特級呪術師のデストピア   作:クモッ!

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 ネオンが実装された、電撃編成は弱めだったのでとてもありがたいです!

 最近イベントストーリーも本編ストーリーもちゃんと見れていないから、見ながら執筆せねば!


恍惚

 ケトゥスとの戦いの後、夏油は謎の人物の前で目を閉じ、今の状況を整理している。

 

 

夏油(マリアンが灯台に向かった後、クロウに拘束され撃たれた。

 

 跳弾を用いた攻撃で脇腹が貫かれたが、致命傷は反転術式で治癒。

 

 エキゾチックが去った後、私は死んだフリしたまま何者かに連れ去られ...

 

 今は生活できる家具が揃った小さなトランクにいて、そして連れ去った本人の治療を受けている。)

 

 

 エキゾチックがアークに戻った後、夏油は飛行できる何者かに誘拐(?)されて、今はトランクにあった救急箱で応急処置を受けていた。

 

 この事態に頭を抱えそうになるが、その前に夏油を連れ去った女性が声を掛ける。

 

 

????「終わりましたよ。」

 

 

 ベッドからゆっくりと起きる夏油は、腹に包帯があって貫かれた箇所を丁寧に包んで止血されている。

 

 

夏油「ありがとう、おかげで助かった。」

 

????「当然の事をしたまでです。

 また傷口が広がるかもしれませんから、しばらくは安静にしていて下さいね。」

 

 

 女性は恥じらいながら目を逸らし、顔が赤面している。

 

 夏油は頷きながら、女性の特徴を確認する。

 

 紫と黒の装飾が施された装甲に翼、ニケだと分かるがアークでは見たことも無いと分かる。

 

 

夏油「私は夏油 傑。君は...ピルグリムか?」

 

????「はい、イサベルといいます。」

 

 

 アークのニケではなく、地上で活動しているニケであるピルグリムであり、スノーホワイトと同じ地上で活動するニケ。

 

 ちゃんと受け答え出来ると分かり、倒れた直近の記憶も問題ないと判断したイサベルは、服を着替えるように促す。

 

 

イサベル「さあ、夏油様。服を着替えましょう。

 着替えの服はこちらで用意していますので。」

 

 

 両手に着替えの服を持ってきたイサベル、夏油は何故ここまで親切に接するのか疑問が膨らんでいた。地上で任務をしている時に、イサベルと出会った記憶は無く、面識が無いと思い返す。

 

 

夏油「傷つけてしまったらすまない。

 ...私たちは初対面だと思うのだが、何故ここまで...?」

 

イサベル「...思ったより意地悪な方ですね...貴方は。」

 

 

 夏油の問いに言い淀むイサベル、答えを渋っている様子から、やはり何か目的があって接触してきたと考えられる。

 

 イサベルに対して警戒を引き上げると同時に、塞がっていた口が開き答える。

 

 

イサベル「それは......一目惚れです...///」

 

夏油「............。」

 

 

 予想の斜め上の答えが返ってきて、夏油の表情が岩石の様に固まる。

 

 数秒固まっていたが、頭を振って正気に戻り、イサベルの顔を見ると頬が赤らみ、恥じらいながらもこちらを見ている。

 

 

夏油(......この感覚...どこかで...)

 

 

 北部に向かう前の任務で、エリアHでトーカティブを回収した後、ヘリに乗った後に感じた視線をイサベルから感じ取る。

 

 

夏油「まさか、君はエリアHの時...」

 

イサベル「?...っ!」

 

 

 夏油が溢した単語を聞いて、分からないように首を傾げるが、思い当たる節があったのか、一瞬驚き笑顔を見せる。

 

 

イサベル「気づいていたのですね...! 嬉しいです...とても...。」

 

 

 両手を赤らんだ頬に添え、本心から喜んでいるイサベルはそのまま、初めて出会った時のことを話し始める。

 

 

イサベル「初めて貴方と出会ったのは...2ヶ月ほど前の荒廃した山岳地帯。

 新種のヘレティックとの戦闘を偵察していた時でした。」

 

 

 初対面はてっきりトーカティブを回収の時と考えていたが、まさかモダニアの総力戦の時から出会っていたと聞かされた夏油は、思わず頭を抱える。

 

 例え呪霊が見えずとも、ラプチャーを生身の人間が単騎で殲滅していくという、この世界では可笑しい光景を見ていたのだ。

 

 

イサベル「正直...初めて見た時は目を疑いました...。

 貴方が1人でラプチャーを一方的に殲滅する光景が...とても雄々しかったのです。」

 

夏油(全く気づかなかった...

 モダニアに集中していたとはいえ、周囲の警戒を疎かにしたら、術式を隠して行動する意味が無い...今度から要警戒しなければ...)

 

 

 自分の失態に頭を抱え、今後更に秘匿しながら注意して行動するべきと考えを改めて、自分を叱責する夏油。

 

 夏油とエリアHで初めて会ってから、その後も遠くから見守って来たとイサベルが話した事で頭が重くなる。

 

 

イサベル「そして地上で暮らしている事、タイラント級の特殊個体を回収した事、そしてこの北部に移動している事も、

 今日までずぅっっっと、貴方を見守って来ました。」

 

夏油「...そうなのか。」

 

イサベル「? どうしましたか? 体調が優れないのですか?」

 

夏油「いや、問題無い...大丈夫。」

 

 

 頭を重そうに下げている夏油に、イサベルは心配しながらも話題を戻す。

 

 

イサベル「話を戻しますが、私が貴方を守る理由は一つ...」

「貴方が好きだから、この想いを伝えたかったのです。」

 

 

夏油「......は?」

 

 

 問題の山積みで重くなっていた頭を、急に軽くなったように顔を上げる。

 

 驚愕と困惑を浮かべている夏油を他所に、今回連れ去った理由を打ち明かす。

 

 

イサベル「貴方に告白して、できればこの場でお返事を聞かせて頂きたいのです。」

 

夏油「えっ? 今?」

 

イサベル「はい、今、この場で。」

 

 

 返答を急かす様に、グイグイ顔を寄せて来ているイサベルに気圧される夏油。

 

 両手でイサベルの顔を止めて、落ち着きを取り戻しながら答える。

 

 

夏油「取り敢えず、私たちは互いを知らない状態だ。だから、ゆっくり時間をかけて交流を深めていかないか?」

 

イサベル「つまり恋人から始めたいのですね?」

 

夏油「まあ...そういう事だね...」

 

 

 夏油の提案に対して、思い当たる節があるのか少し考えこみ、数秒後その提案を受け入れる。

 

 

イサベル「分かりました、できれば結婚を前提にお付き合いしましょう。」

 

夏油「ああ、よろしく。」

 

 

 了承したイサベルに、夏油も悩みの種が消えてひと段落し、体を椅子に預けて深く息を溢す。

 

 

夏油(...結婚??)

 

 

 イサベルが了承した時に言った言葉が、頭の中で反響する。無意識に答えてしまったが、とんでもない事をしたのかと、また悩みの種ができて再び頭を抱える。

 

 

夏油(...今はこの状況をどうにかして合流しなければ...)

 

イサベル「そろそろ朝になりますね、朝ごはんを用意して来ます。」

 

 

 窓を見ると先ほどまで陽が沈み暗くなっていた空が、陽が登り大地や部屋を照していく。

 

 イサベルは夏油に一礼して、リビングから出ていく。

 

 

夏油「私も、手伝うよ。」

 

イサベル「ですが、脇腹をケガされているので動かず安静にして、無理しないでください。

 だから、全部私に任せて下さい。」

 

 

 そう言ってイサベルは、リビングのドアを閉めて出て行った。綺麗に整理されたリビングに残された夏油は、端末を取り出してラピたちに連絡を試みる。

 

 しかし、端末に表示されたのは通信不可区域、北部の環境によって連絡できない状況下で、合流する方法を思案する夏油だが、その前にイサベルがやって来る。

 

 

イサベル「お待たせしました。牛肉の煮付けとトマトシチューです。」

 

 

 リビングに広がるのは、久しく感じられなかった食事の香り。添加物、保存料などの人工物の無い香り。

 

 イサベルから差し出されたシチューを、夏油は警戒しながらも引き寄せられるように口にする。

 

 

夏油「......。」

 

イサベル「どうですか?」

 

 

 鶏肉の旨味とクリームが、人工物を口にしてきた舌を覚醒させるように、じんわりと優しい味が広がっていく。そしてトマトの酸味が、口に残っている味を纏めさっぱりとした後味に調整する。

 

 食材だけではない、きめ細やかな調理によって、シチューの食材は調和を作り出す事が出来たのだ。

 

 

夏油「...とても美味しい、本当に。」

 

 

 短い言葉だが、前の世界を思わせる体験を与えてくれた事に、最大限の感謝を伝える。賛辞を受け取ったイサベルは、その言葉の重みを汲み取れはしなかったが感じ取り、本心からの感謝と分かった。

 

 

イサベル「そう言って下さって、本当に嬉しいです。

 早朝から準備した甲斐がありました。」

 

 

 気づけばこの世界の食事は、パーフェクトを代用として使った食事だけで、久しく本当の味を忘れて暮らしてきた。この一時だけ、忘れて口に含んだシチューを味わう。

 

 差し出されたシチューを飲み込んだ後に、イサベルは夏油の体を労わってある提案をする。

 

 

イサベル「今貴方は怪我されて満足に動ける状態ではありません。

ですので、私にできることなら、何でもしてあげたいんです。」

 

 

 当然と言えば当然の事、致命傷と臓器を避けたとはいえ負傷している夏油を心配し、動けない分イサベルがサポートするという提案だった。

 

 

夏油(...この提案をするということは、彼女は私が反転術式で治癒できる事を知らないのか?)

 

 

 イサベルが夏油に惚れた事、心配している事も、本心であると分かっている。全て正直に言っているとも取れる言葉に、思慮を重ねて提案を受けるかどうか考える。

 

 

イサベル「その傷を治癒できる事は知っています。」

 

夏油(やはり見ているか...)

 

 

 甘い考えはイサベルの告白によって露と消える。ヘレティック モダニアの調査で総力戦が開始される前から観測していたイサベルは、総力戦の顛末を把握している。

 

 知っていながら治療したのには、彼女なりの理由がある。

 

 

イサベル「貴方が例え、常人を凌駕する力を持っていても、貴方の傷は私の傷。

 傷付く姿など見たくありませんし、ちゃんとした一人の人間...いえ、異性として接したいのです。」

 

 

 そこに利己的な目的は無く、自身の心情。自身の想いを正直に伝えて、警戒する鎖を解こうとしている。

 

 

イサベル「私はあの時から見守って来ましたが、それでもまだ分からない事はあるんです。

 だから、お互いを知る為の第一歩として、私に何でも頼んで下さい。」

 

夏油「......。」

 

 

 きっかけとして奉仕を名乗り出たイサベルに、夏油はこの提案を受けるかどうかを考え質問する。

 

 

夏油「まだ条件があるんじゃないのか? 君はまだ何か言いたげな顔をしているが。」

 

イサベル「大したことではないんです、ただ。」

 

 

 思惑が気取られたが、微笑みながらその条件を簡潔に伝える。

 

 

イサベル「何があっても絶対にここから出ないことと、貴方を撃ったニケの名前を教えてください。

 

 

 瞳から光が消え、先程まで慈愛に満ち恋する乙女のような愛らしさから一転、憎悪と憤怒が煮立ち眉をひそめ両手を握り込む暗い表情を見せる。

 

 この瞬間、彼女の二面性を夏油は知る。イサベルの手段は少々強引ではあるものの、その当人(夏油)の意思を尊重して提案する形で守ろうとしている。

 

 それでも、彼女の中で割り切れる事と割り切れない境界線がある事、大切な人や物を傷つけられる事に対して敏感であり、最も許し難い事なのだ。

 

 つまりイサベルは、夏油をこのトランクで匿う事で、外のラプチャーや外敵から守りながら、夏油を傷つけたエキゾチックに報復するつもりなのだろう。

 

 

イサベル「大切な貴方を傷つけたあのニケを、直ぐにでも晒し首にしないと気が済みません。

 

 

 マリアンと怒りの動機は同じだが、恐らく...いや、それ以上に怒りの振れ幅が極端なのだろう。両手に作った握り拳からは、今にでも血が流れそうな程に震えている。

 

 この提案に対して、前向きに検討すると考えていたイサベルは、夏油の返答を期待を寄せて待っている。

 

 

夏油「悪いけど、その提案は受けられない。」

 

イサベル「...何故です?

 

 

 一声目で断られたイサベルは、困惑を隠しながら変わらない威圧と口調で問い質す。対して夏油はイサベルの気迫に気圧される事なく、順々に理由を述べていく。

 

 

夏油「一つ、報復の理由が無い。」

 

イサベル「どういうことですか...貴方は傷つけられたのに気にも留めていないと?

 

夏油「そう、致命傷でも後遺症が残る程の負傷でも無かったから。」

 

 

 理解できる筈もない、死んでいないどころか生活に悪影響が無いからという理由で、エキゾチックに対して怒りを向けていなかった。この返答に対して、当然イサベルは反論する。

 

 

イサベル「納得できません、死にかけたのですよ?

 

夏油「でもこうして生きているし、時間が経てばこの包帯も取れる。

 別に気にする事でもないよ。」

 

 

 負傷を受けたことに動じておらず、そこまで怒りを向ける事でも無いと片付ける。とどのつまり、夏油はエキゾチックに対して無関心であり、近所のやんちゃな子供の悪戯で怪我をした程度の出来事と同義に片づけている。

 

 あっけらかんと返す夏油に、戸惑いが現れ言葉が詰まる。口が止まったイサベルに、更に理由を伝える。

 

 

夏油「二つ、アークでの立場だ。」

 

 

 次の理由は、まあ一つ目に比べれば理解はできるが、イサベルは短い期間だが夏油が立場や権力を渇望しているとは思えなかった。

 

 

イサベル「貴方は権力者になりたいのですか?

 

夏油「その逆だ、自由に動き続けられる立場でありたい。

 だが直近で任務に出ていた彼女たちがアークで死んだとあれば、私が容疑者として疑われ行動出来なくなる。」

 

 

 アークでニケに対する差別は深刻だが、正当防衛のような理由が無い事で殺害されたとあれば、中央政府も黙っていない。もっとも、元テロリストのエキゾチックが消えて楽になる者もいるだろうが、この件に乗じてマリアンを狙う輩が現れるきっかけを作るのは避けたい。

 

 言わばエキゾチックが消え、その影響で動けなくなる事を、夏油は危惧している。最後の理由を、全く同じ調子で伝える。

 

 

夏油「最後の三つ目は、君以外のピルグリムに対する印象だ。」

 

イサベル「ピルグリムの...?

 

 

 夏油が言い放った最後の理由に、イサベルは頭を傾げていた。アークに所属する夏油が、地上で活動するピルグリムの立場を気にするのか分からなかった。

 

 

イサベル「貴方はアークの指揮官、なのに何故私たちの立場を気にするのですか?

 

夏油「君の他に、交流のあるピルグリムが一人いるんだ。」

 

 

 夏油の口から出たピルグリムという単語から、イサベルは露骨に嫌なそうな顔をしつつも直ぐに調子を戻して意見を述べる。

 

 

イサベル「それとこれと何の関係が...?

 

夏油「直近であったヘレティックの総力戦、この戦いでアークの軍部はピルグリムという存在を認識した。

 彼女...いや、君たちとは友好な関係を持っておきたいんだ。」

 

イサベル「私はアークとの関係など...

 

 

 顔を背け、真っ向からアークとの友好関係を拒絶する仕草を見せるイサベル。その様子から何らかの形でアークを嫌悪したと汲み取り、相手をアークから変える。

 

 

夏油「しかし、ピルグリムがアークに攻め、ニケを殺害したとあれば、君は私と敵対することになる。」

 

イサベル「ならばこちらに...

 

夏油「悪いがそれはできない、アークに守りたい人がいるんだ。」

 

イサベル「......。

 

 

 イサベルはアークを嫌い、別に崩壊しても興味の外。だが、一つの行動によって夏油との関係は完全に破綻するリスクに気付かされたイサベルは、その事態が起きない方法を思案するが、思いつかず立ち尽くす。

 

 その間に、イサベルに夏油が了承する条件を、改めて提示する。

 

 

夏油「ずっとは出来ない。しかし、今日から一日中君から離れず過ごす。

 これが今の私にできる最大限の譲歩だ。」

 

イサベル「!?

 

 

 夏油の方から提示した条件に、思わずハッと顔を上げるイサベル。それもその筈、イサベルが最初に言った『何があってもここから出ない』に反する条件だからだ。

 

 夏油を守りたいという考えはあるが、夏油の条件を拒否すれば以降こんなチャンスが巡ってくるか分からない。その条件について、質問を重ねていく。

 

 

イサベル「...本当に一日中ですか?」

 

夏油「誓うよ。」

 

イサベル「私のお願いも答えてくれますか...?」

 

夏油「治療に食事までご馳走になったんだ、君が満足できるように尽くすつもりだ。」

 

 

 たった一日、それでも魅力的な提案。一日中夏油と過ごせる事は、イサベルにとっても理解を深める絶好のチャンス。

 

 しかもいつも一緒にいるラピやアニス、ネオンとマリアンに邪魔される事無く、一つ小さな部屋の中での生活だ。

 

 

イサベル「条件を追加させて下さい。一日が経過するまで、貴方の端末を預かってもよろしいですか?」

 

夏油「一日経過した後に返してくれるなら構わない。」

 

 

 そう言って夏油は、イサベルに通信端末といつも使っている携帯と予備の携帯を差し出す。ボディチェックして、もう無いことを確認する。

 

 

イサベル「分かりました、この提案を受けます。

一日という期間は私にとっても都合がいいので。」

 

夏油「交渉成立だね、よろしくイサベル。」

 

 

 空いているイサベルの右手と握手する夏油、突然握手し加えて名前を呼んできたことに、頬を赤らめる。

 

 

イサベル「...///」

 

夏油「?? どうしたんだい?」

 

イサベル「いえ...あの、出来れば両手で握り合いませんか?」

 

夏油「? 構わないが...?」

 

 

 淀みも無くイサベルの左手を優しく握る、イサベルも夏油の握っている手を優しく握り返す。完全に蕩け切っているイサベルは、白い吐息を吐きながら鼓動が高鳴っていると実感する。

 

 

イサベル「...ありがとうございました。」

 

夏油「本当に大丈夫かい?」

 

 

 こうして小さいトランクルームでの、二人っきりの生活が始まった。握り合った後に、イサベルは簡単な自己紹介を終え、スノーホワイトと同じピルグリムだが、互いに違うグループに所属する事を説明する。

 

 今度は夏油の事を聞きたいとお願いしたイサベル、生前の事を聞き現在に至るまで、夏油の秘密をこの場で知る。終始信じられないような表情をしていたが、総力戦の出来事を見てから噓とは考えず受け入れる。

 

 出来れば他人に話して欲しく無かった夏油だが、イサベルは寧ろ『貴方の秘密は、私の宝。誓います、誰にも話しません。』と言って公言しないと約束した。その後は趣味やテーブルゲームを使った遊びを経て、短い生活の中で互いを知り合っていった。

 

 そして時間を忘れ、気づけば日は沈み始め橙色に地面を照らす。窓から夕陽を見たイサベルは、時間が流れている事に惜しみつつも立ち上がり、夏油と一緒に夕食の準備を始める。

 

 最後に、イサベルが持参して来たDVDから、ラブストーリーの映画を見た後にベッドで就寝した。

 

 一日という短い間、イサベルのお願いに対して快く受けたり、難色と照れ隠しで視線を逸らす事はあったが、しっかりと夏油は果たした。これだけでも、夏油の事を知るには大収穫だった。

 

 

 

 

 

 

 そして夜明けを過ぎ、昼に差し掛かる頃、約束の1日が終わった。

 

 

夏油「時間だ、すまないが端末を返してくれないか?」

 

イサベル「はい...」

 

 

 預けていた三つの端末を返してもらい、羽織ったジャケットの中に入れる。イサベルは約束を守るべきと考えつつも、名残惜しさが消えずにいる。

 

 

イサベル「昨日が永遠に続けば...どれほど幸せなのでしょう...

 また会えなくなると考えただけで、胸が張り裂けそうです...」

 

 

 両手を胸に当て、心中を吐露するイサベル。口で言ってしまっているが、彼女なりに必死に我慢しているのだろう。

 

 それだけ充実した時間だと分かる。夏油はメモ帳に何か書いた後、書き込んだページを破りイサベルに手渡す。

 

 イサベルは手渡されたメモを見ると、そこには何桁かの番号の間に横棒が並んだメモであり、この形に見覚えがあった。

 

 

イサベル「これは...!?」

 

夏油「私の携帯の番号だ。出られないケースもあるかもしれないが、なるべく応答する様にするよ。」

 

 

 少しでも寂しさを感じさせない為に、配慮して電話番号を教えた。イサベルは決して離さないように、両手で包み大事そうに抱える。

 

 表情が心なしか明るくなっていると確認した夏油は、別れを告げながら扉に向かう。

 

 

イサベル「あの...」

 

 

 厳重に施錠された扉を、開けた時に呼び止める。夏油はゆっくりと振り返り、イサベルの顔を真っ直ぐ見据える。

 

 

イサベル「最後の我儘...聞いてくれませんか...?」

 

 

 とっくに約束の時間は過ぎて、イサベルの要求に答える必要は無い。それでも夏油は、イサベルの言葉に耳を傾ける。

 

 

夏油「言ってごらん。」

 

イサベル「...抱きしめてくれませんか?」

 

 

 夏油と触れ合った瞬間が、両手を握った時のみで、夏油の温もりを忘れたく無かったイサベルは、ダメ元でお願いする。しかしその我儘を

 

 

イサベル「っ!?」

 

 

 夏油はすんなり受け入れる。

 

 言葉を出さずに実行して来た夏油に、イサベルは息を飲み驚愕するが、両手を背中に添えて抱き返す。

 

 数分後にイサベルの方から離れて、満足したような表情を向ける。

 

 

イサベル「ありがとうございました、本当にお優しいのですね。」

 

夏油「そうでもないよ。」

 

 

 イサベルの感謝に謙遜するように何気なく返答したが、この一言に後悔や無力な自分への憤りなどの感情が、複雑に入り混じっていたと感じ取る。

 

 最後のお願いを済ませた夏油は、扉を開き地上に踏み出していく。その背中を見守りながら、イサベルは小さく溢す。

 

 

イサベル「いってらっしゃい。」

 

 

 主人を見送る妻のように、イサベルが思い描く理想の家庭を夢見て。

 

 

夏油「...行ってきます。」

 

 

 しかし彼は振り返らない、待っている仲間の元に戻る為に。




 本編のイサベルより、かなりマイルドになっていますが、ちょくちょくヤンデレストーカーの片鱗を見せています。



 雪原を歩き続け、大体30分が経過しただろう。

 景色は変わらず、雪か氷の世界が広がり続け、所々崩落した人工物が見られる。


??????「雪景色を見るのは久しぶりなのですか?」


 今雪は降っていないが、雪景色はクリスマス以来だと答える。

 北風が雪の結晶を運び、体を打ちつけるように吹き荒れる。

 性女は突風に思わず、瞳を閉じて前を見据える。


??????「今日は一段と荒れていますね、大丈夫ですか?」


 生憎強風には当たらず、問題無いと答え歩き続ける。

 それでも心配なのか、気遣って手を差し出す。


??????「もし寒かったら、私が温めますよ。
 ...温める...ハッ! わ、私の体で温めてあげます! 全r...いえ、人肌が一番温まりやすいので...はあっ、はあっ!


 ......この性女、想像以上に見境が無いらしい。

 数分前にも丸い機械を見て、両手で鷲掴みにと自分の胸を差し出してきた。

 その後尻が好みかと言って、尻を突き出してきたが。

 相手すると疲れるので、無視して進み続けた。


??????「まっ、待って下さいっ...!


 鼻息を荒くして、性女が追いかける。

 やがて追いつき、先頭に立ってこちらに話しかける。


??????「そういえば、そのクリスマスはどのように過ごしたのですか?
 家族、それとも友人と?」


 ......急にこんな真面目な質問をしてくるものだから、寒さを感じないのに温度差が凄すぎて風邪をひきそうだ。

 別に隠すことでも無かったから、友人の死を見送ったと答えた。

 すると性女は上げていた顔を下げ目を逸らした。


??????「ご、ごめんなさい。嫌な事を思い出させてしまって...」


 逆にクリスマスでお別れしたから聞くなと言うのが無理な話。

 別に気にする事でもないと返して、変わらない調子で歩き続ける。

 その時、ふと視界に入った人影に目を向ける。

 5人ぐらいが固まって移動し、その中の1人から目を逸らせず立ち止まった。

 沈んでいたが付いて来ていない事に気付き顔を上げた性女が、こちらを見て気になったその視線の先を目を凝らす。


??????「...あの方々は?」

??????「間違いありません、あの方々と合流しましょう!」


 5人の集団が誰か分かったのか、そう言って性女は満面の笑みで駆け出して行き、歩いている5人のもとに向かって行った。

 目を向けた時、性女は目を凝らして誰か分かったようだったが、俺は一瞥しただけで分かった。

 もう会う事は無いと思っていたが...。


「...やっぱり、お前だったんだな。」
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