朝日の光が古城の窓から差し込む中、起床したマリアはミレーヌに連れられて会議室へと足を踏み入れた。部屋の中央には大きな円卓が置かれ、その周りには既に十数人のクレイモアたちが集まっていた。皆一様に白髪銀眼の姿で、それぞれの鎧や装備が微かな金属音を立てる。
「おはよう、マリア」
アスミディアが席を立ち、妖艶な微笑みを浮かべて迎えた。
「昨夜はよく休めた?」
「はい。おかげさまで」
マリアは簡潔に答える。彼女の目は部屋を見渡し、それぞれのクレイモアが持つ独特の雰囲気を素早く捉えていった。
「こちらへ」
ミレーヌが壁際の空席へと誘導する。彼女の口調は淡々としていたが、その目には好奇心が隠せなかった。
「今日の作戦会議は特別だ」
ミレーヌは小さな声で付け加えた。
「南からナンバー6のベラと、北からナンバー17のセリアが戻ってくる」
アスミディアが円卓の中央に立ち、会議が始まった。
「さて、皆。状況は悪化の一途を辿っているわ」
彼女の声は甘く響くが、その中には厳しさが込められていた。
「先日ベルゼビアが南部の村を三つ破壊し、数百人が犠牲になった。そして昨日には北の領域で隊商が全滅したとの情報が入った」
会議室に緊張が走る。ナンバーを持ったクレイモアたちが次々と情報を共有していく。
ナンバー6のベラが報告する。
「ベルゼビアは依然として樹海近辺から移動しませんが、彼女の食糧範囲は日に日に広がっています」
ナンバー17のセリアが続ける。
「北のベルフィーの方も厄介です。彼女は眠りながらも周囲を警戒しており、接近するだけでも非常に危険です」
アスミディアが頷いた。
「覚醒者の問題だけでなく、西部ではアサラカムが再び活動を活発化させています。先週だけでも四つの村が襲撃されました……同時に対処することは不可能ではないでしょうか」
若いクレイモアが慎重に提案し、アスミディアは微笑んだ。
「そこが今回の議題よ。私たちには限られた戦力しかない。膠着状態に持ち込んだのは良い点だけれど……このままではいずれ南と西に押し込まれる。優先順位を決めなければならない」
彼女は突然マリアの方を向いて微笑み、それに合わせてクレイモア達の視線も集まる。
「クレイモアでは無い人間の……あなたの意見を聞かせてもらえるかしら?」
ミレーヌから紙の資料を受け取り、ざっと目を通したマリアは立ち上がり、会議室の注目を集めた。
「まず、北のベルフィーですが。彼女は放置……というよりは、村や町で罪を犯した人間の処刑装置として扱うのが良いと思われます。彼女の縄張りに近づかなければ無闇に襲撃はしないようですし。優先すべきは……西のアサラカムでしょう。奴らの戦闘能力は帝国でも手を焼いています。本来なら一致団結して総力戦をすべきですが、南のベルゼビアも放置するには危険。であるならば、先の戦闘同様にアサラカムとベルゼビア。それぞれを同じ場所で引き合わせ、混戦に持ち込むのがよろしいかと」
彼女の声は静かだが、確かな自信に満ちていた。
アスミディアは満足そうに頷いた。
「そうね。では最初の一手はどう動くべきかしら?」
「偵察部隊を派遣して両者について詳細な情報を集めましょう。それから決定を下しても遅くはありません」
ナンバー11のクレイモアが鋭く質問した。
「両方同時に行動を起こしたら?」
マリアは冷静に答えた。
「アサラカムかベルゼビア、どちらかを多少強引に誘導し、その場で混戦開始でしょうね。表向きは撤退戦に持ち込んで後退しつつ、追撃して来た方に総力戦を仕掛け、撃破……というのはどうでしょうか」
アスミディアが立ち上がった。
「いいわ。では偵察部隊の編成を始めましょう。同時に西部への防衛線の強化も進めましょう」
会議は続き、具体的な作戦が練られていく。マリアはその過程を注意深く観察しながら、この半人半妖の戦士たちの結束力と能力を測っていた。そして内心では、この危機的な状況の中で帝国がどのように支援すべきかを模索していた。
会議が終わると、マリアは深く考え込んでいた。
「複雑な状況ですね」
「でも私たちは必ず乗り越えるわ。クレイモアの誇りに賭けてね」
マリアの呟きにアスミディアが応え、二人の間には沈黙が流れる。その中に言葉にできない理解が交わされていた。クレイモアの運命と帝国の未来が交差する瞬間だった。
陽射しの弱い曇天の下、マリアとミレーヌは西部の丘陵地帯に設置された前哨基地から双眼鏡で前方の戦場を監視していた。
「あれがアサラカム……」
マリアの声が緊張を含んでいた。
「ああ」
ミレーヌが短く答え、補足した。
「西側のアサラカムは一体だけでも数名のクレイモアを必要とする」
双眼鏡越しに見えるアサラカムは人間の二倍ほどの大きさで、硬質な鱗に覆われていた。両性具有と聞いているが、見た目では判別しづらい。その巨体が大地を揺らし、クレイモアの小隊を翻弄している。
「驚異的な生命力ですね」
マリアは感嘆と憂慮を同時に感じていた。
「あの傷でもまだ戦えるとは……」
確かにアサラカムの左肩には深い裂傷があったが、出血はすでに止まっており、再生が始まっていた。
「彼らの再生能力は脅威です」
ミレーヌは素っ気なく答えたが、その目には戦士としての誇りと決意が宿っていた。
「だからこそ我々は連携しなければなりません」
見れば十数人のクレイモアが波状攻撃を仕掛けていた。銀の刃が太陽光を反射し、まるで星屑が舞うように見える。前列が攻撃している間も次の隊列は既に準備を整えていた。
妖気の流れを敏感に感じ取るクレイモアだからこそ可能な緻密な連携戦術だ。
「ほう……」
マリアはその戦術眼に感嘆の声を上げた。
「分散と集中を巧みに使い分けていますね」
「今回はアサラカムの死角を突く配置を常に崩さないようにしている」
突然、先頭にいたクレイモアが跳躍し、空中で青い光を放った。妖力解放の兆候だ。
「あれはナンバー19のエリーだ。彼女は速度を生かした接近戦が得意だ」
エリーの瞳が金色に変わり、瞬時にアサラカムの懐に入り込んだ。その一撃でアサラカムの腹部から緑の液体が噴き出し、怪物は苦痛の咆哮を上げるが、すぐに反撃に転じようとする。
「妖力解放の反動が少ないですね」
マリアはメモを取りながら分析していた。
「おそらく短期決戦用の調整をしているのでしょう」
「ああ。長期戦になると消耗が激しい上に、純粋に我々が不利だ」
別のクレイモアがサポートに入る。矢の如き速さで飛ぶ大剣がアサラカムの右脚を貫き、動きを封じた。妖力を腕に集中させた投擲攻撃だ。
「見事なコンビネーションです。互いの弱点を補完しあっていますね」
アサラカムは怒りに任せて暴れようとするが、既に周囲はクレイモアたちに囲まれていた。四方八方からの斬撃が雨のように降り注ぎ、怪物の体力を徐々に削っていく。
「ベルゼビアだったら簡単に突破するだろうがな……」
ミレーヌの呟きに、マリアは彼女の横顔を見た。普段は冷静な少女だが、覚醒者であるベルゼビアの恐ろしさを肌で感じているのだろう。
「しかし」
マリアは前線に目を戻した。
「今の所、アサラカムだけに集中できますね」
アサラカムの抵抗が弱まり始めた。再生速度が追いつかなくなってきたのだ。クレイモアたちの連続攻撃が効果を上げている証拠だ。
「あと少し……」
アサラカムの咆哮が轟き、クレイモア達が剣を構え直した、その刹那。一人の女が空から降ってきた。
アスミディアにどことなく似た相貌。無造作に短く切り揃えた髪。徒手でありながら隙の無い立ち振る舞い……
ベルゼビアである。