「ハァ…」
善の手によって蘇生を果たしてからずっと、張り詰めていた気を緩め、ベットに身を任せる。
これまでも数々の修羅場を乗り越えてきた身ではあるが、今回ばかりは、短時間で事が起こりすぎた。
善に託された、南伊豆での決戦以降の記憶と感情。
残された善達を支え続けた、ゴールデンパーム社員たちの奮闘への感謝。エデンの蛮行への怒りと、それに抗うため、王になる覚悟を決めるまでの葛藤。そして、絶対に巻き込みたくなかった者を巻き込んでしまったことへの、深い慙愧の念。
それらを飲み込んで挑んだ、宿敵ゴアとの戦闘と、エデンとの決着。
そして、日ノ元達から得た、ヴァンパイアに抗う人類側の現状。
人類側との迅速な接触のため、すぐに準備に取り掛からならければならないと、頭では理解できているものの…。
「さすがに、ちょっと疲れたわね…」
そうして吐いた弱音を自嘲する間もなく、卓上のPCから通知音が鳴った。
もう京児が資料を送ってくれたのかと、ベットに倒れたまま、ぼんやりと灯る画面へ目を向ける。
しかし、そこに表示されていたのは、大量の未読メールの通知とその差出人、既に失ってしまったはずの同盟者、ユーベン=ペンバートンのメールアドレスだった。
* * * *
何故、こんなタイミングでユーベンからメールが届くのか、といった疑問を頭の片隅に追いやりつつ、ベットから飛び起き、PCのメールフォルダを開いて、最新のメールに添付されたファイルをクリックする。
「ユーベン…!」
そこに表示されたのは、久々に見る胡散臭い男の笑みと、動画の再生バー。
戸惑いつつも、再生ボタンを押すと、記憶と寸分たがわない、独特の笑い声が耳を震わせた。
『ファハハハハハハ! やぁ、久しいね、ドミノ』
そうして始まった動画で語られる、今回の戦いを最も長い時間戦い抜いた真祖、質素にして絢爛な男の、飾り気のない言葉の数々。それは、同盟を組んでいた期間では知りきることが出来なかった、ユーベン=ペンバートンの感情と後進へのエールだった。
「…死んだあとまで、余裕たっぷりね」
暗くなった動画ウィンドウを見ながら、ユーベンが語っていた言葉を思い返す。
『今、この世界で、民が選ぶのは、きっと君だ』
「…私も、アンタでもと、思ってたわよ」
そうして、気を引き締めなおそうとした矢先、暗くなっていたウィンドウに再度、明かりが灯った。
『さて、ここから先は蛇足だ。暗くなった画面の前で、しんみりとしてしまった場合の君へ送る、老人から若者への最後のお節介だと思ってくれたまえ。何、流石の私でも、ゴアに勝った後の時期や状況までは予測できなくてね!』
「…?」
当然再開された、ユーベンのVTRに困惑を抱きつつも、画面へと目線を戻す。
『というわけで、君の未来が明るくなる話をしよう!ドミノ、君のことだから、自分で薄々自覚できているとは思うが…君、佐神君に恋をしているだろう?』
「なぁ…!?」
そう言って、ウィンクをしてこちらに人差し指を立てる、画面の中のユーベンに思わず声を荒げそうになる。このジジイいったい何を…!
『しかし、君のことだ。女王としての自分、明君の佐神君への恋慕、そして佐神君自身が抱いている、シスカ君への恋慕の枠を超えた巨大な感情…。そういったものの前に、自分の気持ちを押し殺しているのではないか、とね』
「それは……」
『それを理解した上で、率直な感想を言わせてもらうが…その行動は全くもって君らしくない! いや、これに関しては、これまでもそうだ。君は佐神君に対してだけは、女王としての立場はとりつつも、彼と同世代の少女然として振舞うし、佐神君も、君を女王としては扱わなかった。前者については、自覚は恐らくなかったのだろうがね』
「善…」
ユーベンの言葉に、これまでのことを思い返す。善に対して、そういった感情を欠片も抱いていないかと言われれば、それは否である。初対面の時から、好印象を抱いてはいたし、無意識に、女王に相応しくない振る舞いもした。これまでの人生で、ここまで私という人間の奥底まで踏みこむ、ましてや踏み込ませた異性などいない。しかし、もはや私から善に向ける感情はそれを超越してしまっている。心臓を託し、託され、私と善はお互いの記憶と感情を共有し合った。私は善の理解者であり、善は私の理解者である。故に私は、善との契約者であり続けねばならない。善の心が、最後まで何を拠り所としていたかを知っているから…。
『以前にも伝えたが、君は、佐神君に対して自分を大きく見せようとしすぎる! 君自身の気持ちよりも、佐神君からの気持ちを優先してしまう。真祖など所詮、怪物に気に入られただけの、ただの人間だ。ドミノ。君が、女王として他者に求めるように、女王ではない君自身として、佐神君を追い求めてよいのだ。そして、何より…』
ユーベンは一旦言葉を切ると、その胡散臭い笑みを深くし、こう続けた。
『佐神君が、君のその気持ちを受け入れられないほど、やわな人間だと思うかね?』
「…!」
『人を見る目が肥えていると自負している私ですら、その深淵を見極められなかった男だぞ? もし仮に、君達全員が生き残って、ハッピーエンドを迎えることが出来たとしたら、その時は、佐神君に全員娶って貰いたまえ。何しろ、世界を救った男だ。嫁の3人くらい満足させられるだけの、愛情と甲斐性を見せてもらわねばな!』
「こ、このジジイ…」
『さて、暗くなった画面の前で、しんみりしてしまった君だ。恐らく、状況は良くはないのだろう。しかし、君には理想がある。いや、真祖でなくとも、人間は、その大小はともかく、皆、理想を抱えて生きている。理想とは、有体に言ってしまえば夢だ。どんな状況だろうと捨てがたい、それでいて、ありふれたものだ。王を決める最終決戦、どうせなら、楽しい夢を、皆で沢山抱えて行きたまえ。ついでに、私の夢も一緒にね』
「…ユーベン」
『では、今度こそお別れだ。素敵な夢を、ドミノ。君達なら、きっと叶えられる』
そして、胡散臭さだけではなく、どこか穏やかな笑みを浮かべたまま、動画の中のユーベンは、それっきり動かなくなった。
「全く…ほんとお節介なジジイね。若者の恋路に口出しするんじゃないわよ、生涯独身だったくせに…」
本当に、厭らしいジジイだ。生きているときも、死んだ後も。アンタへの借りばかり増えていく。だから…。
「えぇ、いいわよ。そこで見てなさい、ユーベン。私が叶える、完璧なハッピーエンド…私の王道をね!」
そうして、心臓に手を当て、私は決意を新たにする。私が目指す、最高の理想<ユメ>を目指して。
第一話、読了ありがとうございました!
というわけで、あとがきという名の戯言をば。
こんな感じでハーレムハッピーエンドを目指していく形となります。
原作のエンドももちろん大好きだし、彼らならそういう選択をするだろうと、滅茶苦茶納得したのですが…
それはそれとして、やっぱハーレムエンドがみてぇ!というわけで、衝動的に書き上げさせて頂きました。
ハーレムを目指すにあたって、やはり一番ネックとなるのがドミノ様の余りにも潔い退き方だったと思ったので、それを何とかすべく、ユーベンさんの力をお借りすることに…
ドミノ様が作中で弱っていて、他者を明確に頼る描写がある箇所が、22巻のこのユーベンさんからのVTRだったので、こちらを活用させて頂きました。
今単行本を見返してみると、ユーベンさんが「エールを送らせてもらおうと思ってね」と発言しているコマのドミノ様の表情がレアもの過ぎて愛おしくなりました。
マジで、言葉では表しきれない、ドミノ様のキャラ背景と年齢感と、ユーベンさんとの関係性を感じるこの表情…
バコハジメ先生の、この独特の表情を描く力が本当に最高なので、血と灰の女王を全人類、読もう!
というわけで、以上あとがきという名の戯言でした。
更新は不定期となりますが、完結目指して頑張りますので、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!
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これからもよろしくお願いします!