アビドス廃校対策委員会
来馬たちがキヴォトスに来て約一ヶ月、来馬たちは少しずつキヴォトスに馴染んでいた。
来馬たち五人で話し合った結果、キヴォトスでも影響力の強い三大校にそれぞれメインで働くシャーレの先生を決めることになった。
ゲヘナには太刀川、トリニティには加古、ミレニアムには二宮が担当し、ぼくと堤くんはその他の学校を担当することに決まった。
―――そして、この日は来馬と堤、太刀川、二宮がシャーレにいたが………、昼を過ぎても餅を食べてる太刀川に二宮がキレて太刀川を叱っていた。
ちなみに加古はエデン条約に向けての調整をするためトリニティへ行っている。
「…………おい、太刀川。お前何時まで餅を食べてるんだ。今日はゲヘナで風紀委員会の活動に参加する予定だろう。そんな悠長にしていて良いのか。」
「そうカリカリすんなよ。今ちょうど3個目が焼けたとこなんだ。」
「まぁまぁ、太刀川くんも昨日は遅く帰ってきて朝ごはんをちゃんと食べてないから……。太刀川くんには遅れないようにぼくたちの方で言っておくから。」
「はぁ…………。おい太刀川、遅れても知らないからな。来馬、堤、俺は『例の件』の調査でミレニアムに行く。一週間程で戻る予定だから、後は頼む。」
『例の件』というのは先日にミレニアム自治区にある『廃墟』という場所の近くでトリオン兵の残骸が発見されたことである。
来馬たちはそのトリオン兵の残骸が見つかったことに非常に驚き、すぐに調査を開始することにした。
しかし、全員が調査に加わるとシャーレの業務が滞ってしまうため、リン、そして防衛室長の不知火カヤを交えての協議の結果、ミレニアムを担当している二宮がミレニアムの生徒と共に廃墟の調査をすることに決定した。
ちなみに、太刀川はいの一番に立候補したが二宮によって即却下されたのは別の話である。
「ああ、気をつけろよ。」
「頑張ってね。」
太刀川に呆れた二宮は堤と来馬に後を任せてシャーレを後にする。
その後、太刀川も予定の時間が過ぎていることに気付いて、焦りながらゲヘナへ向かった。
来馬と堤が書類仕事を終えて休憩をしていると、アロナが二人に手紙が届いていることを伝える。
『来馬先生、堤先生、シャーレ宛に封筒が届いています。』
「封筒?どれどれ………おっこれかな。」
「あった?」
「あぁ、えーっと…アビドス廃校対策委員会ってところからだな。」
堤がポストから取り出して来た小さな封筒には送り先にアビドス廃校対策委員会と書かれており、その中には一枚の手紙とアビドスの駅からアビドス高校への道のりが記された地図であった。
手紙の内容は簡単に言ってしまえば「私たちの学校が暴力組織に襲われているので支援が欲しい」というものであった。
「アビドス…………この依頼、ぼくが行って来ても良いかな?」
「大丈夫か?オレも一緒に行くか?」
「流石にシャーレを空ける訳にもいかないから一人で行ってくるよ。一応、シッテムの箱も持って色々準備してから行くから大丈夫だよ。」
「そうか………んじゃ気を付けてな。」
そして次の日、準備を終えた来馬はアビドスに向かっていった。
(それにしても、9億の借金か………)
アビドス高校に向かう途中、来馬は今のアビドスの状況について考えていた。
今のアビドスを簡単に表すならば「廃校一歩手前」である。
かつてはキヴォトスでも大きな影響を持っていたアビドス高校だが、数十年前から突如頻発した砂嵐によって自治区の環境が激変。
シンボルでもあったオアシスも枯れ、多額の資金を投入するも好転せず、最終的には多額の負債を抱えて生徒もほとんどが転校や退学するという全盛期が嘘かのように衰退してしまっていた。
(今回の依頼内容に借金やアビドスの復興は依頼されてなかったけど、ぼくとしては『あの子』のためにも無視したくは無いな……)
来馬はそう考えながらアビドス高校がある方向へと地図を見ながら歩いていった。
「貴方がシャーレの先生ということは、私が出した手紙が届いたんですね!」
「うん、取りあえず今回の支援物資について纏めたリストがあるから、内容の確認とサインをお願い。」
「これで銃弾や爆弾の心配が無くなりましたね。ありがとうございます、先生♪」
「うへぇ〜、良かったねアヤネちゃん。そういえば、支援物資はいつ届くの?」
「このリストの確認とサインの記述が終わったら、ヘリで持ってきて貰うことになってるよ。」
「なるほどね~、分かったよ。」
(この子が小鳥遊ホシノさん………『あの子』から聞いていたイメージとは違うけど、目の色や髪の色については聞いていた通りだ。やっぱり、二年前の事件からこの子も変わったのかもしれない……。)
何事も無くアビドスの校舎に着いた来馬は、玄関に掃除をしていたアビドス廃校対策委員会の一年生である奥空アヤネにシャーレから来たことを説明した。
手紙を出した当人であるアヤネは驚きつつも非常に喜び、対策委員会の部室へ案内する。
部室には二年生の十六夜ノノミと三年生の小鳥遊ホシノがおり、アヤネを含めた三人からサインを貰っていた。
この時、来馬は以前チームメイトから聞いていたホシノのイメージと今のホシノのイメージが違うことに驚く。
だが、当時の事情を考えてホシノにも大きな変化があったのだろうという推測し、下手にチームメイトの『彼女』のことを話して地雷を踏んでしまうことが無いように、今のホシノの人となりが分かるまでは話さないことを決めていた。
そして、四人がアビドスの現状について話していると、二人の少女が入ってきた。
「おはよ〜…………って何か知らない大人がいる!?」
「ん、この人は誰。」
「あっ、おはようございますセリカちゃん、シロコ先輩!この人はシャーレの先生で、私が出した手紙が届いたんです!」
「えっ、この人がシャーレの先生……ってこと!?」
「ん、なるほど。」
「えっと……黒見さんに砂狼さんだね。奥空さんたちから話は聞いてるよ。初めまして、ぼくはシャーレの先生の来馬辰也です、よろしくお願いします。」
「えーっと…ア、アビドス対策委員会一年の黒見セリカです…。よ、よろしくお願いします…。」
「アビドス対策委員会二年の砂狼シロコ。よろしく。」
挨拶を終えた二人がそれぞれ席に着き、アヤネがアビドスの現状について改めて説明しようとした時、校舎の外…グラウンドの側から銃声が聞こえてくる。
対策委員会の五人はまたかという顔をして、戦闘の準備を始める。
「あれは……カタカタヘルメット団だね。」
「あいつら、また来たわね!」
「早く準備して応戦に行こう。」
「はい、急ぎましょう。先生は危ないので、ここで待機をお願いします。」
「いや、ぼくも一緒に戦うよ。みんなにだけ任せる訳にはいかないからね。」
待機を促すアヤネに対し、一緒に戦うことを進言する来馬。
来馬がトリガーを持っていることを知らないアヤネは疑問に思い、聞き返す。
「しかし……先生は武器を持っているようには見えませんが……」
「大丈夫、ぼくには『これ』があるから。」
そう言うと、来馬はトリガーを起動し、トリオン体に換装する。
一瞬で服装が変わった来馬を見て、対策委員会の面々は目を丸くする。
「先生………それは一体………!?」
「ごめん、これについては後でしっかり説明するから今は目を瞑ってくれないかな。」
「分かった。今はそれで飲み込むけど、後でちゃんと説明してね。」
『来馬先生、本当に大丈夫ですか?前線に立たずに指揮をすることも可能ですが……』
「アロナ、確かに僕の身の安全を考えたらそれが良いかもしれない。でも戦える力を持ってて、生徒たちにだけ戦わせたくはないんだ。だからそこは呑み込んでくれないかな?」
『分かりました。それでは先生を全力でサポートしますね!』
「………先生?いかがしましたか?」
「ううん、何でもないよ。それよりも急いで向かおう。」
「………分かりました。皆さん、急ぎましょう!」
そうして、来馬は対策委員会と共にグラウンドへ向かった。
「いた!あそこよ!」
グラウンドに出た来馬たちは早速暴れているカタカタヘルメット団を見つける。
そして、暴れるヘルメット団を鎮圧するために戦闘を始める。
「ヘルメット団は全員固まっているからまずはバラけさせよう。」
「でも手榴弾や地雷くらいだったら対応されちゃいますね。何か別の方法でバラけさせないと……。」
「ここはぼくに作戦がある。後でまた説明するけど、ぼくはハウンドっていう曲がる弾を撃てるから、それで陣形を崩して手薄になったところを突いていこう。」
「分かった!」
「ん、わかった。」
「りょうか〜い。」
「分かりました〜☆」
「アロナ、ハウンドの操作をお願い!」
『了解です!』
来馬は銃口を上に向けてハウンドを放つ。
アロナの遠隔操作によってハウンドはヘルメット団の頭上へと降り注いでいく。
ヘルメット団は突如上から放たれたハウンドに驚いて、バラバラになっていく。
「今だ!手薄になっている右側を狙って行こう!小鳥遊さんと十六夜さんは他のヘルメット団を抑えて、砂狼さんと黒見さんはぼくと一緒に右側を攻撃しよう!」
そして来馬たちは二手に別れて、ホシノとノノミは他のヘルメット団を抑え、来馬、シロコ、セリカは孤立したへルメット団員を倒しに行く。
それを見たヘルメット団のリーダーは団員に指示を飛ばした。
「ちっ、………こっちも別れるぞ。取りあえず、こっちに向かう奴らは私たちで相手をする。他は分断された奴たちに引きつけてもらって、アビドスを前後で挟撃しろ。」
「分かりました!そっちは頼みます!」
「あの男の曲がる弾に気を付けろ。固まらず離れずの適度な距離感で動けよ。」
リーダーを含めたヘルメット団はホシノとノノミの前に立ち塞がり対峙する。
「お前らの相手はこっちだ。今日こそ引導を渡してやるぜ。」
「来たね。行くよ、ノノミちゃん!」
「了解です、ホシノ先輩!」
一方、残りのヘルメット団員は挟撃をするため、手薄になったところを狙う来馬たちの背後に回っていた。
「今だ!」
『シロコ先輩!後ろから来てます!』
「!まずい……!」
「(回避が間に合わない!ここは………)シールド!!」
アヤネの警告に振り向くシロコ。しかし、ヘルメット団は引き金に手をかけており、反撃をするには間に合わないかに見えた。
だが、それを見た来馬はシロコを遠隔シールドで守る。
銃弾はシロコに届くこと無く、シールドに阻まれた。
「大丈夫、砂狼さん?」
「ん、大丈夫。ありがとう先生。後ろは私が相手をするから先生はセリカと前をお願い。」
「分かった。砂狼さんも気を付けて。」
その後、ヘルメット団は奮闘するも対策委員会の面々の前に全員が倒されてしまった。
「とりあえず、ここに来てたのは全員鎮圧し終わったかな。」
「でもこいつらどうするの?このままヴァルキューレに突き出す?」
「………ちょっと、ヘルメット団の子たちと話したいことがあるんだけど、良いかな?」
「良いけど、一応見張ってておくね?」
「うん、ありがとう。」
来馬は捕まったカタカタヘルメット団に近づき、リーダーと思われる少女に話しかける。
「みんなはどうしてヘルメット団をやっているんだい?良ければ聞かせて欲しいんだ。」
「……………お前には何も関係無いだろ、さっさとヴァルキューレにでも何でも連れてけよ。」
「いや、ぼくはシャーレの先生だ。例えみんなが不良であっても大切な生徒には変わりないから。ぼくは君たちにある提案をしたいんだ。」
「提案?」
「シャーレで働いてみないかな?みんなの力が必要なんだ。」
「皆の力が必要って………私たちなんかよりもずっとできる奴はいるだろ。そいつらに任せれば良いじゃねーか。」
「ぼくはみんなにはシャーレでの生活を通じて更生を目指して欲しいんだ。ぼくはどんな生徒でも更生の機会を与えるべきだと考えているから。」
「何だよ更生って………、ふざけんじゃねぇよ!私たちは何度もアビドスを襲い続けたんだ!今更、更生の機会なんて与えられるわけないだろ!」
「あるよ、ぼくが保証する。みんなは歩き方を間違えちゃっただけなんだ。間違いは誰にでもあることだよ。『大人』のぼくでも間違えちゃうことは何度でもあるからね。だから間違えても良いんだ。たくさん間違えて、その間違いを一つ一つゆっくりでも一緒に直していこう。ぼくはその間違いと直し方をみんなにシャーレでの生活の中で見つけて欲しいんだ。」
「………………元々トリニティの正義実現委員会で治安維持に努めていた。その時は正義感が強かったから、いじめとかいざこざを積極的に治めようとしていた。でも、それを疎ましく思う奴らに嫌がらせされて……結局嫌になって学校を辞めた。正義実現委員会の奴らには何度も引き止められたけど、それでもトリニティには居られなくて…………。こいつたちはいじめや学費が払えないことが原因で学校を辞めたやつらで、私なんかを慕ってついてきてくれたんだ。」
「ありがとう、話してくれて。みんなは、今まで力を合わせて暮らしてきていたんだね。」
来馬はリーダーの言葉に耳を傾けて、彼女の変われるのかという言葉に首肯する。
リーダーの少女が身の上を話し終えた時、一人のヘルメット団員が声を上げた。
「…………私は良いと思います、リーダー。少なくともこの人は信用できます。」
すると、その言葉を皮切りに他の団員も口を開く。
「わ、私もこの人の提案に賛成したい。今までの大人は騙そうとしてくるような奴ばっかりだったけど、ここまで私たちに寄り添って話を聞いてくれた大人はいなかった。」
「う、うちも………」
「あたしもだ!」
「私もです!」
「私も!」
「…………お前たち………。……………先生、来馬先生、あんたの提案を受け入れるよ。それと………あんたたちにもだ。」
「あれ、私たち?」
リーダーの少女はホシノたちの方を向くと、深く頭を下げる。
対策委員会とヘルメット団の面々はそのリーダーの姿に驚く。
リーダーはそのまま続けて言う。
「私はこいつたちにもっと美味い飯を食わせて、もっと良い所に住まわせてやりたいという思いでお前たちを襲撃しろという依頼を受けた。お前たちには………いや、あなたたちには本当に迷惑をかけたと思ってる。だから、ここに私がカタカタヘルメット団のリーダーとして謝罪する。本当にすまなかった。」
「……………うへ〜、まさかそんなことを言われるなんてね〜。でも、君たちは本当に反省しているようだし、私は許そうと…………」
「ダメよ!そんなの認めないわ!」
ヘルメット団の謝罪を受け入れ、許そうとするホシノにセリカが待ったをかける。
セリカにとっては今まで苦しめてきたヘルメット団に対して、その境遇への同情はありつつも謝罪を簡単に受け入れることは出来なかった。
「あなたたちの境遇に何も思わないわけじゃないし、私たちを襲撃した理由も納得はできないけど理解はした!でも私たちだってあなたたちにはずっと苦しめられてきた!謝罪だけでは許せないの!」
「セリカちゃん……………それは………。」
「だから!だから、本当に反省しているなら言葉だけじゃなくて行動で示して!」
「……………!」
「もしあなたたちがちゃんと行動で示すことができたら許してもいい!私はそうしたい!みんなもそれで良いよね!」
「あははっ、セリカちゃんも熱いね〜。おじさんはセリカちゃんに賛成だよ。みんなはどう?」
「ん、それで良いと思う。」
「私も賛成です〜♪」
「はい、私も賛成です!」
「みんなありがとね〜。セリカちゃんも〜。先生もヘルメット団のみんなもそれで良いよね?」
「私たちとしてはそれでアビドスへの誠意が示せるなら喜んでやるよ。」
「うん、ぼくも良いと思うよ。」
その後、来馬たちはカタカタヘルメット団のアジトに戻り、残党をリーダーと共に説得、事情聴取のため、一度ヴァルキューレ公安局の本部に送られることとなった。
護送車に入っていくヘルメット団たち。
すると、リーダーの少女が来馬に話しかけた。
「そういえば、まだ名前を言ってなかったな。私の名は春沢ルエだ。」
「春沢さんだね。ぼくはシャーレの先生の来馬辰也だよ、よろしくね。」
「よろしく、来馬先生。あと私のことはルエと呼んでくれ。」
「分かったよ、それじゃあまたシャーレでねルエさん。」
「あぁ……これからよろしくお願いするよ。」
そう言うと、彼女は護送車に乗り込む。
対策委員会と来馬はヴァルキューレの警官が扉に鍵を掛けて、走り去っていくのを見つめていた。
そして、護送車が見えなくなった後、彼らはアビドスの校舎へと戻っていった。