アンチェインドの記録が保管されている研究所の場所を教えてもらった夏油たち、昼前に終わって時間もある事から食事をする事になった。
準備は昼過ぎまで続き、夏油が呪霊を使って携帯してきた食糧と調理器具で料理を作って振る舞う。
紅蓮「おぉ、これは...」
アニス「どうよ、私たちの指揮官様の料理。」
ネオン「えっへん!」
ラプンツェル「確かに美味しそうですね。」
食卓に並んだのは、缶詰を使ったハンバーグやプレートで炒められている培養焼肉、庭で採れた野菜で作ったシーザーサラダにたっぷりタレのかかったアナゴ、フライドポテトとオニオンリングが視界に広がる。
それぞれの机の前に、茶碗に盛り付けられたご飯とカボチャのポタージュから、暖かい湯気が淡くのぼる。全員が席に着く前に、スノーホワイトが並べられた料理に手が伸びるが紅蓮が静止する。
紅蓮「もうすぐありつけるのだから、首を長くしてまとう。」
スノーホワイト「食える時に食える物を食えるだけ食う、地上での鉄則だ。」
ラプンツェル「それにしてはずっとお腹が空いているように見えますよ。」
五条「どんだけ食い意地を張ってんだよ。」
会話している間に、調理器具を片付けた夏油たちが戻ってきて早速食べ始める。それぞれが食べたい料理を口に運び、じっくりと噛みしめながら堪能する。
スノーホワイト「相変わらず美味しいぞ。」
夏油「それは良かった。」
紅蓮「うん、この肉がまた酒を美味しくする。」
培養肉を口に入れてゆっくり時間をかけて咀嚼し、紅蓮が持参した
飲み干した紅蓮は、口いっぱいの白い息をこぼして感嘆する。その表情を横から見て、嬉しそうに微笑むマリアン。
紅蓮「くぅぅっ、体に染み渡るねぇ。」
マリアン「本当に美味しそうに飲みますね。」
紅蓮「おや? お嬢ちゃんはお酒は嫌いかい?」
マリアン「嫌いってわけじゃないんですが...」
紅蓮「なら飲んでみるかい? 私が作った自慢の一品だ。」
マリアンは躊躇いながらも、紅蓮から差し出されたおちょこを受け取り、クイッと喉に流し込む。口に含み舌から強い辛味を感じるが、じわじわと揮発するように消えていく。
後味が少なくもほのかに果物の香りも感じる、辛味が舌に残った味のしつこさをリセットし、最後に香る甘味が舌の味覚を整える。
マリアン「とっても美味しいですこれ!」
紅蓮「はっはっは、お嬢ちゃんいい飲みっぷりじゃないか。」
アニス「そんなに美味しいの...?」
紅蓮「そちらのお嬢ちゃんたちも如何かな?」
ネオン「頂きます!是非!」
アニスとネオンも続いて、紅蓮の酒を飲んで味に驚嘆しながら食を進める。ラプンツェルは料理に出されたポタージュをゆっくり味わっていた。
ラプンツェル「優しくて暖かいですね。」
夏油「北部だったので体を温められる汁物は必要だと思ってね、おかわりはたくさんあるから遠慮せず言ってk」
スノーホワイト「おかわり。」
ラピ「さっきおかわりしてたのに空になっている...」
五条「スープをわんこそばみたいに飲むじゃん...」
スノーホワイト「なんだそれは? どんなご飯だ?」
ゆっくりと味を楽しむ周囲を気にせず、自分のペースで手が進み続けるスノーホワイトは、かぼちゃのポタージュがとても気に入り、おかわりを貰っては一気に口に流し込んでいた。
ラプンツェル「全く...そういえばブラザー、美味しいご飯を作れるとスノーホワイトから聞いたんですが、自炊をしていたのですか?」
夏油「今も続けているよ、少しでも節約できるように。」
ラプンツェル「フフッ、まるで主夫みたいですね。美味しくできるコツなどあるのですか?」
夏油「まあ、子供を引き取って生活していた時期もあってね。
元々料理は嫌いではなかったし、コツはトライアンドエラーかな?」
スノーホワイト「おかわり。」
五条「だから早いって。」
ラプンツェルは美味しく調理できる夏油から、そのコツについて何を心掛けているのか尋ねている傍ら、スノーホワイトは口にいっぱい頬張っておかわりする。
次に料理の話題から、今後の生活についての質問に移り変わる。
ラプンツェル「同棲...誰かと暮らしたいと考えた事はありませんか?」
夏油「誰かと一緒の生活...もう皆と暮らしているような感じだが...?」
ラプンツェル「本当ですか!?」
ラピ「スノーホワイトから聞いていないの?
私たちは前哨基地の宿所で暮らしているの。」
頭の先から足にかけて雷を打たれたような衝撃を受けるラプンツェル、呼吸が荒くなり焦点が合わず紅潮し始める。
ラプンツェル「小さな建物で...ブラザー1人と、女性4人...なんて羨ま...いえ!なんて不埒な!!」
五条「不埒の代表に言われても説得力無いぞ。」
ラピ「さっき羨ましいって...」
夏油「言いかけたね。」
ラプンツェル「私だって! ブラザーの傍で体をじっくりコッテリ観察してっ!...ゆくゆくはあんなことやこんなこと...
ブラザーの体...? 猛々しい体に包まれる...はあっ!...はあっ!」
五条「おい自家発電始めたぞ。」
ラピ「世界一不純な自己供給...」
夏油「こんな姿見せておいて身なりは修道女なんだよね。」
ラプンツェルのいつもの変わりようを見て、残念そうな視線と呆れていると、五条の肩を紅蓮が組んでくる。
紅蓮「ど~したんだい~五条のぼうちゃ~ん~?
おさけがはいっていないよ~だが~?」
五条「酒クッサ!! 」
マリアン「しきか~ん...ふわふわします~」
紅蓮は酒を飲みすぎてダルがらみ、ラプンツェルは常時発情期、スノーホワイトは飯に夢中。アニスとネオンは心地良さそうに寝て、マリアンはほろ酔いからかなり酔っている。
何を言っても止まる気配はなく、ラピと夏油は紅蓮とラプンツェルの制止を半ば諦めていた。
紅蓮「そんなにのんでな~い...ヒックッ。
きみも~ わたしのおさけを~ のみたまえ~。」
五条「僕下戸だから飲まないよ。」
紅蓮「ほぉ~...きみがよっぱらうところをみてみたくなったぞぉ~
ほ~れぇ わたしのさけはおいし~ぞ~ぉ。」
五条「アルハラって知ってる?」
ラプンツェル「●●●ハラスメントっ!? 何て破廉恥なっ!!」
夏油「君は何を言っているんだ?」
五条「何この地獄。」
五条は無理にでも酒を押し付けてくる紅蓮を躱しつつ、夏油は酔っ払ったマリアンを落ち着かせソファに寝かせれる。ラピは食事を終えた後、眠ったマリアンの面倒を見て、夏油は建物の屋上に逃げる。
気づけば外はすっかり夜となり、ケトゥスと戦闘した時と同様のオーロラが空を彩り飾る。夜風がはしゃいだ体の熱を冷まし、張り詰めていた緊張の糸が解れていく。
しばらくして、足跡が背後から聞こえてくる。五条が溜息交じりに屋上にやってきて、夏油と同じように屋根に腰掛け座り込む。
夏油「随分げっそりしているね。」
五条「よく言うよ、俺を見捨てて逃げやがって。」
夏油「私もあの空間にいたくなかったからね、紅蓮とラプンツェルは?」
五条「アル中は飲み過ぎでグースカ、性女はアル中が押し付けてきた酒瓶が誤爆して一緒にぶっ倒れた。」
五条の酔っぱらっている姿を見たかった紅蓮は、
今起きているのは、スノーホワイトとラピ、そして夏油と五条の二人となる。下の騒動の話を聞いて、2人の間に静けさが漂いただ雲と一緒に時間が緩やかに流れていく。
五条「聞かないのかよ?」
夏油「何を?」
五条「俺がどうして死んだのか。」
夏油「聞いて欲しいのかい?」
切り出してきたのは五条、最初に対面した時に死んでここに来た事に気づいた事を、五条は夏油の表情を見て理解している。
対面した時に、五条の死を受け入れられなかった夏油は、その経緯について気掛かりになっていると考えて話を切り出した。
夏油「多分...相手は宿儺だろう?
呪術全盛、平安の時代で最強の術師。」
五条「宿儺が復活したこと知ってたのか。
...いや、火山頭共から聞いたのか。通りで傑の中に見覚えがある奴がいると思った。」
夏油「見ただけで気付くんだね、漏瑚たちがいることを。」
五条「そいつらには随分お世話になったからな。」
漏瑚は影で舌打ち、花御と陀艮は冷や汗を流し、真人は口笛を吹いて他人事のように褒める。
夏油は発電所の任務から戻った時、漏瑚たちから渋谷にて発生した大災害を齎した術師と呪詛師の戦争までの話を聞いている。
当然目的の根幹である呪いの王、両面宿儺が虎杖悠仁という器を介して受肉化した事も聞いている。
現代最強と謳われた五条が敗北する相手として、思いつく人物が件の両面宿儺しかいないと結論を出し、夏油は自身の考えを伝えた。
夏油「しかし、器となった虎杖悠仁という子は宿儺を抑制できると聞いたんだが...」
五条「それが面倒なことに、違う俺の生徒の体の中に乗り換えちゃってさ。
伏黒 恵っていうんだけど、禪院相伝の十種影法術使いなの。」
聞いたことのある苗字から、星漿体の任務で対面した
続けて五条は十種影法術を万全に使えるよう、恵の魂を姉を自らの術式で殺した絶望で沈め、完全に掌握したこと、そして新宿で戦うことになった事を伝える。
夏油「そうだったのか...それで、どうだった? 呪いの王は。」
五条「いやマジでつえーわ。
しかも宿儺は全力出し切ってねぇってんだから。」
実際に聞いてみて、驚愕の連続だった。乗っ取った伏黒 恵の術式が無くとも勝てたか怪しいと、五条本人の口から出るとは考えていなかった。改めて、平安という魔境で頂点に君臨した両面宿儺の強さに舌を巻く夏油。
五条「でもね、ちょっと申し訳なさすら感じてるよ。」
夏油「......。」
軽快な口調から急に重さを感じ始め、五条の言葉から後悔や寂しさと一緒にこぼれ出す。夏油は五条の本心を、ただ黙って聞いている。
五条「孤高の侘しさは、誰よりも共感できるつもりだ。みんな大好きさ、寂しくは無かった。
でもどこかで、人としてというより生き物としての線引きがあったのかな。」
五条「花を咲かせることも、愛でることもできる。
でも花に『自分を分かって欲しい』なんて思わないだろ。」
孤高、それは他者を寄せ付けず追従できない頂に立っていた五条の本心。絶対的な力を持っていた故に周囲を守ってきた事で変わった視点。
誰もが自分を理解できない、しかし理解してもらえないと分かっている、一種の諦めとも言えるそれは、孤高でありながら孤独だった五条の心そのものだった。
五条「鍛えた肉体に身につけた技術、磨き上げたセンスや場当たりの発想と瞬発力、全てをぶつけた。
宿儺には全部伝えたかった、伝わって欲しかった。」
虎杖悠仁と対面した時、ゆくゆくは呪物ごと殺されると諦め戦える事を期待していなかった五条は、指を集める間に少しでも彼に青春を謳歌して欲しいと願いつつ、教師として励んでいた。
しかし、死滅回遊で復活し戦う機会が舞い込んできた事に、生徒である恵を救う決意の裏に、ふつふつと湧き上がっていたのは、同じく絶対的な力を持つ存在との戦いに心を滾らせていた。
文字通り、五条は新宿での決戦で全てを出し切り、限界を超えた全力を出し切って戦う事が出来た。悔いも空虚感もあるが、それ以上に戦いを通して得られたのは
充足感、欠けていた最後のピースが嵌り、自分の全てをぶつけられる相手に巡り会えた事に感謝していた。
自分に足りない物を満たしてくれたことに感謝しつつ、加えて自責の念を感じていた。
五条「宿儺は俺に全てをぶつける事が出来なかった。
そこを申し訳なく思うよ。」
それは自身が得られた充足感を、宿儺に与えられなかった事。同じ境遇だと感じているからこそ、自分に力が無かった事を悔やんでいた。
それまで口を閉じていた夏油が、ようやく話し始め満足そうな五条に言葉を投げかける。
夏油「......妬けるねぇ。でも君が満足したなら、それで良かったよ。」
五条「......満足ね。」
夏油の言葉に対して、五条は引っかかったのか言葉に詰まる。
確かに自分の全てをぶつけられた、悔いは自分と同じ充足感を与えられなかった事、確かに足りなかった物に満ちていた。
それでも、五条の心の器は、まだほんの少しだけかけて、流し込まれた水が漏れ出している。
夏油「――――。」
たった一人の親友が、最後の最後まで傍にいて激励して欲しかった。それが五条の器にかけた最後の欠片。
家でも、他の御三家でも、対等な存在が居なかった中、呪術高専で初めて分け隔てなく接してくれたのが、同級生の夏油と家入だった。
そして等級も同じで対等だと感じられた夏油が、生まれて初めて対等な存在として認識して並んだ。
あの青い春の中の思い出が、五条の中で最も輝いていたと感じる理由なのだ。
夏油「ごめん...。」
五条「何で突然謝るんだよ。」
夏油「君に悔いを残したのも、後戻りできなくさせたのも、私のせいだ。」
獄門疆から解放後、五条は偽夏油こと羂索と関係が深かった呪術界上層部を皆殺しにし、乙骨たち生徒の手を汚さないように自分がその泥を被った。
かつて夏油が五条との力量が離れて、孤独になりつつも五条と決別したように、五条に穢れを付けない為に、自分一人が泥を被り世の中に変革を
自分が抱えている、人間の醜悪さという泥を、五条に知ってほしくなかったから。
以前の彼なら、今もこの考えが間違っていないと言っていただろう。しかし今の彼は、自分の弱さと向き合って、前へ進もうとしている。
夏油「特級という階級を自分の中で肥大化し、プレッシャーとプライドを感じて仲間に内を明かせなかった。
その結果、君や皆に呪いを振りまき、後世の逸材にも迷惑をかけてしまった。全ては、私の力不足から逃げ続け自分と向き合っていなかったからだ。」
彼が生前
彼の憧れでもあった五条の名を冠する袈裟を身に着け、自分も彼のような大胆不敵さと強さを保つ為の物だった。いずれ五条 悟のような強さが得られるように、仲間に気取られぬよう自分に鞭打ち続けていた。
夏油「だが私は君には成れない、その強さは私には無い強さだった。
どこかで私も気付いていたのに、気付かないフリをして逃げ続けた。
それは五条に向けた深い謝罪であり、自分に言い聞かせるようでもあった。生前で陰り曇っていた眼はもう何処にも無い。輝きを取り戻し前へ進もうとする意志が感じられる。
その表情を横から見ていた五条は、思わず固まってしまいつつも、自分の生涯を振り返りながら夏油に続くように謝り始める。
五条「謝んのは俺の方だよ。俺はお前を善悪の物差しにして行動してきたんだ。
他人は花だからと言い聞かせて、お前に頼り続けて自分から考える事を放棄した。
だからあの時、俺はお前を引き留められなかったんだ。」
夏油が旧 村を後にして、決別した新宿で、夏油を引き留められなかった時の事を五条も悔やんでいた。
自分が夏油の変化に気付いて声をかけていれば、夏油の本心を聴ける機会を作れたのかもしれない。自分が夏油に頼らず理非を身に着けていれば、新宿で引き留めることができたのかもしれない。
考えれば考えるほど、自分の行動にも過ちがあり、互いに自責していた。
夏油「もしそうなら、悟に対して非道い選択を迫ってしまった。
自分のことだけを考えて、相手の立場を考えようとしなかった私の落ち度だ。」
五条「それを言うなら、俺の方がずっと自分のことばっか考えてきた。
親友とか言っておいて自分から変わろうとせず、あの時の俺は自分の技術を磨くのに夢中で、見捨てたも同然だ。」
話せば話すほど、自責が止まらない。
思い返しては、自分の失態を見つけてしまい後悔する。だが互いに、自分の本心をぶつけ合っては、理解しようとしていた。
このキャッチボールは、時間を忘れるほど長く続くが、空の雲は緩やかに進んでいく。何回も続いたが打ち止めとなり、お互いに自分に対して呆れて馬鹿馬鹿しくなった表情で呟いた。
行きついた答えが、まだ未成熟だったということ。子供の頃の過ちから、年を重ね命を落とし今になって気付いた。
二人はここに辿り着くまで遅すぎたと考えつつも、本音を打ち明かし本心を聞ける機会を与えてくれたこの世界に、密かに感謝していた。
自責のぶつけ合いが終わった後、五条はこの世界に早くに来ていた夏油に、今後どうするのかを尋ねる。
五条「傑はこれからどうするんだ? 元の世界に戻るのか?」
夏油「今更戻っても、かえって混乱させてしまうだろう。
戻る理由も意味も無いし。」
前世の世界に戻る事に対して、夏油はあまり前向きではなく、その考えを正直に話した後にこの世界に残る理由について話し始める。
夏油「今の私があるのは、私について来てくれた彼女たちのおかげでもあるんだ。私に出来ることがあれば、精一杯恩返しできるようにこれからも行動を共にしたい。
それに、私が何故この世界にいるのかまだ分からない、理由が分かるまでこの世界で生きるよ。」
五条「でもさ、理由とか意義とかその状態で見つけるのは難しいぞ?」
夏油「まあ、理由とか意義は後回しかな? 分からないことだらけだから、ラプチャーと戦いながらゆっくり見つけていくさ。」
意義や理由を後回しにして、目の前の問題に集中しながら、自分の中でゆっくりと考えて理由を見つけていくことを明かした夏油に、五条は目を見開き唖然とした表情で見ていた。
そして、改めて感じた本心を伝える。
五条「お前、ホント変わったな。」
夏油「さっき言ったばかりだろう?」
五条「さっきのは悩みが無くなったとかの意味で言ったんだよ。
以前のお前って、何かと意味とか理由とかを考えて行動してただろ?」
五条の指摘に夏油はただ頷く、任務にあたる前や離反した時にも、その必要性の有無や重要性を自分なりに考えた上で行動に移していた。
それが今では、分からない事を念頭に置いて、問題に対処しながら目的を組み上げる柔軟性を、この世界での生活を経て獲得したのだ。
驚いて固まっている五条に向けて、今度は夏油がこれからどうするのかと尋ねる。
夏油「そういう悟こそ、元の世界に戻るのかい?」
五条「俺も無しだな、今から戻っても皆から凡夫やら庭師とか言われそうだし。
それに、俺が仮に戻ったら皆の足手まといになる。」
勝つと断言し仲間から送り出され、完膚なきまでに負けた後にまた会ったら何を言われるか分からない五条は、ちょっと身を震わせながら話す。
その会話の中で、ふと五条がこぼしたある言葉が引っかかった夏油は、その単語に焦点を置いて反復する。
夏油「足手まとい...?」
五条「そう。僕は教鞭をとって、皆の目標になれるように努力してきたけど...
今考えるとさ、皆の成長や可能性を狭めていたのかもって思うんだ。
一応人間の僕もいつかは死ぬ、その時僕しか対処できなかった問題を急に押し付けられても困るでしょ?
そうなってもいいように、僕がいなくてもやっていこうって思ったんだ。」
夏油に伝えたのは、五条なりに生徒や後世に生きていく呪術師に向けた考えであり、自分という天井を取り払って超えて欲しいという教師としての願いでもある。
続けて夏油に、精神的な成長の次に力量的な成長についての現状を話す。
五条「それに、その気になったら僕を超えられる人をいっぱい見てきたんだ。
もう皆には、僕という足枷は必要無い。十二分に強くなっていけるさ。」
夏油「君でも勝てなかった両面宿儺にも勝てると?」
五条「勝つさ。凄い無責任だけど、僕は皆を信じてる。」
勝つと約束しながらも死んだ面目なさ、それでも後の未来へ続く希望の生徒を育ててきた五条は、両面宿儺すら踏み台にして超えていけると信じている。
その思いを聞き入れた夏油は、対抗心を燃やして自身の目標を伝える。
夏油「...実はこの世界に来てからある目標を立てていてね。」
五条「目標?」
夏油「毎日鍛えて力を身につけて、また君に並び立てるように強くなろうって決めたんだ。」
夏油の目標、それは呪術高専に残していった後悔。五条と並び立てる強さを目指す事。
心も、体も、技術も、五条に無い強さを自分なりに考えて見つけられるよう、ある日を境に鍛錬を続けていったのだ。耳を傾けた五条は、余裕のある不敵な笑みを浮かべて夏油に告げる。
五条「じゃあ俺が見届けてやる。お前が並び立てるようになるまで、俺がお前を鍛えてやるよ。」
夏油「願っても無い申し出だ、断る理由が無いね。」
五条「言質取ったからな、死ぬほど厳しいから覚悟しておけよ。」
夏油「受けて立つ、首を洗って待つといい。」
五条の横柄とも見れる態度に、夏油も不敵な笑みで返しこの提案を受け入れる。
短い談話の中で、五条もこの世界に残り夏油の成長を見守り鍛えると決めて、翌日に現在の実力をチェックする為に、実際に模擬戦闘をすることになった。
密かに闘志を燃やしている夏油に対し、五条も密かにしていた考えがあった。
ある程度物語のレイアウトは出来ていたとはいえ、文章化するとなると滅茶苦茶難しいですね...。
トーカティブを回収した後、ユルハの誘いでバーにやって来た夏油たち。入ると優しい暖色系の光とバー店内の雰囲気に彩るジャズが、会話を遮らないが耳に届く音量で迎え入れる。
扉を開けてチリンとなったベルの音を聞いて、テーブル席に座っている面々がこちらに視線を向け、その人物はトライアングル部隊の三人で夏油たちを待っていた。
ユルハ「来たわね。」
プリバティ「こちらですよ指揮官!」
マリアン「こんばんは。」
ユルハ、アドミ、プリバティの前にあるグラスには空の状態であり、他の席の前にそれぞれ同じように空のグラスが置かれていた。
アニス「何気に指揮官様がお酒飲むの初めて見るわ。」
ネオン「確かにそうですね!」
ラピ「皆飲む物は決まってる?」
ユルハ「私はウィスキーをストレート。」
アニス「私はハイボールにするわ。」
ネオン「? 何ですかそれ??」
マリアン「ラーメンのマシマシとかですかね?」
アニス「次郎系コールじゃないのよ。」
ラピ「あるお酒には複数の飲み方があるの。」
プリバティ「初めて飲むならサワーがおすすめですよ。
私はビールをお願いします。」
マリアン「それじゃあオレンジサワーにします。」
ネオン「私はコーラサワーで!」
アドミ「私はジンジャーエール、ソフトドリンクの方です。」
ラピ「私はワインにします、指揮官は何を飲みますか?」
夏油「日本酒でこの
※香りの強い日本酒を薫酒と呼ぶ。
テーブルに近づいてきたウェイターが注文を取り、カウンターの方へ向かって準備に取り掛かっている間、それぞれグラスが届くまで談笑を始める。
夏油「ユルハは今日みたくここに来る事が多いのかい?」
ユルハ「そうね、逆に新人は来ないの?」
夏油「普段から節約したいから来ていないね。」
アニス「そういう意味でも、私たちが来て正解だったわね!」
ネオン「はい! 師匠は酔うとどんな姿になるのかとても楽しみです!」
夏油「別に酔いつぶれるほど飲むつもりは無いんだが...」
ラピ「皆、お酒は飲んでも飲まれないでね。運ぶの面倒だから。」
プリバティ「そういえば私、ラピがお酒飲むところ初めて見ます。」
アニス「言われてみれば確かに...」
マリアン「酔っ払うって想像できないんですけど、どうなるんでしょうか?」
アドミ「頭が重くなるらしいですよ。」
ユルハ「口が緩くなって話が止まらなくなったりするわね。」
夏油「本でしか見たことないが、いつもより笑ったり泣いたり怒ったりすることもあるらしい。」
マリアン「......不思議な飲み物なんですね。」
ユルハ「ええ、重労働の疲れも吹き飛ばす不思議な飲み物よ。」
ユルハの何気なく呟いた言葉が、夏油とマリアンの脳裏に代わりに仕事を消化した事を思い出し背筋が凍る。
しばらくしてカウンターからウェイターが、トレイに頼んだお酒の入ったグラスをのせ、ツカツカとこちらに歩み寄り、それぞれ前のテーブルに置かれていく。
配膳を終えたウェイターは、再びカウンターへと戻っていき、夏油たちはそれぞれグラスを手に持って掲げる。
ユルハ「新人、乾杯の音頭を取りなさい。」
夏油「分かった、それじゃあ皆。
誰一人欠けることなく任務を終えられて良かった、本当にご苦労様。
それぞれ自分のペースで飲みながら、思う存分楽しもう。乾杯!」
夏油に続き、ラピたちも乾杯と言ってグラスを交わし、乾いた喉を酒とジュースで潤していく。初めて体験するお酒に、マリアンは体がほんのり温まるのを感じ、心地良く感じる。
その後、各々談笑を再開して楽しい雰囲気で、お酒デビューを果たしたマリアン。
しかし、店に入ってから30分後...
ユルハ「パピヨンっていう~...くちうるさいやつがいんのよ...
そいつがぁ~...って聞いてんの新人っ!」
夏油「パピヨンっていう人が、君に何か言ってきたのかい?」
ユルハ「そう! ソイツがぁ~...」
プリバティ「しっきかぁん~...実はわたし...ラピとの勝負に勝っているんですよ~...」
夏油「ああ...そうなんだ。」
プリバティ「そうなんです~」
ラピ「主語が抜けてるわよ。」
アドミ「ユルハの挑発に乗ったばかりに...ビールを何杯も一気飲みしたらそうなりますよ。」
アニス「ま~りあ~ん~?」
マリアン「どうしましたかアニス?」
アニス「まりあんはぁ~...しきかんさまのことどぉ~おもってるの~?」
マリアン「ふぇっ!?...えっ...と~...」
ネオン「あにす~まりあんのかおがトマトみたいです~。」
アニス「ほんとだぁ~」
マリアン「ぅぅ...///」
更に10分後...ユルハ、プリバティ、アニス、ネオンは爆睡。夏油、ラピ、マリアン、アドミはまだ起きている状態になった。
アドミ「また勝手に寝て...はぁ~...」
マリアン「私がユルハさんを運びますね。」
アドミ「助かります...」
ラピ「アニスとネオンは私が。」
夏油「私も手を貸そう。」
アドミ「この二人も指揮官を見習って欲しいです。」
マリアン「途中からソフトドリンクを飲んでいましたね。」
夏油「私自身そこまでお酒に強いわけじゃないから。」
ラピ「指揮官は強い方だと思いますよ。」
夏油「そうかい? 私はそうは思わないけど...」
アドミ「お酒は飲み過ぎないことに越したことはありませんが...
指揮官の友人にお酒の強い方がいらっしゃったんですか?」
夏油「私の同い年の女の子がいたんだが...
その子は丁度あのカウンターを埋めていたウィスキーを一人で完飲していたよ。」
マリアン「あのカウンターが埋まるウィスキーを一人で!?」
夏油「一人で。」
アドミ「.........。」(;・`д・´)
ラピ「指揮官、それはお酒に強いとは言いません。」
ラピ「酒豪といいます。」