使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第10話『ルイズの修行』

 

 フリーレン召喚から3日目。

 トリステイン魔法学院にて。

 

 その後も、ルイズはフリーレンに導かれるまま、様々な花を咲かせるイメージを構築するために、色々探し回った。

 初めは学院周りで咲いている花。観葉植物など。色々な花の種や成長過程を記した本などを図書室から借りたりした。

 

「学院長から話は聞いているわ。今度は花畑を作り上げようとするのでしょう? 私も陰ながら応援していますよ。ミス・ヴァリエール」

 

 事情を話すと、ミセス・シュヴルーズはにこやかな顔を浮かべてすぐに協力してくれた。

 どうやら彼女は、ルイズが広場で『錬金』を使い、見事りんごの色変えに成功したという事を聞いていたらしい。

「もしかしたらあなたは『土』系統なのかもしれないわね。何か困ったことがあったら遠慮なく聞きなさい!」

「あ、はは……その時はよろしくお願いします。ミセス・シュヴルーズ」

 どうにもこうにも説明し辛いといった表情を浮かべながら、ルイズは色んな花の種をシュヴルーズから貰い受けたりもした。

 

 

「じゃあ、実践するね」

 フリーレンの言葉に、ルイズは小さく頷いた。

 場所はヴェストリの広場。普段は誰も寄り付かないため、実践するのにうってつけだ。

 ルイズはさっきフリーレンに言われた通り、シュヴルーズから貰った種をぱらぱらと撒く。

 見届けるとフリーレンは無手から杖を出した。別に種が無くとも花畑は出せるけど、今回は種から発芽し、葉を広げ、蕾を作って花が咲く過程をゆっくりと見せるためだ。

 種をまき終えたルイズはその後、フリーレンが魔法を使う様子をじっと見つめていた。

 やがて、撒いた種は本当に種から芽を出し、やがては大輪を咲かせ始める。

 

「おぉ……」

 ルイズも、素直に感心したような表情を浮かべた。

 やがて、フリーレンを中心に地面から沢山の花が咲き始める。ハルケギニアでもなじみ深い花もあれば、物珍しいものもあった。

「これが、〝花畑を出す魔法〟だよ」

「本当にこれ、わたしもできるの?」

「ルイズ」

「あ、ごめんフリーレン。そうよね、疑ったらダメなのよね!」

 ルイズはそれ以上何も言わず、フリーレンが咲かせてくれた花をスケッチする。

 

「おぉー、すごいじゃないの。辺り一面花畑」

 

 そこへ、キュルケとタバサの二人がやってきた。丁度昼頃で自由時間というのもあり、様子を見に来たようだ。

「これルイズ? それともフリーレン?」

「私だよ。今ルイズに色んな花が咲くイメージを植え付けているところ」 

「ふぅん、こんな広場の隅々まで、本当に花を咲かせられるのかしら? ルイズ」

「うっさいわね。そんなのやってみなくちゃわかんないわよ」

 ルイズは鼻を鳴らした。ただ、それでも以前よりはキュルケに対する毒が減っている。

 良くも悪くも、決闘を経て少し互いの見る目が変わったが故であろう。

 キュルケも、ルイズを馬鹿にしつつも純粋に彼女のその後が気になるため、来ているようであった。でなくば、こんなに気にかけたりしないことだろう。

 

「うん、大体花の構造や咲かせるイメージは頭の中で思い描けたんじゃないかな」

 

 フリーレンはルイズの様子を見て、次の段階に行けるのではといった表情を浮かべる。

 それを聞いたルイズもまた、緊張感で少し一オクターブ上がった声色で、フリーレンに言う。

 

「じゃ、じゃあいよいよ……」

「うん、今度はルイズが、実際に花を咲かせてみようか」

 

 いよいよだ。

 いよいよ、わたしもフリーレンの魔法を実践する時が来た。

「……といってもわたし、花の様子を見ることぐらいしかしてないけど、大丈夫なの? 他に練習しなきゃいけないこととか……」

「ルイズは色々特殊だからね。型通りにやっても多分通じないと思う。ルイズの魔法を見ながら、試していった方が早い」

 フリーレンからそう言われたので、ルイズもそれ以上何も言わずに、小さく頷いた。

 

「おお、遂にヴァリエールが一人で魔法を使うのね」

「興味ある」

 

 この面々以外、誰もいないヴェストリの広場の中、キュルケ、タバサ、そしてフリーレンの三人の視線が、一気にルイズに注がれた。

「……あまり見ないでよ。余計緊張するじゃない」ちょっと上ずった声でいうルイズ。

 それに構わず、フリーレンは言った。

 

「ルイズ。花が咲くイメージは頭の中で思い描けるよね」

「ええ、大丈夫よ。さっきフリーレンが見せてくれたもの」

「じゃあ、杖を構えて」

 

 言われた通り、ルイズは小ぶりの杖を取り出した。

「目を瞑って、頭の中で花が咲く瞬間を思い浮かべて」

 フリーレンはここで、自分の杖を構えなおす。周囲に向かって一振りし、先ほどまで咲かせていた花畑を元の草原へと戻す。

 そして、ルイズの方に杖を向けながら、じっと佇んだ。

 その様子を気になったキュルケは尋ねた。

 

「ねえ、フリーレンは何をやっているの?」

「ルイズが〝民間魔法〟を使えるように、魔力を微調整させている」

 

 無論、最終的にはフリーレンの補助なく、ルイズ一人で魔法を使わせるのが目的だ。

 だが、まだルイズは最大の障壁である『魔力の通り道を遮る障壁』を、解消できてない。かわいそうなことに、これを取り除かない限り、ルイズはずっと魔法が使えないのである。

 

 しかし、先のヴェストリの広場の時、使えない魔力の通り道の代わりに、別の経路を作ってルイズに〝民間魔法〟を使わせたことがあった。この時の経路はまだ、活きている。

 

 これはフリーレンが『契約』を通じてルイズに魔力を渡し、作り上げた経路である。その分フリーレンの魔力は多少削られていたが、ルイズが真の系統に目覚めるまでの間までだ。覚醒したら返してもらうつもりだった。

 

 なので、〝民間魔法〟限定であれば、この経路を使ってルイズは魔法を使えるはずなのである(このことは勿論、ルイズにも伝えてある)。

 後はフリーレンが作った魔力の経路に、ルイズ自身の膨大な魔力を『暴発』させずにいきわたらせられれば、無事魔法が発動するはずなのである。

 補助輪をつけた上で魔法をどう扱うのかを体に馴染ませ、コツを掴んだようなら補助輪を外して本番。それと同義である。

 

「魔力操作が流暢になってくれば、ルイズは魔法を使えるようになるよ。ただ――――」

 フリーレンがキュルケに何か言おうとした瞬間、ルイズの周りの魔力が、強烈に揺らぎ始めた。

 

 

 あ、やばい。

 フリーレンは冷や汗を垂らす。

 

 

「キュルケ、タバサ。この距離だと巻き込まれるからもうちょっと離れた方がいい」

「え、それって――――」

 刹那、瞑目したルイズの周囲が強烈に光り始める。

 これを見て同じく危ないと察したキュルケとタバサはそれはもう、脇目も振らずに逃げ出した。

 

 

 刹那、ルイズの周辺は爆発音で埋め尽くされた。

 

 

「……げほっ」

 目を開けたルイズは、口から煙を吐き出した。

 いつも通り、ハンカチを取り出してふぅと一息。

「――――失敗したわね」

 そして遠くにあるベンチに置いてある、持ってきたブラシでチリチリで伸びた髪の毛を、優雅にとかし始めた。

 この光景を遠目で見ていたキュルケとタバサ。キュルケは「はぁ……」と、ため息をつく。

 この二人はフリーレンの事前警告のおかげで、魔法を使うことなく無傷でやり過ごせた。

 一方、当のフリーレンはというと、

 

 

 

「……縦ロールになっちゃった」

 

 

 

 綺麗なツインテールが見事な縦ロールへと変貌していた。

「大丈夫?」

 タバサが駆け寄って、フリーレンに尋ねる。

「あの防御魔法はどうしたのよ?」

「使う暇ないんだよ。すっごい集中しなきゃいけないんだ。これ」

 ルイズの魔力、精神と同調するには、想像以上の集中力を要した。防御魔法を展開する暇もないほどに。

 加えて、あまり離れすぎると、同調の回線が途切れる。距離的にもフリーレンはルイズから離れられないのである。

 故に、失敗して爆発したら、フリーレンも直撃を食らうしかないのであった。

 

「次、失敗するようだったら『風の盾』を展開してあげる」

「ありがとう。でもルイズと私の間に別の魔法が介入すると、またルイズとの回線が途切れるから大丈夫だよ」

 タバサの提案も、気持ちだけ受け取りながら、フリーレンは軽く手を振った。

 

「なによもう、結局爆発するわけぇ?」

 呆れ顔でキュルケは野次るが、ルイズは特に癇癪を起さず、自分の手を見つめた。

「どうだったルイズ、さっきは確かに爆発したけど、今まで感じたものとは何か違ったでしょ?」

「うん……」

 当事者であるルイズは、小さく頷いた。

 自分の中で花を咲かせる魔法をイメージした際、ヴェストリの広場の時のように、か細い光が道となって暗闇の中、自分を導いてくれる感覚があった。

 それを追っていこうとして、今度は途中で途切れてしまった。それが今回の爆発なのである。

 

「確かに、先の爆発は今までとは違う」

「どういうことタバサ? あたしの目にはいつも通りやらかしたなとしか映らなかったけど」

「さっきの爆発、口語(ルーン)を使わずに起こしていた。おそらく系統魔法ではなく民間魔法を使おうとして起こした結果。つまり、ルイズは民間魔法のやり方を掴み始めている証拠」

 

 そう言われてキュルケもハッとした。

 確かに、今のは急に爆発を起こしていたっけ。

 

「これはルイズにももう説明したんだけど、私の魔力を、ルイズの精神に同調して送ることで、〝花畑を出す魔法〟のやり方を教えているんだ。ルイズがこんなにも民間魔法のコツを掴めているのも、私のイメージをそのままルイズに直接送ることができるからなんだよね」

「どうしてそんなことができるの……って、そうか、今はルイズの使い魔なのよね、あなた」

 腑に落ちたかのように、手の平の上で手をポンと叩くキュルケ。

「そう、最初会った時に交わした『契約』のおかげで、ルイズの精神と同調する経路作りは容易だった。だからルイズの魔力も、こちらである程度はいじることができるんだ」

「なんか、わたしの身体を勝手に改造しているかのような言い方ね……」

 特に身体に違和感などは覚えない。だがこの言い方だと好き勝手に身体をいじられるようで、少しもじもじさせてしまうルイズ。

 だが、それで少なくとも爆発しかしない現状よりも、自由に魔法を使えるようになるのだから、文句は言わずに飲み込むしかないのだが。

 

「今爆発した原因は、膨大な魔力を焦って大きく動かした所為。しばらくは魔力操作を体感で学んでいくしかないね」

「……でも、それだと失敗した分、フリーレンが巻き込まれるってことよね?」

 かなり申し訳なさそうな顔で、ルイズは告げる。

 一方のフリーレンは、縦ロールとなった髪を指でいじくりながら、

「気にしないでいいよ。ルイズの魔力操作を補助しきれなかった私にも原因はあるんだし」

「でも、でも……」

「私の心配をしてくれるのならルイズ、自分の魔法を成功させることだけ考えて。ここまできたらもう、ルイズの努力次第だからね」

 

 フリーレンの言に、ルイズは大きく頷いた。

 今まで生きてきて十六年、魔法が使えるなんて、思いもよらなかった。

 何を唱えても失敗ばかり。杖を振れば爆発する。器物は破損し、周囲にも迷惑がかかる。

 そして魔法使いが貴族階級の核となるハルケギニアにおいて、魔法が使えない者など、人権が無いに等しい。

 そんな人生を歩んできたルイズにとって、フリーレンの補助はこれ以上ない助けとなっているのである。

 ここまできたらもう、絶対に成功させたい。いや、させてやる!

「ありがとう、フリーレン。わたし、絶対に魔法を会得してみせるわ」

「うん、頑張って」

 今にも泣きそうになるのを堪えるために、目をこすりながら、ルイズは杖を向けた。

「じゃあ、続けるわね!」

「うん、いいよ」

 ルイズは再び、瞑目して杖を構える。

 その数秒後、再び爆発。フリーレンもまた見事に巻き込まれた。

 

 

 その後、ルイズの爆発祭りは日が落ちるまで続いた。

「……いいわ、今日はもうやめましょ」

 ルイズはぐったりとした様子のフリーレンを見て、遂に中断を提案した。

 爆発に巻き込まれること自体、ルイズ自身はもう慣れたものなのだが、フリーレンは流石にそうはいかない。

 これ以上彼女を巻き込むことに、抵抗感が出始めていた。

 

「ほら、大丈夫フリーレン?」

「髪型凄いことになっているわよあなた」

「……さすがに疲れた」

 

 ここで大の字に倒れていたフリーレンが、キュルケたちの手によって起き上がらされる。

 顔は既に覇気のないしょぼしょぼ顔。髪に至っては、縦ロールどころか髪留め全てがはじけ飛んでボサボサにまでなっていた。

 絶えず直撃を食らっているのだから、こうもなろう。

 

「ごめんねフリーレン。結局夕方までつき合わせちゃって」

「いいよ。とりあえず今は辛抱強く見守るしかないからね」

 衣服についた草や泥を手で払いながら、フリーレンは言った。

 

 

「もう少し魔力の通り道を大きくしてあげたいんだけど、上手くいかないんだよね。なんか良い手がないかな……」

 ルーンだけの交信だと、どうにも同調が上手くいかない。もっと経路を大きくしてあげれば、爆発する可能性も減ると思うのだが。

 いっそのこと『ガンダールヴ』の力に頼ってみるか。でも、あれは武器が無いと発動しない。学院で武器を探すエルフというのもまた、生徒や教員に見られたら騒ぎになるだろうし。

 うんうん悩み続けるフリーレンを見かねてか、キュルケは手を叩いて言った。

「はいはい、明日のことは明日考えましょ? せっかくだし、みんなでお風呂に入ってかない?」

 

 

 ここでキュルケが、とりなすように三人へ告げる。ルイズも「賛成だわ」と、ツェルプストーの提案にも関わらず素直に頷いた。タバサも続く。

「いいの? 私が入るとみんなうるさいんじゃないの?」

「今の時間帯なら誰も入ってないわよ。混むのは大体夕食後からだし。それにフリーレンはわたしの使い魔だからね。文句は言わせないわ」

 ルイズがそう力強く言ってくれたので、フリーレンも素直に頷くのだった。

 

「あー、きもちいぃ」

 

 そんなわけで風呂場へ。

 幸い、ルイズの読み通り今はガラガラ。開けたばかりだというので、主従の二人はそのまま汚れた服を放り投げて、浴場へと踏み入った。

 浴槽は横二十五メイル、縦十五メイルの大浴場である。学院の女子生徒が、一斉に入れるほどの大きさがあった。そのうえ誰もいないので貸し切り気分をルイズ達は味わっていた。

「はー、染みる……」

 香水と柑橘系の果物が入り混じったお湯を、フリーレンは肩までつかりながらのんびりしていた。ボサボサだった髪は、ルイズの手によって整えられ、今は短い団子型に纏めている。

 

「城塞都市ハイス以来かな。あそこの温泉もよかったけど、学院の風呂場も良いね」

「ま、この浴場自体はヴィンドボナ学院より綺麗よね。そこは認めても良いわ」

 

 キュルケもまた、魅力的な裸体を壁際のベンチに預けていた。そこで壁から噴き出る蒸気に身を委ねている。

 隣ではタバサもいた。何故か彼女は、浴場だというのに杖を手放さない。

「杖を呼び出す魔法がないんだね」とフリーレンが言えば、「その技術も学びたい」と彼女も返していた。

 どうやら、杖を手放さないのは色々込み入った事情や、境遇がそうさせるのだろう。

 召喚初期から色々助けてくれたタバサのことも助けてあげたいし、早く〝一般攻撃魔法〟の調整も考えないとなー。

 フリーレンは程よく蕩けた思考の片隅で、そんなことを思っていた。

 

「色んなとこ旅してるって言ってたものね。でもこれ以上の浴槽なんて、それこそたくさん見てきたんじゃないかしら?」

 やがて、フリーレンの隣にルイズも入ってきた。流れる桃髪をフリーレン同様纏めて、細い手足を無造作に、水面に投げかける。静かな波紋が、浴槽全体に伝わっていった。

「最近だったらエトヴァス山地の秘湯にも行ったんだ。道はやたら険しい癖に、足湯しかできないくらいの浅さだけど。景色は綺麗だった」

「あら、フリーレンの冒険話? いいわねー、是非聞かせてよ」

 キュルケもまた、汗を流して浴槽に入ってくる。タバサもそれに倣った。

 ルイズも、新鮮な気持ちでフリーレンの方へ向き直る。なんだかんだ言って、聞きたかったのかもしれない。

 

「冒険かぁ。まあそうだね。くだらなくて、酒場で話すようなもので良ければ」

 

 フリーレンは召喚した日の夜と同じように、冒険の日々をルイズ達に語って聞かせた。

 エドヴァス山地の秘湯が話のきっかけだったので、ヒンメル達の話よりかは、この地に来るまでの話……、いわゆるフェルンやシュタルクが一緒の時の旅が中心だったが。

 

 それでも、ルイズ達は面白そうに、興味深そうに聞き入っていた。嘘とか真実とかは関係ない。ただ、フリーレンの話がとにかくハルケギニアの中でも新鮮だったのが、彼女たちの心をつかんで離さなかったのかもしれない。

 

「それでね、私が『壊れた杖を捨てて新しいのを買ったらどう?』って勧めたら、フェルンすっごく怒っちゃって」

「怒るわよそれは。わたしだってそんなこと言われたらキレるわよ」

「やっぱり怒るんだ。……私が悪かったのかなあれは」

 丁度話は、幼少期からずっと共にしている弟子の話に移っていた。

 壊れた杖の話になった時、「あたりまえ」だとルイズは大きく頷いた。彼女の杖は祖母がかつて使っていた、先祖伝来の大事な家宝。フェルンの気持ちは十分に分かる。

 タバサもまた、浴場の中に入れている杖を眺めて、大事そうに手で撫でた。

「ま、あたしは仕方ないかって思うけどね。物にも寿命はあるわけだし」と、キュルケはフリーレンの方を味方したが。

 

「結局どうしたのよその壊れた杖。弟子さんとは仲直りできたの?」

「最終的にはね。杖を直せる職人がいたから、その人に頼んで直してもらった。そのおかげで機嫌は直ったよ」

「仲直りできたんだ」

「そう言えばあなた、弟子がいるっていってたっけ。しかも人間の」

 召喚の場で二人の、しかも人間と旅をしているとは聞いていたけど、丁度その話になったことで、三人の女学生の興味は、まだ見ぬフリーレンの弟子の方へ向いた。

「興味ある」

「あたしもあるわ。平民なのに魔法を使えるってコトにも驚いたけど。ねえ、どんな子なの? そのフェルンって子」

 

 問われたフリーレンは、改めて顎に指を当てて考える。

 かなり長い付き合いとはいえ、今更ながらにどういう人間かと問われると、すぐ言葉として表せられないのは自分がエルフだからだろうか?

 これがシュタルクやザインなら、即答できたのだろうか? そんなことを頭の片隅で思いながら、振り返るように説明する。

 

「前に言ったハイターって僧侶が拾った戦災孤児でね。その人に頼まれたのが彼女を預かったきっかけかな。十年以上一緒に旅しているんだよ」

「へぇ……、それで、結局どんな子なの? それぐらい長くいるんだったら、言えることはたくさんあるでしょ」

 そう言われたフリーレンは、一瞬思考を凍結させたかのような表情を浮かべていた。どう言おうか、考えているようだ。

「ううん……」

「どうしたの?」

「なんというか……、言葉で上手く言い表せなくって。不思議だよね。もう十年以上の付き合いがある筈なのに。いざどういう子かって言われたらどう言い表せばいいのか、すぐ出てこないんだ」

「旅の思い出は鮮明に語れるのに?」

「うん。……まあフェルンにもよく言われるからね。『フリーレン様は本当に人のことが分かってない』って。でもなんだかんだずっと、嫌がらずに付き添ってくれているんだよね。今考えると不思議だよね」

 亡き戦友に頼まれた大事な子とはいえども、もう彼女も一級魔法使いに名を連ねるほどの成長を果たした。自立だって、弟子を取ることだってできるはずである。

 だが、それでもずっと自分に付き添ってくれているというのも、今思えば不思議だった。

 勿論、今の旅の目的である〝魂の眠る地〟に行ってハイターに会いたいという気持ちもあるのは確かなのだろうが……。

 

「それって、それだけあんたを慕っているってことじゃないの?」

「慕われている……のかな? だらしないとはよく言われるけど……」

「成程、とりあえずあんたは親しい人にすらどう思われているか良く分かってないと。エルフだからなのかしら? この感情の乏しさは」

「おそらく」

 エルフという種族をまだ良く分かっていない三人組は、とりあえずフリーレンの性格からものを見るしかなかった。

 そのフリーレンがこうなのだから、他のエルフもこうなのだろうかという気持ちもまた、当然であろう。

「あ、でも一つ言えることがある」

「なによ」

「胸は大きいよ」

「わかった、敵ね」

 フリーレンの言葉に、一番強くルイズは断言した。

 あまりの敵意の剥きだしっぷりに、キュルケも苦笑する。

「胸が大きいってだけでその敵意は感心しないわよヴァリエール。気持ちも大らかにならないと一生そのつまんない胸のままよ」

 湯に胸を浮かべて、キュルケは笑う。

 するとタバサが、つんつんとキュルケをつつく。

「なに、どうしたのタバサ」

「あなたしかいない」

「え?」

「この場所で、むねのある人」

 そこまで言われた時、キュルケはハッとした。

 

 ルイズ、タバサ、フリーレン。みんなみごとにぺったんこ。

 

 巨乳の自分は逆にここでは異端なのである。その境遇に今気づいたのだ。

 ルイズやタバサは、徐々にフリーレンへと寄っていく。ルイズは親友を得たかのような視線をタバサに向け、タバサもそれに頷いた。

 さしものキュルケも、冷や汗を流し始めた。

「い、いやあねえ。仲良くしようじゃないの。ほら、胸の大きさで友達を決めるなんて、貴族としての気品に関わるわよ、おほほ。……ねえフリーレン、その子、どんな魔法を使うのかしら?」

 話題から逃げるかのようにキュルケはフリーレンに話題をそらす。

「魔法は……、まあ生活に役立つ魔法は大体覚えさせているよ。最近なら〝服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法〟とかね」

「なんかこう……、フリーレンの言う民間魔法って、それってなんの役に立つの? ってレベルの魔法ばかりよね」

「そう? それでもさっき言った魔法は伝説級で、滅多に手に入らないものだよ」

「強さってどんな感じよ?」

 キュルケは軽い気持ちで問う。

「あたしやタバサよりも強い感じ?」

「うん」

「あら、即答? 断言するのね」

「そりゃあね。少なくとも百回戦ったら百回はフェルンが勝つかなって。身内贔屓じゃないよ。客観的に見ての本音。あの子は世界に五十人といない魔法使いの頂点、〝一級魔法使い〟になったほどだから」

「…………」

 眉一つ動かさず、熟達な魔法使いとしての表情を浮かべて述べるフリーレンの迫力には、有無を言わせないかのようなものが若干漂っていた。

 それでもあえて踏み込むかのような様子で、タバサは尋ねる。

「わたしよりも強いの?」

「うん」

「〝あの魔法〟が使えるから?」

「それもあるかな、というより、それに特化させた戦い方をさせてきたからね」

 じゃあ強いのも納得だとばかりに、タバサも落ち着いた様子で肩までお湯に沈めた。

 聞けば、フリーレンの世界には〝魔族〟なる敵が至る所に跋扈しているという。ハルケギニアでいうエルフのようなものなのであろうか。

 フリーレンが民間魔法ばかり挙げるせいでぼやけがちだけど、そんな連中と常時鎬を削っているのであれば、魔法も実戦用により研ぎ澄まされていくのも納得だと、タバサは思った。

 そんな考えをしているタバサをよそに、

 

「で、そのフェルンよりも潜在的な魔力量は、圧倒的に上だと思っているのがルイズだよ」

「……ほんと?」

「うん。現状の強さだったら全然フェルンの方が上だけどね」

 

 ルイズは小さく呟いた。

 フリーレンの言が正しいなら、自分はタバサ以上の魔法使いより更に凄いメイジになりうる可能性がある、ということになるのだが。

「だから本当に何とかしてあげたいんだ。……あぁそうだフェルン、再会した時大丈夫かな、口利いてくれるかな、積もりに積もって爆発してないかな……」

「……なんか、聞いてるとめんどくさそうな子ね」

 フリーレンの困り顔を見て、薄々であるが、どんな性格なのかを掴んだような気がしたルイズ達であった。

 

「てか、あんたの『召喚』がこの状況を生んだんだから。ルイズもそのフェルンって子に相当詰められるんじゃないの? 他人事じゃないでしょ」

「あ……」

 そこまで言われて、ルイズもハッとした。

 

「こ、これってわたしのせいになるわけ?」

「まあ、不可抗力なのは仕方がないし、あんたも当時は凄く必死だったのは分かるけど……」

「向こうがどう思うか。これに尽きる」

 タバサにそう言われては、ルイズもぐうの音が出なかった。

 どうすればいいのだろう……と、ルイズもちょっと考え込むけど、

 

 

「いや絶対私に怒ってるよ。だってフェルン、多分ミミックの罠にかかってこんなことになってるって思ってるだろうし。会うの怖いな……でも会わないともっと怖いから……」

 

 

 一方のフリーレンはルイズ以上にしょぼしょぼした顔で、考え込んでいた。

「わ、わかったわよ。わたしも何かできることがあったら手伝うから……」

「召喚の経路で何とか辿れないかな。後はあの鏡で何とかするしかないか……」

「召喚……、確かに『サモン・サーヴァント』は分からないことが多い」

「そうよね。随分大昔からあった魔法みたいだし」

「とにかく、そこから辿るしかないよね……」

 ここでフリーレンは、召喚した経緯を振り返りながら、あることを思い出した。

 

 

『キスが発動の要なんだね。本当に不思議な魔法だ』

『仕方ないじゃないの。そういうもんなんだし』

 

 

 そうだ、あるじゃないか。

 もっと簡潔に、ルイズの魔力経路を広げられる手段が。

 使い魔となってまだ日も浅い。だったらこの『経路』もまだ生きている筈なのでは?

 そう考えたら、急に試してみたくなった。研究者としての性でもある。

 

 

「そうだそうだ、思い出した」

「なにが?」

「もしかしたら、上手くいくかもしれない」

「どうしたのよ」

「ルイズの魔力経路を拡張する方法。そうだ、『契約』の時、キスしたんだった」

「へ、一体どういう――――」

 

 物は試しだ。

 フリーレンは世紀の発明をしたかのような表情で、戸惑うルイズに近づいたかと思うと、いきなりルイズと口を合わせた。

 そこで直に、魔力をルイズの中に送って、魔力の経路を大きく拡張させる。

 

「―――――ッッ!?」

 だがそれを、なんの説明も無しにいきなり行ったわけで。

 何が何だか分からず、唇をあわせられたルイズはもう、顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせた。

「あら~」

「??」

 いきなりのフリーレンの奇行に、キュルケはちょっと可笑しそうに、タバサは只疑問符を浮かべた表情を浮かべる。

 

「うん、やっぱり魔力が上手く通った」

 

 ここでフリーレンは、ルイズと契約するのに『キス』で行われていたことを思い出したのだ。

 修行時では杖を使った遠隔操作だったけど、こちらは『契約』時に交わした、ルーンの力譲渡時の経路がまだ残っている。

 今のキスで、よりルイズの魔力の通り道が拡張できたはずだ。そうなれば、もっと早くルイズも魔法を扱えるようになる。いいことづくめだ。

 フリーレンは朗らかな表情で言った。

 

「これで明日から、もっと魔法を上手く扱えるようになるはずだよルイズ。――――ルイズ?」

「聞こえてないわよ」

 

 キュルケはずぶずぶと沈みゆくルイズを溺れさせないようにしながら、フリーレンに言った。

 当のルイズは精神がパンクしたのか、あるいは純粋にのぼせたのか、気絶していたのである。

「花畑より先に別の花が咲きそうね」

「百合の花」

「トリステインの紋章も百合じゃない。お似合いね」

「何言ってるの? 二人とも」

 当然ながらフリーレンのこれは、修行効率を追い求めての行為であり、まったく『そういう気』がないことは念のため、記述しておく。

 

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