荒廃した砂漠の中、右半身を失った肉体に鞭を打って、血を流しながら地面に這いずった軌跡を刻みつけ、戦場から離れていた。背後には先ほどまで立っていた戦地があり、更地だった場所にクレーターが形成されていた。
突風によって巻き上がった土塊が、砂埃となり霧のように立ち込んでいる。もう振り返らず、残った左半身で前進し続けながら、撃ち合った時の事を思い返していた。
トーカティブ「何だったのだ...あの力は...。」
あまりに現実から逸脱した夏油の力に、困惑し続けながらも退却しているトーカティブ。黒い血液を流しながらも、今回の戦いから考えを改める事にした。
トーカティブ「今度戦う時は...奴を人間とは考えない...。
次こそは...次こそは必ず...!?」
突如トーカティブの動きが止まる。
頭を押さえ付けられているような感覚を通して、状況を確認しようと押さえつけている存在を目にする。白を基調とした服装で巨大な砲身を手にしており、脚で頭を抑えながら銃口を向けている。よく知っている人物だ。
スノーホワイト「次なんて無い、お前はここで終わりだ。」
その姿を見て絶叫を上げる前に、スノーホワイトの対艦ライフルが轟音を響かせる。叫ぶ前に頭を撃ち抜かれたトーカティブは、完全に機能を停止したのかピクリとも動かなくなった。
硝煙が立っている対艦ライフルを降ろして、トーカティブから数歩離れるスノーホワイト。すると後ろから足音が近づき、こちらに声をかけてくる。
夏油「終わったかい?」
スノーホワイト「ああ、すまなかった。
止めると豪語したが、このざまだ。」
夏油「構わないさ、こちらも色々助けて貰ったんだ。
これでようやく恩は返せた。」
声をかけてきた夏油は、トーカティブとの決着が着いたのか確認を取りに来て、スノーホワイトは答えながら食い止められなかったことを謝罪する。その謝罪に夏油は、北部での任務後にアンチェインドを渡して貰ったことを感謝していた。
トーカティブの亡骸を一瞥して、今後どうするのかと尋ねる。
夏油「これからどうするんだい?」
スノーホワイト「トーカティブとモダニアはあくまで、ラプチャーを生み出した元凶、クイーンに仕える一幹部、タイラント級で会話できる個体はトーカティブだけだ。
だがヘレティックはまだ存在する。」
夏油「地下基地にあった破片も、モダニアとは別のヘレティックだったからね。
地上にいるヘレティックを全員倒して、いずれはクイーンを倒すのかい?」
スノーホワイト「その時が来るまで、私
地上に点在しているであろう、モダニアと地下で見つかったマテリアルHの本体を除いた、ヘレティックを葬りに行く為、これからも地上を奔走すると、スノーホワイトは告げる。今回の作戦で戦ったモダニア、そしてアブソルートとメティスが戦ったマテリアルHの本体、スノーホワイトの言及でヘレティックは複数体存在すると分かった。
二人がヘレティックについて話している中、背後から声が聞こえてくる。
マリアン「しきかーん!! お怪我はありませんか~!!」
夏油「私は問題ない、君は?」
マリアン「大丈夫です、凄い突風でビックリしちゃいましたが、負傷箇所はありません。」
夏油「それは良かった。」
スノーホワイト「......」
撃ち合った際の余波によって、負傷していないか不安になったマリアンが、夏油に手を振りながら駆け出していた。二人が話している様子を、スノーホワイトは静かに見つめ、声を掛ける。
スノーホワイト「マリアン...だったか。」
マリアン「はい? えっと...貴方は?」
スノーホワイト「スノーホワイトだ。」
マリアン「初めまして...」
ぺこりと頭を下げ少々緊張しているマリアンを見て、モダニアの気配が微塵もないと確認して、ゆっくりと真剣に話し始める。
スノーホワイト「お前はこの地上で初めて、ヘレティックからニケになった存在だ。」
マリアン「そうなんですか?」
スノーホワイト「その体には、人類ではまだ到達していない未知の技術が詰め込まれている。」
夏油「......」
スノーホワイト「その技術を手に入れる為に、あらゆる手段でお前を開こうとするだろう。」
話の話題は、ヘレティックの肉体の希少性についてだった。地下基地でようやくヘレティックの一部を手に入れたアークだが、今回の作戦でマリアンというヘレティックの肉体を持つニケが手に入る。
会話による意思疎通が可能なトーカティブでさえ、未知の技術の結晶であることから、ヘレティックの希少性は計り知れない。故に地上を奪還する対抗手段として、マリアンの体を解剖しようとする人物がいることを、スノーホワイトは危惧していた。
スノーホワイト「だが、お前の周りには、お前を信じて、一緒に戦ってくれる強い仲間がいる。
その繋いでくれた手を、決して離すな。」
しかし、スノーホワイトはマリアンから夏油に視線を向けて、ラピやアニスにネオン、頼れる仲間がいる事を伝えた。表情は変わらず真剣だが、彼女なりにマリアンを激励したのだろう。
マリアンは目を見開き、頭を下げて感謝を伝える。その姿を見た姿を見たスノーホワイトは、真剣だった表情が崩れて笑みを浮かべる。
マリアン「ありがとうございますっ!」
スノーホワイト「いい返事だ。...もう行く。」
夏油「そうか、ラピたちには私から伝えておくよ。また地上の何処かで会おう。」
スノーホワイト「何かあったら連絡してくれ、通信できないかもしれないが目を通す。」
夏油「分かった。」
出発の支度を始めるスノーホワイトに、別れを伝える夏油。有事の際に対処できるよう端末を取り出したスノーホワイトは、夏油と連絡先を交換して移動を始める。
スノーホワイト「また地上に会う機会が出来たら、ご馳走を振る舞って貰うぞ。」
夏油「?? 何でまた???」
スノーホワイト「詳しい話は真人に聞け。」
そう言ってスノーホワイトは、夏油たちに背を向けて去っていった。同時に夏油たちの背後からアニスとネオンの声が聞こえ、マリアンと夏油は振り返る。振り返った先には、アニスとネオンがラピに肩を貸してこっちに歩いていた。
アニス「指揮官様~!!」
ネオン「師匠~!!」
夏油「皆、怪我は?」
アニス「モーマンタイ。」
ネオン「元気ですよ!」
ラピ「内蔵されている機能の使用で体が高温になっています。戻ったら冷却水が必要です。」
夏油「分かった、じゃあ直ぐに戻ろう。」
ラピ「ラジャー。」
マリアン「了解です。」
全員の状況確認を終えた夏油は、来た道を歩き始めて撤収を始める。夏油に続いていくように移動する中、ラピはスノーホワイトがいないことについて訊ねる。
ラピ「指揮官、スノーホワイトは何処に?」
夏油「何処かに行ったよ。地上でまだやる事があるらしい。」
ネオン「また会えますかね?」
夏油「会えるさ。」
アニス「......あ。」
マリアン「どうしたんですか? アニス。」
スノーホワイトについての話題の中、アニスはハッと思い出したかのような反応を見せ、マリアン以外もどうしたのかと意識をアニスが移る。そして当のアニスは、夏油に説明を求める。
アニス「そう言えば約束したよね? この一件が終わったら指揮官様の力について話すって!」
ネオン「そう言えばそうですね。」
マリアン「指揮官の力って...イカとかタコとかいっぱい出る力の事ですか?」
アニス「そう! 作戦が始まる前に約束したのよ!」
夏油「そうだね...歩きながら話そうか。」
作戦が始まる前に、モダニアの総力戦が終わった際には、夏油の不可解な力について歩きながら話すことに決めた夏油。ラピはアンダーソンやイングリッドという、アークでも力がある2人に絞っていることから、情報は機密にしたいと考えており、ここで話してもいいのかと問う。
ラピ「宜しいのですか? 機密なのですよね??」
夏油「シフティーとの通信は回復しない状態が続いているし、このまま話しても......」
マリアン「? 指揮官??」
ラピの質問に答えていた夏油だが、進んでいた足を急に止めて前を見つける。立ち止まった夏油にラピたちも立ち止まって、様子を伺うマリアン。すると夏油はアニスたちに向けて告げる。
夏油「話は宿所に帰ったらしよう。」
アニス「ええ~? なんで!?」
ネオン「私は今聞きたいんですけど!!」
アニス「私も!私も!!」
マリアン「まあまあアニス、ネオン。まずは指揮官の話を聞きましょう?」
急に帰ったら伝えると決めた夏油に、何故なのか分からないアニスとネオンは問い詰めて、マリアンはオロオロしながら二人を宥めて理由を聞こうとし、ラピは夏油が見ていた視線の先を見る。
再び視線を前に向けて、その方向に指を指す。
夏油「お迎えが来たからね。」
聞き覚えのある甲高い汽笛が耳に届く、この音を聞いたアニスとネオンは思わず振り返る。視線の先には、ラプチャーを轢き潰していた列車、AZXが此方に向かって来ていた。
ディーゼル「特急列車AZX、スタビライザーが故障する事態に陥りましたが、無事に運行再開しました〜
終点はアークになっておりま〜す、カウンターズの皆さんはその場でお待ち下さ〜い。」
ディーゼルがアナウンス越しに、アークに連れて行ける事を夏油たちに伝える。ラピたちは夏油の意図を理解して了承した。
アニス「まあ、仕方ないわね。帰ってゆっくり聞きましょ。」
ネオン「そうですね、すみませ〜ん! 冷却水ってありますか~!」
そう言ってアニスとネオンは、ラピに肩を貸したままAZXの方に向かって冷却水が積んであるか訪ねる。夏油もラピたちに続こうとして歩くが、マリアンがじっと立ち止まっていると気付き振り返る。
夏油「どうしたんだい?」
マリアン「......未だに信じられないんです。こうやって助かっている事が...
今この瞬間に、これまでの出来事が夢になってしまうんじゃないかって、不安なんです。」
自分が助かっているこの出来事全てが夢幻で、踏み出したらまた心の奥底で幽閉されているのではないかと、マリアンは不安になっていた。幻で終わってしまうことに酷く怯えている様子を見て、夏油はマリアンに言い聞かせる。
夏油「現実だ、助かった事も、今こうして話している事も、全て。」
マリアン「指揮官...」
全て夢ではない事を、夏油自身を以て証明する。それでも不安を拭えないマリアンは踏み出せずにいる中、ゆっくりとマリアンに近づいて手を差し伸べる。
夏油「怖くて踏み出せないなら、私が手を繋いで並んで歩こう。
もう二度と、あんな怖い思いをさせない。」
マリアン「っ...。」
マリアンの目尻に再び涙が浮かんでいく、彼女自身も気付いたのか顔が隠れる程、両手で必死に涙を拭ってぽつりと雫がこぼれていく。
夏油「さあ、帰ろう。...マリアン。」
マリアン「...はいっ!」
差し伸べられた手をしっかりと握りしめて、マリアンは共にAZXに向かって歩き始める。長きにわたって心の牢獄によって見せられてきた地獄は、今幕を閉じた。
アークに戻った夏油たちは、アンダーソンがいる副指令室に向かい、作戦が完了した報告を行っていた。副指令室にはアンダーソンとイングリッドがおり、共に夏油の帰還を待っていた。
アンダーソン「戻ったか。」
夏油「はい。特殊別働隊、只今帰還しました。
これより作戦の報告を...」
イングリッド「いや、口頭での報告は書類と合わせて行ってもらう。
お前たちを見て、作戦の結果が分かるからな。」
そう言ってアンダーソンとイングリッドは、カウンターズに所属していないマリアンに目を向けて、作戦結果を察し報告書と共に正式に事の顛末を聞くことにした。椅子に腰かけていたアンダーソンは立ち上がり、今回の作戦で大役を務めた夏油たちに労いの言葉をかける。
アンダーソン「今回の総力戦、タイラント級 特殊個体 トーカティブ、並びにヘレティック モダニアの撃破。
加えて、元シルバーガン分隊所属 マリアンの救助、本当にご苦労だった。作戦は大勝、大成功だった。」
夏油「ありがとうございます。」
アンダーソン「詳しい作戦結果は、また後日改めて報告書と共に説明してくれ。
それからマリアンは、カウンターズ分隊に配属、君に彼女を任せよう。」
夏油「了解しました。」
作戦結果に付け足すように、報告書を作成して提出することと、マリアンの配属先をカウンターズに決定し、夏油に任せるように指示を出す。この判断に一切の不満無く了承し、頷いたアンダーソンは作戦結果の報告を終了させる。
アンダーソン「報告書の作成と戦いの疲労回復の為に、二ヶ月の休養を与える。
本当にご苦労だった。」
夏油「ありがとうございます。失礼しました。」
そう言って副指令室の扉を閉めて去っていく夏油たち、アンダーソンは再び椅子に腰を降ろし、イングリッドは机の隣に立っていた。夏油と入れ替わるように、ホログラムの画面が表示されて、シフティーが今回の作戦についての説明を求めていた。
シフティー「報告しなくていいんですか? 今回の作戦、主にモダニアですが不明確な点が多すぎます。
モダニアの戦闘開始直後からAZXに乗車するまで、カウンターズのモニターが出来なかったんです。
出来ればその期間の簡易的な説明だけでも...」
イングリッド「帰って早々、直ぐ報告させる訳にもいかないだろう。」
シフティー「しかし戦闘後の調査で、現れた筈のトーカティブが何処にも見当たらなかったんですよ?」
アンダーソン「心配するな、直ぐに報告しに来る。
それに、今彼らには時間が必要だ。無論我々も。」
シフティーに伝えた後、机の端末から被害状況を数値化した資料に目を向ける。想定以上に被害は軽微になったが、それでもしばらく作戦できる状況でもなく、各分隊が万全の状態までに立て直す必要がある。
地下基地爆発を担当したアブソルートとカフェ・スウィーティー分隊の被害はほぼ無し、被害が甚大なのは量産型を主軸とした地上部隊であり、良くて体の殆どが無く、最悪で頭だけの状態のニケまでいた。戦闘中にラプチャーが一斉にモダニアの場所まで移動を開始したことから、戦死者はいなかったのが唯一の救いである。
アンダーソン「シフティー君、復帰の目途は何時までだ?」
シフティー「恐らく、一ヶ月あれば総力戦前の状況に戻せます。」
アンダーソン「そうか、ご苦労だった。」
シフティー「はい、失礼します。」
端末の画面から表示されていたシフティーのホログラムが消えて、肩で溜息を零しながら視線をイングリッドに移り、今後どう動くべきかを議論する。
アンダーソン「一ヶ月もあれば、戦力は復帰する。か...」
イングリッド「
アンダーソン「アーマーが取り除かれて弱体化しているとはいえ、素体はヘレティック。
彼女がアーク内で戦闘する危険性を再認識してもらい、任務に復帰した時にしっかりと制御できていることを見せつける必要がある。」
彼女、マリアンはニケとして戻ったが、その肉体はヘレティックとして残っている。
その危険性は未知数であり、その危険性も考慮せずに接触する事態を避ける為に、戦力が復帰した後のもう一ヶ月をマリアンの戦闘力を慎重に分析するよう説き伏せることに決定した。
イングリッド「戦闘経験のあるメティスは完全に機能を停止し、対抗できるのはアブソルートぐらいか。戦力復帰後の一ヶ月を彼女の戦闘力把握として設けるか?」
アンダーソン「そうだな。彼らには悪いが、休養中に彼女のメンテナンスを兼ねて戦闘力テストするとしよう。
何としても彼らに牙を向くような事態は避けたい。」
イングリッド「私も協力しよう。」
アンダーソン「よろしく頼む。」
そう言って直ぐに行動に移すべく、アンダーソンはもう一度腰を上げて退室する為に、扉の前に向かう。扉の取っ手を掴んだ時、ふと後ろを振り返ってみる。
何てことなく、ただ文献や資料が収納されている何の変哲もない本棚を見て、微笑む。その様子を見てイングリットは頭を傾げて訪ねる。
イングリッド「? どうした??」
アンダーソン「いや、何でもない。」
何てことのない普通の本棚に目を向けたが、直ぐに部屋を出ていく。彼が振り返った本棚からは、以前のように視線を感じることは無くなっていた。
副指令室を後にした夏油たちは、アークの街中で歩きながら夕食の献立を考えていた。
夏油「そういえば、夕食は何にするか決まったかい?」
アニス「それなんだけど、夕食はマリアンが決めるってことにしたの!」
マリアン「私は皆のリクエストでも良かったんですけど...」
ネオン「もう! 今回の主役はマリアンなんですよ! 私たちを気遣わなくてもいいんですよ?」
ラピ「指揮官も、私たちも、貴方を助ける為に戦ってきた。
でも一番頑張ったのは、今までずっと耐えてきた貴方よ。」
マリアン「皆さん...ありがとうございます。」
今までずっと精神的な苦痛を受けてきた彼女に、ラピたちは労いの言葉をかけていく。マリアンは深々と頭を下げ感謝を伝えて、夕食のメニューについて考え始める。
考えているマリアンに、アニスがメニューの例を提示する。
アニス「そうそうマリアン! 指揮官様って、自炊できるのよ...!」
マリアン「そうなんですか!?」
ネオン「事実です、師匠のご飯はどれも美味しいですよ?」
夏油「店レベルの味は出せないよ?」
謙遜する夏油に肘をついて「またまたぁ~」と言うアニス、ネオンも腕を組んで今まで食べてきた料理の感想をマリアンに伝える。ラピも料理の味は美味いと太鼓判を押して、マリアンは今思い浮かぶ食べたい料理の名前を口にする。
マリアン「じゃあ...オムライスを...」
アニス「指揮官様~! 夕食はオムライス!!」
夏油「オムライスか...卵が丁度切れた筈。」
ラピ「この交差点の先にスーパーがあります。」
夏油「じゃあそこで食材を調達しようか。」
ネオン「了解です!」
アニス「指揮官様! 炭酸水追加で買っていい!?」
夏油たちが和気あいあいと、夕食について考えてスーパーに続く交差点の前で立ち止まった。
????「...帰るぞ。」
後ろから見ていた1人が背を向けて、夏油たちの向いている方向とは逆に進む。声もかけずに帰る1人を2人は止める。
??「何も言わずに帰るの~?」
?????「せ、せめて挨拶だけでも...」
????「行っても邪魔なだけだ。」
赤と黒を基調とした服を身につけた3人、作戦に参加していたアブソルートの面々が、夏油たちの様子を伺っていた。
エマ「あら? 気配りできるようになったのね~♪」
ベスティー「ウ、ウンファは優しいね。」
ウンファ「さっさと行くぞ。」
エマとベスティーの言葉を聞き流すように、スタスタと去っていくウンファ。残された2人は追いかけるように後を追う。
エマ「待って~。」
ベスティー「お、置いて行かないで...」
交差点の信号が青に変わった時、ラピは後ろを振り返る。誰かが見ていたような気がしていたが、気のせいだと考えてスーパーに向けて歩き出していく。
スーパー店内で夕食の材料を調達していた中、夏油の背中に指が触れてなぞるように動き、咄嗟に後ろを振り返る。ミハラとユニが真後ろに立っていた。
夏油「っ!?」
ユニ「指揮官~!」
ミハラ「こんにちは、夏油君。」
夏油「今度からは普通に声をかけてくれませんか...」
ミハラ「ふふっ♡善処するわね。」
ラピたちも振り返ってミハラとユニに挨拶し、マリアンは親しい間柄だと察して自己紹介する。
マリアン「初めまして、マリアンといいます。」
ペコリと頭を下げて自己紹介するマリアンを見て、見かけないニケから件のヘレティックになったニケだと察したミハラは、マリアンに自己紹介してユニも続く。
ミハラ「そう、貴方が...初めまして、私はミハラ。」
ユニ「私はユニ、よろしくね。」
マリアン「はい、よろしくお願いします。」
お互いの自己紹介を終えた後、ミハラは何故任務後にスーパーを訪れたのか理由を聞く。
ミハラ「そう言えば貴方たちは総力戦に参加していたわよね?
何でスーパーに??」
ネオン「実はこの後、宿所で祝勝会を開くんですよ!」
ユニ「お祝い?」
アニス「そう! マリアンの配属も兼ねたお祝い。
それで夕食が決まったから、材料を買いに来たの。」
総力戦は激戦になると噂で聞いていたミハラは、夏油たちの言葉から勝利したこと、そして祝いを上げるという理由を聞いて納得した。
アニス「良かったら2人も来る? 多い方が楽しいし!」
ユニ「いいの?」
ネオン「ええ! 勿論ですよ!!」
アニスは総力戦前にミハラとユニが傷心していたことを思い出し、気遣って祝勝会に誘う。ユニは恐る恐る訪ねて、ネオンは歓迎するようにユニの問いに答える。
しかしミハラは、2人の誘いを優しく断る。
ミハラ「ありがとうね。でも遠慮しておくわ。」
ネオン「何でですか!? 師匠の料理美味しいですよ!!」
ユニ「美味しいの!?」
ミハラ「手作りご飯も気になるけど、今度こっちから連絡するわ。」
ラピ「いいの?」
ミハラ「いいのよ、彼女と積もる話があるんでしょ?
大丈夫、近いうちにまた声を掛けるわ。」
夏油「では、翌日からそちらの都合のいい日にまた連絡を下さい。
今日から二ヶ月ほど休暇を頂いたので。」
ミハラ「分かったわ。」
マリアンが戻ってきたことを気遣って、ミハラはまた日を改めて夏油たちを誘う様に決める。ユニもミハラの判断に意義は無く了承する。
ミハラ「ユニもそれでいい?」
ユニ「うん、大丈夫...あ。」
夏油「? どうしたんだい??」
ユニ「お祝いを開くんだよね??」
ラピ「そうだけど...?」
ユニ「じゃあケーキを買ったら? ここのスーパーのケーキってとっても美味しいんだよ!」
マリアン「そうなんですか...」
お祝いすることを改めて聞いたうえで、このスーパーのケーキを買うことをオススメするユニ。曰くとても美味しいと言って、マリアンは無意識に唾をゴクリと飲み込む。
アニスとネオンは真っ先に夏油の両腕に組み付いてどうするのか聞く。
アニス「指揮官様~?」
ネオン「師匠!」
夏油「分かったよ、一応お祝いだからね。」
アニス・ネオン「「やったぁー!!」」
マリアン「いいんですか? そこまでして貰って...」
夏油「大丈夫、お祝いにケーキは付き物だ。
教えてくれてありがとうユニ。この後寄ってみるよ。」
ユニ「うん!」
ミハラ「それじゃあ、また会いましょう。」
一足先にミハラとユニはレジの方に進み、買い物籠にある商品の会計を済ませてスーパーを後にする。ユニはミハラと手をつないで歩きながら話す。
ユニ「ミハラ。」
ミハラ「何? ユニ。」
ユニ「指揮官、とっても嬉しそうだったね。」
ミハラ「そうね、とっても綺麗な笑顔だったわ。」
以前会った時は表面上取り繕うような笑顔だったが、今日会った時の顔は素の表情のように感じられた。その表情をユニの話を聞いて思い返すミハラ。
ユニ「ミハラ、指揮官のご飯ってどのぐらい美味しいのかな?」
ミハラ「どのぐらい美味しいのかしらね? お菓子とかも作れるのかしら??」
ユニ「お菓子作れるなら、ユニは指揮官のケーキを食べてみたい!」
ミハラ「ふふっ、今度聞いてみましょう。」
ユニ「うん!」
話題は直ぐに夏油の手料理に移り変わり、菓子の調理も出来るのかとミハラが呟き、ユニがはしゃいで想像を膨らませながら待ち遠しく感じる。元気なユニの反応を見て、ミハラは手を繋ぎながら並んで帰路を歩いていく。
スーパーの買い物を済ませて、前哨基地に向かっている道中、夏油たちは反響するバイクの排気音と共に声を掛けられる。
????「お帰り。」
夏油「シュガー、そっちもお疲れ様。」
シュガー「うん。」
アニス「燃料はちゃんと補給できたの?」
シュガー「バイクを押しながら帰った、アークに到着してようやく燃料補給できたの。」
ネオン「あの道のりを押しながら帰ったんですか...」
マリアン「お疲れ様です。」
ブラックタイフーンにから降りて、手押しで歩いているシュガーと並んで談笑している中、シュガーに向かって叫ぶように声を掛ける人が前にいた。全体的に白が多く、手を振って声を掛けている。
ミルク「おいシュガー! 客を連れて来たのか!?」
シュガー「違う、たまたま会ったから声を掛けただけ。」
ミルク「違うのかよ!?」
夏油「確かカフェを営んでいるんだよね? 折角だから一杯貰おうかな?」
アニス「え゛っ゛」
ミルク「おっ? ホントか!?」
夏油「折角立ち寄ったから一杯頂くよ。」
夏油の言葉を聞いて、ミルクは店に向かって駆け出していき、カウンターに入り注文を受ける準備を整える。マリアンはアニスの動揺に疑問を浮かべて、何故そんな反応を示したのか理由を尋ねる。
マリアン「アニス、さっき凄い動揺しているように見えたんですけど...」
ネオン「どうかしたんですか?」
アニス「まぁ、見てれば分かるわ...。」
ネオン・マリアン「「???」」
ミルク「これがメニューだ、じっくり考えてくれ。」
アニスの反応を見ても解消されなかったネオンとマリアンは頭を傾げている中、ミルクは夏油にメニューを手渡してそのラインナップをざっくり見る。...いや、じっくり見ていた。メニューに載っている項目がコーヒーの三種類しか無いからだ。
受け取ってメニューを目にして一秒ほど固まった後、思わず名前を口で発声し全くどんなコーヒーか見当が付かない物に頭を傾げていた。
夏油「ありがとう。メニューは...ミルクコーヒー、プリムコーヒー、シュガーコーヒー...?」
(シュガーは砂糖、ミルクは牛乳が入っていると大体分かるが...プリムコーヒー???)
ラピ「指揮官は何にしますか?」
夏油「じゃあ、シュガーコーヒーを。」
アニス「私はミルクで。」
ネオン「私も同じく。」
マリアン「私もシュガーで...」
ラピ「私はプリムコーヒーをお願い。」
ミルク「ああ! 五人分だな!」
ミルクは夏油に手を差し出して会計を求めるジェスチャーを伝え、夏油は胸ポケットの財布からクレジットをミルクに手渡す。ミルクは受け取って背後にある夏油と同じくらいの機械に向かい、緑色に光るパネルにクレジットをかざして青色に発光する。
機械のボタンを押す度に、ガタンという音を鳴らしていき、これを計5回繰り返してスチール製缶をカウンターに出して、クレジットを夏油に返す。
.........撤回する。機械ではない、自動販売機だ。
マリアン「自動...販売機...??」
シュガー「そう。自動販売機。」
ネオン「バリスタみたいにエスプレッソマシンとか使わないんですか??」
ミルク「そうだ、ウチはいつもこれで経営しているぞ?」
ラピ「さっきのアニスの反応は...」
アニス「そう、自販機のコーヒーを出しているからなの。
味は美味しいって聞いたけど...」
ミルク「文句言う前に、先ずはウチのコーヒー飲んでからだ。」
夏油「ああ...頂くよ。」
そう言って缶の蓋を開けてコーヒーを喉に流し込んでいく、シュガーとミルクは夏油の予想通りに砂糖とミルクが入っている。が、シュガーコーヒーの方はかなり甘く、コーヒーのアクセントである苦みが全くせず、対してミルクコーヒーは苦みは感じられるが使っている牛乳本来の甘さが強く、それぞれ主役はコーヒーではなく砂糖と牛乳だと分かる。
そしてプリムコーヒーは、植物性クリーミングパウダー含まれており、コーヒーの苦味と酸味を和らげ、まろやか且つ深いコクが味わえる。自動販売機から取り出すという点は引っかかるが、どれも個性がある味を確立しており、商品として出しても申し分無いくらい美味しい。
マリアン「これ凄く甘いですね...コーヒーじゃないみたいです。」
シュガー「でも美味しいでしょ?」
ラピ「...酸味と苦みが感じられない...味が深いわ。」
ネオン「コーヒーの苦みが苦手でしたが、これなら美味しく飲めますね!」
アニス「これシャワー上がりに飲みたいわ。」
ミルク「そうだろう、そうだろう!」
腕を組んで強くうなずくミルクは、ラピたちの賛辞を受け取って得意げになる。一方夏油はシュガーコーヒーをひと口飲んでから、シュガーコーヒーの缶を見つめ続けている。
夏油「そんなに砂糖を入れたらコーヒーの味が分からなくなるだろう。」
五条「別にコーヒー好きでも無いし、糖分摂取すると頭の回転が良くなんの。」
夏油「まあ確かに、今回の任務はかなり頭を酷使したね。」
五条「お陰で余計に脳みそにリソース割くことになったよな、やっぱり建物ごとぶっ壊して祓った方が良かっただろ。」
夏油「悟、言っただろう? あの建物は出来るだけ傷を付けないように残してくれって。
それなのに、君は直ぐに更地にしようと...」
五条「分かった分かった。ったく、頭がダルくて今日は動きたくねぇ...さっさと帰るぞ傑。」
夏油「はぁ...そうだな。私も早く帰って休もう。」
ある任務で呪いの巣窟となった建物に住み着いた呪霊を祓った時のことを思い出しており、その帰り道でブラックコーヒーを頼んだ五条が、何杯も砂糖を入れていた事を思い出していた。
一口飲んで固まっている夏油を見て、マリアンは声をかける。
マリアン「指揮官? 大丈夫ですか?」
夏油「!...ああ、大丈夫だ。」
シュガー「どう? 美味しい??」
夏油「ああ、とても美味しい。」
何処か懐かしみを感じる表情で、夏油はシュガーに向けて一言の感想を述べる。シュガーもその表情から、少し笑みを浮かべて頷く。
それ以上に話す事は無く、夏油たちは缶コーヒーを飲みながら前哨基地に向かっていった。
ミルク「あれが特殊別働隊の指揮官か。」
シュガー「そう。」
ミルク「...強ぇのかな?」
シュガー「更生館送りになっても弁護しないよ。」
ミルク「ちょっと気になっただけだ、
ミルクは作戦前のブリーフィングで、資料をチラッと見た程度で、どんな人柄か全く分からない状態で対面した。少し会話したミルクだが、指揮官としてはかなり異質で、カウンターズの面々とかなり親しげな様子を見せていた。
ミルク「今時あんな指揮官がいるのか。」
シュガー「でも、悪い気はしない。」
ミルク「だな。おーいプリム、起きろー。そろそろ店開くぞー。」
プリム「zzz...有給使いたい...」
店のスタッフルームで熟睡していたプリムが、ミルクの呼びかけで目を覚まし、まだ眠り足りないのか愚痴を溢した後に二度寝を始める。シュガーはブラックタイフーンをガレージに移動させ、直ぐに開店の準備に取り掛かる。
カフェ・スウィーティー分隊のコーヒーを堪能しながら宿所に戻り、全員はシャワーで体を洗い流し、任務で汚れた体を綺麗にしていた。体を洗い流した後、夏油は手早くオムライスの調理に取り掛かり、アニス、ネオン、マリアンはその手際に目を丸くしていた。
マリアン「本当に料理が上手なんですね...」
夏油「自炊していた時期があってね、それに外食するより食材を買って調理する方が安い。」
アニス「指揮官様って以前は主夫とかやってた?」
夏油「私は独身だよ。」
ネオン「シングルファーザーなんですね!」
ラピ「それだと離婚してることになってるわ。」
夏油「いや、子供はいたよ。」
アニス「へっ!?」
夏油「2人の孤児を育てていたんだ。」
アニス「ほっ...」
マリアン「何かお手伝いできる事はありますか?」
アニスたちの質問に答えながら、1人調理している夏油に申し訳無さを感じたのか、マリアンは夏油に尋ねて何か出来る事をしようとする。夏油はソースを作りながら、マリアンに食事の準備を頼む。
夏油「じゃあ、食器の準備をお願いしても良いかな? 食器棚はそこの引き出しにある。」
マリアン「分かりました。」
ラピ「私も手伝うわ。」
マリアン「ありがとう、ラピ。」
ネオン「師匠! 私たちは!?」
夏油「冷蔵庫にジュースとか買い足したから、各々好きな物をテーブルに出してくれ。」
ネオン「イエッサー!」
アニス「あっ! 新しい炭酸水!!」
ネオン「ラピとマリアンは何飲みますか?」
ラピ「貴方たちに任せるわ。」
マリアン「私もネオンとアニスに任せます。」
アニス「じゃあラピはりんごジュース、マリアンはメロンソーダね。」
ラピとマリアンは机と夏油に食器、アニスとネオンは冷蔵庫からジュースを取り出して、それぞれ座る場所に合わせて机に置いていく。夏油も調理が終わってオムライスを机に置いていき、食べたい気持ちをグッと堪えてコップにジュースを注いでいく。
ネオン「準備完了しました!」
ラピ「早速頂きましょうか。」
夏油「そうしよう。」
アニス「ちょっと待った。」
マリアン「どうしたんですか? アニス。」
アニス「指揮官様、乾杯の音頭取ってよ。」
夏油「私が?」
ネオン「そうですよ、師匠が一番頑張って助けたんですよ?」
アニスが乾杯をしようと提案し、その音頭を夏油に推薦した。その提案にネオンは賛成して首を縦に振る。
ラピは夏油に向けて笑みを溢して静かに頷き、マリアンも同様に夏油の乾杯を待っているのか、両手でグラスを持っている。全員の反応を見て、夏油はグラスを持って皆に話し始める。
夏油「分かった。まずマリアン、本当にここまでよく耐えた。
耐え続けて、こうやって助けることが出来た。本当にお疲れ様。」
マリアン「...はい。」
夏油「次にラピ。任務中に何度も助けてくれた事で、今私は生きているしアニスとネオンも命の危機を避けることが出来た。」
ラピ「......」
夏油「そしてアニス。戦場という極限状態で場の雰囲気を和まさせ、私たちの思いや気持ちを代弁してくれて本当に感謝している。」
アニス「う、うん...でも...私は言いたいこと言ってるだけだし...///」
夏油「最後にネオン。君の力があったからこそ、対面したあらゆる窮地も抜け出せることが出来た。」
ネオン「感謝の極みです...」
1人ずつ顔を向けて、感謝の言葉を話していく夏油。各々また涙を流しそうになったり、コクリと頷いて笑顔を向けたり、小っ恥ずかしくなって頬を掻いたり、滝のように涙を流しながら目を閉じて最大限の歓喜を伝えたりと反応する。
そしてグラスをゆっくりと掲げて、夏油に続き同じくグラスを掲げる。
夏油「皆、本当にお疲れ様。こんな私だが、これからもよろしく。
改めて、モダニアとトーカティブの撃破、そしてマリアンの復帰を祝して、乾杯!」
お互いに掲げたグラスを交わし合い、任務の成功とマリアンが戻ってきた事を祝う。朗らかな雰囲気が室内を包み込み、それぞれ笑顔を浮かべながら談笑を交わし、食事する。
夏油も例外では無く。この日、
2ヶ月後、地上の廃墟街を会話を交えながら歩いていた。
アニス「はぁ〜...終わっちゃった...」
夏油「確かに、あっという間に終わったね。」
ラピ「こればかりは仕方ないわ、切り替えていきましょう。」
アニス「分かってるけどやっぱり嫌なのよ...もっと休みを満喫したかったわ...」
アニスは長い休みがあっという間に終わり、こうして任務に復帰した現状を嘆いていた。夏休みや冬休みなどの長期休暇が終わって、別れを惜しんでいる学生の気分と同じ感じだろう。
ネオン「アニスは怠惰ですね〜
私は気兼ね無く、パワーアップした力を存分に発揮する機会を、今か今かと待ち望んでいました!」
アニス「仕事に真面目で羨ましいわ〜」(≖ࡇ≖)
ネオン「それ程でもありませんよ。」
対してネオンはこの長期休暇の間に、武器をカスタマイズして更なる強化を実現。完成したは良いものの、休暇に入って一ヶ月と経たずに完了したせいか、フラストレーションを蓄積しながら休暇の終わりを待ち望んでいた。
マリアン「シミュレーションルームにいたのは、アップグレードした武器のテストだったんですか?」
ネオン「いえ、我慢出来なかったのでストレス発散していただけです。」
マリアン「そ、そうなんですか...」
夏油「ネオンは火力が絡むと全くブレないから。」
休暇中にマリアンが戦闘訓練していた際に、何度も来てはシミュレーションルームを使って、蓄積していたストレスを発散していた。しかし、一ヶ月から始まって半月と経たずネオンの笑顔が消えていたらしいが、彼女曰く、「やっぱ火力をぶつけるなら本物じゃないとダメ!」との事。
夏油「そういえば、シミュレーションで訓練していたそうだけど、何も異常は無かったのかい?」
マリアン「はい。兵装がマシンガンに変わりましたが、戦闘には支障はありません。」
ラピ「もし作戦中に異常があれば、私たちでカバーします。」
アニス「そうね、何かあったら気兼ね無く言ってね。」
ネオン「大船に乗ったつもりでいて下さい!」
マリアン「皆...ありがとうございます。」
ネオンがシミュレーションルームを使っていた事から、休暇中にマリアンが任務に復帰できるように訓練があった事を思い出して、夏油は不調がないか尋ねる。ヘレティックになってから、サブマシンガンからマシンガンに武器が変わっただけで特に変わった事がないと答える。
それでも万が一を考慮して、マリアンが戦闘に参加できなくなった時は、夏油の合図と共にラピたちが援護することになった。夏油たちが会話している中、話を遮るように全員に呼びかける声が耳に届く。
シフティー「お話の最中申し訳ありません、前方100m付近にラプチャーの反応を確認しました。」
夏油「各自、装備チェック。」
シフティーの呼び掛けを聞いて、直ぐに夏油は戦闘準備を始めるべく、ラピたちに装備の確認を取るように指示を出す。夏油の指示を聞いて反射的に武器を手に取って、異常が無いか手早く確認する。
ラピ「異常無し。」
アニス「問題無いわ!」
ネオン「オールオッケーです!」
マリアン「何時でも行けます。」
確認が終わり次第、各々何時でも戦闘に入れる状態に移る。全員の返答を聞いた後、夏油は今回の作戦について改めて説明し始める。
夏油「ブリーフィングでも話したが、今回の任務はマリアンの戦闘力を測る実地試験と、任務に復帰できるかの最終確認だ。
各自戦闘の勘を取り戻して、気づいた事があれば任務終了後に報告して欲しい。
以上だ。」
出撃前に説明した任務の詳細を改めて伝えて、それぞれ戦闘態勢に移り正面にいるであろうラプチャーに意識を向ける。
シフティー「来ます!」
シフティーの声と共に、ラプチャーが瓦礫を破壊しながら現れる。同時にラピたちも武器を構えて、接敵の合図を叫びながら戦闘に入る。
カウンターズがマリアンを救出し、AZXで帰還した同時刻に、スーツケースを持った女性が廊下を歩き続けていた。そして廊下の終点にある両開きの扉をノックする。
???「......」
???「失礼します。」
???「あ、来た?」
???「はい、見ての通り来ました。」
ノックに対して反応が無かった為、扉を開いて声をかける。周囲の環境音など聞こえなかったようで、顔を上げて訪問者を見て待っていたと言わんばかりに話に移る。
???「...
訪問者「確保しました。密かに動いてバレないようにしていたのですが、戻る道中でラプチャーの大軍が押し寄せてもうてんやわんやに」
???「オマエの事なんてどうだっていいわよ、さっさと寄越しなさい。」
依頼主は訪問者の苦労話どころか、興味はスーツケースの中身にしか無く、自分の前の机に置くように指示する。訪問者は依頼者の態度に、自身の感情を露わにする。
訪問者「...チッ、性格の悪いガキ。...どうぞ。」
訪問者は表情を取り繕って机にスーツケースを置き、中身が見えるように回転させて渡す。依頼者はスーツケースを開き、その中にあった物を大事そうに両掌に乗せてじっくりと見つめる。
依頼主「やっと...やっと手に入れた。コレさえあれば...」
また同時刻、地下にあるバーに1人の女性が、カウンターに置かれていたスマホに映っている画面を肴にして鳥の絵が装飾されたウィスキーを嗜んでいた。その女性の後ろから、更に2人の女性が声をかけて来た。
?????「ねぇ!ねぇ!リーダー! 何見てるの!?」
???「面白そうな奴を見つけてな。」
????「その人って、最近有名な指揮官だよね?
就任して何度も死亡率の高い任務から生還してるって聞いたよ~?」
後から来た2人の女性も、カウンターに置かれているスマホの画面を覗き込む。あるネット記事のニュースの一面で、男性の横顔の写真が画面の半分を占めていた。リーダーと呼ばれた女性はウィスキーの入ったグラスを回しながら2人に自身の考えを話す。
???「興味が湧いてな。もしかしたら、この男が遊び相手になってくれるかも知れないぞ?」
その一言を聞いて、一人は目を輝かせながら念押し、もう一人は写真の男をじっくりと見つめて舌なめずりする。
?????「ホント!?」
????「じゃあ、これから忙しくなるね♡」
ウィスキーをカウンターに置いて、2人の反応を見て僅かに口角が上がるリーダー。再び視線をスマホに戻し、喉に酒を流し込む。
???「精々失望させてくれるなよ?」
遂に...遂に8章完結です! ずっとここまで書きたくて今年の五月に始めたら気づけば来年になる所まで時間が経っていました...時間の流れは早いですね、この小説を書いて実感しました。
また、本来はここで完結して幕を下ろそうと思ったのですが...後のストーリーが面白そうなので続ける事になります。投稿が遅れてしまう場合もありますので、その際は随時連絡致します。
来週からまた週一投稿になり、次回は夏油がラピたちに正体を明かし、次々回は総力戦の報告書を載せる形になると思います。