借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~   作:わんた

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(怜司視点)ラルクノア強奪作戦実行

 村田に放置ダンジョンの詳細マップと山小屋の間取りをもらってから、10人の部下を率いて山を登っている。

 

 時刻は夕方だ。途中から山道を離れて進んで行き、陽が落ちる前に放置ダンジョンへ到着した。目的はラルクノアの奪取と、山小屋にいる天宮裕真の殺害である。

 

 相手は錬金術師だ。戦う力はないと思っていい。部下は4級の探索者であるため、奇襲であれば問題なく勝てるだろう。

 

 問題はダンジョンの方だ。出現する魔物は俺たちの手に余る。正面から戦えば沼地で全滅だ。そこで仲間の錬金術師に魔物避けの粉を作らせた。

 

 興奮状態や俺たちに狙いを定めている状態だったら効果はないが、徘徊している魔物は遠ざかってくれる。俺たちの生命線だ。

 

「ボス、どうしますか?」

「天宮裕真を殺害しに行く」

 

 探索には時間がかかる上に、どうなるかわからない。先に難易度の低い方を終わらせるべきだろう。

 

 部下を率いて山小屋まで到着すると、ドアを開こうとするが施錠されていて動かなかった。破壊はできるだろうが時間はかかる。また大きい音も出るだろう。速やかに終わらせたいので、窓を割って侵入するように指示を出す。

 

 空き巣をしていたこともある二人が窓にまで近づくと、音を立てずにガラスを割る。

 

 けたたましい警報音が鳴り響いた。

 

 クソ! 山から下りたという情報はなかったのに! 警備を整えられる時間があるとは思わなかったぞ!

 

 計算外だ。こうなったら強行突破しかない。

 

 窓を割って戸惑う部下に行けと指示を出すと、窓枠に足を乗せて侵入しようとしたが、足がくっついて離れないようだ。剥がそうとしている間に腕や手までも接着してしまい、二人は動けなくなる。

 

 警報装置以外の罠も用意していたようだ。

 

 これも事前情報にはない。あいつらは探索に必要な物しか持ち込んでなかったはずだぞッ!!

 

 いったい、何が起こっているんだ!?

 

「あれは粘着テープですね。錬金術で作っているので、自力では取れません。相手は我々が来ると分かって待ち受けているかもしれません」

 

 仲間の錬金術師が、分かっていることを言いやがった。そんなこと、言われなくても分かっている!! 問題はどうやって罠を用意したか、だ。ついでにいえば、襲撃があると分かっているのもおかしい。

 

 村田が俺たちをハメようとしているわけじゃないだろう。どこかで事前に情報が漏れていたと、考える方が自然だ。

 

 部下の戦意が落ちるのを感じる。

 

 予想外の展開が起こったのだから撤退したいところだが、逃げたところで村田は俺たちを許さないだろう。借金が返せず、海に沈められるだけだ。

 

 何があっても前に進むしかない。

 

 罠があるなら食い破ってやる!!

 

「俺たちがやることは一つだけだ。全員突入しろ」

 

 俺が剣を抜くと覚悟を決めたのか、部下達がドアを破壊して中に突入した。錬金術師は粘着テープを無効化するために窓の方へ走っている。

 

 山小屋の中が騒がしくなった。

 

 窓から飛び降りて逃げるような気配はない。寝込みを襲えたのだろう。予想外の被害は出たが、計画通りではある。

 

 少し遅れて俺も中に入った。

 

 部下達はすぐに二階へ上がっているようで、上から足音が聞こえる。

 

 念のためにリビングやダイニング、キッチン、温泉を調べてみたが誰もいなかった。ターゲットが一階にいないのは、間違いなさそうだ。

 

 俺も二階に上がると部下の一人が報告に来た。

 

「誰もいません」

 

 逃げた痕跡はないんだ。それはないだろう。

 

「ちゃんと調べたのか?」

「ベッドまでひっくり返して、部屋の隅々まで調べました。ターゲットだけじゃなく、宇田川もいないんです」

 

 山から下りたという情報はなかったはずだ。

 

 侵入に気づいて窓から飛び降りたとしても、痕跡ぐらいは残る。誰かが気づいて報告ぐらいの知能はある。

 

 どこかに隠れているはずなんだが……。

 

「ぎゃぁぁぁぁっっ!!」

 

 一階から、野太い男の悲鳴が聞こえて思考を中断した。

 

 新しい罠に引っかかったのかもしれない。近くにいる3人の部下を率いて声がしたところへ向かうと、窓枠に張り付いていた男たちが真っ黒になっていた。

 

 一瞬だけ、燃やされたかと思ったのだが、焦げた臭いはしないので違う。

 

 ライトを当ててよく見ると、小さくうごめいているのが分かった。

 

「虫だ……」

 

 部下の一人がつぶやいた。

 

 さまざまな虫が粘着テープにくっついた二人と錬金術師に張り付いている。口や鼻の中にも入っていそうだ。さらに二階からも悲鳴が聞こえている。誰もいないとの報告が正しいのであれば、虫に捕まったのだろう。

 

 錬金術には虫を操る道具もあったのか。

 

 恐ろしいトラップだ。

 

「こんな死に方は嫌だ!! 俺は逃げるぞッ!!」

 

 部下の戦意を挫くのに十分だったようで、連れてきたヤツらが逃げ出していく。

 

 しかしドアを出た瞬間、虫に襲われて倒れてしまった。

 

 クソッタレがっ! こんなの聞いてないぞ!!

 

 俺まで倒れたら作戦は完全に失敗だ。それだけは避けなければならない。

 

 天宮の殺害は後回しにして、ダンジョンに逃げ込もう。虫も中までは入って来られないはずだ。

 

 回復ポーションを口に含んでから布で鼻と口を隠し、山小屋にあったティッシュで耳の穴を塞ぐ。目は暗視ゴーグルがあるので大丈夫だろう。

 

 胸にぶら下げているお守りを触って祈りを捧げると、覚悟を決めて外へ飛び出す。

 

 予想していたとおり虫がまとわりついてくるが、覚悟が決まっていたから足は止まらない。体の一部が噛まれて痛みを感じたが、ポーションを飲んですぐに癒やす。

 

 肺が壊れそうなほど全力疾走をしていると、ダンジョンの入り口が見えた。

 

 剣の柄で錠前を破壊して中に入ると、虫たちは一斉に逃げていった。

 

 原理はわからないが動物や虫はダンジョンに入りたがらない。その法則を利用して罠から逃げ出したのだ。

 

 後は魔物よけを体に振りかければ襲われる心配はなくなる。もうすぐで一息つけると思っていると、背後に殺気を感じた。

 

 振り返っても何もいない。

 

「気のせいか……」

 

 前を向くと黒死蜘蛛が立ちふさがっていた。自然と頬が引きつってしまった。

 

 噛みつかれると一瞬にして筋肉が弛緩し、心臓が止まってしまう毒を持っている。

 

 放置ダンジョンにいるとは聞いてなかったが、目の前に居るのだから対策を考えなければならない。

 

 剣を前に向けて距離を取りつつ、相手の出方を見る。

 

 姿がブレると消えた。

 

 左右を見るが何もいない。

 

「背後か!」

 

 剣を振るいながら確認するが、空を切っただけだった。

 

 残りは一箇所のみ。

 

 顔をあげると黒死蜘蛛の腹が見えた。剣を突き上げて刺し殺そうとするが、体を回転させて回避されてしまう。

 

 器用なヤツだ。

 

 後ろに飛んで距離を取ろうとするが、足に糸が絡まって動けなかった。

 

 いつのまに!?

 

 その後は何も出来なかった。腕や体を拘束されてしまう。

 

 すぐに殺さないのは非常食として保管するためだろうか。目や口までも塞がれてしまい周囲の状況は分からない。

 

 作戦は完全に失敗だ。結局俺の末路は変わらなかったか。

 

 人間に殺されるか、魔物に殺されるかの違いしかない。

 

 ずりずりと引きずられながら、俺はどこかへ運ばれていった。

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