オレは本物の宇宙海賊! 作:パイレーツ
医師に理不尽に説教された翌日。
「やっぱり、ドレイクは工場に持ち込まないとダメか」
「ああ。動力部もガタがきてるし、代用できる予備パーツもないからな。元々が色々と後から付け足したり、無茶な改造をした機体だ。いつかはこうなると予想していたけどな」
ウチの整備士長の厳しい言葉に、オレはガックリと項垂れる。整備士長が指摘した通り、元々ドレイクは中古の機動騎士を原型がなくなるほど改造した機体だ。四つの爆破式のブースターは完全に外付けだし、両腕の内蔵式アンカーガンもかなり強引だったし。更に内部フレームにも手を加えて無駄機能を追加したりと、文字通り原型がなくなっている。
そんなかなり無理な改造を施した機体だったから、アシストやオートバランサーが無用の長物となって外したんだよな。いや、最初から外すつもりだったけど。レイジャー船長もそうだったし。
「もういっそ、一から作った方がいいんじゃないか?一応、金はたんまりあるだろ?」
「そうは言うが……相場が分からないんだよな。間違いなくワンオフ機になるから、蹴られる可能性が高いし」
そもそもの話、最新の機動騎士を買えるかすら分からないんだ。大抵の工場は国家のお抱えだし、無所属の船団が買える機動騎士は型落ちの量産機が限度だ。
「その辺は本当に辛いよな。この船も戦艦とはいえ、型落ちの中古品だからな」
「無駄に大きいし燃費も悪いけど、アレらのおかげで解決しているからいいだろ」
デカイ船に乗って宇宙を巡るのは浪漫だからな。偽物の宇宙海賊のように数を揃えて率いるなど論外だ。
「それはそうだが……アレらがなかったら、ワシらはとっくの昔に海賊に沈められているぞ」
「あいつらは海賊を名乗る強盗だ。断じて海賊ではない」
アイツらが夢と浪漫の溢れる宇宙海賊のわけがない。宇宙海賊を名乗る、卑劣な強盗共だ。整備士長はやれやれと首を振っているが、揺るぎない事実だから絶対に認めない。
「……話を戻すか。どっちにしろ、予備の機動騎士を使ってドレイクを作り直すしかないか」
「簡単に言うなよ船長。それ以外の手がねぇのは確かだけどよ」
整備士長が溜め息を吐いているが、こればかりは仕方ないからな。
「そういや話は変わるが……ロイネの嬢ちゃんはこれから、どうするんだろうな?」
「船から降りるんじゃないのか?仇のゴアズは死に、姉とも再会できたんだ。一緒に暮らしたいと考えるのが普通だろ」
実際、姉の見舞いに今日も行ってるし。戦闘員兼整備士として働いていたから、騎士としても技術者としても生きていけるしな。学校に通って資格を取得しなければ駄目だけど。
「……寂しくなるな」
「そうだな。だが、仲間の新たな門出を祝うのもまた、海賊だからな。その時は、笑顔で見送ってやるさ」
「クソッ、リアムめ……私をどこまで苦しめるつもりだ……!」
黒いシルクハットに黒いスーツを着用した人物――案内人は憎々しげに声を発する。
案内人は負の感情――憎悪や怨みを喰らい、己の糧と力にすることができ、逆に感謝の念は猛毒となる。
何を隠そう、リアムが悪徳領主として生きる切っ掛け――前世における理不尽な不幸は全て、この案内人が裏で仕組んだことなのだ。そして、今世でもリアムを不幸に導こうと暗躍したのだが……案内人にとって歯車の噛み合いが悪かったのか、リアムは案内人の目論見とは真逆の幸せな人生を送り、感謝の念を飛ばしまくっているのだ。
「何としてもリアムを不幸にし、苦しみを与えなければ……!」
感謝の念による全身を焼かれる痛みに耐えながら、リアムの現在の状況を確認していく。そこで、型落ちの戦艦に目が止まった。
「何だ、これ見よがしに骸骨のペイントが描かれた戦艦は……?海賊だとしても、完全に世代遅れの骨董品じゃないか。それがリアムの近くに……」
その瞬間、案内人は思い付いた。
「そうだ。この戦艦を乗員ごと、リアムへと押し付けてやる。このような骨董品のお荷物を抱えれば、リアムとてストレスを覚える筈だ」
世代遅れの戦艦は性能はもちろんのこと、エネルギーの燃費も著しく悪い。さらに無駄にデカイから維持するためのコストも余計に掛かる。乗員ごと押し付ければ勝手に処分できず、金食い虫の負債を抱えることとなる。
仮にリアムが乗員たちを不遇に始末しようと、始末された者たちの怨みの念を喰らえば回復できる。考えれば考えるほど妙案だと感じた案内人は、早々にリアムにその戦艦と乗員との因果を結び付けることにした。
安易に切れないよう、強固に、頑丈に。むしろ、切るに切れない縁とするために。
「些細なものにしかならないだろうが、少しでも不幸を感じろ。リアム!!」
「あのドクロのペイントに目を奪われていたが……アイツらの船は結構大きいな」
「他国の国の中古の戦艦ですね。三世代も前の船ですので、性能は現行の物より大きく劣っています」
中古の戦艦って……そこら辺の海賊ですら、それなりの性能の船を有しているんだぞ?本物の海賊を自称している割には情けなくないか?
「《クラーク船団》はどの国家にも所属していません。当然ながら、船や機動騎士の購入には制限が掛かっています」
クラーク船団……それが表向きの呼び名か。
「天城、《クラーク船団》はどんな集団なんだ?」
「一言で申し上げますと……変わり者の冒険者集団でしょうか。財宝の発見や海賊の討伐など、それなりの功績が存在しますが」
型落ちの戦艦一隻で海賊の討伐、か。奴のあの実力なら、不可能じゃないだろうな。
「後、これはあくまで噂なのですが……《クラーク船団》は過去に存在した、機械大国の遺産を所持しているそうです」
「機械大国の遺産?錬金箱のような特別なアイテムを連中も持っているのか?」
「あくまで噂ですので真偽は不明ですが、一番多く囁かれているのが相手の攻撃だけを防ぐ強固な防御障壁展開装置と、無限にエネルギーを生み出す稼働機関ですね」
「なにそれ!凄く欲しい!!」
相手を一方的に攻撃できるようになる障壁と、無限にエネルギーを作り出せる機関なんて、悪徳領主たる俺に相応しいものじゃないか!相手を一方的に蹂躙する……これぞ正に、理想の悪徳領主だ!
「そうと決まれば、奴らからその二つを力ずくで奪ってやる。アイツらは海賊と自ら名乗っていたから、何も問題はない」
「それは止めた方がよろしいかと。本当に所持しているかも不明ですし、本格的に敵対するとなれば、かなりの被害が出ると予測されます。特に《艦斬のクラーク》が相手では、無傷では済みません」
「《艦斬のクラーク》?アイツはそんなに強いのか?」
確かに俺と真正面から戦えたのは、あの男が初めてだ。だが、そんなに警戒するほどの奴なのか?
「《艦斬のクラーク》。その実力はとても高く、数分で戦艦を十隻以上撃墜。精鋭の騎士でさえ歯が立たず、剣聖に迫る程と噂されています。生身の方も同様であり、その武勇から帝国も含めた多数の国家から仕官の勧誘を何度も受けています。その全てを蹴っているようですが」
「成程。つまり、俺も奴と同等の実力があるということか」
「それに関しては否定させて頂きます。クラークは独特の剣術だけでなく、引き出しの多さにも定評があるようです。そもそも、旦那様は殺すおつもりだったのに対し、あちらはその気がありませんでした。むしろ手心のある相手に引き分けに終わった時点で、旦那様の負けも同然ではないでしょうか?」
「グッ……」
確かに天城の指摘通り、俺は奴を殺すつもりでいた。それに対してアイツはコクピットを明確に避けていた。確かに手心のある相手に引き分けで終わったら、負けたも同然かもしれん。
「ちなみに、無理矢理手中に収めようとした者もいたそうですが、艦隊ごと見事に返り討ちにあったそうです。それも無力化だけで」
「クッ……だったら金だ!金を出せば、目が眩んで売るだろ!!」
力で強引に押さえつけられないなら、向こうが求める金を出せば売るはずだ。幸い、今の俺には錬金箱で幾らでも財を生み出せるからな。
「それも現実的ではありませんね。第一、金に目が眩んで売るのであれば、とっくにお売りになられているでしょうし」
「うぐぐ……確かにその通りだ」
俺の提案が天城によって潰されてしまうが、正論かつ事実だから否定しようがない。
だが、このまま引き下がるのは悪徳領主としての沽券に関わる!何かいい案は……
「そうだ!仮にも船団なら契約を結べばいい!契約して首輪に繋げて、使い潰せばいける筈だ!」
「契約ですか?確かに内容次第では不可能ではありませんが、あちらが結ぼうと思えるだけの報酬が前提となります」
報酬か……単純に金を出すか?それとも地位か?何を出せば奴に首輪を付けることができる!?悪徳領主が示すに相応しい報酬は、何だ!?
「ん?」
「船長。どうかなされましたか?」
「何か背中から妙な違和感が……」
「船長の背後には何も存在しておりません。気のせいというものではないでしょうか?」
男性型アンドロイドの
「功刀、《ダイモン》と《メビウス》の調子はどうだ?何か問題は起きていないか?」
「どちらも問題なく稼働しておられます。《ポータル》の方も異常はありません」
「《ポータル》は船員の里帰り程度にしか使ってないから当然として……《ダイモン》と《メビウス》は常時稼働なのに安定しているんだな」
「かつての機械大国の遺産ですので当然かと」
確かにその通りだと、オレは肩を竦める。
《ダイモン》に《メビウス》、《ポータル》の三つの大型装置は、とある廃退した惑星で見つけたオーパーツだ。
《ダイモン》は現行の防御フィールドを遥かに凌駕する防護装置であり、表面に薄く展開するだけでも、ミサイルやレーザーを一切受け付けない。しかも劣化まで防いでくれるオマケ付きだ。これのおかげで中古の戦艦でも、墜とすのが困難な戦艦に早変わりだ。その分、維持だけでかなりのエネルギーを消費するけど。
《メビウス》は一度稼働すれば、エネルギーを上限なしで生み出し続けてくれる半永久機関だ。これ一つあれば光学兵器、防御フィールド、艦内の設備、戦艦の燃料全てを賄える。どれだけ燃費が悪くても、半永久機関のおかげで問題になっていないのだ。起動するには大量のエネルギーがいるし、出力調整をミスればエネルギー過多となって大爆発を起こすけど。だから功刀を筆頭とした、アンドロイド十体によるローテーションによるシフトで運用している。計算は機械の得意分野だからな。
《ポータル》は単機での超長距離ワープが可能となる転移装置だ。本来、超長距離のワープにはゲートが必要なのだが、これのおかげで座標さえあえば、数分で国境越えも可能なのだ。食料が尽きれば、これを使って近くを通った惑星にすぐに行け、補充が可能でとても便利なのだ。ワープに使うエネルギーも膨大で、搭載した船への負担も大きく、《ダイモン》と《メビウス》がなければ使うことすらできなかったけど。
「おかげで航海自体は問題ないからな。少しスリルが減ってはいるけど」
「自ら危険に踏み込む意味があるとは思えませんね。そもそも、戦艦のエンジンは年季が入っています。一度でも壊れれば、エンジンそのものを交換するか、新しく戦艦を購入するかの二択しかありません」
「厳しい現実的な意見をありがとう」
功刀のド正論が痛い。事実だから余計に。
ドレイクの件もあるからどうしようかと本気で頭を悩ませていると、艦橋から通信が届いた。
「副長?何かトラブルでも起きたのか?」
『いや、トラブルじゃねぇ。例の伯爵が船長に話があると連絡を寄越して来たんだ』
「バンフィールド伯爵が?」
一体どんな話なのかと、オレは検討が付かずに首を傾げるのだった。
俺が呼び出すと、クラークはそう時間を掛けずに来た。自ら赴かず、こちらへと呼び出す……この傲慢な対応も、悪徳領主らしい行動だからな。
「いきなり呼び出すとか驚きだな。話ってのは一体なんなんだ?」
「随分と不遜な態度だな。俺の気紛れ一つで首が飛ぶかもしれないんだぞ?」
「畏まった態度が好みなのか?伯爵は媚びを売っても対応は変わらないだろ?むしろ胡散臭く感じるんじゃないのか?」
ククク、意外と分かっているじゃないか。そんな奴に首輪を付けられるかと思うと、実に気分がいい。
「その態度も今は目を瞑ってやる。お前、俺と契約を結ぶ気はないか?」
「契約?」
「ああ。天城、契約の内容を見せてやれ」
「はい。こちらが契約の内容となります」
天城に指示を出してその契約の内容をクラークに提示する。
内容は俺がお前たちのスポンサーになってやること。戦艦と機動騎士に関する費用はこちらで負担し、定期的な顔出しの報告と手に入れた財宝の半分以上を献上。要請に応じるなら、不利益にならない限りは基本的に自由に行動して良いというものだ。天城にも確認させ、問題ないと太鼓判を貰った、こいつらを都合よく利用できる契約だ。
俺が実質報酬として支払うのは最初のみ……顔出しの報告という都合上、連中はそう遠くへは向かえない。その後の報酬は成果次第と明記してあるから、ゼロであっても抜かりはない!!
「この定期の報告は誰にすればいいんだ?伯爵は当然として、天城殿かブライアン殿への報告でも大丈夫なのか?」
「そうだな。俺か天城のどちらかに報告してくれれば問題ない」
「それ以外は……本当に、この条件でいいのか?」
「ああ。後から契約の変更をする気はないぞ」
お前たちが後から詐欺だ、騙したとかほざいても契約内容を変える気は欠片もないからな。尤も、この馬鹿なら絶対に乗る提案も明記してあるからな。
その提案は、“可能であれば、本物の海賊について言い広める”だからな!この奴にとっての魔法の言葉があれば、深く考えることなく契約に乗るだろうからな!!
クラークは契約書とにらめっこして数分、口元を緩めて俺の顔を見た。
「いいぜ……この契約、乗った!!」
思った通りのクラークの反応に、俺は笑わずにはいられない。精々俺の為に、使い潰されるがいい!!
「船長、本気で契約するんですか?もう契約してますけど」
「ああ。この契約は互いに利益があるからな」
副長が呆れているが、バンフィールド伯爵改めリアムの大将が持ちかけた契約は、本当に見事なものだからな。
「定期的に報告さえすれば基本は自由に動けるんだ。見つけた財宝の献上も、戦艦と機動騎士の負担を考えれば妥当だし、その後の報酬も成果次第なのも悪くないしな」
「それ、成果なしだと難癖付けて払わないことにならないか?」
副長の厳しい指摘は尤もだ。過去にもオレたちに契約を持ちかけた者もいて、その内容はあまりに都合が良すぎたり、信憑性が低いか魅力がないかのどちらかだった。
「仮にそうだとしても、大丈夫な契約だったからな。実質、今までの生活にバックが付く程度だし」
「この定期の顔出し報告は?普通なら明らかに不利益だぞ?」
「たぶん、大将はアレらの存在を嗅ぎ付けた上で記載したんだろうな。本当なら新たな資金稼ぎの一つに、仮に間違いでも損するのはオレらだけだから、大将の懐は少しも痛まないからな。あっても最初だけだ」
むしろ、真偽を確かめる意味もあってあの契約を持ちかけたんだろうな。大抵の輩は露骨に聞いてきていたが、大将は契約という形で確かめようとした。断れば嘘、乗れば事実とハッキリするからな。
「若くして領地を立て直した名君は、伊達でないということですか。本人の実力も相当ですから、もしかしたら時代の申し子かもしれないですね」
「ああ。今まで応対した貴族の中では異端の中の異端だよ、大将は」
それに、“可能であれば、本物の海賊について言い広める”と記載もされていたからな。個人的には本当に素晴らしい提案だ。さすがに船員たちのことを考えて、それだけで判断するわけにはいかないが。
「どちらにせよ、これから大忙しですね」
「ああ。先ずは第七兵器工場だな。大将と天城殿の紹介で、購入の制限もクリアできたからな」
第七工場の座標も貰ったから、直ぐにでも向かえられる。そこでドレイクの修理と、戦艦の動力機関の交換をしてもらう予定だ。
「出発は明日。急ではあるがロイネにどうするか聞かないとな」
「最低でも此処に残るか、一緒に来るかだけハッキリさせませんと。正式に降りる降りないは別として」
間違いなく別れることになるだろうなと思いつつ、オレと副長は船へと戻るのだった。
「え?一緒に着いていきますけど?お姉様と少し距離を置いた方が良さそうですので」
「……そうか」
目から光が消えたロイネの反応に、オレは何とも言えない気持ちとなった。