懐旧、冷えた缶の音
ハーベスターとの戦闘を終えた夏油たちは、地割れした地面ともに落下した。地下の部屋は灰色一色に統一された空間が広がっていた。ラピは夏油を降ろした後、周囲を見回してラプチャーがいないことを確認し、ウンファもラピの背後の状況を確認する。
ラピ「クリア。」
ウンファ「クリア。」
ラプラス「地下にこんな規模の施設があったのか。あいつら...いつの間にこんな秘密基地を...!」
シフティー「うむ...状況はあまりよくないですね。ジャミングが酷過ぎて、何もスキャンできません。
通信もいつ切れるか分からないし...」
マクスウェル「じゃあ、とりあえずジャミングを何とかしないとだね。」
シフティー「はい、そこが問題です。ジャミングのせいでスキャンできないし、スキャンできないから、ジャミングの発信地も分かりません。八方塞がりですね。」
アニス「地面に潜ってたハーベスターを見つけられなかったのは、ジャミングのせいってわけね。」
地下空間全体に通信を阻害するジャミングがあることが分かり、ハーベスターを感知できなかった理由だと判明した。そしてジャミングの対処について、話始めるエマと対処法は必要無いと発言するマクスウェル、マクスウェルの発言に困惑するシフティー。
エマ「じゃあ、分隊を分けてジャミングの発生源を壊さないといけないわね。」
マクスウェル「大丈夫、こういう時はドレイクが凄く役に立つから。」
シフティー「...はい?」
マクスウェル「ドレイク、なんか
ドレイク「するぞ!」
マクスウェルはドレイクに違和感を感じるかと訪ね、ドレイクはその違和感を感じていたとハッキリ答える。マクスウェルはドレイクに、その違和感がどこにあるのか捜すように指示を送る。
マクスウェル「よし、じゃあどこから来ているのか捜して。」
ドレイク「土下座してお願いするならきいてやる!」
ウンファ「さっさと捜せ。」
ドレイク「分かった...。」( °⌓° )
マクスウェルの指示を拒否するドレイクだが、ウンファの剣幕に渋々承諾する。ドレイクは集中して周りを見回し、シフティーは何をしているのか恐る恐る質問する。
シフティー「...何ですかこれ?」
マクスウェル「ジャマーの位置を捜してるのよ。」
シフティー「そうじゃなくて、ドレイクさんはどうやってジャマーの位置が分かるんですか?」
マクスウェル「特異体質だから?」
シフティー「全く説明になっていません。」
マクスウェルは通信阻害の原因であるジャマーの発信源を、ドレイクが探知している原理を大雑把に説明するが、シフティーに指摘されて補足して説明する。
マクスウェル「ドレイクは殆どの電波を体で感じることができるんだ。電波ごとの感じが微妙に違うから、経験したことのある電波を追跡できるの。」
シフティー「えっと...これだと、オペレーターとしての立場が...」
マクスウェル「勿論、オペレーター程正確じゃないよ。でも、結構使える。だから...オペレーター0.7人分くらい?」
夏油「それにこの緊急事態だ、オペレーターが救助できない状況なら仕方ないさ。」
ラピ「メティスが作戦を遂行する地域が広範囲に渡るのは、このせいなのね。」
ラプラス「その通りだ。電気を補助動力として使うことによって、圧倒的に長い間作戦を遂行でき、
マクスウェルの機械製作及び修理能力によって、圧倒的な維持補修の能力を持ち、
ドレイクの電波感知能力によって、作戦を遂行できる地域が圧倒的に広くなる。」
ドレイクの能力について解説するマクスウェル、その能力にシフティーはオペレーターとしての立場に危機感を覚える。しかし、オペレーター程の能力ではない事と、非常事態に活かせる能力ということを夏油は指摘して、ラピはメティスの能力によって様々な地域での活動を可能にしていることと分析する。
ラピの発言に誇らしげにメティスの能力の高さを説明し始め、締めくくりにメティスのメンバー全員が揃うことで最大限に能力を発揮できると明言する。
ラプラス「そして、私のヒーロー能力による、圧倒的な戦闘力!!」
シフティー「最後は全く理解できませんが。」
ラプラス「この全てが合わさってメティスは、名実ともに最強の分隊になるのだー!」
ウンファ「......。」
ラピ「...最強か...」
ラプラスのメティスの強みに、ウンファはくだらなさそうな表情を浮かべ、ラピは最強という単語に対して反応を示す。ラピの反応にラプラスは反射的に質問する。
ラプラス「異論でもあるのか?」
ラピ「いや、何でも無い。」
ラプラス「意見があるなら、謙虚に受け入れよう!」
ラピ「......戦う敵が明確なこの時点で、最強という称号に何の意味があるのか考えただけよ。」
ラプラス「......」
ラプチャーという共通の敵が存在する中で、競い合う時がある訳では無いニケ同士の指標として、最強という称号が存在する意味についてラピは疑問を抱いていた。
夏油(意味...か。)
ドレイク「こっちだ!」
マクスウェル「お、見つけたようだね。」
ラプラス「よし!行こう!」
ドレイクが先陣を切って、シェルターが降ろされている部屋に向かって駆け出し、ラプラスとマクスウェル、ウンファたちに夏油たちが続いていく。道中にジャマーを防衛していたラプチャーを殲滅して、再びヘレティックの破片の回収に向かう。
通信状態も回復して、再びヘレティックの破片を目的地に設定した夏油たちは、変わらない灰色の壁で覆われた部屋の中で歩き続けていた。アニスは夏油の傷口が悪化していないか、心配そうに声を掛ける。
アニス「指揮官様、傷は大丈夫なの?」
夏油「問題無いよ、もう出血も止まっている。」
ネオン「あまり無理しないでくださいね、キツイ時はおんぶします。
アニスが。」
アニス「なっ!? 私!?」
夏油「ありがとう、でも歩く分は支障は無いから。」
三人のやり取りを見ていたウンファは、傷が出来た戦闘前の出来事を想起しながら口にする。
ウンファ「そういえばお前、
夏油「...反射で体が動いた。」
ウンファ「ニケは負傷してもパーツを補給できる、そんな常識も知らないのか?」
夏油の行動に対して軽率な判断と下すウンファ、周囲の雰囲気が重くなる中、夏油はウンファの言葉にハッキリと答える。
夏油「知っていた、だが負傷しないに越したことは無い。戦闘力にならない私が負傷しても、ラピが万全に戦えると咄嗟に判断した。」
ウンファ「お前は本当にそう考えているのか? 指揮官は生き延びてニケに命令を下すのが役割だ。ニケの弾除けになるのが正しいと考えたのか? だとしたら随分能天気な脳みそだな。」
ベスティー「ウ、ウンファ...」
エマ「もういいじゃない、大事じゃなかったんだし。」
ウンファ「アイツの行動が反射だったとしたら、また無駄に命を張って庇うだろう。
今のうちに言って、理性で押さえない限り、アイツは犬死にして迷惑をかける。」
アニス「ちょっと、言い過ぎじゃない?」
ウンファ「私は事実を言っているまでだ。」
ウンファの厳しい言動の指摘に、ベスティーとエマは止めようとし、アニスはウンファの言い方に怒りを向けるが、夏油がアニスの怒りを鎮めるように止める。
夏油「アニス、ありがとう。でもウンファの言っていることは正しいよ。」
アニス「でも......」
ラプラス「喧嘩はそこで止めてくれ、これ以上雰囲気が重くなったらチームワークが乱れてしまう。」
ドレイク「何より、私は重い雰囲気は苦手だ!」
ウンファ「フン...」
ベスティー「ま、待って...」
これ以上雰囲気が重くならないように、ラプラスとドレイクが話を止める。ウンファは言いたい事を終えたように、再び前に向き直り歩き続ける。
エマとベスティーは謝るように頭を下げ、ラプラスたちとラピたちも目的地に視線を向けて歩き出す。目的地に向かう道中で夏油は、ラプラスに声をかけて質問を投げかける。
夏油「ラプラス、ちょっと質問してもいいかい?」
ラプラス「構わない! 何でも聞いてくれ!」
夏油「じゃあ...もしも、犯罪者と一般人が命の危機にある時、どちらかしか救えない状況で君はどちらを助ける?」
夏油がラプラスに投げかけたのは、単純な二択の問いかけだった。罪を犯した人間と、真っ当に生活している人間の二人が危険な中でどちらを助けるか、犠牲者の選択というトロッコ問題に似たような質問だ。
トロッコ問題と異なるのは、どちらを選んでも犠牲者の数が変わらない事、悪と善が明確に分かれている事。夏油が提示したこの問いかけは、年齢や性別、身内か親族かという情報は出さず抽象的に提示している。
敢えて情報を伏せることで、数秒ほど思考するが反射的に答えを発しやすくしている。仮に助けた犯罪者が殺人犯だった場合、助けた後に自分の身が危ないケースが考えられる。
これらの条件によって問題を提示した殆どの人間が、一般人を助けると選択するだろう。実際にトロッコ問題のような状況で犠牲者が出た場合でも、罪に問われる可能性は極めて低いらしいが、『自身の選択で人が死んだという』罪の意識が生まれる場合もある。
夏油はラプラスも反射的に一般人を救うと予測しており、犯罪者という悪を切り捨てる選択を取ったとしても、ラプラスの思い描くヒーロー像から外れている事は無い。しかし、夏油の予測はラプラスの放った一言で悉く崩れる。
ラプラス「無論! どちらも助ける!」
夏油「.......」
マクスウェル「...ねぇ、貴方聞いてたの?
ラプラス「それでもだ! 私はヒーローだからな! 見捨てるような真似は決してしない!!」
ラプラスの答えは、短く、しかし芯の強いものだった。命の危機にあるということは助けを求める存在、問題に出ていた犯罪者も一般人も、ラプラスにとっては救いを必要としている存在であり、大した違いは存在しなかった。
反射的な回答は人間の根本的な思想を呼び起こす、それでもラプラスはどちらも救うと答えた。この質問で、ラプラスは根っからのヒーローで、本気で目指したいと考えているのだと十二分に分かった。
マクスウェルの指摘に対して、ラプラスは毅然として胸を張って答える中、夏油はラプラスに感謝する。
夏油「いいんだ、マクスウェル。ありがとうラプラス、私の質問に答えてくれて。」
ラプラス「うむ! また気軽に声をかけてくれ!!」
マクスウェル「ベビーがそういうならいいけど...」
夏油は微笑みながらラプラスに感謝し、ラプラスも満面の笑みで返しマクスウェルも口角を上げて返答する。再び視線をラプラスたちから目的地に向ける夏油は、質問に答えた時のラプラスの表情を思い返していた。
正直で真っ直ぐ、しかしどこか放っておけないと思わせるその姿は、嘗ての後輩を想起するほどだった。ラプラスの真っ直ぐな意思と姿勢に、目を見張りながらも、少し羨ましく感じた...
文字数が少ないのにかなり時間がかかってしまった...こんな調子じゃ書きたい場面がいつまで経っても書けないという危機感を覚えてきました...。UAが12000を超えた...拙くて投稿周期もバラバラなのに読んでいただけてとても嬉しいです。誠にありがとうございます。
前回、マルチャーナが宿所に訪問して、たこんというキャラクター像を固めていって帰った後、SNSで有名になった日の翌日の出来事...
夏油「......」
陀艮「......」
花御「......」
静寂に包まれていた指揮官室に、漏瑚が夏油に声をかけて、真人も続いてニヤニヤして夏油のスマホを見つめながらに問いかける。
漏瑚「...どうなんだ? 夏油。」
真人「たこんちゃんの反響は??」
夏油「...予想以上だ、SNSの投稿がたこんのイラストで埋め尽くされている...」
花御「それだけ陀艮の容姿が人間にとって可愛らしいのでしょうか...?」
陀艮「ぶふぅ~...」(何か複雑だな~...)
漏瑚「何故これほどまでに広まったのだ?」
真人「画像をインターネットに上げると、画像を見た人が更に広げるからね~
それが何万、何十万といるとバカみたいに広がるんだよ。」
どうやらマルチャーナが学校でたこんのデザイン絵を見ている間に、生徒にも見られたことでSNSにたこんのイラスト画像が広まった原因のようだ。最早その勢いは止まること知らないかのように、日に日に広がっている。
現状に頭を抱えている夏油だったが、宿所のインターホンが鳴り響く。漏瑚たちは直ぐに戻り姿を消す、夏油は応じる為に宿所の玄関に向かう。扉を開くと、金髪と胸元がはだけたシャツ、黄色のショートスカートの上に黄色の上着を腰に巻き、煌びやかで派手な服装を身につけた女性が立っていた。
夏油「どなたでしょうか?」
???「おぉ...想像以上にイケメン...」
夏油「はい?」
???「あぁ、なんでもないの! 初めまして! 私ショッパホリック・チャンネルを経営してるルピーっていうの!」
夏油「ショッパホリック...確か、アークにあるショッピングモールの...」
ルピー「そう! 私が経営してるの!! あっ、これ人気のお菓子!」
夏油「どうも...詳しい話はこちらで。」
ルピー「お言葉に甘えてお邪魔しま~す。」
夏油はショッパホリックの経営者かつ、配信者であるルピーを指揮官室に案内する。ルピーはソファに座り、夏油が紅茶をルピーの前の机を置き、椅子を持って夏油も座る。
ルピー「どうも~、この紅茶美味しい♪」
夏油「それで...ショッピングモールの経営者が、私に一体何の御用でしょうか?」
ルピー「実は最近...SNSで話題が持ち切りになっている話があってね...ある画像がとんでもなく流行ってるの。」
夏油「...SNS...それって...たこんのことですか?」
ルピー「その通り! お兄ちゃん察しがいいね! 今はとんでもない速さで拡散しているから、画像の発信源を特定するのは骨が折れるけど、何とか見つけ出したの!」
夏油「それで...」
ルピー「それがね~画像をネットに上げた学生さんは、先生のタブレットにあった画像を撮ったって言って、次はその先生に聞いたんだけど~。聞いたらお兄ちゃんの名前が出て来たってわけ!」
夏油「......話の本題が見えてきませんが。」
ルピー「単刀直入に言うね...たこんちゃんを是非! ショッパホリックのイメージキャラクターにして欲しいの!!」
夏油「イメージ...キャラクター...??」
ルピー「そう! でもタダで貰う訳じゃないの! もしこの話を受けてくれたら...毎月の売上の30%をお兄ちゃんに分けるわ!」
夏油「30%...!?」
ルピーが夏油のもとに来た理由は、ルピーの経営しているショッピングモールのイメージキャラクターとして、たこんのデザインを使わせて欲しいという申し出だった。配信者として知られているルピーに、現在人気高騰中のたこんが加わると、更にショッパホリックの認知度が上昇し、利益に繋がると考えた結果だった。
キャラクターによる収益は、より消費者を引き付け広げる。認知度の他にグッズやイベントでの登場といった、商品展開による収益で更に上昇すると予測したルピーは、たこんをSNSで見つけた時に電流が走ったという。
ルピー「私のお店、マスコットになるキャラクターがいなくて、そろそろ真剣に考えようかとした時に、ふとSNSでたこんちゃんを知ったの! どう!? 悪くない条件だと思うんだけど...」
夏油「......」
夏油は体を前のめりにするルピーに身を引きながらも、腕を組んで悩む様子を見せる。この話を受けるべきか考える夏油だが、念話で陀艮が話しかけてくる。
陀艮(ぶふぅ、ぶふぅ。)(夏油、僕は大丈夫だよ。)
夏油(いいのか? 断ってもいいんだよ。)
陀艮(ぶふぅ、ぶふぅ。...ぶふ)(大丈夫、これから気を付ければいいから。...それに)
夏油(うん?)
陀艮(ぶふぅ、ぶふぅ...。)(シャワー室直さないといけないし、何度も人が来ると怖いし...。)
夏油(...すまない、陀艮。)
念話での会話を終えると同時に腕組を解いた夏油、ルピーの提案に答える。
夏油「...分かりました、その提案を受けます。」
ルピー「本当!?」
夏油「但し、少しだけ条件の変更を」
ルピー「何何? どんな条件??」
夏油「私の分け前を15%にして、残りの15%をマルチャーナさんにお願いします。」
ルピー「お安い御用! じゃあまた日を改めて訪ねるね!!」
夏油「分かりました、本日はありがとうございました。」
ルピー「ありがとうお兄ちゃん! また今度~♪」
後日、夏油に連絡が届き、ショッパホリックでマルチャーナを交え改めて商談した結果、最初はマルチャーナは分け前を貰えないと言っていたが、夏油がデザインと設定はマルチャーナが考えた事、後々グッズ販売すると聞いて、快く承諾した。
商談後にマルチャーナは夏油に何度も頭を下げて感謝し、夏油はマルチャーナに『貴方の行動が今回の結果に繋がった、寧ろこちらが感謝したい。』と返した。それから数日後、たこんはショッパホリックのイメージキャラクターになり、声は無いがキャラクターの特徴である人見知りが引き立つと、ファンからは大好評となった。