「出向、ですか」
「そうだ。君にはクルス島に行ってもらう」
石造りの静謐な部屋で一人の女性が老齢の男性に告げられる。
年月を重ねた苦労がそのまま顔の深い皺と刻まれているのと裏腹に、首から下の体格は軍服を着込んでいてもわかる程に筋骨隆々となっていることから、居るだけでも威圧感を放つ男性は、構えている机の引き出しから、一枚の紙片を取り出し広げる。
色褪せた紙には、隅に東西南北を示す記号。中央には二等辺三角形の頂点を端に、十字に繋いだような島の図面が現になる。
「拝見します」
女性は机から地図を取り上げ、隅々まで見る。各所の地名があるならば、記憶しようと思った女性だが、いかんせん。大雑把で地名が転々とし過ぎている。
眉をひそめた女性を見た男性は、つらつらと事情を話始めた。
「我が国が“龍の末裔”……アサラカムを用いて来た共和国と膠着状態になってから、二百年。各地の実験場から対アサラカム用として奴らの血肉を埋め込んだ“クレイモア”と呼ばれる連中を使って来た事は知っているだろう?」
「はい。その……彼らがアサラカムと同様の異形になるという」
いい淀む女性に対して、男性は自嘲する様に鼻で軽く笑うと、一変して表情から感情を消し、淡々と話を続ける。
「別に構わんよ。“あれ”らと呼んでも。どのみち我が国にとっては人を模した爆弾としてしか使っておらぬからな」
「はっ。……出向の理由についてお聞かせ願えますか」
「良いだろう。但し、この件については他言無用だ」
頷く女性。一呼吸置いて男性が口を開く。
「情けない事だが、クルス島に行かせた者が悉く帰ってきていないのだ」
「帰ってきていない……?」
「我が国は戦時中であるからして、方々の実験場から“クレイモア”を補充要請する為に人員を割いて派遣しているのだが、一ヵ所だけ、音信不通になったままの地があってな。そこがクルス島というわけだ」
「全くの音信不通ですか?」
「ああ。複数人で行かせても一人として連絡が来ない。これ以上人を割くのも難しいが故に、君に白羽の矢が立った訳だ」
「成る程」
「その実……“今まで送ったのが男だったから次は女を行かせてみよう”などという馬鹿げた話極まり無いが、何分人手が足りんのでな。申し訳ないが」
「いえ。軍命とあらば何処へなりとも」
「よろしい。では明朝、出発だ。マリア少尉」
「はっ。では失礼します」
金色の長髪を携えた見目麗しい女性……マリアは男性に敬礼をし、部屋を後にした。