恋姫†無双〜月星の帝国   作:赤部二郎

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アレクサンドリアへの侵攻(前編)

エジプトの空は透き通るように青く、ナイルの風がアレクサンドリアの大通りをそよがせていた。港に面した市場には香辛料、葡萄酒、羊皮紙、異国の陶器が所狭しと並べられ、商人たちの喧騒と笑い声が交差する。身なりの良い市民が行き交い、神殿の鐘が午の祈りを告げる音が、ゆったりとした都市の営みを包み込んでいた。

 

「最近また異国の商人が増えたわねぇ……。あの黒装束の一団、バグダードから来たって言ってたっけ?」

 

青銅鏡を磨く雑貨屋の女将が、近くの布屋に声をかける。数日前から現れた異国の旅人たち――額にターバンを巻き、肩には長衣を羽織り、腰には湾刀に似た異形の剣「シャムシール」を下げていた。

 

そして、午後。市民たちの平穏は、雷鳴の如く崩れ去る。

 

――「ドォン!」

 

城壁の南東、マリーナ門付近に轟音が走った。土煙が上がり、見上げた兵士たちは信じられぬものを目にした。石造の防壁が崩れ落ち、その奥から黒き旗印――「三日月と五芒星」を翻した騎兵たちが突入してきたのだ。

 

「敵襲――っ!イスラムの軍勢だ!」

 

悲鳴と怒号、警鐘が一斉に鳴り響いた。

 

軍を率いていたのは、スルタンの一人――ハーリド=アッ=ファーミー。三年前、イエメンでの反乱を数百の兵で鎮圧し、本拠地を奪った武勇の将である。

 

「前進せよ、神の名の下にアレクサンドリアを征服する!」

 

黒馬に跨がったハーリドの声が砂塵に乗って響いた。彼の周囲には、民族も肌の色も異なる将軍たち――

• イサーム=ブン=サリーフ(エジプト系、冷静沈着な策略家)

• アブドゥッラー=カーミル(ベルベル系、突撃槍の使い手)

• ナーディル=アシュシャムス(メソポタミア出身、火器部隊の指揮官)

 

彼らは各部隊を率い、市街の要所――兵舎、行政庁、港湾地区へと同時に進軍した。

 

市街地では、ローマ系守備隊とアレクサンドリア民兵が応戦するも、火薬の爆音とシャムシールの閃きの前に次々と潰されていく。盾を構える兵が爆裂筒に吹き飛ばされ、槍を突き出す者はハーリドの剣に真っ二つにされた。

 

「か、かかれぃ!奴らを港へ押し返せぇっ!」

 

ローマ軍の老将プブリウス・フラウィウスが指揮を執るが、疲弊した守備兵では精鋭の異国軍を止められない。ナーディルの火器隊が放つ火矢が倉庫を焼き払い、イサームの部隊が脇道から民兵の背後を襲う。

 

「天は我らと共にある!アッラー・アクバル!」

 

ハーリドは自ら突入部隊の先頭に立ち、剣を振るい続ける。その目にあるのは、ただ「征服」ではない。神の御名を掲げ、世界をひとつに束ねる“理想の帝国”――その礎として、アレクサンドリアは落とさねばならぬ。

 

港を押さえたイスラム軍の黒き旗が、高く翻った。

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