特級呪術師のデストピア   作:クモッ!

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 Youtubeのアニメタイムズで無料話配信中のデスノートを見て、また熱が戻りアニメを見るこの頃、思わず小説を書く手を止めて、小説を書くためにアニメを止めています。


取引

 シージペリラスの罠を潜り抜け、集まったラプチャーを殲滅した夏油たち。戦闘で通信できなくなった電波塔を離れ移動していたが、20を超える人数で列を作っている量産型ニケ部隊を率いた、トライアングル分隊が立ち塞がる。

 

 

プリバティ「止まりなさい。」

 

アニス「地上まで着いてくるなんて、すごい情熱ね。」

 

 

 地上まで追跡してきたプリバティたちに向けて、アニスはため息混じりに呆れている。意に介さずプリバティは、マリアンに課せられている罪状を述べていく。

 

 

プリバティ「...ニケ マリアンに対し、ラプチャーとの内通に加え、ニケに脅迫した疑いが追加されました。」

 

アニス「先に脅迫したのはどっちよ。」

 

ネオン「私たちは正当防衛した事を主張します!」

 

プリバティ「中央政府はこれを深刻な犯罪と判断し、ニケ マリアンの緊急連行を命じました。

 任務を遂行しニケ マリアンを確保する過程で、目標人物以外は射殺してもいいとの命令を受けています。」

 

 

 シージペリラスに対して銃を向けた事を罪状として追加し、遂には夏油たちの射殺許可も降りてしまう状況になった。

 

 隊列を組んでいる量産型ニケは銃を突きつけ、いつでも攻撃できるよう構える。

 

 

プリバティ「最後の勧告です。大人しくついてきてください。」

 

 

 張り詰めた空気の中、ラピはプリバティに、この行動に対する意図について尋ねる。

 

 

ラピ「...何故ここまでするの?」

 

プリバティ「はい?」

 

ラピ「この逮捕劇は理不尽な事だらけだし、貴方もそれは知っているでしょう?

 中央政府の命令なら、何の疑問も持たずにただ従うだけなの?」

 

プリバティ「......」

 

 

 マリアンの連行は、シージペリラス分隊の強襲や、特殊別働隊の権利を無視するような過剰攻撃など、一分隊に対して行うものではない。また、ラプチャーとの内通疑惑も、エリシオンの結果報告書を見れば分かる事を、信頼性に欠けるという名目で連行するように命令を受けた。

 

 中央政府が下した強行に、プリバティは答えを出す。

 

 

プリバティ「はい。私たちは誇り高きトライアングルですから。」

 

ラピ「何も考えず命令に従えば誇りが生まれるようね。楽だこと。」

 

プリバティ「貴方...!」

 

 

 ラピの発言に憤り、思わず踏み出したプリバティを、ユルハが肩を掴んで止める。

 

 

ユルハ「ねえ、プリバティ。相手にしないで、やるべきことをやるわよ。」

 

アドミ「プリバティは口喧嘩が弱いです。話し合ったって負けるだけです。」

 

 

 アドミがボソッと言った文言にムスッと怒るプリバティだが、ユルハの言葉で落ち着きを取り戻し、ラピに自身の思いを打ち明ける。

 

 

プリバティ「...ラピ。殺したくないんです。

 降伏してください。マリアンさえ渡してくれれば、何も起きませんから!」

 

ラピ「それは私が決める事ではないわ。」

 

 

 プリバティの必死な訴えに対して、ラピは短く返す。視線は夏油に移りマリアンに身柄を明け渡すように呼びかける。

 

 

プリバティ「...指揮官。じゃあ、説得して下さい!」

 

夏油「参考程度に聞くが、マリアンを君たち(中央政府)に渡したらどうなる?」

 

プリバティ「それは当然、中央政府の保護の元で...」

 

アドミ「まず体を開けるでしょう。」

 

 

 プリバティの発言を止めるように、アドミが被せて中央政府の思惑を話す。アドミの発言に、プリバティは動揺し、ユルハは眉を顰め、マリアンは胸に当てていた両手に自然と力が加わる。

 

 

ユルハ「アドミ、余計な事言わないで。」

 

 

 ユルハが制止するが、無視してニケとラプチャーが融合した事例がこれまでに無かった事、簡単な検査でニケの身体のスペックを遥かに上回る事、アークの技術力では突破不可能の情報が入っているブラックボックスが4つ存在する事を伝えた。

 

 アークに無い技術が現状で4つ、更に解明されていない階層の分からない深層に、未知の技術が無数にあると考えられる。

 

 それほどまでに、マリアンの体に詰め込まれている情報は、人類にとって喉から手が出るほど希少なものなのだ。

 

 

アドミ「マリアンを開けるのは当然な手順でしょうね。」

 

ユルハ「...貴方ね。」

 

アドミ「それだけでは終わらないと思います。部品の一つ一つ、構成物質の一つ一つまで全部調べるでしょう。

 

 大勢の人が確信していました。マリアンによってアークの技術力が100年は進歩すると...

 

 それだけ重要な人だということです。」

 

ユルハ「そこまでよ。それ以上言わないで。」

 

 

 思わずユルハは振り返って、アドミを止める。マリアンの犠牲によって、人類の技術進歩が一世紀進むとある技術者は公言した。

 

 言うなれば、主力エネルギーが蒸気機関から原子力に、移動手段が馬から自動車に、タイプライターからノートパソコンに急に進化するほどの技術革新がもたらされる。

 

 プリバティはアドミの行動に、気持ちをグッとこらえる。

 

 

プリバティ「...喋り過ぎたみたいですね。」

 

アドミ「すみません。でも指揮官に噓はつきたくありませんでした。」

 

プリバティ「それは...私も同じ気持ちですけど...」

 

 

 正直に話したアドミと、立場と自分の気持ちに板挟みになっていたプリバティ。

 

 中央政府から命令された作戦が頓挫して、こうなることを予見していた様子のユルハは、中央政府の思惑を聞いた夏油にどうするのか尋ねる。

 

 

ユルハ「...それで、どうするの?」

 

夏油「その話を聞いて、『はいそうですか』でマリアンを渡すと思うのかい?」

 

ユルハ「でしょうね。...プリバティ。」

 

 

 夏油の言い分に納得を示し、ユルハは与えられた任務の責任を全うする為、プリバティに視線を向ける。顔を伏せるが前に出て、隊を作っている量産型ニケに指示を送る。

 

 

プリバティ「全員、戦闘準備。現時点より交戦に入ります。」

 

夏油(やはりこうなったか...)

 

マリアン(指揮官...どうしましょう。)

 

夏油(使いたくなかったが、呪霊の術式を使う。)

 

アニス(この状況を回避する術式があるの?)

 

 

 プリバティが指示を送っている間、夏油たちはこの状況を打破する方法について話し合っていた。

 

 

プリバティ「更に、実弾の使用を許可します。目標のマリアンを確保することを優先してください。

 彼女(マリアン)以外は...射殺しても構いません。」

 

ユルハ「...ラジャー。」

 

アドミ「...はい。」

 

ネオン(例えば...銃火器が使えなくなる術式ですか?)

 

夏油(違うが、狙いは同じ。)

 

ラピ(無力化を狙うんですね。)

 

 

 それぞれ装填していたシリンダーを交換して、ゴム弾から実弾に変更する。武力を行使する彼女らに対し夏油の狙いは、呪霊の術式を使って制圧することではない、あくまでもプリバティたちを無力化すること。

 

 穏便に済ませたいという気持ちはあったが...その中に全く別の感情が夏油の中でミキサーのように渦巻いていた。

 

 

夏油(潮時か...思ったよりは長かったな...)

 

プリバティ「エンカウンター。」

 

 

 プリバティの合図を受けて銃口を向ける量産型ニケ、対してラピたちもゴム弾が装填された銃口を構え、夏油も右手を下げたまま黒い渦を生み出し呪霊を呼ぶ準備を済ませる。

 

 両者の間に張りつめた空気が漂い、攻撃が始まるその刹那。双方の攻撃を止める号令がかかる。

 

 

シフティー「全員。武器を下ろして待機してください。」

 

プリバティ「!!」

 

ラピ「シフティー?」

 

夏油「......。」

 

 

 突如通信できなかった筈のシフティーが、ホログラム越しにプリバティたちと夏油たちの攻撃を収める。量産型ニケは、シフティーの命令を聞いて武器を収めるか話し合っている中、プリバティはシフティーの命令を聞き入れない。

 

 

シフティー「繰り返します。全員、武器を下ろして待機してください。」

 

プリバティ「拒否します。この作戦は副司令官直属の命令...」

 

??????「私から話そう。」

 

 

 ホログラムから聞こえてきたのは、男性の声。夏油ではなく、副司令官であるアンダーソンだった。

 

 プリバティは映し出されたアンダーソンの姿を見て驚愕し、夏油は密かに口元が緩んでいた。

 

 

プリバティ「ア、アンダーソン副司令官様?」

 

アンダーソン「副司令官直々の命令だと言ったか。」

 

プリバティ「そう...ですが。」

 

 

 この状況で現れたアンダーソンに、動揺を隠せないプリバティはしどろもどろになって応対する。そしてプリバティと同様に、マリアンやラピもこのタイミングで現れたアンダーソンに驚いていた。

 

 

マリアン(アンダーソン副司令官...シフティー...)

 

アニス(というか、通信できなかったんじゃ...?)

 

ネオン(師匠が言っていたから間違いない筈です。)

 

ラピ(中央政府の異常な動きに気付いたのかしら。)

 

夏油(摘み取るには、まだ早いということかな。)

 

アンダーソン「バーニンガムの命令なら、たった今取り消された。

 だから皆、アークへ撤退するように。」

 

 

 それぞれアンダーソンが現れた理由について考えている間、任務が取り消され撤退するように命令されたプリバティが落ち着きを取り戻す。

 

 

プリバティ「...申し訳ありませんが、アンダーソン副司令官様。副司令官様は特殊別働隊を積極的に支援されていると聞いています。

 その場しのぎの言葉かもしれないと思われます。」

 

アンダーソン「私が噓を言っていると?」

 

 

 アンダーソンの口から放たれる言葉に、少しずつだが怒気が強まっていく。疑っていたが本能的に察知したのか、思わず息を吞むが食い下がらない。

 

 

プリバティ「...要約すれば、そうです。」

 

アンダーソン「バーニンガム。君から言ってくれるか?」

 

 

 怒気を含んでいた雰囲気から一変、溜息をこぼしてプリバティに命令を出した副司令官に止めるように呼びかける。

 

 するとアンダーソンが映っているホログラムから、すぐ隣に新たに酷くこぶが膨らんで元の顔が想像できない口ひげが生えた小太りな人物のホログラムが映される。

 

 

バーニンガム「み、皆撤退...するように...うっ!」

 

プリバティ「??」

 

 

 ホログラムに映されたバーニンガムという男は、命令を出したニケたちを必死に呼び止め、プリバティやラピたちはどのような経緯があって、彼の顔が悲惨なことになったのか分からず困惑する。

 

 ただ夏油はおおよその推測を立てていたが、バーニンガムの怪我を見てアンダーソンに過剰ではないかと考えていた。

 

 

夏油(少しやりすぎじゃないかな? 同情はしないが。)

 

アンダーソン「聞いたか。」

 

プリバティ「どういう状況なのか、お聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

アンダーソン「大したことじゃない。()()同士、()()()()()だけだ。

 そうだな。バーニンガム?」

 

バーニンガム「そう、そうだ...! そうだとも、ああ。」

 

 

 バーニンガムという男は、心底アンダーソンに怯えた様子で答えていた。一体どれだけ()()()()()のか想像できないほどに、体を震わせている。

 

 その様子を見て、プリバティたちは同じ考えを抱きながら、アンダーソンを見つめていた。

 

 

プリバティ「......」

 

ユルハ「...フルボッコにしたようね。」

 

 

 再び怒気を露わにしたアンダーソンは、その場にいる全員に向けて命令を告げる。

 

 

アンダーソン「最後にもう一度言う。撤退するように。」

 

 

今すぐ。

 

 

 ホログラムを一方的に切断する。銃を構えていたニケたちは戦闘態勢を解いて、各々困惑した様子でアークに撤退を開始した。

 

 プリバティはこの結末に疑問はあるがホッと胸をなで下ろし、アドミは量産型ニケたちに陣形やルートなどを教えて撤退指示を送り、ユルハは腕を伸ばして帰る支度を手早く済ませる。

 

 ラピたちも息をこぼして安堵の様子が伺える。

 

 

アニス(アンダーソンおじさんのおかげで、何とかなりそうね...)

 

ネオン(ここまで心強いなんて、本当に後ろ盾になってもらってよかったです。)

 

ラピ(この時期で内部分裂する状況下だったものね。)

 

マリアン(指揮官も秘密を明かすリスクを避けられ...?)

 

 

 そう話しているラピたちだったが、マリアンがプリバティたちに向かっていく夏油に気付く。

 

 

マリアン(指揮官...?)

 

 

 マリアンの視線が変わった事に、ラピたちも気付いて夏油に視線を向ける。また、近づいてくる夏油に、プリバティも気付く。

 

 

プリバティ「?...なんですか指揮官。」

 

夏油「聞きたいことがあるんだが......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、バーニンガムがいる副司令室では、アンダーソンがやってきており、今回の暴挙について 責していた。

 

 

アンダーソン「トライアングルにシージペリラスまで勝手に動かすとは。

 君は日に日に考えなしになっていくな。副司令官ともなるものが、こんなことをしちゃダメじゃないか。」

 

 

 アンダーソンの叱責に対して、バーニンガムも引かずにマリアンの価値について怯えながらも説明する。

 

 

バーニンガム「あ、あなたも知っているだろう。

 マリアンというニケが、どんな意味を持っているのか。」

 

バーニンガム「勝てるかもしれない。

 マリアンの秘密を暴けば、ラプチャーに勝てるかもしれないのだぞ。」

 

 

 マリアンの未知の技術がきっかけで、ラプチャーから地上を取り戻すことができると、自身の考えを明かす。アンダーソンは、その考えに至った理由について尋ねる。

 

 

アンダーソン「何を根拠にそう言い切る?」

 

バーニンガム「か、勘だ。」

 

 

 得られた少ない情報で、希望を見出したバーニンガムの勘に対して、アンダーソンは落胆しながら苦言を呈する。

 

 

アンダーソン「...君の勘は信用できるが、今回は間違っているようだな。

 何よりもマリアンは特殊別働隊直属ニケだ。いくら副司令官でも、勝手に手を出すことはできない。」

 

 

 アンダーソンの指摘に対して、バーニンガムは苦しい表情を見せながら顔を逸らす。続けて、今回の件の処理について、諭すように制止しようとする。

 

 

アンダーソン「君に悪意はないようだから、今回の件は会議の案件に上げないことにしよう。

 もうやめなさい。」

 

バーニンガム「い、嫌だ。

 マリアンは人類に未来を齎す。あ、あなただって知っているだろう?」

 

 

 しかしバーニンガム、アンダーソンの提言に対して確固たる意志を持って拒む。拒否されたアンダーソンも、同じく引かない。

 

 

アンダーソン「...次はこの程度では終わらないぞ。」

 

 

 脅しのような文言に、三度体が震えるバーニンガム。思わず小さい悲鳴がこぼれるが、目を真っ直ぐ見据え、宣戦布告のように自身の意思を押し通す。

 

 

バーニンガム「ぜ、絶対諦めない。

 私の持つ全ての手を使ってもマリアンを開ける。」

 

 

 最早アンダーソンの手では、バーニンガムは止まらない。脅迫にも暴力にも屈しない強い意志は、一切ブレる事は無い。

 

 最悪直属の部下に命令を下せば、副司令官の権限は問題なく機能する為、バーニンガムの意思を変えない限り一再ならず繰り返される。

 

 ここまでバーニンガムが引き下がらない理由は、人類を救うため。ここまで明確な目的をもって行動している人間は、この中央政府だと数えるぐらいのもの。

 

 自身の意見を真っ向から対立するアンダーソンは、人類を見放したのか、それともニケに対する思い入れが行動理念になっているのか訝しげに尋ねるも、触れてはならない話題と悟り素直に辞める。

 

 このまま続けても話が平行線になり、解決策を別に探す必要があると結論付けて、副司令室を立ち去るアンダーソン。

 

 

アンダーソン「...私も方法を考えないといけないな。」

 

バーニンガム「か、勝手にしろ。」

 

 

 ゆっくりとバーニンガムの副司令室から退室するアンダーソン、独りになったバーニンガムは殴られた箇所に気を使いながら深く腰を落して席に座る。

 

 

バーニンガム(そうだ...地下に追いやられた我々人類が...。

 漸く掴んだチャンスなんだ...。)

 

 

 改めてマリアンの内に秘められた情報を手に入れる決意を固めている中、扉をノックする音が耳に届く。

 

 

バーニンガム(誰だ? 今日来る予定の者は居なかった筈...)

 

 

 副司令室に訪れてきた人物に見当がついていないバーニンガムは、戸惑いながら考えるが待たせるのも悪いと思い声をかける。

 

 

バーニンガム「は、入れ。」

 

『失礼します。』

 

 

 扉から届いた声は男性、副司令官は兎も角直属の部下にも該当しない声を聞いた。本当に思い当たる人物がいないのか、思い出している間に扉が開かれる。

 

 扉の向こう側にいた人物は、実際に対面したわけではない。配布された報告書のデータベースに映っていた写真で見たことある顔が出て来た。

 

 

夏油「どうも、バーニンガム副司令官。」

 

バーニンガム「きっ、君は!」

 

 

 今日は酷く驚く日だ、先程は自分の行動に対して強引に止めた信頼できるアンダーソン。そして今度は、アンダーソンの部下であり、マリアンの所属する特殊別働隊の指揮官が片手に袋を持ってやってきたのだ。

 

 

バーニンガム「夏油傑っ!?」

 

夏油「アンダーソン副司令官以外に、私の名前が知られているとは光栄です。」

 

 

 『何を言うかと思えば...総力戦で一躍有名になったばかりではないか。』と心の中で訴えるバーニンガム。しかしそれ以上に、射殺許可を下されたら激昂してもおかしくないというのに、当の本人は平静さすら感じられるその表情に恐怖を感じる。

 

 

バーニンガム「な、何しに来たんだ!」

 

 

 警戒した様子でバーニンガムは、思わず立ち上がって後ずさりする。その問いに答えずに、夏油はマイバックらしき袋から何かを取り出し机に置く。

 

 

夏油「痛み止めと湿布、あと前哨基地で取れたみかんです。」

 

バーニンガム「へっ...??」

 

 

 取り出したのは、薬局に売られている打撲の痛みを抑える錠剤、腫れを鎮静させる湿布と、みかんを2つ机出される。

 

 ビニールシートで包まれていることから、開封されていないと分かる。そうするとみかんに何かあると考えるが、ここにやってくる前に持ち物が検品される為、毒物や爆弾の可能性も皆無。

 

 余計に夏油の思惑が分からないバーニンガムを気にせず、夏油が持ってきた理由を話す。

 

 

夏油「先ほどホログラムで見たのが初対面でしたが、アンダーソン副司令官に酷く殴られた様子だったので、失礼かもしれませんが薬を持参させて頂きました。

 指揮に支障を出さないように、こちらを使って安静にしてください。」

 

バーニンガム「あ、...ああ、ありがとう。」

 

 

 差し出された物を、ガーニンガムは素直に受け取る。萎縮したり臆病ではある彼だが、副司令官まで上り詰めた彼の勘は、夏油に悪意は感じられないと言っている。

 

 ならば何故ここまで気を遣っているのか、その推察を確かめるために問う。

 

 

バーニンガム「わざわざ薬を、も、持ってきた事には礼を言うよ。

 だが、君がここに来た目的を聞かせてくれないか?」

 

夏油「...分かりました。」

 

 

 持ってきた袋を畳んでポケットに入れる夏油、バーニンガムに視線を戻してここに来た本題について話す。

 

 

夏油「単刀直入に言います、取引をしませんか? こちらはマリアンの対価をそちらに渡します。

 私たちの要求は、マリアンを強制連行し開かない事、そしてそのような思想を持つ人物を止めて頂きたいのです。」

 

バーニンガム「......。」

 

 

 夏油の要求は、今回のバーニンガムの命令を禁止し、同じ行動を取ろうとしている人物の抑制。アンダーソンのように、無理矢理止めようとするなら話にもならないだろう。

 

 しかし、夏油が提案したのは取引、マリアンに相応な対価を用意できると言っているのだ。

 『なら話を聞いた後に判断してもいい。』と、考えて提示できる対価について聞く。

 

 

バーニンガム「マ、マリアンの代わりとなる対価は何なんだ。」

 

夏油「総力戦に現れたタイラント級の特殊個体、トーカティブの亡骸です。」

 

バーニンガム「トっ、トーカティブ!?」

 

 

 夏油の提示した対価に、またもや腰を抜かし驚愕する。それも当然、トーカティブの残骸は目の前にいる男が、夏油が報告書をもって消滅したと明言していたからだ。

 

 

バーニンガム「馬鹿な。き、君の報告書にはトーカティブは消滅したと...」

 

夏油「私もそう思っていました。しかし、ある疑念があったのです。」

 

 

 思わず机の上に置いてあったデータベースから、トーカティブの末路が記述されている箇所を見つけて読み直す。

 

 夏油は机を乗り出して、バーニンガムが開いた報告書に記述されている範囲を指で示す。夏油が示した箇所は下記のように記述されていた。

 

 

 

 

 しかし、発射直前に粒子砲が暴発、充填されたエネルギーはトーカティブを中心に放出された。空に射出されたエネルギーが消えて、周囲の確認ができるようになった頃には、ピルグリムは姿をくらませていた。

 

 

 

 

 夏油が示した箇所に対して、それがトーカティブの亡骸が残っている根拠の裏付けになるのか、全く分からないバーニンガム。その根拠について説明を始める。

 

 

夏油「総力戦に乱入したピルグリム。

 彼女は北部で出会ったのですが、トーカティブを狙い追跡していました。」

 

 

 その根拠となるのは、遭遇したピルグリム、スノーホワイトだった。頷きながらもその意図が分からなかったが、夏油の発言に意識を傾け、少しずつ理解していく。

 

 

夏油「そして、ピルグリムは忽然と姿を消しました。

 ここが気掛かりだったんです、モダニアのアーマーを取り込み、全身に装甲を生成したのにも関わらず、自分のエネルギー暴走で消滅なんて。」

 

 

 確かに可笑しい点はある。データベースからトーカティブは、人語を理解するほどの知性を持っているラプチャーだ。窮地だとしても、次の布石を残さない甘さがあるとは思えない。

 

 加えてナノマシンによる自己再生能力もあると仮定すると、攻撃できなかったにしても核となる部位を切り離せば助かる可能性はある。倒したのだとしたら、どうやって渡されたくないヘレティックを運ぶのか。

 

 夏油の考えた虚偽報告(カバーストーリー)に、結果(真実)を自身の推測に変えて、その周りの裏付けを知識や事象で補完する。

 

 行き場を失ったエネルギー暴走による自爆は、結果的に発生し、そしてその対策を講じなくともトーカティブは半身残して生き延びた。この結果から、トーカティブは右半身が融解しようとも活動できるよう、自身の肉体を変化させて装甲を形成していたのだと、夏油は考察していた。

 

 夏油の指摘から少しずつその意図を紐解き、そして同じ結論に至る。

 

 

バーニンガム「ま、まさか...トーカティブがまだ生きているのか!?」

 

夏油「そう考えるのが妥当。そしてピルグリムは煙幕の中、戦場を離脱したトーカティブを追いかけたのだと思われます。」

 

 

 そう考えると、協力関係だったピルグリムが突然去った理由も納得できる。ピルグリムに始末されたのかもしれない...しかし、万が一にも生き残ってアークに刃を向ける事を危惧したバーニンガム。

 

 数分前とは打って変わって、無言で数々の思考を重ね合わせていく。早急に対処すべきだと判断したが、取引としての欠陥点を伝える。

 

 

バーニンガム「トーカティブが消滅していない根拠は分かった。しかし、言っては悪いがマリアンと釣り合うのか?」

 

 

 トーカティブはヘレティックではなく、階級としてはその下のタイラント級のラプチャー。マリアン以上の希少性や、有用性があるとは考えられないという結論に至る。

 

 その考えに、再び報告書を指差して伝える。

 

 

夏油「確かに、トーカティブはタイラント級に区分されます。

 ですがもう一度注目してください、トーカティブはモダニアのアーマーや付近のラプチャーを取り込んだんです。」

 

 

 報告書を見返し、確かにラプチャーを取り込んで自己の能力として掌握する力があると分かる。巨大化する際のアーマーにも、電磁波兵器やマリアンサイズで使用できる粒子砲といった武装も、今の人類には高度な技術。

 

 それだけでもかなりの進歩が望めると考える所に、すかさずマリアンを狙う不利益を伝える。

 

 

夏油「そして今回の一件で、マリアンは中央政府に不信感を抱いています。

 もしこれ以上攻撃をして、本当に人類の敵になったら...」

 

バーニンガム「あ、アークには、アブソルート分隊がいる...復帰した戦力を合わせれば、十分に対処は出来る筈だ。」

 

 

 彼の推察は正しい、アブソルート分隊と今の全勢力で総力戦をすれば、マリアンが巨大化しても勝算は半分以上になる。夏油の危惧している心配はそこではないが...

 

 

夏油「ですがアーク内で戦闘すれば住民の死傷者数が高くなる、加えてアークで戦闘すれば付近のラプチャーが集結してくるのでは?

 そうなれば、他の個体のヘレティックが乱入してもおかしくないと思いますが。」

 

バーニンガム「......。」

 

 

 ぐうの音も出ない指摘、アークの周囲には硬度の高い防護壁が設置されているが、もう一体のヘレティックもしくはグレイブディガーのような掘削能力のあるラプチャーが集結すると、戦況が一気に傾く。

 

 万全であればタイラント級が来ても難なく対処できるだろうが、アブソルート以外にヘレティックとの戦闘経験があるメティス分隊は、浸食によって動けない状態だ。

 

 続けて持ちかけた情報の利点を話し始める。

 

 

夏油「確かにマリアン以上の恩恵を得られるとは思えませんが、トーカティブにも未知の技術が含まれている可能性があります。

 その技術を手に入れる事が出来れば、人類側の勢力を全体的に向上できるはずです。」

 

 

 夏油の言い分にも一理ある、不信感を抱いたマリアンがアークで暴れて、勢力が疲弊するリスクを取るよりトーカティブを分析し、認識できていないブラックボックスを開拓する技術を手に入れる手もある。

 

 更にトーカティブを解析して技術進歩が見込めた場合、他のヘレティックを撃破すればマリアンを開かずとも代わりは手に入る。そうすれば、全体の戦力の向上に加え、マリアンという単体最高戦力を保持したまま力を蓄えられる。

 

 地上奪還のハイリスク・ハイリターンの特急券か、それとも時間をかけて進む(みち)か...

バーニンガムは重い頭を、肘を机について手の甲で支えながら、二つの選択肢を天秤にかける。

 

 何分経過しただろうか、考えていた頭を上げて答えを出す。

 

 

バーニンガム「...分かった、その取引を受けよう。」

 

夏油「ありがとうございます。」

 

 

 バーニンガムの決断に、夏油は深く頭を下げて感謝を伝える。承諾の続きに、取引の条件を追加する。

 

 

バーニンガム「ただし、こちらにも条件がある。」

 

夏油「こちらが無理言って持ち掛けた取引、断る訳にもいきませんね、言ってみて下さい。」

 

バーニンガム「条件は2つ。

 1つは、トーカティブが見つからなかった時は、この取引は無効。無条件でマリアンを差し出す事。

 もう1つは、ヘレティックとアークが戦闘する際に、君たち特殊別働隊にも戦闘に参加してもらいたい。

 以上だ。」

 

 

 バーニンガムから提示された条件に、夏油は考える素振りも無しに応じる。

 

 

夏油「分かりました。では私は、マリアンの解析の禁止とその動向の抑止。

 バーニンガム副司令官は、対価を差し出せなかった際に無条件でマリアンを譲渡と、ヘレティックの戦闘参加ですね。」

 

 

 夏油の最終確認に、バーニンガムは頷いて答える。この取引に納得し、夏油は対価を手に入れるため、地上に向かう。

 

 

夏油「それでは、これにて失礼します。」

 

 

 そう言ってバーニンガムの部屋から出ていく、バーニンガムはどっと疲れが押し寄せて椅子に背中を預ける。今にも意識を手放して眠りそうな自分を、無理に起こして連絡を入れ始めた。




 ここからオリジナルストーリー、トーカティブ回収作戦に入ります。舞台はマテリアルHを入手し、マリアンを奪還したエリアHになります。(三回連続ですね。)



にけ さんぽ




 夏油がバーニンガムのもとに行っている間、ラピたちは宿所の惨状を見て一部絶望していた。


アニス「シャ...シャワーがぁ...。」

マリアン「ご飯が...もったいない...。」

ラピ「原型をとどめただけでも良しとしましょう。」

ネオン「汚いアニスの部屋が更にスゴ味を増しましたね。」

イングリッド「まさかここまで強行手段に入るとは思わなかった...
 すまない、私たちの責任だ。」

ラピ「いえ、教官やアンダーソン副司令官のせいではありません。
 こうなることは覚悟していました。」

ネオン「そうですよ。それに、あの師匠です。
 既に手を打っているに違いありません!」


 それぞれ今回の件で、悲観し、嘆き、謝罪している中、夏油が戻ってきた。


夏油「ただいま...って、これはまあ随分と...。」

イングリッド「夏油か、どうだった。」

夏油「取引は上手くいきました、これからその対価を取りに行きます。」

ラピ「目的地は何処ですか?」

夏油「エリアH。モダニア交戦地付近になる。」

ネオン「またあそこですか...その様子だとすぐ出発ですか?」

夏油「ああ、悪いが各自支度を始めてくれ。」

ラピ「ラジャー。」

ネオン「了解!」

イングリッド「では、私はアンダーソンにエリアHに向かうという連絡をしよう。」

夏油「ありがとうございます。さて...」


 夏油は視線の先を、アニスとマリアンに向けて歩み寄る。


夏油「ああー、大丈夫二人とも?」

アニス「指揮官様...シャワー室がぁ...」

マリアン「うぅ...もったいないです...。」

夏油「確かに...かなり荒らされているね。」


 宿所の床中には複数の足跡によって塗りつぶされていた。どうやらかなり荒らされたようであり、イングリッド曰くアウターリムにて活動しているテロリスト、エンターヘブンによるものだそうだ。

 気持ちが沈んでいる両名に、そっと声を掛ける。


夏油「これは私が何とかしよう。」

アニス「ホント!?」

マリアン「本当ですか!?」

夏油「うん。二人とも辛いと思うけど、任務に戻ったら元に戻っている筈だから。」

マリアン「分かりました!」

アニス「直ぐに終わらせて来るわ!」


 沈んでいた空気が一気に晴れて、颯爽と準備に向かっていったマリアンとアニス。夏油はその背中を見ながら、胸ポケットにあった携帯を取り出す。


夏油「もしもし?...ご依頼したいのですが...。」
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