聖龍伝説 ジャッジ・ザ・デーモン ネオ・ダーク・レジェンド 作:セイントドラゴン・レジェンド
その逮捕の裏には、なにやら巨大な陰謀の影が。
そして最後には、二次元界最大のスナイパーが暗躍します。
※このシリーズは架空戦記でもあるので、史実とは異なる情報も載せています。
[何気ない日常の中で]
此処はアニメタウン郊外に在る小田原修司の邸宅。と、いっても縦長の三階建てというシンプルな外見。しかし、エレベーターは地下に聳えるデーモンハビタットに密かに直結している。
そんな自宅で、修司は招き入れた新世代型二次元人の女子達と共に趣味のお菓子作りをしていた。
「よし……もうすぐでクッキーが焼き上がるな」
オーブンの中を様子見して、焼き具合を確認する修司。
「しかし、まあ……鬼神と恐れられている小田原修司の趣味が、まさか料理とお菓子作りとはね」
「良いじゃないですか。だから、私たちみたいに料理が得意な新世代型が生み出されたのかもしれないし」
そんな焼き具合を確認する修司を見て、皆で焼き上がったクッキーを食べる準備をしている薙切えりなと田所恵が微笑む。
「お前達も遠慮せず、俺のクッキー食べてくれよな。異世界の人間の感想も聞きたいからな」
「はい、遠慮なく食べさせてもらいますね」
「ホント楽しみ! 修司さんのクッキー」
そう修司に言われて笑顔を向けるのは【七つの大罪】のエリザベスと【盾の勇者の成り上がり】のラフタリア。
と、皆で焼き上がったクッキーを味わうティーパーティーの準備を進めてると、修司の自宅に訪問者を告げるチャイムが鳴り響いた。
「ん、誰? 今日は此処に居る女たち以外は呼んでないんだけどな」
「私が出ますね」
修司が不思議がっていると、そんな修司に代わって田所恵が玄関へと赴く。
「はいはい、いま出ますからね」
急いで田所恵が玄関を開くと、そこには大勢の武装兵が集っていた。
「っ! だ、誰なんです、あなた達!」
思わず驚く田所恵が訊ねると、一人の武装兵が答えた。
「我々は国連軍から派遣された捕縛兵だ! 小田原修司は居るか!?」
「い、いますけど……きゃっ」
国連軍からの捕縛兵だと名乗る武装兵に田所恵が答えると、兵士達は田所恵を押しのけて修司の自宅へと強引に押し入った。
「小田原修司! 大人しくしろ!」
「「きゃあっ!」」「な、なんなんですの、あなた達!」
リビングに雪崩れ込んでくる兵士達に、エリザベスとラフタリアは驚き、薙切えりなは兵士達を警戒する。
「おいおい、誰だ。部屋ん中に土足で踏み込まないでくれよ。此処は欧米じゃないんだぞ、タクッ。俺は綺麗好きなんだぞ、おい」
土足で室内に踏み込む兵士達に不満を零す修司に、兵士が告げた。
「小田原修司、一緒に来てもらおうか」
すると修司は慌てる事なく、落ち着いた様子で兵士に答え返した。
「ちょっと待ってくれ。もうちょっとでクッキーが焼き上がるところなんだ」
そして修司が様子見しながら焼き上げたクッキーを、修司は鍋掴みで鉄板ごとオーブンから取り出して冷ます。
「ふぅ、いい具合に焼き上がったな。……で、俺は何のために連れていかれるんだ?」
そう不敵な面構えで兵士達に問うと、兵士は毅然とした態度で答えた。
「小田原修司、お前に逮捕状が発行された。来てもらおうか」
「なんの罪状だ?」
「イスラム国への侵攻罪だ!」
兵士がそう答えた直後、修司は顔を神妙な目付きの鋭い真顔に変化させる。
そして鋭い真顔で修司は立ち上がり、かけていたエプロンを外すと薙切えりな達に言った。
「えりな、悪いがしばらく留守にする」「え?」
修司の発言に困惑するえりな。
すると修司は兵士達に向かって訊ねる。
「着替えを持っていきたいんだが、いいか?」
「ダメだ、脱獄に必要な武器や道具を準備される可能性がある」
「それじゃ兵士の一人が俺の部屋まで来て、道具なんかを入れないよう見張ってればいいだろ?」
「……分かった。おい、誰か同行しろ」
そうして修司は一人の兵士と共に自室に行き、そこで着替えなどを荷造りしてから玄関に赴く。
「両手を前に」
「おいおい、手錠するのかよ」
「規則なので」
「ふう………………」
兵士に指摘されて、修司は渋々両手を前へと差し出した。
すると兵士は修司の両手首に機械仕掛けの手錠を嵌めて、自由を奪う。
「それじゃ、後はよろしくな」
そして修司は最後に、邸宅に残っている薙切えりなと田所恵そしてエリザベスとラフタリアに言い残すと、兵士達に連行されて国連軍所有の護送車に乗せられて行ってしまった。
突然、国連軍に連行されていった修司を見届け、茫然と見送るしかできなかった四人の女性たちは立ち尽くすしかなかった。
平穏な、何気ない日常の中で起きた出来事だった。
[混乱する世情]
自分たち新世代型二次元人の始祖でもある小田原修司が、国連軍によって連行された経緯を受け入れられず、薙切えりなが聖龍隊本部に怒鳴り込んでいく。
「ちょっとバーンズ! どうなってるの!」
「えりな……!」
怒鳴り込んでくる薙切えりなに驚くバーンズたち聖龍HEAD。しかもちょうど其処にはアニメタウンの市長でもあるウッズの姿も見受けられた。
「どうしたんだ、そんなに豪く怒って……」
「どうしたもこうしたもないわ! 修司さんが国連軍に連行されたのよ!」
「! 国連軍め、もう修司の逮捕に踏み切ったのか……!」
動揺するバーンズ達に、えりなは更に問い詰める。
「どういう事なの!? 国連軍の兵士が言ってたけど、修司さんを逮捕する罪状がイスラムへの侵攻罪なんて……もう何年も前の話な上に、修司さんがまだ国連軍所有の人間兵器だった頃の話じゃない! なんで今さら……」
えりなの疑問に、バーンズは神妙な面持ちで答えた。
「……おそらく、国連軍が修司に発行した罪状は、どうでもいいんだ。修司が罪悪感を感じている上に、修司本人も認めている罪過なら何でも良かったんだろう」
「それって、どういう……!?」
「お前たち新世代型二次元人も周知している通り、修司は現政奉還で多くの罪を犯した。国連の人間は、そんな危険人物である修司を、どんな罪状であろうと拘束して再び自分達の手元に……そう、人間兵器として修司を所有する目的で捕らえたんだろう」
「そんな!」
「それに……これもお前達が周知している事だが、修司はアメリカやロシアなど各国の国家機密を蒐集して保持している【コレクション・シークレット】を未だに手元に置いてある。オレたち二次元人の為に、その機密を有効活用しているのが現状だが、世界にとって自分達の首を絞めかねない国家機密を握り続けている修司を野放しにしていたくないのが真情だろう」
「……!」
バーンズの話を聞いて、えりなは愕然と口を押えて悲観する。
そんな薙切えりなにバーンズは話を続けた。
「国連はあらゆる手を尽くして、修司を自分たちの所有物に戻したいと企てている筈だ。それを拒めば拒むほど、修司に待っているのは……おそらく死刑などの極刑だろう」
「そんな……!」
修司に待っているのが死刑かもしれないと知って、えりなは愕然とする。
すると此処で、ある疑問がえりなの脳裏に浮かんだ。
「ちょ、ちょっと待ってバーンズ! 今やアニメタウンは国連から離脱した独立国家なのよね? そのアニメタウンに国連軍の兵士が入国してるなんて、おかしくない?」
この疑問にバーンズは険しい面持ちで答えた。
「……アニメタウンの役人達は、国連に媚を売って少しでも自分達の利益を得ようと画策してる。だから国連から兵士や外国の警察の介入も許しちまってる現状だ」
「そんな……! あなた達、聖龍隊やウッズ市長の意見はどうなんですか!?」
「アニメタウンの役人達は、オレたち聖龍隊やウッズの事を余り快く思ってない。オレ達が施行する新法案や法律で、自分達の利益が阻害されるからな。それ故に、オレたち聖龍隊と親密な関係である修司を国連に逮捕させて、オレたち聖龍隊の権威なんかを損なわせようという目論見もあって、国連軍のアニメタウン入国を許可したんだろう」
「そんなの、勝手すぎますわ……!」
バーンズの説明を聞いた薙切えりなは、何を思ったか突然背を翻し退室しようとする。
「何処に行く、えりな!」
「抗議に行くのよ! 自分達の都合や利益重視で、アニメタウンに国連軍を入国させるだけでも腹立たしいのに、修司さんが邪魔だからって逮捕を容認しちゃうなんて……」
と、役人達に抗議に向かうえりなを、バーンズは強い口調で引き留めた。
「えりな、やめろ! アニメタウンの役人達は、お前ら新世代型二次元人を敵視している!」
「!」
「……迂闊に反論すれば、処分の名目で罰せられるぞ。無論、學園の人間全員が……!」
「………………」
バーンズからの警告に、薙切えりなは愕然と黙り込むのだった。
アニメタウンの政権は、あくまで聖龍HEADやウッズ市長の統率だけで統治されてる訳ではなく、アニメタウンとその同盟国に住まう一般国民の意見を代弁する役人が存在している。何もかも、ウッズ市長や聖龍HEADに全ての権限がある訳でないのが実情だった。
それから聖龍隊本部には、小田原修司逮捕に伴い、荒れる世界情勢にまつわる情報が大量に流れ込んできた。
「アメリカ、ロシアなどの核保有国が核ミサイル発射の準備をしているとの情報!」
「武器商人たちが、大国に向けて大量殺りく兵器を売買していると……!」
「世界中の株価が大暴落! 何処の市場もパニックです!」
「イギリス、フランスも世界大戦に向けて、着々と準備を進めているみたいで……」
「ロシアがウクライナに侵攻したというフェイクニュースまで出回ってます!」
「くそッ! これじゃ、現政奉還の時より混乱が酷いじゃないか……!」
世情に飛び交う様々な憶測や情報による混乱を前に、バーンズも頭を押さえて葛藤する。
「バーンズ!」
と、そこへ参謀総長であるジュニアが駆け付けてきた。
「バーンズ、世界中どこも、いつ世界的混乱が起きてもいいように戦闘準備に突入してる……!」
「修司は世界中の国々の国家機密を握っているからな。それで修司は世界中の経済界や法曹界なんかも牛耳ってる現状……そんな修司が病死なんかの自然死以外で死んでしまったりすれば、世界的混乱は避けられない!」
「これは……現政奉還で何とか回避できていた世界大戦が、いつ開幕しても可笑しくないよ……!」
「ッ……!」
ジュニアからの報告を受けて、バーンズは一段と険しい面持ちで呟いた。
「戦争が始まるぞ……!!」
[囚われた小田原修司]
一方の小田原修司はというと。
アニメタウン役員達から入国と逮捕の権限が許された国連軍兵士によって連行された修司は、国連軍管轄の収容施設へと投獄されていた。
そして当の小田原修司本人はと言うと、収監されている独房の中で一人、本を黙読していた。
と、そんな独房に収監されている修司に室外から看守が声をかける。
「小田原修司、出ろ。弁護団が来たぞ」
そうして看守に同行される中、修司は収容者と面会希望者が対面できる面会室に通された。
面会室で既に修司を待っていたのは、弁護団を引き連れている聖龍隊総長のバーンズだった。
「修司どうだ、調子は?」
「バーンズか、大丈夫だよ。今のところはな」
神妙な面持ちのバーンズとは裏腹に、修司は仏頂面でバーンズと対面する。
「まあ、オレも予測はしていたが、やはり独房に放り込まれたか」
「まあな、政府や国家機関である警察の機密事項を知り尽くしている俺と、収監されている凶悪犯を接触させる訳にはいかないからな」
「そうだな……ところで修司、なにか策とかはあるのかよ」
「策って?」
「!? とぼけるな。国連に逮捕されて、黙ってるなんてお前らしくないだろ。何か秘策とかあるんだろ?」
「バーンズ、俺はな……今回の国連の逮捕内容に関しちゃ、反論する気も無きゃ、異議を唱える気も毛頭ない」
「! お、おい、それじゃお前……まさか本気で、国連からの裁きをそのまま受け入れるって事か!? で、でも下手すりゃ……!」
「ああ、解ってる。下手すれば、俺は戦争犯罪で有罪を受けて、最悪死刑に処せられるだろうな」
「お前、それを知ってて敢えて刑を受け入れるのかよ……!?」
「バーンズ、俺はな……心の何処かで、この裁判が起きるのを待っていたんだ。俺がイスラム国で起こした大量殺戮は知っているだろ。俺はその罪を、正当に裁いてほしいんだよ……未だに瞼を閉じれば安易に思い浮かぶんだ、俺が放った対戦車ライフルで粉々に吹き飛ぶ少年兵たちの無残な亡骸を……俺は、そんな罪を正式に罰してほしいんだよ」
「修司………………」
「バーンズ、お前やアッコたちHEADには申し訳ないが、俺はこの裁判を不正なく平等に開かれてほしいんだ。罪を犯せば、その罪に値する裁きに則って刑を執行される、それもまた罪人の贖罪であり幸せだと俺は思ってる。俺自身、イスラムで犯した大量殺戮の罪を贖罪する為にも、ちゃんと裁かれたいんだ」
「修司、お前の真意はよく分かる。お前自身が、罪の重責に苦しんでいる事はオレ達も重々承知している……けどな、今お前が死刑にでもなれば、お前が抱えているコレクション・シークレットが世間に公になって、世界情勢が混乱するのは目に見えている。それ以外の理由でも、既に一部の情勢は混乱して、各国は既に戦争寸前まで戦闘準備しているんだよ」
「俺もその点は深く受け止めている。だが、俺が口にしなくても国連軍の連中もそれを理解している筈なのに、俺にはなんの手続きもさせないでいるんだよ」
「なんだと……!? 確か、お前のイスラム侵攻罪を担当するのは……」
「ああ、敏腕国連検事のケリック国連検事だ。世界的犯罪行為を担当する検事なんだが、どうも臭う……」
「分かった、オレたち聖龍隊でも調べてみる。できればお前を自由にしたいんだが……お前自身がそれを望んでいないというのが悲しいな」
「すまない、バーンズ……」
そう対話を終えて、バーンズは神妙な面持ちのまま面会室から立ち去り、修司も独房へと戻された。
そして修司と面会を終えたバーンズは、二次元界でも有数の弁護士で構成された弁護団と会議をする。
「修司には、まだまだ二次元人全員の為にも生きてもらわなきゃ困る! 確かにオレたち聖龍隊は、今まで修司を過度なまでに働かせて、様々な重責を負わせた。だが、それだけ今の修司には存命しているだけで多くの二次元人たちの未来を長続きさせられる権限があるのも事実! 修司が死刑にでもなれば、それこそ多くの二次元人たちの生死に関わる……!」
「でもバーンズ。小田原修司の有罪判決で、世界中の法曹界や経済界に多大な影響を齎すという事を、今回の裁判を担当するケリック国連検事も周知の上なんでしょ? ケリック国連検事はもちろん、なんでまた国連はそんな世界情勢が混乱すると解っていながら、小田原修司を法的に捕らえたの? しかも、イスラム国への侵攻罪なんて、昔の罪に対して……」
バーンズに疑問を問い掛ける女性弁護士の妃英理に、バーンズは弁護士団の注目を浴びながら返答した。
「オレにもよくは解らない……だが、ケリック国連検事は何かと黒い噂がちらほら小耳に入るほど有能な検察官だ。何かしらの策を練っているとしか思えないが……それでも、なんでまた国連は世界大戦や経済破綻に成り兼ねない修司への裁判を今になって執り行うのか理解できねえ」
バーンズにも、未だにケリック国連検事はもちろん国際連合も小田原修司への裁判を進めているのか見当が付かないというのが現状だった。
しばし沈黙するバーンズと弁護団。するとバーンズが重い口を開いて語った。
「修司の存在だけで、二次元界の様々な抗争や対立も抑える事が出来てた。だが、修司が逮捕されるだけで世界情勢は火に油を注ぐ勢いで混乱するばかり……そんな世情の中で修司が死刑にでもなれば、株価の暴落や社会の歯車が崩壊するレベルじゃない! 世界大戦にもなりかねない……!!」
「………………」
「……今は兎に角、修司の真情を受け止めつつ、裁判を何とか此方側に有利にするしかないだろう。確かに修司自身も過去のイスラム国への侵攻に対しては罪悪感など覚えてはいるが、修司自身の真情を受け入れながら裁判を進めるしかないのが現状だ」
『………………』
淡々と語り明かすバーンズの話に、妃英理たち弁護団は静かに聞き入れるしかできなかった。
一方、小田原修司のイスラム国への侵攻罪に対する裁判を担当するケリック国連検事。
ケリック国連検事は、とある雑居ビルへと赴いていた。
其処の古風なエレベーターで上の階へと上がると、ある一室の前でケリック国連検事はドアを叩いた。
「誰だ……!」「私だ、ケリックだ」
部屋から出てきた不愛想な男に名乗るケリック国連検事を視認して、男がケリック国連検事を室内へと招く。
そして室内に入ったケリック国連検事を、リーダー格の様な男が室内に集まっていた面々へと紹介する。
「みんな! ケリック国連検事がやって来たぞ。小田原修司を有罪にした上で、死刑にしようとする同志だ」
「やめてくれ、同志なんて。私は自分の評価を上げる為に、君たちの様な無粋なテロリストと協力し合ってるだけで、同志でもなんでもない」
実はケリック国連検事、彼は裏では自分の評価を上昇させる為にテロリストと結託していたのだ。
するとケリック国連検事は、そんなテロリストたちの前で公言した。
「だが、君たちが最も喜ぶべき事象を私は持ってきた。あの小田原修司を、遂に逮捕・起訴して国連が身柄を拘束する事が叶った」
これにテロリスト達は大いに歓喜し、舞い上がる。
「やったぜーーッ!」
「俺達を苦しめてきた小田原修司が、遂に死刑にされる日も近いぜ! ヒャッホーーッ」
余りの喜びに舞い上がるテロリスト達に、ケリック国連検事が言った。
「いやいや、まだ私達が完全勝利すると決まった訳ではない。裁判で小田原修司の有罪を確定し、死刑にしなければ我々の有益には繋がらない。此処からが正念場だ」
すると、ケリック国連検事がテロリスト達に話し掛けると、静かになったテロリスト達の中から口々に文句を零す者たちが現れた。
「だけど、あの小田原修司を、オレ達が苦しんできた罪状で罰せないのが些か気に食わねえが……」
「私の両親を虐殺した小田原修司を、その罪で罰する事はできないの!?」
「アイツは、小田原修司は……イジメの主犯格だっただけで、俺の妹を嬲り殺した凶悪犯だぞ! それなのに、戦争犯罪だけしか奴を裁けないなんて……」
「俺ごと、俺の家族を人間のクズと罵った上で、全員を火炎放射器で火達磨にして、俺以外の家族は焼死……俺は未だに火傷の跡が酷くてバケモノみたいな容姿に変えられたって言うのに……!」
「一族全員から職や地位を全て剥奪し、路頭に迷わせただけに飽き足らず……根のいい暴力団と結託して、女は強姦された上で泡風呂に落とされ、男は臓器を売買されるかベーリング海でカニ漁船に乗せられる顛末にしたのは、小田原修司だぞ!」
そんな文句や反感を零すテロリスト達に、ケリック国連検事が宥める。
「まあまあ、君たちが思う所は色々あるだろうが……小田原修司の罪状は全て、凶悪犯罪者を法的に殺めたり、罰しただけだと見做されて、小田原修司本人を罰する事は不可能。そう、各国の警察機関や軍隊が行っている正義の行為を犯罪行為と結び付けて罰するのと同じだ。世界の正義を罰するなんて事できる訳がないだろ」
『………………』
「小田原修司を罰するには、彼が心の底から罪悪感を感じているイスラムでの殺戮行為以外、手立てはない。これは小田原修司本人も自認している罪状だし、十分に小田原修司に刑を執行できる算段があるよ」
「……小田原修司が罪悪感を感じているのが、イスラムでの殺戮行為だけなのね……」
ケリック国連検事の話を聞いて、小田原修司が抱いている罪悪感がイスラム国での行為しかないのかと女性テロリストは唇を噛み締める。
そして話を終えると、ケリック国連検事は雑居ビルから去っていった。
雑居ビルから離れていく車中でケリック国連検事は密かに企んでいた。
(ふふ、バカなテロリスト共め。お前らは既に国連も認可している
ケリック国連検事は、テロリスト達をも利用しようとしていた。
そんな事とは知らず、テロリスト達はと言うと。
「おい、あのケリック国連検事を信じても良いのかよ。何より、なんで国連の検事が小田原修司の逮捕に協力的なんだ。世界は自分達の国々の経済破綻を恐れて、今まで小田原修司を罰する真似はしなかったのに」
「ケリック国連検事は、世界的犯罪を抑制する為に、合法的に商売している武器商人と協力関係にある。小田原修司が死刑にでもなれば、世界経済が破綻して、世界中の至る所で戦争が始まるだろう。それに武器商人が乗っかって儲ければ、ケリック国連検事にも儲けが転がり込むから俺達とも協力関係を築いているんだろうよ」
「……俺達は結局、戦争を開始する為の手駒って訳かよ……!」
複雑な心境を抱くテロリスト達であったが、それ以上に彼らの心中には小田原修司への強い憎悪が犇めいていた。
(あの俺達を嘲笑う顔……見下した目付き……何もかもが憎い!!)
[始まった裁判]
「これより……被告人、小田原修司のイスラム国侵攻罪に対しての裁判を開廷する!」
国連裁判所より、遂に小田原修司の裁判が始まってしまった。修司の裁判開廷を、最高裁判長が宣言する。
裁判が開廷されるや否や、ケリック国連検事が裁判に関わる裁判長や陪審員の人々に訴える。
「裁判長、そして陪審員の皆様方。被告、小田原修司は過去にイスラム国での大量虐殺を行った事は、既に世間一般でも広く認知されている通り明白! 私たち国連裁判所は、小田原修司の虐殺行為を罰しなければならないのです!」
このケリック国連検事の主張に、裁判所の傍聴席に集まった多くの報道関係者や一般の傍聴者達は騒然とする。
すると、このケリック国連検事の主張を真っ向から妃英理弁護士率いる弁護士団が反論する。
「裁判長! 小田原修司が行ったと言われるイスラム国での大量虐殺は、全て当時のアメリカ政府からの命令で行われたもので、本人の意思とは関係ありません! 何より、当時の小田原修司は完全に国連が所有していた人間兵器だったのです……そんな彼が犯した罪の責任は、本来はアメリカ政府または国連の筈! よって我々、弁護士団は小田原修司への罪状は無効として無罪を主張します!」
「異議あり! 確かに小田原修司が当時はアメリカ政府の命令で行い、そして当時は国連所有の人間兵器だった事は認めます……だが! それだからと言って、小田原修司当人にも罪の責任が無いとは言い切れません! 我々、国連検事側としては、小田原修司を戦争犯罪人として極刑に処するべきだと唱えます!」
弁護士団側とケリック国連検事側の言い分は互いに一歩も引かず、双方ともに水平線を辿った。
そして肝心の小田原修司への尋問が行われる事に。
此処で小田原修司本人は、弁護士団そしてケリック国連検事の問い掛けに対して無言を貫いてきたが。
「……俺は、今なお悪夢に晒される。いくら国連やアメリカ政府の命令であったとはいえ、イスラム国で多くの人命を躊躇いもなく殺傷してきた行いに……国連が用意してくれた対戦車ライフルで、アメリカ政府の命令のままに少年兵を始めとする戦場の兵士達をことごとく銃殺……いや、あの死に様は爆死といった方が適切だろう。俺は、幼い命も含め、多くの命を惨たらしく殺害してきた凶悪な人間兵器。その人間兵器である罪は、この先……未来永劫、消える事はないだろう」
そう、自分の胸中に秘めた思いを赤裸々に一滴の涙を流して語り明かす小田原修司の話を聞き、弁護士団はもちろん、傍聴席のバーンズも胸が締め付けられた。
一方で、この小田原修司の証言を聞いて、ケリック国連検事は眼光を光らせて主張する。
「皆さん、聞きましたか!? 小田原修司は、今ハッキリと自分の罪を認め、悔い改めたのです! これは小田原修司本人が、自ら戦争犯罪に加担していたという確たる自白であり、被告である小田原修司が罰せられるべき罪人であるという確固たる事実なのです!」
もう既に裁判に勝ったかのように主張するケリック国連検事の言い分を聞いて、修司の弁護士団は顔を押さえて悲観する。
傍聴席のバーンズも、いくら小田原修司本人が罪の意識から償いたいと思っているとしても、多くの二次元人たちの未来を守る為には、修司には存命してもらわなければならないと、苦々しい表情を浮かべてた。
そして第一回の公判が終了し、修司の弁護団及び傍聴席に在籍してたバーンズに記者たち報道陣が群がってきた。
「すいません! 小田原修司はイスラム国での大量虐殺を自認して、罪を認めたといいますが、それでもあなた達弁護団は小田原修司を弁護するのですか!?」
「小田原修司がこのまま有罪になってしまえば、そのまま極刑を言い渡されて死刑になるという情報が出回っていますが……!」
「小田原修司が死刑になれば、世界経済が破綻して、各国で戦争が開始される可能性が高いと学者達が言っていますが、本当ですか!?」
「す、すまんすまん! コメントは控えさせてもらう、ちょっと通してくれぇ……」
群がる報道陣の質問攻めを回避しながら、バーンズが弁護団と共に報道陣の間をかき分けて裁判所を後にする。
そして辛うじて乗り込んだ聖龍隊の軍用車に乗ったバーンズと弁護団は、車内で密談を始めた。
「バーンズ、どうするのよ! 修司くんは完全に自分の罪を公の場で自認したから、裁判が不利になってしまったわ! このままじゃ修司くん、本当に冗談なしで死刑にされてしまうわよ……!」
「妃英理、オレも修司の罪悪感をくみ取りつつも、できれば死刑だけは免れたいと思ってる。なんとか世界情勢安定の為にも、修司の死刑だけは避けねえと……!」
国連裁判所より去っていくバーンズと弁護団は、車内で小田原修司の死刑を回避しようと策を練るのだった。
一方その頃、ケリック国連検事はというと。
「……なあ、ケリックよ。おまはんは、本当に小田原修司を有罪にするつもりなんか?」
「小田原修司の有罪が決まれば、おそらく極刑の死刑になるでしょう。ただ、今の状況で小田原修司が死んでしまえば、世界的混乱が生じてしまう可能性が非常に高いんですよ」
そうケリック国連検事と話をするのは、国連軍元帥のマグマード・岩田こと赤犬と、元帥補佐官のユーリ・ペトロフの二人。
ケリック国連検事に、現状で小田原修司の有罪を確定させれば世界的混乱が生じる事態に至ると伝える赤犬元帥とユーリ・ペトロフ。そんな二人に、ケリック国連検事は冷静に話し返した。
「確かに……小田原修司を正式に裁判にかけ、有罪にすれば……死刑になる確率は高くなりますね。でも、それは今まで小田原修司の罪を放置してきた国連の責務であり、同等に世界各国の国々が果たすべき義務なのです。今こそ、小田原修司を正式に罰せなければ……」
「ですが……小田原修司が死刑で死亡してしまえば、国際情勢や世界経済に多大な損失が出て破綻するのは目に見えている。小田原修司は世界各国の経済界や法曹界を牛耳るほどの秘密、そう……コレクション・シークレットを手中に収めている。そんな状況で、小田原修司を処刑してしまうのは危険極まりない事なのは、あなたも重々承知では?」
ケリック国連検事にユーリ・ペトロフが問い返すと、ケリック国連検事は表情一つ変えることなく話し返す。
「なあに、確かに多少の経済破綻や世界情勢の混乱が起きるのは想定しています。ですが、それを考慮しても小田原修司の罪状を罰しなければならないのは変わりありません。もし世界が混乱し、世界大戦にでもなるのでしたら……それこそ、あなた達が指揮する国連軍が総力を挙げて阻止すれば良いだけの事じゃないですか」
「「………………」」
ケリック国連検事の返答に、赤犬元帥もユーリ・ペトロフ補佐官も黙然としてしまう。
「では、私は小田原修司の裁判手続きなど、まだ仕事が残っているので失礼します」
そう言うとケリック国連検事は席を立ち、退室していった。
「……ふう、ケリック国連検事は何を考えているのでしょうか。元帥殿」
「分からん……じゃが、ケリックが何かしらを企んでいるのは明白。わしも正直、修司には不満を抱いちょるが、世界情勢を混乱させてまで修司を逮捕・起訴した上で死刑に処する真似は避けたいんじゃが……」
「本当に……ケリック国連検事は何を考えて、こんな真似を……」
ケリック国連検事が退室した直後、ユーリ・ペトロフと赤犬元帥は考え込むのだった。
[生ける神話の登場]
国連軍元帥であるマグマード・岩田こと赤犬と、元帥補佐官のユーリ・ペトロフと話を終えたケリック国連検事は、国連本部を後にしようと警護車に搭乗しようとする。
国連本部前に敷かれたカーペットの通路を、警護する警備員達が並列する中で渡るケリック国連検事。
更に国連本部周辺のビルなどの建物の屋上なども含めて、大勢の警備員がケリック国連検事を護衛する。
「まったく、これじゃアメリカ大統領よりも警備が厳重で、VIP並み……いや、それ以上の待遇だな」
「だな。いくら小田原修司の裁判を担当しているとはいえ、此処まで厳重にするか?」
配置されている警備員が口々に零す中、ケリック国連検事は強固な造りにしているリムジンに乗り込もうと歩む。
「ふう、今日はやけに風が強いな」
この日はちょうど、台風が過ぎ去った直後だったので、近隣の海からの潮風が非常に強かった。
そんな強風が吹き荒ぶ屋外で、海に隣接している国連本部から防弾仕様のリムジンに搭乗しようと、ケリック国連検事が大勢の警備員達に護衛されながら車内に乗り込もうとした時だった。
ふと、ケリック国連検事は国連本部と隣接している海原に何気なく目を向けてみると、2キロ先の海上に漂う小型ボートを視認する。しかも、その小型ボートの船尾にはライフル銃の銃口をケリック国連検事に向けている屈強な男の姿が飛び込んできた。
人間は、自らの死の瞬間には感覚が非常に敏感になり、強まるという話があるが、この時ケリック国連検事にも同様の現象が起きて2キロ先の狙撃手の姿を視認できたのかもしれない。
この時、ケリック国連検事は過去に小田原修司と対談した時の会話を思い返していた。
「なあ、ケリック検事。この世には、想像を絶する偉業を成し遂げる一流の狙撃手がいるのを聞いた事はあるか?」
「ああ、確か二次元人で、三次元界では最も有名だと言われているスナイパーですよね。二次元界でも有名ですが、その大半が都市伝説の様に扱われて、存在そのものが疑われていますが……」
「そうだ、そのスナイパー、狙撃手だ。その男は如何なる標的であろうと、依頼に関するルールを守っていれば必ず実行に移して成功させるといわれる狙撃手だ。まあ、不発弾が生じたコンマ以下の確率で依頼を遂行できなかった事も一度だけあったらしいが」
「コンマ以下の、不発弾だけのミスで依頼遂行を成し遂げられなかったのですか……」
「ああ、だがそれ以外の依頼は確実に遂行している熟練の狙撃手だ。不可能を可能にしてしまう、その男を俺は心の底から畏怖すると同時に尊敬し、憧れる」
「憧れる?」
「ああ。俺は正直、多くの人間達から必要と認識され、価値のある人物になりたいと思っている。だが、その狙撃手は既に二次元界だけでなく三次元界の有力者達から重宝され、必要価値があると認識されている。俺は、そんな男になりたいのさ」
「理解できないな。いくら利用価値があるからと言っても、結局はテロリストじゃないか」
「テロリストという言葉で片付けるほど、あの男の価値を計るのは野暮ってもんだぜ。あの男は、そう俺の中では……生ける神話、そのものなんだからよ」
「生ける神話……!」
あの小田原修司ですらも凌駕するほどの必要性と利用性を兼ね揃え、不可能を可能にしてしまう程の技量を持つ、修司にとっては「生ける神話」と認識されているその狙撃手に狙われたケリック国連検事は目を見開いて愕然とした。
(不可能を可能にする、生ける神話……! ゴルゴ13……!!)
次の瞬間、2キロ先の海上から弾丸が射出され、その弾丸は一直線に車に乗り込もうとするケリック国連検事の眉間へと着弾した。
「ッ……!!」
眉間に銃弾が着弾したケリック国連検事は、その一発の銃弾によって即死に近い状態で死亡した。
「け、ケリック検事!!」
眉間を撃ち抜かれたケリック国連検事を目の当たりにし、側にいたボディーガードが驚愕する。
更にそこへ追い打ちをかけるように荒ぶる第一声が響き渡った。
「屋上だ! 屋上からケリック国連検事が撃たれたんだ!」
その第一声に警備員は全員、蜘蛛の子を散らす様に蠢き、ビルの屋上に配置されている警備員は慌ただしく狙撃手を探し回った。
(へへっ、狙撃音が聞こえたと同時に、狙撃手がビルの屋上から狙撃したって騒ぐだけで大金が貰えるなら、いい小遣い稼ぎだぜ)
だが実は、この第一声は狙撃手の居場所を攪乱させる為の陽動だった。
一方で、死亡したケリック国連検事の側を離れず、冷静に狙撃手の居場所を探し回る。
(こ、この状況でビルの屋上からの狙撃は難しい! もっと平行線の……そう、例えば海上から……)
と、ボディーガードが双眼鏡で国連本部と隣接する海上へと目を向けてみると。
ボディーガードの目に、2キロ先の海上で小型ボート内へと姿を消す屈強な体躯の男が目視できた。
「そ、そんなバカな……! 台風の後の、波風が荒い海上から……それも2キロも離れた海上からの狙撃なんて……立証不可能だ……!」
台風直後で風速が速いだけでなく、波風が荒い海上から、それも2キロ先からの狙撃を立証するのが困難だと理解して、ボディーガードは膝から崩れ落ちた。
一方、ケリック国連検事を狙撃した男は、今回の依頼を引き受けた時の事を思い返していた。
「……と、言う訳なんです。小田原修司が中東を侵攻した戦犯として裁いてしまえば、それに続いて中東で戦死したアメリカの兵士達までも戦犯として裁かれてしまう可能性が高いのです! アメリカ本国としては、国の為に死んでいった英雄達が戦犯にされるのだけは非常にマズイのです。彼らを英雄として、これからも安らかに眠らせる為には、小田原修司は戦犯になってはいけないんです! そう、今後永遠に……!」
中東に侵攻した戦死したアメリカ兵をも戦犯として裁かれてしまう可能性がある以上、小田原修司も今後永遠に戦犯として裁かれてはいけないと説明するアメリカ政府からの依頼者。
すると依頼者は、国が用意した依頼金の入ったアタッシュケースとは別に、自らが用意したケースを開いてG13に開示した。
「これは……私の気持ちです」
そう言うと依頼者は、G13にもう一つのアタッシュケースを開いて中の大金を開示して言付けた。
「私の息子も、中東で死んだ英雄の一人なのです。息子達、中東の戦地で死んだ若き兵士達が戦犯にされるのだけは、あってはならないのです! お願いします、デューク・東郷! 小田原修司の裁判を止める為にも、反小田原修司思想の一人であるケリック国連検事を射殺してください! その後は我々、アメリカ政府が動きますので……!」
依頼人であり、英霊として眠っている兵士の父親である依頼者からの切羽詰った嘆願を聞いて、G13は一言呟く様に返した。
「…………分かった、やってみよう」
G13の返事を聞いて、依頼人は安堵した。
「よ、良かった……これで、息子達も戦犯にならずに済む。ありがとう、ゴルゴ13」
そして狙撃手である男は、小型ボートを走らせて悠然と去っていくのだった。
[全てが片付いて……]
その後、ケリック国連検事の狙撃による暗殺は、ケリック国連検事の護衛を務めていた国連軍管轄の組織の意向もあって、表向きはケリック国連検事を脅迫していた反政府思考のテロリスト達による凶行と報道された。
報道の内容では、ケリック国連検事はテロリスト達に脅迫され、自分の意思とは反対に小田原修司を有罪にして死刑に処せようとしていたと伝えられる。
そしてケリック国連検事を射殺したとして、本来はケリック国連検事に利用されているだけだった小田原修司に恨みを持つテロリスト達が国連軍によって逮捕・拘束される事に。
「ち、違う! 俺達はケリック国連検事を殺害しちゃいない!」
「ケリックも私たちと同じ、反小田原修司思想の同志なのよ!」
そう何度も国連軍に訴えたテロリスト達であったが、誰も彼らの言い分を信じようとはしなかった。
そして逮捕されたテロリスト達は、捕えられた後に真実を知る事に。ケリック国連検事は自分達を利用して、その後は逮捕させた上で国連軍に銃殺させようとした計画を。そしてケリック国連検事の暗殺を依頼したのがアメリカ政府である事を。
この事実を知って、テロリスト達の中では激しい怒りと憎しみが湧き上がった。
「ケリックの奴、俺たちを最初から利用して、使い終わったら国連軍に始末させようとしていやがったんだ……!」
「それ以上に……小田原修司を戦犯にしたら、自分達の為に死んだアメリカ兵までも戦犯になる可能性があるからと、ケリックの暗殺依頼をしたアメリカ政府が今回の失敗の元凶だ……!」
「自分たちの国益の為だけに俺達の計画を邪魔しやがったんだな、アメリカ政府は……!」
「アメリカにとってみれば、小田原修司も国の為に中東で死んだ米兵も同等。ゆえに小田原修司を戦犯にされる事は許されないらしい」
「アメリカめ……!!」
これを機に、後に多くのテロリスト達は小田原修司を亡き者にするのを許さなかったアメリカ政府に対して反感を抱き、アメリカに対して多くのテロ行為を開始する。無論、その顛末はビンラディンと同様に悲惨な最後を遂げるだけだったという。
一方、ケリック国連検事が暗殺され、同時に彼が裏で多くのテロリスト達と共謀していた事が判明した結果、小田原修司の裁判はというと。
「ケリック国連検事が残虐なテロリスト達に脅迫されて、世界の為に戦ってきた小田原修司を死刑に処しようとしていた事は明白! よって、小田原修司の裁判は棄却・無効とする!」
国連裁判所の裁判長からの判決で、小田原修司は晴れて自由の身となった。
そして裁判で正式に自由となった小田原修司が、バーンズや弁護士団と裁判所を出ると、待ち受けていた報道陣が詰め寄って質問を投げ飛ばす。
「小田原修司、自由となった感想を一言!」
「今回、暗殺されたケリック国連検事が脅迫されて貴方を死刑にしようとしていた様ですが、お気持ちは?」
記者達からの質問攻めに対して、小田原修司は立ち止まり、少しばかり意見を述べた。
「俺としては正式に、そして正攻法で俺自身を裁いてほしかった。如何に大義名分があろうと、俺がイスラム国で行ってき大量虐殺は明らかに大罪。俺は、そんな大罪を正式に裁いてほしかっただけだ」
そう記者達に述べると、修司はバーンズと共に車に乗って裁判所前から去っていった。
そして二人が乗り込んだ車が発進すると、車中で修司とバーンズは話し始めた。
「……今回の俺の裁判、担当してたケリック国連検事の死亡で急きょ中止にされた感じだな」
「そうだな。ケリック国連検事が裏で、自分の利益の為にテロリスト達と共謀し合っていたのを国連も深く受け止めている。まあ、国連軍は真実を公にはしないだろうが」
「モルガンズのところに、また情報操作料が振り込まれるだろうな……で、ケリック国連検事を射殺したのは、やはりアイツか」
「ああ、あのカミソリの様に鋭い目付きのスナイパーだよ。今回も立証不可能と言われる狙撃でケリックを亡き者にしやがった」
「そうか……」
「……不満みたいだな、自分が裁判で有罪にされなくて」
「ああ、俺が犯したイスラム国での大量虐殺は明確な罪。それを正式に世界の下で裁かれない限り、世界が発展する事がないだろう」
「それは難しい話だぜ、相棒。今回ケリックの暗殺を依頼したのがアメリカみたいだ。アメリカとしちゃ、お前も中東で死んだ米兵と同じで、戦犯になってほしくないんだろう。つまり、軍事大国アメリカがある限り、お前が正当に裁かれる事はないって事だ」
「……そうなんだな。俺は死ぬまで、罪の意識に苦しむ訳か……」
「だが、贖罪の機会はあるぜ。オレたち聖龍隊と共に、今後も戦い続けるんだ。ちょいと酷だが、お前にとっても、いい罪滅ぼしになるだろう」
「……ふぅ、分かったよバーンズ。俺は今後も、死ぬまで戦士として戦い続けるよ」
「これからも頑張ってくれよ、小田原修司」
そう車中で話し合いながら、修司とバーンズはアニメタウンへと帰国するのだった。
そして場所は変わり、所はバージニア州アーリントンにあるアメリカ合衆国国立墓地の一つである戦没者慰霊施設アーリントン国立墓地に移る。
此処で、あのG13に依頼してケリック国連検事を暗殺させるよう嘆願したアメリカ政府の使者である男が、中東で戦死した息子の墓前へと赴いていた。
(息子よ、安心してくれ。お前たち英霊が戦犯として裁かれるのだけは、免れたよ)
男は、息子にケリック国連検事の暗殺が無事に済んで、小田原修司の裁判が終わった事で戦死した英霊たちも戦犯にならずに済んだと報告に来ていた。
すると男の後頭部に銃口を突き付けられる。
「……やはり来たか」
息子の墓前に祈りを奉げていた男が口を開くと、銃口を突き付けているテロリストの残党が言った。
「お前の、お前たちアメリカのせいで……仲間が捕まり、それ以上に小田原修司を死刑という形で殺せなかった……!!」
怒りに満ちた口調で男に問い詰めるテロリストに対し、男は平然とした表情で墓前と向き合ったまま語り返した。
「小田原修司は戦犯ではない。確かに我々アメリカ政府の命で、イスラムで多くの命を奪い取っているとはいえ、それはイスラムなどで死んでいった米兵も同じだ。私やアメリカ政府以外にも、大勢のアメリカ国民が中東で死んだ米兵を戦犯として扱われるのを拒むだろう。故に、私は政府の勅令で暗殺を依頼したまでだ」
「小田原修司は、小田原修司は死ななきゃならない……! 多くの命を、
「例え、小田原修司が死んだとしても、君たちが精神異常者の危険極まりない思想にとりつかれた
「……中東で死んだ米兵も、小田原修司と同等の虐殺を行っていたとしても、裁いちゃいけないってのかよ……!」
「イスラムでの行為は、小田原修司も米兵も同等にアメリカや世界にために戦ってきた軍功だ。誰も裁いてはいけないし、今後もアメリカという国家がある限り裁かれる事はないだろう」
「………………!!」
男の話に、腸が煮えくり返ったテロリストは遂に引き金を引いた。
一発の銃声がアーリントン国立墓地に響いた直後、もう一発の銃声が墓地に響き渡った。
翌日、アメリカの新聞記事にアーリントン国立墓地での一端が綴られた。
記事によれば、アーリントン国立墓地で、後頭部から銃弾を受けて死亡したアメリカ政府に勤める人物と、その人物の射殺に使われたのと同型の拳銃で自殺したテロリストの情報が記されていたという。
[情報を操る鳥人]
「うーーむ、なるほどな……アーリントン国立墓地での銃殺事件とピストル自殺の真相は、あのG13に直接依頼をした依頼人と、その依頼人に腹を立てたテロリストの顛末という事だな」
「ええ、その様で……」
国連管轄の国連報道局の局長室で、国連報道局に勤める記者と局長が話し合っていた。
「しかし、まあ……やはり、おれの見立て通り、小田原修司の裁判だけでも世界情勢は面白い様に激動したな。これで有罪判決を受けて死刑にでもなれば、もっともっとビッグニュースになる筈だったんだが……まあ、世界大戦になるよりマシか」
「きょ、局長……世界大戦なんて、そんな物騒な……」
「何を言っている。外道な
「は、はい……」
「ふふっ、それにしても……今回、あのケリック国連検事を暗殺したG13の狙撃には、またまた驚愕したよ。記事にできないのが惜しいくらいだ」
「局長、それこそ冗談がキツイですよ。あのG13を公にするだけでも……」
「解ってる! それこそG13に消されるからな、これは世界中の報道機関全体に敷き詰められた暗黙のルールだ。まっ、それで記事にしないというのに、国連は自分達の失態を公にされたくないからって今回も多めに情報操作料を振り込んでくれたがな」
そう記者と話をする報道局長は、自身が座っている椅子を回転させて明言する。
「どんな情報も、世間を賑わすビッグニュースとして操る活字のDJ! それがこのおれ、モルガンズ様だ」
そう常時、獣人いや鳥人(アルバトロス:アホウドリ)の姿を保持する国連報道局長のモルガンズは高らかに宣言するのであった。
[悪党王を目指すサソリ]
一方その頃。
小田原修司の裁判が取り消しになった報道を報せる新聞を読んでいる、ある人外の男がいた。
「……修司の裁判が強制終了された訳か。まあ、修司の生死だけでも世界情勢は著しく乱れるってのに、あの国連検事は何を考えていやがるんだ?」
新聞を読みふけりながら、人外の男は好みの葉巻をふかしながら呟いた。
「小田原修司、いやジャッジ・ザ・デーモンの制裁で世界中の経済界や法曹界の秩序が乱れるからって……修司を合法的に殺しても、余計に世界秩序が乱れるだろうが」
葉巻をふかす人外の男は、小田原修司に対して様々な感情や思考を巡らせながらも、椅子に腰掛けながら寛いだ。
「まっ、オレ様たちスコーピオン同盟の様な悪党にとって、世界情勢が如何に混乱してようが関係ねえけどな。オレ様達はオレ様達で自由に生きてければ、それでいい」
そう椅子に腰掛け、葉巻をふかすのは、悪役同盟スコーピオン同盟の首領ガイア・スコーピオンであった。