呪霊の監視でドロシーの思惑が発覚し、ラピたちを守る為に離脱した夏油たち。
ハランを経由して受け取ったドロシーの端末を道標に、少しずつニヒリスターの領域に踏み込んでいく。
作戦の流れはまず通常通り予め伝えた作戦でラピたちが交戦、この時呪霊の射出で支援する。
各々限界に近づいたら、パピヨンを気絶させて夏油に交代。
ラピたちはパピヨンを連れて戦場を離脱する。
夏油たちはこのままニヒリスターを撃破するつもりで身構えているが、後ろ盾にバーニンガムがいるパピヨンには探られると面倒なので何も伝えていない。
その為張り詰めた緊張感と異常な熱気に、パピヨンは違和感を感じていた。
パピヨン「ハニー...ホントにこの道で合ってるの? エデンじゃなくてニヒリスターの領地だった方がまだ納得できるわ。」
夏油「渡された端末から、この方角で合っていると表示されてるが。」
パピヨン「...ホントね、じゃあ私たち故障品掴まされたってこと?」
アニス「そうかも...熱ぃ...。」
地面から噴き出る熱気、絶え間無く噴き出る大量の汗、草どころか地面に大半がマグマが現れ文字通り緑一つ無い不毛の地。
しばらく歩いて靴に熱が伝わり靴自体熱くなる程の灼熱地獄、ここがニヒリスターの支配している区域だと気付くのに時間はかからなかった。
マリアン「! 頭上から何か来ます!
離れて下さい!!」
同時に空から聞こえてきた風切り音を聞き漏らさなかったマリアンが、空を見上げながら敵の接近を知らせる。
次の瞬間、自分たちが立っていた所を中心に、熱気混じりの衝撃波が周囲を轟かせ吹き飛ばす。
幸いマリアンの報告を聞いて直ぐ動いていた夏油たちは、負傷する事なく空からの奇襲を回避した。
??????「仕留め損なったか。
さっきの攻撃で片付けたかったんだが、クソ面倒くせぇ。」
黒煙と土煙を巻き上げた当事者が口を開き、手応えの無さに避けられた事に悪態をつく。
シルエットが見えたと同時に、人類に対し並々ならぬ悪意が区域内に充満する。
諜報員であるパピヨンさえも、形容できない威圧感に体が震え出している。
人型の影の後ろから二対の龍のような首が現れ、口から熱風を吐き出し煙を吹き飛ばす。
??????「...あん? エデンの虫ケラ共じゃねぇな。
てっきり荒らしに来たと思ったんだが。」
アニス(もう荒れきってるじゃない...)
ネオン(独特な感性ですね。)
煙を払って姿を露わにしたのは、深紅で長髪の女性に黒い装甲で身を包み、背中から2つの竜の頭が顔を出している。
ラプチャーというにはあまりに個性が強く、ニケというには異質で強い気迫を周囲に振り撒いている。
??????「...ん? ちょっと待てよ。
おい、そこの人間。」
深紅の女性が夏油の顔を見つめて見覚えがあるように歩いて近づき、その動きを見てラピたちは夏油の前に立って遮る。
瞬間ラピたちの中心に再び突風が吹き荒れる。
ラピ、ネオン、アニス、パピヨンは体勢を崩して吹き飛んでいく。
夏油の眼前には8m程離れていたはずの深紅の女性が手を伸ばし、その腕をマリアンが片手で受け止めていた。
??????「あ?...っ!?」
マリアンに顔を向けたと同時に回し蹴りが顔面に直撃、8m先まで蹴り飛ばされるが踏ん張り両足に軌跡を残す。
改めてマリアンは夏油の前に立ち、手を出さんとしていた女性に宣言する。
マリアン「指揮官には触れさせません。」
ヘレティックという他とは格の違う怪物を前に、マリアンは一歩も下がる弱さを見せない。
彼女なりの覚悟なのか、ラピたちも立ち上がり銃器を深紅の女性に向けて構える。
蹴り飛ばされた女性は口から血反吐を吐き出し、攻撃してきたマリアンに対して興味が湧いたのか独り言を呟いた後に声をかける。
??????「何で俺に攻撃を...どういう事だ? いや、そうか。
おい!お前!!」
マリアン「何ですか?」
??????「名前は?」
声をかけてきたと思ったら名前を聞いてきて、表情は恐ろしい程に口角を釣り上げて笑みを浮かべている。
アニスは蹴り飛ばされたのに何で喜んでいるんだと、疑問を抱くと同時に引いている表情を見せる。
彼女の問いかけに対し、目を逸らさず真っ直ぐ答える。
マリアン「マリアンです。」
??????「マリアン...マリアンね。オッケー刻んだ。
今度は俺の名前を刻め、ニヒリスターって名前をな。もっとも、もうご存知かもしれねぇが!」
ここ周辺の土地を火の海にし、焦土になるまで焼き尽くしたヘレティック、ニヒリスター。
そう名乗りを上げた後、両手を地面につけて背中から肉体が隆起して歪な変化を始める。
生々しい音を響かせ、体に蓄えていたモノを放出するように、脇腹から黒鉄の足が肉を突き破り、体は際限なく大きくなっていく。
モダニアの戦いでも見た、巨大化という形態だ。
より一層不気味な印象が植え付けられるが、顔だった箇所は竜の頭に形を変えて、背中から生えていた竜の頭は前足となる。
機械に生物が融合したような、反発し合う要素を取り入れながらも均衡が保たれている四足歩行の竜となり火炎を振り撒く。
同じ人型から自分たちの何倍もの大きさになったニヒリスターに、ヘレティックを初めて間近で見るパピヨンは動揺している。
パピヨン「大きすぎでしょ...質量保存の法則働いてないんじゃない!?」
ラピ「そうね。常識が通用しない敵だもの。」
ラピの返答に対して無言で頷くネオンとアニス、ニヒリスターが振り撒いた火炎で周囲が炎で囲まれ逃げられない状況。
覚悟を決めたパピヨンはスナイパーライフルを構え、愚痴を吐きながら戦いに臨む。
マリアン「エンカウンター!!」
交戦開始の合図を聞いて、両陣営が動き攻撃を開始。
ニヒリスターは頭部両側面に搭載されているマシンガンから弾幕を展開。
ラピ、アニス、ネオン、マリアンは前線で遮蔽物に身を隠し、夏油の隣にいるパピヨンは後方から支援し部位に攻撃。
ニヒリスターのマシンガンが絶え間無く発射される中、応戦していくラピたち。
アニス「バカみたいバカスカ撃ちまくって!
こっちが攻撃できないじゃない!!」
ネオン「オーバーヒートも無いんですか!?」
ラピ「マシンガンより熱を持ってる武装を持ってるからでしょう!」
火竜と言われる所以、全て焼き尽くす超高火力の火炎兵器とそれを補うコアのエネルギー出力。
実弾兵器と併用して広範囲の火炎放射器を使用し、エネルギー消費量は町一つ動かせる程。
この攻撃が普段から行なっている通常攻撃であり、更に強力な武装を使用してもパワーダウンの傾向が見えない。
パピヨン「でも! 熱を持ちすぎると動けなくなるって本で読んだことあるわ!
その隙を狙えば!!」
夏油「交戦的な彼女から、そんな弱点残しておくとは思えない。
冷却活動は私たちの見えない背後か、もしくは攻撃に転用してくるだろう。」
対面してからすぐに戦闘を始めた事から、交戦的な性格と判断。
その彼女がエデンと五回の交戦を繰り返し、弱点をそのまま残すとも考えられない。
殆ど弱点が無いと考えて行動するしか無いという発言に、パピヨンは攻撃しながら嘆いている。
マリアン(このままじゃ、戦況は変わらない。
寧ろ、硬い装甲で守っているあっちが有利になる...)
平均火力の高さを除いてニヒリスターの強みとして挙げられるのは、こちらの攻撃を無効化する堅牢な装甲。
今も攻撃を続けているが、それでも大したダメージになっていないと直感している。
こうしているうちにも、ニヒリスターはゆっくりとこちらに近づいてきている。
マリアンは振り返り夏油に視線を送る、マリアンの考えがわかったのか無言で頷く。
マリアン「ラピ、アニス、ネオン。私が注意を引きながら装甲を剥がします。
その間に弱点を攻撃して下さい。」
ネオン「はい!...はい!?」
アニス「ちょっと待って! 貴方じゃなくて私が」
マリアン「よろしくお願いします!」
アニス「人の話は最後まで聞きなさいって!」
引き止めるアニスの声を無視して、マリアンは遮蔽物から身を投げ出し姿を表す。
ラピは夏油に通信で考え直すよう伝えるが、夏油もマリアンを無線でサポートすると答える。
ゆっくりと前進していたニヒリスターも、急にマリアンが姿を現して動きを止める。
ニヒリスター(何で急に出てきやがったんだ...?
無策とは考えられねぇ、となると、俺の攻撃を止められる方法があるのか。」
姿を見せた理由として、相手の攻撃を止めるブラフ。
しかし止められるとしても数秒間が限度で、アンチェインドのような切り札がある時に使う手段かつ、二度も同じ手は使えないハイリスクローリターン。
次にこの戦況を拮抗状態、もしくは逆転できる手段がある事。
遮蔽物から離れたのは仲間の被害を考慮した上だと考えられ、巻き込めば乱戦状態になってしまうのは想像に難く無い。
そして目の前の少女は現在ニケではあるが、アンチェインドを喰らった元同族ヘレティック。
自分以上の戦闘力は無くとも追従する性能を有していると考えられる。
ニヒリスター「面白れぇ、俺とサシでやり合おうってのか?」
両前足の上部から空を覆う程の熱風を排気しボディ全体を冷却。
向かってきたマリアンに対して、全力で迎え撃つ為に状態を万全に整える。
ニヒリスター「簡単に燃えカスになるなよ?
元は俺と同じレベルなんだからなぁ!」
頭部の口から火炎を吹き出し、マリアンを焼き尽くさんと業火が迫り来る。
マリアンはゆっくり目を閉じて、総力戦後の休暇中の出来事を思い返す。
夏油『自分より強い敵の対処法?』
マリアン『はい、どうしても勝てるイメージが出て来ないんです。』
総力戦で薄れていた意識の中、モダニアに何もさせなかった夏油の力量を見込んでトレーニングを頼んでいた。
その休憩中に、シミュレーションで接敵したラプチャーに勝機を見出せなかった事に対して出来ることは無いのか尋ねた。
マリアンの疑問に対して、夏油は地面に落ちていた木の枝を拾い地面に描き始める。
夏油『逆に尋ねるが、マリアンが考える強い敵の特徴は?』
マリアン『性能差でしょうか?』
夏油『それもあるが、強いというのは一要素で括れる程簡単じゃ無い。
例えば統率力、戦略、地形の情報量も強さに直結する。
自分より強い敵に勝つにはまず、相手が優位な要素を見つける必要がある。』
強さとは一概に纏められるものでは無く、一人一人に秀でている力がある。
勝つ術を見つける為、マリアンはニヒリスターの優位な点を頭の中で挙げる。
マリアン(まず純粋な戦闘力と破壊力、障害物だけでは防ぎ切れない。
次に地形、ニヒリスターの
最後に耐久力、私たちとはパワーレンジがかけ離れている上に装甲も生半可な攻撃じゃ剥がせない。)
戦闘力、地略、防御力とニヒリスターが全員より優っている点を客観的に纏めつつニヒリスターの火炎を跳躍して回避する。
体を空中で回して熱気を払いながら着地し、次のアドバイスを思い出す。
夏油『纏ったら次に自分が優っている所、もしくは敵が劣っている点を探すんだ。』
マリアン『劣っている点ですか?
そう簡単に見つかるとは思えないんですけど...』
簡単に口にする夏油に相手をじっくり観察できる時間があるかと、疑問符を浮かべるマリアン。
頭を傾げている彼女に対して、夏油は伝えたことを反復する。
夏油『私が言ったのは、劣っている点を
いきなり見つけられるとしたらかなり弱い敵か、何度か抗戦した相手だけだ。』
マリアン『そうでしたか...でも探すと言ってもどうやって...?』
間違いに気づいて思考を戻すが、劣っている点を探すきっかけが分からず深く考える。
マリアンの悩みに対して、夏油は軽い雰囲気で答える。
夏油『何でもいいさ、外見でもイメージでもいい。
気になった事は実践して正しいか見つけ出せばいい。』
巨大化したニヒリスターを改めて見て、マリアンは頭の中で姿を見ながら直感で劣っている点を列挙していく。
そのきっかけが外見やイメージの他に、自分もしくは自分たちと何が違うかをヒントにして探り出す。
一方ニヒリスターは攻撃してこないマリアンに、半分警戒半分失望していた。
ニヒリスター(コイツ...さっきからずっと俺の周りをグルグル回るだけで攻撃してこねェ。
何かあると踏んでいたが、買い被りすぎてたか。)
ラピたちの動向も警戒して見ていたが、ダメージどころか装甲に傷すらつけられていない様子を見て陽動では無いと判断する。
警戒を解いたニヒリスターは、前足の大きく上げて真下にいるマリアンを踏み潰す。
ニヒリスター(手応えが無い...)
振り下ろした足から前進する時と変わらない感覚が伝わり困惑する。
ニヒリスター「!?」
同時に右前足の装甲がマリアンによって無理矢理剥がされ、装甲で隠されていた足が顕になる。
装甲と足を接着している面に腕を突っ込み、押し広げるようにして剥がし取った。
マリアン(やっぱり、大きいということは小回りが効かない。
そしてさっきの攻撃から、装甲や武装の重量で全体の動きも遅い。)
広範囲による火炎攻撃が弱点を補うものだとすると考え、わざと接近して様子を伺った。
一挙手一投足から分析し攻撃を実行、ニヒリスターも負けじと反撃の火炎を放つが絶えず分析を続ける。
マリアン(そして接近して気づいたことがもう一つ...!)
ニヒリスターの火炎から逃げるように、ニヒリスターの懐に飛び込む。
火炎は前足までの地面を焦がし、胸部まで向かったマリアンには届かない。
届かない火炎を振り向き確認した後、頭上にあるニヒリスターの胸部に目を向けて
マリアン「懐につけ込まれた時の反撃方法が無い事!!」
跳躍して拳を突き出す。
鉄鋼に拳が食い込み引き抜くと穴が開いており、マシンガンの銃口を突っ込んで至近距離で乱射する。
腹部に手榴弾を突っ込まれ、破片が体内に飛び散るような痛覚を取り除くべく早急に対処しようとする。
アニス「無茶はこれっきりにしてよね!!」
ネオン「私とて負けていられません!!」
ラピ「露出した部位に集中射撃!!」
ニヒリスター「コイツら...ッ!」
装甲を剥がした前片足に攻撃を集中させて、重点的に弱点を攻撃していくラピたち。
この攻撃によって弾丸が前片足を制御するセンサー回路を中破、姿勢制御が難しくなったニヒリスターは横転する。
横転したニヒリスターに、開けた穴にもう一度マシンガンを至近距離射撃。
腹部に内蔵されている火炎袋や冷却機構、一切合切を破壊し尽くし手応えを感じたマリアンは離れてラピたちと合流。
合流直後ニヒリスターの口と腹部の穴から火炎を吹き出し、全体に小さな爆発が発生。
崩れ落ちるように地面に伏し、動きを止める。
パピヨン「...やったの?」
マリアン「いえ、まだです!」
倒したかに見えたパピヨンだが、マリアンが直ぐに否定。
手応えはあったが倒した程の実感は感じられなかった。
ニヒリスター「正解だ、人間ども。」
答え合わせするようにニヒリスターの声が耳に響き、頭部の瞳が赤く光り輝き再び動き出す。
破壊された足を自己修復で直してくると思っていたラピたちだが、巨大な肉体は歪な動きを始めて形を変えていく。
この変化は戦う前、巨大化直後でもあった変化に似ており、これ以上大きくなるのかと戦慄しながら戦闘準備を整える。
不要になったのか頭部だったものが地面に落ち、巨大な両前足が形状を変えて頭部を形成。
背中からは細長い骨格と薄い装甲で
翼を大きくはためかせ、その重量感に押し出された風圧を全身で感じる。
ニヒリスター「第2
上空から見下ろすようにこちらを見て、攻撃の準備を着々と進めていくニヒリスター。
新たな姿に度肝を抜かれて思わず叫ぶ。
ネオン「ヘレティックって2回も変身するんですか!?」
アニス「聞いてないわよそんな事!!」
パピヨン「メティスとアブソルートが戦闘したヘレティックも2回の巨大化があった気がする!
多分!」
ヘレティック モダニアとの戦闘経験があるラピたちは、一回の巨大化のみと考えていたが2回目の巨大化を繰り出して来たニヒリスターに行き場の無い怒号が飛び交う。
モダニアはまだ現れて日が浅かったせいか、二段階の巨大化は無かったのだと判断する。
ニヒリスター「流暢に話してる余裕があんのか?」
二対の竜の口から、空が歪む程の熱気と火炎を出しながら向かい、地面に近づいて来た頃、充填していた炎を吐き出し地面ごと焼き尽くす勢いで攻撃を開始する。
ニヒリスターの動向を見ていたマリアンは、その防御策を考案して実行に移す。
マリアン「はあっ!」
片足を上げ叩き割る勢いで地面と垂直に蹴るマリアン、地盤を隆起させてニヒリスターの火炎を遮る。
火炎はラピたちを避けるように流れていくが、身を焦がす程の熱波を全身で浴びてしまう。
体感した熱波を通して、マリアンは戦慄する。
マリアン「さっきの形態より火力が高い...!」
至近距離でも干からびそうな熱を帯びていたが、形態を変えた現在は炎で直に炙られている熱さを感じる。
マリアンを除く者も同様に、ここからが本気だと理解する。
ニヒリスター「どうした? 仕掛けてこねぇのか??
それならこっちから行くぞ!!」
二対の頭部からそれぞれ異なる攻撃方法で、遮蔽物を破壊しようとするニヒリスター。
片方は火炎放射器から放たれる炎が、レーザーと見違う程の高出力での単体攻撃。
もう片方は丸い溶岩石を大砲のように射出する波状攻撃。
どちらも直ぐに遮蔽物を破壊し、生身を消滅しそうな高火力攻撃。
レーザーは身を隠すか躱わすしか無いが、大砲のような岩石は軌道を変えられると考え、マシンガンで攻撃する。
しかしマリアンの攻撃に対して微動だにせず、こちらに向かってくる。
マリアン「っ!!」
銃撃では軌道を変える事は不可能と判断し、咄嗟に両腕で受け流すように徒手空拳を繰り出す。
大砲は上へと逸れて空中で爆散し、周囲に固まった溶岩石を撒き散らす。
攻撃を見事逸らしたマリアンは、直ぐに遮蔽物に身を隠す。
パピヨン「嘘でしょ、あれを両手で...
これならレーザーみたいな炎はともかく、大砲なら!」
最初は元ヘレティックという事で警戒していたパピヨンだが、今の状況では心強く戦闘に関しては信頼を寄せていた。
勝機を見出したパピヨンに対して、優れない表情のマリアンは失望させてしまう事を謝りながら返答する。
マリアン「ごめんなさい...パピヨン。
そう何度も、逸らせないみたいです...」
そう言ってマリアンが見せたのは、大砲を受け流すために使い焼き爛れ肉が溶けている両腕。
なるべく直に触らないように工夫したが、それでも近づいただけで肉を溶かす熱量。
最低でも1回、2回受け流すと今度は骨格であるフレームも溶けて両腕が無くなると話す。
遮蔽物で身を隠している間、手を緩めないニヒリスターは次の攻撃を開始する。
ニヒリスター「そんじゃ、ここら一帯更地にするか?」
背中に格納されていたミサイルポッドを解放し、敷き詰められた大砲を雨霰のように空を埋め尽くす。
見上げればミサイルの雨、正面にはレーザーと大砲の嵐、正しく世界の終わりのような状況。
夏油(ここまでだな...)
もうこれ以上戦えないと判断した夏油は、パピヨンに近づき気絶させようとする。
マリアン「......。」
夏油「?...。」
夏油の足音が聞こえたマリアンは、振り返り静止するように瞳で訴える。
夏油もマリアンの視線に気付き、動きを止め渋々戻りラピたちを見守る。
マリアンは両目を一回閉じて、再び視線をニヒリスターに戻す。
ネオン「攻撃は最大の防御です!!」
アニス「だからって飛んでる敵にどうやって攻撃すればいいのよっ!?」
半ばヤケクソのように攻撃を続けるアニスとネオン、ラピはマリアンにこの状況について話し合っていた。
この状況、夏油と話し合った作戦にも想定されていなかった事で、指揮してもらうのが得策と提言する。
ラピの提案に対して、マリアンは一つだけ考えがあると答える。
マリアン「一つだけ...手があります。」
ラピにマリアンの考案した作戦を伝える。
その内容にラピは目を少し見開き、驚愕した様子で聞き入るが表に出さないようにする。
大体の作戦の流れを聞いて、ラピはマリアンに作戦実行までの時間を尋ねる。
ラピ「何分必要...?」
マリアン「3分...いえ、1分下さい。」
実行に移すまで1分、その間ニヒリスターをラピ、アニス、ネオンを相手にしなければならない。
かなり無謀にも思える作戦だが、夏油に視線を送りそれを受け取って頷き返す。
夏油「不測の事態につき、私自らが指揮を執る。
マリアンが戻ってくる間、全力でニヒリスターから生き残る事を最優先とする。」
マリアンが戦闘に復帰するまでの間、直接指揮を執ってニヒリスターの攻撃を耐え切る事となる。
夏油の指令を受けて、アニスとネオン顔つきが変わり応戦する準備を整える。
ニヒリスター「あ? 今度はお前らか。
歯応えが無さそうだが、軽く捻ってやるよ。」
ネオン「随分な物言いですね、かなり調子に乗ってますよ。」
アニス「図体がデカくなると態度もデカくなるみたいね。」
ニヒリスターの挑発に対して啖呵を切るアニスとネオン、ラピと夏油も合流してマリアンが生成した地盤の遮蔽物を駆使して攻撃していく。
ニヒリスターの業火によって地盤が溶け始めていく中、マリアンは肉が溶けている両腕を見ながらこれから始める作戦が上手くいくか不安が募っていた。
ミール「そうそう、言い忘れるところでした。
貴方はニケとして戻る事はできた。しかし、その体にはまだラプチャーが残っています。」
思い起こすのは最後に残したミールの言葉、自分の中に残っているラプチャーであるモダニアの意思に恐怖を拭いきれずにいた。
味方であるラピたちを傷つける恐れ、味方が自分を殺す恐れに踏み出せずにいた。
マリアン「でも...ここで動かなきゃ...皆が...っ!」
躊躇いを押し殺し、勇気を振り絞って決意を固める。
骨格が露出している両腕を握り、自分の中に廻っている力を総動員するように両腕に集中させる。
次第に溶けていたマリアンの両腕に不思議な事が起こる。
肉が溶けていた箇所が補修されるように、新たなボディが生成されて先程まで溶けていた両腕が何事も無かったかのように元に戻る。
これはマリアンの肉体に残っていたナノマシン、アンチェインドによって除去されたと思われていたが、NIMPHとしての機能ごと破壊されたが体内に残留していた一部。
残留していたナノマシンは、身体中にあり機能は自己修復のみとなっていた。
今マリアンは、そのナノマシンを自発して活性化、自己修復機能を作動して両腕を修繕した。
マリアン(まだ...あの人を倒すには...)
地盤を隆起させた障壁が、ニヒリスターの業火によって融解し、崩れ始めている。
ラピの表皮は焼け始め身体半分は火傷、アニスは片足が骨格ごと溶け、ネオンは脇腹に溶けた岩盤が突き刺さる。
マリアン(まだ...もっと...)
遂には地盤が崩れラピたちの姿が顕になり、両頭の口を大きく開いたニヒリスターは、トドメを刺そうと攻撃を叩き込む直前。
マリアン「もっと...っ...!」
両腕を力一杯握り締め、ゆっくりと立ち上がりながら握り拳をニヒリスターに向ける。
大きく瞳を開きながら標的以外を視界の外に流し、意識を巨大な火竜のみに絞る。
次第にマリアンの拳が輝き始め、光が実体を手に入れるように生成されていく。
マリアン「もっと輝いて!!!」
マリアンの両腕に生成されたのは、かつて巨大化して使用していたレーザーランチャー。
生成を終えたと同時に、身体中の血液が沸騰するような痛みに耐え、震える銃口を火竜に定め
ニヒリスター「!?...コイツっ!!」
引き金を引く。
世界は橙色に染まり、火竜は光に飲まれる。
光は山を貫き、空を裂き、天へと昇る。糸と見違うその時まで。
マリアン「はあっ...はあっ...」
マリアンの両腕はレーザーに耐えられず肉が蒸発、赤く染まった骨格のみとなっていた。
神経組織も一緒に蒸発した為、痛みがあるのは両肩部の傷のみ。
綺麗に断面が見える肉体から、出血するより先に赤い蒸気が絶えず昇っている。
ラピ「マリアン!!」
ラピたちが夏油に体を支えられながら駆け寄り、マリアンの傷跡を心配そうに見つめる。
アニス「バカっ! 無茶しないでって言ったばかりじゃない!!」
マリアン「すみません...」
ネオン「それよりも、どうするんですかこの傷...」
アニスに叱られて頭を下げるマリアン、その様子を見てもう怒れるに怒れなくなる。
それよりもネオンはマリアンの傷跡を見て、イングリッドでも直せるかどうか分からず不安が募っている。
心配しているネオンに、マリアンは大丈夫と答えて露出した骨格で握り拳を作る。
マリアン「っ...。」
綺麗に斬られたような肩の断面から光が現れ、露出している箇所全体に行き渡るように包んでいく。
みるみる肉体が形成されて、先程までの傷が嘘のように治り、確認がてら腕を動かし指を開いたり閉めたりする。
その光景を見たラピたちは、唖然として固まり空いた口が塞がらないでいた。
周りの状況を見て、炎で焼け溶けた大地が溶岩になり、マリアンが砕いて隆起させた地盤が飴細工のようにドロドロになっている。
必死に戦っている間に滅茶苦茶になりつつも、こうして生きている事に達成感が全身に染み込んでいた。
戦闘時の緊張が一気に解けてその場で倒れるように座るラピたち、窮地を脱した事もあり体中に疲労が募って体が重くなる。
アニス「早くエデンに戻りましょ、私たちの力だけであのヘレティックを
ニヒリスター「倒せたのかな?」
アニスは体が反応するよりも先に吹き飛ばされ、岩壁に叩き付けられる。
仲間の中で聞き覚えの無い声を聞いたラピたちは、直ぐにその声を方向を見据えると
ニヒリスター「よお。」
片腕が無くなっているニヒリスターが立っており、負傷に対して気にしていない様子を見せていた。
立ち上がって銃口を向けるネオンを背中から生えている竜の頭で吹き飛ばし、ラピはアニスと同じ方向に吹き飛ばされるが咄嗟にライフルでガードする。
パピヨンは夏油の隣で後退りしている光景を見て、マリアン以外に居ないと確認する。
マリアン「そん...な...どうして...」
ニヒリスター「さっきので死なないんだ?か、まあ確かに死にかけたさ。
痛みを感じるの久しぶりだが、死にかけるのは多分初めてだ。」
無くなった片腕を見てどこか嬉しそうに微笑んでいるニヒリスター、しかしその表情からは寂しさすら感じられる。
直感してマリアンは、今ニヒリスターが抱いている感情を、一生かけても理解できないと無意識に悟っており深く考えはしなかった。
ニヒリスター「でも虚しいもんだぜ、この感覚を味わえんのも一瞬なんてよ。」
マリアン同様に無くなった片腕を象るように光が形成された後、瞬時に生えてくるように腕が再生する。
マリアンの自己修復とは桁違いのスピードで修繕を終わらせ、問題ないかを確認するように手と腕を動かす。
腕の修復を確認した後、いとも容易く修復を終えて絶望し、へたり込んでいるマリアンを見てゆっくりと近づいていく。
マリアンの反応を見て失望と落胆する表情を向けており、マリアンに対する評価を正直に答えた。
ニヒリスター「哀れだな、
心は囚われたままか、だから自己修復を躊躇ったんだろ?」
マリアン「っ!?」
図星を突かれたマリアンは、あからさまに見える程に反応する。
かつてミールから言われた事で、自己修復機能を活性化させると、再びモダニアを呼び起こすきっかけになると考えてしまい使用を躊躇っていた。
ラプラスを庇った後、自己修復しなかった理由でもあり、彼女がその選択させるまでの時間が無かった故に気を失った。
ニヒリスターは地盤で遮られていながらも、マリアンが自己修復を使用できると考えてそこまで時間がかからないと分かっていた。
となると肉体や技術の練度によるものではなく、精神的な要因で使えないと看破されていた。
ニヒリスター「でもまあ、多少楽しめたぜ。」
それでも充実した戦いを楽しめたらしく、笑顔を向けながら二対の竜の頭がマリアンに向けて口を開き、火炎放射器の発射口を覗かせている。
次第に発射口周りに炎が集まっていき、その熱量は正確には分からないが自身の体など瞬く間に溶けると分かる。
トドメを刺す前に、マリアンに向けて助言を残す。
ニヒリスター「最後に良い事教えてやるよ。
業火が放たれる直後、ニヒリスターは鈍い音と共に真横に吹っ飛んでいった。
気付けばマリアンの前には、気絶しているのか腕に力の無いパピヨンを抱えた
夏油 傑が立っていた。
皆さんはペアチケットとか当たったらどうします? 僕は相手がいないので頭を抱えていました。
コインラッシュの社長になるために、五条はマスタングが開催したイベントに参加し、各ブロックに分かれ会場に入る。
会場の天井に吊り下げられているモニターから、マスタングがデカデカと表示される。
マスタング「Hello!! Every one!! Say!!
五条「テインメント~。」
周りの雰囲気に流されず、なんてことない調子で掛け声を出す五条。
会場の掛け声を聞いたマスタングは、耳を傾け参加者の気合いが十分と分かって、ゲームのタイトルを発表する。
マスタング「OK!! 1st StageのGameはぁ!!!
画面に表示されていたマスタングから表示が変わり、赤いディーラー服を身につけたルージュが現れる。
ルージュは参加者に向けて、これから始まる最初のゲームについて説明をする。
ルージュ「最初のゲームは、All or Nothing。
全てを得るか、全てを失うか。ゲーム会場は、このフィールド全体になります。」
最初のゲームは、それぞれ参加者に100枚のチップを配布され、会場にあるスロットやルーレット、バカラにカードをして所持チップを100倍の10000枚にするというもの。
このゲームで運を持つ者、もしくは運の流れを知覚できる者を選定するゲームであり、続くゲームもその能力が備わっているか振るいにかけていくゲーム。
制限時間は2時間、それまでにチップを10000枚に出来なかった者、0枚にしてしまった者は脱落となる。
また、チップの強奪に窃盗はフロアを巡回するボーイやバニーガール、各所に設置されたカメラで常に監視し、発覚した場合は即脱落となる。
五条(ついでにイカサマや力づくでゲームを壊す奴らも落とすわけね。)
ルージュ「それでは皆さん、次の舞台に進む道を賭けて、
ルージュが表示されていたモニターが暗転し、移り変わるように残りのタイムリミットが表示される。
同時に五条以外の参加者は飛びかかるようにゲームに参加する。
その割合はルーレットやバカラ、カードを選択するプレイヤーもいるが、大半がルーレットに集中しており、中ではある台に人だかりができるほどだった。
五条「みんな必死だねぇ、まあ僕もここで勝たないと
五条はマイペースに、適当に目に入ったスロットの前に座り、チップを入れてゲームを始める。
その中、スロットを選択した大半のプレイヤーが、五条に対して必死に笑いを堪えながら見ていた。
(アイツ、このコインラッシュを知らねぇド素人か?
このコインラッシュのスロットは、当たりはずれが激しい物しか無いんだよ。)
この娯楽施設のスロットは、よく当たる甘い台と全く当たらない絞りが激しい台が存在しており、この施設はそれが顕著に出ている。
たった1枚から1000枚にまで増やした人もいれば、1000枚から増えることなく0枚まで枯れた人もいる。
そして通い詰めている人は、大体どの台が甘い台かに加えその割合、そしてどのくらいの周期で台が変わるか把握している。
(台を入れ替えるのは、1ヶ月の終わりに一回。それ以降は全く手を付けないで運営されている。
俺は激甘の台に座り、そして
彼は仕事と同じくらいの時間を、コインラッシュで稼いでいる男で、どの台が出やすいか出にくいか完璧に把握している。
そしてゲームの説明を聞いた段階から、男はこの区画の中で一番出やすい甘い台を見つけて飛びつくように座った。
(そんでもって、このコインラッシュのスロットの割合は、甘い台が1で渋い台が9。
甘いと言ってもチップが変わらないのが大半で、俺の座っているこの台こそ1枚を1000枚に変える台さ。
ちょいと可哀想だが、あの男のチップが消えるところを肴に、俺はチップを増やすとするぜ。)
静かに笑いながら男はスロットを回す。
10分、20分、30分続けても当たる気配が無い。
流石に異常に気づいてスロットを止める男。
(何でだよ!? この台が、当たりやすい筈!!
コインラッシュのマップや台の特徴も、目をつぶってたって分かるんだ!!!)
男の自信が崩れていくのを、自分に言い聞かせるように何とか心の動揺を抑えようとしていた。
その時、タイムリミットを表示していたモニターから、ルージュが再び現れ参加者に全員伝える。
ルージュ「申し遅れていました。このコインラッシュ全てのスロットなどのマシンですが、今回のイベントを開催する前日に、全てランダムに配置し直しました。」
(なっ!?)
今日は月の中旬、本来台の配置変更は月の最後に行われるが、店長を決めることからスロットやルーレット全てのゲーム器具を総入れ替えしたのである。
これで通っている人たちさえも、どれがどの台なのか全く分からない初心者と同じ状況。
ルージュの報告に、スロットマシンに腰かけている参加者は全員呆然としていた。
五条を除いては。
五条(さっきからスゲェ当たるんだけど、僕今日命日?)
スロット台のチップ排出口からは、滝のようにチップが流れてきており、ものの30分で10000枚の目標を達成した。
何だか自分の運に恐ろしさを感じながら、五条はチップをボーイに渡してクリア者の待合室に一番乗りする。
「じゃあ...あれが...。」
周りに人がいないことを確認した後、男はゆっくりと五条が座っていた台に向かって歩いて行く。
しかし男の道をボーイが塞ぎ、簡単にクリア者を出さない名目で、激甘台は直ぐに使用できなくなり、渋々ルーレットとカードのゲームに変えた。
最初のゲーム、最初は10000人ほどいた参加者が、五条を含め7人まで減っていた。