「黒見さん、逃げよう!」
「…………っ、先生!?」
突然のトリオン兵の出現に驚きと恐怖で動けないセリカに来馬はトリオン体に換装しつつ、手を引いて別の道へ逃げる。
セリカは来馬に手を引かれて我に返り、来馬に手を引かれたままの状態でトリオン兵について質問する。
「先生、あれは何!?」
「あれはトリオン兵、ぼくたちが玄界…キヴォトスに来る前に防衛機関に所属していたっていう話は覚えてる?あれは、その防衛機関で戦っていた敵だよ。本来ならこのキヴォトスにはいないはずの存在なんだけど………。」
「な、何でこんなところに……!?」
「………分からない。ただ、はっきりと言えるのは偶然現れたわけじゃなく、誰かが意図的に出現させたってことだ。本来なら早く倒すべきだけど、ここだと一般市民にも被害が出る可能性がある。人の住んでいないところまで誘導して、そこで倒そう。」
(『例の件』でもトリオン兵の残骸が発見された。もしかしたら関連があるのかもしれない……。でも、ひとまずはこの状況を切り抜けるのが先だね。)
「それなら、私についてきて。人の住んでいない地区までの近道を知ってるから。」
来馬はトリオン兵が自分たちを見失わぬように誘導しつつ、セリカについていく。
逃げる間、来馬とセリカはそれぞれシャーレとアビドスの生徒に連絡を入れる。
人の住んでいない地区に到着すると、来馬とセリカは物陰に隠れて作戦を練る。
「取りあえず、ここなら存分に戦えるわ。で、先生?あのトリオン兵って何なの?見た目からして同じ奴じゃないでしょ?」
「そうだね。それも踏まえて説明するよ。ただ、ゆっくり説明出来る時間が無いから、あのトリオン兵の特徴だけ説明するね。」
来馬は二体のトリオン兵……バンダーとモールモッドについて簡潔に説明する。
セリカは来馬の説明を聞いて、納得したように頷く。
「……バンダーとモールモッドね、覚えたわ。でも、どうやって戦うの?先生の説明だと、私はトリオン兵を倒せないけど……。」
「応援は呼んであるけど、できるなら作戦を立てて倒して行きたいところだね。黒見さんは今どんな武器を持ってる?」
「えっと……このアサルトライフルと、バッグの中は……M18クレイモア地雷が3つにマークⅡ手榴弾が4つあるわ。」
「なるほど……それだったらこの作戦で行こう。」
トリオン兵のバンダーとモールモッドは来馬とセリカを探していた。
バンダーは内蔵されている砲撃によって家々を吹き飛ばし、モールモッドは機敏に動き回れる多脚を活かして探し回っていた。
すると、目の前に標的の一人である来馬が
二体のトリオン兵は好機とばかりに来馬に襲いかかり、来馬もそれに応戦……ではなく、逃走を選ぶ。
バンダーの砲撃をシールドで防ぎつつ、モールモッドの足を止めるために時々
「アロナ、指定ポイントまでの最短経路をお願い!」
『はい、了解です!』
そうして、来馬はアロナの示す経路に従って走り、それをトリオン兵が追う鬼ごっこが始まる。
しばらく鬼ごっこが続いた後、とある地点で突然に来馬が足を止める。
トリオン兵はここで来馬を仕留めようとバンダーは砲撃の準備を、モールモッドは多脚を活かし、接近する。
その瞬間、モールモッドの脚に何かが引っかかり、大きな爆発を起こす。。
「かかった!今だ、黒見さん!」
「了解!」
同時にバンダーの足元の地面に設置してあった地雷が爆発し、バンダーの脚の一部が破壊され、体勢を崩す。
そして、セリカが飛び出し、トリオン兵の弱点である口内の目のような部分に向けて銃撃を放つ。
バンダーはその銃撃を避けることが出来ず、弱点を破壊される。
同時に来馬は一つの確信を持つ。
(生徒の攻撃はトリオン体にダメージを与えられるからもしかしたらって思ったけど、やっぱりトリオン兵にもダメージを与えられる!バンダーは倒された、後は……)
来馬がモールモッドの弱点に銃撃を加え、弱点が破壊されそうになる瞬間、
ガシャン!
(なっ……弱点が!?)
なんと、モールモッドの弱点となる口内が閉じてしまい、同時にモールモッドはセリカの方を向き、攻撃を加えようとする。
しかし、モールモッドの身体は何かに引っかかり、前に進むことが出来なくなる。
スパイダー―――ワイヤーを張り、敵の足止めやトラップに使うボーダーのオプショントリガーの一つであり、来馬はキヴォトスに来る前にこのトリガーをセットしていたのだ。
ちなみに、モールモッドを引っかけたトラップもこのスパイダーに引っかかったら手榴弾が爆発するようにしたものである。
スパイダーによって一時的に身動きが取れなくなったことで来馬はセリカの元に駆けつけることに成功する。
しかし、モールモッドも素早くワイヤーを切り、来馬とセリカに肉迫する。
来馬はセリカの前に立ち、シールドでモールモッドのブレードを防ぐが…………
ザンッ!!
モールモッドのもう片方のブレードが来馬の左腕を切り落とす。
切り落とされた左腕の断面からはトリオンの煙が上がり、来馬は苦悶の表情を浮かべる。
「先生、大丈夫!?」
「大丈夫、トリオン体だから生身の影響は無いよ。」
「で、でも私がモールモッドの動きに注意してなかったから………」
セリカは自分の不注意で来馬の腕を犠牲にしてしまったことに負い目を感じる。
しかし、そんなセリカに来馬は言葉を掛ける。
「黒見さんのお陰でバンダーを倒せたし、敵は確実に減っている。それに、腕に関しても、修復することは出来るし、今はモールモッドに集中しよう。」
「………そうね、ありがとう来馬先生。でもモールモッドは弱点の部分が……」
「ぼくが今まで戦ってきたモールモッドはあんなふうに弱点の部分を閉じなかった。もしかしたら、他にもぼくの知らない機能を持っているかも知れない。」
「じ、じゃあ一体どうすれば……!?」
「………たぶん、応援がもうすぐ着くと思う。だから、応援の到着まで耐えるんだ!」
「分かったわ。……先生は私の後ろに。今は腕だけだけど、もっと攻撃を受けたらまずいでしょ?私ならある程度は耐えられるから。」
「それは………いや、分かったよ。ぼくもシールドでサポートとするから、無理はしないでね。」
「ありがとう、先生。」
来馬とセリカは共に銃弾を放ちながらモールモッドの足止めを行う。
モールモッドが近づこうとすればスパイダーによる足止めを行い、ブレードの攻撃はシールドで防ぎつつ、距離を離して戦う。
そうして、モールモッドを相手すること6分程足止めを行っていたが、モールモッドのブレードがセリカを直撃してしまう。
「ぐっ………!!!」
「大丈夫、黒見さん!?」
「大丈夫、傷は浅いわ。」
(思っていたよりもずっと装甲が固い……!やっぱり、普通のモールモッドとは強さが違う……それに、ぼくたちの弾にも余裕が無くなってきてる……何とかしないと……!)
強固な装甲と弱点の防護によって攻めあぐねていた来馬とセリカ。
すると、彼らの元に複数の人影が姿を現す。
「先生、セリカちゃん!大丈夫ですか!?」
「とりあえず、あれを倒せばいいのかな?」
「ん、先生とセリカに手を出した。絶対に倒す。」
「ノノミ先輩、シロコ先輩、ホシノ先輩!!」
「ありがとうみんな!来てくれて助かったよ!」
「もう〜セリカちゃん言葉も無しに地図にピン差しただけの写真送るからびっくりしゃちゃったよ〜。」
「だってメール送れるほど余裕が無かったの!」
シロコ、ノノミ、ホシノの到着に驚き感謝する二人。
そして、上空にはアヤネの所有するヘリである「雨雲号」ともう一つミレニアムのロゴが入ったヘリが滞空しており、アビドス廃校対策委員会の面々が揃っていた。
さらに、ミレニアムのヘリから一人の男も飛び降りて現れた。
「遅れてすまないな、来馬。」
「二宮くん!助かったけど、どうしてアビドスのみんなと……?」
「お前からのSOSが来たと太刀川の野郎から連絡があってな。比較的にアビドスに近い俺が急行したら、このアビドスの生徒と偶然会ってな。話をしたら同じところに向かうと聞いたので、一緒に来た次第だ。シャーレの方からも太刀川が来る手筈にはなっているが………トリオン兵はあのモールモッドだけか?」
「少し離れたところに撃破したバンダーが倒れているよ。」
「そうか。なら、ミレニアムのヘリに人員を乗せている。そいつらにトリオンの回収を要請しておこう。」
「ありがとう、二宮くん!」
「さて……、後はあのモールモッドだけか。小鳥遊と砂狼だけに任せるわけにもいかないな。十六夜は来馬と黒見の護衛をしろ。俺はモールモッドを倒す。」
「分かりました!気をつけて下さい!」
二宮はモールモッドと交戦するホシノとシロコの元に行き、二人と合流してモールモッドを撃破することにする。
「弱点が閉じているのか。仕方ない、俺が奴の装甲に穴を開ける。小鳥遊と砂狼は穴が空いたところをを狙え。」
「オッケ〜。」
「分かった。」
二宮は合成弾を作りつつ、ホシノとシロコに指示を出す。
そして、彼がアステロイドとアステロイドの合成弾である
ホシノとシロコが穴に向かって銃撃をすると、モールモッドは機能を停止し動かなくなった。
「あれ、もう動かなくなったよ?これは倒したってことでいいのかな?」
「意外と呆気なかった。」
「そうだな。だが、まだ中にトリオン兵が隠れている可能性がある。小鳥遊、砂狼は奴を監視しておけ。」
「オッケ〜。」
「ん、分かった。」
アフトクラトルの侵攻で撃破したトリオン兵の中からラービットが出てきたという例があったため、二宮はホシノとシロコにトリオン兵を監視するよう指示を飛ばす。
その後、換装を解いた来馬とセリカの元に来る。
「大丈夫だったか、来馬。右腕を飛ばされていたようだったが……」
「うん、ぼくの方は特に問題は無いよ。ただ、黒見さんがぼくを庇って怪我を負わせてしまったから治療をお願いしたいんだ。」
「えっ、大丈夫ですかセリカちゃん!?」
「だ、大丈夫よ!こんなのかすり傷だから!」
「あっ、腕のところから血が出てますよ!念の為診てもらいましょう!」
「いやでも……………わ、分かったわ……。」
『二宮先生。こちらのトリオン兵を回収したよ。今からそっちに向かうね。』
「そうか、こちらもトリオン兵の鎮圧が終了した。こちらのトリオン兵も回収しろ。」
アヤネの雨雲号とミレニアムのヘリが二宮たちの元に到着すると同時に一台のトラックが向かってくる。
トラックの側面には連邦生徒会の文字とシンボルが描かれており、トラックからは換装した太刀川が降りてくる。
二宮は溜息をつきつつ、彼に向かって既に鎮圧が終了していることを話す。
「遅い。もう終わったぞ。」
「えっ、マジ?こりゃ無駄足になっちまったな。」
「まだ仕事がある。撃破したトリオン兵をミレニアムの研究室まで運ぶ。お前も手伝え。」
「へいへい。おー、また会ったなおまえら。来馬もお疲れー。」
「お疲れ、太刀川くん。」
「太刀川先生、お疲れ様です〜♪」
「ど、どうも……」
彼らが互いに挨拶を済ませていると、アヤネの操縦する雨雲号とミレニアムのヘリが地上に降り立つ。
ヘリからはアヤネが来馬とセリカの元に飛び出し、続いて三人の少女と半袖のTシャツに長ズボン、腰に服を巻きつけた髭を生やした大柄の男性が降りてくる。
「先生、セリカちゃん!大丈夫ですか!?」
「ぼくは大丈夫だけど、黒見さんに怪我を負わせてしまって……」
「もう、来馬先生!そんな自分が悪いように言わないで!私が勝手にやったことなんだから。」
「でも血が出てきてるよ!ヘリに救急箱を積んでいるから取って来るよ!」
「あっ、ちょっとアヤネ!もう心配性なんだから……」
「それだけ黒見さんを大切に思っているんだよ。」
「そうですよ、セリカちゃん。私たちもセリカちゃんと来馬先生が無事だったかどうか心配だったんですよ。」
そんな話をする来馬とセリカの元にホシノとシロコ、そして二宮、太刀川と話をしていた先程ヘリから降りてきた四人が近づいてくる。
「お疲れー、来馬。いきなりトリオン兵に襲われるなんて災難だったな。」
「冬島さん、お疲れ様です。」
「ふむ、あなたが二宮先生の言っていた来馬先生だね?私はミレニアムサイエンススクールエンジニア部の部長をしている3年の白石ウタハだ。」
「同じくエンジニア部1年の豊見コトリです!トリオンの説明や解説……はまだまだ教えられる程ではありませんが、これからの研究でどんどん学んでいくので任せて下さい!」
「同じく1年の猫塚ヒビキ……。トリオンについては冬島さんから勉強中だけど、いつかは先生たちの役に立てるようなトリガーを開発していくつもりだから、その時はよろしく。」
「白石さんに豊見さん、猫塚さんだね。ぼくは来馬辰也、二宮くんからは話を聞いてると思うけど、同じくシャーレの先生をしています。よろしくね。」
「ホシノ先輩、これ私たちも挨拶したほうがいい?」
互いに挨拶を交わす来馬とエンジニア部に自分たちも挨拶するべきかホシノに質問するセリカ。
たぶん、今後会うことは無いだろうと思っているホシノだったが、挨拶をしないというのも印象が悪いと思い、来馬に続いて挨拶する。
「アビドス廃校対策委員会の3年、小鳥遊ホシノだよ〜。よろしくね〜。」
「アビドス廃校対策委員会2年の十六夜ノノミです〜☆今回は私たちに協力してくれてありがとうございました〜♪」
「ん、アビドス廃校対策委員会所属、2年の砂狼シロコ。トリガーが出来たらぜひ私たちにも売って欲しい。」
「ちょっとシロコ先輩!いきなり図々しいわよ!あぁえっと…私は黒見セリカ、アビドス廃校対策委員会所属の1年生よ、よろしくね。後、同じ1年に奥空アヤネって子がいるけど……。」
「セリカちゃーん!」
「おっ、アヤネちゃんも来たね。あんなに小さかったのがこんなに立派に育っておじさん嬉しいよ…。」
「いや、ホシノ先輩とそんなに年変わらないでしょ!?」
セリカが挨拶をしていると、アヤネが救急箱を持って彼女たちの元へやってくる。
着くなり彼女はセリカの手当てをしながら状況を理解し挨拶する。
なかなか器用な娘である。
「アビドス対策委員会の1年、奥空アヤネです。先程はトリオン兵の回収をしてくださりありがとうございました!」
「いやいや礼には及ばないさ。私たちとしてもトリオンの研究のためにトリオンに関わるものは何が何でも欲しいからね。それに、君のヘリの操縦技術も素晴らしいものだったよ。ミレニアムでもあれほどの操縦が出来る人は少ない。」
「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです!」
それぞれの挨拶をし、話に花を咲かせる少女たち。
すると、シロコが背景に溶け込もうとしているアラサー…もとい冬島慎次の存在に気付いて話しかける。
「あなたは挨拶しないの?」
「えっ、へっ!?↑いっ、いや〜、俺なんかの挨拶は良いでしょ。ほ、ほら俺みたいなおっさんが挨拶したら話に水を差しちゃうし。」
「え〜、おじさんはおじさんのこと色々気になるけどな〜。」
「(この子何で一人称がおじさんなんだ……)ん、んじゃあ取りあえず……来馬たちシャーレの先生と同じくボーダーで戦闘員をしている冬島慎次です……よ、よろしく〜…。」
冬島は自分に目を向ける
来馬が冬島の挨拶に続けて言う。
「元々冬島さんはボーダーでエンジニアをしていた人でね。トリオンやトリガーについてはぼくたちよりも詳しいから知りたいことがあったら聞いてみると良いよ。」
「そっ、そうだな。分からないことがあったら教えられる範囲で教えるからよろしく……。あっ
、そ、そうだ来馬!お前ら以外でキヴォトスに来てるのが確認されてるのは俺だけなのか?」
これ以上JKと話したく無い冬島は話題を変えて来馬に振る。
もしここに冬島のチームメイトである真木理佐が居たら、もっとちゃんとしろとナタを降られていただろう。
ある意味運の良い男である。
「今のところは冬島さん以外は確認されていませんね…。ただ、ぼくたち以外でキヴォトスに飛ばされてくることが確定している人たちがいるのでそこの調査もしていますね。」
「そうか……それもあったな……。ま、取りあえずは俺はミレニアムにいるから何かあったらいつでも呼んでくれ。」
「ありがとうございます、冬島さん。エンジニア部のみんなも今日はありがとう。みんなのトリオン兵の処理もスムーズに終わったよ。」
「そう言えば、先生はどうするの?このままアビドスに戻る?」
「う〜ん、そうだね………。取りあえず、二宮くんたちと話してから決めてみるよ。」
「俺はどっちでも構わない。明日にでも報告をしてくれればそれで良い。」
来馬たちの元にいつの間にか来ていた二宮が口を挟む。
隣には太刀川もおり、かなり眠そうな顔をしていた。
「トリオン体を解除してから急に眠くなった………。早く帰って寝たいぜ。」
「もう少し我慢しろ。それで来馬、お前はどうする?俺はエンジニア部と冬島さんとミレニアムに戻る。太刀川はこのままトリオン兵をミレニアムに運んだ後、シャーレに帰るそうだ。」
「あ、そうそう。報告はビデオ通話での報告でも良いってリンから連絡が来てたぜ。リンの方で内容が分かってれば良いらしい。」
「それだったらぼくはアビドスの方で泊まっていくよ。今日はみんなも助けてくれて本当にありがとうございました。」
「それでは、これで解散とする。各自、忘れ物や紛失物の無いようにして帰宅しろ。」
そうして、各々が帰る準備をする。
来馬は手ぶらであった為、ホシノテたちの準備を手伝っていると、二宮が話しかけてくる。
「来馬、少し良いか?」
「良いよ、どうしたの?」
少し離れたところまで来馬を連れてくると、二宮は来馬にあるお願いをする。
「来馬、シッテムの箱を俺に渡してくれないか?『例の件』の調査で必要になったんだ。」
「うん、良いよ。それじゃあ、はい。」
「助かった、来馬。アロナには俺から話しておく。」
「分かったよ。二宮くんも調査頑張ってね。」
そうして二宮と来馬は別れ、帰る準備も終わり、それぞれが帰って行った。