特級呪術師のデストピア   作:クモッ!

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 全部書いたら2万字になってしまった...本当に申し訳ございません。


未来

ウンファ「...注目。人間としての死と、ニケ製造工場という大きなハードルを越えて復活のための最後の関門、エリシオンタワーへ来た諸君を歓迎する。私はお前たちの教官を務める、アブソルート部隊のウンファだ。」

 

 

 エリシオンタワーにある講堂、そこにはこのタワーを運営者である社長のイングリッドの隣に夏油、アブソルート分隊のリーダーウンファの前には、6名のニケが並んでいる。

 

 

ウンファ「さあ、お前たちも自己紹介してみろ。」

 

訓練生2号「く、訓練生2号です!」

 

訓練生3号「訓練生3号です。」

 

訓練生5号「訓練生5号です。」

 

訓練生8号「訓練生8号です。」

 

 

 並んでいるそれぞれが、訓練に参加する際に名付けられた番号を名乗っていくが、所々数字が抜けている事に、ウンファは目つきが鋭くなり飛ばされている数字について問う。

 

 

ウンファ「フィナボッチ数列*1か? 間の番号は何処へ行った。」

 

訓練生8号「...後処理の過程で死亡しました。」

 

ウンファ「チッ。続けろ。」

 

訓練生8号「...。」

 

 

 ここまで行き着く過程で脱落した人員がおり、その報告が無かったことに対してウンファは顔をしかめて苛立つ。直ぐに平静を取り戻し、紹介を続けさせる。

 

 

訓練生11号「訓練生11号です。」

 

訓練生13号「訓練生13号です。」

 

ウンファ「...数字だとややこしいな。」

 

 

 自己紹介させたウンファだが、番号で呼ぶ事で訓練や実戦で支障が出ると考え、それぞれにコードネームを即興で作り、指を指しながら名付ける。

 

 

ウンファ「これからはお前たちをこう呼ぶ。赤いフクロウ(訓練生2号)。」

 

赤いフクロウ「...はい、教官!」

 

ウンファ「青いフクロウ(訓練生3号)

 

青いフクロウ「はい、教官!!」

 

ウンファ「...以下同じだ。分かったか?」

 

フクロウたち「「「「「はい、教官!」」」」」

 

黄色いフクロウ「......」

 

 

 それぞれのコードネームを付けられた訓練生は、ウンファの確認に即時に声を張って答えるが、一人だけ答えず遅れてしまう。

 

 

ウンファ「...そっちのお(黄色いフクロウ)前、返事が遅い。どこの出身だ。」

 

黄色いフクロウ「...ロイヤルロードです、教官。」

 

ウンファ「ロイヤルロード出身者の思考転換率が最も高いのは知っているか?」

 

黄色いフクロウ「知りませんでした、教官。」

 

ウンファ「高いところから落ちたから、正気を保てない奴が多い。とにかく、家畜暮らしを始めたことを歓迎する。」

 

 

 この状況に対して対応出来ていないのか、遅れてしまった要因についてウンファの経験則を黄色いフクロウに伝え、次に動じない訓練生(フクロウ)に同様の質問をする。

 

 

ウンファ「隣のお前(灰色フクロウ)はどこの出身だ。」

 

灰色フクロウ「アウターリム出身です、教官。」

 

ウンファ「...ブレない人生だな。生まれてから死ぬまで、一貫してどん底か。しかし、同じ人間以下でも兵器には使い道がある。地上奪還の道具という使い道が。

 少なくとも死ぬ前に一度は価値のある存在になってみろ。」

 

灰色フクロウ「......」

 

ウンファ「答えは。」

 

灰色フクロウ「はい、教官!」

 

 

 ウンファが訓練生(フクロウ)たちと話している中、夏油とイングリッドは離れた所でこの光景について話していた。

 

 

夏油「彼女(フクロウ)たちには厳しい言葉ですね。」

 

イングリッド「...慣れる為の過程だからな。製造されたばかりのニケは、頭で自分が兵器になった事を認知しても、心はそうではない。だからああやって自分の過去を捨てさせるんだ。」

 

夏油「過去を捨てる必要は無いけれど、地上で戦う以上そう言ってられないのですね。」

 

イングリッド「そうだ、地上という環境下で適応する為に、この方法を貫いている。とにかく、これからウンファのサポートをよろしく頼む。」

 

夏油「はい。」

 

 

 この武器整備区画に来る前に、イングリッドに説明された今回の任務についての説明を思い出していた。

 

 

 

 

夏油「訓練生の育成ですか?」

 

イングリッド「そうだ、今回の総力戦で運良く犠牲者は居なかったが、それでも殆どの人員が重傷といった結果になってしまった。そしてヘレティックが複数体存在する事の対策として、中央政府が人員の育成を務めてもらいたいと、私から通達があった。」

 

夏油「今後の断続的な総力戦に備えてですか。」

 

 

 イングリッドは頷いて肯定する。総力戦の被害は夏油の呪霊による援護によって、被害は負傷者だけで済んだが、それでも四肢の欠損や首だけといったケースが殆どであり、残存勢力が総戦力で参加してくる事を考えると大敗が確定する。

 

 そのため、量産型であっても育成を施して、全体的な戦力を向上させる目的で、イングリッドに依頼されたのだ。そしてその育成を、アブソルート分隊のリーダー ウンファと、特殊別働隊指揮官 夏油を主導に進める事を決めた。

 

 

イングリッド「お前に頼みたいのは、ウンファのサポートであり、()()()()()()としての役割を徹して欲しいことだ。ただ存在し、君臨するだけでも役割は果たせるが、お前がそれで満足するわけではなかろう。

 副教官として知りたい事があったら、いくらでも聞いてもいい。」

 

夏油「では訓練日程を教えて頂けますか?」

 

イングリッド「2泊3日という短い間、お前たちはあの6機のニケを訓練する。2回の模擬戦闘、そして...地上での実戦となっている。」

 

 

 訓練についての日程を聞いた後、ウンファの実力から訓練の内容についての話は聞かずに、夏油は何故呼んだのかを問う。

 

 

夏油「では次に、私を選んだ理由は?」

 

イングリッド「......お前はリーダーとして、ウンファと反対の路線を取っているからだ。お前は理想主義者で、ウンファは現実主義者だ。また、お前は穏やかなリーダーシップを、ウンファはカリスマ的なリーダーシップを持っている。

 きっとお互いに見習う点があるはずだ。」

 

 

 ウンファと夏油が持っているリーダーの資質について、イングリッドの見解を伝えた後、夏油は今回の訓練について危惧している点を指摘する。

 

 

夏油「多分、というかウンファは私を歓迎すると思わないのですが。」

 

イングリッド「そうだろうな。どうせウンファはどの指揮官も歓迎しない。正確に言えば、彼女が歓迎する程有能な指揮官がいなかった。だから、お前がその最初の指揮官になるのはどうだ?」

 

夏油「なるほど...。」

 

 

 顎に指を添えて考える仕草を取って、机の上にあるニケ訓練資料に目を落とす。質問がやって来ない事から、質問は無くなったのか確認する。

 

 

イングリッド「質問はこれで終わりか?」

 

夏油「...はい。」

 

 

 

 

 イングリッドがウンファの対局的な存在として他にいないと考え、夏油がエリシオンの訓練に参加することになった経緯である。遠くでウンファ達を見ている夏油に、イングリッドは肩を叩き立ち去る。

 

 

イングリッド「詳しいことはウンファに聞け。健闘を祈る、夏油副教官。」

 

 

 イングリッドのエールに対して、夏油は頷いて返す。再び視点を戻すと講堂には点呼の声が響き、ゆっくりとウンファに近づいていく。

 

 ウンファが近づいてくることに気付いたのか、夏油に視線を向けて紹介を始める。

 

 

ウンファ「...来たか。挨拶しろ、フクロウ諸君。お前たちが今回の訓練課程で仕える()()()()()()だ。」

 

フクロウたち「「「「「「よろしくお願いします、指揮官様!」」」」」」

 

夏油「これから共にする夏油傑だ、短い間だがこちらこそよろしく頼む。」

 

 

 夏油の挨拶に対して、ウンファ溜息をこぼして説明を始める。

 

 

ウンファ「...これは変わり者だから、これからお前たちを甘えさせるだろう。」

 

夏油(変わり者......いや、間違ってはいないのか。)

 

ウンファ「しかし、他の99%の指揮官は全く違う。...肝に銘じておけ。

 

 いくら情けないツラをしていても、指揮官に死ねと命令されたらお前たちは死に、弾除けになれと命令されたらなるのだ。

 

 だから訓練の過程で、()()()()()()に対し、一線を超えるフクロウがいたら私が先に殺す。分かったか。」

 

フクロウたち「「「「「「はい、教官!!」」」」」」

 

 

 フクロウたちの声を聞いて全員反応し、全員が緊張した面持ちでこちらを見つめている。その表情を見たウンファは、全員を引き連れて移動を開始する。

 

 

ウンファ「よし。では今から模擬戦闘に入る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてエリシオンタワー内にある仮想訓練室を使い、幾つかのフォーメーションのみを伝え、個々の戦闘力を把握する為に指示を送らず戦わせた結果...

 

 

ウンファ「...ほお、皆ゴミ屑だな。」

 

 

 訓練生だから仕方ないが、それでも戦闘中に目立つ点が幾つも存在した。リーダーがフォーメーションの指示を送って、思い出すのに反応が遅れてしまい、そして遅れてしまった一人をフォローする為に一人が陣形を崩してしまった。

 

 モニター画面がある司令室にいるウンファは、仮想訓練室へと繋がっているマイクを持った。

 

 

ウンファ「...おい、紫フクロウ。お前、チームメイトを皆殺しにする気か。」

 

紫フクロウ「...そ、そのようなつもりはありません、教官!」

 

ウンファ「そして灰色フクロウ。」

 

灰色フクロウ「...はい、教官。」

 

ウンファ「ゴミ屑1人がぼうっとしているからって、お前まで死地へ飛び出すのは何故だ。

 何故捨て身で戦う?」

 

灰色フクロウ「......」

 

ウンファ「1つ聞こう。お前、もしかして将来の夢はラプチャーの餌になることか。」

 

灰色フクロウ「...いいえ、教官。」

 

ウンファ「では、仲間たちをラプチャーの餌に差し出したくてニケになったのか。」

 

灰色フクロウ「...なりたくてなったわけではありません、教官。」

 

ウンファ「お前の事情はどうでもいい。先ほどのお前の行動が青、赤、白いフクロウを全滅させ、お前が守ると出しゃばった紫フクロウはHP数値上、既に死んでいた。

 お前の判断ミスで、先ほど3人が死んだのだ。」

 

灰色フクロウ「...以後気を付けます、教官。」

 

 

 ウンファが指摘した事は、先ほどの戦闘で目立っていた行動。紫フクロウは、戦闘中フォーメーションの陣形を思い出していた訓練生、そして灰色フクロウは、思い出していた紫フクロウをフォローする為に陣形を崩していた訓練生だ。

 

 かなりキツイ言葉を交えているが、これも訓練中に荒削りしている箇所を矯正する為であり、地上での戦闘による思考転換の防止でもある。この訓練を突破できるかが、今後ニケとして生き続けられるか大きく変わる。

 

 

夏油(かなり粗が多い、3日...いや2日で治せるかどうかだな。)

 

ウンファ「...チッ、このマヌケが。これから模擬戦闘の環境をリセットする。

 ラプチャーの数、環境全てさっきと同じようにセットするから、今度は絶対に死ぬな。

 ...死なせるのもダメだ。」

 

フクロウたち「「「「「「はい、教官!!」」」」」」

 

 

 ウンファは机にあるボタンを押して、マイクを切り椅子に深く腰を落とす。頭を抱えながら模擬戦闘が映っているモニターを見ていた。

 

 

ウンファ「ふう...ゴミ屑共が。」

 

夏油「まだ彼女たちには、ニケになった事実を受け入れられてないようだね。」

 

ウンファ「分かっている。あのままだと訓練所からも出られないまま死ぬだろう。......」

 

 

 重くなっていた頭を上げて、腕を組んで改めてモニターを見つめるウンファ。何通りの環境パターンを訓練させて、癖を根掘り葉掘り探し出すつもりなのだろう。

 

 

ウンファ「取り敢えず、あいつらは就寝するまで1階で訓練させる。」

 

 

 付け足すようにウンファは夏油に声をかけながら、椅子を回転させて振り返る。

 

 

ウンファ「...あと、三流。お前はもう帰れ。ここにいても邪魔なだけだ。」

 

夏油「...面と向かって戦力外通告とは、かなり心に来るね。」

 

ウンファ「そうだ、お前がここでくすぶっていても何も出来ないだろう。あのゴミ屑たちの寸劇に混ざって()()()()()()でも演じる馬鹿でも無いだろう。」

 

 

 ウンファの言葉はかなり鋭く重い、しかしそれでいて正論でもある。事実、今フクロウたちを労っても対して変わらず、厳しい訓練は続く。

 

 寧ろ指揮官として異例でもある夏油は、これから任務を受けていく彼女たちにとって反面教師でもある。そしてウンファは見ていたモニターを指差す。

 

 

ウンファ「お前も目が見えているなら分かるだろう。あいつらは今、誰かを守りながら戦えるレベルじゃない。」

 

 

 モニターに映っているのは、ラプチャーの攻撃で陣形が崩れてしまったフクロウたち、リーダーを失って次々とHPが無くなっていく風景。今の状態を見る限り、自分たちを守る事で精一杯だ。

 

 

ウンファ「だから大人しく去れ。余計な真似をして私の仕事を増やすな。」

 

 

 そんな状態で、出張って守る事を意識させても統率が簡単に崩れていくだろう。ウンファが極端に指揮官を拒絶し、ここまで訓練生を鍛え上げようとするのも、まともな命令も出せない指揮官と行動しても、生き残れるようにする為に見える。

 

 ウンファはドアをに親指を指して、「出ていけ」とジェスチャーを伝える。その後直ぐに体を正面に戻してモニターを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウンファ「...あ、成程。赤いフクロウは緊張すると更に暴走するのか。...ベスティーかよ。

 

 灰色フクロウ...動線*2は粗いが、メンタルがいい。大胆な役割でも、任せたら上手くやり遂げるな。

 

 黄色いフクロウ...こいつは灰色と正反対だ。」

 

夏油「紫フクロウ赤いフクロウの相性がいいね。」

 

ウンファ「そうだな、前線は赤いフクロウで面で攻撃し、戦況が攻勢時なら紫フクロウが綺麗な動線を維持して攻撃、そして灰色フクロウを入れて一気に火力で畳みかければ...」

 

 

 モニター室に残って映像を何度も見返し、それぞれのフクロウの特徴を評価していたウンファ。一人で組み合わせについて考えている中、聞こえる筈のない声が聞こえて振り返る。

 

 

ウンファ「......」

 

夏油「や」

 

 

 追い出した筈の指揮官が戻ってきて、ウンファの隣で気さくに挨拶してきた。

 

 

ウンファ「...帰れといった筈だが。」

 

夏油「帰ったよ、今日は遅くなる連絡して、やる事やった後に直ぐに戻って来たんだ。

 『戻って来るな』なんて言われて無かったし。」

 

ウンファ「ガキかお前は。」

 

 

 子供のような理由で戻ってきた夏油に、ウンファは頭痛でもするのか頭を抱える。夏油はそんなウンファに気にせず、机に書き溜めている資料を見ていた。

 

 

夏油「それにしてもこの資料、凄く分かりやすいね。彼女たちの特徴がしっかり書かれている。

 私も途中から映像を見ていたけど、黄色いフクロウ白いフクロウを組んだ方が強みを表に出せる。」

 

 

 どうしたものかと頭を抱えている中、夏油がふと言った一言に反応して、驚きながら振り返るウンファ。

 

 

ウンファ「......待て。何を根拠にそんな適当な組み合わせを?」

 

夏油「君が作った彼女たちのプロフィール。」

 

ウンファ「......ちょっと目を通しただけで分かったというのか?」

 

夏油「それぞれの特性をベースにしてチームを構成、戦略を作るのは実戦の基本だから。」

 

 

 夏油の返答を聞いたウンファは、認識を改めてその実力を確かめる。

 

 

ウンファ「...ふむ。三流と言っても、そこまで能無しではなさそうだな。分かった。お前をテストしてみよう。

 さっきの判断が適当に選んだのか、それともお前の本当の実力なのか見極める必要がある。」

 

夏油(ウンファの資料が分かりやすかったのもあるんだけどね。)

 

ウンファ「そして、もしそれがブラフだったのなら。

 お前の望み通りフクロウたちと一緒にお前を仮想訓練室にぶっ込んで、死んで回数を覚えていられないくらい、きちんと教官の役割を果たさせてやろう。」

 

夏油「ご自由に。」

 

 

 脅しとも取れるウンファの条件を聞いても、夏油は動じる事なく直ぐに返答する。持っていた資料を机に戻しながら、ウンファに顔を向ける。

 

 

夏油「それで、私がやることは何だい?」

 

ウンファ「今残ってる映像が23個あるから、その半分を明日の朝まで分析して資料を作れ。

 

 フクロウたちの弱点、強み、どうすれば互いに補完できるか。それぞれのポジションや武器は適性に合っているか。

 

 そうやって編成し直した戦略で明日一日中、模擬戦闘をやらせた後に結果が良ければ明日の夜明けにまたこれをやらせる。数日寝ないくらい、ニケにはどうってことない。

 

 果たしてお前はついてこれるか? ()()()()()()よ。」

 

 

 疲労はするが眠気は来ない、ニケとしての強みであり、人間との違いでもある。きっと今までウンファと関わりのあった指揮官は、ついていけずにふるい落とされ、能無しと判定されてきたのだろう。

 

 しかし引くという選択肢は無い、向こうが走るならこちらも走り、走っても追いつけないなら更に速く走る。体力も精神力も、自分にある全ての力を総動員して。夏油は口角が上がり挑戦を受ける。

 

 

夏油「来れるさ。」

 

 

 自信のある返答に対して、ウンファも笑みをこぼして作業に取り掛かる。

 

 

ウンファ「...いいだろう。では私も容赦しないから、死ぬ気で自分の価値を証明してみろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、同じくモニター室でウンファと夏油、そしてフクロウたちの様子を見に来たイングリッドがいた。初日の戦闘映像を見て、2日の成果次第で使い道を断じるつもりで来たらしく、ウンファはこれから見せる結果を見せる為、2次公式模擬戦闘が始まった。

 

 

灰色フクロウ「...フォーメーションFF! 先頭は赤に任せる!」

 

赤いフクロウ「分かった、でも...本当に勝手にぶっ放してもいいの?」

 

灰色フクロウ「ああ。『照準の精度は気にしなくてもいいから火力だけに集中して突っ走れ』って。あの人格破綻者...いや、教官が。」

 

夏油(相当好き勝手言われた事に腹を立てていたんだな...)

 

赤いフクロウ「まあ...教官がそう言うならそうだよね。じゃあ、行くぞ!」

 

紫フクロウ「ひいい! ちょっと! まだ連携技の準備が終わってないのに!」

 

 

 陣形を取ったフクロウたちが、交戦で発生した爆風によって姿が隠れてしまう。イングリッドは腕を組んだまま、ウンファと夏油も見守るようにモニターを見続ける。

 

 

イングリッド「......」

 

ウンファ「......」

 

夏油(爆発に巻き込まれたように見えた...しかし。)

 

 

 静かに見守る中、モニター室に通信によるノイズが届き、咳き込み交じりのフクロウたちの声が聞こえてきた。

 

 

紫フクロウ「...こ、こちらアルファ部隊。全ての敵の沈黙を確認しました。

 味方の死傷者は...ゼロです。」

 

黄色いフクロウ「こちらベータ部隊。作戦目標を破壊しました。

 味方の死傷者、同じくゼロです。」

 

 

 通信端末から聞こえてきた訓練結果を聞いたイングリッドは、満足した表情を二人に見せる。

 

 

イングリッド「......これは...傑作だな。たったの1日で模擬戦闘の成果をここまで引き上げるとは。

 流石アブソルートのリーダー。お前にこいつらを任せたのは正解だった、ウンファ。」

 

ウンファ「...私1人でやったわけではない。」

 

 

 イングリッドは初日での状態からここまで成長した事に内心驚き、そして唸らせられた事にウンファは笑いながら夏油に指を指して答える。

 

 

ウンファ「この三流が微力ながら役に立った。」

 

夏油「本当に、微かでした。」

 

 

 実際夏油は銃を用いた戦略なんて、士官学校であったデータベースの戦略に、呪術高専と任務で培った我流の戦法を混ぜた程度の知恵しか無く、ウンファが作成した資料から、陣形や戦い方を参考にしてようやくできたのだ。

 

 ほぼおんぶにだっこと言っても差し支えない。

 

 

ウンファ「フン。だが、私はこの程度で満足しない。この訓練の最終目標は、地上戦での生存率100%だ。

 それはタワー10階未満の難易度とは比べ物にならない。だから今日も徹夜だ。」

 

夏油「今日も着いていけるよう、精一杯励みます。」

 

 

 夏油は両腕を伸ばしながら、これから来る訓練結果の分析に本腰を入れるため、体を解す。その後も訓練は続き、フクロウたちの動きが洗練され、気づけば午後11時になっていた。

 

 

ウンファ「奴らは全員就寝させた。私たちには5階から15階までの模擬戦闘の映像、25個が残っている。これを夜のうちに全部分析する。」

 

 

 そう言ってモニターに保存されたファイルを見せる。今日の模擬戦闘で一気に5階から15階まで駆け上がることができたが、目指すのは地上で言った通り10階以上の難易度になる。

 

 生存率を上げるためにも、更にチームの構成について解釈を広げる必要がある。

 

 

ウンファ「そしてもう1つ。明日、地上で実戦を行う場所に対する地形情報も、たった今プロトコールから送られてきたが、これも分析して作戦構想の参考にする。」

 

 

 説明しながら机にデータチップを置く。プロトコール部隊はアンチェインドの物質について調べる際に、モニターを務めたエクシアが所属する部隊で、戦闘区域を下見してきたのだ。

 

 すると忘れていた事を思い出したウンファは、加えて説明する。

 

 

ウンファ「あ、ちなみにこの作戦にはオペレーターがつかない。中央政府に申請したが拒否された。」

 

夏油「地上でこれから活動するには、オペレーターとの連携も必須だというのに...」

 

ウンファ「同感だ、『量産型ニケの実践訓練なんかにオペレーターを使うやつがいるか』と怒られたので、夜道には気を付けるように忠告して切った。」

 

 

 「戦力を増強させろと命令したのはお前らだろう。」という愚痴をこぼさず、ウンファは不機嫌になるが気持ちを切り替え、これから行う分析について話を再開する。

 

 

ウンファ「とにかく、2人で分担して全て終わらせなければならないのだが、お前はどっちをやる。」

 

夏油「地形情報の分析を担当しよう。」

 

 

 夏油は模擬戦闘の映像分析を戦略の引き出しが多いウンファに任せ、遮蔽物や足元が取られない地質を調べる地形情報の分析を選択する。ウンファは頷きながら、データチップを手渡し正面のモニターに顔を向ける。

 

 

ウンファ「よし、そっちはお前に任せる。...では始めよう。」

 

 

 分析を始めて気づけば1時間、何時間か分からない程集中している中、夏油は脳の倦怠感と昨日徹夜した眠気が、波となって意識を飲み込もうとする。

 

 

夏油(脳のリソースを一気に使うのは、以前経験はあったが、今回は疲労が蓄積するタイプだな。体が重く倦怠感を感じる。)

 

 

 モニター室には、ウンファが撮影した動画を見返しながら、パソコンにキーボードを打ち続ける音だけがある。夏油はキーボードを打つ手を止めて、この倦怠感を取り除く方法について考えていた。

 

 

夏油(...やってみるか。対象は私の脳、かなりデリケートだが考える部分は前頭前野*3、そこをに意識を集中させる。)

 

 

 雑念を取り除くように目を閉じて、自分の大脳にある前頭前野をイメージしながら、反転術式を流し込む。頭に圧し掛かっていた倦怠感が、少しずつ無くなっていき、目が冴えわたっていく。

 

 

夏油(かなり集中したけど、特に異常無し、倦怠感も無くなった。...これを術式と同時に発動し続けた悟は凄いな。)

 

 

 何度も瞬きや手のひらを開いたり閉じたりして、問題が無い事を確認しつつ、改めてピーキーな無下限呪術と同時に反転術式を発動していた五条に驚く。脳をリフレッシュしたことで、分析を再開しようとした時、キーボードを叩く空間から声が聞こえる。

 

 

ウンファ「チーム課題をやっていた時を思い出すな。あの時の教授はゴミのような奴だった。」

 

夏油「はい?」

 

 

 ウンファが作業を続けながら、こちらに話しかけてきたことに反応する。

 

 

ウンファ「あ、実は私はお前の古い先輩だ。」

 

夏油「...士官学校の卒業生だったのですか?」

 

ウンファ「そう。今はこうやってお前たちの尻拭いをやっているが、一時は私にも腕を磨いて地上奪還を果たすという夢があったのだから。」

 

 

 話し始めたのは、かつてニケになる前の記憶であり、夏油が過ごしていたであろう(本人に身に覚えはない)士官学校の卒業生だった事を明かす。

 

 

ウンファ「...今は大人しく諦めて、棺桶に突っ込んでおいたが。その夢を何とか叶えたくて、士官学校の附属図書館で何日も徹夜したり、お前のように能無しの...いや、お前より遥かに能無しのチーム員を率いてチーム課題をやったり。

 思い返せば、悪くない時間だった。」

 

夏油「それで...何があったんだ?」

 

 

 投げかけた疑問は、何故ニケとなったのか。士官学校であらゆる知識や技術を培い、そして任務や訓練を見てもその才覚は優れており、指揮官として有名になっていても不思議ではない。

 

 

ウンファ「指揮官になって、20回目の任務だったかな。経験があるとのたまう部隊を連れて地上奪還作戦に出たが、あの三流共、私の指示を全部無視しやがった。

 私を士官学校を卒業したばかりのヒヨコだ何だと言って、自分たちで支離滅裂に暴れ回って。10分もしないうちに全員死にやがった。あのラプチャーの魔窟に、私だけを残して。」

 

 

 指揮官とニケは、互いに協力する事で足りない箇所を補う事ができる。指揮官は戦略と柔軟な対応力、ニケは戦闘力を、しかしどちらか欠ければ非常に脆くなる。

 

 ウンファは実際にその状況に陥ってしまい、ラプチャーがいる区域に取り残されるという最悪のケースを体験したのだ。

 

 

ウンファ「...後は言わなくても分かるだろう。何とか生き残りたくて足掻いたが、ビーム砲にやられてあっさりと死亡。しかし、不幸中の幸いにエリシオンのニケたちに見つかって製造工場へ直行。」

 

 

 その後ニケとなって、任務をこなして来た過程で、様々な指揮官(後輩)に出会う度に、失望して期待しなくなったのだろう。聞いていて気分が良くなる話ではない。

 

 

夏油「すまない。」

 

ウンファ「何? 何でお前が謝る。」

 

夏油「余計な事を聞いたからだ。」

 

 

 ウンファは夏油の返答を聞いて、疑問を浮かべながら呆れた様子で答える。

 

 

ウンファ「...何だそりゃ。そんなに特別な話でも無い。」

 

夏油「だとしてもいい話では無い、私が無神経だった。」

 

 

 また大きなため息を吐きながら、ウンファは呆れた様子で話し続ける。

 

 

ウンファ「謝罪する前に、バカ後輩。もう目は覚めたか。

 疲れているからって、作戦でミスすると明日はみんな死ぬ。自覚はあるな?」

 

夏油「ああ、ありがとう。」

 

ウンファ「じゃあ、早く手を動かして終わらせろ。」

 

 

 口元がほころんだ表情を見せながら、ウンファはモニターに向いて作業に戻る。夏油も反転術式でリフレッシュした状態で、作業を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、フクロウたちの訓練最終日で地上にやって来た。それぞれ緊張感のある面持ちで、銃器を握っている中、ウンファからの通信音声が聞こえてくる。

 

 

ウンファ「...フクロウたち、注目。これから地上での実践訓練を開始する。作戦の目標は研究所支部内での生存。」

 

 

 声掛けの後に、最終訓練の概要をそのまま続けて説明する。

 

 

ウンファ「現在、6機のドローンがお前たちをモニタリングしていて、その映像を臨時キャンプにいる私と夏油教官、そしてアークのイングリッド社長がリアルタイムで見ているが、例えお前たちが死の危機に陥っても私たちは絶対に助けない。

 ...正確に言えば、その程度で死ぬ落第者は見捨てるということだ。では、これから3時間、必死に足掻いてみろ。...以上。」

 

 

 通信を切って作戦が開始され、フクロウたちが周囲の警戒を始める。夏油とウンファ、イングリッドはその様子をモニターから見守っている。

 

 

夏油「この周囲に出没するラプチャーの戦闘力は高くない、難無く突破できるはずだ。」

 

ウンファ「当然だ。変数を片っ端から考慮し、プランAからプランCまで用意したのに生き残れないなら、それこそ真のゴミ屑だ。

 ラプチャーの餌になっても文句は言えない。」

 

 

 その後難なくフクロウたちは、ラプチャーを対処してダメージも、2時間経過時点で平均で10%未満を維持する成果を見せた。訓練が終了する30分前に、ドローンが映している地面に対し、ウンファは違和感を感じた。

 

 

ウンファ「...三流。ちょっと来い。」

 

夏油「ああ。」

 

 

 フクロウたちの様子を見ていた夏油を、ウンファは呼んでドローンが映している地面を指す。

 

 

ウンファ「お前には何に見える。」

 

夏油「これは...ラプチャーの足か。」

 

ウンファ「そうだ。...あれはロード級のラプチャーだ。

 こんな所にいるような奴じゃないのに、フクロウの匂いを嗅いで来たんだ。...オペレーターさえいたらとっくに対処していたのに、能無しな中央政府の奴らのせいで大事(おおごと)になった。」

 

 

 映っている地面を指差ししながら、ラプチャーが潜んでいる範囲を伝えて、その規模からロード級と判断した。地形情報に記録されていた中に、ここ最近現れたラプチャーを確認した夏油は、対処出来ないと断定する。

 

 

夏油「ロード級ラプチャーなど、この訓練では想定されていない。」

 

ウンファ「ああ、クソっ。こういった状況に対処できるように申請を...」

 

 

 ウンファの愚痴を遮るように、モニター画面から爆発音が響き、続けてフクロウたちから悲鳴が聞こえる。

 

 

灰色フクロウ「青いフクロウ! 教官たちに貰った資料の中に、こんな状況の対処法は無かった?」

 

青いフクロウ「ロード級以上については...書かれて無かったのに!」

 

 

 地面から現れたロード級に対面し、リーダーを務めていた青いフクロウが、対処法を聞かされていないことを応戦しながら嘆く中、ビーム砲から放たれた音と共に、血液を散らしながら腕が宙に舞う。

 

 

紫フクロウ「きゃああ! う、腕が、私の腕が...!」

 

赤いフクロウ「きょ、教官! 副教官! 聞いていますか? 助けてください。お願いします!」

 

 

 殆ど傷が無かったフクロウたちが、みるみるうちに四肢の一部が欠損するほどの被害になり、部隊は混乱して統率が崩れていく。この状況に悪態をつきながらも、何もできない歯痒さを感じているウンファは睨むような視線をロード級ラプチャーに向ける。

 

 

ウンファ「...くそっ。最後の最後まで世話の焼ける奴らだな。」

 

夏油「私たちが救助しよう。」

 

 

 隣から聞こえた言葉に、理解できない様子で訓練の内容を伝えながら返答する。

 

 

ウンファ「...馬鹿なことを言うな。言葉で指示するだけならまだしも、私たちが区域内に入った瞬間、あのフクロウたちは失格だ。」

 

夏油「それなら問題ない。」

 

ウンファ「...は? 分かるように言え。」

 

 

 勝手に話を進める夏油に、何を考えているのか分からないウンファは、その考えについて説明を求める。

 

 

夏油「私たちが入れないのなら、フクロウたちを指揮して奴を範囲外に追い出せばいい。『試験区域外のラプチャーに攻撃するな』なんて規則は無いからね。」

 

ウンファ「...確かに、研究所と教官キャンプの間はたったの450m。ロード級を場外に出した瞬間、私が狙撃できる。」

 

 

 訓練会場である研究所は室内で、室内から外に、つまり範囲外に追い出せば、キャンプにいるウンファの射程距離内になる。ここで訓練会場から外に追い出す作戦で、新たな問題が浮上する。

 

 

ウンファ「...しかし問題は視野だ。今ドローン6機は、全てフクロウたちに固定されている。

 遠距離で指示を出すには、その半分だけでも操作して視野を確保しなければならない。」

 

 

 6機のドローンの位置は、6人いるフクロウたちに固定されており、そこから周囲の状況の把握に、追い出す位置の確認に、最低でも半分を視野として使うしかない。全機使えば、フクロウたちの状況が分からず、かといって半分未満だと視野の確保に時間がかかる。

 

 

ウンファ「だが、それができる人員は今...」

 

夏油「私ができる。」

 

ウンファ「...は?」

 

 

 夏油が提案した作戦に対して、ウンファは呆気に取られたような表情で、夏油は続けてドローンを動かす役を進んで受ける理由を話す。

 

 

夏油「士官学校時代に教養で習った事があるんだ。だから指揮はウンファに任せたい。

 (本当はデータベースにあった情報から学んだんだけどね。)」

 

ウンファ「...は? 現場の指揮はニケに任せて、自分は補助役に回ると? 数え切れない程の能無し三流を見てきたが、お前のような変わり者は初めてだ。」

 

 

 指揮官としての役目を放棄すると同義な作戦を聞いたウンファは、改めて有り得ない様子を見せた。今まで対面した指揮官は、ニケたちの考えを無下にし特攻や攻撃を命令していた人物が多かった為、心底変わり者なのだと認識する。

 

 しかし、その表情は嫌悪や侮蔑ではなく、ほころんでいた。

 

 

ウンファ「だが、お前らしくない、素晴らしい判断だ。」

 

 

 すぐさまウンファはキャンプにあるマイクを強く握り、フクロウたちに呼びかける。

 

 

ウンファ「...フクロウたち。」

 

黄色いフクロウ「うああん...うあああん...教官...」

 

ウンファ「子供みたいに泣くな。これから全員、私の指示通り動け。

 生き残りたければ僅かな誤差も許さず、命令通りに動くんだ。」

 

フクロウたち「「「「「「...はい、教官!!」」」」」」

 

 

 被害はともかくフクロウたちが全員生存している事を確認した後、ウンファはモニターの右隣にいる夏油に視線を向ける。

 

 

ウンファ「...三流。ドローン操作はまだか。」

 

夏油「研究所の地上2階を今映す。」

 

 

 フクロウを映していた1機のドローンを、非常階段の上に移動させると、10機あまり密集しているラプチャーが映される。

 

 

ウンファ「...エネルギー型ラプチャーか。あれを利用しよう。

 赤いフクロウ。天井を撃ちまくれ。黄色いフクロウはその下にデコイを撒け。

 残りは散開。」

 

フクロウたち「「「「「「はい、教官!」」」」」」

 

 

 赤いフクロウが天井に向けて攻撃を開始、散開したフクロウは攻撃を躱しながらラプチャーに攻撃、黄色いフクロウはその間にデコイを周囲に設置する。

 

 赤いフクロウの攻撃によって天井からエネルギーラプチャーが落下し、黄色いフクロウが設置したデコイにロード級ラプチャーのビーム砲に当たった事で爆発する。連鎖するように、上から落下してきたエネルギーラプチャーも爆発する。

 

 

ウンファ「...これで10秒稼いだな。三流、次のを映せ。」

 

夏油「誘い出す研究所の出入口を映す。」

 

 

 フクロウに視点固定した後、出入口に近いフクロウのドローンを移動させて、教官キャンプに最も近い出入口を映す。

 

 

ウンファ「...教官キャンプと最も近い出入口か。7時方向、距離は90m。

 経路上のラプチャーは23機。」

 

 

 ドローンが映した映像から確認したラプチャーの数と、夏油から伝えられた地形情報を元に23機のラプチャーを撃破する戦略を組み上げる。

 

 

ウンファ「...よし。経路は把握した。

 黄色いフクロウ、今から私が転送する座標の上に地雷を撒いておけ。」

 

黄色いフクロウ「は、はい。教官!!」

 

ウンファ「青いフクロウは2階へ上がれ。狙撃ポジションを取って、黄色いフクロウを援護しろ。

 白いフクロウは踊り場でガードするんだ。上の階にはラプチャー1機も通させるな。」

 

フクロウたち「「「「「「承知しました、教官!」」」」」」

 

 

 指示を終えたウンファは、最後のドローンを動かすように声を掛け、夏油も同時にドローンをロード級ラプチャーが映るように移動させる。

 

 ロード級ラプチャーは怒涛の勢いでフクロウたちを迫っており、経路を離脱しそうになるが黄色いフクロウが撒いておいた地雷が爆発し、逸れる道を遮断する。ウンファもモニターに映るロード級ラプチャーを見ながら狙撃する準備を整える。

 

 

ウンファ「残り約30m...10m...」

 

 

 研究所の外に現れたロード級ラプチャーから、機械音が直接耳に届く。

 

 

ウンファ「よし! 奴が外に出た!」

 

 

 遅れてラプチャーは教官キャンプを見つけ、機体の向きを変えた先には、狙撃態勢に入っているウンファがカメラを捉える。

 

 

黄色いフクロウ「きょ...教官! 今、ラプチャーが...

 教官キャンプへ、とっ、突進しようとしています!!」

 

 

 モニターで見た勢いと同じように、ラプチャーが地面を掘り返しながらこちらに向かってくる。2階にいた黄色いフクロウが、研究所の非常階段からウンファに叫んで伝える。

 

 しかし返ってきたのは、冷静にこの状況を迎え入れたウンファの声だった。

 

 

ウンファ「構わない。シナリオ通りだ。」

 

 

 発せられている戦闘音をかき消すように、発砲音と共にウンファの銃口から炎が煌めき、同時に巨大な爆発がロード級ラプチャーを飲み込む。コアが綺麗に撃ち抜かれ、炎上しているロード級ラプチャーは動かなくなる。

 

 

黄色いフクロウ「......ロ...ロード級ラプチャー。沈黙確認。」

 

 

 ロード級ラプチャーが爆散する様子を見ていたフクロウたちは、応戦しても動きを止められなかったロード級をいとも簡単に撃破したウンファの力を目の当たりにし、驚愕していた。

 

 黄色いフクロウは驚愕したまま、通信を通してロード級ラプチャーが止まった報告をした後、イングリッドからの通信が入る。

 

 

イングリッド「...ちょうどカウントダウンも終わったな。実戦テストは終了だ、フクロウたち。

 ...いや、もう一人前のニケたちと呼ぶべきか。」

 

夏油「お疲れ様です。」

 

イングリッド「フクロウたちもだが、ウンファと夏油もご苦労様だった。労いは後で、アークでしよう。」

 

 

 訓練参加者を全員労った後、イングリッドは通信を切る。へとへとになったフクロウたちが、教官キャンプで合流する。

 

 

黄色いフクロウ「...お、お疲れ様でした、教官。」

 

赤いフクロウ「副教官もです!」

 

紫フクロウ「そ、その、助けて下さって、本当にありがとうございます。ブリーフィングの時、救助は絶対に無いと仰っていたので...グスッ

 このまま死ぬとばかり...グスッ、思っていました...」

 

 

 フクロウたちはそれぞれ労ったり、安堵したり、すすり泣く者もいるが、ウンファはいつもと同じ調子で伝える。

 

 

ウンファ「...昼間から夢でも見たのか? この能無したちが。私はお前たちを助けた覚えは無い。

 呼んでもいないロード級が空気も読めずに飛び出したもんだから、防御の為に処理しただけだ。」

 

 ウンファの説明に理解できない様子のフクロウたちは、思わず声をこぼす。

 

紫フクロウ「...は、はい?」

 

夏油「原則としてやってはいけないことだったからね。」

 

 夏油の発言を聞いたフクロウたちは、行動の意図を悟りしばらく互いに見つめ合い、リーダーの青いフクロウが前に出て二人に伝える。

 

 

青いフクロウ「...どういう意味か、理解しました。ですが...無かったことにしろと言われても、私たちは一生忘れません。

 2泊3日、本当にありがとうございました、教官。」

 

 

 青いフクロウに続き、他のフクロウたちも深々と頭を下げて感謝を伝える。

 

 

赤いフクロウ「あ、あの、教官...! もし任務中に会ったら、挨拶してもいいですか?

 ダメなら手紙でも...!!」

 

灰色フクロウ「すーごく嫌がられるんじゃない? 教官の性格だと。顔をしかめて()()()と仰るはず。」

 

 

 灰色フクロウの発言に、ウンファは顔をしかめながら2人に向かって言う。

 

 

ウンファ「うるさい。無駄口を叩く余裕があるなら、アークへ下りてそのボロボロの手足でも取り換えておけ。」

 

灰色フクロウ「そうします、教官。」

 

赤いフクロウ「へへ...でも、これも私たちを心配しての言葉ですね?」

 

ウンファ「...水に溺れても口だけ浮きそうな奴らだな。」

 

夏油「......」

 

 

 ウンファは呆れた様子でフクロウたちに離していたが、アークに向けて帰還する際、ウンファの表情は僅かに微笑んでいた。フクロウたちからは見えなかったが、夏油は一瞬だけ見ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6人のフクロウたちは無事にニケとなり、修理を受けられるようにアークへ下ろした後、夏油はウンファに呼ばれて何も言わずについていく。

 

 

ウンファ『黙ってついて来い。何も聞くな。』

 

 

 その言葉は命令口調ではあるが、確かにお願いでありプライドの高いウンファが誰かに何かを頼むのは非常に稀なことだ。ウンファについていき、しばらくすると地上に出る。

 

 そこは地上では珍しくない、荒れた廃墟が広がっており大規模の戦闘があった事を知らしめる、ニケとラプチャーの破片と崩れた瓦礫、何故ここに連れて来たのか尋ねる前に、ウンファはゆっくりと話し始める。

 

 

ウンファ「...ここは墓だ。士官学校を首席で卒業し、しばらく将来が期待される人材として活躍したが、屑のような部下たちの下剋上で犬死した

 

 ある()()()()()()の墓。」

 

夏油「......」

 

 

 ウンファの口ぶりから、最終訓練前のデータ解析の時に話した内容の事を話した事だと察した夏油は、終わるまで静かに話を聞き続ける。

 

 

ウンファ「ここに来ると凄くムカムカすると思ったが、実際来てみたらかえって...少し気が楽になった。」

 

夏油「...理由を聞いてもいいかい?」

 

ウンファ「...やっと、可能性が見えたからだ。私が諦めざるを得なかった地上奪還の夢を、もしかしたら違う方法で叶えられるかもしれないという。」

 

ウンファ「この2泊3日でお前が見せた根性、判断力。チームメンバーに対する分析力。全部私の基準から見て悪くなかった。

 他の指揮官たちと比べると...家畜と人間ほどの差がある。」

 

夏油(か...家畜...。)

 

 

 任務では見られなかったウンファの側面を目撃した夏油だが、評価がかなり厳しく口がキツイところは元からなのだと感じる中、ウンファは話し続ける。

 

 

ウンファ「勿論完璧とは言えないが、士官学校を卒業したばかりの青二才に、多くは望まない。...つまり私は、お前を私の指揮官として認めると共に、同じ目的を目指す仲間として受け入れる、ということだ。

 勿論、これからもお前が今のような器量を維持し、地上を奪還する為に努力する事が前提だが。」

 

夏油「最初に会った任務の時から、私の事が嫌いだと思っていたんだが。」

 

ウンファ「それは...すまなかった。」

 

 

 エリアHでの任務で、かなり強く当たってしまった事を思い出し、ウンファは申し訳なさそうに顔を逸らして謝罪する。

 

 

ウンファ「これまで経験した指揮官はみんな支離滅裂だったから、例外があるとは思えなかった。......

 もう少し早く気づいていればお前と私も、もうちょっとマシなスタートができただろうにな。」

 

 

 顔を俯いているウンファに対して、夏油は前に立っているウンファに並んで、その表情は明るく前を見据えていた。

 

 

夏油「これから変わればいいさ、今回の一件で変えられるきっかけが作れたんだ。」

 

ウンファ「そうだな...未来はこれからいくらでも変えられる。」

 

 

 夏油の言葉を聞いたウンファは顔を上げ、改めて訪れた崩れた廃墟を一瞥し、今まで抱えていた悩みを捨てて、粗末事だったかの如く清々したような表情で振り返った。

 

 

ウンファ「...もういい。アークへ帰ろう。」

 

夏油「ああ、帰ろう。」

 

 

 ウンファの表情を見て、これ以上ここにいる必要は無いと判断した夏油は、再びウンファについていき、乗ってきたアーク行きのエレベーターに向かう。

 

 

エマ「...あら、ようやく来た!」

 

ベスティー「し、指揮官様も一緒...!」

 

 

 エレベーター前に立っていたのは、同じアブソルート分隊のエマとベスティー、何か用事があって待っていたと見られる。

 

 

夏油「ウンファを迎えに来たのかい?」

 

エマ「ふふ、そうよ。丁度今日、ウンファの教官の仕事が終わると聞いて。サプライズで2人で来ちゃった。」

 

ベスティー「エ、エマ...違う...次の任務がここから近くて...こ、ここで合流しようとしただけでしょう。」

 

 

 真意を明かされたエマは、うっかりした様子を見せているが、ウンファはベスティーの口から出てきた任務から、直ぐにその概要を説明を求める。

 

 

ウンファ「...次の任務? 場所はどこだ?」

 

エマ「旧研究所の敷地周辺、あなたが行ってきたばかりのあそこ。...聞けばフクロウたちの実戦訓練中にロード級が乱入したって?

 普通、見慣れないレベルのラプチャーが登場した場合は、核となるタイラント級が近くに巣を構えている可能性が高いから。」

 

 

 ロード級はラプチャーの階級でヘレティックを除けば上から二番目に位置するラプチャー、加えて下級のラプチャーも訓練場となった研究所に集結していた。そうなると、付近の残存勢力にタイラント級ラプチャーが居てもおかしくない。

 

 

夏油(あの時早めに退出したのは、この為か。)

 

ウンファ「...イングリッドは見逃さないつもりだな。」

 

エマ「そう。それで私たちに調査任務が降りたの。だから、指揮官。

 私たちがウンファを借りてもいい? 2人で打ち上げの予定でもしていたなら、ごめんね~」

 

夏油「任務だから仕方ない。」

 

 

 夏油の返答を聞く前に、ウンファはエマたちのもとに向かって目的地に向けて移動し始める。ベスティーも後に続き、エマは振り返りながら手を合わせて夏油に感謝を伝える。

 

 

エマ「ふふ、ありがとう~。代わりに後で私からデートを申し込むように言っておくから。」

 

ウンファ「...エマ。何をふざけた事を言っている。」

 

 

 先に進んでいたウンファが思わず振り返るが、直ぐに前に向き直り進み続ける。エマも追いかけるように駆け出して、仲睦まじく話しながら遠ざかっていく。

 

 夏油もアーク行きのエレベーターに向かっていき、閉ざされている扉を開く。

 

 

エマ「...それで? 教官の仕事はどうだった? 楽しかった?」

 

ウンファ「......思ったよりは。」

 

エマ「まあ、意外ね! 指揮官と一緒だって聞いてずっとケンカばかりしていると思ったのに~」

 

ベスティー「で、でも指揮官様は、誰かとケンカしたりしない。」

 

ウンファ「...そんなのは興味ない。新しい任務の資料を寄越せ、行く間に予め作戦を立てておくから。」

 

エマ「もう~話を逸らさないで。私たちにも詳しい話を聞かせてよ。」

 

 

 多くを語らず話題を変えるウンファに対して、エマは訓練での出来事について深く追及し、ベスティーも興味津々な様子で見つめる。そんな2人を他所に、ウンファは相変わらず素っ気なく返し続ける。

 

 

エマ「フクロウたちには親切にしてあげたそうじゃない。部隊の仲間にも親切にしてよ~」

 

ウンファ「本当に何も無かったと言っている。」

 

エマ「指揮官は?」

 

ウンファ「アイツが何だ。」

 

エマ「意外といい人だよね?」

 

ベスティー「や、優しい人だよね?」

 

 

 絶えず夏油に対する追及が止まらないエマとベスティー、今日までの出来事を思い出したウンファは、二人の追及から避けるように顔を逸らす。逸らしたウンファの顔をエマが覗き込むように見つめる。

 

 

ウンファ「...知るか。」

 

エマ「あら? 顔が真っ赤になってる~。そんなに気に入ったのなら、別れ際に優しく挨拶してあげたらよかったのに~。」

 

ウンファ「......」

 

 

 エマの発言を聞いたウンファは、エレベーターの方向を振り返り声を放つ事なく夏油に伝える。その表情は晴れやかで、ついて来るよう頼んだ時とは打って変わって明るかった。

 

 

「ありがとう」

 

「夏油傑。」

*1
前の二つの数字足し続ける数列であり、

13世紀のイタリアの数学者レオナルド・フィナボッチが見つけた。

*2
弾道のこと

*3
大脳の最前部にある部分であり、

思考や判断、創造や記憶する機能を持つ。




 気づいたらこんなに長くなってしまった...読み疲れてしまったらすみません。

 長かった閑話も、今回の話でひと段落です。次回から再び本編に戻ります。



にけ さんぽ




 訓練後に向かったウンファたちが問題なく任務が終わった後、エマの提案で打ち上げをすることになり、ウンファたちが暮らしているマンションに移動していた。


エマ「そんなことがあったのね~。」

ベスティー「ウ、ウンファも、指揮官様も、お疲れ様。」

夏油「ありがとう、ベスティー。」

ウンファ「別に苦では無かった、微力だがコイツが力になったからな。」

エマ「もう、ウンファったら正直じゃないのね。」

ベスティー「でも、凄いことだよ。」

夏油「これからも精進していかないとね。そう言えば、打ち上げと言っていたけど何をするんだい?」

エマ「気になっちゃう? 丁度作り置きしていたご飯があったのよ~♪」

ウンファ「......」

ベスティー「......」

夏油「......」

エマ「今日は二人とも頑張って、凄くお腹減ってると思ったからいっぱい作ったのよ~♪」

ウンファ(ベスティー...何故知らせなかった...。)

ベスティー(わ、私も知らなかった...!)

夏油(私たちを驚かせる為に作ったのだろう...どうすれば...)

ウンファ(何か理由を付けて断るしか...)

エマ「とうちゃ~く♪ 今日は特製カレーよ~♪」

ウンファ「訓練の件で用事があった事を忘れていた、行くぞ。」

夏油「そうだったそうだった、うっかりしていた。」

ベスティー「わ、私もやる事思い出したから、終わらせてから帰るね。」

エマ「今日はこんなに遅いし、明日でいいんじゃない?」

ウンファ「......」

ベスティー「......」

夏油「......」

エマ「さあ早く入ってご飯を食べましょ~♪」


 エマが夏油の手を掴み、扉へと案内しようとする瞬間、夏油がウンファを、ウンファがベスティーの手を掴んで、人間綱引きのような絵面になる。


ウンファ「貴様っ、どういうつもりだ三流、離せ。」

夏油「嫌だ! また一人で夕食(劇物)を食べるのは!!」

エマ「そうよ~今日こそは皆で食べましょ~?」

ウンファ「『私の事は構わず行け...』とか言えないのかお前は。」

ベスティー「私に構わず食べて逝って二人とも。」

ウンファ「ふざけるな貴様も道連れだ。」


 その後結局マンションに入っていった3人は、エマの料理にただ頷くことしかできず、寸胴鍋に入ったカレーを何とか完食した。


真人「そんで3人仲良く腹を痛めたとさ。」
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