使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第15話『ルイズのはる』

 

 一方その頃。

 

「ううっ……」

「マルトーさん!」

「大丈夫ですか?」

「マルトー、しっかりするんだ!」

 

 マルトーはすでに、死を覚悟しているかのような悲壮な顔つきで、シエスタやコルベールに語りかけていた。

 真っ青な表情をしながらも、心配させまいと無理に微笑みを浮かべていた。

 

「へへっ……もう、おれぁダメみたいだ……」

「そんなこと言うんじゃない!」

「あの嬢ちゃんたちに伝えてくれ。ありがとよって……、こんなおれのために、頑張ってくれて嬉しかったってよ……」

「マルトーさん! もう少し! もう少しだけでも粘ってください! きっとミス・ヴァリエールが……!」

 シエスタが涙ながらに叫ぶ。それでもマルトーはもう、微笑みを維持することすら辛そうな表情に変わっていった。

 コルベールは唇をかみしめる。

 

(もし、もし本当にダメだったら、いっそのこと私が魔法で……)

 

 職人という誇りはなくなるだろうが、それでも死ぬよりかはマシなはず。暗い覚悟を決めようとしていた。その時だった。

 勢いよく扉が開かれ、そこからフリーレンが入ってきた。

 

「生きてる? マルトー」

「フリーレンさん!」

「あと数秒待って」急ぎ机に向かい、そこに立てかけてある、先ほど作っていた毒薬瓶を取り出す。

「あ、あの……、フリーレンさん。花は……」

 シエスタは恐る恐る尋ねる。その目は真っ赤だ。それでも声色は、一縷の期待を込めていた。

 フリーレンはニッ、と微笑んで片手にあるものを見せる。そこには雲のように微風を受けて靡く、白い花がある。

「それが……風雲花?」

「そうらしいね」

 フリーレンは会話しながら作業を続ける。

 花の部分をさわさわと程よく握る。すると透明の雫が一粒現れ、すると薬瓶の中へと吸い込まれていく。

 するとどうだろう。濁った土色と形容すべき毒薬の外見が、一気に洗浄されて無色透明へと染まっていった。ほぼ水と言っても差し支えないほどの綺麗さへと様変わりする。それに伴い、悪臭も一気に消えた。

 

「風雲花の雫が、さっき入れた薬剤と混ざりあって浄化されたんだ」

 

 フリーレンはそう言うと、薬瓶を軽くかきまぜた後、マルトーに向ける。

「早く飲んで」

 言われた通り、マルトーは薬瓶を口につけ、一気に飲み込んだ。

「ぷはっ……!」

「後は横になって安静にしてて」

 フリーレンは残った瓶の雫を新しい包帯に垂らすと、マルトーの腕に巻いていたのと交換した。

 一連の流れを見たコルベールは、思わずフリーレンに尋ねた。

「ど、どうなんだねミス・フリーレン? マルトー親父は……」

「ギリギリだったけど、何とかなったと思うよ。先の薬の効果を見るに、ちゃんとした花が生成されたみたいだったから」

 フリーレンは安心させるような声で言った。

 それを聞いたキュルケやコルベールは、マルトーが助かった安堵感もそうだが、それ以上に……、

 

「えっ、じゃあルイズは……」

「魔法を、遂に一人で……?」

 

 そう、ルイズがついに魔法を成功させたという事に、驚いていた。

 それに対し、フリーレンもこくりと頷く。

「うん、正直五年かかると思っていた。間違いなくあの子は天才だよ」

 虚無のあるなしに関わらずね。フリーレンはそう、心の中で付け足した。

 

 

「あ、あの! ありがとうございます! フリーレンさん! マルトーさんを、ありがとうございますぅ!!」

 マルトーが助かったと聞いたシエスタは、破顔しながら何度もフリーレンに向けて頭を下げた。

「礼ならルイズに言ってあげて。私ははっきり言うと、間に合わないと思ってたから。あの子が文字通り全力をかけて花を咲かせたからこそ、マルトーは助かったんだ」

「はい! そういえばミス・ヴァリエールは……?」

 シエスタの言に、フリーレンは杖を呼び出し、それを一振りする。

 すると、倒れたルイズがふわふわ浮きながら、部屋へと入ってくる。

「み、ミス・ヴァリエール!」

「ちょっとルイズ! 大丈夫なの?」

 シエスタやキュルケが、ルイズに呼びかける。その身は泥だらけ。綺麗な桃色がかった金色(ブロンド)の髪のつやも、無残なものだ。

 そんな彼女は今、全てを出し切ったかのような表情で気絶している。

「文字通り全力を出し切って疲れたみたいだね」

 フリーレンはそう言うと、窓から外を見る。綺麗な夕焼け空が、雲の切れ目から煌々と照らし始めていた。

「完全に日が落ちる前に、マルトーを運んで学院に戻ろうか」

 フリーレンの言葉に、周囲は頷きで返した。

 

 

 あれから一時間後。

「……ん」

 ルイズは、ゆっくりと目を覚ました。

 ぼやけた視界で最初に映ったのは、学院での自分の部屋、その天井。どうやらベッドで寝ていたみたいだ。

 髪も身体も、泥まみれではなくちゃんと綺麗になっている。

「あ、ミス・ヴァリエール! 目が覚めたのですね!」

 次いで声と共に視界に映ったのは、シエスタだった。

「し、シエスタ……?」

 ルイズは目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。

 そして今までの記憶を振り返った。そうだ、花は……?

 

「どうなったの!? 料理長は無事だったの!?」

 

 次いでルイズは、慌てた様子でシエスタの両肩を掴んでガシガシと揺する。

 最後に杖を振り下ろした時から、記憶が無いのだ。どうなったのかを尋ねたくなるのも当然というもの。

「お、おおお落ち着いてくださいミス・ヴァリエール! マルトーさんはご無事ですから……!」

「……え?」

 その声を聞いたルイズは、呆然として固まった。

 と、いうことはつまり……、

 

「あ、起きたんだ。ルイズ」

 

 ルイズは咄嗟に、声のする方向へと振り向く。さっきの声は使い魔のものだったからだ。

「ふ、フリーレン! 魔法は!? 花はどうなったの!?」

 ルイズの使い魔となったエルフ、フリーレンは今、部屋の端で椅子に座っている。そこで『誰か』を診ている様だった。

 

「ねータバサ、いい加減教えなさいよ。何してそんな怪我負ったわけ?」

「…………」

 

 その横では、キュルケがタバサに詰問していた。

 どうやら、椅子に座ってフリーレンから診察を受けているのはタバサのようだった。

「あ、タバサ、帰ってきてたの……?」

 ルイズも一瞬、タバサの方に目を向けて、少し驚きで目を見張る。

 

 

 何故か彼女は、ボロボロになって帰ってきたのだ。

 

 ところどころ破れた制服の穴から、切り傷や打撲のような痣が見え隠れしている。

 顔を見れば片目を瞑っていた。瞼にできた切り傷が悪化したのだろう。赤く腫れ上がり、瞼を開けられないようだった。

「あ、あんた……、どうしたのよその怪我?」

 ルイズは思わず、魔法成功の事を忘れてタバサに問う。しかしタバサは沈黙を貫く。

「それがさあ、どうしても言わないのよこの子」

 キュルケもお手上げとばかりに両手を広げた。

 フリーレンはここで、ルイズに『双月草』の種を入れた瓶を向けながら、

 

「ルイズ、起きて早々だけど魔法で花を咲かせてよ。タバサのために『治療薬(ポーション)』を作りたいから」

 

 そう言われたルイズは、『貴族の自分が命令された』という反感よりも『無能なはずの自分を頼ってくれた』という、正の感情で心が揺れ動いた。

「……え?」

「さっきの成功で、イメージはつかめたでしょ? あの通りにやれば、安定して花を咲かせられるはずだから、やってみせて」

 まるで成功体験を忘れさせず、復習させるかのような面持ちで、フリーレンは気軽に言う。

「え、じゃあ、本当にわたし、風雲花を……?」

「はい、ミス・ヴァリエールは確かに成功させたんですよ! 自信を持ってください!」

 シエスタも笑顔でルイズにそう言った。キュルケは立ち上がって、棚の上に置いてあったルイズの杖を手に取ると、

 

「お願いルイズ。タバサを治したいの。あなたの魔法で、治療薬の素材を出して頂戴」

 

 そう言って、恭しい態度でルイズにお願いした。

「……」

 ルイズは無言で杖を受け取る。そしてちょこんと座るタバサを見た。

 何かと戦ったのだろうか? それにしてもこの傷は尋常じゃない。かなりの激戦だったのが容易に想像できるほど。

 とにかく、こうしてはいられない。ルイズは思わず、杖を握る手に力を籠める。

「え……っ、と……」

 静かに目を瞑る。フリーレンがこちらに向けている、芽の入った瓶に意識を集中させた。

 そして静かに一筋の汗を垂らす。えっと、どうやったんだっけ……?

 暗闇の視界の中で、必死にどうやって花を咲かせたかをイメージする。

 そんな折――――、

 

「ねえルイズ。花を咲かせる時、何をイメージした?」

 

 唐突に、フリーレンが尋ねてきた。

「え、えっとね……確か……」

 ここまできて、ルイズは記憶が鮮明となった。

 そうだ、〝風〟だ。

 

 

 晴れ渡る空の下、風が花を咲かせるのに必要な栄養を運んだかのような、そんなイメージを思い描いたのを思い出した。

 

 

「そよ風……、そう、そよ風。風の力で、地面に埋まった芽を、花にする力を送った……ような気がするわ」

「じゃあ、そのイメージを明確に思い描いてみて」

 フリーレンはアドバイスする。

『魔法はイメージの世界』。どんな直感的な事であれど、それが魔法を扱う上で一番大事な要素だというのは変わらない。

 

(多分、ルイズは虚無が無かったら『風』系統だったのかもしれないな)

 

 静かに瞑想を続けるルイズを見ながら、フリーレンは思った。

 最初は動揺と困惑で魔力の流れが乱れていたが、落ち着きを取り戻すとともに、魔力の流れが再び流麗なものへと戻っていた。

 やがて、フリーレンの目には、ルイズの魔力に刺激を受けていく瓶の中の芽の様子が、薄っすらと見えた。

 そして……、

 

「……!」

「やったわ! 咲いたわよルイズ!」

 

 キュルケの驚きの声で、ルイズは目を開いた。

 そこには、瓶の中にあった地中から、白と赤、ハルケギニアの月になぞらえた二つの花が見事に咲いていた。

「……ほんと、に……わたし……」

「ありがとうルイズ。これでタバサの怪我を治せるよ」

 フリーレンはそう言うと、瓶の蓋を開け花を取り出し、花弁を綺麗に取り払う。この花は花弁に癒しの力が込められているのである。

 白と赤の彩りを持った花弁をすり潰して、すでに別で作ってあった、別素材の粘液を投入。丸めて団子状にして、これまた途中まで作ってあった薬瓶の中に移し替える。そこに水を入れて攪拌して、団子にした素材をトロトロになるまでかき混ぜ、飲み薬に変えてからタバサに渡す。

 

「はいこれ、できたよ『治療薬(ポーション)』」

 

 フリーレンは自慢げな表情を浮かべて、タバサに瓶を手渡す。これは学院でも一般的に普及している、外傷を治す治療薬である。『水』の力が込められているため、単品でもそれなりに効果を発揮する。

「ありがとう」

 薬を受け取ったタバサは、そのまま一気に飲み干した後、自身の『水』魔法で『治癒』を唱える。

 こうすることで効果はより倍増され、全身を覆っていた切り傷は見事に塞がり、腫れ上がっていた瞼も元に戻った。

 

「ありがとう、ルイズ」

 

 両目をぱっちりと開けたタバサは、改めてルイズに向き直ってお礼を言った。

 タバサからお礼を言われたルイズはというと、

 

「わたし、夢を見てたの……」

 やがて、静かに身を震わせながら、言葉を紡ぎ始める。

 

「元気になったちいねえさまと一緒に……、わたしが作った花畑の中で、楽しく笑いあう光景を……」

 ベッドのシーツを無意識に握りこみながら、拳を震わせて。

 

「でも、夢を見ながら『これは夢だ』って思ってた。だって……ちいねえさまが元気になることもそうだし、何よりわたしが魔法を使えるなんて、夢でもあり得ないって、思ってたから……」

 夢の中に見た次女の笑顔も、元気に歩く姿も、すべては『そうなったらいいな』という絵空事、現実はこんなことありえないって、わかっているのに。

 目が覚めたら、魔法が使えたことすらすべては自分の空想、妄想だと思い込んでいたルイズだった。

 でも……――――、

 

「もう、夢にしなくてもいい。そうなのよね? フリーレン……」

「うん、ルイズはもう、『魔法成功率ゼロ』じゃなくなったよ。ちゃんと、自力で花を咲かせる魔法を、会得できたんだから」

「……っ!」

 それを聞いたルイズは、綺麗な一筋の涙の上で笑顔を、フリーレンに向けた。

 

 

「やった……! やったんだ……、今度こそ魔法を……わたし一人の力で……!」

 

 

 そしてそのまま、ベッドのそばまでやってきたフリーレンの身体に、思い切り抱き着いて嗚咽をこぼし始めた。

「ありがとう……! フリーレン、本当に、わたし……!」

「よしよし、頑張ったね。ルイズ」

 しばらく、ルイズの嬉しさの籠った泣き声だけが、静かに部屋中に響いた。

 

 

 その日の夕食。

 ハルケギニア、トリステイン魔法学院。ルイズの部屋。

 

「いやあ、嬢ちゃんたちのおかげで本当に助かった! おかげで腕もほれ! 元気に動かせるようになったぞ!」

 そこには、腕をぶんぶん振り回しながら、快調になったマルトーの姿が。

「今日は腕によりをかけて作ったんだ! さあ嬢ちゃんたち! じゃんじゃん食ってくれ!」

 命を、職人としての魂を救ってくれた礼として、わざわざルイズの自室にやってきてまで、料理をふるまっていた。

 隣には数人のコックや使用人も呼び寄せているあたり、料理長としての本気が窺える。その中にはシエスタやローラもいた。

 テーブルにはルイズをはじめ、隣にフリーレン、そしてキュルケとタバサもいた。

 食卓には豪勢なチキンやシチュー、バスケットの中には香しい匂いを放つ様々なパン、シチューや湯気とともに美味の二文字をルイズ達の鼻腔に届け、それが彼女たちの食欲を程よく刺激する。

 メニュー自体は学院でも出てくるものと変わらないが、この芳醇な香りだけで今までの料理とはレベルが違う、誠心誠意込めて調理したのだという気合が、伝わってきた。

 

「本当にいいの?」

 この料理を見て、最初に呟いたのはタバサだった。

 なぜなら、今回彼女はこの事件に全く関わっていない。それなのにご相伴にあずかってもいいのかという、遠慮の声だ。

 

「いいわよ、食事はみんなで楽しんだ方がいいでしょ?」

 

 意外にもそう返したのはルイズだった。その顔は今までにないくらいに朗らかな表情を浮かべている。

 魔法を成功させ、『ゼロ』じゃなくなったという事実が、彼女に大きな余裕を齎し始めていた。

「ありがとう」

 タバサは軽く微笑みを浮かべると、サラダからまずは手を付ける。

「よーし、食い溜めるぞ」

 そう言うフリーレンの皿には、一枚三百グラムはあろうかという大きなステーキが何枚も乗っていた。

「あ、あんた、本当にそれ全部食べるつもりなの? 太るわよ」

 ルイズは思わずツッコむが、フリーレンは気にした様子もない。

「たまにこういうことしたくなるんだ。特にマルトーの料理は今までの旅路の中でも群を抜いているから」

「がっはっは! 言ってくれるねぇエルフの嬢ちゃん! 危ないところを助けてくれた礼だ! 好きなだけ食ってくれ!」

 マルトーは豪快に笑いながら、言った。

「折角だし、シエスタ、あんたも一緒に食べましょうよ」

「ええ!? いいんですか!? 貴族の食卓にわたしなんかが……」

「いいじゃねぇかシエスタ! ここで誘いを断る方が無礼にあたるってもんだ!」

 最終的に同僚のローラに押される形で、シエスタも席に着く。

 

 

「うん、美味しい」

 ステーキをぺろりと平らげ、今はシチューに手を付けながら、フリーレンは言った。

 あんな華奢な身体のどこにそんな入るんだ? と疑問に思いながらも、ルイズも鳥の蒸し焼きに舌鼓を打つ。

「確かに、いつも学院で食べているものよりずっと美味しく感じるわ」

 それもあるのだろうが、何より精神的な余裕をもって食事をしたことなど、今までなかったというのも大きい。

 ずっと抱え続けていた問題が落ち着いたというのも、より味覚が鮮明になった理由の一つであろう。

「そうねえ、助けてよかったわねルイズ。彼がいなくなったら間違いなく学院の料理の質が落ちるってものだわ」

 そう言いながら、キュルケは極楽鳥のソテーを切り分け、口に運ぶ。

「マルトー、ほかにない?」

 その頃にはフリーレンはもう、シチューの鍋を空にした後だった。

「はやっ!?」ルイズも呻く。

「もっと」タバサも遠慮しなくていいと分かったのか、どんどん皿を平らげていく。

「ちょっと待ってくれ、今出来上がるところだ!」

 一方のマルトーは、鉄板の上で巨大なロブスターを調理していた。それを見た女性陣も「おおっ」と声を上げる。

 少女たちの目の前で調理していたマルトーは、そのままロブスターを切り分けさらに提供していく。

「ありがとう、マルトー」

 こうして、食事会は賑やかに過ぎていった。

 

「あー美味しかった」

 食後のプリンをゆっくり味わうフリーレンの表情は、満足の二文字が浮かんでいる。

「確かに美味しかった」タバサもうんうんとそれに続く。

「本当に楽しかったです。誘って頂きありがとうございます!」

 シエスタは静々とお礼をする。「いいわよ」とルイズは手を振った。

 

 

「満足してくれたなら何よりさ。もし腹がすいたら遠慮なく言ってくれ。あんたらは俺の目が黒いうちは絶対に餓死させたりしねえからよ、『我らが妖精』!」

 

 

 マルトーは豪快に笑ってフリーレンの肩を叩いた。

「『妖精』?」

「おう、俺はあんたをこれからそう呼ぶことにするぜ!」

「えぇ……、うん、まあ、いいけど」

 嬉しさが天元突破したマルトーのはっちゃけぶりに、若干辟易するフリーレン。

 けど、実力は確かなのだ。彼と懇意になっておくのは悪いことじゃない。

 けど、バンバン肩を叩くのはやめてほしい。むっちゃいたい。

「マルトーさん、フリーレンさんが痛がってますよ!」と、シエスタがこっそり伝えたことで、「おお悪かったな!」とマルトーも素直に退いた。

 

 最後のデザートも残さず食べた後、ちょっと間をおいてキュルケは尋ねる。

「ねえフリーレン、あんたっていつもそうなの? タバサ以上に食べてたように見えるけど」

「いつもじゃないよ。さっき言ったようにたまにだけ。美味しい料理はたっぷりと味わいたいからね。いつ食べられるか分かったものじゃないし」

「おいおい『我らが妖精』よ! お前さんが望むならいつでも出張して食べさせてあげるぜ! なにせあんたは命の恩人の一人――――」

「でも、百年も生きないでしょ? マルトーも」

 急に飛んできた言葉に、マルトーは一瞬、静かになった。

「百年後、ふと思って訪ねて、二度と食べられなくなった料理は沢山あるから。なるべく今記憶したいんだ。こういう美味しかった料理の味は」

「……心配しないでくれ嬢ちゃん」

 ややあってマルトーはとりなすように言う。

「俺の味は絶対に残す。百年後でも二百年後でも。『我らが妖精』とそのご主人様が、俺の命を救ってくれたという逸話とともにな」

 聞いたフリーレンは、寂寥の笑みを浮かべて言った。

 

 

「やっぱり料理人は皆そう言うんだね。そう言って過去の料理の味を変えて、必死になって爪跡を残そうとする。オイサーストでも聞いた言葉だ」

 

 

「……」

 今度こそ、マルトーも押し黙ってしまった。

「ちょっと、フリーレン……」

 見かねたルイズが、思わずフリーレンをなだめようとする。

 少しの間、訪れる沈黙。それを破ったのはマルトーだった。

「ふふ……。確かにそうだな。おりゃあいつしか、現状に満足しちまってたのかもしれねえ……」

 快活で豪快な彼からすれば珍しい、自嘲気味の声を含ませて。

「魔法ができる貴族様が天辺に立つこの世界、こなくそと料理の腕を磨いて数十余年、俺は料理に関しては『極めた』と思っていた。この技術だけなら、誰にも負けねえと、メイジにだって負けねえと思っていた。……そしてそう思っていた時点で俺は、成長をやめちまってたんだな」

 

 味を後世に繋ぐ。

 

 意識したことはなかったけど、今思えば意識しなければ一流を名乗れないと、この時マルトーは強く思い始めたのだ。

 百年経っても忘れられない味を目指す。その先に自分はいないかもしれない。だが、自分が成したことだけは未来にずっと根付いていく。

 それこそが、歴史に名を残すに足る本物の料理人であることだと、マルトーはこの時、心で理解したのだった。

 

「ありがとうよ嬢ちゃん。俺もまだまだ、料理人として未熟だってことを教えてくれてよ。安心しな。絶対に俺の味は後世に残す。何が何でも。未来で嬢ちゃんを独りぼっちにゃあさせねえよ。だから百年後といわず、千年後にまた来てくれ。絶対に後悔はさせねえからよ!」

 

 マルトーは飛び切りの笑顔を浮かべて、手を差し出す。フリーレンもその手に応え、二人は力強い握手をした。

「ううん、こっちこそありがとう。マルトー。また助けてほしいことがあったら、協力するから」

「良いってことよ! ったく、こんな話の分かるエルフの嬢ちゃんを恐れるたぁ、始祖ブリミルってのは目がねえよな本当に!」

「あの、マルトーさん、フリーレンさんはハルケギニアのエルフじゃないらしいのですが……」

「どっちにせよ同じことよ! また腹が減ったらいつでも来てくれ! 『我らが妖精』! ミス・ヴァリエールの嬢ちゃん! 今日は本っ当にありがとな!」

「うん、じゃあ百年後にまた、食べに来るね」

「おう! よぉぉし! こうしちゃあいられなくなったぞ! おい何してるお前ら! 百年先の予約を承ったんだ! 今から仕込みの準備始めるぞ!」

「はい!」

 マルトーはいつにない張り切りを見せたのち、料理人たちと共に厨房へとすっ飛んでいった。新たな目標ができたことが、彼を料理人として更に一皮剥けさせたのだった。

 

 この後、トリステインが誇る料理人、マルトーの名は人類の歴史が残存するまで、確かに味とともに残り続けるのだが、それはまた、遠い遠い未来の話。

 

 

「マルトーさん、すごい気合の入りっぷりですね。ちょっとびっくりしちゃいました」

「それだけ料理に誇りを持っているってことなんだろうね」

 フリーレンもマルトーの姿勢を肯定的に受け止めながら発言する。

 あれなら、オイサーストの時のように、今以上の料理の味を探求することだろう。今から百年後を、ちょっと楽しみにし始めていた。

 

「それにしても百年後かぁ……」

 キュルケは思うような声で言った。

「まあ、あたしたちでも生きてないでしょうね」

「人間寿命の限界」タバサも仕方のなさそうな声で、呟く。

「フリーレン。あんたって、本当に寿命の概念がないのね」

「みんなが早く死に過ぎちゃうんだよ」

 フリーレンも、そこはどうしようもないだろうなとばかりに言った。

 

「そっか……」

 思うような声で、ルイズも呟く。

 そしてふと、フリーレンが仲間とともに〝魂の眠る地(オレオール)〟なる場所へ旅している途中だということを、思い出す。

「ねえ、『オレオール』って確か……」

「死者の魂が眠る場所。……って師匠(せんせい)は言うんだけどね。私も直接その目で見たわけじゃないから何とも言えないんだよね。ただ、師匠はそこでかつての仲間と対話したって、手記には書いてあった」

「なんでそこに行くの? 誰に会うつもりなの? その師匠?」

「どうだろうね。……まあとりあえず、ヒンメルには会うつもりだよ」

 ルイズ達は、残ったシエスタが入れてくれた紅茶を飲みながら、いつしかフリーレンの話に耳を傾けていた、

「そんな場所、フリーレンは本当にあると思っているの?」

「あるかどうかといわれれば、今も懐疑的だけど……」

 紅茶を口につけ、皿に戻しながら、断言する声で、言った。

 

 

「天国は〝あった方が〟都合がいい。私と旅をした戦友たちが残してくれた言葉だよ。私も今はそれを信じてみたいんだ」

 

 

「……そうだね」

 意外にも、それに強く賛同の意を示したのは、タバサだった。

 二人が賛同したので、キュルケやルイズも、信じるようにうなずいた。

 けど……、とルイズは思う。

 

(やっぱり、それでも重要なのは〝今〟この瞬間なのかもしれないわよね。死んだ人に会いたいって願望も、やっぱりその人に対する未練があったからなんだろうし)

 

 なおのこと、こうしてフリーレンと会話できる時間が、今のルイズにとっては何よりも大事な時間なのではないか? そう思うようにもなっていった。

 寿命という限界がある以上、どうしたってルイズはフリーレンと、永劫一緒にいることなんてできやしない。

 それでも、自分のコンプレックスを治してくれた恩人に、何か一つでも返したい。その思いが、次の言葉へとつながっていく。

 

 

「フリーレン」

「なに?」

「わたし、もっとエルフについて、あなたについて知ろうと思うの」

 

 

 ルイズは意を決してそう告げる。思えば、自分はブリミル教徒だから、周りに『そう言われたから』というだけで、エルフを過剰に恐ろしがっていた。

 それは全くの未知からくるもの。聖地を阻む番人という姿でしか、エルフを知らないというのもあった。

 だからこそ、きちんと知ろうとルイズは思ったのだ。勿論、フリーレンはハルケギニアのエルフじゃないから、あらゆる意味でイレギュラーな存在というのは分かっているけれども。

 それでも彼女は、自分に魔法を教えてくれた。今度は自分が、フリーレンを守る番だ。

 それが自分に付き添ってくれる使い魔に対する、最低限の礼儀だと思ったのだ。

 

 

「だからもっと、あなたの事を教えて。魔法の事も、仲間のことも含めてもっと」

「うん、分かった」

 

 

 一方『エルフ(じぶん)を知ろうとしてくれる』と言ってくれたルイズを、正面から見たフリーレンもまた、かつての自分の言葉を思い出し、嬉しさで少し顔を綻ばせた。

「大丈夫だよ、ルイズやキュルケ、タバサ、シエスタとこうして食卓を囲んだ時の会話も楽しさも、ちゃんと私が未来に繋いで行くから。私は忘れないよ。ルイズっていう子が一時期、私の主人であったということは」

「フリーレン……」

「私の名前を呼ぶより先におばあちゃん呼ばわりしたことも、決して忘れないよ」

「……それは忘れてもいいのよ」

 意外と根に持つなこのエルフ。

 ルイズは内心、思わずつぶやいた。

(気をつけなさい。あれ相当気にするタイプよ)

(三日三晩泣きわめくのも、たぶん本当かもしれない)

(わ、わかった、気を付けるわ……)

 キュルケとタバサのひそひそ助言に、思わずうなずくルイズだった。

 

 

 

 フリーレン召喚から6日後。

 トリステイン魔法学院。

 

「今日の授業は、外で行います」

 晴れ渡る青い空の中、シュヴルーズの授業が行われていた。

「さて、今回は〝土〟を使った実践的練習です。早速、この草原に撒いてある種を花へと成長、促進させる魔法を教えていきます」

 

 そうして、シュヴルーズの授業が始まった。

『錬金』を応用させ、植物の発育や促進を目指す。『錬金』自体は基礎魔法だが、ここから先は『土系統』に根差した者でなくば難しい、中級レベルの応用編だ。

 そのため、今回参加している者の中に、タバサやキュルケはいない。これは『基礎学』ではなく『専攻学』という授業。土系統だと判明した者のみが受ける講義なのである。

 花を『錬金』で咲かせる方法を教えたシュヴルーズは、ここで目の前に準備していた草原を指さし、言った。

 

「さて、今回の魔法を早速やってもらおうと思いますが、どなたか実践してくれる生徒は……」

「はい!」

「はい、ミス・ヴァリエール。どうしましたか?」

「その魔法、是非このわたしにやらせてください!」

 

 あまりに意気揚々というので、周囲は騒然とした。

 どうせ無理だろうと、というか何故『ゼロ』のルイズがこの講義を受けているのかすら、良く分かってない生徒は彼女を怪訝な顔で見る。

 一方で、かつてヴェストリの広場に居合わせた生徒たちはルイズのあのバカ魔力を見た事、曲がりなりにも一回魔法を成功させているという事実から、どうなるのか黙って見守る者もいた。

 ギーシュなんかはそうだろう。先程から彼女のことを、「やってくれるのではないだろうか」と、熱心な目で見ていた。

 

 ルイズは周囲の色んな目線を気にせず、目を閉じ魔力を集中する。

 イメージを確立させる。蒼天の中、晴れ渡る天気が運ぶ風に、栄養を送る想像を作り上げ、そして集中した。

 やがて、ルイズは目を開ける。そこには草原の中に植わっていた種が、見事開花させていく光景が広がっていた。

 

「おお!」

 あまりの光景に、周囲は思わず騒然とする。

 あのルイズが、遂に魔法を爆発させずに行使した。

 それだけではなく、ちゃんと指示通りに花へと成長させたのだった。

 他にも、彼女の周囲には色んな花が咲き乱れている。満点ぶりの魔法の行使に、シュヴルーズは思わず拍手で迎える。

 

「素晴らしい! ついに系統に目覚めたのねミス・ヴァリエール!」

 

 ぱちぱちと、シュヴルーズはルイズをほめた。

「あ、ありがとうございます!」

 褒められ慣れていないルイズは、こそばゆそうな表情を浮かべる。

 ちゃんと花を咲かせた後でも修行を重ねていたルイズは、周囲十メイルほどならば自身が思い描いた花を、きちんと咲かせられるようになった。

 

 さて、周囲の反応は様々であった。

 

「おいおいおい! ついにルイズが魔法を使ったぞ!」

「『土系統』ってことか? でもルーン使ってなかったよな……」

「ってか、ぶっちゃけ今の『先住魔法』じゃねえの?」

 

 そう、大体のメイジはすでに感づいていた。

 今のはメイジが扱う系統魔法ではないと。杖は持っているけど、呪文を使わずに魔法を発現させたのだから。

 ルイズ自身、そこを突かれると何にも言えなくなってしまう。なんて繕うか、必死になって考え始めるが……、そんなざわつく周囲を諫めたのは、シュヴルーズだった。

 

「いいじゃないの。そんなことはどうだって」

「せ、先生。トリステイン魔法学院の教師として、それはどうなんですか?」

「系統だろうと先住だろうと、魔法は魔法です。だって御覧なさい」

 

 シュヴルーズはとても誇らしげな面持ちで、畑に咲いた花を見る。

 指定した草原で咲いた花はシュヴルーズが植えたものだが、その周りでゆらゆら揺れる、いわゆるルイズ自身が余波で咲かせた花を。

 

 

 

「双月草に風雲花、そのほか色とりどりの花……、これらはすべて、病や毒、怪我を治すのに使う薬草ばかりです。この魔法は、何よりもやさしさで満ちている」

 

 

 

 風が運ぶ、かぐわしい花の香りを顔で受けながら、シュヴルーズは続ける。

「『誰かを治す』という、善意で満ちた魔法が悪であるはずがない。そうでしょう? ミス・ヴァリエール」

「はい……、はい!!」

「思えば、あなたのお姉さまも学院きっての優秀な土使いでした。あなたもまた、その血を継いでいるのね」

「エレオノールねえさまのことですか?」

 次女とは対照的な、とても厳しいがゆえに苦手意識を持つ長女の顔を、ルイズは思い浮かべて少し顔をしかめた。

 あの長女と同じと言われると、少し複雑な思いもあるのだが……、

「胸を張りなさいミス・ヴァリエール。あなたは確かに優秀な、土使いのメイジですよ」

 シュヴルーズがやさしく肩を叩くので、ルイズも思わず、小さく頷いた。

 するとここで、ギーシュが前に出てきて、素直に賞賛の拍手を送る。

 

 

「やったじゃないかルイズ。これでもう君を、『ゼロ』とは馬鹿にできないな」

 

 

 ギーシュの拍手につられて、他の生徒からも拍手が起こる。

 生徒全員からやがて拍手されたルイズは、この学院に来て初めてかもしれない、満面の笑みで手を振った。

 

 

 さて、そんな様子を遠目で見ていたフリーレンは、ふと昔のことを思い出した。

「よかったね師匠(せんせい)。師匠の考えた魔法が、巡り巡ってルイズの助けになったみたいで」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 千年前。

 まだフリーレンが、大魔法使いフランメに師事していた時の頃。

 

「〝魔力経路を作って補助する魔法〟?」

「ああ」

 

 机の上に、たくさんの魔法陣が描かれた羊皮紙を広げながら、在りし日のフランメは言った。

「最近、色んな奴らを見ている内に気付いたことがあるんだ。潜在的に大魔力を宿す人間が、時たま出てくるってことにな」

 魔力は基本、鍛えた年月で底上げされるのが普通なのだが、時に強大な魔力を持って生まれる人間が、出ることもあるのに気づいた。

「けどその中には、大魔力を宿すが故に〝上手な魔力操作〟というコツがつかめない奴がいる。そいつらを補助するための魔法を今、作っているところなんだ」

 当時は魔法黎明期。国が魔法を『魔族の扱う技術』として忌避されていた中で、色んな魔法使いの卵と出会ってきた、そんなフランメだからこそ、こういった魔法もまた、考案してきたのだった。

 

「それ、なんか意味あるの?」

 それに対し、当時のフリーレンはまだ、この魔法を作る意義を良く分っていなかった。生まれ持っての天才であるがゆえに、「魔力操作が上手くいかない人間もいる」というイメージが、この時はまだつかめてなかったのもある。

「こういう魔法も作ることに意義があるのさ。膨大な魔力があるのに操作が覚束ないせいで、魔法使いとしての適性が無いと言われる人間はかわいそうだろう? 誰もがみんな、お前のような天才じゃないんだ」

「そんなものかな……、で、実際その魔法は使えそうなの?」

「いや、一つ大きな欠陥がある。それは『他人の精神と上手く同調する必要がある』ってことだ。手のない人間に義手を提供する時、犬や猫の手を渡されたって困るだろう? それと同じように、適当な調整をするとかえって悪化することが分かった」

 つまり、当人がより軽快に振り回せるようにちゃんとした長さや太さ、形状を気にして調整しないといけない。そのためには当人がどうやって魔法を使うのか、どう魔力操作するのか、ギリギリまで精神をシンクロさせる必要があるのだが……、そんな補助ができる魔法なんて、ある筈もない。

 

「じゃあ意味なくない? その魔法」

 フリーレンは首をかしげる。

 そんな魔法を作るくらいなら、魔族たちが息をするように行う〝飛行魔法〟について解析した方が、より有意義な気もするのだが。

「まあな、少なくとも私が生きているうちに、この理論は完成しないだろうな。けど悠久の時を生きるお前なら、一回か二回ぐらいは使う可能性はあるだろう?」

 フランメは自信満面の笑みを浮かべると、「後はよろしく」と、理論をまとめた書類をそのままフリーレンに手渡した。

 

「え、丸投げ??」

「今すぐ取りかかれとは言わないさ。これからお前が生きる長い時の中、暇つぶしがてらやってくれりゃあそれでいい」

「『他人と精神を同調させる』ってイメージが、私には想像つかないんだけど……」

「私もつかねえ。でもお前なら使うかもしれないって、私の勘が告げているのさ」

 

 フランメに無理くり押し付けられたフリーレンは、「はぁ……」と嘆息する。

 でもこういう時のフランメは、大体間違ったことは言っていない……ような気がする。

「多分使わないと思うよこの魔法。まあ……せっかくだから貰うけどさ」

「どうかな。じゃあ役に立ったか立たなかったかについては、百年後か千年後辺りに教えてくれ」

「何言ってるの、その時は師匠死んでるでしょ? 『死者と対話する方法』なんて、まだ観測されてすらいないのに」

「……さあ、それもどうかな」

 今思えば、この時からフランメはなんとなく分かっていたのかもしれない。

 いずれは必ず、自分が〝魂の眠る地(オレオール)〟に向かうというのを。

 

 

 そうするうち、師匠も寿命で旅立って。

 悠久の旅と修行の中で暇つぶしがてら、この魔法に対する理論を自分なりに解釈、再構築することはあったけど、根本的な欠陥は解決できずに過ごしていた。

 しかも紙の管理が甘かったのか、時の流れと共に風化して書物も消え、今やフリーレンの頭の片隅に残るだけとなった。

 勿論、実際に使うことなんて、この日を迎えるまで一度もなかった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

(本当に使う日が来るとは思わなかったな……結局、師匠の判断が正しかったってことなんだろうな)

 

 先の欠点は、『使い魔契約』による精神の同調で解消することができたのだ。

 偶然ではあるが、その偶然を見事利用したフリーレンは、この〝魔力経路で補助する魔法〟を彼女に適用させたのだ。

 それにより、今ルイズはこうやって魔法を使えるようになったのだ。

 

 

 フリーレンの視界の先には、師匠フランメが遺した技術で無事その才能を開花させ、そして師匠が好きな魔法を使えることに、心の底から笑顔を浮かべるルイズがいた。

 その笑顔が、かつて最後の最期で〝花畑を出す魔法〟を教えてくれた時の、フランメの表情と重なって見えた。

 

 師匠の慧眼に内心、感嘆しながらフリーレンは、周囲から賞賛されるルイズを一緒になって見守っていた。

 

 

 この日、ルイズの二つ名は『ゼロ』から、『花畑』に変わった。ようやくついたまともな二つ名に、ルイズは大層喜んだ。

 ようやくルイズは、自分の中に心地よいはるが来たような、気がした。

 




実績解除『貴方を飾るはる』





ここから先、毎日アップはできなくなりますが、不定期ながらも更新していきます。
少なくともフーケ編は終わっているくらいには溜めこんでありますので、フーケ越えは何とか行けそうです。
これからもよろしくお願いします。
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