オレは本物の宇宙海賊! 作:パイレーツ
『伯爵様から話は既に聞いていますが、本当にすぐに来られるんですか?』
「ああ。数分程度でそちらに到着できる。不都合なら時間を掛けて向かうが」
通信であの時の眼鏡を掛けた女性――ニアス中尉の当然の問い掛けにオレはそう返す。
リアムの大将から既に第七兵器工場の座標は貰ってるし、大将から話が通っているニアス中尉の都合さえ良いなら何時でも行けるからな。
『伯爵様の領地からウチの工場ですと、結構な距離なんですけどね。本当に来られるなら、すぐにでも歓迎しますよ』
「了解した。今すぐそちらに向かう」
ニアス中尉は半分信じられないながらも、すぐに受け入れると了承した。言質を取ったオレはニアス中尉との通信を切ると、すぐに船員たちに指示を飛ばす。
「これより《ポータル》を起動。到着地点の座標地点入力。同時に《ダイモン》と《メビウス》の出力上昇を通達。機関部との連携を怠るなよ」
「了解。艦橋より機関部へ。これより本艦は《ポータル》による長距離ワープに入る。《ダイモン》並びに《メビウス》の出力の上昇を要請。《メビウス》はエネルギーの消費量に合わせて調整せよ」
『畏まりました。《メビウス》の稼働率を上昇。同時に《ダイモン》の出力も上昇、《ポータル》へのエネルギー供給も開始します』
機関部の功刀が淡々とした口調で応じ、低出力で稼働していた《ダイモン》と《メビウス》の出力を徐々に上げていく。急激に上げるのはとても危険だから、緊急時以外では絶対にしない。
「《メビウス》から《ポータル》へのエネルギー供給を確認。ワープアウト先の座標地点も入力確認」
「《ダイモン》の出力上昇。被膜展開中のシールドを更に展開。それに伴いエネルギーの消費量も増加」
『《メビウス》の稼働率を更に上昇。消費量に合わせ、常に調整いたします』
「シールドの多重展開完了。《メビウス》からのエネルギー供給も《ポータル》と同じく安定。長距離ワープにおける、すべての準備の完了を確認。いつでも出発できます」
「了解した。これよりカウントダウンを開始する。五……」
すべてのシーケンスが滞りなく完了し、最後の役目であるカウントダウンを唱える。タイミングを合わせるのに、カウントダウンは最適だからな。後、カッコいいし。
「……二、一、ゼロ!ワープドライブ、開始!!」
「ワープドライブ、開始!」
水色のワープゲートが正面に展開されると同時に、ワープゲートは戦艦に迫るように移動。戦艦は宇宙からワープホールへと移動する。
「《ダイモン》のエネルギー消費量、増加」
『《メビウス》の稼働率、上昇。現状維持を優先、継続します』
「目標地点到達予定まで、残り三分」
「観測は常に継続。異常があればすぐに報告せよ」
何も起きなければ三分ほどで目的地に到着する。ホント、自由に遠出できるのは素晴らしい。
ま、《ポータル》を使うのは里帰りと大将への顔出し報告くらいだけど。冒険の船旅は過程も重要だからな。
「あちらは驚くでしょうね。連絡してすぐ来るんですから」
「その辺も大将から伝わってるだろ……たぶん」
「なぜたぶんなのですか」
「何となくだが、大将は相手の反応を楽しむタイプの気がするからな。笑い話の範囲内で」
それに、あの尊大な態度は妙に意識している気がするし。相手から舐められない為にも必要なんだろうが。
「それより、ロイネの方が意外だったな」
「てっきり降りると思っていたのですがね。話を聞いて納得しましたが」
昨日ロイネに姉のクリスティアナと何かあったのか副長と一緒に聞いたら、これが本当に酷かった。
リハビリを終えたら大将への仕官を希望すると語った。これは分かる。
大将への恩は必ず返すし、生涯を捧げて忠誠を誓うと宣言した。これも理解できる。
隙あらば、姉妹揃って大将の子を宿して一緒に育てようと誘われた。これが意味分からん。
姉妹揃って大将の子を宿すって何?ロイネの意思をガン無視しているよな?姉としてどうなんだ。マジで。
他にも色々と姉の酷い面を見たせいで、ロイネの中の高貴かつ高潔な姉のイメージが音を立てて崩れたそうだ。それは本当に同情する。
そんな姉の見たくなかった姿を別の意味で見たため、ロイネは反射的に距離を取ることを選択してしまったのだ。ちなみに、クリスティアナから恨み節の通信がオレへと叩き込まれた。
あれは本当に怖かった。片言でコロスと終始連呼していたし。本当にホラーだったよ。すぐに切っても何度も寄越してきたし、通信拒否してもあの手この手で繋げてきたからマジで心臓に悪かった。
「経緯が経緯だから、大将を信奉するのは分かるが……」
「妹さんを巻き込むのはさすがにやり過ぎと思いましたよ。時間が経てば落ち着くと思いますが……」
副長の言葉通り、落ち着く……かな?落ち着いた姿が全然浮かばないんだよな。過激なところしか見てないから。
「船長。そろそろ目標座標地点へと到達します」
そうこう話している内にワープホールから抜け出そうだな。雑談はここまでか。
「目標地点に到達してすぐ、《メビウス》の出力を落とせ。《ダイモン》もエネルギーの供給量に合わせて下方へと調節せよ」
「了解。艦橋から機関部へ通達。ワープホールを抜けてすぐ、《メビウス》を通常運用へと切り替えよ。《ダイモン》もエネルギー供給量に合わせて調整。消費と供給のバランスを維持せよ」
『畏まりました』
指示を終えてすぐに戦艦はワープホールを抜け、第七兵器工場がある宙域へと到着する。諸々の作業を終えて通常運航へ移行すると、ニアス中尉から通信が入った。
『ほ、本当にすぐに来られましたね……ワープでもそこそこ掛かると思いますが……』
「そこは一応は秘密ってことで。広まったら広まったらで面倒だからな」
実際、過去にも強引に手に入れようとした傭兵団や軍隊、騎士団、強盗団が多数だったからな。軍隊と騎士団は無力化で済ませ、傭兵団と強盗団は壊滅まで追い込んだが。
勧誘の件は……あれが一番思い出したくないな。男が男の遺伝子を欲するってなんだんだよ。仕官が嫌なら、代わりに遺伝子を寄越せってどうなんだ。彼処には二度と行きたくないと本気で思ったよ。それに、あの国には悪い意味で目を付けられてるだろうから、近くを通るだけでもマズイし。
とにもかくにも、入港してニアス中尉と対面する。
「会って早速だが、こちらの依頼を受けてくれるか?ニアス中尉」
「もちろん可能な範囲でお受けしますよ。それにしても……服装だけ見れば、宇宙海賊ですよねー」
「……そう!オレは浪漫を求めて宇宙を旅する宇宙海賊!まだ見ぬ惑星と、財宝を求めて突き進む大海賊!!略奪を繰り返す宇宙海賊を名乗る偽物たちとは違う、レイジャー海賊団と同じ本物の宇宙海賊団!!その《クラーク海賊団》を率いるキャプテン・クラークとは、このオレだ!!」
ニアス中尉の指摘にオレは盛大に口上を述べ、決めポーズを取る。腰に手を当て、天を指差すその姿は、まさに大海賊だからな!!
そんなオレの満を持した自己紹介に対し、ニアス中尉の反応は冷やかだった。
「……あの、すいません。この人、頭がおかしくないですか?」
「気にしないでくれ。船長はいつもこんな感じだ」
「昔の娯楽小説の内容を事実だと信じて疑わない船長ですが、人柄は確かなので」
「馬鹿船長の海賊の認識は無視して頂いて大丈夫です」
副長、整備士長、ロイネの呆れた物言いがグサグサ刺さる。ニアス中尉の視線も可哀想なものを見るアレなのも、余計に心に突き刺さる。オレの味方が誰一人としていない!!
「本物の海賊を広める道は、本当に遠い……!だが、オレは決して諦めないぞ!!」
「んー……伯爵様もですが、この人も相当変わってますね」
「海賊以外では比較的マトモですから、すぐに慣れるさ」
周りに冷たい対応に涙を流しながらも、ニアス中尉をドレイクの下へと案内する。ドレイクの惨状を見たニアス中尉は、難しい顔で告げた。
「このドレイクでしたっけ?もう修理するより作り直した方が早いですよ。他国の旧式の機体ですから、使えるパーツが少なすぎるので」
とてつもない正論、どうもありがとう。
「じゃあ、外観と構造はそのままで新しく作り直してくれ」
「何さらっと無茶な注文しているんですか!これを参考に一から作るとか、冗談にしても酷すぎますよ!」
悪いけど、冗談でもなんでもないんだよ。愛着だってあるんだし。
「特にここ!ここの構造が意味不明ですよ!これのせいで、フレーム全体の強度が落ちているんですよ!特に腰の箇所が致命的です!!下手したらポッキリ折れますよ!?関節だって、本来ない駆動箇所が追加されてますし!!」
「浪漫ある構造だ。レイジャー船長の駆る機動騎士も、同様の構造だからな」
「現実と空想を一緒にしないで下さい!!」
ニアス中尉が吠えたてるが、結構重要な構造なんだ。アレを普通に使うと、関節がすぐに壊れて駄目になってしまうからな。
「諦めてくれ、ニアス技術中尉」
「馬鹿船長の馬鹿さ加減は今に始まったことではないので。私達もお手伝いますので頑張って下さい」
「ドレイクのデータはあるから、手探りでやるよりはずっとマシだし、な?」
副長たちの説得を受け、ニアス中尉は渋々ながらデータを受け取って中身を確認していく。この対応の差にまた泣きたくなるよ、うん。
「……これで本当に動かせるんですか?アシストやバランサーが仕事してくれるかさえ、怪しいですよ」
「それ、全部取ってるから」
「むしろ重りにしかなりませんよ。この機能も完全に手動ですし」
「ええ~……それで本当に扱えていたんですか?かなりの操縦技術が求められますよ?」
「ちなみに映像データがこちらです」
ロイネが端末を操作して映像データを表示すると、やる気なさげだったニアス中尉の顔が急に生き生きしだした。
「何これ!?現行の機動騎士が出せる速度を優に超えてるじゃないですか!いや、操作がシンプルになる分、速度を出せやすくなってる……?」
「様々な要素が奇跡的に噛み合わさった結果ですので。一つでも狂えば金属の塊です。例えばこことここが……」
ロイネがドレイクの詳しいデータを提示しながら、ニアス中尉に説明していく。最初は何も分からずアタフタしていた彼女だが、今は一人で機動騎士を整備できるまでになっているからな。
そこに整備士長も加わり、ドレイクについて詳しく掘り下げられていく。
「四つのブースターは通常のものと、爆破を利用した瞬間加速の二系統の切り替え式……空間魔法の使い方といい、本当に色々と詰め込んでいますね」
「何度も作り直し、改良を繰り返した結果だな」
「おかげで整備も一苦労です。整備の度に、パーツとにらめっこでしたし」
「代用品の繰り返しだからな。何度もとっかえひっかえしてりゃ、こんなゲテモノにもなる」
「ゲテモノじゃない。本物に近づいたの間違いだ」
オレなりのアレンジが加わっているから純正な本物ではないが、レイジャー船長は憧れであって、本人そのものになれるわけじゃないからな。
「ちなみに例の機構を組み込んだ一番の理由は……これです」
ロイネはそう前置きして、ある映像を見せつける。その映像は戦艦が数隻同時に沈められる瞬間だった。
「……え?これは何かの間違いですよね?ただの演出ですよね?」
「信じられないでしょうが、紛う事なき事実です」
「これを本来の方法で放つと、関節がすぐに駄目になるんだ。それもヒビじゃなく粉々で、だ」
ウンウン。生身では問題なく放てるし、応用も一応効きはするんだけど、オーバーキルなんだよな。それでもレイジャー船長にはまだ及ばないけど。
「普通に関節の強度を上げれば良かったんじゃないですか?」
「最新式ならそうでしょうが、生憎旧式のみでしたので」
「海賊……強盗団の機動騎士も、技術流出の防止目的から旧式以外は軍に回収されていたしな」
「船長があれだから……下手にごねると強盗認定だったので」
「うーん……海賊を名乗るわりに、全然海賊らしくないですね」
「否!これが本当の宇宙海賊なだけだ!!あんな強盗や傭兵崩れは断じて宇宙海賊ではない!!」
宇宙海賊を自称する輩の中には、軍から脱走した者もいる。そんな戦闘訓練を受けた者たちまで宇宙海賊を呼称して、略奪を繰り返すのだから本当に最悪だ!!
「宇宙海賊云々は一先ず置いておくとして……このデータを参考に作ってはみますね」
「本当にいいのか?他にも仕事があるんじゃないのか?」
「最悪、私達だけでも進めますので……単純に設備と道具が足りないだけですし」
整備士長とロイネの言葉に、ニアス中尉は難色を示すように眉間にシワを寄せている。そこに工場のスタッフが割り込んで来る。
「流石に冗談でも笑えないぞ。こんなガラクタの機体を整備していた程度じゃ、高が知れているし」
……ガラクタ?ドレイクが?
「お前、オレのドレイクをガラクタと言ったか?オレのドレイクがどれ程素晴らしいか、半日……いや、丸一日かけて説明してやる」
本当なら拳で語り合いたいところだが、その辺りの分別は弁えているからな。そうでなきゃ胸ぐらを掴んでいたところだ。
「ちょっ、目が怖い怖い!怖いって!ガラクタと言って悪かったから、頼むから下がってくれ!」
一応は謝罪したので、オレは素直に引き下がることにした。印象は下がったままだが。
「ま、滞在中は荷物運びとかできる範囲で手伝うさ。だらけていると駄目になるし」
どちらにせよ、年単位での滞在だ。金はあるし、腰を据えて気長に待つさ。
「ロイネの嬢ちゃん。アレを頼む」
「分かりました。こちらはアレに取り掛かりますね」
「ああ。それが終わったらこっちを頼む」
私と整備士長さんは現在、第七兵器工場のスタッフさんたちと一緒に、新たな馬鹿船長の機体【ドレイク】の開発に着手しています。今までは限られた道具と資材でやりくりしていましたが、ここでは両方とも豊富ですからね。本当に作業が捗ります。
「なあ、あの二人、やけに仕事が早くないか……?」
「特にあの子なんて、教えたらすぐに吸収しているんだぞ?」
「普通に専門知識も理解できてるし、本当にどうなっているんだ?」
もちろん整備士長さんや専門書から学んだからです。教育カプセルは諸々の理由で使いませんでしたが。
私がこの船団……クラーク船団で整備士としても働いたのは、合法的に機動騎士に乗れるからです。動作確認と証して、戦闘訓練以外で練習できるからです。おかげでアシスト機能なしで動かせる程、操作技術は上がりました。剣の腕前はまだまだですが。
それでも、ティアお姉様のような姫騎士になりたいと夢見ていましたが……その夢はお姉様によって砕かれました。
仕官はまだしも、一緒にリアム伯爵様の子を身籠ろうって何なのですか!?それも一度も見たこともない、息を荒げた危ない表情で提案するだなんて!あの優しく、素敵だったお姉様は何処に行ってしまわれたのですか!?馬鹿船長に向けていた海賊憎しはまだしも、あの顔で子作り発言は酷すぎます!
ああ、お父様、お母様、お兄様……お姉様はこの数十年で見事に変わられてしまいました。外見ではなく中身が。
「嬢ちゃん?急に泣き出したりしてどうした?」
「大丈夫です。お姉様の変わり様を思い出しただけですので」
「そ、そうか……」
整備士長さんが少し引いていますが、今は目の前の仕事です。ドレイクは継ぎ接ぎで作ったも同然ですから、純正な機動騎士ではありません。ニアスさん曰く、ドレイクと同じ構造の純正品で稼働テストをしなければ、細かな問題点を洗い出せないとのことです。なので、こちらの中型の量産機をドレイクと同じ構造に改造している最中です。
「あの、あれのブースターは……」
「今回はそのまま利用して取り付ける。新造するにせよ、再利用するにせよ、もっとデータがないと判断できないんだろ?」
「あの、そこを弄ると効率が……」
「ここを弄らないと、全体に不具合が出ますので。後、ここをこう弄れば、落ちた効率を取り戻せますよ」
「な、なるほど……そのようなやり方が……」
第七の皆さんが狼狽えていますが、これは慣れているかいないかの違いですので。馬鹿船長の呆れた要望に、付き合い続けた結果とも言えますが。
「うわぁ。本当に仕事が早いですね。最初は不安でしたが、協力してくれて大助かりですよ。いっそ、ウチに来ませんか?」
「ハハ、美人さんの誘いは嬉しいが、遠慮させてもらうぜ」
「私も同じく、ですね。ちなみに軽量の装甲はありますか?可能な限り、オリジナルに近づけたいので」
私と整備士長さんが勧誘を断ると、ニアスさんは涙目でしたが答えは変わりません。馬鹿船長はどうしようもない馬鹿ですけど、本当にいい人なので。
「ヤバい。俺たちより技術も知識もあってヤバい」
「立場が逆転してる。これは本当にまずい」
「下手したらアヴィドの改修にも……」
「せめてアヴィドだけは、第七だけの手でやるぞ!」
「「「「「おおッ!!」」」」」
「あの、ロイネさん、でしたっけ?そんなに汗をかいて暑くないですか?上を脱いだ方が……」
「上は脱ぎません。絶対にです」
「ア、ハイ」
例え祖国が滅ぼされても、私は王族ですので。肌を無闇に晒す姿になるつもりはありません。
スタッフさんの一人にそう返していると、私の持っている端末に連絡が来てますね。一体誰からでしょうか?
『ロイネ!?今どこにいるの!?あの男から酷い目に遭わされてないわよね!?』
…………。
「……お姉様?何で私の端末の連絡先を知っているのですか?まだ、教えてなかった筈ですよね?」
『あなたの持つ端末の連絡先を知ることくらい、造作もないわ!それよりも、昨日話したリアム様との――』
お姉様の話を最後まで聞くことなく、通信を切りました。同時に拒否もしておきます。今は作業に忙しいので。
後、私の連絡先を教えたであろう馬鹿船長とはお話ですね。