借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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お揃いがいいもんね

 出発前に必要な道具を買うため、渋谷を歩いている。ミスラムは転移門を盗まれないよう警備してもらっているため、今回はお留守番をしてもらっている。

 

 俺たちは夏の陽差しを受けながら畑仕事に向いた物を選ぶため、何でも売っているんじゃないかというお店のビルに入った。

 

「マスター、アウトドア系は地下にあるみたいですよ! 早く行きましょう! 売り切れちゃいます!」

 

 テンションがいつもより高いユミに手を引かれて、エスカレーターに乗り、地下一階のフロアに来た。

 

 展示用の小さいテントやタープがフロアの中心に設置されていて、棚の中にはキャンプに使うバーナー、折りたたみの椅子、電気ランタン、マット、焚き火台、料理道具などが並べられている。

 

 薪割り用のナイフや斧といったのもあって、魔物討伐にも使えそうだ。

 

「畑仕事用の道具が欲しいんだよね?」

「はい! 買いたいのは長靴と軍手、帽子、あとは……作業用のつなぎですね」

 

 全部畑仕事に使うものだ。放置ダンジョンの調査には必要ないんだけど、ユミにとっては最優先事項らしい。

 

 俺から手を離すと、長靴が置いてあるエリアで立ち止まり、商品を吟味している。

 

 気に入ったデザインは複数あるみたいで、ベースがピンクの白い水玉模様が付いた長靴、真っ黒で地味な長靴、水色とカエルの絵が描かれた長靴を見比べていた。

 

「気に入ったなら全部買うよ?」

「そんなお金、どこにあるんですか! 一つに絞るので、マスターは待ってください」

 

 これは時間がかかりそうだ。

 

 近くに寄りかかれそうな柱があったので、腕を組みながら体重を預けて視線を上げると、ちょうどユミの死角に緑色の長靴があった。クワガタとカブトムシのシルエットが描かれていて、虫好きにはピッタリだ。

 

 高いところにあるので、ユミは届かない。

 

 柱から離れてテントウムシの長靴を取ると、ユミの前に置いた。

 

「これはどうだ?」

「マスター、可愛いです!! 最高のデザインですねっ!」

 

 手に取って値札を見ると五千円もした。ユミの笑顔が凍り付く。

 

 次の言葉は予想できたので、勝手に奪い取ってレジに向かう。

 

「高いですよ?」

「必要経費だからギルドに請求する。問題ないよ」

 

 長靴が経費になるかは分からないけど、何としてもギルドに支払ってもらおう。

 

 知晴さんに土下座をすれば、許可は出そうな気がする。

 

 ダメだったら最悪借金をして解決だ。うん、完璧なプランである。

 

「マスターの長靴は、これでどうですか?」

 

 届かない場所にあるらしく、ユミが指をさした場所を見ると、おそろいの長靴が置いてあった。男性用らしく、サイズは大きい。

 

「同じのでいいの?」

「え……マスターは嫌なんですか…………」

 

 確認しただけなのに、絶望したような顔をされてしまった。

 

 信じられない、みたいな言葉をつぶやいていて、酷い勘違いをされている。

 

「確認しただけだから! お揃いにしよう!」

「マスター、無理してません?」

「してない! してないって!」

 

 必死に言ったら、ようやく気持ちが伝わったようだ。

 

 ほっと一安心していると、ユミが近くに置いてあった帽子を手に持った。花のあしらいが付いた、つばの広いサファリハットだ。色は薄いピンクで、店は女性向けのデザインとして置いている。

 

 ユミには似合いそうだ。どうやって褒めようかな。

 

「でしたら、全部お揃いにしましょう! いいですよね?」

 

 ええ! 俺もその帽子をつけるの?

 

 悪気なんて一切なさそうだから恐ろしい。

 

 断ったら、「私とのお揃いは嫌なんですね」って、悲しむのは目に見えている。でも俺はピンクの帽子なんて似合わないぞ。

 

「後はですね。作業用のつなぎは帽子に合わせた色で、軍手は普通の白が良いですね。それと帽子には虫のワッペンを付けて、可愛く仕上げたいんですけど、全部経費でいけそうでしょうか?」

 

 問題はそこじゃない! なんて、口が裂けてもいえない。

 

 俺はこの笑顔を守るため、羞恥心を捨てるんだ!

 

「全部経費でいけるよ。知晴さんにごり押しするから、ユミは気にせずお揃いの物を買っちゃおう」

「マスター! ありがとうございます!」

 

 手に持っていた商品を俺に預けると、ユミは小走りで他のエリアに行って、軍手や作業用つなぎまで持ってきてしまった。

 

 しかも狙い通りのデザインが置いてあったので、完全に女性向けの物ばかり。

 

 最後に見つけたワッペンがカマキリだったのは、俺への配慮だったのだろうか。

 

「マスター、いい買い物ができましたね」

「そうだね」

 

 ビルを出て買った商品を抱えているユミを見ていたら、女性向けのデザインを着ることなんて、どうでも良く思えた。

 

 ユミが幸せなら俺は文句ないからね。

 

 同行する探索者に笑われるぐらい、甘んじて受け入れよう。

 

「この後はどうします?」

「ブルーボルド草の種を買いたいんだけど、その前に家へ帰る?」

 

 盗難防止のため、一般の店だとマジックバッグの持ち込みは禁止されている。

 

 大荷物になったら一度帰った方がよいかもと思って提案した。

 

「いえ。このまま行きましょう」

「疲れない?」

「これでも精霊です。問題ありませんよ」

 

 魔物と戦えるぐらい頑丈だもんね。

 

 そこら辺にいる探索者よりも強いんだから、気にするほうが失礼ってやつか。

 

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