オレは本物の宇宙海賊! 作:パイレーツ
ビクトリアの格納庫にて。
「バレルの展開と接続の部分が予想よりダメージを受けているな。戦闘中に壊れなかったのは幸いだったな」
「想定が甘かったですね。バレルの展開によるモードチェンジは、現時点では無理そうです」
試作の段階とはいえ、想定よりも負荷が大きかったことにブロとロイネは残念そうにしている。バレルの展開式による射撃武器の射程距離の変更、中遠距離両用の武器は失敗に終わってしまった。
いや、正確には求めていた運用方法でだ。これが通常のライフルと同様の使い方であれば、十分に実用可能だっただろう。だが、イネスが求めるのは銃で近接戦闘を行うかのような激しい運用だ。銃そのものを近接武器にしてはいないが、シールドに内蔵したロレイア製の超振動剣を、銃を保持したまま振るうという運用により想定より負担が強いられたのである。
……振り回しながらバレルを展開するという、結構無茶な使い方もされていたが。
「そうか。じゃあ仕方ないね。ここは無難な……」
ピストルとライフルの切り替え機能が今の段階では現実的でない結果に、報告を受けたイネスはあっさりと見切りをつけようとする。だが、それもある物を視界に収めたことで止まる。
「これは何かな?形状から見ると砲口だけど、バレルらしいバレルがないね。唯の飾りかな?」
「それは遊びで作ったビーム砲だな」
「皆さんと面白半分で作った作品ですね。機動騎士が扱う火力では過剰、戦艦では圧倒的に射程が短いという中途半端な武装です」
「射程がビームライフル程度だからな。連射速度も高くないし、見事な失敗作だ」
ブロはそう言ってダハハ!と笑う。失敗作を作っても大して気にした様子がないのは、割と何時ものことなのかもしれない。実際、作っては解体を毎回行っているのだ。シールドにライフルを内蔵したり、鞭と剣を融合させたようなヘンテコな剣を作ったり、装甲にミサイルコンテナを直接組み込んだりと、色々とやりたい放題なのだ。エネルギーコストが皆無なのも大きいが。
そんな失敗作のビーム砲に対してイネスは呆れるのではなく、悪戯を思い付いたような笑みを浮かべている。まるで、いい玩具を見つけたかのように。
「このビーム砲、テウメッサに組み込めないかな?」
「は?」
「へ?」
イネスのまさかの注文に、ブロとロイネは揃って間が抜けた声を洩らしてしまう。理解が追い付かずに数秒固まっていたが、理解が追い付いてすぐに反対の意を示す。
「イヤイヤ。さすがにこれを機動騎士に組み込むのは無理だ。形状の問題から取り付けられる部位がないんだぞ?」
「整備士長の目は節穴かな?一ヵ所だけあるじゃないか」
イネスはブロの反対意見にそう返しながら、テウメッサのある部位を指差す。その部位は下腹部……つまるところ、機体の腹だ。そこに組み込めと暗に伝えてくるイネスに、今度はロイネが口を開く。
「そこに組み込んだら、少しの被弾で爆発するリスクがありますよ?それにビーム砲に異常が出れば、動力部にも影響……」
「それを解決するのが君達の仕事だろう?それに、当たれば終わりなのは変わらないじゃないか」
イネスのその返しに、ブロとロイネは何とも言えない表情となる。テウメッサは機動力を高める為に装甲がかなり削られている。一発でも貰えば致命打なので、腹部にビーム砲を組み込んだとしても同じなのだ。
「ま、仕方ないか」
「運用の為の予備バッテリーの追加で、機体重量は増えるのは避けられませんが……」
「それなら躊躇いなく増やしちゃおうかな。肩部装甲を……」
イネスは完全に自分好みの機体にしようと、自身の理想を二人に伝えていく。またしても魔改造機体の誕生が決まったが、これも何時ものことなので問題はなかった。
「ちなみに、この翼のようなブースターは何かな?形状はネヴァンのブースターを発展させた感じだけど」
「そちらはティアお姉様に送る予定のウィングブースターです。ネヴァンのブースターより二割ほど性能は上がっており、高性能なセンサーが組み込まれています」
後日、このウィングブースターにクリスティアナは上機嫌となったのは言うまでもないだろう。
『やはり制限を設けないと、量産機には組み込めないですね』
「大将の予備機だから、特注のエンジンでもいいんじゃないのか?」
『予備機の意味を理解していますか?』
少佐に昇進したニアス少佐の呆れに、オレはそういうものなのかと首を傾げる。いや、予備機が量産機から選ぶものだから当然かもしれないけど。
あれからライラプスは完成し、メインである分身機能も含めた運用データは協力した第七にある程度纏めた状態で送っている。分身の精度は確かに高いが、ミサイルやランチャー等の爆発物は不完全な再現だった。見た目はミサイルだが、実際は鈍器。爆発せずに硬い音だけ響かせて、オレを含めた誰もが微妙な気持ちになったしな。
それらのデータを見たニアス少佐の結論は、ダウングレートしないと量産機には組み込めないというものだった。当然ではあるが。
『どちらにせよ、今のままじゃ伯爵様の予備機に組み込めませんね。別のハウンドに搭載して、試験運用しなければセーフティラインも見極められませんし』
「そのまま大将の予備機を実験に……はさすがにマズイか」
予備機を試験運用に使って壊しましたなんて、普通にキレる案件だし。
『アヴィドの時とは違いますからね。幸い、ハウンドは量産機ですし』
しばらくは別のハウンドでテストを続けるしかないみたいだな。満足に動かせるかは別問題だが。
「ロレイアの技術は本当に凄いよな。今回の分身機能のように応用が利くし」
『全くです。ウチでもロレイアの技術を利用した新たなエネルギーバッテリーが出来上がりましたし。その容量は従来の十倍と段違いでしたしね』
従来の十倍か。容量が増えればその分、長く戦えるから単純に十倍の時間で戦えるんだな。
「そのバッテリーはいくらだ?オレのドレイクのバッテリーと交換したい」
『今ある分は試験機に使う分だけですので……実用はもう少しデータを取ってからです』
地味に残念だよ。ドレイクも改修して、機動力の更なる向上で肩にサブスラスターを追加してエネルギーの消費量が増えたばかりだし。
『そもそも、ドレイクをそっちでかなり改造してますよね?データを見る限り、こちらも古代兵器の再現レベルですよ』
「大将のアヴィドと同じか。ポテンシャルはアヴィドの方が上だけど」
『当然ですよ!伯爵様のアヴィドは間違いなく、ウチの最高傑作なんですから!』
そりゃ機体のフレームにもロレイアの技術を使っているからな。ドレイクは武装と装甲くらいだし。
小惑星ネイアにて。
「このハウンドって機体、悪くないわね。けど、どうして機体の色は白いのかしら?確か、銀色だった筈よね?」
第七兵器工場の機動騎士の保管エリアに格納されている白色のハウンドを見上げる女性に、案内していたらしい第七のスタッフは困った顔で説明する。
「これは売り物ではなく試験機なんです。ハウンド自体も新しい試みで作られた機体ですし、発展の余地もありますからね。古代技術の再現の検証も兼ねているので、差別化の意味で白いのですよ」
「例のロレイアね。傭兵の間でも随分と話題に上がっていたわ。その古代技術を使った機体は他にあるのかしら?」
女性の問い掛けに、スタッフは首を横に振って否定の意を示す。
「その技術は帝国にとっても大事な資産ですからね。それにコストも莫大ですから、今はワンオフ機にしか使えませんよ。この機体も今はある事情で此処に置かれているだけで、お目にすること自体が稀なんですよ」
「そう。幸運ではあるけど、とても残念ね」
女性――シレインは諦めたように肩を竦める。しかし、その瞳は獲物に狙いを定めた狩人で白いハウンドを見つめていた。その瞳に気付くものは、スタッフも含めて誰もいない。シレインの本当の目的も含めて。
第七兵器工場は傭兵団の襲撃を受けていた。
傭兵団の狙いは、第三兵器工場が開発している新型の特機【アタランテ】の破壊。そのアタランテを守るため、機体のパイロットである【エマ・ロッドマン】は小惑星から脱出していた。
脱出したはいいが、第七と共同で改修されたアタランテは機体を動かす為のソフトが未完成。そのため動作が重く、満足に動けていない。当然ながら、アタランテの破壊を目論む傭兵たちにとっては絶好の機会でしかない。
事実、小型の機動騎士が数機、アタランテを破壊しようと接近してくる。しかし、それも後方からのビームによって直ぐ様撃破される。
「え?」
予想より早い救援にエマは驚いていると、三つ機影がエマに近づいてくる。まるで飛行艇のような形状の機体は、腹を見せるような体勢になると、人型の形状へと姿を変える。
機動騎士【ハウンド】――ラクーンとテウメッサの前に開発された、可変機構のある第七兵器工場の量産機。その独特の操作性から相応の操縦技術が求められる機体だが、デザインと他の機体にはない機構から男性騎士やパイロットたちから人気のある機体だ。
これは余談ではあるが、ハウンドのプラモデルは結構人気がある。エマ自身もハウンドのプラモデルを購入し、
『ロッドマン中尉だな?』
『我々だけでなく、後三小隊が君の護衛に着く』
『全員でしっかりエスコートするから、安心してくれ』
「あ、ありがとうございます!」
ハウンドのパイロットたちからの声かけにエマが感謝の言葉を告げていると、ネヴァンとラクーンで編成された三小隊が合流する。
『やあ、また会ったね』
「大尉さん!」
味方の機動騎士の小隊と無事に合流でき、後は味方艦へと向かうだけ。ネヴァン、ハウンド、ラクーン……これらの新型に囲まれたエマは安堵する。
――敵機が来るまでは。
「大尉さん、敵です!」
『ああ、こちらも確認した!』
アタランテのセンサーに反応した敵は一機。それも奪取されたと報告を受けた白いハウンドだ。
試験機とあって基本武装は通常のハウンドと同じ。更にハウンドの操縦は独特なので、この戦闘では真価を発揮しきれない。
――本来であれば。
『正面からとは、舐めた真似を!』
機動騎士――ネヴァンの一機が正面から接近してくる白いハウンドにライフルの銃口を向ける。銃口からビームが放たれ、その一撃は回避する動きがない白いハウンドへと向かい――そのまますり抜けた。
『え――』
撃ち抜いたのではなく、文字通りすり抜けたことに全員の思考が一瞬止まる。当然、その一瞬が致命的な隙となってしまう。
それが、ネヴァンが突然現れた白いハウンドの突き出したブレードによって貫かれるという、無慈悲な結果を招いた。
『な!?』
騎士たちは驚きながらも白いハウンドに銃口を向けるも、爆発による煙が晴れた先に白いハウンドは既にいなかった。エマを含めて誰もが周囲を警戒していると、再び現れた白いハウンドがラクーンとハウンドへと別々に斬り掛かった。
『二機だと!?盗まれたのは一機だけじゃないのか!?』
咄嗟にシールドでブレードを受け止めたハウンドのパイロットが驚いたように声を上げる。それはエマだけでなく、全員が驚いた事実だったからだ。
何せ、報告では盗まれた機体は一機だけの筈だからだ。それがもう一機、ましてや同じ機体ともなれば誰もが混乱する。その混乱を突くように白いハウンドは二機同時に距離を取ると、その姿を霞ませながら消えていく。まるで、最初からそこにいなかったかのように。
「……消えた?」
『油断しないで!絶対に近くにいる!』
エマを守るように護衛の機動騎士が円陣を組んでアタランテを囲う。直後、何体もの白いハウンドが姿を現す。
『クソッ!どうなっているんだ!?』
『落ち着け!取り乱したら向こうの思う壺だぞ!』
牽制目的でライフルとマシンガンからビームを撃つも効果なし。命中すると溶けるように消えるだけで、その消えた機体も数秒と待たずすぐに復活する。むしろお返しと言わんばかりに、ライフルを構えて撃ってくる始末だ。それも、シールドに被弾して。
一体どうなっているのかとエマは混乱していると、唐突に通信が入る。
『そのハウンドは特別製だ!聞いた話によると、通常の幻影だけでなく実体のある幻影も作り出せるそうだ!実際に攻撃できる上に本体の位置まで惑わすから、現時点ではどれが本物かは判別できない!!』
「実体のある幻影!?」
『冗談……ってわけでもなさそうだね』
第三兵器工場の技術者であるパーシーからの報告に、エマと隣にいるネヴァンのパイロット――ジャネットは冷や汗を流している。パーシーの言葉が事実なら、数のアドバンテージが意味をなさないからだ。
「でも、ビームまで撃ってますよ!?」
『だから特別製なんだ。その機体には古代遺産――ロレイアの技術が使われている。さすがにミサイルやグレネード等の爆撃物は再現できないそうだが、それ以外は再現可能みたいだ。少なくとも、分身の動きは本人の技量と遜色はないと見ていい』
その報告に対し、ラクーン小隊は逆に希望を見出だしていた。
『だったら持久戦だ!』
『本隊が敵戦力の本丸を叩くまで、防御に徹するぞ!』
『本当にあの機能なら、長時間の使用はできない筈!』
ラクーン小隊は完全な防御態勢となって白いハウンド――ホワイト・ハウンドの攻撃に対応していく。まるで以前から知っていたかのように。
『ちょっと!足を止めたままじゃ、格好の的――』
『致命打さえ貰わなければ、ラクーンの装甲なら耐えられる!』
『敵の狙いがロッドマン中尉の機体なら、下手に分散させる方が危ないからな!』
『ネヴァンとハウンドの小隊は隙を狙って敵機を攻撃してくれ!悪いがこっちは防御で手一杯だからな!』
パーシーの文句を一蹴しつつ、ラクーンたちは盾を構えた状態でマシンガンを連射していく。とにかく弾幕を張り、迂闊に本体が近づけないようにするために。
『本当に対応が早くて助かるよ!できればここで倒したいんだけどね!』
『無茶を言うな、騎士様よ』
『あの機能を使えている時点で、敵は騎士クラスの実力者だ。下手すれば返り討ちで状況が悪化するだけだ』
『ご丁寧な説明、どうもありがとう!』
ラクーン小隊が率先して楯になってくれたことで、ジャネットを含めた機動騎士は視界に入ったホワイト・ハウンドに銃撃を放っていく。分身は耐久力がないおかげで一撃もらうだけですぐに消えていくが、相変わらず本体が何処にいるのかは分からない。
『悪いけどそのまま持ち堪えてくれる?今からアタランテのソフトを書き換えるから』
その状況にも関わらず、ニアスがアタランテのソフトをその場で書き換えると言い出したのだ。一応、ニアスなりの考えがあってのことだが。
『それと、ソフトが完成しても凌ぐことだけを考えるように。間違っても勝とうと考えちゃ駄目よ』
「そんな!?このまま盗まれるのを黙認するんですか!?」
『私だって黙認したくないわよ。だけど、今の戦力じゃあのハウンドには勝てないのよ。パイロットの腕も高いしね』
ニアスの言葉にエマは悔しげに唇を噛み締めるが、ニアス自身もホワイト・ハウンドを諦めなければならない状況に腹が立っている。これがラクーンやテウメッサ、通常のハウンドなら完成したアタランテにも勝算はあった。しかし、ホワイト・ハウンドが相手ではその勝算も潰えている。
元々、機動力に秀でた機体であるハウンドだ。さすがに特殊モードのアタランテの速度には負けてしまうが、通常モードなら追随できるスペックを有している。その唯一勝る点も、データ収集のために搭載された機能によって対抗できる状態。そして、ホワイト・ハウンドを駆るパイロットの腕前はエース級だ。
『とにかく、安全を第一に動くように。今のままじゃ、抵抗らしい抵抗もできないしね』
「……分かり、ました」
ニアスの念押しに、エマは悔しさを押し殺すように頷く。そのやり取りを傍受していたであろう、ホワイト・ハウンドのパイロットが嘲るように介入する。
『本当に無様ね。盗まれた機体にマトモな抵抗すらできないなんてね』
「その声……!?」
聞き覚えのある声に、エマは驚愕の声を上げる。そのパイロット――シレーナは益々馬鹿にしたように声を上げる。
『今頃気づいたの?正義の騎士なんて夢見る小娘は、本当にお馬鹿さんなのね』
シレーナは嘲りながらアタランテに向かってビームを放つ。咄嗟にラクーンが割って入り盾を構えるも、そのビームは実体がないかのように素通り。意表を突くように左からのビームをマトモに受けてしまい、左腕が吹き飛んでしまう。
「この!」
シレーナの挑発で頭に血が上っていたエマは、緩慢な動作のアタランテを無理矢理動かし、ライフルの銃口をホワイト・ハウンドへと向ける。
そこからビームが放たれ、そのビームは真っ直ぐにホワイト・ハウンドへと迫り――装甲に被弾するも貫通することなく弾かれた。
『本当にこの機体は良いわね。重量は変わらないのに強度はレアメタル並み……コクピットの狭さと座り心地以外、実に素晴らしいわ』
仕事が終わったら、シートは交換しよう。そんな呟きを残しながら、シレーナの駆るホワイト・ハウンドは分身と幻影を駆使してエマたちを攻め立てていく。嬲るように、甚振るように、ジワジワと。
アタランテ以外が削られ、確実に死の鎌が迫る状況。明らかに遊んでいるシレーナは、これ見よがしにエマに語りかける。
『本当に無様で滑稽ね。騎士なんて、貴族にとっては唯の使い捨ての駒。都合良く使われ続け、最後には捨てられる道具。理想や夢という決して叶わない幻想を抱く、憐れで惨めな存在。そうは思わないかしら?』
「そんな事……ない!少なくとも領主様……あの人は、騎士を使い捨てなんかにしない!!お前みたいな人の夢を笑う奴が……夢を真剣に叶えようとする人を馬鹿にするな!!」
シレーナの嘲笑にエマは真っ向から反論する。正義の騎士を夢見た憧れの存在を、夢を叶える大変さを教えつつ応援してくれた存在を、馬鹿にされるのは絶対に許せない故に。
『――なら、ここで何も残せず散りなさい』
シレーナはエマの反論にどこか苛立ちの籠った声で返し、ブレードを構えてアタランテへと突撃する。アタランテとホワイト・ハウンドの間にネヴァンが割って入るも――
『同じ手に二度も引っ掛かるなんて、本当に馬鹿ね』
またしても素通り。ネヴァンの背後にブレードを構えたホワイト・ハウンドが唐突に姿を現す。
「大尉さん!」
回避も防御も間に合わない。撃とうにも味方を巻き込む位置。何も出来ないエマは、ブレードに刺し貫かれるしかないネヴァンの未来を幻視し――
その未来は、突然ホワイト・ハウンドを横から穿ったビームによって砕け散った。
「『え?』」
突然の援護射撃に目が点となるエマとジャネット。分身だったホワイト・ハウンドが消えてすぐ、別の機体をレーダーに捉える。
その機体はモーヘイブの改修機【モーヘイブ・グランサ】だ。そのモーヘイブ・グランサに乗っているパイロットは、エマも知る人物だった。
「ラリー准尉!?どうしてここに!?」
『あれに対抗できそうな武器を持ってきただけだよ』
エマの質問にラリーはぶっきらぼうに返しながら、両手に持っていた武器を手渡す。アンティークのような形状の拳銃に半透明の緑色の刃が取り付けられた武器――二丁のガンブレードを受け取ったエマは困惑して武器を見つめている。そんなエマに、ニアスからソフトが完成したと通信が入る。
『これでその子は思う存分動けるわ。例の機能も問題なく使えるし、通用しそうな武器も届けたわ。使いこなせるかは別問題だけど』
ニアスの口振りからして、このガンブレードはロレイアの技術で作られたものなのだろう。オーソドックスなブレードでない辺り、第七の技術傾倒振りが伺える。それでもブレードとして使うには十分ではあるが。
「――いえ、問題ありません」
エマはニアスにそう告げると、生まれ変わったアタランテと共に飛翔する。先程までの鈍重な動きが嘘のように、水を得た魚のようにアタランテは加速していく。
『本当に馬鹿ね。単機で突撃してくるなんてね』
シレーナは小馬鹿にしつつ、分身と幻影を向かわせるが――その分身たちは二丁のガンブレードからの銃撃によってすべて撃ち抜かれた。
『……は?』
シレーナが呆けている間にも、アタランテはホワイト・ハウンドに接近している。目と鼻の距離でようやく我に返ったシレーナは機体を翻してアタランテの突撃を躱すも、完全に避けきれなかったのか、装甲の一部に僅かな切れ目が入った。
『チッ!』
シレーナは舌打ちすると、アタランテに向かってビームを連射する。背後から迫るビームに対し――
「アタランテ――本気で行くよ」
エマはアタランテの特殊機能――《オーバーロード》を発動。今以上の速度となったアタランテは残像を残すかのようにビームを避けると、ホワイト・ハウンドへと再び迫っていく。
シレーナは分身と幻影を駆使して抵抗するも、まるで稲妻のようなアタランテによって分身は悉く霧散していく。今は分身と幻影によって均衡は保てているが、このまま長引けばまだ機体に慣れていないシレーナが不利だ。
何せアタランテには、アヴィドとドレイクのデータが流用されている。アヴィドをベースとし、ドレイクのデータも使ったアタランテは、人型における機動力はトップクラスとなっている。専用機として完成したアタランテと、試験機であるホワイト・ハウンド。その基本的な性能差は歴然というモノであろう。
無論、それだけではない。
(あの小娘の戦い方……明らかに
両手に握ったガンブレードによる戦い方。銃撃と剣撃の使い分けが素人のそれではない。付け焼き刃ではなく、しっかりと地に着いている動きだ。
生身で襲撃した際に見た、エマの二丁拳銃と双剣による二刀流。武器の取り回しは落第ではあったが、単体で見ればそこそこであった。もしあれが銃剣の使用が前提とすれば……不本意ではあるが評価を改めざるを得ない。
しかし、それでも勢いだけだと思い応戦しようとするシレーナだったが、機体からの警告と本隊の壊滅的な被害報告を受けたことで潮時を悟る。
『ここで退かせてもらうわ。精々、騎士のおままごとを続けていればいいわ』
シレーナは捨て台詞を残してその場から離脱する。飛行形態となって次第に遠ざかっていくホワイト・ハウンドを追おうとしたエマだったが、ジャネットによって止められる。
『深追いは危険だよ。それに向こうの目的は君のその機体だ。退いた以上はここまでだよ』
「ですが!アイツに殺された彼らの仇を!」
『気持ちは嬉しいけど、その機会は次に取っておくさ。これ以上仲間が犠牲にならない為にもね』
一番怒りを覚えているであろうジャネットの言葉に、エマは何も言えず口を瞑ぐしかなかった。
機体紹介
ライラプス
アスカの専用機となったハウンドのカスタム機。機体カラーは漆黒。
元は幻影機能をハウンドに搭載する予定であったが、整備班によってロレイアの技術によって進化した幻影機能――《分身機能》が搭載されている。
この分身機能は実体を有しており、攻撃することが可能。数の上限もないので、エンジンが耐えられる限りは数十体の分身も理論の上では可能となっている。
武装は分身機能の特性を考慮して近接重視。射撃兵装は機首のビーム砲のみに留めている。
ホワイト・ハウンド
ロレイア技術を利用した機能などをテストするために調整された試験機。機体カラーは白。
試験機とあって性能自体はハウンドと差はないが、ロレイアの技術が組み込まれている為、試験機にも関わらず強力な機体となっている。
テウメッサの幻影機能とライラプスの分身機能を敢えて複合させ、リミッターを組み込んだことで量産機での運用を可能としている。リミッター自体は解除可能。
装甲もロレイアの技術により、通常の金属でありながらレアメタル並みの強度となっている。その為、機動力が低下することなく防御力が大幅に上昇している。
襲撃時にシレーナによって奪取されてしまい、以降は彼女の機体となる。