ミュシャの森が覚醒者であるベルゼビアとアスミディア率いるクレイモアたちの戦闘によって破壊されていく。金属と肉のぶつかる鈍い音に塗り替えられた。
木々が薙ぎ倒され、大地が抉れる。クレイモアたちの白いマントが嵐の中で舞うように翻り、そこかしこで鮮血が飛び散っていた。
ベルゼビアの覚醒体──禍々しい蝿の羽を背に生やし、左右で四本の腕を蠢かせる異形──は、その巨体に似合わぬ俊敏さで森を縦横無尽に飛び回り、触れるものをことごとく破壊していく。
「あはははは! 母さんが参戦してその程度!?」
ベルゼビアの嘲笑が森に響き渡る。
クレイモアの戦士たちは必死に応戦する。彼女たちは一斉に妖力を解放し、黄金の瞳に変わると共に、その肉体は膨張し、常人離れした膂力を発揮した。ナンバーの低い者ほど先鋒となり、大剣を振るってベルゼビアの進路を阻もうとするが、ベルゼビアの岩をも砕く拳や、振り回される腕の一撃で容易く弾き飛ばされるか、あるいはその四本の腕に絡め取られ、地面に叩きつけられる。
「くっ……なんてパワー……!」
「怯むな! 前に出過ぎるな!」
エリーが檄を飛ばすも、ベルゼビアの攻撃は苛烈を極めた。
「やはり、厳しいわね」
その惨状を睥睨し、舌打ちしたのはアスミディアだった。彼女は最前線でベルゼビアと切り結んでおり。長い白髪を風になびかせ、黄金の瞳を鋭く光らせている。直近にいるのは比較的ナンバーの高い精鋭たちだ。彼女たちは皆、息を呑んでアスミディアの動きを注視していたが、部下の一人が焦りを滲ませ告げる
「アスミディア、このままでは我々の数が……!」
「そうね。数で押そうかと思ったけれど……」
アスミディアは妖艶に微笑むと、ゆっくりと一歩踏み出した。その足取りは重厚でありながらも滑るように軽い。彼女から放たれる独特の妖気──甘美な誘惑と凶暴な殺意が入り混じったフェロモン──が空間に満ちていく。
それは味方であるはずのクレイモアたちですら、ほんの一瞬だけ惑わせ、ベルゼビアにとっては劇薬のように作用するはずだった。
「ベルゼビア! 私と一対一で勝負しましょう」
アスミディアの挑発が空気を震わせる。
「……チッ」
ベルゼビアは忌々しげに舌打ちした。アスミディアのフェロモンに当てられると思考が鈍くなるのを本能的に悟っているのだ。しかし、同時に戦士としての矜持か、あるいは母親への歪んだ反抗心か、ベルゼビアは蠅の羽を大きく震わせると、狙いをアスミディア一点に絞った。
「じゃあ望み通りに! 今度こそ木っ端微塵にしてやるよ!」
轟音と共にベルゼビアが突進してくる。その速度は先ほどまでの比ではない。アスミディアは微動だにせず、冷たい笑みを浮かべたまま迎え撃つ。