使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

101 / 105
第94話『白の国(アルビオン)冒険記 ルイズの視点』

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 さて、視点は現代のアルビオンへと移る。

 

「きゃあああああああああっ!!」

 

 ルイズ、シエスタ、アニエスの三人は、暴風に巻き込まれながらも必死になって耐えながら、アルビオンの地表へと落ちていく。

 飛び散る前、フリーレンが持ってきてくれた『風石』のおかげで、身を裂くような嵐の中でも、ある程度緩和されていた。

 だが……、結局フリーレンやキュルケ達とは、見事にバラバラになってしまった。

 しかも……、

 

「きゃっ、きゃあああああああ!!」

「シエスタ! シエスタぁあああ!!」

 

 途中、握力が無くなってシエスタの手を放してしまった。

 当然、飛べないシエスタは重力に呑まれる形で落ちていく。

 幸い、その頃には暴風の領域を抜けていたため、シエスタは真下へそのまま落下していったが……、それだけに、呆気なく落ちていく彼女の表情が、ルイズの視界にこれでもかと印象に残った。

 

「いや、いやぁ!! シエスタ!!」

「シエスタ殿!」

 

 ルイズがどれだけ叫ぼうとも、今の彼女はこのまま安全にゆっくりと降りることが精いっぱい。

 そのままシエスタの体はどんどんと小さくなっていき……、最終的には森の中へと消えていった。

 

「……ッ!」

 

 ルイズは何故かこの時、シエスタやフリーレンと一緒になって旅をした記憶が……、突如としてフラッシュバックして蘇る。

 一緒に誕生日を祝ってくれたこと、タルブの事、劇場の事、色んな事。

 短くも楽しかった、旅の記憶が何故か脳内に過ってきたのだ。

 

 そして、そんな思い出を掘り起こせば起こすほど、どうして手を放してしまったのか。

 もっと頑張れただろう? と。強い罪悪感に苛まれる。

 

 

 わたしの好物は『胡桃パン』なんです! 誕生日は―――

 

 

(わたし……、まだ、あんたの誕生日のお礼をしてない……のに)

「ミス・ヴァリエール! 下!」

 

 ルイズはここでハッとする。

 急に、地面が迫ってきたのに気づいたのだ。どうやら集中が切れて〝飛行魔法〟が維持できてなかったらしい。

 どうしよう! このままじゃシエスタどころかアニエスや自分も無事じゃ――――!

 

「失礼!」

 

 状況判断したアニエスは、懐から銃を取り出す。『未踏破の洞窟』にて、ガーゴイルより入手した異世界の銃。『Mauser C96』だ。

 中には実弾の代わりに、『風石』を使った特殊マガジンを搭載している。その甲斐あって、この銃は空気弾のような魔力の弾丸を撃ち放てる。

 魔力源は搭載した風石で賄っているため、平民のアニエスでも使える代物だ。

 

 その銃を、落下の途中で見つけた『それ』……、地表に顔を出していた『風石の結晶』に撃ち放つことで、ある作用を引き起こす。

 

 風の魔力と風石の結晶が衝突した瞬間、風の力が暴発。

 巨大な風のクッションが生み出され、落下途中のルイズ達を包み込む。

 

「きゃっ……!」

「しっかり捕まっててくれ!」

 

 アニエスの方が逆に、ルイズを抱き寄せると、そのまま地表へと落下。

 先の風の衝撃で大分速度が軽減されたため、着地と同時に受け身を取って衝撃を和らげた。

「きゃっ……っ!」

「ぐっ……!」

 それでも襲い来る衝撃に多少呻いたが……、結果的には無傷でルイズ達はアルビオンへと不時着したのだった。

 

 

 

「シエスター! どこなのー! 無事なら返事してー!」

 

 着地したルイズは一息つく暇もなく、落ちたシエスタを探し始めた。

 そんなに流されたわけじゃない、近くにいるはず。

 そう思って森の中をさ迷って、彼女の痕跡を探そうと躍起になって数十分。

 

「おぉーい、ここだ娘っ子!」

「デルフ!? デルフなの!? どこにいるの?」

「上だぁ!」

 

 声を頼りに木々の上を見上げると、木の幹に突き刺さったままの、抜身のデルフリンガーがあった。

〝飛行魔法〟でデルフは回収できたが、肝心のシエスタはいない。

「シエスタはどうなったの、デルフ!」

「……いやぁ、実はな」

 すごく言いにくそうな老剣の声に、ルイズは緊張で心臓を高鳴らせる。

 デルフの刺さっていた場所の近くでは、湖があった。その周辺が異様に濡れている。

 よく見ると、その近場にシエスタがつけていたカチューシャがあった。

 

「え、なんで……これ……」

「……落ちた後、俺で木の幹を刺してやり過ごしたんだが……その後、でっけえウツボみてえな魚の化け物に襲われてな。嬢ちゃん、そいつに食われちまって……」

「はぁ!?」

 

 地面に降り立ったルイズは、デルフの発言を聞いて唖然とした。隣のアニエスも、何とも言えなさそうな顔をする。

「あまりに急だったもんで、嬢ちゃんも反応できてなかったみたいでな……」

「で、そ、その魚の化け物は……?」

「ついさっき、また湖に潜っていったよ。ありゃあこの湖のヌシだろうな。だが……なんであんなに殺気立ってたんだろうな」

「シエスタ! シエスタぁああああ!」

 

 ルイズはもう、デルフの話など聞いてなかった。

 どうしようどうしよう、やっぱりあの時、手を放してしまったばかりに、こんなことに……!

「落ち着くんだミス・ヴァリエール。」

「落ち着け、落ち着けですって!? シエスタが食べられちゃったのよ! 早く、早く助けないと、たすけ――――!」

 

 その時だ。

 地面が揺れるような衝撃と共に、湖から巨大な水しぶきが発生した。

 なにがなにやらといったルイズとアニエスの目線の先。

 そこには、ウツボのような形状の姿をした魚……大きさにして五メイル以上はありそうな巨魚が、水面から姿を現したのだ。

 

「……もしや!」

「ああ、間違いねえ、さっき嬢ちゃんを食ったヌシだ!」

「あいつが……!」

 

 今度は自分たちを食べようというのだろうか。

 そんな事は分からないが、こっちだって用があるのだ。ルイズは杖を構え、魔力を練る。

「あんたがシエスタを食べたのね! 早く出しなさい!」

 そう言って〝一般攻撃魔法〟を問答無用で撃とうとしたが……先にアニエスが何かに気ついたように告げる。

 

「待て、あのヌシ……何か様子がおかしいぞ」

 

 そう、湖から現れたヌシは、ルイズ達を食べに地表へ顔を出しに来たわけではないようだ。

 むしろ、何かを吐き出したそうに身体を震わせている。

 

「え、なに……?」

 ルイズがそう呟いた直後、ヌシは喀血と共に何かを吐き出す。

『それ』はボチャン! という音と水しぶきを上げ、湖へと沈んでいく。

 数秒後、気泡を作りながら、ヌシが吐き出したモノが岸へと、ルイズ達の目の前へと現れる。

 

「……ぷはっ、あぁビックリしたぁ」

「し、シエスタ!?」

 驚くルイズをよそに、けろりとした表情のシエスタが岸から上がってきたのだった。

 

「大丈夫……なのか?」

 アニエスも恐る恐ると尋ねるが、シエスタ自身は笑顔で「はい」と、簡単に応える。

「デルフさんを落とした時はどうしようかと思いましたけど、剣はもう一本、腰に携えていたので何とかなりました」

 よく見ると、彼女の手には抜身となった日本刀……ヒンメルがかつて使っていたもう一本の愛剣が握られていた。

 一度湖に落ちたことで血は落ちていたのか、その刀身は雅な光を発散させている。

 シエスタは鋭く一閃して水を払うと、鞘の中に剣を納めた。

 

「……ま、心配するだけ損だった、ってわけだな」

 

 デルフはそう言ってカラカラと笑った。

 人類最強の勇者の子孫が、そこいらの魚に食われて死ぬはずも無いのだ。

 

「捌けば食べられそうかなーって、思ったんです」

 シエスタもあっけらかんと言いながら、湖面で動かぬヌシを見つめる。

 ヌシは喀血してから、ピクリとも動かない。これにはデルフも「食ったもんが悪すぎたな」と茶化す。

 

「物資は全部、フリーレンさんの鞄の中ですからね。とりあえずこれを食べて、精をつけましょう」

 

 田舎の村娘という事もあって、野生の生き物を捌いて調理することは得意らしい。

 ついさっきまで自分が食べられる側だったとは思えない様子で、シエスタは池に浮いた魚を引き上げようとした。

 さて、そんな時に気付く。ルイズが拳を震わせ、ぷるぷるさせていたことに。

 

「あ、あああんた……わ、わた……わたしが、どれだけ……どれだけし、ししんぱいしたと……おも、思ってんのかしらぁ……!」

 

 あ、ヤバイ。

 しれっと『未来視』して先を読んだシエスタは、ちょっとルイズと距離を取って両耳を押さえた。

 

「そんな、当たり前のようにけろっとしてるんじゃないわよ!! こぉおおのバカメイドぉおおおおおお!!」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさいって!」

 

 怒声とともにうがー! と両腕を振り回して迫ってくるルイズを、いなしながら謝るシエスタ。

 対するアニエスは、ふふっ、とこの光景を見て笑っていた。

 

「そうだな、シエスタ殿が食われたと知って、今にも泣きそうな顔をしていたのだ。ミス・ヴァリエールの心情も汲んでやってくれ」

「え? そうなのです?」

 するとルイズは、癇癪をやめて「ふんっ!」と、そっぽを向いた。

 そして顔を赤くして、両腕を組んで口を窄めた。

 

「か、勘違いしないでよ! ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ心配したってだけなんだから! ほ、ほら、まだお誕生日会のお返しもしてないし! 礼を返せないままあんたがいなくなるのがイヤだっただけなんだからね!」

 

 顔を真っ赤にさせ、完全にシエスタを見せながら。

 そんな素直じゃないお嬢様の背中を見て、シエスタも微笑んだ。

 

「……本当に、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「い、いいわよ。……分かってくれればいいの」

 シエスタが頭を下げて謝罪すると、ルイズもそれ以上どうこう言うことはしなかった。

「わたしも……あの時、手を放しちゃってごめん」

 それを聞いたシエスタは、笑って「大丈夫ですよ」と返した。

 

 

 その日の夜。

 

 下手に動くよりも、まずは身も心も落ち着けた方が良いというアニエスの提案に従い、湖の際で焚き木を始めるルイズ達。

 シエスタが仕留めた魚のヌシを切り身に変え、それを焼いて今夜の夕食とする。

 

「脂がのってて美味しいですね!」

「伊達にヌシをやってなかったというわけだな」

 

 そんな風に舌鼓を打つ三人。一方、ルイズは物足りないと思ったのか、

「ちょっと待ってて」と、杖を取りだす。

「何をするんです?」

「スパイスが欲しいかなって、胡椒木(ペッパーベリー)を咲かせてるの」

 

 やがて、ルイズの開いた手の上に胡椒木が咲き始め、そこにいくつもの小さな実が実り始める。

 成長を過度に進めることで、花に『実』をつけるレベルまでに練度を上げたのである。

 ルイズはそのまま、枝に咲いた実を全部取ると、おわん型の〝防御魔法〟を形成。簡易的な皿として、そこに全部の実を入れる。

 次いでそのおわん型防御魔法を小さい丸型に変え、そこに何発か〝一般攻撃魔法〟を炸裂させ、実を砕く。

 何発か放った後、粉々になった身を小瓶に移し替えて簡易的な調味料を作った。

 

「うん、やっぱり辛みがちょっとあった方がよりおいしく感じるわね!」

 

 胡椒を焼き魚にかけ、はむはむと一際美味しそうに食べるルイズ。

「試してみなさいよ」と、故障瓶を渡してきたので、言われた通りにかけてみると、味がさらに引き締まったように感じられた。

 

「うん、美味しい!」

「これはこれで……アリだな」

「でしょう! わたしに感謝してよね!」

 

 ルイズは嬉しそうに胸を張る。

 そんな彼女を微笑ましそうな目で見つめるシエスタ。

 ふと、気になったかのようにアニエスは尋ねる。

 

「シエスタ殿、あれで魔法学院では『落ちこぼれ』呼ばわりだったって、本当なのか?」

「さぁ……、わたしも、魔法の事はよくわかりませんけど……」

 

 そんな風にアニエスとシエスタが話していると、ルイズは〝温かいお茶が出てくる魔法〟で三人分の紅茶を作っていた。

 

「何気にミス・ヴァリエールが一番、旅に適した魔法や手段を備えていると思いますよ」

 調味料から飲み物から薬草まで。

 花を自在に咲かせられる分、食事から医療まで、幅広い分野に対応できるようになってきているのが、今のルイズなのであった。

 

 

 

「……さて、問題は、これからどうするかよね」

 

 食事も済んで。

 ある程度心身ともに落ち着けて。

 ルイズ達もまた、「さてこれからどうしよう」かと、頭を悩ませる。

 

「フリーレン達と、まずは連絡が取れればいいのだがな」

 

 流石のルイズ達も、あの程度でフリーレン達が脱落したとは微塵も思ってない。みんな、どうにかしてこのアルビオンにいると、信じて疑ってなかった。

 ……ギーシュやモンモランシーまでは、どうなっているのか分からないけど。

 

「このままわたし達だけでアンリエッタ姫を探すか、フリーレンとどうにかして合流するか……」

「すればいいじゃねえか」

 と、ここで木の幹に立てかけられているデルフが会話に入ってきた。

 

「娘っ子、相棒(フリーレン)と主従契約を結んでるんだろ? 『使い魔と主人は耳目を共有できる』。それを使えば、相棒と連絡が取れると思うんだが」

「やりたいけど、できないのよ。やり方が分からないわ」

 古代竜(エンシェント・ドラゴン)戦で、たまにフリーレンがその手法を使って連絡手段に用いているのは知っているけど、ルイズ自身はまだ、それができないのだ。

 

「ふーん、使えねえからって、そこで諦めちまうんだな。娘っ子は」

「……はぁ!? あんた今なんて言ったのよデルフ!」

 

 ルイズは憤慨して立ち上がるが、デルフはなおも挑発気味に言葉を続ける。

 

「使い魔の相棒(フリーレン)が使えて、主人の娘っ子が使えねえって道理はないはずだろ? この状況じゃ相棒との連絡手段の確立は必須だ。それこそできねえってんなら、できるまで自力で解析を進めて見たらいいじゃねえか」

 

 お前も『魔法使い』なんだろ? デルフはそこまで言った。

 ルイズは一瞬、何も知らないくせに偉そうに! と怒りの言葉を吐き散らしそうになったが……その時になって、フェルンの姿が脳内に過った。

 

(フェルンだったら……きっと、そこで悩まず動くんでしょうね)

 

 そうだ、自分の最終目標を思い出し、頬を叩く。

 出来ない事は一生経ってもできない。できると思い描くこと。それが魔法を使う上で一番大切なこと。

 魔法はイメージ。

 フリーレンの言葉を思い出し、彼女と精神を結合させるイメージを、朧気ながらに手繰り寄せ始めた。

 

(……邪魔しない方が良いんでしょうね)

(だな)

 

 アニエスもシエスタも、しばらく音を立てずに静かにルイズを見守った。

 焚き木の火が小さく爆ぜる音以外、静寂な時が暫く流れて……、

 

「フリーレン……、フリーレン!?」

 急に、目をつむったままルイズは叫んだ。

 

「上手くいったんですか?」

 シエスタが身を乗り出すが、ルイズは人差し指で口元を抑え、「静かに」とサインを送った。

 それを見て口を手で押さえて黙り込むシエスタ。今のルイズは、片方の視線の先にフリーレンの視界を捉えていたのだ。

 

「き、聞こえる? フリーレン?」

『聞こえるよ。耳目の共有、耳だけとはいえ、上手く使えるようになったみたいだね、やるじゃんルイズ』

 

 ルイズの片方の耳に、確かに使い魔であるフリーレンの声が聞こえてきた。

 相変わらず、こちら側の心配など微塵もしていないかのような風情で。

 そんな明け透けな態度に一瞬憤慨しそうになるが……、時間が無い。集中も切らせないので、それは置いておく。

 

「そっちはどんな状況なの?」

『マチルダ、ワルド、コルベールと一緒にいるよ。今はジープの修理中。場所は……、北方ハイランド山脈の中腹だって、マチルダが言ってる』

 

 そっちは? とフリーレンが今度は尋ねた。

 

「シエスタ、デルフ、アニエスと一緒にいるわ。場所は……、でっかい湖があるところ。フリーレン達と合流できないかって、検討しているところなんだけど……」

『ちょっと待ってて……マチルダ。でっかい湖のあるところらしいんだけど……ああ、うん、分かった』

 目線の共有まで上手く接続できてないため、声がルイズの片方の耳で聞こえるような状況だ。

 どうやら、現地人たるマチルダに、自分たちがどこにいるのかを聞いているらしい。

 

「予想らしいんだけど……アルビオンの南側にある『ハドロン湖』じゃないかって言ってる。私達は北側、ルイズ達は南側に流されたみたいだね」

「これからどうすればいいの?」

『マチルダが言うには、私とルイズがいる地点の中間地点に『シティオブサウスゴータ』って街があるらしい。その付近で合流するっていうのはどうかな?』

 

 サウスゴータ……行ったことはないけど、聞いたことはある。アルビオンきっての観光名所の古都だ。街道の終結点でもある。

 それに名前からして、マチルダの故郷でもあるのだろう。

 そこでなら、土地勘のあるマチルダがいる分、拠点にするにもうってつけだし、アルビオンの状況についてもある程度分かるかもしれない。

 アンリエッタ姫を長くお待たせしてしまうが……、手掛かりも無いままにここで慌てて探してていたって、見つけられる筈もなし。まずは一個一個、問題を解決していくことが彼女の救出につながるはずだと、信じて進むしかない。

 

(せめて、わたしたちが行くまでに、無事でいてください。姫さま……!)

 

 逸る心を抑えながら、ルイズはフリーレンと通話を続けるが……、集中が切れ始めてきたのか、耳にノイズが走るようになった。

 

『じゃ……、で。わた……、ね。……ズ』

「うん、……うん! 分かった! そっちこそ気をつけなさいよ!」

 

 そう言った後、「ふぅ……」と、腰かけるルイズ。

「どうでした?」シエスタは尋ねる。

「とりあえず、シティオブサウスゴータに向かう事となったわ。そこに行けば、とりあえずフリーレンたちと合流できる」

「ではまず、この湖を抜けて街道を探すところから始めないとな」

 

 流石にもう、周囲は真っ暗。

 こんな時間に街道なんで探せないので、今日はここで身を休めようと、明日に備えようと寝る準備を始めたところだった。

 

「……そう言えば毛布もないんでした」

「フリーレンの鞄に全部預けるのはやめた方が良いかもな」

「わたしに任せなさい! アルビオンワタの花をいっぱい咲かせて、成長させて……持ち前の魔法で整えて……と、即席の毛布の出来上がり!」

「わぁっ! 本当にすごいですミス・ヴァリエール! 魔法で毛布まで作るなんて!」

「貴殿は立派なメイジだ。わたしとシエスタ殿はそう思うぞ」

「えっへん! もっともぉっと褒めてくれたっていいのよ!」

 

 有頂天になりながらも、きちんと三人分の即席毛布を作ったルイズ。

 それで各々横になった時、それは起こった。

 

 

 

 急に、地響きが起こったのだ。

 

 

「きゃっ、な、なに!?」

 突然の揺れに、ルイズ達は驚きと共に起き上がる。

 幸い、揺れ自体はどんどんと弱まり、小さくなって収まっていった。

 怪我も特になく、驚いた鳥の動物たちが月光に向かって飛びあがるくらいだ。

 

「……アルビオンも揺れるんですね」

「浮遊大陸なのにか?」

「わたしも初めてよ……この大陸で、何が起こっているのかしら?」

 

 それとも、これもアウラとかいう者の仕業なのだろうか?

『浮遊大陸で地震を経験する』という、不可思議な現象を体験することとなったルイズ達だが、結局それで特に被害も被らなかったのは僥倖と言えよう。

 

「……とりあえず、もう寝ましょ」

「そうですね、明日も早いし……」

 

 ということで、再び寝入っていく三人。

 さっきの地震は何だったんだろう? 最初は頭の中で浮かんでいた疑問も、次第に睡魔で塗り潰され。

 夢の中へもぐりこみかけようとしていた時だった。

 

 今度はがさ、ごそ……と、近くの茂みが動く音が聞こえたのだ。

 

「……今度はなによ?」

「……ミス・ヴァリエールにも聞こえました?」

「偶然、という感じでもなさそうだな」

 

 ちょっとうとうとし始めたところになって聞こえた異音。

 こちらへ来るのかと思い警戒していたが、音はだんだんと遠くなっていく。自分たちの方ではなく、反対方向へと向かっていっているようだ。

 

「……聞こえなくなりましたね」

「向こうへ行ったのだろうが……」

「どうします? ミス・ヴァリエール」

 

 シエスタはルイズに尋ねる。彼女は目をこすって、凄く気怠そうな声を出した。

「いいんじゃない? 向こうに行ったんだったら、わたし達には関係ないことでしょ……」

 まあ、眠いのもあるし、無視しても良いのだろうけど。

 どうしようか……とシエスタとアニエスが互いの顔を見合せた後、ぼそりとデルフは呟いた。

 

 

「勇者ヒンメルだったら、間違いなく飛び起きて首突っ込んだんだろうけどな」

 

 

 昔のことを思い出すかのような風情で、老剣は呟いた。

「…………」

 それを聞いて、しばらく寝ていたルイズはやがて、身体を静かに震わせ始める。

 

「あぁもう! 分かったわよ! 行けばいいんでしょ行けば!!」

 

 誰に言うでもなく、怒鳴りながらルイズは飛び起きた。

 せっかく身体が温まってきたのに……と、ぶつくさ呟きながらも杖を懐に収める。

 シエスタとアニエスも、同じ様に倣った。

 

 

 杖先に光を灯しながら、ルイズ、アニエス、シエスタの三人は音の発生源まで静かに辿る。

 先頭はルイズが進んでいるが、戦いとなった時は、『前衛』を務める二人がいつでも前に出れるように準備していた。

「そろそろだと思うけど……」

 茂みをかき分け、ルイズ達の前に『音の正体』が現れる。

 

「ひっ……!」

 そこには、ボロボロな服装の少年が、水筒を片手に驚いた眼でこちらを見ていた。

 

「さっきの震災で大怪我ですって!?」

 ルイズ達は、出会ったその少年にどういうことかの説明を受けていた。

 

 この少年はこの付近で住む村の少年とのことだが、先の震災の影響で屋根が倒壊し、押し潰された人が出ていたのだという。

 少年はなくなった水を汲みにこの湖近辺にやってきていたとのことだ。

 

「うちの母ちゃんも、地震のせいで怪我をしちゃって……」

「……ミス・ヴァリエール」

 

 泣きながら喋る少年を慰めながら、シエスタはルイズを見る。

 ルイズは今、戦闘とはまた違った緊張感を徐々に味わい始めていた。

 腰につけている……長女エレオノールから貰った医療ポーチに手を伸ばした。

「……早く、村に案内なさい」

 ルイズの言葉に、少年は頷いた。

 

 

 少年に案内された向かった村は、倒壊した建物と横たわる人々のうめき声で埋め尽くされていた。

 数にして数十人前後の村。どうやら動ける者はそういないらしい。

 その半数が大怪我に見舞われている。

 

「早く助けましょう!」

「力仕事なら私でも手伝える」

 

 村の惨状を見たアニエスとシエスタは、すぐに動いて村人の救助に当たる。

 一方、ルイズは怪我人が運び込まれている、大きな家の中で症状をみていた。

 

「……これはまずいわね」

 

 ここへ案内してくれた少年の母親ほか、怪我した人たちを見ながらルイズは呟く。

 建物が倒壊したせいで薬どころか包帯すらまともに用意できてないらしく、切り傷や痣がそこかしこに目立っている。

 これでは、いずれ膿んで命を落とす危険性もある。すぐに、適切な処置が必要だった。

 

「このままだとどうなるのですか?」

「……とにかく、こうしちゃいられないわ! あなたはあの子の代わりに水を持ってきて、それからあなたは怪我した患者を集めて。まとめて面倒見た方が早いから!」

 ルイズはてきぱきと、周囲の人々に向かって適切な指示を下し始める。

 あとはもう、時間との勝負。動ける者と連動して、患者を一か所に集めていく。

 

「お姉ちゃん、メイジのお医者さんなの……?」

 

 ふと、自分たちをここに連れてきた少年が、ルイズに向かって言った。

 それに対し、ルイズはすぐに「そうよ」と、答えることができなかった。

 次女(カトレア)を治すために、薬師になるために動いているとはいえ、実際に『人を看る』というのは、これが初めての経験だったからだ。

「……残念だけど、医者を名乗れるほど、経験豊富なわけじゃない」

 けど……と、ルイズは続ける。

 

「あなたのお母さんは勿論、村の人みんな、何とか治してみせるわ!」

 

 少年を安心させるように、ルイズは力強い声でそう返した。

 ルイズの、初めての『薬師』としての戦いが始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。