ポケモン戦争   作:みみほよ

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レオンの苦悩

レオンは、焚き火の揺らめく炎を見つめながら、重いため息をついた。その視線の先には、黙々とライフルを手入れするカイと、その傍らで、まるで影のように寄り添うサーナイトの姿があった。サーナイトの白い体には、また新しい傷が増えている。先日の戦闘で、カイを庇って敵の集中砲火を浴びた際に負ったものだ。カイは、そんなサーナイトの傷に一瞥もくれず、ただ自分の作業に没頭している。その光景は、レオンの胸を重苦しくさせた。

 

レオンにとって、ポケモンは単なる兵器や道具ではなかった。相棒のドンファンは、彼にとって家族同然の存在であり、言葉は通じなくとも、心は通じ合っていると信じていた。ドンファンが傷つけば自分のことのように痛み、ドンファンが喜べば自分も嬉しくなる。ポケモンにも感情があり、痛みも感じ、そして時には人間以上に深い愛情を示すことを、レオンは経験として知っていた。

 

だからこそ、カイのサーナイトに対する非情な扱いは、レオンにとって到底容認できるものではなかった。サーナイトは、明らかにカイのためにその身を挺して戦っている。その献身は、傍から見ていても痛々しいほどだった。しかし、カイはそんなサーナイトの想いを踏みにじるかのように、彼女をただの便利な道具として酷使し続けている。

 

「なあ、カイ」

レオンは、何度目になるか分からない忠告を、再びカイに向けて口にした。

「もう少し、サーナイトを労ってやったらどうだ? あいつは、お前のために、文字通り命を張ってるんだぞ。あんなボロボロになるまで戦わせて…お前には、心ってもんがねえのか」

 

カイは、ライフルの手入れをする手を止めずに、冷ややかに答えた。

「ポケモンは道具だ。感傷は不要だ。あいつは、俺の命令に従って、その役割を果たしているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」

その声には、何の感情も込められておらず、まるで鋼鉄のように冷たかった。

 

レオンは、カイのその言葉に、深い無力感を覚えた。戦争は、この若い傭兵の心を、ここまで歪めてしまったのか。かつて彼にもあったはずの、人間らしい温かい感情は、度重なる戦闘と裏切りの中で、完全に凍てついてしまったのだろうか。レオンには、カイの瞳の奥に潜む、深い絶望と孤独が見えるような気がした。それは、ヘルガーに故郷を蹂躙されたという、彼の忌まわしい過去と無関係ではないのだろう。

 

しかし、同時に、レオンは葛藤も抱えていた。この過酷な戦場で生き残るためには、あるいはカイのような非情さこそが必要なのかもしれない、と。優しさや情けは、時として命取りになる。仲間を信じ、ポケモンを愛した結果、無残に死んでいった者たちを、レオンは嫌というほど見てきた。カイのやり方は、決して褒められたものではない。だが、それが彼なりの生存戦略なのだとしたら、自分にそれを否定する権利があるのだろうか。

 

そんなことを考えていると、不意にドンファンが苦しそうな声を上げた。見ると、先日の戦闘で負った脚の傷が、また開いてしまったらしい。

「おいおい、大丈夫か、ドンファン!」

レオンは、慌ててドンファンのそばに駆け寄り、持っていた薬草を傷口に塗り込み、丁寧に包帯を巻き始めた。

「無理しやがって…お前はいつもそうだ。俺を庇って、すぐに無茶をするんだからな」

ドンファンは、レオンの言葉を理解したかのように、大きな鼻をレオンの肩に擦り付けてきた。その仕草が、レオンにはたまらなく愛おしかった。

 

ふと、視線を感じて顔を上げると、サーナイトが、いつの間にかレオンたちの近くに来て、じっとその様子を見つめていた。その瞳には、羨望とも、悲しみともつかない、複雑な色が浮かんでいるように見えた。

 

レオンは、サーナイトのその痛々しい姿と、その瞳の奥にある感情に、思わず胸が締め付けられるような思いがした。

「…お前も、辛いだろうな」

レオンは、思わずそう声をかけていた。サーナイトは、レオンの言葉に驚いたように、少しだけ肩を震わせたが、何も答えなかった。ただ、その大きな瞳で、じっとレオンとドンファンを見つめ続けているだけだった。

 

その時、カイが立ち上がり、サーナイトに向かって冷たく言い放った。

「おい、サーナイト。いつまで油を売ってる。次の任務の準備だ。さっさと来い」

サーナイトは、カイのその声に、びくりと体を震わせると、名残惜しそうに一度だけレオンたちの方を振り返り、そして、まるで糸で引かれる人形のように、カイの後を追って闇の中へと消えていった。

 

レオンは、その二人の後ろ姿を、ただ黙って見送ることしかできなかった。カイの心を変えることは、今の自分にはできないのかもしれない。だが、それでも、いつか、彼がサーナイトの本当の想いに気づき、そして、失ってしまった人間性を取り戻す日が来ることを、レオンは心のどこかで願わずにはいられなかった。

 

しかし、戦場の現実は、そんな甘い期待を許さないほどに過酷だった。レオンは、再びドンファンの傷の手当てに戻りながら、この終わりの見えない戦いの中で、自分たちが一体何を守ろうとしているのか、そして、そのために何を犠牲にしているのか、改めて考えさせられていた。

 

焚き火の炎が、パチパチと音を立てて燃え続けている。それは、まるで、この戦場で消えていった無数の命を弔う、鎮魂の灯火のようにも見えた。レオンは、その炎を見つめながら、ただ、自分とドンファンが、そして、カイとサーナイトが、この地獄から生きて帰れることを、強く、強く願うしかなかった。

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