オレは本物の宇宙海賊! 作:パイレーツ
――それは衝撃的だった。
「大将が婚約者を決めた……だと!?」
「そんなに驚くことですか?貴族様ですし、跡継ぎは必要ですから当然と思いますが」
副長はオレの反応に呆れているが、あの大将だぞ!?ハーレムメンバーを超厳選して、自分から言い寄ってくる女性は論外の、あの大将だぞ!?側室や妾候補の貴族の令嬢にさえ、見向きもしない大将がなんだぞ!?そんな鉄壁の大将を、いきなり結婚相手に選ぶほどの女性がいた事自体に驚きなんだぞ!!大将を知る人物なら、誰だって驚くわ!!
「相手は誰なんだ!?年上か!?年下か!?同年代か!?それとも、まさかの身分違い!?」
「……同年代のロゼッタ・セレ・クラウディア公爵令嬢ですね。公爵と言っても、名ばかりで借金だらけの貧乏貴族ですが」
公爵とは名ばかりの貧乏貴族か。同情心から婚約を決めた……のは絶対にないな。大将はそんな理由で正妻に迎えようとは思えないし。安い正義感や同情で動く人物じゃないのは、何となく察してるし。
「つまり、彼女は大将の好みに直球で突き刺さった、と。それも外面ではなく内面的な意味で」
何せ外見だけで言えば美人がいっぱいだからな。それでも手を出さないということは、別のところで問題を感じているということでもある。
そんな大将が本気で欲しいと思ったのなら……かなり魅力的な女性だったんだろうな。大将にとって。
「ですが、婚約の話はそう簡単に進まないでしょう。クラウディア公爵家には、何かしらの問題を抱えているそうですし」
「それも大将にとっては些事も同然だろ」
きっと元皇子のパトロンになった時に近いんだろうな。大将は損得より面白いか否かで動いたと思うし。己の楽しみを達成しつつ、貴族としての利と実も得ている大将は、本当にやり手だと思う。
「大将の婚約話はここまでにしとくか。こっちの目下の問題もあるし」
オレは話を切り上げ、訓練のデータを改めて確認する。今も訓練している機動騎士のパイロットの数値は……伸び悩んでいた。
「アシスト機能なしだと、本当に苦労するんだな。シミュレーターでも散々だし」
「アシストありきであれば、もう少しマシでしょうが……ハウンドはアシスト機能はないですし、そもそもが不向きですからね」
副長の言う通りなんだよな。ハウンドは機体特性上、装甲の性能はネヴァンより低い。その分、機動性と移動性を大きく凌駕しているが、バランスという点で見ればネヴァンに負けているのだ。
それにアシスト機能付きだと、どうしても機体の反応速度に上限が出てしまう。例を上げるなら、操縦速度が速すぎて機体が遅れてしまうといった感じだ。ある程度は合わせられるだろうが、物足りなさやストレスを覚えるだろう。実際、マリーがネヴァンのシミュレーターで苛つきを覚えたのだから。
ちなみにマリーのハウンドの評価は『攻撃性が足りない』だそうだ。ネヴァンよりは満足していたようだが。
「幸い、最初でキッチリしたおかげか真面目に訓練しているのが救いか」
「やる気がない人員もいましたからね。船長の説教が相当堪えたのでしょう」
そりゃ説教の一つや二つはするわ。文句と不満ばかりで、仕事を放棄している阿呆の言葉に説得力は皆無だからな。巡ってきたチャンスを前に頑張れないのなら、何処に行っても同じだからな。
でも、時間を掛けすぎるのも問題なんだよな。バンフィールド軍は再編した影響でまだ人手不足だし。
「この開発中の【ラクーン】……見た目はともかく、性能は全部ネヴァンを越えてるよな。機動力はさすがにハウンドに負けているけど」
「騎士というよりマスコットですがね。性能だけで見れば新米にピッタリな機体ですね」
このラクーンが完成したら、購入を検討してみるか?仕込んでいる基本戦術とも噛み合っているし、この機体ならアシスト機能も搭載されるだろうからな。後、ハウンドより好き勝手にいじり易そうだし。
そんな話し合うオレと副長に、金髪をサイドテールで纏めた二人の少女――“
「船長さん、副長さん。ハウンドの改造許可を求めます。ブレードを盛りに盛った超近接仕様にしたいので」
「私も改造許可が欲しいです。銃火器を沢山搭載したいです」
姉の絹枝がハウンドの改造許可を求めると、妹の雪枝も同じように改造許可を求めてくる。方向性は完全に真逆だが。
「……どれくらい搭載するつもりなんだ?」
「両腕、両足、頭部、至る所にです」
「こんな感じに、です」
淡々とした口調で絹枝と雪枝は、自身の要望の姿をしたハウンドをオレたちに見せる。全身ブレードのハウンドと、ミサイルコンテナやガトリングガンを搭載したハウンド。近接と遠距離、どちらも片方に振り切った仕様だ。
「……まあ、別にいいか。整備士長やロイネたちとちゃんと話し合って決めろよ」
「「ヤー」」
許可を貰えた絹枝と雪枝は号令で返すと、無邪気な子供のように去っていく。自分達から要望を伝えるなんて……淡々と命令をこなす人形同然だった最初と比べれば、良い成長だな。
絹枝と雪枝は早速、整備士長にハウンドの改造を頼み込んでいた。
「整備士長さん。ハウンドを改造して下さい。船長さんから許可は貰ってますから」
「お姉ちゃんと同じく。ハウンドを私とお姉ちゃんの要望通りに改造して下さい」
適当に画像を張り付けたような雑な完成予想図のハウンドを見せながら、整備士長の周りを
『絹枝ちゃん、雪枝ちゃん……いくら馬鹿船長が許可したとはいえ、すぐに改造は無理だよ?機体のバランスもあるし……』
「「むー……」」
「むくれても駄目だぞ。最初の頃より可愛げがあるけどよ」
一番の新入りの可愛げな反応に、整備士長は苦笑を続け、ロイネは微笑みを浮かべる。
『さすがにてんこ盛りは無理だけど……求めている方向に特化した仕様には出来ると思うよ?専用のオプション装備を作らないと駄目だけど』
「共通の武器は……ガンブレードでいいか。形状はお前らの好みに合わせてやらぁ」
「「……てんこ盛り」」
装備のてんこ盛りが出来ないことに二人は落胆しているが、此ればかりは仕方がない。技術者としては浪漫ではあるが。
「え?ハウンドを改造するって?」
「どんな風に改造するの?見せて見せて」
「おお……まさに両極端」
「スマートにすれば、私達の方でも正式に採用できない?」
「脚部の装甲にプラズマソーサーを仕込むのはどうだ?蹴りで切断とか、カッコいいし!」
「背中のブースターをミサイルポッドと併用できないかな?騎士らしさからは離れるけど」
「だったら大型ビーム砲との併用がいいだろ。そっちの方が迫力があるし」
「それなら近接の方はシールドと併用の一択だ!今ならロレイアの技術を使って、耐久性が上げられるし!」
他の整備士やパイロットも参加し、和気藹々と意見を出していく。その中で一人がある意味トンでもない意見を出した。
「どうせなら、大型にして二人で操れるようにしたらいいんじゃね?」
「「「「「それだ!」」」」」
「大型かつ二人で操る機動騎士……浪漫だ」
「二人は双子だし、イケる筈!」
「一から製造でもやる価値があるんじゃないか!?」
『二人で運用するなら……通常より搭載過多となっても十分に扱えるかも』
「「てんこ盛り!てんこ盛り!」」
そんな感じで絹枝と雪枝の専用機――【ヴァジュラ】の作製計画が始まったのだった。
「え?なにそれ?凄く面白そう!!」
ついでに技術傾倒かつドレイクとハウンドの製造元の第七も嗅ぎ付け、バンフィールド家と懇意ともあって何名かが飛び入り参加したのだった。
本日は幼年学校の機動騎士トーナメントです。トーナメントの映像は観客席以外からでも見ることができます。観客席と比べると画質は荒いですが。
「これが第一兵器工場の新型の機動騎士ですか……統一性が見られませんね」
「やっぱり分かるか」
「第一は首都星に工場があることを良いことに、他の工場の技術を横から奪うんだよ。俺ら第七も、何度技術を吸われたことか……!」
「でも、アイツらがロレイアから叩き出された時はスカッとしたよな」
「だよな!連中のあの時の表情、見てて本当に清々したぜ!!」
皆さん、第一の人にかなり怨みを持っていますね。私も第一のしつこい勧誘には辟易してますし、気持ちは何となく理解しますが。
その第一の新型の搭乗者は……デリック・セラ・バークリーですか。例の海賊貴族の一人ですね。典型的な裏工作でトーナメントに勝っているクズのようですが。
「伯爵様には、徹底的にこの海賊貴族を潰してほしいですね。今回の陸戦仕様のアヴィドの盾には、特別な武装が仕込まれていますから」
大型の盾にはロレイアの技術を使ったテイルクローが仕込まれています。クロー部分には例の伸縮する金属を使い、自在に動かせるワイヤーを使ったそれは、一種の遠隔操作武器として使えますからね。ワイヤーで拘束するもよし、クローで刺し貫くのもよし、地面に叩きつけるもよしの素晴らしい兵装です。
操作がかなり難しいですが、伯爵様ならすぐに使いこなせるでしょう。そんな伯爵様の対戦相手は……婚約を申し込んでいるロゼッタさんですか。
「……かなり酷い状態ですね。晒し者にする魂胆が見え見えです」
いくら練習機とはいえ、状態が本当に酷すぎます。例の虐めの一貫なのでしょうか。本当に腹が立ちますね。
当然ながら結果は伯爵様の勝利。いえ、勝負にすらなりませんでしたね。伯爵様とロゼッタさんが何か話して、ロゼッタさんが泣いていますが、マリーさんの様子からしても悪い方ではないでしょう。
次は伯爵様とデリックとの試合ですが、結果は伯爵様の圧勝でしょう。今のアヴィドなら、あの程度の機動騎士は相手にもなりませんからね。
私がそう考えていると、警報音が鳴り響くと同時に何体もの海賊機が降り立ってきました。いえ、あれは……!
「外装だけ海賊機の、第一兵器工場の新型だと!?」
「それもただの新型ではありません!ロレイアの特殊金属が使われた、特別仕様です!」
それも通常の金属を、レアメタル並みの硬度となる加工をされた特殊金属です!それが数機ではなく何十機も……!
「第一の連中、バークリーの奴と手を組んだな!?」
「伯爵を殺して、再度ロレイアに立ち入るつもりか!?」
これは一個人でどうこうできる問題ではありません。リアム伯爵様は血縁者とは関係が最悪と聞きますし、その血縁者も領地を借金だらけにしたクズとも聞いています。リアム様が死に、当主交代となれば買収でロレイアに再び立ち入れると安楽に考えたのでしょうね。
ほんの一部とはいえ、ロレイアの技術を再現したのは感心しますが……本当にふざけていますね。
その間に映像が途切れましたが、私の怒りは最高潮です。あの劣悪な宇宙海賊への怒りと同等です。
「ですが……本当に甘いですね。あの程度で伯爵様が……今のアヴィドを潰せると、本当に思えているのですから」
お願いしますね、伯爵様。宇宙のゴミと、それに協力するガラクタを徹底的に掃除して下さいね。
『リィアァムゥウウウウウウウウッ!会いたかったぜぇえええええっ!』
「随分な言い種だな、デリック。俺が会いに行っても、コソコソ逃げ回っていたくせに」
ま、ここで逃げずに俺の前に出てきたことは褒めてやってもいいがな。
『強気でいられるのも今の内だ。クラウディア家を監視している連中が俺に協力してくれて準備は万全なんだよ』
クラウディア家の監視?ブライアンがそんな事を言っていた気がするが……大方、ロゼッタが俺の家に嫁ぐことで仕事が無くなるから困るといったところか?それでデリックなんかと手を組むとか、その連中は本当に愚かだな。
『ここにある機体は全部、太古の技術を使った強力な機体だ。第一兵器工場が融通を利かせてくれたからな。大会の関係者も買収済みだから、怖じ気づいても助けはこないぜ?』
「本当にペラペラと良く喋るな」
第一の強力な機体?この前たっぷりとクレームを入れた連中がデリックに協力するとか、本当に終わっているな。俺に自社兵器のアピールをしてご機嫌を取りたいのなら、他にやりようがあっただろうに。
だが、これはこれで都合がいい。
「これだけか?」
『あ?』
「数はこれだけかと聞いているんだ。どうせなら、今の十倍はあってもいいくらいだぞ?」
せっかく新しく生まれ変わったアヴィドを試せるんだ。俺の求めていた以上の出来となったアヴィドの力を、思う存分発揮したいからな。
『……お前ら、やれぇ!!リアムを殺せぇ!!』
逆上したデリックが周りの海賊機に号令を出し、海賊機たちも号令に応えるように俺へと迫る。その海賊機たちを……背中から引き抜いた大剣で粉々にした。
「おぉ!これまでより滑らかに動く!それに関節が少しも悲鳴を上げていない!むしろ、本当に俺の一部のように動かせるぞ!!」
今まで以上の一体感に、俺は素直に称賛する。これなら思う存分アヴィドを動かせそうだし、一閃の再現度も格段に上げられそうだ。
『怯むな!!距離を取って攻撃しろ!!』
デリックが悲鳴を上げるように指示を出したかと思えば、今度は銃撃で俺のアヴィドを攻撃してくる。当然、固い音を響かせるだけでノーダメージだ。
『全くダメージを受けてないだと!?』
『嘘だろ!?この弾の硬度はレアメタル並なんだぞ!?』
『本当にどうなっているんだ!?』
どうなっているかだって?もちろん、金の力で手に入れたからに決まっているだろ。今のアヴィドの強度は通常のレアメタルの倍だからな。レアメタル並みの硬度じゃ傷一つ付かないぞ。
「おいおい、逃げるのか?今更逃げるなんて、許されるわけがないだろ?」
海賊機が逃げ腰になってきたので、俺は両側にマウントされた盾に内蔵されているテイルクローを使う。まるで生き物の尻尾のようにしななされたワイヤーは俺の操作に応えて獰猛な獣のように飛び出すと、後ろを向いて逃げていた海賊機を背中から差し貫く。もう片方は敢えて括りつけ、モーニングスターのように振り回して他の海賊機たちへとぶつける。
このテイルクローの操作感覚は奇妙だな。例えるならヨーヨーや水風船を操っているかのような感じだ。便利なのは認めるが。
「さて……今のアヴィドが何れだけ俺の動きに着いてこれるか、試させてもらおうか」
俺は軽めの一閃を連続で放ち、周囲の海賊機を次々と斬り捨てる。関節は……微塵も悲鳴を上げていない。
「このくらいは余裕で耐えるか。なら、もう少し上げるか」
次はさっきよりも鋭い一閃を放つも、アヴィドの関節は余裕で耐えている。もちろん、一閃の精度も上がっている。
「やはり大剣だと完璧な一閃は再現しきれないか。威力は申し分ないがな」
いや、違うか。奴の一突は異なる使い方で本来のやり方と遜色ない域で再現しているからな。単に俺の技量不足の可能性が高いな。これからも悪徳領主として振る舞うなら、刀以外でも完璧な一閃を使えるようになるべきかもな。当然、刀の一閃も疎かにせずにな。
(何なんだよコイツ!?この数の最新鋭の機体を相手に、何で一方的に蹂躙できるんだよ!?)
戦況を見守っているデリックの内心に、もう最初の優越感はなかった。あるのは猛威を振るう者への恐怖だけだ。
クラウディア家の監視者に、第一兵器工場。リアムに対して快く思ってない者が結託し、本来であれば嬲り殺せる戦力を十二分に用意していた。それも“事故”として処理できるよう、関係者も買収して。
だが、目の前のリアムはその戦力をまるで赤子を相手にするかのように次々と潰しているのだ。デリックでなくても恐怖を覚える。
更に戦力を追加する?数の暴力が全く通用していないのに?
名のある海賊騎士を応援に呼ぶ?特別な機体でさえ、手も足も出ない相手なのに?
思考の袋小路に囚われ、考えることから抜け出せないデリック。そんなデリックに、無情な現実が突き付けられる。
『機体はもう打ち止めか?もう少しアヴィドの性能を確かめたかったんだが』
その声で現実に返ったデリックの視界に写ったのは、見るも無惨となった機体の数々だ。デリックは反射的に空を見上げるも、空から機動騎士が降ってくる気配はない。たった一機で、数百機の機動騎士を破壊しつくしたのだと気付いたデリックは、背筋に冷たいものが走った。
――次は自分が殺される。
それが脳裏に過ると同時に、アヴィドが一歩踏み出す。もはや戦意が完全に喪失しているデリックは、恥も外聞もなく命乞いを始めた。
「お、俺が悪かった!お前にはもう二度と関わらないし、逆らいもしない!!何でもするから、命だけは!!」
『なんでも?』
「ああ!金も女もお前の望むままに与えてやるし、エリクサーだって好きなだけくれてやる!!うちにはエリクサーが沢山あるからな!!」
デリックは何とか助かろうと、必死にリアムに媚びを売る。それに対してリアムは、口元を三日月のように歪めて笑みを作った。
『だったら、お前の命をくれよ。金も女もエリクサーも間に合っているからな』
リアムのその返答に、希望を見出だしかけていたデリックの表情が絶望に染まる。それでも死にたくないデリックは一か八かの逃亡を図るも、テイルクローによって地面に縫い付けられてしまう。
もはや逃げることも叶わなくなったデリックの耳に、リアムの無情な言葉が届く。
『エリクサーでも生き返られないよう、念入りに殺してやる。恨むなら、俺に逆らったお前自身を恨むんだな』
その言葉を最後に、デリックは押し潰されて死んだ。