(追記)投稿時間間違えました。申し訳ございません。
「申し訳ございません。このようなことになってしまい……。」
『いやいや、尾刃さんは何も悪くないから。こうして捜査をやってくれただけでもありがたいし……。』
カンナは部下にアビドスの件についての捜査の中止を言い渡した後、来馬にも捜査の中止と短い期間ながらも捜査の結果について話していた。
部下たちの悔しそうな顔を見て歯痒い思いをしたばかりの後で来馬にもこの事を伝えなくてはならない事実に憂鬱な気分でいた。
「ただ、少なからずとも判明した事実は幾つかあります。」
『判明した事実?』
「アビドスの郊外………砂漠にほど近い場所でカイザーPMCの傭兵を見たという話をその周辺に住んでいる住民から聞き出すことが出来ました。」
カンナもとい今回の事件についての捜査を担当した生徒たちはカイザーがアビドスで何かを企んでいるという仮定の元で捜査を進めていた。
理由としてはカイザーの社員がアビドス高校を占拠するメリットが無いのと聞き込み調査からカイザーPMCの傭兵がアビドスで活動をしていることが判明したからである。
来馬たちに言うことは無いが、アビドス高校は廃校寸前の極めて規模の小さい学校である。
例え占拠したとしてもそのような学校から得られるものはほとんどないどころかやるだけマイナスになってしまう。
そのため、捜査班たちはカイザーは何かしらの理由があってアビドス高校を占拠ないし自分たちの所有にしなければならない、つまりアビドスで何かを企んでいる可能性があるという結論に至ったのである。
しかし、そこからは上層部からの命令で捜査は終了してしまい、それ以上の情報を得ることは出来なかった。
『カイザーPMCが……!先の事件でも考えていたけど、やっぱりカイザーはアビドスで何かをしようとしているみたいだね。ありがとう、尾刃さん。ヴァルキューレの人たちのおかげで、色んなことが分かったよ。』
「それは………良かったです。しかし、私たちにはこんなことしか出来ず申し訳ない気持ちでいっぱいです。」
『そんなことは無いよ。尾刃さんからの情報でも色々と得られるものはあったから。』
「ですが、私は上層部の圧力に押されて捜査を中止することを決めました。心の中では中止してはいけないと、圧力に押されてはいけないと。それなのに、上層部は有無を言わさず中止の命令を下してきた。自分たちの利益のため、裏で繋がっているカイザーのために私たちの想いを、信念を尽く裏切って来る…………」
『お、尾刃さん…………?』
電話越しからでも伝わってくるカンナの様子の変化に来馬は困惑し、声をかける。
カンナの中では事件の捜査に躍起になって取り組んでいる部下への後ろめたさ、安全圏から自分たちの利益のために命令を下す上層部への怒り、そして…………何も出来ずにただ従うことしか出来ない弱い自分への情けなさと憎しみがぐるぐると渦巻いていた。
次の瞬間、彼女はそんな自身の心の内を大きな声で吐露する。
「私は………私はそんな上層部の奴らが許せない!!我々の正義を軽んじ、自分たちの利益のために踏みにじるあいつらが許せない!!だが………だが、それ以上にそんな上層部の言いなりになっている自分が許せない………!!!」
今までの上層部からの圧力と部下たちからの信頼、二つの板挟みで苦しんでいた彼女の心は今回の件で大きく爆発した。
公安局に響く彼女の慟哭は同じ部屋で忙しなく動いていた部下たちの動きを止め、唖然とさせていた。
電話越しの来馬も同じように驚き、固まっていた。
束の間の静寂の後、公安局副局長のコノカが声をかけるが、カンナはそんな声も気にせずに続ける。
「カンナ局長………?あの……どうしたんすか……?」
「私はどうすれば良かった……?私はどうすべきだったんだ……?私はあいつらのために何をするべきだったんだ……?」
ハァハァと息を荒げるカンナ。
しばらくすると、ハッとしたように我に返り、しおらしくなって来馬に謝る。
「申し訳ございません、来馬先生………。こんなことを貴方に言うべきでは無いのに……!………少し、疲れているみたいです。それでは、失礼します。」
『えっ、お、尾刃さ』
ピッ
そうして通話を切ったカンナはいそいそと机の書類を片付けると、局長室へと向かっていく。
「……………すまない、少し疲れすぎているようだ。しばらく休む、後は頼んだコノカ。」
「ちょっ、姉御!?マジっすか!?」
そう言うと、カンナは休憩中と書かれたプラカードをドアの前に吊り下げて、局長室へと入っていってしまった。
「いやーすんません、わざわざ来て頂いて……。」
「いやいや、コノカさんが謝ることじゃないよ。ぼくがカンナさんが心配で来ただけだから。それで、尾刃さんはどこかな……?」
「一応局長室にいるっすね、案内するっす。」
「ありがとう、コノカさん。」
カンナとの電話の後、心配になった来馬はすぐにヴァルキューレへと赴き、出迎えたコノカと共に局長室へと向かっていた。
コンコン
「尾刃さん、今大丈夫?」
ドアをノックして声をかける来馬。
しばらくすると、局長室の扉が開き、カンナが顔を出す。
最初は来馬の姿に気まずそうにしていた彼女だったがすぐに立ち直り、局長室に来馬を招き入れる。
ちなみに、外で待機するように言われたコノカは少し不満そうにしていた。
「申し訳ございません………、お手数をおかけして………。」
「ううん、ぼくが勝手に来ただけだから。気負わなくても大丈夫だよ。」
「ありがとうございます………。それと……、先程は申し訳ございませんでした。我ながら色々と気が動転していたようで………、来馬先生に言うべきでは無かったのに……。」
「気にしなくても大丈夫だよ。それに、今日はそれについても色々と尾刃さんと話しておきたくて来たから。」
「………?」
カンナは来馬の言葉に疑問を感じる。
来馬の言う『それ』が先の電話で口走ってしまった日頃の上層部への恨み辛みと不甲斐ない自分への憤りいわば愚痴であることを示しているのは分かる。
しかし、その愚痴について話したいことがあるというのはどういうことだろうか。
カンナは続ける来馬の言葉に耳を傾ける。
「もし、尾刃さんが大丈夫なら今までのことについて話して欲しいんだ。」
「今までのこと……?」
「簡単に言えば、色々と溜め込んでいるものを吐き出してみて欲しいんだ。無理にとは言わないけど、言いたいことを言ったほうがすっきりするからね。」
その言葉に口を噤んで俯くカンナ。
しばしの沈黙の後、意を決してように彼女は少しずつ今まで自分が歩いてきた軌跡と蓄積されて来た上層部への恨み、部下たちへの後ろめたい気持ち、自分自身の苦悩と憤りを少しずつ語り始める。
「実は元々私は公安局ではなく、生活安全局に志望していました。小さい頃に道に迷ってしまった時、優しく案内してくれて……そこから生活安全局を目指すようになったんです。」
「………ですが、私は笑顔を作るのが苦手でその上怖い顔でもあったので、生活安全局に入ることを断念し、公安局に入りました。それでも、形が違えど市民を守ることが出来ると正義感に満ち溢れていました。」
「そうして、功績が認められて公安局長になった時、真実を知りました。上層部はカイザーを始めとした多くの企業と繋がり、犯罪を見逃したり隠蔽をしていたんです。」
「それって………汚職………ってことだよね……。」
来馬の指摘に対して、申し訳なさそうにカンナは頷き、続けて話す。
「はい。私は上層部が汚職をしているという事実を知って、すぐさま上層部に直談判をしました。しかし、彼女らは……奴らはそれを屁理屈を以て一蹴した、そればかりか『お前たちの最新鋭の装備がどこから調達されているか分かっているのか?もし、お前がこの事を公表すれば公安局だけじゃない、他局の活動にも大きな支障が出る。そうなれば、市民を守ることはおろか、学校の維持すらままならなくなるぞ』と、脅しをかけて来たんです。」
「結局、私はその脅しに屈し見逃しました。その後は上層部の汚職の話を時々耳に挟んでも何も出来ず、歯痒い思いをする毎日でした。その上、部下たちは正義の心を燃やして犯罪者を捕まえるために日々奮闘している。私はそんな中で何も出来ない、上層部の罪を咎めるべきなのにそれを見逃すしかない自分に嫌気が差すんです。先生……教えてください、私はどうすべきでしたか?」
「尾刃さん………。」
カンナは項垂れたように頭を下げて来馬にそう質問する。
上層部と部下の板挟みで苦しむカンナの苦悩を聞いた来馬はそんな彼女の姿に心を痛めていた。
否、来馬はカンナの苦悩が自分の想像以上にカンナを苦しめていると感じていた。
自分ではカンナの苦しみを真に理解することは出来ない、それでも彼は自分なりのやり方でカンナを励まし寄り添うことを決め、カンナの質問に答える。
「ごめん、尾刃さん。申し訳無いけど、その質問には答えられない。いや、
「答えを知らない……?それは一体……?」
「もしぼくだったらこうしたかもしれないという想像はある。でも、それが尾刃さんが本当にするべきだったことかは言えないかな。でも、その質問が悪い訳じゃないよ。分からないことを誰かに聞いてみるのも大事なことだから。」
諭すように語る来馬の言葉をカンナは一つ一つ噛み締めるように聞いていく。
そうして、来馬の続けて話すことにカンナは顔を上げて聞く。
「尾刃さんもっと自分のやりたいと思ったことをやってみた方が良いと思うんだ。やりたいこと、こうしてみたいと思ったことをやってみたらいいんじゃないかな。ありのままの尾刃さんになっても良いんだよ。」
「ありのままの私………。」
その瞬間、彼女の脳内に思い浮かんだのはヴァルキューレ警察学校の一員となったいつかの日の己の姿であった。
あの日、私は何を誓ったか、何を思い描いたか、どんな未来を思い描いたか。
そして―――、あの日自分の中で何を抱いたか。
「私はヴァルキューレの門を潜ったあの日から犯罪者を取り締まり、市民を守ることを誓いました。弱きを助け、強気を挫き、悪を断罪する、そんな正義を抱きました。」
彼女の中であの日の正義が火を灯す。
消えつつあった己の正義が火を灯す。
悪を断罪せんとする強い正義が火を灯す。
「先生、ありがとうございます。私のやるべきこと……いえ、やりたいことが見つかりました。」
あの日から止まり続けていた少女が再び動き出す。
ヴァルキューレ警察学校公安局局長3年尾刃カンナ、再起