ポケモン戦争   作:みみほよ

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第10話

まったく、あの劇場での一件以来、俺とあの白いポケモン――サーナイトとの間には、奇妙な主従関係みてえなもんが成立しちまった。いや、主従なんてもんじゃねえな。あれは、一方的な支配だ。俺が主人で、あいつは道具。それ以上でも、それ以下でもねえ。俺は、あいつの利用価値を最大限に引き出すために、文字通り、馬車馬みてえにこき使い始めた。

 

サーナイトのサイコキネシスとかいう、あの目に見えねえ力は、思った以上に便利だったぜ。人間じゃ到底不可能な、精密な作業もお手の物だ。例えば、敵が仕掛けた、クソみたいに複雑なブービートラップの解除。ワイヤー一本間違えりゃ、即、ミンチだ。そんな危険な作業も、サーナイトに「やれ」と一言命令すりゃ、あいつは黙って、その細い指先から念力みてえなもんを出して、いとも簡単に解除しやがる。おかげで、俺たちブラッドハウンズの連中は、何度か命拾いした。まあ、俺は、あいつが失敗して吹っ飛ぶところも、ちょっと見てみたかった気もするがな。冗談だが。

 

狭い通路の先に潜んでる敵兵の無力化なんかも、あいつの得意技だった。俺たちが突入する前に、サーナイトがそっと近づいて、サイコキネシスで敵兵の意識を刈り取っちまう。あるいは、もっと手っ取り早く、壁に叩きつけて戦闘不能にしちまう。血も流れねえし、音も立たねえ。実にスマートなやり方だ。おかげで、俺たちの任務達成率は、格段に上がった。ジャクソンの野郎も、最初は気味悪がってたが、結果が出始めると、途端に手のひらを返しやがった。現金なもんだぜ、あのタヌキ親父は。

 

重量物の運搬も、サーナイトがいりゃ楽なもんだった。弾薬箱だの、食料だの、時には、動けなくなった仲間の傭兵だの。そんなもんも、あいつはサイコキネシスで軽々と持ち上げて、運んでくれやがる。おかげで、俺たちは余計な体力を使わずに済んだ。まあ、その分、他の汚れ仕事に回されるんだから、結局は同じことかもしれねえがな。

 

そして、何よりも重宝したのが、あいつの盾としての役割だった。戦闘中、敵の銃弾が雨あられと降り注いでくるような、そんなクソみてえな状況で、俺はサーナイトに「前に出ろ」と命令する。すると、あいつは、何の躊躇も見せずに、俺の前に立ちはだかり、その細い体で銃弾を受け止めやがるんだ。時には、サイコキネシスでバリアみてえなもんを展開することもあったが、大抵は、生身でだ。

 

その度に、サーナイトの白い体には、新しい傷が増えていった。銃創、裂傷、火傷。もはや、元の美しい姿なんぞ、どこにも残っちゃいねえ。だが、あいつは、一切の不平も言わず、ただ黙々と、俺の命令を遂行し続けた。痛みに顔を歪めることはあっても、決して弱音を吐くことはなかった。まるで、感情を持たねえ、ただの戦闘機械みてえだった。

 

だが、時折、本当にごく稀にだが、あいつが俺に向ける眼差しには、何かこう、言葉にできねえものが宿っているように感じられることがあった。それは、深い悲しみみてえな色だったり、あるいは、それでも消えねえ、献身的な光だったり。俺は、そんなあいつの目を見るのが、なぜだか無性に嫌で、いつもすぐに目を逸らしちまった。気味が悪いったらありゃしねえ。

 

俺は、サーナイトのその並外れた能力と、犬みてえな従順さを、高く評価していた。こいつは、俺が今まで手に入れたどんな武器よりも、使える道具だ。だから、俺は、より危険で、より困難な任務に、躊躇なくあいつを投入していった。敵の集中砲火の中に突っ込ませたり、爆発寸前の爆弾を処理させたり。時には、俺自身の気まぐれで、無意味な危険に晒すことさえあった。だが、サーナイトは、それでも黙って俺に従った。

 

ブラッドハウンズの他の傭兵たちは、そんな俺のサーナイトへの非情な扱いと、それに従順に従うサーナイトの姿に、最初は驚き、次に畏怖し、そして最後には、若干の気味悪さを感じるようになっていた。

 

「なあ、カイ。お前さん、あいつを何だと思ってんだ? 生き物じゃなくて、ただの便利な道具か何かだとでも思ってんのか?」

レオンが、いつになく真剣な顔つきで、俺にそう問い詰めてきたことがあった。

「そうだとしたら、何か問題でもあるのか? あいつは、俺の命令を聞く。俺は、あいつの力を利用する。それだけの、単純な関係だろ」

俺は、冷ややかにそう答えた。レオンは、それ以上何も言わずに、ただ、悲しそうな目で俺とサーナイトを交互に見ていた。ドンファンも、いつもの元気な鳴き声を潜めて、心配そうにサーナイトを見つめていた。

 

アリアは、もっと直接的だった。

「カイ! あなたのやっていることは、あまりにも酷すぎるわ! サーナイトは、あなたの奴隷じゃないのよ! あんなに傷つけて…あなたには、心がないの!?」

そう言って、俺の胸倉を掴んで、泣きそうな顔で訴えてきたこともあった。俺は、そんなアリアの手を、無言で振り払った。

「心、ね。そんなもん、このクソったれな戦場じゃ、何の役にも立たねえガラクタだ。俺は、生き残るために、使えるものは何でも使う。それだけだ」

 

俺の言葉に、アリアは絶望したような顔をして、それ以上何も言えなくなっちまった。オオスバメが、彼女の肩で、心配そうに小さな声で鳴いていた。

 

他の傭兵たちも、遠巻きに俺たちを見ているだけで、誰も口を挟もうとはしなかった。彼らにとって、俺とサーナイトの関係は、理解不能な、そして、どこか触れてはいけない領域のものになりつつあった。ある者は、俺をポケモン使いの悪魔と呼び、ある者は、サーナイトを呪われた聖女と呼んだ。どっちだって、俺にはどうでもいいことだったがな。

 

俺は、そんな周囲の反応など、気にも留めなかった。俺にとって重要なのは、サーナイトという道具が、どれだけ俺の役に立つか、それだけだった。そして、あいつは、俺の期待以上に、その役割を忠実に果たし続けていた。

 

だが、俺は気づいていなかった。いや、気づかないふりをしていたのかもしれねえ。サーナイトが、俺の命令で傷つく度に、俺の心の奥底にある、凍てついた何かが、ほんの少しずつ、軋みを上げていたってことに。そして、あいつが俺に向ける、あの悲しげで、それでも献身的な眼差しが、俺の魂に、消えねえ烙印みてえに焼き付いていたってことに。

 

まったく、人間ってのは、本当に厄介な生き物だぜ。道具は道具として、割り切って使えばいいはずなのに。どうしてこう、余計な感情が邪魔をしやがるんだ?

 

俺は、そんな自分自身の心の揺らぎを打ち消すように、さらにサーナイトを酷使し続けた。まるで、そうすることでしか、俺は自分を保てねえとでも言うみてえに。

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