ポケモン戦争   作:みみほよ

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白い影との邂逅

まったく、ジャクソンって野郎は、俺たちブラッドハウンズを使い捨ての駒くらいにしか思ってねえんだろうな。今回の任務ときたら、敵国のど真ん中にある、クソみたいにデカい要塞都市の攻略だ。なんでも、そこには敵の新型ポケモン兵器がウジャウジャ配備されてるらしくて、まともに正面から攻め込んだら、ミンチになるのがオチだって話だ。だから、俺たちみたいな「汚れ仕事専門」の部隊が、裏口からコソコソ潜入して、内部から引っ掻き回せって魂胆らしい。冗談じゃねえ。どう考えたって、生きて帰れる確率の方が低い、自殺行為みてえな作戦だ。

 

だが、まあ、俺たちに拒否権なんてものはねえ。命令は絶対。それが、このクソったれな傭兵稼業の掟だ。俺は、いつものように、無表情を顔に貼り付けて、黙々と出撃準備を整えていた。レオンが、隣でドンファンに何やらブツブツと話しかけている。

「いいか、ドンファン。今回は、いつもよりヤバそうだぜ。だが、俺たちがカイのケツを守ってやらねえとな。あいつ、一人じゃ危なっかしくて見てらんねえからな!」

ドンファンは、「ドゴォン!」と、やけに気合の入った返事をしていた。大きなお世話だ、クソが。俺のケツは、俺自身で守る。

 

アリアは、黙って狙撃ライフルのスコープを覗き込み、調整を繰り返していた。その横顔は、いつも以上に険しく、緊張感が漂っている。オオスバメが、彼女の肩に止まって、心配そうにアリアの顔を覗き込んでいる。こいつらも、今回の任務のヤバさを、肌で感じ取ってるんだろう。

 

作戦は、夜陰に紛れて開始された。俺たちは、特殊な潜水装備を使って、要塞都市を囲む堀を渡り、排水溝から内部への侵入を試みた。排水溝の中は、ヘドロと汚物の匂いが充満していて、吐き気がするほどだったが、そんなことに文句を言ってる暇はねえ。

 

なんとか排水溝を抜け出し、都市の内部に足を踏み入れた途端、そこはもう地獄絵図だった。あちこちで銃撃戦が繰り広げられ、爆発音が絶え間なく響き渡る。敵兵が、鬼の形相で走り回り、その傍らには、凶暴なポケモンたちが牙を剥いて暴れまわっている。ゴローニャが、その巨体で建物をなぎ倒し、レアコイルが、電磁波を撒き散らして通信を妨害している。空からは、プテラの群れが急降下してきて、鋭い爪で兵士たちを引き裂いていく。

 

「クソッ、思った以上の大乱戦だな!」

レオンが、重機関銃を乱射しながら叫んだ。

「カイ! アリア! 遅れるなよ! ここでバラバラになったら、お陀仏だぜ!」

 

俺は、ライフルを構え、次々と現れる敵兵を冷静に撃ち倒していく。アリアは、建物の屋上に陣取り、オオスバメからの情報を元に、的確な狙撃で敵の指揮官や厄介なポケモンを排除していく。俺たちは、まるで訓練された機械のように、それぞれの役割をこなしながら、戦場を突き進んでいった。

 

戦闘の混乱の中、俺はふと、奇妙な光景を目にした。

 

路地の奥で、一体のポケモンが、数人の敵兵に囲まれて、一方的に攻撃されていたんだ。そのポケモンは、俺が見たこともねえような、奇妙な姿をしていた。純白の、まるでウェディングドレスみてえな滑らかな体躯。頭には、緑色の、何かヒレみてえなものが付いていて、胸には、赤い宝石みてえなものが埋め込まれている。その姿は、この血と硝煙の匂いが充満する戦場では、あまりにも不釣り合いで、どこか幻想的ですらあった。

 

サーナイト。

 

なぜだか、その名前が、頭の中にスッと浮かんできた。図鑑で見たことがあるような、ないような。だが、そんなことはどうでもよかった。問題は、そのサーナイトが、明らかに劣勢に立たされているってことだ。敵兵たちは、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、サーナイトに銃弾を浴びせかけ、時には棍棒で殴りつけている。サーナイトは、傷だらけになりながらも、必死にサイコキネシスみてえな力で抵抗しているようだったが、多勢に無勢。その白い体には、既に痛々しい傷跡がいくつも刻まれ、赤い血が滲んでいた。

 

俺は、その光景を、ほんの一瞬だけ、足を止めて見ていた。なぜだか、その白い姿が、遠い昔に見た、ある光景と重なるような気がしたんだ。あの、ヘルガーの夜。燃え盛る故郷。瓦礫の下敷きになった俺。そして、その時、俺に向かって手を伸ばしてきた、小さな、白い影…。

 

クソッたれ。何を馬鹿なことを考えてやがる。あんなものは、ただの幻覚だ。それに、たとえ本物だったとしても、それがどうしたってんだ? ポケモンは、しょせんポケモンだ。敵か、利用価値のある道具か、それ以外は、俺にとっては何の価値もねえ、ただのガラクタだ。それが、俺がこのクソったれな世界で生き抜くために、自分に課した鉄の掟じゃねえか。

 

このサーナイトにしたってそうだ。敵に捕らえられれば、あるいは何かの情報源になるかもしれねえ。だが、今の俺には、そんなことに構っている暇はねえ。俺には、俺の任務がある。仲間を見捨ててまで、見ず知らずのポケモン一匹を助ける義理もねえし、そんな酔狂な趣味も持ち合わせちゃいねえ。

 

俺は、冷ややかにそう判断すると、サーナイトに背を向けた。そして、再び銃を構え、自分の任務に戻った。路地の奥からは、サーナイトの苦しげな声と、敵兵たちの下卑た笑い声が聞こえてきたが、俺はそれを無視した。俺には関係ねえことだ。

 

「カイ! 何をぼさっとしてる! こっちだ!」

 

レオンの怒鳴り声で、俺は我に返った。そうだ、今は感傷に浸ってる場合じゃねえ。俺は、レオンとアリアの後を追い、再び激しい戦闘の渦の中へと身を投じた。

 

その時、俺には分からなかった。俺が背を向けたあの瞬間、路地の奥で、あの白いサーナイトが、どんな顔で俺の背中を見つめていたのか。その瞳に、どんな感情が宿っていたのか。悲しみか、絶望か、それとも、ほんの僅かな、裏切られたような思いだったのか。

 

だが、まあ、どっちだって同じことだ。俺は、俺の道を行くだけだ。ポケモンに情けをかけるなんて、そんな甘っちょろい考えは、とっくの昔に捨てちまったんだからな。

 

この戦場では、非情な奴だけが生き残れる。俺は、そう信じて疑わなかった。そして、その信条に従って、俺はこれからも戦い続ける。たとえ、その先に何が待っていようともな。

 

俺は、心の中でそう悪態をつきながら、引き金を絞った。銃口から放たれた弾丸が、また一つ、敵兵の命を奪っていく。それが、俺の日常。それが、俺の現実。それ以外のものは、俺には必要ねえんだ。

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