借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

72 / 80
新しい畑を作ろう

 知晴さんは転移門から戻ってきた翌日から、放置ダンジョンを限定解放するために動き出した。

 

 名前を埼玉ダンジョンと名付け、素材の買取所を建てるために素材を発注している。さらには探索者ギルドと連携して、ギルド長と受付数名を派遣してもらう予定らしい。

 

 彼らが到着すれば放置ダンジョンではなくなるため、俺は責任者じゃなくなる。鍵を壊してダンジョンに侵入した犯人は見つかってないけど、それどころじゃなくなったので、例外的な処置ってヤツらしい。

 

 だからといって俺は自由になるわけじゃない。

 

 埼玉ダンジョンに常駐する専属錬金術師として、知晴さんと一緒に滞在しなければならない。

 

 各種ポーションを販売するお店の運用は、錬金術ギルドから派遣された人がやってくれるみたいで、俺は特別なオーダーが入った場合に錬成する係となるらしい。自由度はかなり高いので、錬金術で遊ぶ時間は取れそうだ。

 

 ユミが作った畑もあることだし、しばらくは滞在してもいいと思っている。

 

「ちょっと外に出てくるね」

 

 デスクワークをしている知晴さんに声をかけ、山小屋から出る。畑の方に向かうと帽子をかぶったユミの姿が見えた。

 

 放置されていた畑はブルーボルド草が生えていてこれ以上は植えられないので、新しい畑を開拓しているようだ。

 

 山小屋にあった鍬で土を掘り返し、虫と協力して塊を砕き、柔らかくしている。

 

「頑張ってるね」

 

 俺が声をかけると、ユミは汗を拭って顔を上げた。

 

「マスター、一緒にやりませんか?」

「そのつもりだよ。何をすればいいかな」

 

 お店で買った長靴や帽子、服を身につけている。肩にはタオルを掛けているので、汗をダラダラ流しても作業は続けられるだろう。

 

「マスター、もう少し大きくしたいので、土を掘り返してもらえませんか」

「任せて!」

 

 ユミから鍬を受け取ると、大きく振り上げて地面に突き刺す。いい感じに刺さったので、土を持ち上げた。思っていた以上に力が必要だぞ。

 

 途中で石を見つけたら、ぽいっと畑の外へ投げる。

 

 何度も繰り返していくと疲労が溜まっていく。汗が浮かんできたのでタオルで拭いながら、10メートルぐらいの距離の土を掘り返した。

 

「マスター、お疲れ様です。次は土を軟らかくする作業ですよ」

 

 ユミは石のように硬い土を握りつぶした。

 

 土の塊をサラサラにする作業をしろってことらしい。楽しそうに作業をしていて、休みたいと言える空気感ではなかった。

 

 よし、頑張ろう。

 

 俺も土の塊を掴むとボロボロと砕いて細かくしていく。地味な作業だ。時間がかかる。ユミみたいに虫の力を借りた方がいいのかなと思ったけど、二人きりの時間も悪くはないかと思い直した。

 

 最近は誠パーティや知晴さんが近くにいて、こういう時間を作れてなかったんだよね。

 

 冒険するのも悪くはないけど、俺にはのんびりとした日常が好きだな。

 

「肥料を持ってきますね」

 

 1時間ぐらいかけて塊を砕いたので、土はほとんどサラサラになった。

 

 次の行程としては栄養を与えるらしい。

 

 麻袋を抱きかかえながらユミが戻ってきた。中には白い粉が入っている。

 

「マスターは土にかけてもらえますか?」

「やってみる」

 

 両手で白い肥料をすくって砕いた土に振りかけると、ユミは土と混ぜる作業を始めた。

 

「マスター、こうやって馴染ませると植物さんが喜ぶんですよ」

「へー。詳しいね。勉強したの?」

「ネットで調べました」

 

 家にはパソコンがないのでスマホを使ったんだろう。それだけ畑で植物を育てるのを楽しみにしていたんだろうな。

 

 そりゃ作業着とかもお揃いにしたくはなるか。買い物したときの強引な感じも、納得はできる。

 

「事前に調べて偉いね」

「マスターには任せられませんから」

 

 どや顔をされたけど、気にはならなかった。だって事実だもんね。

 

 連絡やお金の管理、私生活周りをお世話になっているんだ。今さらだよ。

 

 何度か肥料をまいてユミと一緒に土を混ぜる。その際に、土の塊を発見したら砕いてサラサラにしておくのも忘れない。こういった丁寧な作業が作物の成長に大きく関わるんだよね。きっと。

 

 土壌作りは完成したので、後は買っておいた種を植えて終わりだ。結構な時間をかけたけど、ほどよい疲労と達成感があって充実している。

 

 ユミと地面に座って完成した畑を見ていた。

 

「お前たち。襲撃が来るかもしれないのに何をやってるんだ」

 

 呆れた顔をした知晴さんが立っていた。

 

「明るい時間からはこないでしょ」

「そうとは限らない。油断したら死ぬぞ」

「大丈夫です。私がさせませんから」

 

 きりっとした顔でユミが言い切った。

 

 クロちゃんは居ないけど、虫たちの力を借りて監視網は敷いていると聞いていた。異変があれば詳細は分からなくても、気づくことぐらいはできる自信があるんだろう。

 

「わかったから、そう睨むなって。ユミちゃんがしっかりしていることぐらい、俺だって分かってる。俺は室内で仕事しているから、終わったら戻ってきてくれよ」

 

 逃げるようにして知晴さんは戻っていった。

 

 注意をしに来ただけなんだろうか。

 

「邪魔者はいなくなりました。もう少しのんびりしましょう」

 

 雑な扱いをされて少しだけ知晴さんが可哀想だと思ったけど、ユミの笑顔を見たらすぐに忘れてしまった。

 

 俺たちはこれでいいんだよ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。