トリセラの心労の問題を解決した事を確認した放課後に、職員室の中で五条とマルチャーナは来週に控えている試験に備えて書類仕事を進めていた。
M.M.R.附属高校の仕事が初めてだった五条に仕事ができるか不安だったマルチャーナだったが、タブレットやPCなどの電子機器は勿論、書類の処理に関しては適宜連絡して方法を尋ねてくれている。
そのこともあってか今まで以上にスムーズに仕事が進んでおり、早めに帰れそうと考えつつこれから控えている試験に関して不安を募らせていた。
五条「これから試験が始まるから、落ち着きが無いの?」
マルチャーナ「全て筒抜けですね...。」
マルチャーナにとって、五条 悟とは不思議な人物だった。
夏油 傑はこちらの気持ちがいつもと違うと尋ねて伺って来る、その点の感覚というより洞察力は鋭い。
しかし五条 悟は洞察力がずば抜けて高いという次元ではなく、こちらの考えまで見透かしてくるように思考を読み取ってくる。
まるで心を見通すように。
マルチャーナ「念のため、もう一度話しておきますね。」
五条「試験の内容と、僕の
夏油に代わり教師を任された五条は、期末評価に入る一週間前から教師として業務に従事し、期末評価期間では試験官として学園内を過ごすよう言い渡されている。
試験は2種類、作戦中に指揮官に提言や伝令などの補佐が可能な知識を持っているから確認する為の筆記試験。
そしてニケとしてラプチャーに対して対処できるか確認するための実技試験。
期末評価期間中は
試験は翌日から始まり、時間は午前9時から午後6時まで行われて、実技は明後日の予定となっている。
マルチャーナ「試験が全て終了しましたら、終業式兼記念パーティーが開かれる予定です。
勿論、ご都合が悪ければ...」
五条「えっ、パーティー?
スイーツバイキングあんの??」
マルチャーナ「...恐らく...。」
以上がこの学園に課せられた五条の
宿所に戻ろうとする五条に、マルチャーナが呼び止めて実技試験についての情報を伝える。
マルチャーナ「実技試験では仮の
五条「本来は地上だけど。」
マルチャーナ「えぇ、今回だけは特例で地上へ行きません。」
五条の言う本来の実技試験では地上に上がり、実際にラプチャーと戦闘する。
この試験を通して想定外の戦力と遭遇した際に、生徒たちの戦闘における対応力と柔軟性とM.M.R.から支給された武装を試す試験でもある。
実技試験を受けている過程で生徒も死亡するケースがあり、実戦形式故に評価者である指揮官役も文字通り死線を潜り抜ける必要がある。
五条「生徒を死地に向かわせるってイカレてんねぇ。」
マルチャーナ「そうですね...しかし、ニケでもあります。
そして今回の試験ではそのような事は起こりません。」
しかし翌日に試験が控えており、その昨日にM.M.R.から地上に上がらず附属高校にあるトレーニングルームで実技試験を行うこととなった。
その要因として生徒たちの成果を直に見たいという要望が多く、外部からの来客が特別に観覧できる為の措置。
そして今回の試験のみ特例として校内で実施されるため、次回以降はこれまで通り地上で行われる。
五条「これ決めてる奴は何とも思わないんだろうね。
同じ人間とは思えないな。」
マルチャーナ「えぇ...私もこの学校の如何なるものも受け入れたことはありません。
...どんなものだって。」
この試験のしきたりに対して嫌悪感を抱いているマルチャーナは、附属高校のあらゆる行事を心の底から受け入れていない。
ニケである彼女は上からの方針を逆らうことはできず、マルチャーナができる最大限の抵抗だった。
翌日から行われる試験の内容を聞いた五条は、附属高校に備えられている宿所に戻ろうとする足をマルチャーナが呼び止める。
マルチャーナ「伝え忘れていましたが、試験前の生徒は落ち着きが無く、奇行も目立ちます。
静かに過ごされたいのでしたら、今日は宿所でお休みになられることをおすすめします。」
五条「大丈夫、大丈夫。
それじゃ、お先。」
筆記はともかく実技の内容から緊張感と不安でナーバスになっていると考えている五条は、マルチャーナの忠告に対して問題無いと返答して職員室を出て宿所に戻る。
夕暮れの橙色に彩る廊下をゆっくりと歩きながら追憶する。
夜蛾『何故追わなかった...』
五条『それ、聞きます?』
夜蛾『...いや、いい。
悪かった。』
夏の夕暮れ、まだ蝉がやかましいほど鳴いている時期。
そんな羽音すら聞こえない状況に、五条は項垂れていた頭を上げる。
五条『先生、俺強いよね。』
五条に並んでいる男は、五条の顔を見ずに答える。
夜蛾『ああ、生意気にもな。』
ある一件を境に更なる力を手に入れた五条は、これからも親友と共に呪術師として歩んでいく人生を過ごすのだと考えていた。
だがそれは都合のいい幻想で、自分は一番傍にいた親友の異常を気付くことができず、そして同じ
もしも五条に六眼と術式を与えた存在がこうなる事態を見越していたのなら、2人の命運は初めからこうなる事になると定められていたのだろうか。
呪力しか見通せない瞳は、人の心を見られない。
五条『でも、俺だけ強くてもダメらしいよ。
俺が救えるのは...他人に救われる準備のある奴だけだ...。』
追憶したのは青い春の最後、決別の日。
思い返す度に自分はどうすれば良かったのかと自問している。
それが無駄だと分かったとしても、今度は間違えないように。
トリセラ「五条先生...?」
夕暮れが差し込んでいる窓を見ている時、意識の外から声がかかる。
過去を思い返し陰っていた表情を切り替えて、すぐに教師としての五条の表情へと戻す。
五条「おっ、勤勉で真面目なトリセラくんじゃないか!
試験勉強はもう十分なのかい?」
トリセラ「ええ、一応は。」
距離感の近い五条に対して、トリセラは距離をとって答える。
文言だけでは成果は無かったように聞こえるが、トリセラの表情は以前よりも明かりを見せて効果は十分のように見えた。
談笑しながら宿所に向かう2人、試験後にパーティーがあると聞いてから前回はどんなスイーツが出たのか質問してくる五条。
嬉々として話す五条の声を遮るようにトリセラが尋ねる。
トリセラ「もしかして...ライたちを図書館が来たのって...」
ツバイはともかく、ライとアインは図書館に来て勉強しないから自分が図書館にいると知らない。
唯一、五条のみが図書館に来ては小説や漫画を読む為に来ていた。
五条「余計な世話だった?」
トリセラ「...いえ、そんな事は」
隠す事なく白状して邪魔だったかと伺うも、トリセラは寧ろ試験対策が捗ったと返答する。
何より自分と同じように試験に備えて対策していると知って、心なしか気が楽になっていた。
張りつめた糸を緩めることは、時として油断と判断力の低下を招く。
とはいえ、張り詰め過ぎた糸は少しずつ網目が崩壊してちぎれてしまう。
故に精神のコントロールはとても重要であり生命線でもある、試験でも戦いでも。
その重要性を、
五条「しっかし、試験は確かに重要だけど。
そんな血眼になってやるほどの物かな?」
五条は一週間ほど生徒たちの動向を講義、休憩時間、登下校時に見ていたが、全員が鬼気迫る表情をしていた。
中にはいつも通りの生活を演じるような生徒も点在した。
それが顕著だったのは休憩時間中にも筆記試験の勉強をしていたトリセラと、下校中や就寝前にも勉強を続けていたツバイ。
トリセラは筆記の成績は高いが、ツバイの成績は確認したところ筆記より高くないが実技が低い訳ではない。
クラスの中では上から数えた方が早いくらいだ。
とはいえ、下からの生徒も成績が決して低い訳でもない。寧ろ元の世界の高校のレベルを遥かに逸脱している。
そんな前世と比べて明らかにおかしいと疑問に思った五条の言葉に、トリセラは思わず立ち止まる。
トリセラ「そう...ですよね...」
五条「どったの?」
トリセラ「この学校の
持っていたバッグをわなわなと震わせながら力いっぱい握り締めて、何かを叫んででも伝えたいことを押し殺しているようにも見える。
そのトリセラの様子を見て、五条はこの学園に対して何か秘匿している事があるという予感を掴んだ。
五条(姿...ね、きな臭いとは思っていたけど。
まあ、あのガキの繋がりがあると知ってからそんなのは分かっていた。)
マルチャーナが了承してくれたその日の内に、M.M.R.附属高校についてネット上に掲載されている情報から誰にも知られていない事まで調べ尽くして貰った。
この高校はカリキュラムからラプチャーに対抗する戦術を学び、(M.M.R.の)ニケとしてのレベルを高めるために創設された。
表面上はこれからニケとして活動する上で十分な環境と知識を得られる、と銘打っているがカリキュラムの実技を終えた生徒の殆どが名簿から抹消されていた。
抹消された生徒は地上に向かうエレベーター搭乗に搭乗した後に情報の更新が無く、加えて帰りのエレベーターに乗っていた生徒の名前も消えていた。
文字通り彼女たちが学校で生きていた痕跡が丸ごと消されてしまったのだ。
この実態を知って実技試験の失敗は死、実力主義の名の下に有益かつ有能なニケを育成と間引きを行う実験場だと認識した。
トリセラ「五条先生は...試験で落ちた生徒がどうなるか知っていますか?」
五条「...いや。」
トリセラ「これは噂なんですが...試験に落ちた生徒は、記憶を消去して一から学習し直すんです。
新入生としてリセットされるんです。」
トリセラから聞いた情報は学園内で飛び交う噂の域を出ないが、五条が事前に調べてもらった情報と辻褄が合う物だった。
試験という行事から新入生と除名の数が近い事、その名前が合致すること、そして除名されて新入生として戻ってきた名前がある回数を経て完全に抹消されること。
3回というチャンスの内に試験を抜けてM.M.R.のニケとして配属されるまでの、自分の命を賭した学園生活という名のマラソン。
トリセラ「ここは...そういう所なんです...
昨日まで一緒に笑っていた友達が、私たちの事を忘れてしまった...っ。
思い出も...趣味も...時間も全て...っ。」
トリセラは右手に持っていた鞄を手放して自分の体の震えを抑えるように抱きしめる。
実際に自分の友人がそのような境遇にあったのだろう、自分もその一人になってしまう。
使えないと判断された果てには、どのような処遇が下されるのか全く分からない。
トリセラ「消えたくない...私は...こんな思いをする為に...ここに来たんじゃない...!!」
ここは悪魔の手のひら。
入ってしまったが最後、
学園生活という名の間引きを終えるまで。
五条「......。」
この空気に覚えがあった。
力が有ればもてはやされ、無ければ排斥する。
あのガキも、この場所も、この場所を作った奴も、こんなしきたりを作った奴も、
元は人の
蝿も
トリセラ「...明日、ここに来てみれば分かります。」
トリセラは震えながら夕暮れの廊下を一人トボトボと歩き続ける。
その背中はこれから処刑台へと階段を上がる受刑者のようにも見える。
五条「はぁ...。」
生徒を安心させられなかった事に対しての溜息か、それとも何故試験に対して疑問を持つようなことを口走った事に対しての溜息か。
否、どれとも違う。
彼の心情として、若者が人生を謳歌する時間を取り上げる事は何人たりとも許されないと考えている。
自分の中で最も充実した時間をこれからを生きる若人にも自分たちのようにならず、存分に過ごしてほしいという思いだ。
4周年、凄いことになってきましたね...というかネオンの衣装とマリアンの衣装がズルい。
ただでさえ節約して切り盛りしてるのに! 財布の緩めるしかないじゃないか!!
時は10月最後の週、世間はハロウィンの準備を進めていた日。
夏油たちはエデンに向かう前に、ハロウィンのお祭りへの参加を考えていた。
ラピ「任務の前に、羽を伸ばすのはいい事よ。
でも羽目を外し過ぎないようにね。」
アニス「分かってるわよ、そこまで子供じゃないんだから。
ねえ?」
ネオン「ふむ...火力を伝えるとなると、やっぱり弾丸の仮装が...」
マリアン「お菓子...私も貰えるんでしょうか...?」
五条「いや流石に無理でしょ、子供が貰えるんだよアレ。」
マリアン「そんなっ...!!」
アニス「そんなにショックなの...?」(≖ࡇ≖)
夏油「随分と賑やかだね。」
ネオン「これからハロウィンのお祭りに参加しようと思うのです!
師匠もご一緒にどうですか!?」
夏油「誘ってくれて嬉しいが、用事があるんだ。
片付けたら直ぐに合流するよ。」
マリアン「用事って...その手に持っている籠と関係が...?」
夏油「ああ、子供たちにお菓子を配るだろ?
イサベルに無理を言って、卵と牛乳を使ったお菓子を作ったんだ。」
アニス「本物の牛乳と卵って...本当に無理を言ったのね...」(≖ࡇ≖)
夏油「代償は高かった...」
一方その頃、エデン。
ハラン「イサベルの姿が見えないけど...何か知ってる?」
ヨハン「? いや、知らないな。」
ノア「知らな~い。」
イサベル「あぁ...愛おしい人。
耳を撫でるようで燻るこの声が...♡」
夏油(録音)『あ...愛している...。』
イサベル「あぁ、拙いところがまた...っ♡」
夏油(今度は別のリクエストにしてもらおう...。)
ネオン「折角ですから、師匠も何か仮装しませんか!?」
夏油「いや、私はいいよ。」
ネオン「そうですか...。」
五条「いいじゃん、減るもんじゃないし。
どうせだったらSAKA○TO ○AYSの坂本にしろよ。」
夏油「それ髪色的に君の方だろ。
悪いが私はしないよ、今から準備は難しいし。」
五条「折角のハロウィンなのに仮装しないの~~~?
傑~イベントを楽しめなくなったらもうおっさんだよ~??
あっ、もう30近くのおっさんか、傑おじいちゃま~♡」
夏油「.........。
分かった、仮装するよ。」
アニス「えっ!?」
ネオン「ホントですか!?」
五条「そうこなくちゃ! じゃ噴水広場に集合ね~!」
ラピ「宜しいのですか? 仮装というと衣装も...。」
夏油「その点は問題ない、この服を使うから。」
アニス「それって...」
夏油「あと、だれか黒い糸無い?
出来れば縫合に使う材質と似てる奴。」
マリアン「縫合糸...? そんな物一体...」
数十分後、前哨基地噴水前。
スノーホワイト「お菓子が貰えると聞いてやって来た。」( º﹃º )
五条「子供だけって言ってるだろ。」
紅蓮「やれやれ困った食いしん坊だ、それより五条の坊ちゃんとメガネの嬢ちゃん。
その姿は何だい?」
ネオン「火力の妖精です!」
五条「ヴァンパイア、どう?中々様になってるでしょ??」
紅蓮「あぁ...そうか仮装か。
嬢ちゃんのはよく分からんが、二人とも中々似合っているよ。」
ラプンツェル「皆さんが不思議な格好をしているのは仮装しているからですか。
それにしても...血を吸うヴァンパイア...私は成す術も無く弄ばれて...ハァッ♡」
五条「悪いけど頭ピンクの性女の血はクーリングオフします。」
ラプンツェル「なっ!何故拒否するのですか!?
私に何か受け付けない点でも」
五条「自覚無しって厄介だね。」
スノーホワイト「お菓子はどこだ」( º﹃º )
五条「話聞いてた??」
ネオン「あっ!師匠!!」
紅蓮「おや、夏油の坊ちゃんも来るのかい。」
ラプンツェル「ブラザーまでっ!!...はあっ...はあっ!!」
スノーホワイト「いい匂いがする、何か持ってるな。」( º﹃º )
五条「いつまで食い意地はってんだ...よ...」
紅蓮「おぉ、中々似合っているじゃないか。
それは袈裟かな?」
ラピ「ええ、アークにある店で仕立てたと言っていました。」
ラプンツェル「確かに似合っていますが...頭の黒い線は何でしょうか?
それに、久しいってどういう...?」
アニス「私にも分かんないわ...」
ネオン「フランケンシュタイン...にしては和風ですね...?」
マリアン「モデルは何か私も分かりません...。」
スノーホワイト「そんなことより夏油、その籠に入っている物は何だ。」( º﹃º )
突如五条は、夏油の前で土下座する。
五条「申し訳ございませんでした、いつもの傑でいて下さい。」
夏油「他には?」
五条「もう二度とおじちゃんなんて言いません。」
夏油「よろしい。」
アニス「どういう事...????」(≖ࡇ≖)