オレは本物の宇宙海賊! 作:パイレーツ
ロゼッタ嬢との正式な婚約。監視組織の完全解体。バークリー男爵家への事実上の宣戦布告。
うん、本当に大将の周囲を取り巻く変化は凄まじいな。
「大将はトラブルに愛されていると思うか?」
「愛されていると言うより、進んでトラブルを引き起こしていると言った方が正しいかと」
「だよなー。大将は我が道突き進んで、反感なんかお構い無しだからな」
顔色を伺って、下手に出るなんて一切しないし。己の幸せを常に追求し続けているからな、大将は。
「普通なら暴走して破滅の道を辿るものですが、近しい者の意見には比較的素直に耳を傾けますよね」
「大将は天城殿に頭が上がらないからな。この前も怒られていたみたいだし」
戦艦が機動騎士になる巨大な外装の特注に、結構絞られたみたいだからな。巨大機動騎士はとても浪漫だけど、ウチじゃ保管も管理もしきれないし、真似出来そうにないんだよな。その分、あのドデカイ“武器”に力を入れることにしたけど。夢と浪漫を追い求める海賊なのに、妥協しないといけないのはツラいなー。ああ、現実は本当に世知辛い。
「完成すれば、一応は誰でも使えるんだよな」
「実際はエース級でなければもて余すでしょう。的が大きくなり、小回りも利かなくなりますしね」
一応、エネルギーシールドやら動力源は載せるみたいだけど、それでも小回りが利かなくなるのは機動騎士同士の戦いでは不利になるだろうな。対艦とか中距離殲滅にはピッタリだろうけど。
「そういや、今月の強盗退治は十回だったな。規模は大体二十隻前後……漸く落ち着いたか?」
「質も成り立て程度ですからね。さすがに名のある海賊……もとい盗賊は、割に合わないと気付いたでしょうし」
「ここからは稼ぎが減るってことか。まあ、これまでより大分稼げたから、贅沢しなければ大丈夫だろ」
副長にはこうは言ってはみたが、そうもいかないだろうな。ガッツリ喧嘩を売られたバークリー家が干渉してこないとも限らないし、このまま黙りとも思えないし。
けど、一定の実戦には都合がいいか。送られてきた人員の訓練相手に丁度いいし。あくまで“慣れ”程度だけど。
「偽海賊貴族との激突は必須として……勝てる可能性はあると思うか?」
「……地位は男爵ですが、総規模は伯爵に匹敵します。利用できる戦力も加味すれば、厳しいものになりますね」
「目下の課題は戦力か。衝突するまでに何れだけ鍛え上げられるかが肝かな?」
「契約終了の選択はないんですね」
「やったらどうなるか、言わなくても分かるだろ」
旗色が悪いから逃げますなんてしたら、バンフィールド軍総出で潰しに来るぞ。特にクリスティアナとマリーが裏切り者は死ね!!と突撃してくるのも目に見えてるし。
「やれやれ。本当に厄介な縁となりましたね。悪い気はしてませんが」
「結局、最後まで付き合う気満々だな。ミゲール副長殿?」
「それこそお互い様でしょう。クラーク船長」
ま、個人的にも大将は気に入ってるし、良好な関係で居続けたいからな。本物の海賊に理解があるし、浪漫を求める姿勢も素晴らしいし。
大将と今後とも良い意味で付き合いたいと考えていると、外の方で爆発音が響いた。
『悪い船長。調整をミスって例の武器が少し爆発しちまった』
……強盗貴族と武力衝突するまでに完成するかな?
バンフィールド家本星にて。
「……信じられない」
調合師は本当に信じられないといった表情で、小瓶に入った液体を見つめている。周りにいる他の者たちも同じ表情だ。
「確かに指定の材料でエリクサーを作れたが……これは、ただのエリクサーではない……!」
「濃度が既存のエリクサーよりも遥かに高い……!もはや、原液と評するべきです!」
「既存のエリクサーと同じ濃度になるまで希釈したら……八十本は堅いぞ!」
「今回のエリクサーの作製に掛かった出費と、購入による出費との差異は!?」
「設備を除いた出費を合わせたら……買うよりも安く済ませられます!!」
「これは本当に凄いぞ!!設備と環境を整えさえすれば、安定的にエリクサーを生産することができる!!」
エリクサーの作製が成功しただけでなく、十分に普及できるレベルであることに感極まったように喜び合う。
原液と呼べる濃度のエリクサー……これはデータの提供元であるクラーク船団ですら知らないことだった。その理由は単純、既存のエリクサーついて詳しく知らなかったからだ。
エリクサーは知っての通り、希少な万能の霊薬で、高価に取引される貴重品だ。そんな現物の購入は早々にできないし、簡単に手も出せない。そんな貴重な品を買うよりも早く(?)、エリクサーの作製資料を手に入れ、自前で作ればどうなるか?答えは勘違いする、だ。
それに作れる量も少ないから、使用も希釈が前提となる。既存のエリクサーの仔細を知らない中で、聞き及んだ通りの効能を発揮していれば、さすが万能の霊薬としか判断できない。希釈も大雑把だったから特に。
つまり、この結果はリアムもクラークも予想外ということである。ちなみにこの方法が失伝したのは手間と時間、とある危険物の存在によるものだ。時間と手間をそう掛けずに大量に得られる上、その危険物も手に入れられる。故に、安易な効率によって喪われてしまったのだ。
しかし、クラークが見つけ、リアムが思い付きで実行したことで、かつての製法は蘇った。偉業と言っても過言ではない。
「ハッ!まさかリアム様は、こうなることを予見していたのか!?」
「そうに違いない!リアム様は、稀に見る稀代の名君だからな!!」
「そうだな!リアム様ほど、本当に救うべき者たちに手を差し伸べる方はいないからな!!」
「このエリクサーはロゼッタ様のお祖母様に使うぞ!このエリクサーなら、婚約式まで延命させられる筈だ!!」
もはやお約束となりつつある勘違いにより、リアムの株がまたしても上昇したのだった。
――首都星の上空にて。
「フハハハハハハ!何千年という負の感情が私に力を与えてくれる!この力で、今度こそリアムを地獄に――」
十分に回復した案内人は、今こそリアムを絶望のドン底に叩き落とそうと決意を新たにしようとした瞬間、背後から黄金に光り輝く槍が突き刺さった。
「へ?」
案内人は何が起きたのか理解できず、そのまま地面へと叩き落とされる。貫通した黄金の槍が地面に刺さり、案内人は地べたに這いずる形となる。
「――ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?身体が中から焼かれるぅうううううううううううううっ!?」
黄金の槍が刺さった箇所を中心に、まるで内側から焔が燃え上がったかのような激痛が全身を襲う。いや、薄らいでいた痛みが唐突に激しくなったような感じだ。
「まさか、またリアムからの感謝なのかぁ!?」
案内人は信じられない思いで黄金の槍に触れると、自身が予想した通り、リアムの感謝の念が流れ込んでくる。二つの惑星開発装置と超強化されたアヴィド、原液エリクサーと諸々の感謝の想いが。しかも、それに付随して他の者の感謝の念もある。縁が明確になって繋がりを得てしまった、あの忌まわしい杖の影響も受けた状態で。
「って、これ本当にヤバいやつぅ!!早くしないと消滅しちゃうぅうううううううっ!!」
悠長に引き抜いていては本当に消滅してしまうため、案内人は身体半分を切り捨てて黄金の槍から逃れる。自身の身体の半分以上が消失した案内人は、逆ギレ同然でブチ切れた。
「……許さん。絶対に許さんぞ、リアム!そして、あの忌まわしい杖を見つけたクラークという男も!どちらも復讐してやる!二人諸とも苦しめて、無惨な最後を与えてやる!!」
ここまで酷い目にあった案内人はリアムだけでなく、感謝の念から読み取ったクラークにも明確な殺意を向ける。だが、安直に近づけば返り討ちに合うのも目に見えている。なので自分からは近づかず、二人に対して負の感情を抱く者に支援することを決める。
「グゥ……力をかなり削られたせいで、調査も満足にできないか。とにかくまずは候補者を……」
案内人はとにかく負の感情を頼りに探すと、最初に見つけたのはリアムを強くした元凶たる安士だった。
「またお前か!!」
弱体化している案内人は怒ってすぐに違う人物を探そうとするも、その安士は精神的に追い詰められ、リアム殺害のために弟子を二人取って差し向けようと考えていた。そんな安士の姿を見て、案内人はこれは利用できるとすぐに支援した。
次に見つけたのは、軍で再教育を受けているユリーシア。彼女もリアムに強い負の感情を抱いていたことで、軍で上手くいくように支援する。
「後一人……リアムではなく、クラークに怨みを持つ者を……!」
案内人は何とかクラークに負の感情を抱く者がいないかと、僅かな感覚を頼りに探し出す。そこで見つけたのは、一人の黒髪の女性だった。
『許さない……絶対に許さない……お前のせいで、我が居場所であった傭兵団は消え去った。この手でお前に引導を渡し、我が力で屈服させてやる』
「――本当に素晴らしい!これほど大きな負の感情を抱くとは!お前の望み、この私が叶えよう!!」
案内人は黒髪の女性が一騎当千の力を得られるよう、自身の力を与えて支援する。これ以上の支援はできないが、種は十分に蒔けたと案内人は感じていた。
「見える……見えるぞ!私の蒔いた種が大きな悪意として育つ光景が!お前たちの破滅へのカウントダウンが!絶望に泣き叫ぶ姿が!!その時が、本当に楽しみだ!!」
上半身のみの姿である意味シュールではあったが、案内人は己が望む未来の光景を想像して高笑いする。それをじっと見つめる存在に、案内人は終始気付くことはなかった。
大将が唐突に近い形で決めたロゼッタ嬢との婚約式。その婚約式にオレも関係者として招待させられた。
「婚約式から立食パーティーか……個人的には街のお祭りに参加したいんだけど」
「駄目ですよ、馬鹿船長」
同じく同席するお目付け役のロイネが手厳しい。オレは王族でも貴族でもないし、ゴミ溜め出身の平民なんだぞ?平民思考だから、貴族のパーティーに出席するより、街の方で行われる今日の婚約式に対するお祭りの方が騒げて楽しいから、そっちに行きたい。海賊は、騒いで楽しむものだからな!!
「今から副長を代理にして逃げるか。そうと決まれば――」
オレは他の船員と一緒に祭りの方に参加する副長に連絡をしようとするも、ロイネがハリセンを手で叩きながらニッコリとした笑顔をオレに向ける。絶対に逃がさないヤツですね。ハイ。
最近、姉のクリスティアナに似てきたなと思いつつ、オレは素直に引き下がる。何かこう、逆らえない圧を感じるんだよな。オレ、船長なのに。船長なのに微妙な立場なのが、少し情けなくなるなー。
「慣れてください。伯爵様との契約がある以上、こういった場への参加は常になりますから」
「オレら、外様よ?大将に仕えていない人間よ?そんな人間が貴族のパーティーに招かれるとか、普通はそうないんだぞ?」
「伯爵様への利益を鑑みて言ってください」
利益?最近は盗賊の討伐報酬と所持品の山分けだけだぞ?その取り分は確かに大将の方が多いし、惑星開発装置も渡したけど。しょっちゅう招かれる程か?いや、もし船を買い換えるか大規模な改修を施すなら全額出してやると大将は言っていたけどさ。
けど、買い換えはなぁ……《メビウス》の稼働問題で悩ましいんだよな。アレ、再稼働には惑星のライフエネルギー一月分のエネルギーがいるし。稼働で一月以上足止めとなって、食料不足で地味に危なかったし。稼働したら稼働したで、出力調整に苦戦して爆発寸前にまで陥ったし。
まあ、仮に買い換えるとしたら、大きめの空母かな。空母なら改造しやすいし、載せられる量も多いし。ま、今の船に愛着もあるからその気はないけどな。大規模な改修はするかもしれないけど。
で、肝心の婚約式は……ロゼッタ嬢の『ダーリン』呼びで大将が面食らうという光景が見られた。完全に大将に惚れたロゼッタ嬢の表情は、まさに乙女のそれだったね。うん。
婚約式は滞りなく終わり、立食パーティー。料理は美味いけど、騒げないからちぃと不満かな。貴族のパーティーなんて、大体こんな感じだけど。ああ、街でお祭り騒ぎしている副長たちが本当に羨ましい。
「急遽決まったのに、参加者がいっぱいだな」
大勢の貴族の姿を前に、グラスの中のお酒をチビチビ飲みながらそう呟く。
あ、クリスティアナとマリーが取り巻きの部下たちと共に対面したな。めっちゃバチバチしてるし、周りも固唾を呑んで見守ってるし。
「こうして面と向かって会うのは初めてですわね、ミンチ女」
「同意するのは癪だがそうだな、化石女」
お互いにトラウマを抉る呼び名を……いや、大将を前にしたらトラウマなんて明後日なんだろうな。けど、せめて場所くらいは弁えような?特にクリスティアナ、妹が頭痛を堪えるように俯いているんだぞ。
「お前に筆頭騎士は荷が重いのではなくて?」
「お前こそ、次席の地位は不相応じゃないかしら?」
お互いに邪魔だから消えろと暗に言っているな、これ。周りも緊張しているし……さすがに止めるか。
「そこまでにしとけよ二人とも。周りの招待客も困ってるし、な?」
「邪魔するな、エセ海賊」
「馬鹿はお呼びでないですわよ」
「誰がエセで馬鹿だ。オレは夢と浪漫を求めて宇宙を旅する、本物の宇宙海賊だぞ」
そんなに喧嘩を売りたいなら、存分に買ってぇ!?
「この馬鹿船長!仲裁に入っておきながら、買おうとしないで下さい!!」
「いや、本物の宇宙海賊の名誉――」
「馬鹿船長?」
「……スイマセンデシタ」
思わず正座するほど、ロイネの笑顔と圧が恐い。普段は優しい人物がキレると本当に恐いし逆らえない。最初のおどおどした感じはすっかり消え、図太く逞しくなりました。
「ティアお姉様もマリーさんも、今日はここまでにして下さいね?他の皆様へのご迷惑となりますので」
「「……ハイ」」
今日は二輪車で宛もなく散策。他の船員も歓楽街やら商店で自由な一日を満喫している。整備班は相も変わらず機械弄りに没頭し、ロイネも休暇を利用して姉と一緒に過ごしている。うん、本当に平和だな。
昔の光景は全く知らないが、僅か数十年で生活水準が上がるほど発展させたんだよな。貧困の差も少ないと聞くし。
「大将は五歳で当主にされて、本当によくここまで立て直せたよな。素直に感心するよ」
しかも十歳前後で汚職役員をその手で殺したとも聞いたし。本当に大将の人生は苛酷だな。同情されても迷惑だろうけど。
その意味じゃ、信頼しているのは天城殿だけかな?次点でブライアン殿?他は信用程度……
「……ん?」
な、何だ、あの子は?オレの直感がビンビンに告げている。あの少女は鍛えれば強くなる、金の卵だと!!
今すぐ勧誘したい!だけど、子供を誘うのはさすがに駄目だろうし……元強化兵の絹枝と雪枝の時とは全然違うし。どうする?どうする!?
「お嬢ちゃん。夢と浪漫に興味はないか?」
「……え?あたし?」
数秒悩んで、興味を抱かせる方向で話しかけることにした。金の卵に目印を付けるくらいなら大丈夫の筈!!このくらいなら、民は全て俺のものと公言する大将も大目に見てくれる筈!!
「ああ。お嬢ちゃんに夢はあるかな?」
「夢……あるよ!領主様みたいにみんなを守れる、正義の騎士になるという夢が!!」
「もう既に夢があったのか!!」
これでは誘えない!こんな子供の夢を頭ごなしに否定するなど、宇宙海賊がすべきことではないからな!宇宙盗賊?アイツらは論外だ。
だが、既に夢を持つお嬢ちゃんには、夢と浪漫を追い求める者としての助言をしなければならない。こんな逸材を腐らせたくないからな。
「お嬢ちゃん。夢というのはな、叶えてからが本番なんだ」
「叶えてからが本番?」
「そうだ。夢は叶えて終わりじゃなく、叶え続けるために努力しないといけないし、必死に進まないといけない。その中で諦めたくなるような出来事が多々襲うだろう。けど、本当に大事なら、苦難であろうとも進むべきだ。夢と浪漫があるからこそ、人は進めるものだからな」
「お兄ちゃんにも夢があるの?」
「もちろんあるぞ!未知との遭遇に終わりなき冒険!果てなき夢を追い求め続けることが、オレの夢だ!!」
まだ見ぬ財宝に、未曾有の星。全てを網羅することは出来ずとも、行動自体に意味があるからな。行動しなければ、何も叶えられないからな。
「……うん!あたしも諦めない!絶対に正義の騎士になる!!」
「そうかそうか!じゃあ、これはオレからの贈り物だ!」
オレはそう言って武術書の電子ペーパーを渡す。タイトルは《双銃剣術の心得》だ。領主様――大将のように強い騎士になりたいなら、本当は一閃流を学ぶべきだろう。だが、オレの直感がこの子にはこれがピッタリだと告げているのだ。
「えっと、これは?」
「正義の騎士を目指すにしても、全部が手探りだと大変だろ?これを最初の足掛かりとして使ってくれ」
「よく分からないけど、ありがとう!」
女の子は満面の笑顔でお礼を告げるが、この子がこれからどんな道を進むかはこの子次第。途中で挫折して夢を諦めるかもしれないが、オレの小さな支援が無駄に終わっても構わない。夢は常に変化するものだからな。ハッハッハッ!!