世界平和になった後のアスランとミーア、二人の後日談的な感じで……もし良ければ!
今回もグラニュー糖さんより表紙イラストも依頼しました
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俺達の暮らす世界は戦乱と混沌の中にあった。
地球とプラント──宇宙との対立はもちろん、邪魔台国、ダリウス軍、擬態獣にヴァジュラ……そして別世界から来たセントラルに、GreAT。強大な脅威、世界の危機が何度も襲った。
けれど様々な組織、人々を守り平和を望む者達が手を結び、それに対抗した。
──『LOTUS』、世界を守るために結成された組織。俺もザフトの軍人であるとともに、その一員だった。
強大な敵を倒し平和になった今、LOTUSも解散し、仲間もそれぞれの道に戻って行った。
俺は──。
────
「やぁアスラン、その軍服も大分様になって来たじゃないか」
地球にある島国国家、オーブ。
その元首となった俺の大切な人、カガリと夕食をとっていた。場所は都市部高層ビル上階にある高級レストラン。彼女は元首で俺は軍の准将だ。それなりの所でなくてはいけない。
「おかげさまでな。オーブのために、そしてカガリの力になれていれば俺も嬉しい」
俺は彼女に微笑む。あの戦いの後、俺はオーブに移り国の復興と世界平和に尽力していた。
「おかげで私も助かっている。──国のために、力を貸してくれて有難う」
カガリもふっと口元を緩める。
それから二人でのディナー。
最近の近況と、それぞれの職務、国の行く末について話しながら。
「──カガリは本当に一生懸命なんだな。オーブのために尽くしているのが分かる」
「もちろん。それが私にとっては……何よりもかけがえのないものだ。国も、そして国民も全て」
「……そうか」
俺はそれを聞いて少し沈黙する。
「カガリ、『彼女』のことは前に話しただろう。君は……本当にいいのか? 今なら俺もまた考え直して──」
「はははっ、バカを言うな」
冗談みたいに笑って、カガリはフォークでスパゲティを巻く。
そして窓からのぞくオーブの街の夜景を眺めながら言った。
「私にはこの国がある、それにまだまだ未熟だ。私には国を導く責務とアスラン、お前との両立は出来ない。
すまない。私もアスランが大切な人な事には変わらない。けれどこれが私の決断だ」
「……」
「今更考え直すほど、想いは薄っぺらいのか。アスラン、お前はどうしたい?」
──そうだな。これは前から決めていた、俺の想いだ。
カガリも理解してくれているのなら、これ以上俺が言うこともない。
「分かった。なら俺も心を決める。……ミーアとも約束したのだから」
「明日ここに来るんだろ? オーブで開催される特別ライブ。あの子も一人の歌姫として、夢を叶えたんだからな」
カガリの言葉に、つい自分の事のように微笑んでしまう。
そうだ、明日には──ミーアと。
────
翌日の朝、俺は空港へと迎えに向かった。
今や彼女は歌姫として世界中を巡っている。そして今はここ、オーブへと。
「やっと会えた! アスラン!」
シャトルから降りるタラップの上から、ドレスと桃色の髪をなびかせて俺に飛び込んで来た少女。
俺は驚いたがとっさに受け止める。抱きしめられた彼女は嬉しそうに頬を擦り寄せた。
「俺もミーアに会えて嬉しい。
それと、改めておめでとう。活躍もいつも見ている。ミーア・キャンベルとして歌姫になる君の願い、無事に叶って本当に良かった」
「はい! 今はちゃんと私として、ステージの上で歌えています。これも……アスランがいてくれたから」
既にライブ衣装を纏っている彼女。スケジュールではこのまま会場へと向かう事になっているからだろう。
俺はそんな姿を見て、思わず言ってしまう。
「今日のミーアも、とても綺麗だ」
「あっ──」
突然の言葉にミーアは目を丸くして。それから少し髪をかき上げてからはにかんで応えた。
「嬉しいです、アスラン。
でも、その言葉は私のステージを観たあとにとっていて欲しかったわ」
「もちろん観た後にだって言うさ。ただ君の姿を見て、つい言わずにいられなかった」
そう離して俺は彼女に手を差し伸べる。
「オーブ軍の准将として、歌姫を会場までエスコートしよう。
──俺の手をとって欲しい、ミーア」
ミーアは乙女の表情ではにかんで手を握ってくれる。
こうして彼女と触れ合える事。……幸せだと感じられた。
────
オーブでのライブは大盛況だった。
街の広場に用意されたステージ上で、ミーアは観客たちに向けて精一杯に歌っていた。
「地球も、宇宙も、世界の平和が続くように──みなさんも祈ってくれたら嬉しいです」
これが歌姫の力。パイロットとしてモビルスーツに乗り戦う俺には出来ない、大勢の人々の心を動かす事を可能にする。……それこそが。
俺も少し離れた、目立たない席からミーアのステージを見守っていた。やっぱり綺麗だ。そして改めて嬉しく思った。
彼女が自分の夢を叶えられた事が。まるで自分の事か……それ以上に。
「──♪」
素敵な歌声だった。ラクス・クラインの代わりを努めていた時も、懸命にプラントの人々のために役目を果たそうと歌っていた。
以前と変わってしまったと言う人もいた。それでも俺は議長の元にいた時、傍でミーアの想いを知っていた。
完全な代わりは出来なくても、自分に出来ることならと頑張って。それでも彼女が役目と罪悪感に潰されそうになっていた事も。
(けれどプラントの問題も今では解決した。ミーアはラクスの代わりをせずに済むようになって、自由に歌えるようになった。だからこそ……)
あんな風に、今は心から嬉しそうに、幸せに歌っているのが伝わる。その表情や歌声から……だから俺も同じように嬉しいんだ。
「いい歌ですね、彼女の歌は」
「ああ、本当にな。……シンか?」
不意に声をかけられて横を見ると、シン・アスカの姿がそこにあった。
彼も俺と同様、オーブに移って来た人間の一人だ。
「歌姫ミーア・キャンベル。ラクス様の代わりをしていた時と比べて、ずっと活き活きしているのが分かります」
「確かにそうだな。けれど、俺はラクスの影武者として頑張っていた時から、ミーアの歌は好きなんだ。
本物か影武者かなんて関係ない。ずっと前から、俺にとっての歌姫だ」
「ふうん。アンタは、彼女の事を愛しているんですね」
我ながら惚気けている実感が湧いてしまう。
ふいに、ステージ上で歌っているミーアと視線が合った。群衆の中、距離もある中で、確かにそう感じた。
そして向けられた星のように眩しい笑顔は、特別なものだと。
「──ああ。きっとその通りだと思う」
────
ミーアのライブを見届け、それから、軍での仕事も済ませた。
最近では大体の業務は事務関係が多いが、まあいい。仕事を終えた俺はとある場所へと来ていた。
「こう言う雰囲気も悪くないだろ。二人だけで、ゆっくり時間を過ごしたかったんだ」
海を一望出来るコテージ。甘い紅茶を淹れたマグカップを手に、目の前に座る彼女に微笑みかける。
「……何だかドキドキするわ、この感じ」
私服姿のミーア。俺は今、彼女と二人で過ごすためにこの場所を用意した。
「とっても素敵なコテージ。木の香りがして、良い雰囲気」
「君と過ごすために特別に借りた場所だ、きっと気に入ってくれるだろうと思った。
紅茶もハーブからこだわって淹れてみた。我ながら味は悪くないし、ハーブにはリラックス効果もあると聞いた」
「私のためにそこまでしてくれて、ふふっ、嬉しい」
彼女も湯気たつマグカップに口をつける。ただ、熱く淹れてしまったのか。
「熱っ──」
「ミーア!? 大丈夫か?」
「ごめんね、ちょっと熱くてビックリしちゃったの。火傷はしてないから心配しないで」
心配する俺を安心させるように笑顔を見せるミーア。
「そうは言っても……熱く淹れてしまった責任がある。だから……」
「それくらいへっちゃらよ。こうして冷ませば──」
ミーアはマグカップを両手で持って、冷ますように息を吹きかける。
そんな仕草も可愛らしくてつい見つめてしまう。
「ふー、ふー……
これでいい熱さになったかしら。──あら?」
俺の視線に気がついた彼女。そしてクスリとはにかむと……
「アスランばかりずるいです。一緒に座ってお茶にしましょう。
私も貴方のこと、近くで見ていたいから」
ミーアの言葉に俺は頷いて、願い通りにに向かい側に座る。
時はゆっくりと流れる。
彼女とのお茶を、ちょっとした近況や世間話でもしながら過ごす。こんな風に誰かと時間を過ごすのも、随分と久しぶりな気がした。
「──それでね、エイーダさんとも一緒に共演する機会も多かったから仲良くなって、たまにプライベートでも会ったりもして。
この前には行きつけのファッションショップを紹介してくれて、今着ている洋服もそのお店で買ったの!」
そんなプライベートの話も意気揚々と話してくれた。
「同じ歌姫どうし気が合うのかもしれないな。もっと色んな話も、聞かせてほしい」
自分の事を嬉しそうに話すミーアを見るのがたまらなく愛おしく、俺も嬉しい気持ちとなる。
彼女は幸せな人生を歩めているんだと、ミーアとしてステージに立って、ちゃんと私生活でも充実している。友人とも上手くやれているみたいだ。
そんな時間を彼女と過ごした。
二人だけの一時。コテージの中でしばらく過ごした後、外のベランダへと出た。
地球での季節は冬頃……だったか。どっちも厚着で、吐く息も少し白くなっている。
「思ったより寒いな。ミーアみたいに、俺もマフラーを持って来れば良かったか」
隣にいる彼女は、温かそうな白いマフラーを首に巻いていた。
「おかげで首元も暖かいです。──アスランも」
ミーアは首のマフラーを緩めて体を寄せて、俺の首元に巻いてくれた。
「これでどうですか? 一緒にしてみたかったんです。ちょっとだけ」
二人で一つのマフラーを巻いて、互いの距離が更に縮まった。
夜空を見上げる。雲一つない快晴で、瞬く星がよく見える。
「綺麗な星空。アスランと見れて良かった」
「今夜は星がよく見えるみたいだ。あっちの星座は、オリオン座だろうか?」
「うーん、オリオン座はこっちの方じゃないかしら。他の星よりキラキラしているもの」
空を指差しながら、瞬く星がどの星座かの話を交わす。
「確かに輝いているけれど、そっちの星はシリウスで、多分おおいぬ座だと思う」
「どの星がどの星座って、ちょっと難しいです。アスラン、他にはどんな星座があったかしら?」
「そうだな。たしかあっちが──」
まるで少年少女みたいな、青春に戻ったような雰囲気の俺達だった。
夜空を眺めながらそんな話をして過ごした。
……やがて沈黙。ミーアと隣り合って、ただ静かに一緒に空を眺める。
「……」
実は俺がミーアをここに呼んだのは二人で過ごしたかった、と言うのも勿論ある。
けれどもう一つ、ある話を彼女にするためでもあった。
(やはり緊張はするな。でも、前から決めてはいた事だ。俺はミーアに──)
夜空から、彼女に視線を移す。
「なぁ、少しいいかな」
ミーアは俺が声をかけると、くりっとした丸い瞳で見つめ返してきた。
「──ん?」
少しだけ首をかしげながら。ドキッとする気持ちを抑えながら、俺は何気ないように話を切り出す。
「ミーアは、いくらか前に地球で過ごした時を覚えているか?」
俺がまだLOTUSに所属して、ミーアがラクス・クラインの影武者としてプラントで活動していた時、お忍びで地球に降りて俺とデートを……一緒に過ごした事があった。
そう聞くと少女みたいな眩しい笑顔を投げかけて、彼女は応えてくれた。
「もちろん、忘れたりなんてしないわ。ニホンの街でアスランとデート、二人で食べたお寿司も美味しかったし、色んなお店でお買い物も楽しかったもの。
それに──」
彼女は頬を染めて、指を口元に当ててこんな事を。
「綺麗な海でアスランの為に、歌って。あなたに大好きだって思いも伝えたから」
あの時、ミーアは俺への好意を告白してくれた。
けれど俺は答えを返すことが出来なかった。なぜなら──。
「あの時は世界も、俺達も互いに大変だった。だから先送りにした。
世界が平和になって、ラクスの影武者としてではなくミーア自身としてステージに立ちたいと言う、君の願いが叶ったその時に答えを決めると」
あの時、地球で交わした約束。
各地の組織、有志の協力、そしてLOTUSの活躍で世界の脅威は排除されて平和も戻り、デュランダル議長が企てていた『デスティニープラン』の頓挫、彼自身の死去によってミーアもラクス・クラインと偽る必要もなくなった。
「……ミーア、俺は」
星空を背景に向かい合う俺とミーア。
首に巻いた一緒のマフラーで距離も近くて、すぐ目の前に彼女の可憐な顔が見えた。
「なぁに」
「俺も君に惹かれていた。今ならはっきりと言える、俺もミーアが好きだ。だから──その」
俺はさらなる緊張で言葉が詰まってしまう。ミーアは不思議そうにしながら顔を覗き込むと。
「そんなに顔を赤くしてどうしたの? 続きを聞かせて、アスラン」
また彼女の両瞳に見つめられてドキリとする。
ここで伝え切らなければ。俺はミーアに続きを話す。
「俺にはオーブでの軍の仕事もある。忙しいこともあるし、他所にもなかなか行けないかもしれない。
……それでも、俺はもっと君と過ごしたい。良かったら一緒に暮らしたい……と思っている」
信じられないと言うような表情で、彼女は固まっていた。
「変な事を言ったのなら悪い。ミーアは歌姫として各地を巡ることが多いのも分かっている。ただ、これからは関係を深めて少しでも二人の時間が欲しいと思った。
そして将来的に……君に対して、責任が持てるようにもなりたい。つまり……」
ああ、くそっ! 俺は何を言っている。言葉が上手くまとまらない。これでミーアに伝わるのかも怪しい。
「俺が言いたいのは……その」
どうにか言葉を続けようとした、その矢先だった。
「アスラン!!」
ミーアは強く俺を抱きしめて来た。
「なっ……!」
「私もアスランともっと、もっと一緒にいたいって思っていたの。
でも歌姫にまでなれて、アスランまでって……贅沢だって思ったから。……そんなの、いけないことだって思ったから」
抱きつかれて顔は見えない。けれど、そう言うミーアの声は少し涙ぐんでいるように聞こえて。
彼女は抱きつきを解いて、俺の顔を見て問いかけた。
「ねぇアスラン……もっとあなたと一緒にいても、いいの? 私がアスランに想うのと同じくらい、私を好きでいてくれる?」
潤んだ瞳で俺を見ながら、柔らかな唇を開いて尋ねる。
その答えも決まっている。
「ああ。俺の想いもミーアと同じ──君の事を愛してる」
そして俺達二人は、顔を近づけて──。
────
穏やかな朝。
おはよう代わりの口付けを交わしたした後、ミーア・キャンベルに笑顔を見せる。
「……アスラン? そんな顔して、なにか良いことあった?」
起きたばかりで少しはだけた寝間着のまま、こっちの顔を覗いてたずねた。
俺は照れながら彼女に、正直に答えた。
「実は、初めてミーアに告白したときの事を思い出していたんだ。二年前にオーブのコテージで過ごした事、覚えているだろ」
「ふふっ、あの時は私も嬉しかったんだから、もちろん忘れていないわ」
頬を染めて、そう言いながら俺に抱きつくミーア。
「それから正式にお付き合いを始めて、今はこうして──」
俺の背中に腕を回して、今度は頬に軽くキスをする彼女。
「今日はアスランもお仕事は休みよね。ねぇ、どこか外出でもする?」
「そうだな……出かけるのも悪くはないけれど、俺は家でゆっくり君と過ごしたい。
録画した映画に、デリバリーのピザでも頼むか」
俺の提案に彼女はおかしそうに笑う。
「くすっ。もう夫婦になったのに、まるでティーンエイジャーのカップルみたいな過ごし方ね」
「そう、なのか?」
提案が不味かったのか、つい気になってしまった。そんな俺に──。
「でもそう過ごすのも、だぁい好きよ。アスランと一緒に居れることが、私にとって幸せだもの」
両手をつなぐミーア。
「ねぇ……アスランは、幸せ?」
そして、俺を見つめて問いかけた。
今こうして彼女と共にいられている
「──もちろん」
目の前の愛する人へ、俺は愛情と共に微笑んで応えた。