特級呪術師のデストピア   作:クモッ!

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 人気投票が始まって、もうすぐでハーフアニバーサリーですね。

 昨年はセイレーンとオーバースペックのミハラでしたが、今年は誰になるのでしょう?


残穢

 シュエンから見張るように命令されたエキゾチックと合流し、改めてピルグリム捜索の為にルドミラから貰ったデータを参照して、目的地に向かっていたが。

 

 

ジャッカル「うへへへ~♪ 楽し~! 天国だぁ!

 いくら銃を撃ちまくっても、A.C.P.Uが来ない!!」

 

 

 ジャッカルはラプチャーと接敵した瞬間、使用武器であるロケットランチャーT.O.Pを振り回しながら弾丸を巻き散らし、周囲を爆破し続け。

 

 

バイパー「最悪...せっかく新しいペディキュアにしたのに台無しにして...」

 

 

 バイパーは攻撃が掠って大したダメージではないが、買ったばかりで手入れしたネイルが無駄になった事に腹を立て、もう動けないラプチャーに対して、使用武器のショットガンラストチェイサーを突き付けて、コアを避けていたぶるように何度も弾丸を撃ち込む。

 

 

ジャッカル「あ~楽しかった!!」

 

バイパー「はぁ...ホントムカつく。」

 

 

 ラピたちは戦闘では頭を切り替えて行動し、私情はあまり表に出さない。しかしエキゾチックは逆、戦闘だと寧ろ私情をさらけ出して思いのままに戦う。

 

 それでもラプチャーを簡単に制圧する戦闘力に、ラピたちは舌を巻いていた。

 

 

ネオン「混沌のカオスですね。」

 

マリアン「ネオン、頭痛が痛いみたいになってますよ...。」

 

クロウ「状況終了、移動するぞ。」

 

 

 クロウは最前線で戦闘しないが、それでもジャッカルとバイパーの制御に回れるよう、指揮を取りながら援護しており、かなり戦闘経験があると分かる。

 

 手際よくジャッカルとバイパーに指示を送り、移動を再開する一行だったが先の道に問題があって立ち止まる。

 

 

アニス「所々凍っているわね。」

 

ジャッカル「?」

 

ネオン「迂回する道を通りましょうか。」

 

ジャッカル「??」

 

 

 元々池だったのか、進んでいる道の先の地面が凍っていた。迂回する案に面々は頷く中、一人は結氷(けっぴょう)の上をスタスタと歩いて行く。

 

 

ジャッカル「なんで遠回りするの? このまま進んでも問題な」

 

 

パキキ...

 

 

 地面から軋むような音が小さく響き、ジャッカルは何処から音が鳴ったのか頭を回し、他の面々はジャッカルから距離を取る。

 

 

ジャッカル「なんで皆離れるn」

 

 

ドボン!!

 

 

 予想通り重さに負けて結氷が砕けて、ジャッカルは冷水の中に沈む。沈んだジャッカルを見て頭を抱えたり、腕を組んで頷いたりと反応は様々だ。

 

 必死に出ようと腕をかき回すジャッカルは、水が口に入りながらも助けを求めるように手を伸ばす。

 

 マリアンが引き上げると、体がブルブルと震えて顎をガタガタを鳴らし続けていた。

 

 

アニス「ニケの体は機械の割合が高いから、凍っている所を踏むと氷風呂に直行する事になるわ。」

 

ジャッカル「そそそそれをなんでいいいいいまさら言うの?

 

アニス「でもこれで、同じ間違いはしないようになるわ。」

 

 

 アニスの説明を聞いているジャッカルに、ネオンは短すぎる間隔で歯をガタガタ震わせている光景を見て笑っていた。

 

 寒がっているジャッカルを見かねたのか、夏油はそっと着ていたジャケットを掛ける。

 

 他の指揮官なら絶対しなかったであろう行動に、ジャッカルは動揺しつつも感謝を伝え、大事そうにジャケットを密着させて体を温める。

 

 

クロウ「感動する事は無い。こんなのは飴と鞭に過ぎない。

 戦闘では弾除け、安全時は思いやるふりをして、意味のない親切を施す偽善なんだからな。」

 

 

 クロウの発言を聞いて、アニスとネオンは食って掛かり、酷い事を言われるならジャケットを奪おうとする。

 

 ジャッカルは受け取ったジャケットを、ギュッと抱きしめて手を離さないようにするが、夏油はアニスとネオンを止める。

 

 

クロウ「私からすれば、お前たちこそあんなに甘くて生きていけることに驚愕するよ。

 地上では仲間の仮面を被り、アークでは鉄くずと鉄くずが立てた功績でヒーロー...

 それでも仲間というのだから、随分仲良しなんだろうな。」

 

アニス「あんた...いい加減に...」

 

 

 思わず腕を振りかぶるアニスの腕を、振り下ろされる前に止める。

 

 

マリアン「アニス...

 指揮官はアークの中でも例外ですから、貴方もニケとしてではなく同じ人間として接してくれますよ。」

 

クロウ「......」

 

 

 クロウの発言に対して、マリアンは他の指揮官にトラウマか怒りを抱いていると考え、夏油は違うことを笑顔を崩さずに伝える。

 

 夏油についての弁明を聞いたクロウは、マリアンに向けて自身の考えを投げかける。

 

 

クロウ「そうだろうな、お前はヘレティックという希少な()()なんだからな。

 そこらのニケより強い、もっと功績を立てる為にも丁寧に扱うだろ?」

 

アニス「あんたっ...!」

 

マリアン「道...具...?」

 

 

 マリアンの耳に届いた言葉を、到底理解できなかった。マリアンがクロウの言葉を聞いて固まっている間、アニスは首を掴んで今にも手を上げそうな緊迫感が漂う。

 

 

マリアン(たった一回、一回の任務で同行しただけで...

 助けてくれたのに...信頼して指揮官の素性も明かしてくれたのに...)

 

 

 マリアンの心中には、今まで感じたことのない感情が渦巻いていた。そしてその感情の正体は、時間をかけずに理解できた。

 

 

アニス「そんなに他人を貶して楽しいわけ?」

 

クロウ「ヘレティックに他の奴らの考えを丁寧に教えただけだ。

 お前も経験はあるんじゃないか?」

 

ネオン「師匠はその他大勢とは違います!

 私たちを信頼して...」

 

クロウ「その信頼も仮初めだろう?相当毒されているな。

 ...いや、ヘレティックも毒しているから一概に悪いとは言えないか。」

 

ラピ「っ貴方...。」

 

 

 拳を握りしめて認識を否定して叫ぶアニスとネオンに、クロウの発言に眉をひそめるラピ。そして、二人の剣幕を見ても無表情で全く退かないクロウ。

 

 これ以上は本当に仲間割れが始まると考え、夏油が仲裁に入ろうとする。

 

 

マリアン「どうしてそうやってありもしない事実を他人に当てはめるんですか?

 

 

 夏油より早くクロウに向けられたのは、純粋な怒り。自分に対してどれだけ侮辱されても、マリアンは怒りを見せなかった。

 

 彼女が怒りを剝き出しにするのは、事実無根の憶測で夏油とラピ、アニス、ネオンのことを侮辱した事に怒りを抱いていた。

 

 

ラピ「マリアン...」

 

マリアン「取り消しなさい。

 先ほど言ったこと全て。

 

クロウ「断る。とi」

 

 

ダン!

 

 

 頬を掠ったのは弾丸、マリアンのマシンガンから放たれ、銃口から硝煙が上っている。明確な敵意を突きつけられて、クロウは思わず動かしていた口を止める。

 

 

マリアン「次は外しません。

 安心してください、脳は傷つけませんから。

 ただしばらくの間は首を切って頭を持ち運びます。

 

 

 逼迫した状況下、睨み合う両者は口を開かず、周囲もこの雰囲気の重圧を肌を通して体感している。

 

 この状況が5分続いたように見えたが、数刻しか経過していなかった。しかし、この雰囲気を壊したのはクロウでも、マリアンでもなかった。

 

 

バイパー「リーダー、流石に今のは言い過ぎだよ~?

 戦闘で支障が出て共倒れしたら元も子もないでしょ~?」

 

 

 肩に手を置いてこれ以上刺激しないように、クロウを止めるバイパー。クロウは先ほどの張りつめた表情から、あっけらかんとした表情になる。

 

 

クロウ「私の想像で決めつけて悪かった。

 だからその怖い物を下げてくれないか?」

 

マリアン「......。」

 

 

 謝罪を聞いたマリアンはマシンガンの銃口を降ろし、険しい表情のままクロウを睨み続ける。クロウはマリアンの表情に反応せず進み、ジャッカルは夏油のジャケットを羽織ったままついていく。

 

 

アニス「大丈夫...?」

 

マリアン「大丈夫です、気持ちを切り替えれば。

 皆のこと酷く言ったのは許せませんが...」

 

ラピ「そうじゃないわ。」

 

 

 必死に気持ちを切り替えようとしているのだろうか、マリアンの表情はかなり硬くなって不自然だった。

 

 ラピたちに心配させない為にも、マリアンは平静を取り戻そうとしている。

 

 しかし、ラピたちが気にしている事はそこではない。

 

 

ネオン「貴方が道具扱いされたこと...」

 

マリアン「?...別に...。」

 

アニス「本当に...?

 間接的に私たちも貶されたけど...」

 

 

 他者の為に何かするというのは美徳であり、人間としての慣性としては素晴らしいものだった。

 

 しかし、自己を犠牲にしたり、傷つく対象に含まないといった、自分を後回しにする考えが自然となってしまう。

 

 ラピたちは道具と言われてマリアンが感情的になっていると思っており、夏油はマリアンを呼んで二人と話をする。

 

 

夏油「マリアン、少しいいかい?」

 

マリアン「?...はい、分かりました。」

 

 

 頭を傾げながら夏油の後をついていくマリアン、ラピたちのもとから離れていき二人きりになって話を始める。

 

 

夏油「君は私たちを貶されて怒りをぶつけているように見えたが...」

 

マリアン「はい、皆の事を悪く言う事に許せなかったので。」

 

夏油「君はヘレティックと言われたことに、全く感情が揺れなかったのか?」

 

 

 夏油の質問に対して、マリアンはどんな感情を抱くべきなのか分からない表情を作って答える。

 

 それは夏油の意図や考えが分からずに作っているようであり、クロウの発言を思い出して気分を害しているように見えた。

 

 

マリアン「嫌でしたけど、皆の事を悪く言われるのはもっと嫌なんです。」

 

夏油「......。」

 

 

 そう答えるマリアンに、夏油はゆっくりと歩み寄り。

 

 

マリアン「? 指揮官? 一体何を...っ!?

 

 

 そっと右手を優しく両手で包み込む。マリアンは突然触れられて顔が真っ赤になる。

 

 

マリアン「しっ、ししししし指ききかかkknn!?

 

夏油「マリアン。」

 

マリアン「ひゃっ、ひゃい!!

 

 

 再び名前を呼ばれたマリアンは、背筋をピンと立てて姿勢よく体を真っ直ぐする。対照的に夏油は冷静かつ悟らせるように語りかける。

 

 

夏油「君が私たちの為に怒ってくれているのは嬉しい。

 だが、それと同じくらいにヘレティックと言われるのは嫌なんじゃないか?」

 

マリアン「......。」

 

 

 顔を真っ赤にして混乱していた様子が一変、直ぐに顔色が戻りつつ顔を逸らす。隠していた物が見つかった子供の様子に見える。

 

 

夏油「隠す事が悪い訳ではない。でも、ずっと溜め込める訳でも、自然と消えるものでもない。

 何回も追及されたり言われると心を蝕み、記憶からこぼれても完全に消えない。

 良くも悪くも、簡単な言葉や出来事で記憶が甦ることもあるんだ。」

 

 

 人は良し悪しに関わらず、脳が体験や経験を記憶し、記憶したものを再現や類似する場面で、思い出すケースも存在する。保存した単語や文章を、類似した文字や内容から呼び出されるように。

 

 トーカティブ回収の時、マリアンは記憶が不鮮明になっていると答えたが、大半は耳の情報が多い。

 

 ヘレティックと呼ばれるだけで、フラッシュバックするようにモダニアに支配されていた記憶が呼び起こされる。

 

 ニケの体をゆっくりと斬り刻む音、臓器と骨が潰れ砕けるような殴打で甚振(いたぶ)り、最終的には両手で無理矢理ひらいて臓物や肉を引きずり出して弄んだ血塗られた記憶。

 

 その記憶は、耳だけでなくモダニアが動かしている肉体を通して、触覚にも染み付いてしまった。

 

 

夏油「抱え込むのは辛いだろう。」

 

マリアン「怖いんです...また私から、皆が離れていくのが...

 また私が...皆を壊してしまうのが...

 

 

 その呪縛は根深く残ったままで、手のみに収まっていた震えが、体中に広がっていた。

 

 無意識に自分という存在を、皆が恐れ離れていくことに、無意識に皆を傷つける事を恐れていた。それほどの恐怖を内に秘めていたのにも関わらず、クロウに銃を向けられたのは、怒りが勝ったからだった。

 

 夏油は震えているマリアンの片手を、両手にして改めて優しく包み込み、微笑みかけながら語りかける。

 

 

夏油「君は怪物(ヘレティック)じゃないし、ヘレティック(モダニア)でもない。

 君はマリアンだ。私たちの分隊に所属して、仲間を思いやれる優しさを持っている女の子だ。」

 

マリアン「...指揮...官。

 

 

 マリアンの両目元にいっぱいの涙を浮かべ、何回も瞬きしてすすり泣きながらしっかりと、その言葉に耳を傾ける。

 

 

夏油「それに言ったじゃないか、

『怖くて踏み出せないなら、私が手を繋いで並んで歩こう』と。」

 

マリアン「...いいんですか...?

 

 

 手を伸ばしたい気持ちを抱きながらも、マリアンは本当に夏油に頼っていいのか迷う。迷いを抱えている重い体を、短い言葉がそっと背中を押す。

 

 

夏油「私も取り残された気持ちは分かるし、同じ過ち(呪い)は繰り返したくない。

 それに私だけじゃないさ。」

 

マリアン「えっ...?」

 

夏油「ラピ、アニス、ネオンも、君の手を握って一緒に歩んでくれるさ。」

 

マリアン「っ!...ありがとうっ...ございますっ......。

 

 

 不安と迷いが涙と一緒にこぼれ落ちていく、両手を包み込み並んで一緒に歩んでくれる夏油たちに、深く頭を下げながら嗚咽交じりに何度も感謝を伝える。

 

 気づけばラピが背中をさすり、アニスが肩に手を置いて、ネオンが夏油の両手に手を添える。

 

 感謝と同じ数だけ涙がこぼれる、内に秘めたモダニアの残した記憶(呪い)も、涙と一緒に洗い流れ薄れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波がを流しつつも、立ち直ったマリアンは笑顔を取り戻して移動を再開する。そして、ルドミラから受け取ったスノーホワイトの予想遭遇地点に到着する。

 

 その周辺には弾痕が所々見られ、壁が崩れ崩壊している村でだった。この村を中心として、周囲の捜索を東を夏油たちカウンターズ、西をクロウ率いるエキゾチックが捜索する。

 

 東エリアはラプチャーの密集率が高く、戦闘後での捜索となったが、西ではラプチャーの密集率は低く、円滑に捜索を進められていた。

 

 捜索を続けていると、弾痕が少なく損傷が他より軽度な建物が目に入り探索する。

 

 

クロウ「...ピルグリムの痕跡か。」

 

 

 その建物の中には、ネジやボルトにコアといった、ラプチャーの部品が転がり、空になった非常食の袋が地面に纏まって転がっていた。

 

 

ジャッカル「うわあ! ラプチャーの中身空っぽ!」

 

クロウ「ラプチャーを分解し、武器を改造するというのは本当という事か。」

 

 

 眉唾だと思っていた噂が、事実とも取れる現場を目の当たりにしたクロウは認識を改め、ジャッカルは、コアが綺麗に抜き取られたラプチャーに、顔を入れて中身が空洞になっている事を確認する。

 

 二人がラプチャーに注目している間、バイパーが二人を机に集合するように呼びかける。

 

 

バイパー「ねぇ、ここの地図があったよ~♡」

 

 

 バイパーが呼び集めた机には、この付近の地形までも克明に記述されている地図が広がっていた。

 

 地図を目にしたクロウは、僅かに頬を緩め口角を上げる。その表情はまるで、気になっている玩具を見つけたようであり、純粋さは感じられず邪悪な気配が漂っていた。

 

 

クロウ「...ほぅ、よくやったバイパー。」

 

ジャッカル「リーダー凄く嬉しそう!」

 

 

 ジャッカルに指摘されたクロウは、隠す素振りも見せず嬉々としている理由を答える。

 

 

クロウ「ああ、嬉しいとも。面白いことができるんだからな。」

 

バイパー「例えばどんな?」

 

クロウ「目障りな偽善者を懲らしめられるだろう?」

 

 

 クロウが地図に指し示したのは、魔の地帯とされる囲われた赤い円の中心だった。ジャッカルは次の目的地が決まり、我慢できず外に出てその方角に顔を向ける。

 

 

バイパー「危ないんじゃない? 北部の座標の下に凄い怪物がいるって聞いたし。

 私たちは時間を潰して、アークに帰った後の反応を見るだけだったのに。」

 

 

 クロウの考えに反発するバイパーは、クロウの作戦が危険だと判断して止めるが、深いため息と共にバイパーを煽って火をつける。

 

 

クロウ「バイパー。賢くて手腕があっても、日和って動けないなら三流だ。

 そうやってくすぶっていても、アウトローから最も憧れる存在になれないぞ。」

 

バイパー「...忠告、どうも。」

 

 

 クロウの言葉に触発されたのか、バイパーがニタリと嗤いながら、妖しくも鋭い視線を向けて答える。クロウは外にいるジャッカルに、夏油たちを呼んでくるように命令し、ジャッカルは飛んでいくように雪原を駆ける。

 

 

????「...ほう...。」

 

 

 その会話を、密かに聞いていた人物は、クロウたちがいる建物の外壁に、寄りかかり座っていた腰を上げながら、興味深そうな反応をしていた。

 

 

????「その作戦、利用させて頂きましょうか...フフフッ。」

 

 

 口角を吊り上げながらそう言って、クロウたちが夏油たちを誘導しようとしていた座標へ一足早く向かい、一歩一歩ゆっくりと雪原を踏みしめて進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロウたちが見つけた地図に、赤い円の中にある×印にピルグリムがいるという考えを聞いた夏油は、疑う様子を見せずにその地点を目的地にする。

 

 道中急な上り坂のような勾配地帯を確認して、安全に移動する為に迂回することに決めて歩いていた。

 

 

クロウ「おい、夏油傑。

 移動が長くなった暇つぶしに話し相手にでもなってくれ。」

 

夏油「いいよ。」

 

 

 淀みなく答える夏油、クロウはスマホに映ったシュエンの会見の記事に視線を固定しながら、アンチェインドによってもたらされる未来について会話する。

 

 

クロウ「実はいくつか質問したいのだが、お前はNIMPHから解放されたニケたちが、今後どう動くと思う?」

 

夏油「その当人次第だと思うけど、よりよい人生の為に抵抗するかもしれないね。」

 

 

 退屈だったが夏油の返答を聞いて興味が沸いたクロウ、打って変わって返答の理由について追求した。

 

 

夏油「君たちも元は人間なんだ、誰だっていい人生を求める。」

 

クロウ「......。」

 

 

 人生には人の数だけ違いがある、金の為、愛の為、生きる為、夢の為、それぞれが異なる動機を抱いて、未来に希望を求めて人生を歩む。

 

 人間として生きる道を完全に閉ざしていないなら、権利や主張を取り戻す為に求めると、夏油の見解を伝える。

 

 

クロウ「ごもっともだが、今ではないだろう。」

 

 

 肯定の考えを示しながら、ニケが行動を起こすのは未来の話だという考えを伝える。

 

 約100年、人類は地下に逃げ、その屈辱を、怒りを、募りに募った悪感情を全てぶつけてニケを糾弾した。この件を機に、ニケは人間より下の存在として括られ、その認識は伝播し、浸透した。

 

 NIMPHによる命令以外に、ニケという存在に対する社会の視線や、アークに生きている大衆の態度は、人間とニケ共に簡単に変えられるものではない。

 

 クロウの指摘は鋭く、的を得ている。アンチェインドはあくまできっかけで、NIMPHを取り除いても、本人が変化しなければ情勢も体制も変われない。

 

 

クロウ「檻を壊しても、動けない動物と同じだ。

 自分の力で、自分を制限する思考の壁を壊すべきだ。」

 

夏油「確かにその通りだ。

 私はそのきっかけとして、役に立てればそれでいい。」

 

 

 夏油もその考えに賛同し、自分の役割や役目について話すと、クロウは少しばかり目を見開き驚愕した様子で顔見つめていた。

 

 

クロウ「...本当に変わっているな。ジャッカルの言う通りだ。

 話して殺してやりたいとか、そんな気が起きない。人間にしては珍しい奴だな。」

 

夏油「褒められている気がしないのだが。」

 

クロウ「褒めているさ、お前は特別だ。」

 

 

 比較されて物騒な単語を聞いた夏油は、眉をひそめてクロウを見つめ、喜ぶべきなのか困惑している。その表情を見て笑みを浮かべながら、クロウは本心の一端を吐露する。

 

 

クロウ「...もっと早く、お前のような人間に出会えれば...。

 あたしもカウンターズのように、楽観的で抜けているニケになったかもな。」

 

夏油「今からでも変われると思うけどね。」

 

 

 それは後悔かやるせなさによるものなのか、希望を追い求め諦めたクロウがふとこぼした言葉に、真っ向から否定して変われると話す。

 

 

クロウ「無理だな。あたしがこのクソみたいな世界で希望を見出せた時期は、とうの昔に過ぎてしまったから。」

 

夏油「......。」

 

 

 微笑んでいた表情が、眉をひそめて空を見上げるように顔を上げる。クロウの顔に思う所があったのか、夏油は語り始める。語り出した夏油に向けて、茶化すように微笑みながら尋ねる。

 

 

夏油「私も道を踏み外して、多くの人間を不幸にした。」

 

クロウ「驚いた、お前もアウトロー(同じ穴の狢)なのか?」

 

夏油「いや...言うなれば外道、理想を掲げて大切な人や親友を傷つけた。」

 

 

 この時、地上に出てから初めて夏油の顔が陰りを見せ項垂れる。同時に過去の所業を振り返りながら、それでもこうして生きている理由に目を向ける。

 

 

夏油「そんな私も、過去の生き方が間違っていると気付かせてくれたんだ。

 彼女たちが。」

 

 

 ラピとアニス、ネオンにマリアンだけではない、この四人を起点として様々な人に出会い、生前不鮮明だった自分という存在を、今では陰りが無くなり鮮明になりつつある。

 

 非術師()は嫌い、その気持ちは変わらないが、呪いが孕まない世界の実現(非術師の皆殺しで術師に適応)は、自分一人で背負い過ぎ、急ぎ過ぎていた。

 

 自分にできる事を精一杯やる為に、非術師()は殺さずに呪いを取り除ける方法を、力を身につけるべきだと方法を考えるように変わった。

 

 この変化は、呪術高専から離れて、自分が決めた存在にブレないようにしていた重責が無くなったと同時に、()()()()()()に呪いを残さない覚悟の現れでもある。

 

 

夏油「過去から逃げるつもりは無いし、許してもらおうと思わない。

 こんな私でも、罪を背負いながらも皆と歩んで、本当の自分を見つけ出せたんだ。」

 

クロウ「生憎、あたしの自分探しはもう終わっている。

 まあ、お前の話は頭の片隅に入れておこう。」

 

 

 真剣に耳を傾けていたクロウは、少し笑みを零しながら今の会話を記憶に残した。夏油はもう挫けず迷わない、力や実力は乖離しても、守る為に全力を賭す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日目となったピルグリムの捜索だが、気づけば空は日が落ちて暗くなり、地面をオーロラが照らしていた。目標地点付近で目印になりそうな、灯台に向かって移動している中、各々張り詰めた空気を感じていた。

 

 胸騒ぎを感じている者、未知の存在と遭遇する場面として最適だと感じる者、前者が多くその一人であるアニスが、周囲に壁となる遮蔽物がない事に気付き、更に警戒心を上げて銃に手をかける。

 

 アニスのクリアリングから、誰一人声を出さずに集中している様子から、少し動揺した様子で尋ねる。

 

 

アニス「どうしたの? 急に。

 私、何か変な事でも言った?」

 

マリアン「いいえ、そうではないんです。」

 

ネオン「あまりにも静かなんですよここ。」

 

 

 言われて悟ったアニスは耳を傾けると、聞こえる音は風の音すら聞こえず凪いでいる。異常な静けさの正体を、クロウが察知する。

 

 

クロウ「いや、これは静かなんじゃない。

 息を潜めているんだ。」

 

 

 クロウの発言に、全員が首を素早く動かしつつ、物音を聞き逃さないように警戒している中、クロウは地面に視線を向ける。

 

 その表情は今まで見せなかった、目を大きく開き、笑顔が狂気に歪み口角が釣り合がっていた。

 

 

クロウ「鬼は...雪の下にいるな?」

 

 

ビーーッ!

 

 

 突如雪の中を溶かしながらから夏油に向かって、レーザービームが飛んでくるが、半身をずらして容易に回避する。

 

 

マリアン「指揮官!」

 

夏油「掠りもせずに避けきった、問題ない。」

 

 

ゴゴゴゴゴゴ...

 

 

 奇襲が失敗したラプチャーが、続々と雪から姿を現していく。

 

 上から二番目の階級のロード級が下級のサーヴァント級やセルフレス級のように現れ、その中核とされる1機のラプチャーは、タイラント級以上の戦闘力を持っている事をラピが確認した。

 

 アニスは今回の作戦の都合上、配属できなかったオペレーターがいない事に嘆きながらも、戦闘態勢に移る。

 

 

ラピ「フォーメーションFF! 自分の位置へ移動して!

 エキゾチックは...」

 

バイパー「後方でバックアップするね~タイラント級との交戦経験は無いから。

 それでいいよね、ダーリン?」

 

 

 戦闘力のあるカウンターズを前衛、エキゾチックはロード級をカウンターズに近づけないようにバックアップする陣形を選択する。

 

 ラピもこの陣形が最適だと判断するが、疑念が拭い切れず不安を抱いている。

 

 しかし、夏油は迷わない。

 

 

夏油「こちらからも頼む。」

 

 

 出会って一日も経過していないというのに、呆気なく背中を預けられる夏油に、正気か疑うような視線を向けている。

 

 

クロウ「...こんな簡単に背中を任せられるのか。」

 

夏油「君たちは裏切らないと信じているから。」

 

クロウ「......。」

 

 

 返答を聞いて固まっていたクロウだが、少し頬が緩んで両手にサブマシンガンを掴み、ロード級ラプチャーに視線を向けてバイパーとジャッカルに指示を出す。

 

 

クロウ「その信頼に必ず応えてやろう。アウトローの方法でな。

 行くぞ。バイパー、ジャッカル。」

 

 

 呼びかけられたジャッカルは、待ってましたと言わんばかりにロケットランチャーを取り出し、口を大きく開いた無垢な笑顔を向け、

 バイパーは舌なめずりしながらショットガンが装填されているか確認しながら、妖しい視線を向ける。

 

 カウンターズとエキゾチックが手を取り合っているその光景を、灯台から密かに気になっていた映画でも鑑賞しているような面持ちで見つめる人物がいた。

 

 もっとも、その人物の興味はエキゾチックやカウンターズなど眼中に無かったのだが...

 

 

????「さあ、見せて下さい。

 私が再現したその力を...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪の呪詛師 夏油 傑さん。




 オリキャラがドンドン登場していき、いよいよ物語が大きく変わる転換点になりました。今回登場したオリジナルキャラクターの正体を皆さん考察してみて下さい。



にけ さんぽ




 イングリッドが開発した夏油専用武装、レーグル・ノワールが完成し、地上にて問題なく使用できるか、実地試験の為に地上に来ていた。


ネオン「いや~良かったですね師匠!」

マリアン「ネオン凄く嬉しそうですね。」

アニス「そりゃそうよ、火力バカだもん。」(≖ࡇ≖)

夏油「ありがとうネオン、私も攻撃手段は多いことに越したことはないからね。
 あと前より重厚感があるのが気に入ったよ。」

ラピ「比例してパワーがあるのでしょうか?」

ネオン「当然です! なんせあの師匠専用なんですから!」

アニス「まぁ確かに、総力戦のサポートの火力が状況問わずに、援護に回ってくれるのはありがたいわね。」

ラピ「もうすぐで訓練場ね。」

ネオン「ラプチャー、肉眼で確認! 三機います!」

夏油「各自、指示があるまで待機を頼む。」

ラピ「了解。」


 遮蔽物に隠れて武装をチェックした後、離れた所で夏油を見守るラピたち。夏油はレグール・ノワールを構え、銃口をセルフレス級ラプチャーに向ける。


マリアン「なんかドキドキしてきました...」

アニス「なんであなたが緊張すんのよ。」(≖ࡇ≖)

マリアン「だって、本当に上手くいくか心配で...」

ネオン「師匠と社長を信じてください、大丈夫です!」

アニス「そう言えば聞きそびれたけど、あの銃の名前ってなんだっけ?」

ラピ「モデルの銃はデザートイーグル、
 名前はレグール・ノワール タクティカルカスタムよ。」

アニス「ここでもタクティカル付けるのね。」(≖ࡇ≖)

マリアン「レグール・ノワールってどういう意味なんでしょうか?」

ネオン「あっ! 師匠が撃ちますよ!!」


 ネオンの声を聞いて、直ぐに口を閉じて夏油を見守るラピたち。夏油はゆっくりと引き金に指をかけ、そっと引いていき...


ドォォォン!!



 周囲の雑踏をかき消すように轟音が響き渡り、セルフレス級のボディの殆どがコアと一緒に消えていた。

 もう2機のセルフレス級が、音の方向に機体を向けて夏油を視認する。


夏油「......。」


ドォォォン!!


ドォォォン!!



 三度銃口から咆哮が轟く、残っていた2機のセルフレス級のラプチャーも、最初の1機と同様にボディの半分が消えていた。

 アニスはあんぐりと口を開き、ラピタブレットに今回の訓練のデータを記録、マリアンはこの結果に思うところがあったのか疑問を抱き、ネオンは目を閉じ無言で拍手していた。


夏油「実地訓練終了、武装異常無し。
 帰投する。」

マリアン「お疲れ様でした。」

アニス「お疲れ~じゃないわよ、一番弱いラプチャーといえど、半分が消し飛ぶなんて異常だわ!」

ネオン「まぁ師匠ですし。」

アニス「それ言ってれば解決すると思ってない?」(≖ࡇ≖)

夏油「ラピ、今後はこれを携帯してデータを記録していくことになるかな?」

ラピ「はい、追加武装や今後の戦闘に必要な装備も、教官が開発すると名乗り出ました。」

夏油「帰ったら感謝しないとね。」

マリアン「あの...指揮官。」

夏油「?どうしたんだい??」

マリアン「今回は立ったまま動かずに狙撃しましたが、モダニアとの戦闘のように動きながら狙撃ってできそうですか?」

アニス「ちょっとマリアン、いくら指揮官様でも無理難題はあ」

夏油「出来るよ、あと何回か撃てば感触とか弾道は把握できると思う。」

アニス「噓でしょ指揮官様、マジに言ってんのそれ。」(≖ࡇ≖)

ネオン「まぁ師匠ですから!
 そこらの人間とは常識外れですから!」

夏油「私が非常識みたいな言い方しないでくれ。」

ラピ「考えない方が楽よ、アニス。」

アニス「そうね、考えるのをやめるわ。」
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