流麗な薄金の長髪。傾城の美貌の涼しげな目元には魅惑の泣き黒子。そしてその身体付きは娼婦の様に豊満で妖艶ながらも、一分の隙も無い立ち振舞い。現クレイモアのナンバー1、アスミディアは大剣の切っ先を暴食のベルゼビアに向け、微笑を浮かべ“娘”に告げる。
「アサラカムも、いい加減何とかしなきゃいけないし。もう貴女の食事は終わりよ」
「母さん……」
事実上の死刑宣告を受けたベルゼビアの思考は逃げの一手だった。
だが逃げるにしても一瞬でも母に……アスミディアに背中を見せるというのは即死を意味する。同様の理由で飛翔も、飛び立つ隙を突かれ大剣の投擲で重傷を負わされた過去からも論外。
焦燥する思考の中でベルゼビアが導き出した答えは。
「……私もさ。いい加減終わりにしようと思ってたんだよね。昔の同胞に追い回されるの飽きたからさ。だから」
身体を前傾させ、ベルゼビアはアスミディアに突撃して行く。一撃を避けたアスミディアは後ろに大きく飛び退き、ベルゼビアが吠える。
「ここでアンタたち潰して、聖都でお腹いっぱい食べるとするよ!」
ベルゼビアの突進は予想以上に速かった。覚醒体から放たれた六本の腕が風を切り裂くように伸び、その先端が鋭利な刃へと変貌する。アスミディアは咄嗟に横転し、背後の木々が粉砕される轟音が響いた。
「チッ!」
ベルゼビアの舌打ちが森に響き渡る。彼女にとってアスミディアこそが最大の障害であり、他のクレイモアは単なる壁に過ぎない。
「いくら速くても、妖気の流れで分かるわよ」
アスミディアの冷ややかな声が戦場を支配する。彼女の妖気は流れる水のように滑らかで、他のクレイモアたちと完全に調和していた。まるで一本の糸で繋がれた蜘蛛の群れのように、十人のクレイモアが一斉に動く。
「戦いは……」
言葉を途中で遮り、アスミディアの大剣が閃光のように翻った。同時に二人のクレイモアが左右から挟撃し、ベルゼビアの注意を分散させる。彼らの妖力は70パーセントまで解放され、輝くような金色の瞳で標的を捉えていた。
「数が物を言う、ってね」
ベルゼビアの四本の腕が迎撃するが、そのうち二本が切断される。切断面から飛び散る紫の血飛沫は即座に蒸発し、代わりに新たな腕が生えてくる。しかし完治までの一瞬の隙が命取りだった。
「反撃の隙は与え無いわ」
アスミディアが左手を上げると同時に、五人のクレイモアが弾丸の様に突撃して行く。ベルゼビアも対応してクレイモア達の攻撃を凌いでいくが、反撃は悉く受け流され、その流れを利用してクレイモアの一人が仲間の剣に足裏を付け、発射。飛翔。
これが一糸乱れず、適宜捌いて襲って来るのだから、ベルゼビアにとっては堪ったものではない。
「くそっ……!」
ベルゼビアは苛立ちを隠せなかった。彼女の強みは圧倒的なパワーと捕食本能に基づく戦術だが、それらはアスミディアの精密な戦略の前では通用しない。逃げようと試みるたびにクレイモアたちが計算された位置取りでそれを阻み、逆に囲い込んでいく。
「まだ早いわね」
アスミディアが静かに呟く。彼女の妖力解放率は僅か20パーセント。しかし全身から滲み出る妖気は他のクレイモアたちと共鳴し、まるで一個の生き物の様な威圧感を示していた。
ベルゼビアの背中の翅が震え始める。飛翔するつもりだろう。だがその瞬間──
「今よ」
アスミディアの指示で九人のクレイモアが一斉に跳躍した。彼女らの振るう大剣が彼女の翅を抑え、飛翔を封じる枷となる。残りのクレイモアが三方から接近し、大剣を交差させてベルゼビアを囲む輪を狭めていった。
「この……!」
ベルゼビアが身体を大きく暴れさせる。四本の腕と翅の羽撃きにより、周囲のクレイモア三人が吹き飛ばされるが、彼らは空中で回転しながら受け身を取り、再び陣形に戻っていく。