こちら葛飾区亀有公園前派出所 サメの勢いはサメないの巻 作:青色好き
「全く、全て脱走するとはな……」
「はい…………」
葛飾区亀有公園前派出所では両津だけでなく本田と残念、そしてさし水産の研究員達が集まっていた。結構大人数と言う事もあり派出所内には全員入りきれないという事から、何人かは外に出ている。
「でもサメってそんな知能を持ってましたっけ?」
「ある程度の知性があるようですが、水槽を破壊して脱走する程の知性があるとは思えませんが……」
丸井と中川は脱走したサメの事を話している。サメはある程度知性を持っており、個性や社会性を築く種もいる。だが、他種の他個体まで助ける・水槽を破壊する程の知性があるとは思いにくい。
「先輩は一部のサメに人間に懐くよう訓練したんです」
「その様子は他のサメも見られる場所でした……」
「先輩、多分その時に他のサメも学習していたんだと……」
「むぅ…………」
本田と残念の証言に中川は納得した。今にして思えば水槽がある部屋で躾を覚えさせたのはまずかった。両津はあの時芸を覚えさせて話題を作り金を儲けようと考えていた。だからその可能性を失念していた。両津はまずかった、と後悔した。
「他にもいるんじゃないか? 両津の事だ。何か他に不味い事をしてるんじゃないか?」
「ギクッ…………」
部長の推測に両津は頭を一瞬上下に動く程動揺する。図星だ。としか言いようが無い反応だ。
「じ、実は…………」
両津は口を震えながら真相を言い始めた。顔を青ざめて冷や汗をかきながら。
「い、色んな生物の…… 遺伝子を…………」
「い、遺伝子……?」
遺伝子。
生物の設計図とも言える物質。
まさか。両津が言おうとする事が分かった。
「サメに…… 色んな生物の遺伝子を組み込んだんです…………」
遺伝子を組み込む。
「そんな事をしたんですか!?」
「はい…… 両津さんが『色んなサメがいれば多くの人が見に来る筈だ』って言っていたので…… 我が研究所の施設で……」
遺伝子をいじくるという、行為。
映画などの創作作品では大体遺伝子をいじくった人工生物は暴走する事が多い。そうなる事で主人公達がその生物と戦うという王道が展開される。もしかしたら、今回もそういったような事態になる可能性がある。
「一体、そんな生物の遺伝子を入れたんだ!」
「えぇと…… 種に関係無く色んな生物の遺伝子を入れたんです………… 動物だけでなく、植物とか、菌とか…………」
「植物に菌!?」
生物の遺伝子を入れたと聞いたものの、まさか動物だけでなく植物や菌の遺伝子まで入れているという驚愕の情報に、中川達は驚く。
「両津! お前何て事をしてるんだ!!」
「いてて! すいませ~ん!!」
大原部長は怒りのあまり両津の胸ぐらを掴んで思いっ切り持ち上げて彼を大声で叱った。その様子に周りの研究員達は大いに驚いてしまう(中川達は何度も見た事のある光景なのでそこまで驚かない。何せ派出所で両津が怒られる様子は日常茶飯事だからだ)。ここまで厳しく言われると遺伝子操作の一件は流石にやり過ぎたと後悔しそうになってしまう。
「分かってます! 分かってます! 何が何でも脱走したサメを回収します!」
「本当だな! 嘘は無いな! 二言は無いな!」
「はい! 絶対です!!」
大原部長の脅威的な大声が響く中、両津は脱走した遺伝子改造のサメを捕まえる事を約束した。元々捕まえる予定ではあったのだが。
「しかし、そのサメだけではありません。他にも脱走したサメは大勢いますよ」
「調教したサメとか、最近ニュースに出てるサメとか……」
そう。残念と本田の言う通りサメは他にもいる。全て捕まえるとなると簡単な事じゃないだろう。何て言ったって海に逃げたのだから。更に最近だと淡水域にも出没しているとも言われている。
「でも、サメって皆頭が良いんでしょ? もし捕まえようとしたら流石に可哀そうに思うし、反対する人も出てくるんじゃない?」
「SNSを見てみますと、人の言葉を使用したという話も……」
麗子の言う通り、サメ達の知能はかなり高い。物をねだったり交換を持ちかけるなど、人と思わせる程の頭脳だ。そういった頭の良い生物を捕まえると言うと拒否感を示す人は少なからずともいるだろう。正直研究員の中にも出るかもしれない……
「いっそ捕まえるより協力関係を持ちかけた方が良いかもしれません……」
研究員の一人が提案してきた。
協力関係を結ぶ。それなら捕獲と比べてまだ良心の呵責は無いだろう。それに言葉が通じるサメと協力出来るのであれば、他のサメの事を聞けるかもしれない。そうすれば脱走したサメ達を確保できる可能性がある。かなり広範囲に散らばっている為全てのサメを集められるか分からないが、やってみる価値はありそうだ。
「よしっ! それでいこう! それで散らばったサメを集めるんだ! 先ずは何としてでもサメと接触するんだ!!」
「「「「は、はい!」」」」
「はぁ、僕達も協力した方が良さそうですね……」
「私も、手伝った方が良さそうだわ」
「うむ。儂らは両津が変な暴走をしないよう見張る必要があるからな」
「もう~…… 部長~…………」
両津は汗をかきながら他の研究員に指示を出す。本田と残念もそこに含まれている。中川や麗子・部長達はその様子を心配そうに見ている。これは両津の研究による騒動なので両津が積極的に動くべきであるが、両津に任せるとなると不安になる。此処は部長達も少しは協力した方が良いと思い始めていた。部長だけでなく、ボルボや左近寺達も協力を要請した方が良さそうだ。
こうして、両津達は中川達と協力しながらサメと接触する事を決めた。
その頃、海では……
「えぇ! 人間達から独立ですって!?」
「あぁ! 俺達はこの地球の支配者に相応しいだろ! 人間じゃなくて我々サメがな!」
「俺達が地球を支配する事でこの星は正当な進化が出来るのだ! 人類は我々の支配下に置くのだ!」
「いやいや、それは駄目ですよ! いくら何でもやり過ぎです!」
「これくらいやらなければ何も変わらん! この星の霊長である我々でなければこの星を正しい道に導く事は出来ん!」
「多種多様な環境に赴いた事で変態・進化した俺達ならどんな場所にも進出出来る! 機械が無ければ何も出来ない人類より俺達こそが生物の頂点だ!」
「お前達も我々の言う事を聞け!」
「う、うぅ…………」
恐ろしい陰謀が起きようとしていた。
日差しが強い洋上。
本来であれば網や魚群探知機を使って多くの魚を捕獲するのが仕事であるのだが、今回は別の理由で網を使わず魚群探知機を使用している。
「此処だな。この辺りでよく見かけるんだ」
「よぉし、此処なんだな。会えればいいが……」
この漁船は漁師である二徹が所有する漁船だ。今回は両津の頼みにより、二徹が此処まで連れて来たのだ。両津が一体何のためにこの海域に来たのか。その理由は言うまでもないだろう。
「何時も会っているんだな? なら今日会える筈だよな?」
「まぁ…… 毎回と言う事ではないが、結構な頻度で会うな…… んっ?」
二徹が話していると魚群探知機に反応があった。ピッ、ピッっと電子的な音が魚の到来を知らせた。両津と二徹は直ぐに魚群探知機を見る。そこには、明確に両津が探している魚の形をした群れがこの漁船に近付いているのだ。
「この反応、間違い無い!」
「ってことは!」
「あぁ、例のサメだ」
二徹の漁船の近くで、海面が泡立っている。何かが近づいている。水面を見ると銀色若しくは灰色の魚型の生物が浮上してくる。両津は確信した。この魚こそが探しているサメだと。
そして、背鰭と尾鰭が海面から浮かんでいた。間違い無くサメだ。数は5匹。灰色のサメが浮かび上がってきた。
両津はこの場に現れたサメと何とか話し合いをしようとする。さし水産だけでなく中川と麗子の会社が開発した翻訳機を使おうと、電源を付けようとする。
「ん? 両津、サメ達が何か慌ててるような仕草をしているぞ」
「きっと、食べないで下さいって言ってるんだろう。心配するな、ワシはお前達を食べたりせん」
両津はサメ達が喋っているであろう内容を推測している。このサメ達を保護するために交渉を始めようと、両津は翻訳機の電源を入れた。スピーカーの発声部から「ガガッ」という音が出る。起動したようだ。
「両津、本当にこれでサメ達の言っている事が分かるのか?」
「その筈だ。これでこのサメ達の言っている事が分かる。どれどれ……?」
両津は翻訳機のマイクを少しだけサメに近付ける。サメに近付くというのは本来危険な行為だが、このサメ達は二徹に何度も会っていて、襲われていない。この事から両津達が研究所で飼育していたサメであるため人を襲わないのは明確だ。
両津がサメ達にマイクを少し近づけると、サメ達は両津達が何をしたいのかを理解したため、サメの内の1匹がマイク近付く。そして、口を開いた。
『人間さん! 大変ですぅ! 大変ですぅ!』
「ん? 何だ、何か慌てている様子だな……?」
「兎に角、事情を聞いてやれ。両津」
機械音声による翻訳の内容は何やら非常事態が起きている事が察する事が出来る。だが、一体何が起きているのだろうか。詳しく話を聞こうと思った。だが、そうする前にサメが更に言葉を進めた。
『人間を支配しようとするサメ達がいるんです! 止めないと!!』
色んな生き物の遺伝子を組み込む …… やべー生き物が誕生するフラグ。
次回は2025年6月21日21時00分に投稿予定です。