないと言われている」

 

 スマホ越しから、知晴さんの情けない声が聞こえた。

 

 しゅんとしていて、本当にダメだったんだろうことが伝わる。何だか可哀想になってきたのは、ユミも同じみたいだ。

 

 苦労して交渉してくれた相手に怒りをぶつけるほど、俺たちは子供じゃない。

 

「わかりました。その条件で受けるしかなさそうですね」

「そう言ってもらえると助かる。場所の詳細はユミのスマホに送っておく。それじゃな」

 

 通話が切れたのと同時に、ポンと通知音がなった。

 

 ユミがディスプレイを操作して資料を確認しているようだ。

 

「何が書いてあった?」

「期間は一ヶ月、問題が発覚すれば解決するまで延長されるそうです」

「何も起こらないことを祈るしかないね……」

「宿泊先はダンジョン付近にある山小屋で、畑があるそうです。これは朗報ですね」

 

 ユミは虫が大好きだ。都会だと滅多に出会わないので、山の中で過ごせるのは嬉しいのだろう。

 

 畑があるなら土いじりもできる。探索者と違って、錬金術師は終日ダンジョンに入るわけじゃないし、薬草を育てる時間も作れるだろう。

 

 俺たちが滞在している間に実らなくても、次来る人たちのためになるかもしれない。

 

 転移門の錬成という大仕事を終えたことだし、長めのバカンスだと思っていれば依頼も楽しめるはずだ。

 

「そうだね。薬草でも育てようか」

「いいですね! 錬金術師専用のお店からブルーボルド草の種をもらっておきます!」

「他にも育てたい物があれば、遠慮なく言ってね」

「畑が足りますかね……」

「新しく作れば良いじゃないか」

「いいですね! 畑仕事しながら虫さんと交流します!」

 

 っん? 交流?

 

 何をするつもりなんだろう。

 

 人間とは混ざっているけど、精霊であることには間違いない。特別な能力を持って昆虫と話せるのかな。

 

 仕事さえきっちりすれば、ギルド側も文句はないだろうし、昆虫との交流というのも試してみようじゃないか。

 

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