そしておいパイオニア、何してんだよちみたち。
無下限によって攻撃が阻まれていた漏瑚、陀艮、真人だが、突如として五条の周りの空間にヒビが入り砕け散る。
漏瑚たちは展延を解いて術式を開放、確実に五条にダメージを与えようとするが、見えない力によって吹き飛ばされる。
漏瑚「チィッ、あと一歩の所を...」
真人「自分の体を起点に、術式反転を使って吹き飛ばしたか...
相変わらず化け物だな。」
陀艮「しかし、無下限を超えた。
これなら...」
攻撃を与えられず歯軋りする漏瑚、五条がイカ呪霊を吹き飛ばした技と同じだと冷静に分析する真人、前世で超えられなかった無下限を破った事に前向きな陀艮。
陀艮の一言を聞いて漏瑚と真人の表情が変わる、夏油側の作戦が上手くいったのか薄ら笑いを浮かべて五条に目を向け続けている。
一方五条も先程までの余裕な表情から一変、嘲るように笑っていた顔が真顔になって漏瑚たちを見ていた。
五条(さっきまでアイツらの展延は、そこまで高く無かったけど急に出力が上がった...。
となると、その出所は...)
五条の視線が漏瑚から夏油に移す、夏油の背後には顕現していた花御が背中を触れたまま、攻撃に参加せず距離を取っていた。
近接タイプの夏油が前線に出ない理由について、背中を触れている花御を見ながら考え始める。
五条(傑は術式に甘えず前に出るタイプ...その傑が雑草と一緒に後ろに立っていた。
雑草の左腕は領域展開する為か、...それだけなら俺でも他の奴の領域を使う、雑草はあくまでついで。
傑一人で三体分の呪霊の出力を上げるのは不可能だろう、となると展延の出力を手持ちの呪霊の呪力操作で底上げしたのか。)
漏瑚たちの展延の急激な出力上昇を、夏油が調伏した呪霊を顕現せずに呪力操作を行わせ、展延の出力を上げたと推測。
中でも術式より呪力操作に長けた呪霊を、記憶から引き出していき該当する呪霊をピックアップする。
五条(生前だと玉藻とか口裂け女か? だがハゲ共がいるあたり知らない奴も居そうだな。
加えて傑から呪力を引き出せるのか。先に傑を潰したいが、そうなると前のハゲ共3体が邪魔だな。)
五条突破の条件を展延の出力底上げと仮定し、展延を止める為に夏油に攻撃する必要がある。
面倒な状況に内心舌打ちするが、五条の口角は吊り上がって夏油たちを見つめている。
アニス「今無下限突破しなかった!?」
紅蓮「ああ。しかし攻撃させる前に、五条ぼっちゃんが引き剥がした。」
マリアン「確かに、五条さんを中心に吹き飛んだように見えました。」
ラプンツェル「これで攻撃が当たるようになりましたね...」
紅蓮「ここからが正念場だぞ、夏油ぼっちゃん。」
ネオン「オーエス!オーエス!師・匠!!」
戦いを見ているアニスたちも湧き上がり、大きく戦況が傾くと食い入るように視覚共有している呪霊の映像を見て、ラピは夏油の全力を更新し五条の力量に驚きながらも行動と状態の分析と予測を行っている。
漏瑚「急拵えの策がこうも上手くいくとはな。」
真人「それじゃ、ガンガン攻めようか?
夏油たちもまだ用意出来てないみたいだし。」
漏瑚「陀艮は後方の支援と花御を守れ、夏油が欠ければ勝機は無くなるからな。」
陀艮「分かった、死守する。」
花御の様子を見てまだ準備が終わっていないと確認した後、漏瑚と真人はそのまま攻め立て、陀艮は水を使った防御と支援に徹する陣形を形成。
淀みなくこちらのペースに持ち込む為、漏瑚と真人は五条に真正面から突撃する。
五条(無下限を破れて、もう怖いもの無しか?
と見せるためのブラフ、本命は雑草の左腕に呪力が溜まってないからか。
領域で傑ごと包んでも、展延で包みながら結界の範囲外に逃げられる。
赫で直線上に吹き飛ばすってのもありだが、傑が回避手段を持っていないとは考えられない。蒼も同様か。)
思考時間1秒、五条の動きが完全に止まり、漏瑚と真人が接近して残り3m、陀艮も支援の準備で空中に巨大な水球を形成する。
近づく漏瑚と真人の両腕に呪力が集まり、臆する事なく拳を振りかぶる。
五条(だがな...)
同時に五条の懐から、夥しい量の文字が刻まれている布で包まれた何かを取り出す。
ラピたちはその布について何も知らず、五条の武器なのかと怪訝な表情をして声を出そうとする。
真人「は?」
漏瑚「なっ!?」
残り寸分という所で距離を取りながら驚愕する漏瑚と真人、真人は一部体を露出して鮮血を散らしながら右腕を体に突っ込む。
その様子は持ち物を確認する仕草のように感じられ、慌てた様子で体を開きまさぐる。
真人「漏瑚...」
漏瑚「どうだった!?」
真人「メンゴ!(๑˃̵ᴗ˂̵)」
漏瑚「ふざけるなぁ!貴様ァ!!」
真人の返答に怒り心頭になった漏瑚は、コルク栓が勢いよく飛んで文字通り頭頂部と両側頭部の火山から噴火する。
漏瑚と真人の後ろにいた陀艮と花御、夏油も五条が手にしている歪な紋様の布に驚きを隠せていない様子。
その反応を見て確信したのか、五条はゆっくりと布を解いて中身を露わにする。
五条「探し物はこれか?」
(展延で突破してくるのはちょっと予想外だったが、本命はこっちってわけか。)
布が取り払われ露わになったのは、損傷が激しく元は3つの刃だったであろう一振りの短刀だった。
呪霊越しの視覚から映し出された映像では、短刀から滲み出ている異質な呪力が視覚化され、夏油たちが感じている世界を眼にする。
五条「その反応...やっぱりこれが虎の子か。」
夏油「っ...。」
特級呪物 天逆鉾。
その効果は、発動している術式の強制解除。効力は術師だけでなく呪物にも有効であり、獄門疆による呪縛からの解放も可能とされている。
本来この呪物は、星漿体護衛任務で交戦した伏黒甚爾が禪院家の蔵から持ち出した物であり、死後五条が海外で封印もしくは破壊した。
夏油たちは天逆鉾の呪力を、真人の肉体に隠す事で五条を欺こうとした。
五条(領域展延を強化、突破して意識を逸らす、呪霊の攻撃に集中している所をあのツギハギの腹に抱えていたコレで不意打ち。俺が領域を展開したらコレで強制解除。
悪くない作戦だが、俺は最初からコレを持っていると警戒していたさ。)
この世界での夏油の戦いを全て聞いたわけではない、現実で五条以外に回収が不可能になった武器の一振り。
それでもなお五条は天逆鉾を持っていると考えて、真人の体内で炸裂した赫、その内から露わになった微弱な呪力を辿り、鍵を奪ったのだ。
そして掲げ太陽の脚光を浴びる鍵を手にした五条は、その思惑の最終形へと掴み取る。
五条「そしてこれがあれば、外でも内でも、領域の結界を打ち壊せる。
術式が使えなくなった所を、呪霊でゴリ押し...」
夏油(バレていた...最初から...何もかも...!!)
五条「望み通り、見せてやるよ傑。」
解き放った天逆鉾を、再び布で包み込み懐に隠す。
同時に空いていた右手を、ゆっくり前に出しながら上げていく。
なんてことのない予備動作の一端、ラピたちは気づく筈もない。
否、紅蓮は張り詰めた空気が変わり、喉元に刃を突き立てられたような錯覚を気取る。
夏油と呪霊も同様に、紅蓮が感じた気配と同等の呪力の起こりを感知する。
漏瑚「花御っ!!!!」
花御「分かっています!!」
夏油の肉体に食い込んでいた木の根を強引に引き抜き、血を流しながらも鮮血色の華は開く。
花弁に隠されたのは一つの瞳、ただ敵である五条に向けられ、眩い煌めきが瞳を中心に収束していく。
勝ちの目が潰えた鉄火場、夏油はそれでも賽を握り勝負に出る。
紅蓮「来るぞ。」
アニス「来るって何が?」
紅蓮「凄まじいことだ。」
ネオン「??」
マリアン「凄まじいこと...?」
これ以外にかける言葉が思いつかなかったが、精一杯自身が感じている感覚を伝えられる言葉。
五条と花御、肉体に流れる呪力が最高潮に達した瞬間、周囲の地面から黒い泥が湧きだし円形に包み込む。
花御の左腕 供花は、本来植物の命を吸収し呪力に変換する事で、領域を展開する条件を成し遂げられる。
だがこの世界の植物はごく限られている事から、夏油の生命力か余剰した呪力を一方的に流し込む事で、条件をクリアするよう縛りを改める。
花御に還元されない縛りは変わらないが、術式は使えずとも規定量の呪力があれば領域を展開することができる。
その景色を拝むことは叶わないが、しかし彼女たちは今、呪術戦の極致を目の当たりにする。
領域展開後、五条は自身の体から溢れる力を感じながら、立っている領域内で違和感を感じ取る。
五条(まさか雑草が押し合いできる練度まで行ってるとはな...
いや、そんな一朝一夕で鍛えられるほど甘くは...?
領域のステータス向上効果が無いな...)
気取ったのは自身の領域ではなく花御の領域、見たところ能力の向上は感じられるが、花御の領域には初めから領域の環境による能力向上効果が付与されていないと感じ取る。
そして領域の押し合いをしていることから、能力向上効果を無しにして領域の必中効果を底上げしたと看破し、花御の側で動かない夏油に目を向ける。
五条(となると、傑も雑草の領域維持の為に動けない...もしくは領域を補強している呪霊の制御で手一杯か。)
花御の領域に夏油を含め取り込んだ呪霊が、結界術の補強と必中効果の向上を降伏した呪霊全員に処理している事から、夏油は動けない状態にある。
無量空処の必中効果を受ければ、その時点で夏油たちの敗北は確定する。
五条は必中効果を反映する為に領域の要である夏油に接近、漏瑚、真人、陀艮は迎え撃つように五条を妨害する。
陀艮「近づけさせん!」
空中の水球を全て使い果たす勢いで、体が覆われる程の水砲を放射する。
五条に当たる寸前で、濁流は避けるように割れ鬱陶しくなったのか、標的を陀艮に変更。
五条「水やりなら他所でやれよ。」
陀艮「っ!?」
駆けだしながら右手を陀艮に向け、手繰り寄せるように動かしたと同時に、陀艮の体は五条に肉薄する。
待ち構えていた五条は、陀艮の鳩尾に右拳を突き刺す。自分から接近していた五条の勢いと、引き寄せられた陀艮の肉体で、五条の攻撃は呪力による身体強化が無くとも、臓器を圧壊できるほど絶大だった。
飛んできた陀艮を漏瑚が受け止め、陀艮の体を見ると腹部が綺麗に切り取られたように無くなっていた。
五条「次はお前か? 火山頭。」
漏瑚「チィッ!!」
漏瑚は術式を開放、五条の足元に火山を生成して噴火したマグマで飲み込むが、悉く当たらず一瞬にして距離を詰められる。
漏瑚は応戦する前に、蹴り上げられ回転している間に、五条の位置を確認すると頭の無い自分の体が膝を付いていた。あの一瞬で、漏瑚の首は五条の蹴りによって体と分けられたのだ。
落下してきた漏瑚の頭を掴み、狂気の笑みを浮かべながら漏瑚の反応を伺う。
五条「どうしたハゲ、お前の力はこれっぽっちか?」
漏瑚「舐めるなよ...小童がぁあ!!」
漏瑚は顔を覗き込んでいる五条に、開いた口からマグマを勢い良く放射する。無駄なことだと薄ら笑いしている五条の背後に、黒鉄色のブレードが迫る。
強化した領域展延で無限を突破し、うなじを切り落とせる所まで近づくが寸での所でまた躱される。
一回触れたら終わりの術式を持つ真人の動きも、最大限警戒している五条は決して見逃しはしない。
五条「来いよ、遊んでやる。」
真人「お言葉に甘えてっ!!」
両腕から生えたブレードを駆使して、切りつけるように斬撃を繰り出すが、五条は紙一重の距離で全て躱していく。
無為転変を使ってブレードの長さを変えても、呪力の起こりを察知しているのか、見切られて全て躱していく。
一切反撃してこない五条に気味悪がりながら、足払いや五体を使う格闘術に変更。
これも軽く躱されるが、その瞬間を狙い撃つ。
五条「おっと。」
真人「ッ!!!」
足払いを側転するように避けた五条の顔に、真人は右腕を曲げて肘に生えたブレードを向けて一気に伸ばして串刺しにしようとする。
回転した勢いで回避できないよう、ブレードの延長速度を回転する速さより高くし、避けられた時の着地に合わせて左腕に握り拳を作る。
だが五条は回避せず、あろうことか真人の術式範囲の一部である、ブレードに真っ向から拳を打ち出す。
接触した時に術式を発動できるよう、身構えつつ意識をブレードに集中して、真人は五条の拳が接する。
真人「なッ...!?」
ブレードと拳が接するコンマ一秒、五条の腕に赫を付与して触れる前に発散。これにより触れることなく部位破壊を可能にした。
そのまま五条の拳は真人の胸部に直撃、赫の効果が残っている影響で遍殺即霊体の装甲ごと肉と体が吹き飛ぶ。
飛んで行った先を見ると、先程まで鳩尾に穴が開いていた陀艮と、首と体が分けられた筈の漏瑚が真人を受け止める。
それぞれ陀艮と漏瑚の肩には、全ての色を混ぜた混色の悍ましい15cm程の蝿が止まっており、真人の体に止まると失った体がみるみるうちに埋まっていく。
五条(呪霊は呪力で肉体の補完が出来る、あのキモイ蝿が呪力のタンクで、ハゲ共に呪力を渡しているのか。
アレと頭を潰さない限り、呪霊共は肉体を治す...。)
余剰分の呪力を呪霊の蝿で補充していると知り、一体ずつ倒していくのは悪手だと判断し、手段を変えて左手を右手と組む。
五条の行動と呪力の起こりから、唯一反応できたのは攻撃を受けた事のある花御が声を上げる。
花御「っ!? 茈が来ます!!」
夏油「!!」
五条悟が最大最強の攻撃手段、蒼と赫を衝突させて仮想の質量を相手にぶつける実体の無い質量攻撃。
花御は東京校と京都校の交流会で、およそ半身を失って攻撃から逃れる事ができたが、今回は押し合いの状態とはいえ、領域の中でバフが付与されている。
前回とは比にならない破壊が引き起こされる。
五条「強くなるって言ったんだ、これくらい何とかするだろ?」
挑発に思えるこの発言に、五条は夏油に対して期待と信頼を込めて構えている。
五条と夏油の間の大気が震え、次第に震えを通して体を縛るような圧迫感を植え付ける。
五条の右後ろに蒼い球体が、淡い光を放ちながら光を放つ。
漏瑚と真人は気圧されて自然と後退りし、花御は領域の維持に多大な呪力と精神力を消耗して片膝を付いている。
陀艮は夏油にどうすればいいか判断を仰ぐように、表情を見つめるが冷や汗を流し、無意識に領域の維持を忘れて茈の対処法を思案し続けている。
左後ろに淡く光り輝く鮮赤色の球体が、蒼い球体とじりじり距離を縮めていく。
漏瑚「夏油!!」
真人「この形態でも受けきれないな、詰みかコレ?」
花御「うっ...ぅぅ...っ。」
陀艮「...まさか、これほどとは...」
この窮地を脱する条件は、茈から夏油と花御を回避させて領域を維持させること。
夏油に被弾して、まともな術式制御ができなくなれば展延の強化が不可能になり、花御に被弾した影響で領域が押し負ければ無量空処の必中効果が発動、0.2秒であろうと数分は完全に停止した状態になる。
どちらか当たれば敗北が濃厚になる、まさに絶体絶命の状況下。
考えの共有どころかまともな対策法が思いつかず、五条は組んでいた手を解いて右手の指を夏油たちに向ける。
無情に、理不尽に、通過した箇所を抉り取り、圧し潰し、消し飛ばす輝く紫色の球体が、夏油たちを飲み込む程の巨大が突き進む。
一方、夏油たちの戦いを見ているラピたちは、呪霊の視覚を共有している映像には、黒い球体に包まれてから状況が全く分からなくなっていた。
突如生成されたブラインドに、戦いの続きが気になるアニスは気になる気持ちを抑えながらも、どうしても領域の中に入れないか思案していた。
アニス「あの中に入れないのかしら...?」
ネオン「確かに、こうして見せられない状態が続くとどうしても見たくなるのが
マリアン「アニスはあの二人の間に入れるのですか?」
アニス「無理ね、とばっちりを受けたら消し飛んじゃう...。」
気になって入ろうと思案を重ねていたが、どうやっても攻撃を受けてしまうリスクが付きまとう。
人間用の銃なら傷がつくだけなのだが、現在の二人の戦いぶりを見て、傷だけでは済まないような苛烈な戦闘を繰り広げていると想像するの容易であり、すぐに諦めた。
冗談半分で中の様子を見ようと、それぞれの考えを聞いて話し合っている時、何か感じ取った紅蓮がアニスたちに呼びかける。
紅蓮「お嬢ちゃんたち、戦いが動くぞ。」
アニス「えっ? 動く...??」
紅蓮の発言に首を傾げていた全員は、耳に届いた『ピシリ...』を聞き落とす事無く、音の発生源である黒い球体に目を向ける。
黒い球体が地面と接している辺りから、耳に届いた音が響きそれは視覚に対して、新たな変化があると気付かせるきっかけとなる。
両名を包み込んだ領域の黒い幕、外郭が崩壊したであろう箇所にヒビが入る。黒い球体の幕が崩壊を始めたように、最初にヒビが入ったところを起点に広がり砕け散る。
黒い球体の内側には、無傷の五条悟と夏油傑、所々傷がある自然呪霊4体。
そして夏油の背後には、自然呪霊とは別に新たな呪霊が佇んでおり、右半身失った断面から黒い汚泥のような粘性のある液体がこぼれていた。
見たことのない呪霊に、ラピたちは動揺を隠せず何なのか話し合う中、五条は茈を放った短い瞬間の出来事を巻き戻したビデオテープを再生するように思い返す。
五条(茈を撃った後、傑はハゲ共を集めた後にあの三本角を呼び出して躱した。
躱したと同時に雑草の領域ごと結界が崩壊した。
内側からの崩壊じゃない、明らかに外部からの崩壊だった。)
茈が発射された後、夏油は花御以外の自然呪霊を集結するように呼びかけ、三本角の呪霊の術式で夏油たちを抱えた状態で回避した。
回避と同時に、五条と花御の領域が外側から崩壊した。
五条(あの三本角は置いといて、何故結界が崩壊した...?
傑の奥の手はこっちの手にある筈...。)
五条の疑念は結界の崩壊。
天逆鉾を奪取した今、外側から無理やり結界の一部を破ろうと、押し合いをしているとしても五条の領域は維持し、結界を修復できる技量を持っている。
しかし今回の崩壊は、修復も維持が強制的に無効化されるという事態。
領域の外郭を集中して見渡すと、小さな呪力を放つ2体の呪霊と、異質な呪力を放つ呪物を見つける。
五条(あれは...格納できる芋虫と...ツギハギの一部...。
そうか、赫で吹っ飛ばした肉片の一部だな。)
序盤引き寄せた真人に赫を打ち込み、内側から破裂させた真人の一部が残っており、手足を生やして行動できるようになっていた。
その隣にいる格納呪霊が、天逆鉾を携帯していたというのが自然な流れ。しかし、そうなると五条が持っている天逆鉾について疑問点があった。
五条(俺の眼はコレを天逆鉾だと断定した。だがあの小せぇツギハギの持っている呪具も、天逆鉾と認識している......
呪具の複製ができる呪霊...いや、そんなの聞いたことねぇ。)
五条が真人の体から奪った呪具は天逆鉾であり、肉片の真人が持っている呪具も天逆鉾である。
しかも欠けた一部ではなく、鏡で映したように同じ形状の天逆鉾が二つある状況に、少し困惑している時、肉片の真人の方に変化が起きる。
天逆鉾が黒いヘドロとなり、二つの白い目のようなものが浮き出る。
五条(そうか...影法師か。アイツ自体は雑魚だが、確か呪力を吸収すると姿を変えられる術式だったな。
呪力を食っただけなら、六眼でも見破れるが...取り込めば完全な擬態ができる。)
準一級仮想怨霊 影法師
自分の姿を写し、取り込んでくる影を恐れて誕生した呪霊。
術式は取り込んだ呪力と同じ姿に擬態する。姿形は同じになるが、人語を話せず呪力量も本人本体とは異なる為、呪術師相手では秒で看破され、戦闘力は2級呪霊内で下の中に位置する。
しかし、本人本体を取り込んだ時、肉体や媒体に呪力として宿ることで、完全な擬態と宿っている術式の行使を可能にする。
それでも人語を話せない事と、戦闘力が低い事は変わらず、人に擬態することが不慣れな個体が人に擬態すると、戦闘力は3級まで低下する。
夏油は影法師に天逆鉾の欠片を取り込ませ、天逆鉾の模造を成立し、結界の破壊と領域の強制解除を可能にした。
次に五条は新たに現れ、半身を失った呪霊に焦点を向ける。
五条(あっちの三本角は
術式は六神通か。)
夏油たちを回避させたのは、羂索と高羽の戦闘時に現れた
坂上田村麻呂伝承に登場する
どちらも史実で田村麻呂に鎮圧された事から、田村麻呂の子孫や血族に恨みや悪意を抱き、意図せず惹かれ合ったことで融合されたと考えられる。
術式は神通力で呪力を媒介に超常現象を引き起こし、その中でも核とされるのが六神通*1であり、五条の茈を回避したのもその一つ、思い通りにどこでも行ける能力の
それでも回避が間に合わず、右半身は茈に飲み込まれ消し飛んだ。
五条(面倒そうな奴は動けそうな状態じゃ無い。だがハゲ共が残っているのはかなり厄介だ。
術式が使えない以上、傑はこのままゴリ押ししてくるだろう。)
夏油(悟は領域を展開したことで術式が焼き切れてしばらく使えない...
ここで一気に押し切らないと勝てない...!)
五条の予想通り、もう天逆鉾のダミーが通用しないと想定し、術式が使えないという最大の好機で決着をつけるべく、降伏している強力な呪霊を大量に権限する。
悪路王大嶽は肉体の補完、花御は焼き切れた術式を直すのに時間が必要で役目を終えた格納呪霊は戻し、真人は肉片の一部を取り込んで万全の状態に戻る。
並び立った一級から特級の呪霊は皆、五条1人に戦意を剥き出しにそれぞれ呪力を巡らせる。
漏瑚「覚悟はいいな? 五条 悟。」
五条「勝ってから言えよハゲ。」
会話の終わりを皮切りに、夏油が顕現した呪霊が一斉に攻撃を開始する。
陀艮の水砲を半身を逸らして躱し、呪力強化した身体で敵陣に特攻するように駆け出す五条。
飛来してきた火礫蟲を呪力放出で風穴を開き、ブレードを振りかぶった真人は背後から大きく口を開いた虹龍に飛んでいくよう蹴り飛ばす。
五条「とことんやり合おうか!」
夏油「来い!」
跳躍して口を開いて突撃してきた虹龍の背に乗り、正面から夏油と近接戦闘で肉薄する。
互いに素手でのぶつかり合い、退くつもりは毛頭無く、喉元や脇腹などの急所を狙っては防いでいく。
五条「そらっ!!」
夏油「っ...!」
小振りで突き出した拳に呪力を乗せて、勢いを殺せず夏油を後方へ吹き飛ばす。
瞬間下から陀艮と漏瑚が姿を現し、背後から真人が駆け出し距離を詰める。
五条は気にせず夏油に向かっていくが、漏瑚が立ち塞がるように仁王立ち、両手を重ね業火を解き放つ。
向かってきた業火を、呪力放出で押し返し炎の勢いが弱まった所から通り抜けて鳩尾を蹴り飛ばす。
漏瑚「グオァッ!?」
向かってくる五条に合わせて攻撃する夏油だが、読み切っていた五条は回避と同時にカウンターを繰り出す。
防御が間に合わず直撃すると思っていた攻撃は、夏油を囲う水の壁に阻まれる。
五条「おっ!」
攻撃を防いだ水の壁が、今度は五条に向かって鋭利な刃となって襲いかかる。
跳躍し宙返りした背後に、すかさず真人が無防備な背中にブレードを突き出す。
真人の奇襲を、五条は背中に目がついているかのように、宙返りと同時に体を回転させた勢いのまま、真人のブレードの根本を蹴り砕く。
真人(冗談だろ!? 縛りで硬化したブレードを飴細工みたいに!?)
遍殺即霊体は外殻以外に、ブレードの硬度を強化している状態。
渋谷での虎杖悠仁の打撃でさえ、傷一つ付けられなかった硬度と同じだと言うのにいともたやすく蹴り壊した。
五条の回転はまだ勢いが残っており、もう一回転し今度は唖然としている真人の顔面を蹴り飛ばす。
虹龍の背に着地すると同時に、陀艮が空中で水砲で狙い撃ちにするも、呪力を纏って強化した片手で防がれる。
目まぐるしく変わる攻防に、若干遅れ気味のラピたちだが、呪霊の圧倒的な手数を目にして夏油が巻き返し始めたと見て盛り上がる。
ただ1人を除いて。
紅蓮(夏油ぼっちゃん、焦っているな。
手数で攻めるのは悪手では無いが、相手に対して焦っていると言っているようなもの。
あの黒い球体の中でも戦っていただろうが、あの様子から五条ぼっちゃんに有効打はおろか、一撃も当てられていないのだろう。)
紅蓮の考えは的中しており、この模擬戦闘で五条は一撃も攻撃を食らっていない。
加えて領域の強制解除により、術式が焼き切れ使えなくなった今の状態こそ、夏油たちが攻撃に転じる最大のチャンス。
一級と特級の呪霊約1000体以上放出し、五条に負傷を負わせるべく絶え間なく攻撃し続けているが、それでもその体には届かずに時間だけが刻々と経過している。
虹龍の背から降りて地上に着地する五条、追いかけるように呪霊が取り囲むも、五体のみで悉く圧殺、絞殺、刺殺されていく。
気付けば一級呪霊は殆ど全滅し、残っているのは虹龍と口裂け女、自然呪霊の漏瑚と陀艮に真人のみが顕現を保っている。
その中でも、一体の特級呪霊は夏油の背後を、ただただ浮遊し続けて五条の姿を見つめていた。
五条(着物を着たあの呪霊...玉藻前か。
戦闘に参加せず、ずっと傑の後ろを浮き続けている...
目的は分からないのが返って不気味だな。)
特級仮想怨霊 化身玉藻前
宗教団体を設立してから降伏した呪霊の一体であり、その戦闘力は平常時の祈本里香と拮抗状態を作れる程。
呪力操作に長けており、この世界に来てからも夏油は、呪霊操術の技や知見を広げた際に顕現する呪霊。
技の補助としても強力ではあるが、その呪霊が全く戦闘に参加せず、ただ離れた所から戦況を見守るような位置で浮遊し続けていた。
五条「......っ。」
様子見をするように見つめていた五条が、玉藻前に向かって一気に距離を詰める。その進行もピタリと秒針が止まるように世界が静止する。
周囲は薄暗い青色に包まれて、体が駆けだした状態で全く動かない状態。五条の正面から不気味な声を出して問いかける。
声の主はベージュ色のコートを身に着け、体中に包帯をミイラのように巻き、右手には糸切りハサミを手に持ち、長い黒髪ストレートの隙間からは無数の目を覗かせ、鋭利な歯を見せるように大きく口を開きながら五条を見つめる。
五条の周りに展開されたのは、仮想怨霊 口裂け女の簡易領域。口裂け女の質問に答えるまで、互いに不可侵を強制するもの。
五条は鬱陶しさを感じながら、怒気を含んだ声でハッキリと答える。
五条「邪魔だよブス。」
逆鱗をむしり取るような暴言を浴びせた五条に、口裂け女は歯を軋ませながら右手にある糸切りハサミに力が入るその瞬間。
口裂け女の胴体と下半身が別れる。
五条の手には、真人の体から奪取した本物の天逆鉾が握られており、口裂け女ごと領域を切り裂いて、そのまま玉藻前に向かって走っていく。
切断した口裂け女の上半身から、水で再現された魚が天逆鉾を奪い取る。
奪い取った魚に五条は視線を向けた瞬間、玉藻前の準備は全て整った。
簡易領域を突破したと同時に、玉藻前にも動きが見られ、今まで着物の袖に隠していた腕を露わにし、両手に狐の象る形を作る。
次に両手の人差し指と小指を交差し、
右手の中指 薬指を左手の人差し指の上に重ね、
左手の中指 薬指を右手の人差し指の下に重ねる。
最後に右手の親指を左手の中指 薬指の下に重ね、
左手の親指を右手の中指 薬指の上に重ねる。
奇妙な両手の形から作られた中心の空間に、玉藻前は五条を枠に納めるように右目で覗き込む。
戦場が再び、黒い球体となって包み込む。
広がるのは山岩肌と、合掌して並列している石化した人々。
その先には、しめ縄と紙垂が施された大きな岩が鎮座している。
生涯を終えてから会得した玉藻前の領域展開、その効力は自身以外の術式の必中化と、呪力によるコストを0にするもの。
自身の味方に対して送るギフトの判別方法は、自身の呪力があるか無いか。五条との戦いを遠くから見ていたのは、呪霊や夏油に自身の敵か味方を識別する為に、それぞれ呪力をマーキングを施していた。
しかし、この領域を成立させるには、膨大な呪力が必要になる。その為玉藻前は、自身の術式を領域外では戦闘時に発動しないという縛りを結んだ。
その対価として前世の倍の呪力量を獲得し、領域展開の条件をクリアした。拡張された呪力量により、味方の術式の必中化と術式の呪力消費量を0にするという荒業。
そして玉藻前自身に対しての、領域内の環境による能力向上は
自身に対して術式を発動する事で、その条件を満たす。
自身の体が書き換えられたように、肉が別れ、骨を砕き、血が溶ける。さながら自らの体を溶かし、解かし、組み変える蛹のよう。
仮想怨霊 玉藻前の術式は
その姿は妖艶な美女にも成れば、清廉な美男にも成れ、呪霊にも成れば、人間にも成れる。
戦闘に不向きではあるが、王を
しかし、この術式の本領はこの領域内で発揮される。
領域展開中、仮想怨霊 化身玉藻前は
月にも届きうる巨大な九つの尾と、山の大半を陰にする巨体の姿。四つの眼は一人の男に狙いを定め、口から滴る涎を舌なめずりして口を開く。
五条「っ!?」
五条が咄嗟に防御を構えた瞬間、九尾の狐の口から光が放たれる。
巨体となった九尾を遥かに上回る呪力放出、続いて領域による必中効果が付与された漏瑚らも、術式による攻撃を開始。
無下限の無い今、確実に仕留められると感じた。
同時に発動した術式が弱まり、いなされているような違和感を感じ取る。
五条「珍しいタイプの領域で反応が遅れたが、動けないから丁度いい。」
五条の周囲を青い円が囲うように広がり、必中効果が付与された術式が霧散するように消えていく。
九尾の呪力放出は依然として残ったままだが、かつて海を割ったモーセの如く、向かってくる呪力の大滝を両手に纏った呪力のみで弾いている。
漏瑚「なっ......」
陀艮「何だと......」
真人「...簡易領域か。」
シン・陰流 簡易領域 結界術の一つであり簡易領域、領域展開から身を守る為に、蘆屋貞綱が弱者の領域を作ったのが始まり。
領域から受ける必中効果を中和することで必殺の術式から、身を守る為に利用され領域展開の対抗策として挙げられ使われる。
これにより、漏瑚、陀艮、真人の術式は中和され弱まり、落花の情を併用して無力化されたのだ。
しかし、六眼による緻密な呪力操作が可能な五条も、彼らの攻撃を受け続ければ領域の維持ができず崩壊するまでに必ず底をつく。
このまま反撃の隙を与えず、術式による攻撃を続けようとした漏瑚たち。光明が見えて手を伸ばし、必死になって掴もうとする。
伸ばしている漏瑚たちの手を、夏油の手を彼らが身を乗り出して掴もうとしている勝利を、五条は無情にも足元に崖を築いた。
五条「どうした! あと1分だぞ!!」
五条を除く領域内にいる全員が、この言葉に凍りつく。
耳に入ってきたのは一分という時間制限、この意味を理解するのに長い時間はかからなかった。
夏油(まさか...術式が全快するまでの時間なのか!?)
領域を展開してからかなりの時間が経過し、焼き切れた術式も次第に治癒してきている。
加えて玉藻前の領域は、夏油や他の呪霊が補助に回って維持できるほどの戦力が、大半が五条に排除された為足りない。
もう一度補助する為には、夏油が蓄積している呪力を分配して時間経過で復活する必要があるが、そんな隙を五条が見逃すはずもない。
その間に術式が全快し、領域を展開してしまえば、一瞬にして押し返され敗北が確定する。
術式が複雑である影響で、かなりの時間を弄して自然治癒に徹し、夏油の猛攻を呪力操作と簡易領域で受け流し、防ぎきっている。
つまり五条の術式が回復しきるまでに、呪力操作と簡易領域などの鉄壁の防御を崩す必要がある。
残り55秒、敗北のカウントダウンが刻一刻と迫る中、花御と悪路王大嶽が肉体の補完を終えて再び顕現する。
漏瑚ら自然呪霊4体は、必中効果のある術式を五条に攻撃、悪路王大嶽は呪力を込めた攻撃で簡易領域を破壊しようとする。
五条「数で来るか、纏めて相手してやるよ。」
圧倒的な猛攻に屈する事なく、心底楽しいと感じられる嬉々とした表情は、常人の感性では測れない狂気が宿っている。
残り50秒、漏瑚の豪炎の勢いを呪力放出で勢いを殺し、花御の地面から隆起し刺突した木の根と、悪路王大嶽が振りかぶった巨大な斧をいとも容易くそれぞれ片拳でへし折る。
陀艮「ぬぅお!!」
真人「いい加減沈めよ!!」
残り45秒、陀艮が召喚した式神の群れを、全身を呪力で覆う落花の情で弾き、確実に式神を潰していく。
残り40秒、陀艮が召喚している式神を相手している中、真人が攻撃が手薄になっている背後に回って拳を振りかぶる。
五条はまたもや背後から迫ってきた真人の攻撃を、体を右に逸らして躱し、躱した勢いのままカウンターで真人の顔面を殴り飛ばす。
残り35秒、殴り飛ばされた真人は受け身を取り、同時に頭上から九尾が踏み潰そうとするも、足を掴んでハンマー投げの要領で投げ飛ばす。
残り30秒、五条の左から拳が飛んでくるも、左腕でガードする。悪路王大嶽が、呪力を乗せた攻撃を繰り出してきた。
五条「丁度いい、悪路王も大嶽丸も、ここで
五条の自分の首を指で掻き切るような動きを見た悪路王大嶽は、『ギリッ...!』と歯を軋ませるような音を響かせ、その巨体からは想像もつかないスピードで特攻し、瞬時に距離を詰める。
残り20秒、陀艮も式神を特攻させながら、悪路王大嶽に合わせるように背後から迫り攻撃を繰り出す。
陀艮「なっ!?」
五条「ようタコ、遠くから攻撃するのは飽きたのか?」
挑発して意識が悪路王大嶽に向かっていると判断し、虚を突いて背後から攻撃あいようとするも、真人と同様気取られて振り返る。
動揺した陀艮は距離を取ろうとするも、五条に腕を掴まれて悪路王大嶽に向けて投げ飛ばされ、腹に呪力で強化した肉体による飛び蹴りで、2体共々蹴り飛ばされる。
漏瑚「消し飛べ!!」
花御「貫かれろ!!」
残り10秒、左右から迫った漏瑚と花御の手のひらに、それぞれ術式で生成した業火と木の根を五条に向けて突き出すが、簡易領域によって中和され呪力を纏った体で流される。
真人「ばぁ!」
漏瑚の背後から舌を出した真人が顔を出して、遍殺即霊体の装甲を解除した左手が、五条の右脇腹に向けられて伸ばす。
五条の両手は漏瑚と花御で埋まってしまい、簡易領域で中和したとしても直に触れれば、瞬時に魂の形状を変えることが可能。
多勢に無勢、だが絶対的な勝利を目前にし、嬉々として手を差し伸べる真人。
しかし、
真人「...は?」
五条に触れる直前、漏瑚に向けていたはずの右手が真人の左腕を掴み止める。
五条より格下とはいえ、特級呪霊の漏瑚の業火を食らって生きているとは考えられず、思わず顔を上げる。
その判断が、次の攻撃を回避できない決定打となってしまう。
真人の掴んだ左腕を引っ張り漏瑚に向かって膝蹴り、木の幹を生やしていた花御は、空いている左腕で幹を薙ぎ払い、薙ぎ払った勢いを回転力に変えてそのまま回し蹴りで後方に吹き飛ばす。
五条の左半身は所々穴の空いた傷、右半身は焼け焦げた跡があるが、それにしては火傷跡が浅く、反転術式でみるみる治癒されていく。
漏瑚「バカな!! 確かに直撃した筈!!」
真人(ったく...反則だろ...)
真人が見上げたあの一瞬、五条が何をしているのか瞬時に把握していた。
五条は漏瑚の術式を、簡易領域によって中和されたとしても、まともに食らっていた。火傷跡がその証明。
しかし問題なのはそのダメージの低さ。全身に燃え移って焼死体になってもおかしくない高火力だったが、五条の火傷跡は火炎にあぶられたような跡だった。
その原因とされるのが、
人外魔境新宿決戦、宿儺との領域勝負にて領域を展開しながら展延を併用するという技巧を見せた。
五条はそれを、簡易領域を展開している際に、展延を使って見せた。
五条(あの戦いで見た事を、今度はこっちが使うことになるとはね。
術式が焼き切れてぶっつけ本番だったけど、上出来でしょ。)
術式が焼き切れて使えない状態を逆手に取り、脳のリソースを簡易領域と領域展延に集中。
これにより、花御の木の幹と漏瑚の業火を食らったが、致命傷から反転術式で治癒できる負傷までに抑えた。
残り5秒、もはや後が無い。
呪霊各々が誇る最高最強の攻撃を準備して、五条を殺すつもりで呪力を巡らせる。
五条(正真正銘最後の攻撃、全部受けきった上で潰すか。)
五条も時間経過で回復してきて、攻撃を受けきった後に領域を展開できるように準備を整える。
残り4秒、全員が飛びかかるように五条目掛けて突進する。
焦燥感、闘志、憤怒、様々な負の感情を腹で回していく。
残り3秒、間近に迫り半歩という距離まで迫った呪霊の囲い。呪霊たちは術式を開放、全力で五条 悟という怪物を仕留めに入る。
対して五条も、2秒前に呪霊の立っている位置を把握したうえで、簡易領域、領域展延、落花の情を駆使して、全ての攻撃を受けきるつもりで展開。
先程の真人の奇襲で、領域を展開しながら展延を使うコツを抑えた為、先ほど以上に防御力は上昇していると実感している。
その時だった、ふとよぎった一人の男の存在。
この勝負を持ち掛けてきた男の事を、夏油 傑の事を...
すぐに周囲を確認して、見つけた五条は六眼を通して何が目的なのか看破しようとしたその瞬間。
残り2秒、
展開していた簡易領域、領域展延、落花の情が同時に強制的に解除される。
否、五条が張っていた三つの盾が、薄いガラスのように小さな穴が開いて崩れたのだ。
漏瑚(防ぐ手立てはもう無い!)
花御(周りは我々が、上空からは九尾が!)
陀艮(もう一度防御を整える時間は無い!)
真人(そして焼き切れた術式が回復するより、こっちの方が速い!!)
残り1秒、
全員の攻撃が五条に当たる距離まで進み、作った握り拳、振り下ろされる前足、呪力で形成した斧。
濃縮された時間の中で、それぞれがこの一瞬の為に戦っていたと改めて感じ、
夏油自身も、この一撃で勝負が決すると確信する。
滅茶苦茶長くなってしまった...なんだ16051文字って...パソコンで執筆しようとすると重くなる!...
今の悩みは、本文8000文字以降入力するとパソコンの入力速度が遅くなることです。
クエンシーとの面談で、夏油は更生館に訪れ面談室に入るが、待機している筈のクエンシーがどこにもいない。
夏油「.......」
この部屋と周囲の地面や天井、壁の向こう側からも気配が感じられず、自分一人がこの部屋にいると分かりクエンシーが居ないと分かる。
夏油(面談室に移動するにも看守がついていく必要がある...
となると、この部屋に隠し通路があるのか...?)
手持ちのファイルを机に置いて、面談室全体に隠し通路が無いか探し回る。その表情は仕事に真面目な表情ではなく、目の前にあった間違い探しを手に取り探す好奇心で微笑んでいた。
まずは壁から調べて、ふと目に入ったブラインドに近づき捲ると、窓ではなく人一人がギリギリ通れそうな狭い通路があった。
夏油「ビンゴ。」
何のためらいもなく、夏油は狭く暗闇に包まれた通路を突き進んでいく。
すきま風が吹き通り、天井に映されている偽りの空、エターナルスカイの光も挿し込まれない裏路地。
街頭替わりにその地を照らすのは、敷き詰められたように聳え立つ店の看板でもあるネオンサイト。
裏側の街中で、男女2人が向き合って話している。
協力者「どうぞ。例の物品とボトルキャップです。」
クエンシー「わあ! ありがとう!
これくらいあれば十分だわ~」
男は白いYシャツに黒のビジネスズボンを身につけた、欲望という暗雲立ち込める裏の町とは不釣り合いな容姿で、何処にでもいるようなサラリーマンのような印象が感じられる。
一人は夏油と面談予定だったクエンシー、男が持ってきた物品を手に取ろうとするが、手枷が邪魔で煩わしくなったのか、容易く機能を停止させて手枷を引き合う磁力を消して物品を受け取る。
物品と袋一杯のボトルキャップを受け取ったクエンシーの笑顔を見て、男はクエンシーからの依頼を快諾する事と心からの感謝を伝える。
協力者「また何か必要なものがありましたら、何時でも言ってください。
監獄ではクエンシー様にお世話になりました。
これからも物理的にも精神的にもご協力致します。」
クエンシー「何言ってるの~何もしてないって...
ただ早く慣れるようにサポートしただけなのに。」
男とは更生館で面識があり、クエンシーは更生館の生活に慣れずにいたが、クエンシーが数日間食べ物を分けたり、更生館で通貨としているボトルキャップを貸付していた。
ニケと人間の犯罪者が詰め込まれた牢獄で、目を付けられる事も厄介事に巻き込まれる事もなく適応して生活できたのも、クエンシーのおかげでもある。
その後交友を深め、模範囚となり求刑期間を終えて社会復帰を果たし、元々勤めていた企業を経営し直した。
感謝として男は度々クエンシーとコンタクトを取り、見返りを求めず依頼を受けて物品を譲渡していた。
クエンシーは男の感謝にこそばゆさを感じながらも、男の依頼によってクエンシーが中心となって形成している物流ネットワークが、確実に拡大している事を感謝し笑顔で別れる。
夏油「成程、そうやって物の取り寄せをしていたのか。」
クエンシー「ん??......えっ?教官様!?
どうやってここに来たの!?」
予想外の登場に猫のように飛び跳ねそうなクエンシーと、腕を組んで遠くから見て冷静かつ興味深そうに二人を見ていた夏油。
夏油はなんてことない様子で、面談室にあった隠し通路について話す。
夏油「ブラインドの裏にあった通路を通ったんだ。」
クエンシー「嘘~...絶対気にしないようにしたのに。
新しい更生教官様はひと味違うのね。」
呆気無く通路がバレて落ち込むように項垂れるが、同時に通路を見つけた夏油に興味を示すようにウィンクするクエンシー。
面談室に戻ろうと提案する夏油だが、クエンシーはトイレを済ませてくると言って、裏路地の暗闇の中に消える。
クエンシー「クスクス、変なところで律儀なんだから♪」
トイレに行ったように見せて、次の取引先に向かって移動しており、建物越しから夏油が動かずクエンシーを待っている事を確認してから向かっていた。
次の取引先は古びた室内で、その場所には数人の在監者が集まり、ビニールシートに品物を並べていた。ここは在監者同士が売り買い、取引や交渉の他に自由に会話できるスペースがある、市場のような活気があった。
クエンシーは在監者全員に声をかけて、和気あいあいと話に花を咲かせながら、持ってきた物品を必要としている在監者と取引している。
その様子は何度も通っていたかのように手馴れた様子で、それもこの取引場所はクエンシーのアジトでもあるからだ。
余談だが、更生館にはボトルキャップという通貨が出回り、在監者はそれで取引や売買をしている。
この基盤を作ったのはクエンシーであり、更生館という中の社会で経済を仕切っている事から、誰も適う事ができず、寧ろクエンシーのコミュニティに加わり、更生館の生活を充実させている。
アジトに戻って来て数分後、クエンシーは誰もいない面談室に入り、椅子に座った瞬間に感情を爆発させる。
クエンシー「はあ、本当に腹立つ! 毎日飲んだくれてる時点でアウトだわ。」
先ほどアジト内でトラブルが発生し、クエンシーが調達してきた酒に対して、高額だから値下げしてみた在監者の一人がクエンシーと揉め事になった。
クエンシーは値段を下げるつもりは毛頭なく、在監者は激昂し値段設定や更生館から離れられないと怒りを露わにした。
面倒事を引き起こされたクエンシーは、わざと過呼吸になり苦しんでいるという演技を見せて、他の在監者に始末をつけるようお願いした。
クエンシー「でも前々から目障りだったのよね~清々したわ。」
「ああいったトラブルもザラにあるんだね。」
クエンシー「そう。でも私が直接片付けるのは面倒だから皆に......」
背後から飛んできた質問に気兼ねなく話していたクエンシーだが、体が固まり恐る恐る振り返ってみると
夏油「やっ。」
蒔いたはずの夏油が、自分の座席の後ろに立っていた。しかも怒りでも呆れでもなく、親しく接するような笑顔で。
感情的になっていたとはいえ、脱獄で人の気配を察知する能力が長けている。
しかし自分の背後にいる事に全く気付かず、あまつさえ取引現場や自分が嘘をついている事も知られていた事に背筋が凍り、夏油に対して好奇心を向けていたが不気味な印象に変わる。
クエンシー「......なんでいんの?」
夏油「? 居ちゃマズいのかい??」
クエンシー「ごめんね、質問を変えるわ。
いつからついて来てたの?」
夏油「ついさっきさ。」
クエンシー「...噓、ずっとついて来てたでしょ。」
夏油「さあ、どうだったかな??」
珍しく動揺しているクエンシーを、夏油はすっとぼけながらふざけるように答える。
今までクエンシーが更生しに来た教官と同じような対応、当てつけのつもりか、それとも単なる遊び感覚で話しているのか。
対して夏油はクエンシーの性分や能力、そのおおよそを把握していた。
クエンシーの脱獄する能力は、天賦の才と言えるほど高く、脱出後にアークで品物を取り寄せては、更生館という環境下で同じ在監者と売買する。
しかし、この脱獄する能力はアークで活かせるとは言えない。
来るべくして更生館に来たクエンシーは、この能力を存分に発揮して更生館という環境下で、自分の生活圏を広げられると理解。
結果、度重なる脱獄によって刑期が延長していき、同時にボトルキャップによる経済循環の大半を掌握した。
この日を境に、クエンシーは面談日でも構わず、取引現場に行くようになった。
のだが...
クエンシー「この通路、繫殖期なのかネズミがいっぱい湧いてきたわね。」
夏油「掃除しておくように言っておこうか?」
クエンシー「やだ、照明が落ちちゃった。」
夏油「はい懐中電灯。」
クエンシー「新しいルートの開通終了~♪」
夏油「おめでとう~!」(パチパチ)
クエンシー「ふぅ~......」
両手を顔で隠し、頭を天に向けて大きく息を吸って吐き出すクエンシー。そして、一人きりだった筈の隠し通路の中心で話しかける。
クエンシー「教官様って前職ストーカー?」
夏油「酷い言い草だな、これでも宗教団体の教祖だったんだよ?」
クエンシー「噓でしょ。絶対に。」
その後クエンシーは脱獄を実行、更生面談権利を剝奪されしばらくは四方が厚い鉄板の独房で生活することになった。
更生館入り口で待っていたマナは、今回の結果に酷く落ち込んでいる様子で、真面目に報告していた夏油の努力も水の泡になったことに対して沈んでいるのだろう。
マナ「申し訳ございません、こちらの不備でこのような事態に...」
夏油「大丈夫、大丈夫。人にはそれぞれ生きる場所があるんだ、それを奪う権利なんて誰にも無い。
それに...」
話していた夏油の口が止まり、口元を手で隠すような仕草を取る。その様子は楽しそうであり、悪戯した子供のような無邪気さが見え隠れしている。
体を震わせている夏油に、体調が悪いのか心配するマナは声を掛ける。
マナ「? 何か??」
夏油「いや、何でもないよ。」
一方クエンシーは、四方重厚な鉄板で囲まれた牢獄に収監された彼女だが、現在アジト内のソファに座り両手には金庫を持っていた。
クエンシー「散々つけられたんだもの、お返ししなきゃ気が済まないわ!
警備がそこそこ多くなったのは面倒だけど、まあ見つかんなきゃ問題無いし!」
面談日の度にバレないように追跡されては、夏油はこの件を報告せず本当に更生館から出そうな噂まで立っていた中、クエンシーは面談権利を剝奪される為にわざと公に脱獄した。
脱獄後直ぐに連行されて、更生面談中に脱獄した事から、更生の余地無しと判断されて、警備が厳重になり無期的な求刑を言い渡された。
その後息を吸って吐くように脱獄して、夏油にちょっとしたお返しとして、セキュリティが厳重で保管されていた金庫を盗んできた。
クエンシー「ラクショ~♪ こんな金庫開けるなんて朝飯前よ。
さてさて教官様...一体どんなものを隠しているのかしら♪♪」
鍵と番号4桁の金庫をものの数秒で開錠して、プレゼントを貰った子供のような笑顔で、金庫のノブを掴んでゆっくりと開く。
クエンシーの心中には、追いかけまわされたイラつきと、ちょっとした対抗意識があった。
これまで自分を追跡できる存在は無く、脱獄のルートが見つかってもついていける者は極僅か、そして追跡されても簡単に撒くことができたのだ。
これまで更生館で培われた自分の技術が、全く通用せず先回りまでされるなんて人生で初めての経験だった。
クエンシーの中でも夏油は、特別な存在として位置付けが収まり、面談では聞けなかった事やアークを回りたいという思いが生まれた。
これからも地上にある前哨基地にお邪魔させてもらおうと考えながら、金庫を開くと一枚の紙が保管されており、手にとって書かれている文字を目に入れる。