特級呪術師のデストピア   作:クモッ!

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 ニケを始めてYoutubeとかでキャラの解説動画を見ていた時に、赤鬼っていう方のアニメーションが可愛いのが懐かしい記憶です。最近では新しいソリンが実装されたイベントの動画が好きです。
(特に朝になって起きるソリン)

 AZXのイベント...グッとくる演出ばっかで、雨が止まなくて...スマホの画面がよく見えませんでしたが...最高の物語でした...。木曜日の時点でUA23000を超えました、毎度読んで貰えてとても嬉しいです!

 誤字報告、誠に有難うございます...お手数おかけして、誠に申し訳ありません。


新生、呪縛からの開放

 モダニアから放たれたコーリングシグナルを聞いた夏油は、ようやく気付いたのか視線をモダニアに移してじっと見つめる。踏み出そうとした瞬間、夏油を中心にラプチャーが周囲を囲ってモダニアまでの道を立ち塞がる。

 

 

ラピ「指揮官!!」

 

アニス「あんな大軍...この戦場にいる全てのラプチャーが!?」

 

ネオン「アブソルートとカフェ・スウィーティー分隊が食い止める作戦だった筈なのに...」

 

 

 ラプチャーに攻撃して周囲の戦力を削いでいくが、爆散したラプチャーが補填されるように入り込み、一向に夏油の姿は見えず遮られたままだ。

 

 

夏油「......」

 

 

 夏油の視線は変わらない、赤く光る灰色の檻の中心に立っていようと、ただモダニアが見えていた方向を直視している。言うなればこの状況は絶望、約束された死刑台とも言える。

 

 ある者は生にしがみ付き、ある者は地上の侵略者に怒りをぶつけ、ある者は未練を残してこの世を去る。散りざまは様々で、自身をそう搔き立てるこの状況に、正常な行動など出来る筈も無い。

 

 

『ビイイイイー!!』

 

 

 夏油を取り囲んでいる内の一体が、モダニアのコーリングシグナルと同じような音を響かせる。その行動には怒りなのか、それとも人間である夏油に向けた侮辱なのか、機械がそんな行動を取った所で分かる筈も無いが、先導されたように他の機体も音を響かせる。

 

 灰色の檻に警報が鳴らされる、死刑の決定を知らせているように、その檻の壁は小さく脆そうなものから、大きく堅牢なものも見当たる。ある所は弾痕が残っており、ある所は赤い光を放つ球体が剝き出しになっている。

 

 ラピたちが直感したものは死、まず生身でラプチャーの攻撃を凌げる訳もなく、仮に戦えるとしても先の景色も見えない数から回避することなど出来る筈もない。モダニアの攻撃を受けても、原理は分からないが傷を治癒して復帰し、弱っていたモダニアを追い詰めたところから、最早人間という括りに入らないことは分かっている。

 

 だがどうしても人間という認識で、ラピたちは夏油を見てしまいその身を案じていた。

 

 不安は時を刻むほど大きく募っていき、ラプチャーへの攻撃を止めない。その大きく肥大化した不安が...

 

 

 

 

烈風のような風と共に吹き飛んでいく。

 

 

 

 

 金属を鈍く叩きつけた音が、ラプチャーの警報を塗り替える。原型は保っているが大きな溝ができたラプチャーの死骸が空に打ち上げられていた。

 

―――同時に夏油は真っ直ぐ駆けだす。体の後ろ半分が残像と錯覚するほど素早く、ラプチャーの群れを正面からなぎ倒していく。

 

 

 夏油が持っている武器は、雅な赤色の装飾が施された三節棍のみ...小型だけならいざ知らず、ロード級のラプチャーも同じように吹き飛ばしていく。

 

 

――― 一歩、横に薙ぎ払うように

 

――― 一歩、攻撃の勢いで振るった腕を反対側に払い飛ばす。

 

――― 更にもう一歩、天から叩きつけるように、自分の何倍もある巨体を武器で押し潰す。

 

 

 これらの出来事を、2秒とかかる事無く猛威を振るう。更に強く、深く踏み込み、その速さが上がっていく。

 

 

『ドドドド!!』

 

 

 夏油の攻撃に対して反撃するラプチャーの大軍、瞬時に鉛と光の雨が降り注いでくる。が、夏油に当たる事無く攻撃は逸れてしまい、地面に当たり空に飛び、果ては友軍にまで被弾した。

 

 攻撃が被弾する直前、自身の体に呪力の膜を形成、弾が呪力によって阻まれたことで運動エネルギーが分散、ベクトルの方向が変わったことで弾道が逸れた。この技術、言わば対領域対策に使用される 秘伝 落花の情、その劣化技である。

 

 落花の情は必中術術式に触れた瞬間カウンターで呪力を解放し身を守る、それに対して夏油は相手の弾幕が多い中強行攻撃しながら進んでいる為、肉体強化に加えて防御の緻密な呪力操作は不可能と判断、結果相手の攻撃中呪力の膜を形成し続けて攻撃を逸らしている。

 

 その為、カウンターで瞬間的に呪力を解放するより、常時呪力を解放し続ける影響で呪力の消耗が激しく、1分以上展開すると底をつき肉体強化が出来なくなってしまう。何度も使用できる技ではないと判断し、攻撃態勢に入ったラプチャーを呪霊で攻撃するように変更。

 

 

『ゾんば』

 

 

 天から光の柱が降り注ぎ、包まれたラプチャーはその体が圧し潰され、光の中で消えていく。銃口を向けて攻撃をしようとするラプチャーを対象に、率先して攻撃するように呪霊に指示を送り、更に駆け出していく夏油。

 

 

――― もっと前へ、袈裟切りするように抉る。

 

――― もっと先へ、脚部の隙間をスライディングして通り過ぎながら足を破壊する。

 

――― もっと奥へ、ロード級のコアに一本の棍を刺突し、棍棒のように振り回す。

 

 

モダニア「......」

 

 

 『悪夢』モダニアが浮かんだ言葉はこの一言、同胞が虫けらのように払い飛ばされ、体がバラバラに吹き飛び無惨な姿を晒している。今の彼女にとって夏油は、台風の目。

 

 意思を持っている暴風、立ち塞がるモノは何人たりとも悉く塵と変わる台風が、今こちらに迫り寄り、ラプチャーの隙間からその視線はブレる事無く、モダニアに向けられている。

 

 

モダニア「ハァ...ッ...ハァ...ッ...!」

 

 

 呼吸が荒くなり思考回路が乱れ、心臓を握り潰さんと圧迫されている感覚で、汗が滝のように流れ落ちていく。知らない事や理解できない事で、人間は不安や恐怖を感じるが、モダニアも夏油という、人間の皮を被った怪物という未知の存在に恐怖していた。

 

 この戦場から一刻も早く逃げたい、しかし逃げたところでクイーンに手を下され、または夏油がクイーンを葬る未来が、モダニアの恐怖であり危機感である。どこにも逃げ場が無いモダニアは、ここで死ぬか生きるかしかなく、崖っぷちの極限状態の中、モダニアに打開策が下りてくる。

 

 

モダニア(あの...3人を...人質にっ...!!)

 

 

『ビイイイイー!!』

 

 

 確かにその力に現在の戦力では太刀打ちできない、しかし、災害ではなく人は感情で生きる生物。仲間を大切にする夏油の、唯一の弱点である仲間の命を秤に掛けようと、モダニアはコーリングシグナルに『後方にいるニケを生け捕りにしろ』という命令を下す。

 

 指示を聞いたラプチャーの一部が夏油への攻撃を止め、ラピたちのいる方向に体を向ける。標的が夏油から自分たちに移ったことに、慌てながらも抵抗するアニスとネオン。

 

 

アニス「な、何?...急にこっちを...っ!!」

 

ネオン「接近し始めました! 攻撃します!!」

 

ラピ「指揮官を止める為に...私たちを人質にするつもり...!?」

 

アニス「そう簡単になってたまるものですか!!」

 

 

 アニスとネオンは接近してくるラプチャーの迎撃、負傷とパワーダウンしたラピは攻撃できないが、接近してくるラプチャーの位置を2人に伝えて指示を送る。ラピたちの前方に集中していたラプチャーが、徐々に取り囲み始めて追い詰めていく。

 

 遂には銃口を向け始めて、無力化するその直前だった。

 

 

『ゴオッ!!』

 

『グサッ!!』

 

『ザシュッ!!』

 

 

 3人に接近してきたラプチャーは、不自然な現象に巻き込まれ動きを止める。一体は地面に急に隆起した山から噴火した溶岩に飲み込まれ、一体は不自然に現れた木の幹によってコアが貫かれ、一体は鋭利な刃物で両断され真っ二つに分かれる。

 

 不自然な死を遂げたラプチャーの先に、ラピたちを守るように3人...いや3体の異形が立っていた。単眼、目から木の幹が生え左腕が布で包まれている、筋骨隆々の赤い蛸の怪物。人型ではあるが異質な気配を放っている3体、どちらかといえばその気配は()()()に近いものだった。

 

 

ラピ「貴方...たちは...?」

 

花御「夏油に頼まれて守りに来ました。」

 

アニス「...?...へっ?...つまり助けに来たの??」(何言ってるか全く分からなかったのに...)

 

陀艮「貴様らには、触れさせん...」

 

ネオン「師匠の仲間なのですか!?...火力の化身を具現化したような貴方も!?」

 

漏瑚「耳元で騒ぐな、やかましいぞ。全く...。」

 

 

 パチンコ玉ほどの攻撃の前に現れた着物姿の異形と同等の寒気を感じたモダニア、弾丸のような方法で打ち出していた異形よりもハッキリとその姿を視認できる。しかし、ラプチャーは構わずラピたちに向かっていく、先ほどの不自然な末路が見えなかったように。

 

 

花御「私が動きを止めます。」

 

漏瑚「では儂が仕留める。陀艮、防御ととどめを任せてよいか?」

 

陀艮「任された。」

 

 

 接近してくるラプチャーの脚部を地面から出てきた木の根が絡めとり、紫と緑の羽虫がけたたましい音を鳴らしながら特攻し自爆。生き残った数体は懸命に攻撃するが、浮かんでいる水が壁となり、攻撃したラプチャーのコアに小さい風穴があく。

 

 3体の異形の後ろにいるラピたちさえも、この不可解な現象の連続に唖然としている様子。

 

 

モダニア「っあ...!!」

 

 

 モダニアの背後から機械音が聞こえて、咄嗟に振り返ると先ほど以上のラプチャーの軍勢が地平線を埋め尽くすようにこちらに向かってきている。数分とかからずに到着すると分かり、何とか立ち上がり自身の体とアーマーの修復を進める。

 

 

『ガオンッ!!』

 

 

 空に黒い光が降り注ぐ。

 

 

 

 そんな淡い期待も容赦なく刈り取られた、空を見上げると先ほどの着物姿の異形が黒星を引き連れて、増援のラプチャーたちを鉄屑に変えたのだ。受け入れられない事態に硬直するモダニア、しかし彼女を引き戻したのはラプチャーの囲いから伝わる冷たい視線だった。

 

 

モダニア「ぁ...ぁあ...。」

 

夏油「......。」

 

 

 鉄の檻と見間違える程に集まっていたラプチャーが、ボディが凹みコアが潰され、機体の半分が抉られてまともに移動できず機械音を虚しく鳴らしている。その中心でこちらに歩み寄ってくるのは、赤い三節棍を片手で持ちながらこちらを見つめ続けている、無傷の夏油だった。

 

 集結したラプチャーの総数約800体は、夏油本人及び降伏した呪霊によって、3分とかかる事無く壊滅した。

 

 

モダニア「くっ!!」

 

 

 モダニアは苦渋の表情で夏油を見つめながら、左手を向けて指示を送り応急修理が完了したアーマーを夏油にぶつける。

 

 

 

 

 しかし一時の時間稼ぎにもならず粉砕された、持っていた三節棍を横に払うと同時に黒い輝きを放って、部品を撒き散らしながら吹き飛んでいく。バラバラになったアーマーを一瞥した夏油は、再びモダニアに目を向ける。

 

 

モダニア「ハァッ...!...ハアッ...!!」

 

 

 足元がふらつきながらも何とか立って、恐怖を必死に抑えて攻撃する隙を探るモダニア。突き刺すような凍りつく視線を向けながら、片手で持っていた三節棍を両手持ちにし、腰を落とす夏油。

 

 互いに瞬きの間見合った後、夏油がモダニアに向かって駆け出していく。

 

 

モダニア「!!」

 

 

 修復途中でボロボロな触手を夏油に向かって突き出し、刺突しようと攻撃する。しかし、突き出してきた触手を軸に体を回転させながら回避し、回避の荷重を乗せて反撃するように、三節棍をモダニアに叩きつけようとする。

 

 

『バキンッ!!』

 

 

 もう一本の触手で三節棍を弾き飛ばし、高い音が周囲にこだまする。衝撃を殺せずよろめきながらも数歩後ろに下がったモダニア、ふと空を見上げると三節棍が速い速度で回転しながら上昇している。

 

 

モダニア「っ...必ず近くにいる...一体...何処に...!?」

 

 

 武器を奪ったが肝心の夏油の姿が見当たらず、周囲を直ぐに確認しながら居場所を探すが何処にも見当たらない。自身の体にある全ての感覚を総動員して、夏油の気配を探りながら警戒する。

 

 

モダニア「っ!!!」

 

 

 気配を感じ取り背後を振り返る。

 

 

カチャ

 

 

 同時に血みどろになった自決用の拳銃を取り出し、モダニアの額に銃口を向ける夏油が立っていた。

 

 

モダニア「っ...っ!?」

 

 

 この至近距離、致命傷になる触手の刺突を繰り出そうとしたモダニアだったが、異変を感じていた。

 

 

モダニア「何故ッ!?...何故体が動かない!?」

 

すみません、指揮官。辛い思いをさせて...

 

 

 

 突如、モダニアの脳内に小さな声が聞こえる。

 

 

 

モダニア「貴方...っ!自分が何をしているのか、分かっているのですか!?」

 

でも...それも終わりにします。

 

 

 

モダニア「殺されるのですよ!?貴方の大好きな人に...!!!」

 

最後のお願い...聞いて頂けますか?

 

 

 

 

モダニア「こんなの...絶対に認めません!!こんな終わり方っ!!!」

 

私を...殺して下さい。

 

 

 

 

 

 ()()の声は夏油には届かない、しかしこの肉体で自分は何もできない状態で、モダニアの所業を見てきた。沢山のニケを生きたまま体を開き、侵食で同士討ちをさせては自決させてきた。

 

 弄び、惨殺していく凄惨な光景をずっと見せられてきた、故に精神が疲弊し摩耗して、微かな気力とどうしようもできない絶望だけが()()を支配していた。

 

 それでも白い世界で一瞬でも再開した()()は、彼という光に希望を見出し、モダニアと共に魂を沈めてくれると信じていた。夏油の気迫と絶望へと追い込んだことで、モダニアの精神が瀕死となり、こうして体を止めることができたのだ。

 

 

夏油「分かっている。」

 

 

 ()()の願いに答えるように、銃口を顔を覆っているバイザーに向ける。魂が刈り取られる瞬間を受け入れるように、()()は瞳を閉じて笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度こそ助ける。待っていてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声と共にバイザーから甲高い金属音を響かせて砕け落ちる、

 

 頭は大きく後ろに大きく仰け反りながら、砕けたバイザーから黒い瘴気が一気に吹き出し、

 

 弾き飛ばされた游雲が地面に落ちる。

 

 そのまま地面に倒れそうになる体を、片膝になり姿勢を低くした夏油が抱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウウッ...ァァ...

 

 

 

 

 

ウォァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰にも届かない絶叫とも言える断末魔が虚空に轟く、明確な殺意を向けて怒りを宿した表情から、心の底から慈しむような表情を、抱えている()()に向けながら伝える。

 

 

 

夏油「本当に待たせてごめん...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリアン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に呼応するように、()()の瞳がゆっくりと開かれ、小さい声が聞こえた方向に顔を向ける。

 

 

マリアン「指揮...官.........指揮官っ...!

 

 

 瞳に映った夏油の顔を見て、目にいっぱいの涙を浮かべながら抱きつく。飛び込むように抱き着いたマリアンを、夏油は優しく抱きしめる。

 

 

マリアン「私っ...ずっとずっと...怖くて...っ...」

 

夏油「大丈夫、悪夢はもう終わったんだ。」

 

マリアン「はいっ...!」

 

 

 大粒の涙を溢すマリアン、今まで目に焼き付けた苦悩や悲しみ、絶望を全て吐き出すように泣き叫ぶ。マリアンの号泣は5分を超えて、一息ついたのか顔を見上げて夏油を見つめる。

 

 

夏油「落ち着いた?」

 

マリアン「はい、ありがとうございます...グスッ。」

 

夏油「じゃあ行こうか、みんなを待たせているからね。」

 

マリアン「はい。」

 

 

 落ち着いた様子を見せながらも、鼻を啜るマリアンは笑顔を見せて、ラピたちの元まで行こうと立ち上がる。

 

 

マリアン「???...... へっ!?

 

 

 足を地面につけて立ちあがろうとしたマリアンだが、抱えたまま夏油が立ち上がりお姫様抱っこのままラピたちの元に向かっていた。夏油は柔らかい表情のままだが、マリアンは赤面している顔を両手で隠していた。

 

 

マリアン「しっ...指揮官っ...///

 

夏油「? どうしたんだい??」

 

マリアン「ひっ...一人で歩けますから...///

 

夏油「分かった、辛くなったら手を貸すよ。」

 

マリアン「はい...ぅぅ...///

 

 

 ゆっくりと下ろして立ち上がれるよう、両手で支えサポートする夏油と、手を借りながら立ち上がっても、真っ赤な顔になっているマリアン。2人のやり取りを見ていたラピたちは、モダニアからマリアンを解放することができたと分かった。

 

 

ラピ「マリアン...戻ったのね。」

 

アニス「良かった、それはそれとして...指揮官様って女誑しね。」

 

ネオン「お二人とも熱々ですね!」

 

花御「私たちも引き上げましょうか。」

 

 

 2人の様子を見ていたラピたちだが、背を向けて場を離れようとする漏瑚たちに声をかける。

 

 

アニス「もう帰っちゃうの? 指揮官様の知り合いなんだから一緒に待てばいいのに。」

 

陀艮「我々は人ではない、彼女が戻ってきたというのに我々が居れば、互いに秘めている気持ちを吐き出せなくなってしまう。」

 

ネオン「でも...こうして私たちを守ってくれましたし...」

 

漏瑚「これ以上儂らが居ても野暮ということだ。分かったらさっさと行け、奴らを迎えに行ってこい。」

 

ラピ「...ありがとう。」

 

 

 ラピの感謝の言葉に、花御と陀艮はコクリと頷き、漏瑚は「フン。」と鼻を鳴らして背を向け黒い瘴気と共に姿を消した。見届けた後ラピたちは振り返ると、夏油とモダニアが並んでこちらに歩いてくる。

 

 先ほど泣いていた事が嘘のように、満面の笑顔で手を振りながらラピたちを呼ぶ。

 

 

マリアン「ラピ!アニス!」

 

ラピ「お帰りなさい、マリアン。」

 

アニス「お帰り!!」

 

 

 手を振っていたマリアンに向かって、飛びつくようにハグするアニスと、初めての任務で見せなかった笑顔を見せるラピ。あの後に何があったのか、夏油を交えて話そうと思っていたマリアンだが、任務に居なかったネオンの顔を見て自己紹介する。

 

 

マリアン「貴方は...指揮官の分隊のメンバー?」

 

ネオン「はい! ネオンと言います!

 指揮官の一番弟子であり、スパイです! 宜しくお願いします。」

 

マリアン「シルバーガン分隊所属のマリアンです......?」

 

ネオン「? どうしましたか??」

 

 

 頭に疑問符を浮かべているマリアンに、キョトンとした表情でネオンが尋ねる。マリアンは先ほどの自己紹介を聞いて、一番引っかかった所について言及する。

 

 

マリアン「いえ...スパイが自分の事情を晒してもいいのですか?」

 

ネオン「問題ありません! スパイと知られていても動じない精神力を養っているのですから!」

 

マリアン「な...成程...??」

 

 

 ネオンの返答に対して理解したものの、「それってスパイとして成立しているのでしょうか?」という疑問を飲み込み、深く追求せずマリアンは話題を変える。

 

 

マリアン「そういえば、指揮官のことを師匠と言っていましたが...何を教わっているんですか?」

 

ネオン「よくぞ聞いてくれました! ズバリ、火力の師匠です!!!」

 

アニス「始まったわね...」(≖ࡇ≖)

 

マリアン「火力の...師匠ですか??」

 

 

 ネオンの言っている事がイマイチよく分からないマリアンは、もう一度尋ねるようにネオンに聞いて、嬉々として話し始めるネオン。

 

 

ネオン「この世の問題は、大抵火力で解決する事ができます。圧倒的な火力さえあれば、あらゆる障害も苦難も問題になりません。」

 

マリアン「そうなんですか?」

 

ネオン「そうなんです! ですから日々どうすれば火力が上がるのか、集中できるのか破壊できるのか...

 そこから最適解を見つけ出すのは、実践するよりも難しく如何に実力を発揮できるかが一番の課題で」

 

アニス「つまり、自分のパワーアップに余念がないのよ。指揮官様は助言して強くなれるように促してるの。」

 

 

 途中からネオンの説明から置いて行かれて、呆然と立ち尽くしていたマリアンの顔を見て、伝えたいことを分かりやすく伝えるアニス。アニスの説明を聞いて、マリアンは本当なのかと疑う様子で目を逸らしているラピに聞く。

 

 

マリアン「そうなの? ラピ。」

 

ラピ「一応そうなっているわ。」

 

夏油「ふとした一言から始まったんだけどね、それがネオンに火をつけちゃったみたいで、そのまま師弟の関係になったんだ。」

 

マリアン「そうだったんですね、これから宜しくお願いしますネオン。」

 

ネオン「はい! 此方こそ宜しくお願いします、マリアン!」

 

 

 互いの自己紹介を終えて握手を交わすネオンとマリアン、どちらも満面の笑みのまま握手を解こうとする。

 

 

「そっちに行く!!」

 

 

 その瞬間に、夏油たちの背後から呼びかけている声と共に、上空から風を切る音が鈍く響きながら、一体の咆哮が夏油たちに向けられる。

 

 

トーカティブ「クァアアアッー!!」

 

 

 上半身だけが残ったトーカティブが、上空から怒涛の勢いで落ちてくる。巨大な口を大きく開き咆哮を上げてこちらに落下してくるトーカティブを、ラピたちは攻撃して落下地点を逸らそうとする。

 

 

『ドバキッ!!』

 

トーカティブ「グオッ!?」

 

 

 銃口を向け引き金を引く前に、トーカティブの頬に蹴りが入り、サッカーボールのように土煙をまき散らしながら弾んでいく。トーカティブを蹴り飛ばした人物に、ラピたちは見覚えがあった。

 

 

真人「いや~ごめんごめん、中々逃げ足が速くてね。」

 

ラピ「貴方...!?」

 

アニス「北部の時にいた...!」

 

ネオン「薄着のツギハギさん!!」

 

真人「もう少しネーミング何とかならない?」

 

スノーホワイト「知り合いだったのか。」

 

真人「間近で一緒に歩いた(至近距離で何時でも射殺できる)位の仲だよ?」

 

 

 北部でトーカティブに夏油が連れ去られた時に、その居場所を案内した青年真人。その姿を改めてラピたちの前に出して、スノーホワイトも合流する。

 

 

夏油「どうだった? トーカティブは。」

 

真人「雑魚。でも、おもちゃとしては満点だよ。こっちが少しでも煽ったら直ぐキレるんだもんw

 ていうか夏油死にかけた? 呪力のパイプが切れかけてたけど。」

 

夏油「ああ、体の風通しが良くなってね。困るから塞いだんだ。」

 

真人「うっはぁ~、マジに穴だらけじゃん。」

 

スノーホワイト「...本当に人間なのか?」

 

夏油「列記とした人間だよ、最近は『人間じゃないのか?』って言われるけど。」

 

 

 一瞬ラピたちに顔を向けた真人だが、直ぐに夏油に近づきトーカティブと戦闘した感想を話していた。まるで普段から会話しているような二人の様子を見て、アニスは声を上げる。

 

 

アニス「何!? あなた指揮官様と知り合いだったの!? というかトーカティブと戦ったって、本当に人間なの!?」

 

真人「質問は一つずつにしてくれない? まあ答える気は無いんだけどね。」

 

アニス「なっ!?」

 

真人「どうしても知りたいなら夏油から聞いてね~

 バイバ~イ」

 

 

 アニスの追及に対して一つも答えずに、黒い瘴気と共に別れの言葉を言いながら消える真人。姿が消えて開いた口が塞がらず愕然とするアニスを見て、マリアンは夏油に耳打ちするように質問する。

 

 

マリアン「指揮官、あの人は一体...

 

夏油「あぁ、彼は...」

 

トーカティブ「ググググッ...」

 

夏油「その前に...まずは奴だな。」

 

 

 夏油の視線の先には、深く項垂れながらも失った下半身を再生し終わったトーカティブ、夏油の言葉を聞いたラピたち、マリアン、スノーホワイトが銃口を向ける。肉と骨が叩き潰され無理やり捏ねられるような音を発しながら、トーカティブはゆっくりと夏油たちに体を向ける。

 

 

ネオン「...?」

 

アニス「なんか、さっきと見た目違くない?」

 

 

 ネオンとアニスの反応通り、その姿は異様な変化を遂げていた。全体の各所に白と灰色の装甲が施されて堅牢な見た目に変化している。その中でも一際目立っていたのは、歪なまでに巨大化し円柱となった右腕であり、その大きさは対して変化のない左腕に比べて3~4倍ほど肥大化していた。

 

 右腕には赤い光を放つ球体が顔を出し、肉が不気味に脈動しつつ、その右腕を夏油たちに銃口を向けるように構える。

 

 

ラピ「...もしかして...」

 

スノーホワイト「っ! まさか!!」

 

トーカティブ「そうだ...貴様ら人間もどきが倒したヘレティックの残骸を取り込んだ。

 今から全てのエネルギーを使って地表の人間もどきを焼き尽くす。」

 

アニス「!?」

 

ネオン「そんな...っ」

 

 

 変化の理由に気づいたスノーホワイトを見て、不気味に微笑みながら自身の企みを話す。モダニアのアーマーに搭載されていた粒子砲とコア、加えて夏油が壊滅させたラプチャーのコアを取り込んだトーカティブ。

 

 一回の攻撃でこちらの戦力をほぼ壊滅させる目的で、自身の体を改造し高位のモダニアのアーマー、同胞の死体を漁ってまで滅ぼそうとする。直ぐに止める為に対艦ライフルを構えるスノーホワイト。

 

 

スノーホワイト「させるか!!」

 

トーカティブ「やめておけ、今の状態で攻撃すれば広範囲の爆発で貴様らは消し炭になる。

 死にたいというなら止めはしないがな。」

 

スノーホワイト「っ...!」

 

 

 歯を食いしばってトーカティブを睨むスノーホワイト、こうしているうちにもトーカティブの攻撃の準備は着実に進んでいく。何も出来ないスノーホワイトを見て、トーカティブは口を大きく開きながら笑う。

 

 その肉体は高熱により一部が焼き溶け、融解しながらも笑みを崩さずに、右腕の発射口に光が収束していく。

 

 

トーカティブ「ハハハッ!! お前たちには何一つ! 渡さない!!」

 

「フハハハハハハハハハ!!」

 

 

 状況は一気に最悪に変わった、自己を犠牲にして残存勢力を救うか。それとも、このまま共倒れになるか。選択肢は二つの中、スノーホワイトなら自己犠牲するだろうが、自分以外が納得する状況でも無い。

 

 万事休すの状況の中、一人は前へ踏み出そうとしていた。

 

 

マリアン(上手くいくか分からないけど、この方法なら...)

 

 その勇気を振り絞った歩みを、

 

 

マリアン「?...指揮官??」

 

 

 夏油が止める。

 

 

夏油「私が何とかしよう。」

 

アニス「へっ!?」

 

ネオン「師匠が!?」

 

ラピ「指揮官...」

 

 

 マリアンを押しとどめ、代わりに足を踏み出していく夏油の言葉を聞いて、ラピたちはまたも啞然とする。その前進をマリアンは止めて、その役目を引き受けようとする。

 

 

マリアン「待ってください!! 指揮官がとても強いことは分かりました。

 でもっ、あの攻撃を止められるのは、私だけなんです!!」

 

夏油「その方法を実行して、君が助かる保証があるのかい?」

 

マリアン「っ......」

 

 

 夏油の投げかけた質問に押し黙ってしまうマリアン、その方法はヘレティックとなって得られた異能力を用いて、トーカティブの攻撃を相殺しようとするもの。しかし、日が浅く経験も踏んでいない状態で実行すれば、自分がどうなるか分からない。

 

 例え自分が死んでも、自分以外は助かる方法なのは確信していた。しかし、その方法を許すかと言われれば、絶対に許さないだろう。自分を助ける為にここまで戦ってきた夏油たちに、その行動は絶対に納得しないことは察していた。

 

 

夏油「だから君は言わずに前に出た。違うかい?」

 

マリアン「もう...これしか...」

 

夏油「いや、まだ方法はある。」

 

マリアン「えっ......?」

 

夏油「奴の攻撃を止めて、皆助かる方法が。」

 

 

 夏油の表情はこれから死にに行く、生きることを諦めた人間の顔ではなく、自信と確信を持った笑みを浮かべてマリアンを見ていた。夏油の発言にラピたちは反応して、本当なのか釘を刺す。

 

 

アニス「本当に助かるの!?」

 

夏油「あぁ。」

 

ラピ「トーカティブの攻撃を相殺できるのですか?」

 

夏油「勿論。」

 

ネオン「絶対に本当ですか!!」

 

夏油「絶対に本当。」

 

 

 不安な気持ちに対して表情を崩すことなく答える夏油、その対応にマリアンは顔を俯く。

 

 

夏油「誰も君を責めたりしないさ、一人で解決する必要はない。皆で対処すればいい。」

 

マリアン「指揮官...」

 

夏油「一人で抱え込むと、大抵上手くいかない。一人で抱え込んで、早とちりして、失敗した()()を、私はよく知っている。

 だからこそ信じられる仲間や友達がいるし、前を見据えられるんだ。」

 

マリアン「...はいっ。」

 

 

 マリアンは目に涙を浮かべながらも、夏油の前進を止められず背中を見つめ続ける。沈んでいたラピたちを引き戻し、必ず約束を果たすと体を向けて宣言する。

 

 

夏油「帰ったら、約束通り祝勝会をしよう。私が奴を片付ける間、リクエストを考えていてくれ。」

 

 

 夏油の言葉を沈黙を以て承諾するラピたち、ゆっくりとトーカティブに進んでいく。前に立っているスノーホワイトを通り過ぎざまに、声をかけてくる。

 

 

スノーホワイト「夏油。」

 

夏油「分かっている、出来るだけ生かすようにするよ。」

 

スノーホワイト「そうじゃない、あれ程の出力を相殺できるのか?」

 

 

 呪霊という不可解な存在を操る夏油だが、この戦場全体を焦土に変えるトーカティブの粒子砲を相打ちに出来るほどの力があるのか気掛かりだった。スノーホワイトの疑問に対して、夏油はすんなりと答えていく。

 

 

夏油「問題無いよ、以前に同じ状況になった事がある。今回の被害はゼロにするつもりだ。

 それに...」

 

スノーホワイト「...?」

 

夏油「()()最強なんだ。」

 

スノーホワイト「......。」

 

 

 スノーホワイトの疑念に対して、夏油が嘗て言い放った言葉で答える。その言葉を聞いてスノーホワイトは何も答える事無く見つめ続け、夏油の歩みを止めなかった。

 

 そのまま歩み寄っていき、前に出てきた夏油にトーカティブは困惑しつつも、身柄を渡す交渉を持ち掛けるつもりだと考えて、その取引に応じようとする。

 

 

トーカティブ「??...そうか、お前の身柄と人間もどきの命を取引しようというのか。」

 

マリアン「えっ...」

 

夏油「どうすればその攻撃を止めてくれるんだい?」

 

 

 トーカティブの言葉にマリアンは耳を疑い、夏油は何とか攻撃を止めてくれる方法を探っている様子から更に困惑する。トーカティブはこの状況の優位性を活かして、夏油の身柄に加えて更に条件を追加しようとする。

 

 

トーカティブ「そうだな、ヘレティッ(マリアン)クの素体と赤い人間もどきを渡せば考えてやろう。」

 

夏油「他に方法は無いのか?」

 

トーカティブ「これ以外他の条件は受け付けん。」

 

 

 トーカティブの提示した条件に対して、腕を組んで考える夏油。マリアンは本当に取引するつもりなのかと不安になって慌てているが、ラピとアニスがネオンに声をかけて不安を払拭する。

 

 

ラピ「大丈夫よ、マリアン。」

 

マリアン「でも...取引すると...」

 

アニス「あなたは知らないかも知れないけど、指揮官様はさっきまでヘレティックと生身で戦ったのよ。」

 

ネオン「私の師匠ですから!!」

 

マリアン「ですが...」

 

 

 不安を拭おうとマリアンを引き留めるラピたち、段々と落ち着きを取り戻していくネオンは、先ほどまでの夏油の戦いを見て信じようとする。しかし、あのビーム砲を何とかする方法があるとは思えず、その背中を心配そうに見つめていた。

 

 マテリアルHとアルトアイゼンで見せたビームを反射する怪物、盾として展開するという手もあるが、それで防げる出力なのかと言われると分からない。そしてその方法をマリアンは知らず、ラピたちが安心している様子が全く分からなかった。

 

 

スノーホワイト「不安か?」

 

 

 スノーホワイトが、マリアンの心の中にまだ不安が残っているか訪ねてきた。その短い問いかけに対して、マリアンは咄嗟に声を掛けられた事に驚きながらも、自身の心情を正直に答える。

 

 

マリアン「...はい、どうしてもあの出力に匹敵する方法があるとは思えないんです。」

 

 

 マリアンの心情をぽつりぽつりと吐露している中、スノーホワイトは視線をトーカティブから離さず、静かに聞いていた。心情を全て明かしたマリアンに、再びスノーホワイトは短く答える。

 

 

スノーホワイト「仲間を信じろ。

 アイツは約束を無下にしない。」

 

 

 その答えに淀みは無く、かと言って適当に答えているようにも思えないほど、ハッキリと答えた。マリアンはここまで来て助けてくれたことを思い返しながら、夏油の背中を信じて目を向ける。

 

 そうしている合間に考えが纏まったのか、夏油は組んでいた腕を解いてトーカティブの取引に対して

 

 

夏油「それじゃあさっさと倒して、皆と一緒に帰るとしよう。」

 

 

 胡散臭い笑みを解き、真剣な表情で断る。

 

 

トーカティブ「愚かだな、この状況でまともに考える事も出来なくなっているのか。

 もう一度説明してやる。私はヘレティックの武器とコアを取り込み、この右腕は戦場を丸ごと焼け野原に出来る出力がある。」

 

夏油「......」

 

トーカティブ「この攻撃を放てば、貴様ら人間もどきの軍団は消滅するほどの」

 

夏油「何時まで独り言を続けるつもりだ?」

 

 

 長々と話し続けているトーカティブの説明を遮るように、夏油は気怠そうな面持ちで声をかける。その姿に本当に狂っているのかと、笑い飛ばしながら嘲る。

 

 

トーカティブ「ハハハハハ! 本当に狂ってしまったのか? この人間は!!

 この兵器の恐ろしさもまともに把握できないようだな!!」

 

夏油「兵器()凄いよね、私もよく分かる。」

 

 

 実際に指揮している状況下、そして直接戦ったうえで、モダニアの粒子砲の強さはよく分かっていると反応を示す夏油。そして、右手の人差し指をこめかみをつつくようなジェスチャーで、トーカティブに伝える。

 

 

夏油「可哀想だから教えてあげるけど。いくら良いパーツを付けた所で、それを操るCPUが低いと性能を持て余すだけなんだよ。」

 

トーカティブ「ここまでくると哀れみすら感じられるな、いくら吠えたところで何も変わらないというのに。

 出来るものなら、この攻撃を押し返して見るがいい!!

 ハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 逆にトーカティブは何も出来ない夏油に対し、口が裂けるような笑い声を響かせながら、粒子砲に変化した右腕を夏油たちに向ける。トーカティブの胸部から、赤い光が血流のように脈動し、右腕の砲口に収束し始める。

 

 最早発射を止められない状況下になったが、それでも夏油は毅然とした態度でトーカティブを見据えながら答える。

 

 

夏油「では、押し返そう。」

 

 

 笑い声を上げていたトーカティブには聞こえなかったが、ラピたちにはしっかりと攻撃を跳ね返すと聞こえた。マリアンは一体どのような手段で攻撃を跳ね返すのか固唾を飲んで見守り、ラピ、アニス、ネオン、スノーホワイトはアルトアイゼンのように反射する怪物で粒子砲を跳ね返すのかと考えていた。

 

 しかし、ラピたちもその考えが間違っていると改める。右手を前に突き出して広げず、人差し指を天に掲げた。この行動に全く分からないラピたちも、どうなるのかと思考が駆け巡る。

 

 

夏油(直線の攻撃ならあの呪霊で反射できる。しかし、それは許容範囲内であればの話だ。

 確証は無いが例え呪力強化しても、長時間継続して攻撃が続けば、呪霊が先に負けるリスクがある...)

 

 

 アルトアイゼンは反射した攻撃の影響で、機体が大きく揺れて粒子砲の攻撃は中断された。しかし、今回の場合はそうはいかない、反射すれば粒子砲の押し合いになることから、長時間トーカティブの攻撃に耐える必要がある。

 

 そうなれば、呪霊側が先に耐久負けする可能性があることから、反射するという手段は最初から無かった。

 

 

夏油(方法は一つ。強い火力には...)

 

 

 

(更に強い火力で押し潰す。)

 

 

 呪術戦には奥義が存在する。一つは呪術戦の極致であり、生得術式の最終段階、術式を付与した生得領域を呪力で具現化して敵を閉じ込める『領域展開』。この奥義を習得できるかどうかは、その術師が生まれながら持つ天性の才によって成せる技。呪術の世界で、才能が8割と言われる所以とも言えるのが、最高到達点である領域展開であるだろう。

 

 そしてもう一つ、各術式の発想を拡張する事で、術師はオリジナルの技を獲得できる。相伝の術式であれば、歴代の術者が練り上げた様々な技も継承され、その中で『領域展開』を除く、それぞれの術式における奥義ともいうべきものを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪霊操術

 

 

極ノ番

 

 

『うずまき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油の指の先から黒い瘴気を纏ったどす黒い怪物が、中心に集まり圧縮されながらうずまきのように、巨大な怪物の塊を形成していく。その大きさは、巨大な体を持つトーカティブの数倍超えるモノ、嘗て呪術高専で放ったモノより規模が大きく、加えて反転術式による治癒と黒閃による呪力操作の最適化によってその威力は計り知れない。

 

 トーカティブも一応見えている、第一印象は不快だった。人間の悪感情を鍋に放り込んで煮詰めたモノを、搔き集めて一つにした不快感の塊だ。どす黒い瘴気で輪郭は見えないが、自分を優に飲み込める巨大な球体という事は分かる。

 

 

トーカティブ「消えろォ゛オ゛オ゛ア゛!!!!!」

 

 

 これ以上自分の視界に醜悪の塊を見たくないのか、怒号と共に粒子砲を発射する。これを迎え撃つように、夏油も指先をトーカティブに向けて、うずまきが一瞬小さく縮小して怪物が群れを成してトーカティブに向かっていく。

 

 両者の攻撃が衝突し、辺り一面を更地にするかの勢いで地面を抉り、衝突によって生まれた突風が砂埃をまき散らす。ラピたちは地面に伏せて衝撃に備える中、最後まで立っている夏油の体が、白い光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の総力戦に参加していた全部隊から、このように報告された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モダニアの交戦地に光の柱が空に昇った。』




 次回、いよいよ8章完結になります。この章だけ後半ボリュームが多くなってしまい本当申し訳ありませんでした。8章最終回は2日後の6時に公開されます。











マリアン「心という牢獄で、ずっと夢を見ていました。」

マリアン「こんな状況でも、いつか叶うことが出来るなら、指揮官に、ラピに、アニスに、皆に逢いたい。」

マリアン「ごめんなさいとしっかりと謝りたい。」

マリアン「そんな夢を打ち砕くように、私はモダニアになった。」

マリアン「私の知らない人たちが、私の顔をした存在によって生きたままバラバラにされる。」

マリアン「その光景を、ずっと見せられていた。」

マリアン「いくら叩いても、その暴虐は止まらず、凄惨な光景を来る日も来る日も見る事しか出来なかった。」

マリアン「淡い希望が、深い絶望になって突き落とし、私の心は負けて意識を閉じようとしていた。」

マリアン「あの人が来るまでは。」

マリアン「次回。 帰還報告(デブリーフィング)

マリアン「私は、指揮官を信じます。」
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