評価点とかUAとか8章の終わり際に凄く増えてる事に驚いています、先の話を考える為にも早くストーリーと小説を書かねば...
約束
祝勝会を開いて、食事を始めた夏油たち、アニスが炭酸水をグイッと喉に流した後、夏油に話しかける。
アニス「さあ指揮官様。早速あの力に関して説明してもらおうじゃない。」
夏油「分かった。話す前に少し待ってね。」
そう言って夏油は持っていたグラスを机に置き、右手を顔の前に出し、親指、人差し指、中指を天井に向ける。ラピたちはその行動に静観して、夏油も周りの反応を気にせずに唱える。
アニス「指揮官様、厨二病になったの?」(≖ࡇ≖)
突然詠唱を唱えた夏油に対して、アニスは「何で?」というような表情で見ていた。右手の掌印を解いた夏油は、指揮官室の窓を指さして視線を向けさせる。
夏油「外を見てごらん。」
頭を傾げながら窓を開けて外を見てみると、黒いドロドロとした液状の何かが景色を塗りつぶすように現れる。またもや信じられない現象に、各々驚愕する。
ネオン「何かカオ◯シみたいな黒いのが出てますよ!?」
マリアン「これは一体!?」
夏油「これは帳、簡単に言えば私たちの姿を隠すブラインドのようなものだ。
これから話すことは出来るだけ秘密にしてほしいからね。」
そう言ってこの建物を覆う正体について話し、加えて秘匿性についても伝えた。一緒に驚いていたアニスだったが、姿を隠せても会話が聞かれる可能性があるのか尋ねる。
アニス「姿は隠せるかもしれないけど...もし盗聴されていたらどうするの?」
夏油「盗聴盗撮も不可能だ。データを回収しようにも実物を盗むのは難しいし、何より...この空間は電波を遮断するからね。」
夏油は懐に合ったスマホをアニスたちに見せると、WiFiの接続が不安定でネット検索できず、モバイルデータ通信に切り替えても圏外になっている。アニスたちもスマホを確認して、ネット環境が使えない状況になっていることを確認する。
アニス「...ホントにネット接続できなくなってる...」
マリアン「それが、指揮官の言っていた”帳”の力なのですか?」
夏油「本来の目的とは違うが、それはまた追々説明するよ。
さて。アニスの言う通り、そろそろ私の正体について教えようか...。」
一通りの説明を終えた夏油は、雰囲気を改めて神妙な顔つきで話題を変える。切り替わった雰囲気に緊張し始めるラピたちは、真剣な表情で夏油の言葉に耳を傾ける。
夏油「はじめに...私は...」
ネオン「師匠は...?」
マリアン「......。」
アニス「......。」
ラピ「......。」
夏油「この世界の人間じゃないんだ。」
まさかの第一声に、啞然と顔が固まるラピたちは、一瞬遅れてもう一度聞き直す。
ネオン「す、すみません師匠...。」
夏油「ん?」
マリアン「もう一度言って貰えませんか?」
夏油「私はこの世界の人間じゃない。」
アニス「何...その如何にも人間ですよっていう外見してるけど、「この星の者ではない!」みたいな感じ...。」
夏油「証明することは出来ないけど、これが事実なんだ。」
目の前で見ていた怪奇現象以上に、ぶっ飛んだ話が入ってきた面々は頭を抱え、信じられない様子を見せていた。そして取り敢えずその話を信じて、何が原因でこの世界に来たのか、元の世界はどんな所で何があったのかを質問する。
アニス「話がとんでもないけど、一旦置いといて。指揮官様の世界はどんな所だったの?」
夏油「簡単に言うと、ラプチャーが存在しない世界だ。」
ラピ「となると生活圏は地上ですか?」
夏油「うん、地上が奪われる程の外敵は存在しなかったから、人類が地上で暮らしていたよ。」
ネオン「師匠の暮らしていた地上ってどんなところだったんですか!?」
アニス「まずは原因究明が先、指揮官様は何がきっかけでこっちの世界に来たか検討は付いてるの?」
夏油「ほぼ間違いない原因がある。」
マリアン「それは一体...」
夏油「私が元の世界で死んだ。これが原因でこっちの世界に来たんだと思う。」
日常生活によくある交通事故や殺人、もしくは運悪く命を落したのだと考察して、アニスは夏油の身に起こった一連の流れから例えを上げてみる。
アニス「つまり、指揮官様って異世界転生者ってことかしら?」
ネオン「ラノベによくある設定や導入ですね。」
夏油「そんな感じだ。」
アニスの言葉に、ラピは単語から凡そ先程の質問からどういう意味なのか察し、マリアンは単語を聞いても首を傾げ取り敢えず死んだらここにいたと解釈した。アニスは掌をポンと叩き、夏油の常識離れしている力も、転生したことで手に入れたと気付く。
アニス「成程...転生したことで特典が手に入ったから、ヘレティックと一騎打ちできる戦闘力を手に入れたのね。」
夏油「いや、アレは元からだけど。」
アニス「素であんなハイスペックゴリラだったの指揮官様。」
ネオン「やはり火力は全てを征するんですね...」
アニスの推測は外れて、生前から持っていることを明かす夏油の言葉に、再び硬直するアニスと腕を組んで憧れの存在が更に光り輝いている事に密かに闘志を燃やすネオン。そんな中、マリアンは生前どんな職業についていたのか質問する。
マリアン「あの...指揮官は元の世界でどのような役職を...」
夏油「その質問を答えるついでに、私の力についても説明しよう。」
ネオン「はい! 待ってました!」
夏油「ネオン、出来ればメモは取らず頭にインプットして欲しいな...」
ネオン「了解しました!」
ネオンは徐に手帳とペンを取り出して、メモする準備を整えるが、夏油は情報の漏洩を防ぐ為にメモによる記録をせずに覚えて欲しいと頼む。ネオンは二つ返事でメモをしまって、真剣に話を聞いた。
夏油「私の世界では、ラプチャーは存在しない。代わりに呪いが存在している。」
ネオン「呪い...ですか?」
アニス「○怨とかリ○グとか?」
夏油「大体はそんな感じだ。人の恨みや後悔、人間の身体から流れる負の感情の事を、呪いと呼ぶ。
そして呪いは身体から溢れて、折り重なっていくと、意思を持って呪霊として具現化する。そして呪霊が齎す危害は主に、悪夢を見せたり怪奇現象を起こして恐怖による精神的な疲弊、最悪の場合だと人間を殺す事もある。」
最初に話始めたのは、元の世界に存在する呪いと呪霊、そしてそのルーツについて説明する。呪霊についての説明を聞いて、ラピは固まっているままだが、他の三人は質問があるのか挙手していく。
アニス「殺すって...ホントなのそれ...」
夏油「現に、私が暮らしていた国...いや地域では怪死者と行方不明者が年平均一万人を超えていた。
その殆どが呪霊による被害だと分かっている。」
マリアン「怖いですね...」
アニス「でも...その呪霊に攻撃すればいいじゃない、もしくは逃げるとか...」
夏油「それができないんだ。多くの人間は日常に潜んでいる呪霊を見ることも触れることもできない。仮に感知できたとしても、一般人が太刀打ちできない呪霊が殆どだ。そういう人間は大抵憑りつかれて離れない。
それに、仮に弱い呪霊を倒せても解決した訳じゃない。憑りついた呪霊は、憑りつかれた人間や場所にある負の感情でまた復活する。呪霊には呪いで祓うしか解決出来ないんだ。」
ネオン「じゃあ一体どうしたら...」
夏油「でもごく一部、呪霊や呪いを感知でき、そして呪いを力、呪力を扱え呪霊を祓う事ができる人間が存在する。それが呪術師と呪詛師だ。」
呪霊による被害を伝えて、脅威度を分かりやすく伝えた夏油は、対抗できる存在として呪術師と呪詛師を教える。ラピはその二つの単語の違いについて追及する。
ラピ「呪術師と呪詛師の違いはあるのですか?」
夏油「呪いや呪霊から人間を守るのが呪術師、人間を呪いを使って殺すのが呪詛師だね。」
ネオン「呪い殺す理由とかあるんですか?」
夏油「理由や思想はそれぞれ異なるけど、大体は呪いを知らない人間から迫害を受けて、生活に必要な金目当てで呪詛師をやっているのが殆どだ。
逆に呪術師は、呪いを扱える家系や家柄でそのまま決まる事もあれば、呪いが見えたり対抗できる才覚があると、呪術師を育てる機関にスカウトされる事もある。」
人を守る呪術師と人を殺す呪詛師についての概要に加えて、それぞれの立場になる経緯を経験で語る夏油。呪いを扱える存在がいる事を教えられて、マリアンは夏油に質問する。
マリアン「指揮官は、どっちに所属していたのですか?」
アニス「呪術師じゃない? 人を殺すように見えないし。」
ネオン「そうですよ! 私たちに優しい師匠が、人を呪い殺すようには見えま」
夏油「いや呪詛師だ。厳密に言うと、元呪術師で呪詛師になった。」
アニスとネオンの言葉を遮りながら、呪術師である事を否定する夏油。アニスとネオンは一瞬固まって、夏油が揶揄っていると平静を装いながら反応する。
アニス「も、もう指揮官様ったら冗談でしょ?」
夏油「残念ながら事実だ。」
ネオン「で、でも...師匠は人を殺すようには見えません。」
夏油「これでも村にいた人間112人を呪い殺した。」
アニス「......」
ネオン「......」
アニスとネオンの作り笑顔が、夏油の真剣な表情と声のトーンを聞いて少しずつ崩れていく。そしてこの話題を出したマリアンは、元呪術師という点に疑問を持ち質問する。
マリアン「でも指揮官、元呪術師という事は、呪術師として活動していたんですよね?
呪詛師になる理由があったんですか?」
マリアンは夏油を理解したく、呪術師になった経緯と呪詛師になった理由について訪ねる。夏油は一息ついて、呪術師になった時からあった経緯を、全員に話始める。
夏油「分かった、呪術師として活動していた時から、呪詛師として生涯を終えた事まで話すよ。」
そう言って呪いや呪霊を見ることが出来た事、偶々呪術師としてスカウトされて、高校生の青い春を呪いを祓うことに費やした。そして少女の護衛に失敗したことを皮切りに、後輩が任務で命を落とし、ある辺境の村人が呪いが見える子供を迫害している現実を直面して、人を守る理由が分からなくなった事から、非術師を皆殺しにして呪いを生み出さない世界を作ろうとしていた事を全て話す。
そしてその会話で、親友と共に護衛していた事、力の差が生まれて置いて行かれ、自ら離れていき、最後は親友の教え子に破れて親友の手で生涯を終えた。
夏油「そして呪詛師として活動していたけど。結局何成せず呪いを振りまき、彼が私の息の根を止めた。」
アニス「......。」
ネオン「......。」
一言で言うなら壮絶、高校生とはいえまだ子供だった夏油が、人々から呪いを守る意味と理由があると志していた。しかし現実に直面して精神と共に理由が崩れて、犠牲者を生み出さない為にも弱者が強者に適応する環境を作り出そうとしていた。
あまりにも優しく、しかし狂っていた夏油の思想。守りたいという願いが
マリアン「それでも、指揮官は私たちを守ってくれました。
本当なら私が指揮官を起こした後、すぐに逃げる事は出来た筈です。」
夏油「......。」
過去の所業を明かした夏油に対して、マリアンも同じく事実で返す。もし違う世界から来たと言うのなら、何故 死と隣り合わせで呪いで迫害を受ける事は容易に想像できた。
しかし指揮官という立場を捨てる事なく、夏油はラピたちを守ってきた。
ラピ「何故、指揮官は私たちを守り、私たちを指揮したのですか?」
ラピの問いかけに、夏油はコップに入っている烏龍茶を一口飲み、思い返しながら答える。
夏油「重ねてしまったんだと思う。」
マリアン「何とですか?」
夏油「呪術師と...」
恐らく無意識だったのだろう、夏油はラピたちニケの境遇を呪術師に重ねてしまったのだ。弱者生存、強者が弱者を守る在り方、そして日常での酷い扱いに。
強者が弱者に適応する矛盾を、夏油はアークに来てから感じたのだ。
夏油「だからせめて、自分の手の届く範囲で助けられる命があるなら、助けたいと
ラピ「マリアンが自決した日ですか?」
夏油「ああ。」
前世の償いなのか、それとも自分と同じような姿や、同じ末路を辿って欲しく無かったのか分からない。だが夏油は今日までラピたちの他にも、多くの人々を守ってきた。
アニス「それじゃあ、これからも私たちを守ってくれるの?」
彼の行いを聞いても、彼女たちは遠ざかる事はしなかった。夏油の性格はラピたちは長い付き合いだから分かり、マリアンは意識が朦朧とする中で自分の死に悲しんでいる声を聞いていたから。
夏油「いいのか? 私は大量殺人者だぞ。」
ネオン「でも私たちを殺していませんよ?」
ラピ「確かに、前世での所業は許される訳では無い。しかし、今は指揮官が元居た世界ではありません。
生きていれば、やり直す事は出來る筈です。」
マリアン「この事は話さなくてもいい筈なのに、指揮官は正直に話してくれました。それなら私たちも助けてくれた分、指揮官が罪に押しつぶされないように一緒に歩きます。」
ラピたちの返答に、夏油はゆっくりと頭を深々と下げて謝る。
夏油「ごめん...みんな...」
ネオン「師匠、こういう時はありがとうですよ。」
夏油「ありがとう...。」
ネオンの提言を聞いて、改めて感謝する夏油。簡単に話せることではない真実を、夏油はずっと内に秘めて共に過ごしていた。
秘密を明かしたという事は、それほどラピたちを信頼し本性を知られた上で拒絶されてもいい覚悟があった。それ以上に呪いを有する自分を、無害になるまで遠ざけるきっかけになるなら受け入れるつもりだった。
だからこそ受け入れたラピたちに動揺し、秘匿していた事を謝った、同時に改めて必ず守り通すと決心する。
夏油「なんか暗い雰囲気にしてしまったね。私の生い立ちや呪いについては一通り話したから、今度は皆が疑問に思っている事とか質問があれば答えるよ。」
そう言って夏油は秘密を明かした雰囲気を転換する為に、ラピたちの疑問に答えるように質問があるか尋ねる。そう言ったと同時に、アニスが手を挙げる。
アニス「ハイ! ハイ!
指揮官様に呪力っていう力があって、その力を使って身体能力の強化ができたのは分かったけど、そうなるとラプラスの時やモダニアとの戦闘で使ったあの化け物は何??」
ネオン「使い魔みたいな感じじゃないんですか?」
ネオンは夏油の従魔であると提言するが、夏油は術式についての説明と自身の術式についての説明を始める。
夏油「そうなると、術式についての説明だね。」
ネオン「術式?...闘気を読み取るんですか?」
夏油「いや違う。」
アニス「指揮官様は鬼じゃないでしょ。」(≖ࡇ≖)
夏油「術式というのは、多くの術師が生まれながら持っている特殊な能力のようなもので、呪力を流すことで能力を発動できるんだ。生まれながら持っている術式を生得術式と呼ばれている。」
ラピ「そうすると指揮官の術式は、あの異形を呼び出す能力ですか?」
夏油「ご名答、私の術式は呪霊操術。呪いによって生まれた呪霊を取り込む事で使役できる術式だ。」
そう言って夏油が腰かけている椅子から赤く太い腕が出てきて、同時につぶらな瞳とタコの足のような口をした異形が顔を出す。
アニス「ギャァア!!」
ネオン「ホァアア!?」
突然現れた異形に、アニスとネオンはびっくりしてソファを倒し、ラピとマリアンも立ち上がって警戒する。
夏油「この子は陀艮、水や海に対する負の感情から生まれた呪霊だ。この子はかなり特殊で、人間に対して怒りや嫌悪ではなく、恐怖を感じているんだ。」
陀艮「ぶふぅ...。」
マリアン「だから、指揮官の椅子の後ろに隠れているのですか?」
夏油「そう、一応意思疎通は可能だが、基本陀艮の言っている事は通訳が居ないと分からない。」
倒れたソファを戻しながらアニスは、夏油の背後から現れた陀艮に視線を向けると、ここ最近で見覚えがある。
アニス「...あれ? たこんじゃない??」
ネオン「...あっ、ホントですね。」
そう言っているアニスとネオン、ラピも陀艮の顔を覗き込むように見つめて、マリアンはたこんという存在が分からずアニスとネオン、ラピの顔をきょろきょろと見る。
マリアン「たこ...ん?」
ラピ「ショッパホリック・チャンネルは知ってる?」
マリアン「え?...えぇ、見たことあります。
確か、通販チャンネルでしたよね?」
ラピ「今そのチャンネルのイメージキャラクターになってるわ。」
ラピの説明を聞いてポカンと目が点になっているマリアンだが、アニスが端末を取り出してチャンネルの動画を見せると、スポンサー紹介の時に顔を覗き込む仕草をして手を振っているキャラクターが目に入る。
その容姿や仕草が、目の前にいる呪霊陀艮と酷似していると分かり更に困惑する。夏油はばつが悪そうな表情をして答える。
夏油「えっと...実は、うっかり陀艮の姿を見られてしまって...
その可愛い容姿をイラストにしたら、ルピーからイメージキャラクターにしてくれないかと商談を持ちかけられたんだ。」
ネオン「......それってつまり...」
アニス「呪霊が見られたって事??」(≖ࡇ≖)
夏油「そう...」
ネオン「師匠って案外抜けてる所があるんですね。」
夏油の意外な一面に驚きながらも、夏油がアークに向かって不可解な行動が見られなかった事から、陀艮が確認されて実害がない事を物語っている。そして陀艮を見て、あまり脅威に見えないのか頭を撫でるアニス。
アニス「こういう子も人を呪い殺してたのよね...ちょっと想像出来ないわ。」
陀艮「ぶふぅ...。」
ラピ「指揮官、取り込んだ呪霊の制御は可能なのですか?」
夏油「可能だ。術式の効力で私の指示無しでは勝手な行動が出来なくなっている。」
ネオン「それじゃあ暴動は無いんですね。」
マリアン「...そういえば、指揮官は呪霊をどうやって取り込むのですか?」
ラピが呪霊が暴走しない可能性を夏油に訪ね、自身が取り込んだ覚えのない格上の漏瑚たちが無断に行動しない事から、制御自体は万全だと伝える。そして呪霊を取り込み操る事から、興味本位でマリアンは取り込む方法が気になり、夏油は嫌な顔をしながらもマリアンの質問に答える。
夏油「取り込む前に、戦闘して呪霊を弱らせる必要があって、私よりも格下の場合は直ぐに取り込める状態になる。」
ネオン「ふむふむ。」
夏油「呪霊が取り込める状態になると、手のひらサイズの球体に
縮み変わるから...」
マリアン「変わったら...どうするんですか?」
夏油「...丸吞みするんだ。」
アニス「丸のみするの!? 喉詰まらない!?」
夏油「その点は大丈夫...」
呪霊操術 調伏の儀式を伝えて、アニスからは手のひらサイズの球を丸呑みする事に注目する中、マリアンはアニスとは別の視点で興味が湧いていた。
マリアン「それってどんな味なんですか?」
ラピ「...味?」
マリアン「口に入れるということは、きっと味が分かると思って...
ちょっと気になってしまって...」
夏油「
明らかに嫌な感情をむき出しにしたようなしかめっ面を、夏油は見せて答えを出し渋る。アニスとネオンは、夏油の表情を見て余計に気になってしまい追及する。
アニス「味があるの指揮官様?」
ネオン「私、気になります。」
ラピ「少なくともいい味には見えない表情だけど...」
夏油「...今は言えない...決して...」
マリアン「そう...なんですか...?」
夏油「出来る事なら知らない方がいい。」
アニス「そう言われると余計気になっちゃうな~?」
ネオン「私たちだけでもいいから教えてくれませんか~?」
そう言って夏油に距離を詰めるアニスとネオン、夏油は部屋を出て伝えることを条件として出す。二人は承諾して夏油についていき、部屋の外で球の味について聞いた。
聞き終わったのか、直ぐに戻ってきて先程の秘密を聞けてウキウキしていたアニスとネオンの表情が、夏油と同じしかめっ面になっていた。
アニス「......。」
ネオン「......。」
マリアン「アニス?ネオン?」
アニス「マリアン...」
マリアン「はい。」
アニス「聞かない方がいいわ。」
ネオン「ラピも、聞くならせめて食事後がよろしいかと...」
ラピとマリアン「「???」」
表情の変わった2人に頭を傾げるマリアンとラピ、話題を直ぐに切り替えるようにアニスは他に術式があるのか訪ねる。
アニス「指揮官様の術式って他にもあるの?」
夏油「いや、基本は一人の術師に術式も一つだけだ。私の他は7:3に分けられた点を弱点にする術式、人形などの無生物を操れる術式など多種多様だ。」
マリアン「術式って沢山あるんですね。」
夏油「呪術師に属する家系もかなりあるらしいから、術師の数だけ術式があったりするよ。」
術式の多さを聞いて、様々な想像を膨らませていく面々だが、ネオンがハッと思いついたのか、挙手して質問する。
ネオン「はい師匠! ラプチャーにはセルフレス級やサーヴァント級、タイラント級やヘレティックと、サイズに応じてグレードがあるんですが。
呪霊にもそういった階級とかあるんですか?」
夏油「あるよ。呪霊だけでなく、呪術師や呪詛師にも共通して適用される等級が存在する。
呪術師を育成する機関、呪術高専によって呪霊に等級が分類されている。」
次に等級についての詳しい説明を始める夏油、ラピたちに五本の指を広げてそれぞれの等級について教える。
夏油「等級は四級から一級まで基本は五つ存在し、二級と一級の間に準一級がある。四級未満の場合は呪霊なら蝿頭、人間なら非術師と区分される。
大体最初は四級からのスタートだけど、飛び級で三級から一級になったり、いきなり一級になったりする事もある。」
ラピ「二級と準一級の違いはあるのですか?」
夏油「呪霊は呪術を使えるか否かという基準で判断される、対して術師の方は呪術界を牽引して行く一級呪術師と任務を同行し、その成果で一級に昇格できると判断された人たちを指す。
他にも、一級呪術師に推薦されて二級から一級に昇格することもある。」
等級の簡単な解説に加えて、呪霊を評価する判断材料と呪術師が昇格する事例を答えながら、仕組みについて説明していく夏油。ラピの質問に答えた後、アニスが再び質問する。
アニス「指揮官様、私たちではタイラント級までが階級でトップなんだけど、それ以上の存在にヘレティックがいるじゃない? 指揮官様の世界にもそう言った例外がいるの?」
夏油「いるよ。一級と一括りに出来ない規格外の存在を位置付ける等級、特別と書いて特級が設けられている。」
マリアン「特級...。」
ネオン「凄いカッコイイですね! どうやったら特級になれるのですか?」
夏油「まず呪霊の場合は、他の等級とは比べ物にならない高い呪力と戦闘力を持っていて、最低でも一級呪術師以上が居ないと戦闘できない。」
アニス「...と言われてもあんまりピンと来ないわね...
現代兵器とか通用する場合どのぐらいか分かる?」
呪霊の中でも規格外に位置する特級の力、確かに一級呪術師を見たことない彼女たちからすれば正確に戦闘力を把握することなど不可能だ。そこで夏油は誰かが言っていた呪霊に現代兵器をぶつける場合に使っていた言葉を思い出す。
夏油「...そう言えば、呪霊に現代兵器を使用する場合に大体の目安を作っていた人がいたな。」
アニス「おおっ? じゃあその目安を早速教えて!」
夏油「四級は木製バットで余裕...三級は拳銃があればまあ安心...二級は散弾銃でギリ...準一級や一級は戦車でも心細い...」
マリアン「戦車でも心細い...って言ってました?」
ネオン「私も聞きました...私たちの火力も人並外れていますが、それ程までに強力なのですね...」
夏油「そして特級はクラスター弾での絨毯爆撃でトントン...だったかな?」
朧気に思い出した夏油の発言にラピたちの顔が固まり、オムライスを食べ進めていたスプーンやグラスが止まる。そして夏油が言い放った言葉を反復するマリアン。
マリアン「クラスター弾の絨毯爆撃で...トントン...?」
アニス「クラスター弾ってどのぐらいヤバいの...?」
ネオン「一つで大体サッカー場3面分の面積に沢山の手榴弾を投げ込まれるようなものですね...」
ラピ「地域一帯の無差別爆撃でようやく五分五分...」
夏油「それと、私が生きていた時は特級呪霊が16体確認されていた。」
アニス「そのレベルの怪物が16体......」
夏油の言葉から発せられる言葉を聞いて、どんどん青ざめていくラピたちはその被害規模と底知れなさを知ってどれ程絶望的な存在なのか知る。顔色が悪くなっているラピたちに、陀艮の頭を撫でながら更に情報を追加する。
夏油「あとこの子も特級呪霊だよ。」
ネオン「へっ??」
夏油「ついでに言うと、モダニアとの戦闘でラピたちを守ってた赤いタコの人型呪霊もこの子だ。」
アニス「噓でしょ!?」
今、目の前でラピたちを怖がりながら顔を覗き込んでいる可愛らしい陀艮が、先程話していた件の特級呪霊である。モダニアとの戦闘時には、筋骨隆々の人型タコの怪物で男のような声を発していたことを思い出し、ラピたちは、呪霊は見た目では推し量れない底知れなさがあると理解する。
マリアン「そんなに強い呪霊がいて、指揮官の世界は大丈夫だったのですか...?」
夏油「休みは殆ど無いけど呪霊の秘匿が出来ているから、表立って問題として取り上げられる事は無かったよ。それに、呪霊の等級に合わせて呪術師が戦うのが基本だからね。」
ネオン「という事は...特級の呪術師がいるのですか!?」
夏油「ああ、特級を冠する人間は四人だ。」
アニス「たったの四人...」
ラピ「呪霊に比べて四分の一...」
呪霊の中でも最大級の戦闘力を持つ特級呪霊に対抗できる人間がいると聞いて、ネオンは目を輝かせているが、アニスとラピはその少ない人数を聞いてやや心配そうにしている。その中でマリアンは、夏油の言ったその特級術師の力について詳しく聞いてみる。
マリアン「で...でも、特級呪霊がそれ程強いなら、特級術師も匹敵するぐらいに強い筈です!...よね?」
アニス「もう何が出てきても驚かないわ...余りにも異次元過ぎるもの...」
夏油「特級術師になれる条件は、単独での国家転覆が可能かどうかだ。」
アニス「前言撤回、クラスター以上にぶっ飛んでるわ。」
ネオン「国家転覆ってことは...」
ラピ「こっちの世界で言うと...単独でアークを制圧できるという事ですか?」
夏油「大体そんな感じだね。」
呪霊に並んで術師の特級の条件もかなり可笑しい判断基準で分類されている事を聞いて、アニスは「もっと別の判断基準でもあったでしょ...軍事施設を単騎で制圧できるとか...」と言っている。それ以上に、次々と軽いノリで答えていく夏油に少し恐怖しているラピたち。
ラピ「......指揮官。」
夏油「なんだい?」
ラピ「基本的に、呪霊の等級に合わせて術師が派遣されるのでしたよね?」
夏油「そうだけど。」
ラピ「そちらにいる陀艮が特級呪霊という事は......」
夏油「調伏した覚えはないけど、私も特級なんだ。」
アニス「強いと思っていたけどまさか天井だと思わないじゃない......」
特級呪霊を使役している夏油の様子を見て、ラピは任務に割り当てられる術師の等級は呪霊と同じになるという情報から、夏油が特級術師なのではという推測を基に質問するが...すんなりと夏油は答える。
あっけらかんとした雰囲気で答えた夏油は、空いた皿を回収しながら立ち上がり、新しい食器を並べながらケーキを用意していく。
夏油「天井と言っても、私自身強い訳では無いけどね。」
ネオン「生身でヘレティックと一騎打ちした人の台詞ですかそれ。」
夏油「事実さ。私は特級術師だが呪術師の家系では無いし、特級術師の中で一番弱いだろうね。」
アニス(指揮官様で一番弱いって...)
「それって、他の特級を知っているような口ぶりよね? 知ってるの?」
夏油「ああ、全員知り合った事がある。一人は落ち込んでいる時にフラッと訪ねてきて、生き方を決めるきっかけを作ってくれた人。次に親友の教え子で、最後に私の親友。」
同じ特級術師と全員面識があり、内二名の戦闘力をある程度把握している夏油は、古い思い出を懐かしむようにケーキを五人分に分けながらゆっくりと語り始める。
アニス「確か、その教え子に負けて瀕死になったのよね...?」
夏油「ああ、負けた。戦力を分散しなければならない状況だったから、集結させてもどっちみち負けていた。
呪術を学んで一年未満だというのに、あの成長速度は改めて考えても素晴らしかったな。」
ネオン「もし今の師匠と、その教え子が戦ったら...どっちが勝つと思いますか?」
夏油「もし成長した彼と戦うなら、私に勝ち目は無いだろうね。高等技術を難なく習得したんだ、キャリアを積んで私の手が届かない
夏油にとっては、自分の意味や大義を背負って望んだ戦いだったというのに、その表情は明るく清々しているように見える。憑き物が取れたような表情をしている夏油に、マリアンはケーキを口に運びながら再び興味本位で夏油に訪ねる。
マリアン「じゃあ、指揮官から見て、特級で一番強い......呪術師最強って...誰なんですか?」
夏油「考える必要も無いよ、」
今回は夏油の秘密を伝える回になりました、戦闘やニケのストーリーを待っていた人に関しては物足りない話になってしまいました。次回は、モダニアでの総力戦の報告書をそのまま載せる感じになります。
前哨基地で夏油の秘密について聞いていたラピたち、それぞれオムライスを食べ終えてケーキを食べながら続けて夏油に質問していた。
アニス「今だから分かるけど、指揮官様の指示が的確なのって術式のおかげだったり?」
夏油「そうなのかな? 私自身あまり意識したことないけど。
まあ相手の勝ち筋が分かれば、それに乗って転んで油断した所を仕留めればすぐ終わるし。」
ネオン「近接戦闘できるのに知将ですね、師匠...」
マリアン「未だに信じられませんよ、近接戦闘がニケより高いなんて。」
アニス「......ん?」
ラピ「どうしたの?」
アニス「指揮官様。」
夏油「何だい?」
アニス「指揮官様の術式って、呪霊を操るのよね?」
夏油「そうだけど...?」
アニス「取り込んだ呪霊って好きな数だけ出せるの?」
夏油「私に関しては特に限りは無いよ、その気になれば調伏している呪霊を全て解き放てる。」
アニス「つまり相手一人の時でも、呪霊の大軍をけしかけることも出来るのよね?」
夏油「出来るね。」
アニス「何でモダニアにそうしなかったの?」
夏油「呪霊でマリアンを汚したく無かったのと、倒すなら一番手っ取り早いと思ってね。」
アニス「えぇ......」
マリアン「ありがとうございます...でも、指揮官が直接戦った方が早いんですか?」
夏油「近接戦闘は苦手じゃ無いから。」
アニス「モン○ターマ○ターみたいな術式なのに直接戦うのね...」
ネオン「どっちかというとポ○モントレ○ナーじゃないですかね?」
夏油「相手は近接特化なら、その対処が出来るように肉体を鍛える必要がある。加えて、呪力による身体能力の強化も、鍛えることで戦闘力の底上げに繋がるから。」
ラピ「そうなると、私たちだけの時は戦闘に参加できるという事ですか?」
夏油「あくまでも、私たちだけの時は...だが、皆の負担を軽減できるように尽力するつもりだ。」
アニス「わぉ...すっごく心強いわね...。」
ラピ「他に指揮官の素性を知っている人はいますか?」
夏油「皆の他には、アンダーソン副司令官とイングリットさん、スノーホワイトにアンリミテッドのルドミラさん...この4名だね。」
マリアン「アンリミテッド...確か北部の分隊ですよね?」
夏油「ああ、あの人なら大丈夫、義理堅い人だから。アンダーソンさんとイングリットさんも、今回のように帳の中で伝えたから情報が漏洩する可能性も低いだろう。」
アニス「ふーん...なら大丈夫かな?」
ネオン「でも、人間の負の感情で呪いが場所に溜まって、呪霊が生まれるんですよね? ラプチャーとかの負の感情で呪霊が生まれたりしないんでしょうか?」
夏油「私も危惧していたが、どうやら呪いになる事は無いから呪霊も生まれる事は無いらしい。
アーク全体や地上を確認してみたが、呪霊どころか呪力すら感知できなかった。」
アニス「それなら、呪霊が生まれるリスクは無いってことね。」
マリアン「でも少しホッとしました、呪霊って幽霊と同じだと思っていたので。」
ラピ「...そうね。」
夏油「ああ、死者が呪霊になるケースもあるらしいよ。」
マリアン「......えっ...?」
夏油「死後強い呪いを抱いていると、そのまま呪霊に転化したり、術師が呪力で殺さないと呪霊になることがあるらしいよ。」
マリアン「そう...なんですか...?」
夏油「何なら悟の教え子に取り付いていた過呪怨霊も、元はその教え子の恋人だったらしいし。」
マリアン「あばばばば......」
アニス「あんまりマリアンを怖がらせないでよ指揮官様...。」
夏油「ごめんごめん。」
ネオン「? どうしたんですかラピ?」
ラピ「...何でもないわ......。」
ネオン「??」