もう4日でUAが1000になってる...閑話も終わりが見えてきました。
アークの用事にがあってやって来たマリアンと夏油、ヘレティックだった時の衣装そのままという訳にもいかず、ショッピングモールで衣類を買った帰り道の事。
マリアン「すみません、服の代金を負担させてしまって...」
夏油「いいさ、入ったばかりなのにお小遣いを使えなんて酷だし。」
マリアン「ありがとうございます、指揮官。」
そう言って片手に買い物袋を持つ夏油とマリアン、地上に近いエレベーターからかなり離れてしまった影響で、行きと同じ移動手段の電車に乗ることにした。
夏油「帰りも行きと同じ電車でもいいかい?」
マリアン「はい、大丈夫です。」
自動で開く改札口を過ぎて、座席が新幹線のような並びになっている車両に乗車し、マリアンが窓側に座って夏油が隣に座り、通路側に荷物を置いた瞬間に直後電車が動き出す。三人分の席が横に並んでいる車両がゆっくり前に進み始め、夏油とマリアンはゆっくり左右に揺れる。
ふと窓側の景色を見るマリアンには、左から右へとアークの景色が流れていく。アーク内にそびえ立っているビル群が、流れていくように視界に映る。
マリアン「綺麗ですね。」
夏油「...そうだね。」
マリアン「...やはり、狭いと感じますか?」
夏油「元いた
そう言って夏油はマリアンが見ている窓からアークの景色を覗き込む、その表情は確かに微笑んでいたが、アークの景色とは別の要因によって微笑んでいるように見えた。
マリアン「元いた
夏油「ああ、といっても仕事での出来事なんだけどね。」
マリアン「学生の時ですか?」
夏油「そう、今みたいに電車に乗っていたんだ。」
高専時代の事を話し始めた夏油を遮るように、呼びかける声が聞こえる。
ディーゼル「私たちにもその話をお聞かせて頂けませんか~?」
マリアン「あなた方は...確か列車の運行を担当する....」
ソリン「インフィニティレール分隊よ、久しぶりねマリアン!」
ブリッド「こんにちは、指揮官。」
夏油「この列車の運転は大丈夫なのかい?」
ブリッド「その点は問題ありません、今日は運転休みの日なので自動運転で運行中です。本日は乗務員としてここにいます。」
ディーゼル「それより、運行していた電車に乗った話を聞かせて貰えませんか?」
興味本位で尋ねて来たのは、この列車の運行を担当しているインフィニティーレール分隊の面々であった。ディーゼルの頼みを聞いて、夏油はマリアンとインフィニティレール分隊に、中断された話をもう一度再開する。
夏油「分かった、これは私が学生の頃...17の時に、同級生2人と一緒にある海沿いの区域に行ったんだ。」
ソリン「それって夏休み?」
夏油「休みだったら良かったんだけどね、生憎仕事で向かったんだ。目的地に向かう際に、電車に乗ったのさ。」
ディーゼル「そうだったんですね~、あっ話の合間にイチゴキャンディをどうぞ~。」
夏油「ああ、ありがとう。」
マリアン「ありがとうございます。」
ディーゼルから受け取ったキャンディの包み紙を剥がし、赤いガラス細工の球体を口に放り込んで転がす。キャンディを転がしながら、話を続ける。
夏油「その区域に行って救助を求めた士官学生を捜索する任務だったんだ、とは言っても何処にいるか調査している間に、少し海を見に行ったりしたんだ。」
ブリッド「救助任務だったのですね...それはニケも同行して?」
夏油「ああ、教師が調査を進めている間に、海に行こうと同級生が提案してね。海水に足を入れて子供のようにはしゃいでいたことを、今でもよく覚えている。
調査が進展したら海遊びを止めて、現場に向かって救助に成功した。どうやら劣化していた建造物が倒壊して、帰り道が無くなり同行していたニケも身動きが出来なかったらしいんだ。」
ソリン「一応無事だったんだね。」
マリアン「良かったですね、その後はどうしたんですか?」
夏油「先に負傷していた救助者を電車に乗せて行ったんだが、助けに来た私たちは暇になって電車が戻ってくるまで暇つぶしを始めた。テントの中で大富豪したり、トランプに飽きたら怪談を始めたりした。」
ディーゼル「まぁ、怖い話をしたんですね~、確か夏の時期でしたよね?」
ソリン「こっ、怖い話!?」
ブリッド「怖い話で場の温度を下げる...怪談ですか...一体どんな話を...」
人差し指を顎に添えてその当時の季節を思い出すディーゼル、ブルブルと身を震わせるソリン、夏油たちが話した怪談の内容に怖がりつつも興味があるブリッド。マリアンも怖い話は苦手だが、ブリッドと同じく興味がありげな様子だ。
夏油「話そうか?」
ディーゼル「是非お願いします♪」
ソリン「ほ、本当に話すの??」
ブリッド「怖いのなら耳を塞ぐと...」
ソリン「こっ、怖くないよ!」
マリアン「指揮官の怪談は怖くないとアニスが言ってました、私も、大丈夫です!」
夏油「それじゃあ、あの時と同じ話を始めるね。」
各々の様子を見てゆっくりと、かつてラピたちに話した怪談を話し始めた。それは青い春、御堂の中で起きた伝承を語った。
夏油「お寺で怖い話をすると、現世を恨み鬼と化けた詩人が、琵琶の音を奏でながらやってくるのだとか。」
ディーゼル「恐ろしいですね、お化けみたいです。」
ソリン「それって...本当にあった話なの...?」
夏油「そこまでは語らない、ご想像にお任せするよ。」
ソリン「うぅ...モヤモヤする...。」
ブリッド「これが...怪談...確かに背筋がゾッとしますね。」
マリアン「アニスの噓つき...」
そこまで怖がっていない人や、話を聞く前より体が震えている人、怪談の効果を身をもって体感した人など、反応は様々だ。
中でもマリアンは、アニスから聞いた以上に怖い話だと体験して、ムスッとしている。
夏油「気が付くと、同級生の一人と間で誰が一番怖い話が出来たか競うようになって、帰りの電車が来るまで続けていたんだ。」
ディーゼル「まあ、指揮官って案外負けず嫌いなんですね。」
夏油「触発されて私も乗り気になってね、結局電車の中でもどちらが上だったか言い争ったよ。」
ソリン「こんな話を何回も続けたの...」
ブリッド「想像できませんね...」
マリアン(意外にも負けん気が強いんですね...フフッ。)
夏油が見せなかった一面に対して、マリアンは思わず微笑む。ディーゼルは夏油の話を聞いて、安心したような表情を見せる。
ディーゼル「とても楽しい思い出があるのですね。」
夏油「ああ。こうしてAZXに乗ると、当時の出来事をふと思い出すんだ。」
ディーゼル「それは良かったです、AZXに乗車し楽しんで頂けて...」
ソリン「ディーゼル...?」
ブリッド「ソリン、私はそろそろ運転席に戻ります。」
ソリン「えっ? じゃあ私も別の車両に行くね。」
ソリンは夏油とマリアンの背後の方向に進み後ろの車両に向かい、ブリッドは正面に向かって操縦席に戻る。席に座っているのはディーゼルと夏油とマリアンの三人になり、残ったディーゼルは悲しげな表情で話し始める。
ディーゼル「今乗っているAZXの前の鉄道車両にAFXが運行されていたんです、私たちインフィニティレール分隊も乗客だったんです。」
夏油「AFX...?」
マリアン「確かアークで初めての鉄道車両でしたよね...でも、エンターヘブンの爆破テロで...」
ディーゼル「そう、爆破テロによって多くの犠牲者が生まれたんです。私も、ソリンも、ブリッドも、私の弟も、そのテロの被害者。
もう二度と、鉄道でのテロを再発しない為に作られたのが、
インフィニティレール分隊が結成された理由を聞いて、マリアンは先ほどまで微笑んでいた口角が下がり、自然と両手に力が入る。夏油は突然インフィニティレール分隊の誕生経緯を話した事に、切り込むように質問する。
夏油「何故私たちに、分隊が作られた理由を話したのです?」
ディーゼル「同情欲しさに話したんじゃないんです、ただその楽しい思い出を忘れないで欲しいんです。」
マリアン「思い出...。」
ディーゼル「そう、嫌な思い出は人の心に残り続けるのに対して、楽しい思い出は残るものもあれば残らないものもあります。私たちは、二度と傷跡を作らないように、そして楽しい気持ちで乗車して、思い出をちゃんと持って帰って欲しいのです。」
それはテロという心に深く傷跡が残ったディーゼルが、このAZXと共に歩んできた事で生まれた願いであり、思いである。傷跡によっては癒す事はできないが、それでも紛らわす事はできると理解して、これまで真摯に務めてきた。
そして今後、自分と同じ被害者を生み出さない為の決意でもある。ディーゼルの話が終わると同時に、AZXが駅に到着して扉が開き、夏油とマリアンは立ち上がる。
夏油「分かった、今日もこれからも思い出を忘れずに持って帰るよ。」
マリアン「私も忘れないように、ちゃんと持って帰ります。それに、
そして改めて、本当にありがとうございました。」
ディーゼル「ありがとうございます。またここで会える事を楽しみにしています。」
夏油とマリアンは、ディーゼルに笑顔を向けてAZXを降りていく。降りる中、夏油は約束を、マリアンは総力戦の際に助けて貰ったことに、AZXとインフィニティレール分隊に感謝する。
二人の言葉から、ディーゼルは深く頭を下げて感謝を示し、離れていく背中が見えなくなるまで見送った。その後、ゆっくりとソリンが向かった方向に進んでいき、乗務員としての業務に戻る。
インフィニティレール分隊は鉄道列車AZXと共に、アークの人々と幸せと楽しい思い出を、これからも運び続け見送り続けるのだ。
前哨基地に戻るエレベーターに向かっている道中、夏油の携帯からバイブレーションと通知音が耳に入る。電話の相手はアンダーソンだ、相手が気になるマリアンが夏油の顔を覗き込む。
マリアン「誰からですか?」
夏油「アンダーソン副司令官だ。」
話の内容が機密事項かもしれないと察したマリアンは、頷いて夏油から離れるようにエレベーターに向かって行く。夏油は周りに人がいない事を確認して電話に出る。
アンダーソン
アンダーソン
(今時間はあるかね。)
アンダーソン
(すまないが、緊急なんだ。)
(出来れば今から来て欲しい。)
アンダーソン
(いや、更生館に向かってくれ。)
(そこで話がしたい。)
電話を終えた様子を見たマリアンが近づき、夏油は電話で話した内容をマリアンに伝える。
マリアン「終わりましたか?」
夏油「ああ、急用ができた。先に前哨基地に戻ってくれないか?」
マリアン「分かりました。」
マリアンは頷いて前哨基地行きのエレベーターに向かい、夏油はマリアンを見送った後に、更生館に行ける通路を辿る。通路の周りの色彩が灰色に移り変わっていき、辿って来た通路の先には大きな建造物があり、印字された文字を読み上げる。
夏油「REHAB CENTER...文字通り更生館か。」
小さく呟き、アンダーソンが待っている更生館に入っていく。施設の中に入ると、職員が顔を見ていたのか、アンダーソンが待っている取調室に案内される。
アンダーソン「すまなかった、休暇中だというのに。」
夏油「問題ありませんよ、予定は殆ど空いているので。」
目を閉じて謝罪するアンダーソンだが、夏油は気にせず取調室に入っていく。向かい合って席に座る二人、ここに呼び出した理由を、アンダーソンが話し始める。
アンダーソン「更生館について聞いた事はあるか?」
夏油「データベースに記録されているおおよその内容は把握しています。」
アンダーソン「では説明は省くが、私の見解ではここはアークの魔境だ。
凶悪犯罪を犯したニケを閉じ込める監獄であると同時に、彼女たちが思いっきり暴れまわれる遊び場でもある。」
夏油「データベースで見た情報とはかなり印象が違いますね、そういった凶悪犯による実情を隠すためですか?」
アンダーソン「その通りだ。かなり離れているとはいえ、アークの一部でもあるからな。」
アークからかなり距離が離れている更生館の実態を、アンダーソンの認識を含めて話していく。続けて更生館の運用方法について説明を始める。
アンダーソン「優れた能力を持っているが、犯罪を犯したニケたちを、有事の際に
夏油「アークに被害をもたらすなら、エニックが動いてもおかしくはない。記憶消去されなかったのですか?」
アンダーソン「記憶消去は使わない。能力というのは記憶と密接に関係しているのだから。凶悪犯に限定的ながらも自由を与えるほど、彼女らは特別だ。」
説明中にアンダーソンは、人の顔が表示されている三つのタブレットを、夏油に見えるように並べる。それぞれ異なる容姿で、一人は身体中拘束具で縛られ、一人は口に見たことない特殊な白いマスクを付け、一人は強力な磁力で固定する手枷をはめられている。
アンダーソンが話している件の凶悪犯とは、この三名の事だろう。
アンダーソン「彼女らがその特別さの代償として、更生館の中で自由に暮らしているからこそ、みんなも安全に暮らせる。」
夏油「しかしこうして呼び出されたということは、その均衡が崩れそうにあるのですか?」
アンダーソン「そうだ。少し前から更生館内部で怪しい動きが見られる。この3人のニケを中心に、勢力が出来つつある。今までこんな事は無かった。言った通り、更生館のニケたちは特別で危険だからだ。
コントロール不可能。誰かの下で働くような者たちではない。コントロールできないからこそ安全だった更生館が、勢力が出来たことで危険になってきたのだ。」
夏油「最悪のケースは、その3つの勢力が共謀して更生館を崩壊させることですね。」
夏油の考えに対して、アンダーソンは無言で頷く。続けて危機に瀕している更生館の現状を話し始める。
アンダーソン「もし彼女らが一丸となって動けば、彼女らを閉じ込める鉄の扉などは何の意味も成さない。だから君を呼んだのだ。」
夏油「勢力を作っているこの3名を、私が更生しろ...という事ですか。」
アンダーソン「君がマリアンを呼び戻した功績から、上層部からの推薦があったのだ。一人ずつ紹介しよう。」
更生館に呼び出した理由を、夏油が解釈しアンダーソンは再び頷きながら、テーブルに並べた3つのファイルの中から、緑色のファイルを手に取り説明を始める。ファイルに映っている人物は、身体中に施されている拘束具に対して嫌悪しているような表情だ。
アンダーソン「ギルティ。普通のニケを遥かに上回る握力を持つニケだ。一緒に作戦に出たニケの身体を壊し、40機以上のニケを大破させたという記録がある。」
夏油(記憶消去しないにしても、安全の観点からNIMPHはある筈。本来ニケ同士の攻撃はリミッターが機能するのだが...)
アンダーソン「
アンダーソンの説明に対して返答や質問する事なく、静かに聞き記憶する中、次に紫色のファイルを手に取る。ファイルに映っている人物は、特徴的な白いマスクを付けているが、心情が読めない満面の笑みを浮かべている。
アンダーソン「シン。彼女の言葉は全てを魅了する。一種の精神支配だと思うが、詳しいことは明らかになっていない。」
夏油(精神に対して作用するとなると、呪言やメイデンの能力とは異なるのか...どっちにしろ警戒は必要か。)
アンダーソン「それで今は言葉を制限する機械を取り付けているが...それでも彼女と言葉を交わす時は注意した方がいい。」
最後にテーブルに残った、ピンク色のファイルを手に取る。ファイルに映っている人物は、重厚感のある手枷を気にしない様子を見せている。
アンダーソン「クエンシー。ふむ...既に説明した2人とはちょっと違うが、彼女もまた危険だ。彼女は、どこからでも脱出できる。」
夏油(...ハリー・フーディーニとか
アンダーソン「情報によればアークの品物を、更生館内に補給しているそうだ。全ての行動を注意深く見張った方がいいだろう。」
説明を終えたのか、手に持った3つのファイルを再び夏油の前のテーブルに並べる。それぞれが異なる問題を抱えており、更生館の中でも危険視している3人の写真が、品定めするかのように夏油の顔を覗き込むように見えた。
アンダーソン「この3人のニケを更生させ、更生館から出して欲しい。君が更生に成功すれば、輪を失った更生館のニケたちは再びバラバラになるだろう。
混沌の魔境に戻るのだ。」
夏油「少なくとも、今にも壊れそうなダムよりはマシですね。」
アンダーソン「少し大袈裟に言えば、アークの安全が君の手にかかっている。」
夏油は並べられた3つのファイルを手に取り、与えられた任務を引き受ける意思を見せる。
夏油「了解しました、この任務引き受けます。」
アンダーソン「よろしく頼む。これからこの三名との面談については、別の人に任せてある、質問があったら頼ってくれ。」
ファイルを手に取った夏油を見て、アンダーソンは立ち上がり面談室を去っていく。入れ替わるように白衣に黒いネクタイと眼鏡を身につけた人が、面談室に入ってくる。
最近知ったその顔を見て、夏油は声を掛ける。
夏油「君が更生のサポートか、マナ。」
マナ「何か問題でも?」
夏油「M.M.R.はいいのかい? 君は
マナ「一応、ミシリスの所属ですから。それに...」
夏油「それに...?」
マナ「こちらのボランティアに参加すれば、一時的に仕事を休めますから。」
夏油「ぁぁ...うん。お疲れ様。」
マナ「ありがとうございます。」
深い事情でやって来たマナを見て、これ以上の詮索は止めて労う。話を止めて、マナは夏油の手に取った資料を見つめ、本題に移る。
マナ「アンダーソン副司令から説明された通り、私が貴方の凶悪犯ニケ更生のサポートします。それぞれ凶悪犯ですが、指揮官を信頼してこの任務を任せたと思います。」
夏油「期待は裏切れないね、一人ずつ更生させていくんだったね。」
マナ「はい。また、この更生館の勢力に関しても、完全に把握しきれていない為、優先度はありません。言い換えれば、どの人物も厳重な注意が必要です。」
夏油「......。」
マナの説明を聞いた夏油は、ファイルを机に並べてそれぞれの特徴を見直し、その脅威度を改めて評価する。
夏油(ギルティは破壊力、シンは精神汚染、クエンシーは脱走魔...この中で始めるならクエンシーだが...情報が少な過ぎるな。)
考えが纏まった夏油は、ピンク色のファイルを手に取りマナに手渡す。マナは手渡されたファイルを受け取り、立ち上がり面談室を出て行く。
夏油もマナに続き、クエンシーが収監されている区画に案内しながら、クエンシーに関する詳しい説明を始めた。
夏油「最初の更生はこの子から始めようと思う。」
マナ「...名前はクエンシー。ギルティ、シンと同じく凶悪犯の1人です。
最初は一般的な罪名でしたが、度重なる脱獄で刑が重くなりました。」
夏油「必ず脱獄すると言っていたが、対策を取っても脱獄したのか?」
マナ「はい。何処からでも毎回脱出を試みるのです。常に新しいルートで、誰にも気付かれずに。
そういうわけでクエンシーは、脱獄の神とも呼ばれています。四方が塞がっているのに、一体どうやって抜け出せるのか...昔クエンシーを担当していた更生教官たちが匙を投げた理由です。」
夏油「更生どころの話ではないね。」
マナ「繰り返される脱出により、まともに面談できた事が一度もありません。他の凶悪犯とは少し違いますが...だからと言って甘く見ていいわけではありません。」
クエンシーがこの更生館に収容され、前任者が諦めた理由について夏油に伝えるマナ。実績を積み重ねている夏油だが、今回の更生に関して不安要素しか無いマナは、もう一度夏油に立ち向かえる覚悟があるのか尋ねる。
マナ「...大丈夫ですか? 指揮官。」
夏油「引き受けたからには、責任を持って更生してみるよ...。」
マナ「今度こそクエンシーの更生面談が実現して欲しいものです。」
返答を聞いたと同時に、先ほどアンダーソンが待っていた面談室と同じ部屋に到着する。クエンシーが収容されている区画の面談室に到着したようだ。
マナ「既に彼女はこの部屋の中で待機しています。では改めて、よろしくお願い致します。」
夏油「ああ、案内ご苦労様。...ああ、それと。」
マナ「何か?」
夏油「更生対象者三名が更生館での生活を録画した動画があれば、送ってもらえないだろうか?」
マナ「承知しました、後日メールにてお送りします。」
夏油「ありがとう。」
マナは一礼して、更生館全区画の監視カメラやデータベースがある区画に向かっていく。夏油は再び振り返り、クエンシーが待っている面談室の扉が軋む音を出しながらゆっくりと開く。
夏油「......。」
再び軋む音を響かせながら扉が閉まり、面談室に入っていく夏油だが、誰もいない部屋を静寂が包み込む。面談室の中央にある机に向かって歩き、部屋を見渡す。
夏油「随分手馴れているね、音も聞こえなかったよ。」
?????「あれ? バレてる??」
夏油「私の後ろにいるんだろう?」
?????「あら~新しい更生教官様って鋭いのね~♪」
そう言って、背後から聞こえてきた声の主が夏油の前に姿を現す。布地の少ない囚人服に寒色の黒髪にピンク色が特徴的なポニーテールの女性だ。
ピンク色のファイルと同じ女性、脱獄の神クエンシーだと分かる。
クエンシー「何時から後ろにいたの気付いたの?」
夏油「マナと私が面談室を出てから後ろにいただろう。」
クエンシー「正解! ホントに鋭いね♪ 最初から気付かれたなんて初めて。
それじゃあ、初めまして~私はクエンシー。教官様の名前は?」
夏油「私は夏油傑、これからよろしく。」
クエンシー「こちらこそよろしく~♪」
手錠で繋がれている両手を、夏油の方に向けて握手を求め、夏油は快くクエンシーと握手する。面談室にある椅子に座って足をバタバタするクエンシー、夏油も反対側の椅子に座って話を切り出そうする前にクエンシーが話し始める。
クエンシー「新しい教官様も私と面談したくて来たんでしょ? でも私って面談を受ける程悪い事したかな? どうしてそんなに面談したいのか分からないわ。」
夏油「ずっと私の後ろにいたのによく言うよ、脱獄の神という噂も本当らしいね。」
クエンシー「え? 脱獄? まさか教官様、私が脱獄するように見えるの?」
夏油「実際私の後ろにいたしね。」
クエンシー「逆に聞くけど教官様、ここには脱獄に使える道具も無ければ、私はこの手で動きが制限されて、おまけに監視カメラもあるのよ? どうやって脱獄するっていうの??」
クエンシーは手に付けられた手枷を見せ、面談室の天井に設置されている監視カメラを指差して、脱獄が出来る根拠を夏油に尋ねる。その言葉を聞いて頷いた夏油は、クエンシーの手枷に手を伸ばす。
夏油「これは何だい?」
クエンシー「それ私の財布よ? 教官様酷~い、返してよ。」
夏油「持ち主ならこの財布の中身が分かると思うが、何が入っているか分かるよね。」
クエンシー「クレジットが一枚でしょ。」
夏油「私のIDカードだ。」
そう言って財布から出てきたのは、夏油の顔写真が映ったカード。クエンシーは惚けた顔で首を傾げる。
クエンシー「おっかしいな~? なんで教官様のIDカードが出てくるのかしら~?」
夏油「私のカード入れだからだ、因みに私の財布は胸ポケットにある。」
クエンシー「本当? ちょっと見せてもらっても...」
夏油「どさくさに紛れて私の軍章を取るんじゃない。」
手を伸ばしてきたクエンシーの手を止めて、掴んでいる手から胸元の軍章を元に戻す。頬を膨らませているクエンシーは、自身の事から別の話題に切り替える。
クエンシー「もう私の話はやめにしましょ? 他の話しよ~。教官様、アークはどんな感じ?」
夏油「総力戦が終わって、今は失った戦力を戻しているね。」
クエンシー「いや情勢じゃなくて、身近なこと。私はここに閉じ込められているから、長いことアークに行っていないのよ。」
夏油「確かに面白みの無い話題だったね...新しい味のマイルドコロッケが発売された事とか?」
夏油がふと呟いた単語に興味があるのか、反応して楽しげに話し始める。
クエンシー「へぇそうなんだぁ! 何処で食べたの?」
夏油「ショッピングモールかな、食料品が安くて品揃えがいいから。」
クエンシー「何それ、教官様ったら主夫みたい♪でもショッピングモールのマイルドコロッケって美味しいわよね~他はビミョーだけど。」
会話が弾み、クエンシーのテンションが上がってきたのか、更に楽しげに話し続ける。
クエンシー「そうそう知ってた!? 新登場の味を食べるとフィギュアが貰えるって!」
夏油「ああ、SNSや広告でもかなり発信されていたから嫌でも目に付いたよ。」
クエンシー「分かるわ~自由時間でパソコンとか触る機会があるけど、凄い熱が入ってるわよね~。あっ、それとそれと、この更生館にも特別メニューでマイルドコロッケが出てくるのよ!」
夏油「記念日とかに食事が豪華になったりするのかい?」
クエンシー「そうそう! 凄い変わるって程じゃないんだけど、デザートとか一品だけ好きなご飯を頼めたり、偶に健康維持のために出されるの~♪」
楽しげに会話を続けているクエンシー、この更生館での暮らしに対してまるで不平不満が無いように感じられる。話したいクエンシーを遮るように、夏油の腕時計が鳴り始め、ちらりと確認した後立ち上がる。
夏油「時間か、今日の面談はここまでにしよう。」
クエンシー「えぇ~まだ少ししかお話してないじゃない。」
夏油「今度も来るさ、その時また話そう。」
会話が中断されて不満があるクエンシーを宥めながら、夏油は面談室の扉に手をかけ引き戸を開ける。面談室を出ていく夏油に対して、クエンシーは笑顔で手を振って見送る。
クエンシー「バイバイ。教官様~次の面談で会えたら会おうね。」
その言葉が耳に届くと同時に、面談室の扉が閉まる。その後職員が区画から更生館の入り口まで案内して、外に出た後に色彩の無くなった世界に建てられている更生館を再び見つめる。
夏油「やれやれ、油断も隙も無いな。」
視線を更生館からエレベーターに向けて、ズボンの右前ポケットから財布を取り出し、胸ポケットに戻しながら再び歩き出す。一方、独房に戻ったクエンシーは、100均で売られていそうなカードケースが手に握られている。
ケースを開いてその中身を拝見すると、クスリと微笑む。
クエンシー「また会えるかしら♪」
クエンシーの両手には、ショッピングモールで販売している新発売のマイルドコロッケのキャンペーンが載っているチラシが広げられていた。
インフィニティーレール分隊中心のお話を作ろうとしましたが、話が組み上がらずクエンシーの話を混ぜてしまいました...。
更生館から前哨基地に帰った夏油は、買ってきた服を鏡を見ながら楽しんでいるマリアンが目に入る。
夏油「ただいま、早速楽しんでいるみたいだね。」
マリアン「あっ、おかえりなさい。そしてありがとうございます、指揮官。」
夏油「気に入った服があってよかったよ。それにしても、みんなの服が多くなってきたから、そろそろクローゼットと洗濯機も考えるべきかな?」
マリアン「流石にそこまでは...」
アニス「えっ!? 何何?? クローゼット買うの!?」
ネオン「私には銃火器用のショーケースをお願いします!」
ラピ「自腹で買いなさい、指揮官も甘やかしすぎです。」
アニスとネオン「「ぶー、ぶー。」」
夏油「甘やかしすぎるかな?」
ラピ「シャワーなどの光熱費もあるんです、これ以上費用を増やすわけにもいきません。」
夏油「う~ん...でも着れる服がたくさんあるからクローゼットは必要だと思ったんだけど。」
アニス「そーだ!そーだ!」
ネオン「ついでに私のショーケースもお願いします!」
マリアン「でも、ここまで発注するのにもお金がかかりますし...」
夏油「? アークから買わないよ??」
ラピ「?」
マリアン「??」
ネオン「???」
アニス「それじゃあどこで...??」
夏油「工房、部材や素材が余っていたらリサイクルできるし。」
アニス「指揮官様ってDIYできるの...?」
夏油「これでも何年か自給自足の生活をしていたからね、クローゼットくらい何てことはないさ。」
マリアン「ラピ。」
ラピ「何?」
マリアン「指揮官って環境への適応が高いのでしょうか?」
ラピ「前哨基地に来た時も、あまり不便だと感じた様子は見られなかったわ...」
アニス「逆に何が出来ないのか聞きたいくらいに高いわね。」
ネオン「ではショーケースも!?」
夏油「余っている素材次第だけど、作れると思うよ。」
ネオン「おおっ!!」
真人「夏油ぉ~俺も欲しいものがあるんだけどぉ~?」
夏油「ゲームなら自腹で。」
真人「バレたか...」
漏瑚「逆に何故悟られないと思ったのだ...」
陀艮「ぶふぅ~♪」(おかえり~♪)
マリアン「ただいま、陀艮。」
花御「夏油、イチゴがすくすくと成長しています。」
夏油「本当かい? 工房に向かう前に確認しよう。」
アニス「家庭菜園もできるのね...」
ラピ「費用を抑えている為とはいえ、ここまで本格的とは思ってもみなかった。」
ネオン「そういえば野菜や果物ってどこから調達したんでしょう?」
夏油「地上での任務中に花御が収穫してた。」
漏瑚「しょっちゅういなくなると思ったらそういう事だったのか。」
真人「漏瑚も漏瑚で落し物拾ってるじゃん。」
陀艮「ぶふぅ~。」(みんな楽しんでいるんだね。)
花御「ボタニックガーデン分隊が管理する庭でも栽培できないか考えています。」
アニス「私たちの知らない所で滅茶苦茶やってたのね...」
ネオン「ビックラポンですね...」
ラピ「だけど私たちの助けてくれている。」
マリアン「ありがとうございます。」
真人「いや~照れるなぁ!」
漏瑚「別に貴様らの為ではない、気になるから集めているだけだ。」
花御「私は今後この星が再生する最善手を打っているだけです。」
陀艮「ぶふぅ~。」(僕はみんなと一緒なら嬉しい~。)
夏油「それじゃあ、工房に行く前に何処に置くかレイアウトを話し合おう。」
アニスとネオン「「はーい!」」
マリアン「ラピ、私たちも行きましょう。」
ラピ「分かったわ。」