借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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(知晴視点)関東エリア部長の仕掛け

 誠から放置ダンジョンの報告を受けた翌日、関東エリアを取りまとめている部長の村田が、渋谷支店にやってきた。

 

 事前に連絡をもらっていたので、予約していた会議室に通してお茶を配る。

 

 席に座ると、正面にニヤニヤと笑った村田の顔が視界に入った。俺への嫌がらせをしに来たんだろう。

 

 はぁ。馬鹿らしい。

 

 錬金術師としての才能がなく、出世欲に取り憑かれた男は哀れだな。

 

「今日は放置ダンジョンについて特別な話があるとか?」

 

 悪い話だろうから、前置きなんてすっ飛ばして本題に迫る。

 

「そうだ。渋谷支部でくすぶっている宇田川君に、すばらしい辞令を持ってきた」

 

 村田は高級ブランドのビジネスバッグから、クリアファイルに入った一枚の用紙を取り出した。

 

 署名の欄に錬金術ギルド長である木島さんと、探索ギルド長の藤原さんのサイン、そして押印まである。2つのギルドにまたがった正真正銘の辞令だ。

 

 手に取って文字を読む。

 

「……今回の調査で鍵が壊されていた放置ダンジョンの管理、ですか」

「そうだ。全国で3つある。そこを宇田川君の管轄にしよう」

「ダンジョンの管理は探索者ギルドの領域では?」

「彼らとは協議済みだ。問題が起こった放置ダンジョンについては、管理が錬金術ギルドに移った」

 

 探索者ギルドと錬金術ギルドは、お互いダンジョンに依存している組織だ。そういったこともあって仲が良く、業務を融通し合うこともある。

 

 放置ダンジョンの調査のように共同で動くこともあれば、今回のように一部ダンジョンを完全に任せてしまう場合もあるのだ。

 

 非常に珍しいことではあるが、まったくないというほどでもない。辞令には探索者ギルド長の名前まであるので、村田が言っていることは間違いないんだろう。

 

「また2つのギルド合同で放置ダンジョン特別本部が作られ、宇田川君は本部長となった。おめでとう」

 

 出世欲の塊である村田が、俺の出世を喜ぶなんてありえない。

 

 明かされてない罠があるんだろう。

 

「また同時に渋谷支部長は解任となる。後釜は決まっているから、安心してくれたまえ」

 

 もう一枚の紙を取り出した村田は、俺の前に置いた。

 

 今度は錬金術ギルド長のサインと押印しかない。

 

「確かに、解任の辞令ですね」

 

 正規の出世街道を潰してきたか。

 

 村田は俺のことを特別本部の本部長止まりで終わらせるつもりなのだろう。

 

 今回の辞令に反発しても無意味だ。根回しは終わっていそうなので、他のエリア部長を味方に付けるのも難しいだろう。

 

「特別本部長の権限はどうなっているのですか? 支部長の時みたいに、簡単に首を斬られると困るんですが」

「詳細は後でメールを送るが、3つの放置ダンジョン限定で、我々エリア部長と同じ権限がある。大きな失態をしない限り、誰もクビにはできんよ」

 

 今ので確信した。村田は正規の出世街道を潰すだけじゃなく、特別本部長にした上で失態をさせるつもりなんだ。

 

 放置ダンジョンに侵入したのは錬金術ギルド……いや、村田の息がかかった配下の誰かだ。

 

 俺が就任した後に暴れるつもりなんだろう。

 

 ギルドは利権の塊。断れば錬金術師として生きていくのは不可能だ。問題が起こると分かっていても受け入れるしかなかった。

 

「放置ダンジョンを管理する探索者は、私が選んでもよろしいのですか?」

「既に任命済みだ。埼玉は天宮、新潟は富原、高知は桜宮のパーティが担当すると決まった」

 

 名前の挙がったメンバーは知っている。

 

 裕真を抜けば、どれも探索者ギルドで扱いにくいと評判のパーティだ。

 

 放置ダンジョン調査は、事実上の無期限。さらに都心から離れているので、探索者ギルドのほうでも左遷の動きはあるわけか。

 

 村田の息がかかっている可能性まで考えると、信じられるのは裕真のみだな……と本来なら悔しがるところだろうが、村田の動きなんて把握していたから、名前の挙がっている探索者は俺とつながりが強い。

 

 全員、裏切る心配はないのだ。

 

 これだけでも大きな助けとなるだろう。

 

「配置された人材は自由に使っても問題ないですよね?」

「交替以外の要望であれば、宇田川君の好きにするがいい」

 

 してやったり、といった感じか。

 

 ついに俺を蹴落とす算段がついたと思って油断しているな。

 

 爪が甘い。

 

 村田は、ラルクノアについて何も知らない。

 

 放置ダンジョンの管理権限をもらえるのであれば、ラルクノア発見の実績と利益は、すべて俺の手柄になる。提供先だって俺がある程度は決められるだろう。他のエリア部長やギルド長すら、俺の言うことに反対するのは難しくなる。

 

 俺にとってはどうでもいいことだが、村田は悔しがるだろうな。

 

「わかりました。謹んで辞令をお受けいたします」

「いいだろう」

 

 満足そうにした村田は立ち上がり、俺に近づくと肩に手を置いた。

 

「それと、だ。君の席は放置ダンジョンの管理小屋になる。埼玉、新潟、高知……好きなところを選ぶといい」

 

 何も知らない村田は、勝ち誇った笑いを出しながら会議室を出て行った。

 

 新潟と高知の放置ダンジョンの調査は手こずっている。新しい発見はない。優先するべきは裕真の所だろう。

 

 俺の新しい席は埼玉で決まりだな。

 

 久々に裕真の顔を見に行くとでもしよう。

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