CLAYMORE~アドヴェント・マリア~   作:虹爽咲夜

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彼方の大陸 Ⅸ

 ベルゼビア。

 かつてのナンバー1。雑でありながらも桁外れの膂力で戦闘した場所一帯が食い散らかされた様な跡地になる事と美食家であり大食らいから付いた二つ名は暴食。妖力解放限界点を見誤るというクレイモアにとってありきたりな理由で覚醒……その中で最悪の部類である、深淵となった彼女はミュシャより更に南の樹海、その中でも一際巨大な一本の大樹の幹に生じた洞窟を住処としていた。

 そして今。

 

「デカいのと……クレイモアかぁ。どっちも不味いけど。あとで美味しい料理で口直ししようかな」

 

 クレイモアとアサラカムの戦闘区域、その真っ只中にふらりと現れた。

 

 ある種の侵略者であるアサラカムは攻撃の手を緩めること無く暴れ続けるが、クレイモアたちは一瞬硬直する。

 

「ベルゼビアだ!」

 

 エリーが叫び、数人のクレイモアがベルゼビアを囲み、アサラカムと戦っていた面子は深く攻め込まずに注意を引く形で牽制を続ける。勿論、ベルゼビアを刺激しない距離から。

 暴食のベルゼビアに目をつけられるリスクを考えれば当然の行動と言えた。

 ベルゼビアは一斉に向けられる視線と殺気に少しだけ顔をしかめて呟く。

 

「貴女たちも懲りないね。挑むなら母さんぐらい強くなってからにしなよ。遊ぶにしてもすぐ終わっちゃうじゃん」

 

「なら母さん……アスミディアが来るまで、お喋りでもする?」

 

 冷や汗を額に滲ませ、軽口を叩くエリー。対するベルゼビアは鼻を鳴らして笑うと、身体から妖気を解放させる。

 

「その余裕、母さんが来るまで持たせてみなよ」

 

 強大な妖気に対しエリーを始めとするクレイモアたちの身がすくむ。過去に居た妖魔と呼ばれる怪物は、元を辿れば通常のアサラカムと覚醒したアサラカム二体の肉片を融合させ、人の脳に寄生させたという生物兵器。

 もっとも。妖魔は常に人の内臓を食したがる様になり、クレイモアたちに処理させられる害獣と化したが。

 そして、クレイモア……新世代の半人半妖の女戦士も過去に比べ多少、覚醒に歯止めは効く様にはなったものの、人ならざる者の業ゆえか。やはり覚醒してしまう者は、いた。

 並のクレイモアでさえ覚醒者と成れば相応の手練れと人数で討伐せねばならず。それがナンバー1ともなればナンバー2以下数名の精鋭をもってしても死闘は免れない。

 そんな“元”ナンバー1、ベルゼビアが。かつての同胞と、戦士時代からの敵であるアサラカムに、殺意を向ける。

 

「一応、主食はアサラカムの方にするけどさ。隙見せたら、貴女たちもつまみ食いするからね」

 

「そんな気も起きないくらいお腹いっぱいにしてあげるわ」

 

 エリーも剣先をベルゼビアへと向けて構え、殺気立つ。ベルゼビアの意識がクレイモアに向いている為、アサラカムが強めに牽制を入れつつ機会を伺う形になる。

 

「さて。じゃあ」

 

 ベルゼビアは両手を広げて妖気を放出し、ゆっくりと妖力解放を行う。

 

「いくよ」

 

 ベルゼビアの額から二本の角が飛び出し、背中からは無数の羽根が生え、腕が六本に増殖する。

 それは蠅の羽と蜘蛛の様に増える腕に象徴される、暴食の名を冠した覚醒者の姿であった。

 同時にアサラカムが咆哮を上げ、それに合わせてベルゼビアが跳躍。クレイモアの一人が振るう刃を躱す。

 そのまま飛び蹴りを繰り出し、クレイモアの一人を蹴り飛ばす。咄嗟に大剣を盾にしながら飛場され、アサラカムに激突する様を見てベルゼビアは舌なめずりをする。

 

「うん。まずは一人」

 

 アサラカムを退け、クレイモアにカウンターを食らわせたベルゼビアに対し、他のクレイモアたちが警戒しながら円形に取り囲む。が、ベルゼビアは興味無さげに視線を巡らせると呟く。

 

「とりあえず。こっちのデカブツだけでも食べさせてもらうね」

 

 まるで散歩に出かけるような足取りでアサラカムの群れへと進んで行く。周囲を警戒しつつ慎重に間合いを詰めるアサラカム。クレイモアたちも、警戒しつつもジリジリと前進していく。

 先頭を歩いていたアサラカムの一人がベルゼビアへと襲いかかる。それに続くように他のアサラカムたちも雄叫びと共に走り出した。

 そんな敵の接近に対し。ベルゼビアは溜息混じりに呟く。

 

「せっかちだなぁ。まぁいいけどさ」

 

 次の瞬間。ベルゼビアの背中から伸びた無数の羽から白い毛玉が放たれる。それは一直線に飛翔し、次々とアサラカムたちに命中してゆく。その度に衝撃波が炸裂し、周囲を爆風が包む。

 突然の出来事に対応できず悲鳴を上げて吹き飛ぶアサラカムたち。そんな彼らを尻目にベルゼビアは歩みを進めながら、六本ある内の四本の腕を交差させ、残る二本を前方に突き出す。そして、ベルゼビアは呟いた。

 

「動かないでね。外れるから」

 

 妖気が集まり巨大なエネルギーの奔流が生まれたかと思うと、四本の腕が一斉に前方に振るわれる。すると凄まじい刺の塊がアサラカムたちを飲み込み、轟音とともに爆発した。

 爆煙が晴れるとそこには何も残っていなかった。唯一残っていたのは地面に穿たれた大きなクレーターのみである。

 

「うーん。やっぱり大技だと逃げられちゃうか。アサラカム頑丈だからこれぐらいじゃないと仕留められないのがねぇ……さて」

 

 異形になったベルゼビアが頭を動かし周囲を見る、辺りにはアサラカムと激闘を繰り広げた疲労困憊のクレイモアたち。普段ならば食欲をそそらない相手だが。ベルゼビアの空腹は、対象が不味いという事実を凌駕する。

 涎をだらしなく地面に落としながら狙いを定める。

 

「お腹、空いたから。貴女たちで良いや」

 

 戦慄するクレイモアたち。それを歯噛みしながら遠方から眺めるミレーヌに無表情のマリア。そして……

 

「楽しそうね。ベルゼビア」

 

 涼しげな声と共に、絶対者が現れた。

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