使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第21話『フリーレンの魔法講座② 一般攻撃魔法』

 

「じゃあタバサ、ちょっとやってみて」

 フリーレンはまず、十メイル先にある巨石(ロングビルが生成、用意してくれたもの)を指さしてタバサに促す。

 タバサは頷き、手に持った長杖の先端を、ゆっくりと構えた。

 

 

 習得したって? もう?

 

 

 いくらなんでも早すぎない?

 

 

 背後ではひそひそ声で、ルイズとキュルケが耳打ちしていた。

 あの大雨の時、フリーレンが来て最初の『虚無の曜日』。タバサがフリーレンから魔法陣の用紙を取って、どこかへ向かって行ったことがあった。

 そこからの時間の長さを考えれば、あまりにも驚異的な習得速度である。ルイズ達がざわつくのも無理はなかった。

 

「別におかしいことじゃないと思うよ。ルイズ達の魔力は『精神』と深く結びついているみたいだし。極限まで集中力を研ぎ澄ませれば、その分習得時間を短縮できるのはルイズで分かったから」

 

 フリーレンはそう言って補足する。ハルケギニアのメイジはこれがあるため、単純に習得速度を時間で当てはめるのが難しい。覆す例をルイズで見たわけだから。

 勿論、一朝一夕にできるとまでは思ってない。事実、ルイズだって血反吐を吐く勢いで〝花畑を出す魔法〟を会得したのだ。

 しかもルイズは、『契約』を使って魔法のイメージをある程度送れるのに対し、タバサにそういった処置は全く施していない。

 タバサに〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟を見せたのは、ヴェストリの広場での一回こっきりなのだから、あの時のイメージだけをずっと思い描いて習得したわけである。

 

 いくらかの魔法の難易度が、『基礎』に例えられるくらい低いとはいえ。まず習得の過程で、相当の修羅場があっただろうことは想像に難くない。

 その時になって思い出す。そういえばあの後タバサは、かなりボロボロの状態で帰ってきたことを。

 

(まあどのみち、見てみないと分からないか)

「準備は良い?」

 フリーレンの声に、タバサは頷いた。

 やがて、タバサの構える杖の先端から、小さな光が徐々に現れる。それはいつも彼女が扱う氷の魔法じゃない。単純に、魔力を凝縮させるかのような光だ。

 そして次の瞬間、タバサの前に三枚花弁の魔法陣が生成された後――――。

 

 

 魔法陣の中心から、轟音と共に閃光が迸った。

 

 

「――――っ!」

「え……?」

「これは……!?」

 

 ルイズ達は呆気にとられた。ルイズとキュルケも、オーク鬼戦で見たことある。そのためすぐに察した。

 あれは間違いなく〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟だ。

 だが……、

 

 

「……岩自体に、特に変化はないようですが」

 

 

 ロングビルが、ズレ落ちかけた眼鏡を上げながらコメント。

 十メイル先にある巨岩は別に、穿たれたような跡は無し。傍から見れば、何も起こってないように見える。

 

「単純に届いてなかったんだろうね。放出がまだまだ未熟だ」

 

 魔法の軌跡を正確にとらえていたフリーレンは、すぐにそう返す。先のタバサが放った閃光の範囲は、せいぜいが二メイルちょい。すぐ魔力が霧散して弾け飛んだ。だから岩には何の効果もなかったのだろう。

 

「長距離魔法は魔力量、それを撃ち出す力の強さ、操作技術。これら魔法使いにとって必須の要素の合わせ技だ。それを高次元でうまく組み合わせれば――――」

 すると、今度はフリーレンが〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟を撃ち放つ。

 

 十メイル先にあった巨岩は、一瞬で大穴が空き、そして衝撃でそのまま傾き倒れていく。

 ロングビルは唖然とした。先の岩には、実は『固定化』と『硬化』の二つを組み込んでいたのだ。どちらも土系統の代表的な防御魔法だ。

 だが、フリーレンの放つ閃光は、そんなこと関係ないと言わんばかりに優雅に、鮮やかに消失させている。

 もし自分が、巨大なゴーレムを操ってこのエルフと対峙したとしても、この魔法の前には無意味だと、一瞬で悟った瞬間だった。

 

「こんな風に撃ちぬける」

 

 ロングビルの心情とは裏腹に、フリーレンは淡々と生徒たちに告げる。

 フリーレンは粉々になった三メイルほどの石を一つ、浮遊で持ち上げると更に向こう。

 学院の城壁の上にまで移動させた。

 

「ここからあの距離の岩まで撃ち抜くことができたら、魔法使いの世界じゃ一人前とされる」

「あ、あんな距離まで届くの……? ほぼ豆粒にしか見えないんだけど」

「フェルンはあれ以上の距離からでも撃てるよ」

 

 それを聞いたルイズとキュルケは、揃って口を開く。タバサも小さく首を振った。

 ……なんとか会得に至ったとはいえ、今の自分じゃあそこまで届かせるイメージが、正直わかないのである。

「今のタバサの実力だと、あそこまで届くのはせいぜい十年。……どれだけ打ち込んでも七年は先かな。フェルンでさえ、四年以上はかけた」

 フリーレンの言に、タバサは顔を俯ける。多分そうだろうという、その事実に一番気付いているが故の表情だ。

 そんな彼女に対し、フリーレンは補足を続ける。

 

「ただ、一回見ただけで〝一般攻撃魔法〟を会得できる才能と集中力は本物だ。これから先、戦闘経験によっては更に距離を伸ばすことは可能だろうね」

 

 自分の魔法に対する評価を一通り受けた後、タバサは大きく深呼吸した。そしてしばし、その目を粉々となった岩の方に向ける。

 

 ……確かに、今はまだ、あの距離まで届かない。

 でも、いずれは必ず、届かせるようにしてみせる。

 どこまでも揺らがぬ決意を、その目の中に宿らせていた。

 

 

 そんなタバサが気になったのだろう、キュルケが会話に割って入る。

「ねえタバサ、教えなさいよ。どうやって〝一般攻撃魔法〟を習得したのよ?」

 やはり、どうしても気になっていたらしい。キュルケだけではない、ルイズもフリーレンも、ロングビルもタバサに目を向けた。

 流石に隠せないか。と思ったタバサは、一瞬だけ己の使い魔と目線を合わせた後、改めて口を開く。

 

「……あの雨の日。わたしは『用事』を済ませた後、休憩にとある村に行った。そこで――――」

 

 タバサが急に出て行ったあの休み。

 大雨の中、手紙が来るや否や彼女はずぶ濡れを覚悟でどこかへと消えていった時のことを、ルイズ達は思い出す。

 タバサは、『その手紙』のことは『用事』とだけぼかし、頑なに語らなかったが、その用事が済んだ『後に起こったこと』を、語り始める。

 その出だしはこうだった。

 

 

 

「吸血鬼と、頭に角を生やした(・・・・・・・・)女の子の、二人と戦った」

 それを聞いたフリーレンは、少しの驚きで目を細めた。

 

 

 

 タバサ曰く、『手紙の用事』がいち段落着いて帰る道中、とある村で吸血鬼による事件が起こったと聞き、善意からその対処に向かったという。

 

「吸血鬼ってあんた、何気なくとんでもない奴と遭遇してるじゃないの……!?」

 

 キュルケの言葉に、ルイズ達も大きく頷く。

「この世界には吸血鬼もいるんだね、どんな奴なの?」

 純粋に興味があるかのような様子で、フリーレンは尋ねる。

「まあ、簡単に言えばかなり厄介な亜人ってとこね」

 座学でタバサに続き優秀なルイズは、その知識を披露する。

「力ならトロール、魔法ならエルフのが上なんだけど、『人と見分けがつかない』のよ」

「『ディテクトマジック』すらも欺きますからね連中。おまけに血を吸った相手を一人、手足のように操れるとも聞きます」

 ロングビルも補足する。

 とにかく狡猾で、人の血を吸うためなら手段を選ばない。その手練手管で街一つ壊滅させたという文献も残っていた。

 

 

(まるで〝魔族〟だな)

 

 

 聞いていたフリーレンは、心の中でそう呟く。

 ただ、タバサ的にはそこまで『吸血鬼』は大きな要素ではなかったらしく、静かに首を振る。

「幸い、吸血鬼自体はすぐ捕捉することができた。その追撃中に――――」

「さっき言った、その角を生やした亜人に会ったと?」

 ルイズは言葉を引き取る。その亜人も何とも気になるけど……、今はタバサの話に耳を傾ける。

 タバサは続けた。

 

 

「身を隠すのが得意な吸血鬼を、あっさりと見つけられた理由は簡単。既に吸血鬼自身が、その亜人と組んで村を滅ぼしていたから」

 

 

 無表情を崩さずそう言うので、思わずルイズは唾を飲み込む。

 自分なら『村一つ滅んだ』なんて単語、あんな冷静に言えない。まず間違いなく、声を震わせたことだろう。

 ここら辺が、フリーレンの言う〝実戦経験の差〟なのだろうと、ルイズは思った。

「わたしはすぐに戦闘した。吸血鬼の『先住魔法』もさることながら、一番強かったのはその亜人の子。最初は斧を振り回していた」

 フリーレンもまた、顎に手をやって静かに聞き続ける。

 

 

「でも、その子はだんだんと驚くべきことに、わたしの魔法を『模倣』し始めた。最終的には同じ氷の魔法の撃ち合いとなった」

 

 

 それを聞いた周囲は、揃って首をかしげる。

 別にタバサの言を疑うわけではないが、そんな魔法は聞いたこともないからだ。

 

「かなりの死闘だった。一言で済ませるには筆舌に尽くしがたいほどの。でも……生と死の狭間の中、極限の集中で放った魔法が、〝あれ〟だった」

 

 タバサは粉々になった巨岩を指さす。〝一般攻撃魔法〟のことを言っているのだろう。

 静かな表情で頷くフリーレンをよそに、周囲はタバサの敢闘を素直に評価する。

 

「あんた、何気にすっごいことをしてたのね」

「亜人二人相手に、よく無事でいられましたわね」

 

 キュルケとロングビルの感想に、タバサは「生きていたのが不思議だった」と、静かに首を振る。

 

「雨が降っていたのが幸いした。普段よりも巨大な氷を生成、発射することができた。晴天だったらわたしはあの子の斧で死んでいた」

「だろうね。豪雨の中で水系統使いを倒すのは、生半可なイメージじゃ不可能だ」

 

 フリーレンも補足する。天候がどうやら、タバサに味方したのもあったのだろう。

 

「でも、戦闘は正直『負けた』と思っていた。死んだとも思った。目を覚ました時は亜人二人の姿はなく、周囲にボロボロとなって朽ちた魔法人形(ガーゴイル)だけがあった。その後にシルフィードに助けられて、学院に戻った。それがあの怪我」

「そうだったのね……」

 タバサの話を聞き終えた周囲は、改めて首をひねる。

 

 

「でも、気になるわねその亜人の子。同類の吸血鬼……って感じじゃなさそうだけど」

「――――多分だけど、それは〝魔族〟だ」

 

 

 フリーレンの言葉に、ルイズ達はハッとする。

「?」と疑問符を浮かべるロングビル以外は、一度フリーレンから〝魔族〟のことについて聞いていたのだ。

 

 

 

 吸血鬼のように残忍で狡猾。人間の姿に擬態し、人間と同じ言葉を用いながらも、決して人間とは相容れない種族。

 人間を食料とし、魔法の研鑽に誰よりも貪欲で、そのために人を殺すことに一切の躊躇を見せない、危険な害獣だと。

 

 

 

「ハルケギニアには魔族はいないんじゃなかったの?」

「え!? うん……少なくともわたしは聞いたことないわ」

「ゲルマニアでもそうよ」

「私も、少なくともそのような種族は聞いたことありません。亜人と言えば大体はオーク鬼や吸血鬼、それと……エルフのことを指しますので」

 

 ルイズ達の言葉にフリーレンは再び黙考する。

 彼女たちが今更、この状況で嘘を言うわけも無し。本当にこの世界に魔族はいないのだろう。

 だが……、

 

(自然発生したわけじゃなく、私のように魔法でこの世界に来た可能性はあるかもしれないな)

 

 だったら、発見はかなり希少なものだとして、亜人の別種として処理され、埋もれた可能性もなくはない。

 しかし、タバサが戦ったという『模倣魔法を使う魔族』はすごく気になる。その少女はかつてシュタルクが倒したという魔族と、特徴が合致するからだ。

 もし件の少女が『それ』であるなら、『倒したはずの魔族が復活し、このハルケギニアへやってきた』ということにもなるわけで……。

 

 

(……調べることが、また増えたな)

 

 

 何やら嫌なものは、フリーレンも感じ始めていた。

 流石に魔族が潜んでいるのなら、自衛のためにもルイズ達には〝一般攻撃魔法〟を覚えてもらわなければならない。

 系統魔法の全てをまだ見たわけではないが、防衛手段は多い方がいいだろう。これからその魔族と、かち合う可能性だって出てくるだろうし。

 それに……、

 

「まだ推測の域は出ないけど、もしその少女が魔族であるなら絶対に逃がすわけにはいかない。必ず仕留めないと、また必ず被害が出る」

 

 そう語るフリーレンの言葉には、何か昏いものをルイズは感じ取った。

 無表情なのは変わらないのに、なんていうか……、初めてフリーレンを『怖い』と思えるような、光のない瞳の色を浮かべていたからだ。

 

「もしその少女を見かけることがあったら、教えてほしい。私も手伝うから」

「……わかった。その時はお願いする」

 タバサも素直に頷いた。魔族というのも気になるけど、その少女の強さを目前で知っているからこそであろう。

 吸血鬼以上に『あの子』には危険な匂いを感じた。あれは絶対に逃がすわけにはいかない。

 

 とりあえず〝魔族〟の件についてはそれで決着がついた。後は新情報待ちだろう。まだ上記の推測が、絶対に当たっているとも言い難いし。

 だが油断は禁物だと、フリーレンは思った。

 それはそれとして、授業は続けるが。

 

 

 

「じゃあ講義の続きに戻ろうか。ルイズ、手を出して」

「今度は〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟ってことね」

 ルイズは再び、フリーレンの手を取る。フリーレンの左手が光り始め、そこから熱いものが再びルイズの身体や脳を満たしていく。

 

 

 やがて、頭の中で三枚花弁の魔法陣が思い起こされていく。

 ゆっくりと、円が描かれその中に子細な紋様な言語が、つらつらと頭の中で描かれ始める。

 完全に完成した陣は脳内で輝き始め、そして眩く光り始め――――、

 

 

「ぶはっ!?」

 そこでルイズは、目を開けた。

「終わったよ」防御魔法と同じ抑揚で、フリーレンは告げる。

「はあっ……はっ……」

 息を切らして蹲るルイズ。だがそれもたった数秒。すぐに立ち上がった。

「どう、イメージできそう?」

「ええ、問題なさそうだわ」

「じゃあ、あの岩に向かって撃ってみて」

 フリーレンは再び、自分が粉々にした岩の破片。そこから比較的大きい二メイル程の岩を浮遊で起き上がらせる。

 まあ、流石に会得したばかりで届かないだろうけど。目標物はあった方が良いだろう。

 

「よっし、見てなさい! タバサよりも遠くへ飛ばしてみせるわ!」

 

 意気高らかにルイズは杖を構える。すると杖先から魔法陣が生成され、その先に凝縮された魔力の核が作られていく。

「おおっ」と周囲はどよめく。まさかもう、一発目で魔法を習得したのかと。

 そうするうちに魔力はどんどん高まっていき、そして――――

 

 

 

 いきなり、凝縮した核が大爆発を起こした。

 

 

 

「……げほっ」

「ひ、ひさびさだわ、この展開……」

 すっかり油断していたキュルケが、チリついた髪を撫でて呻く。タバサも無表情のまま黒こげになっていた。

 

「ふぅ、失敗しちゃった」

 

 爆心地の中心で、ルイズがてへっと、ボロボロになった周囲を見て呟く。

 周囲はそんなルイズを、ジト目で見つめていた。

 

「……ごめんなさい、みんな」

「い、いいわよ。でも急でびっくりしたわ。『爆発癖』はもう克服したんじゃなかったの?」

「そ、その筈なんだけど、あれぇ……??」

 ルイズは杖をいじくって考える。

 確かに、魔法は発動したと思ったんだけど……、魔力の操作を誤ったのだろうか?

 

「今まで教えた魔法は、どっちかというと『ゆっくり魔力を放出、操作する』タイプだったからね。〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟は勢いよく放出する魔法だから、まだ急激に魔力を動かす流れにルイズは慣れ切ってないんだろうね」

 フリーレンも、縦ロールになった髪を指でいじくって補足を入れる。

 魔力を速く動かそうとしたせいで、再び歪な魔力操作に戻ってしまった。それが先の大爆発の原因なのだろう。

 

(でも『爆発』する〝一般攻撃魔法〟は初めてだな。ルイズの『虚無』に原因があるのか、ハルケギニア用に調整したからこそ発生した不具合(バグ)なのか、検証の余地ありだな)

 

 付け加えると、一応ルイズが放ったのは只の爆発ではなく、きちんと〝一般攻撃魔法〟の特性は引き継いでいるようだ。人体に深刻な害を及ぼさない程度に留めていたし、魔法陣も展開できていた。あくまで放出に問題があるだけだろう。

 

「も、もっかい! もっかいチャレンジさせて!」

 ルイズは慌てて、泣きの一回で杖を振る。周囲も止めはしなかったが、フリーレンの展開する〝防御魔法〟にこっそりと身を隠した。

 

 しかし、何度やっても起こるのは爆発のみ。

 

 久々な大爆発展開。キュルケとタバサは、ルイズが一年生最初の授業で、何度も爆発させていた頃を思い出していた。

 散々爆発させた後、息を切らせたルイズはがっくりと肩を落とした。

 フリーレンは「仕方が無いよ」と、肩に手を置く。

「こればっかりはまだまだ修行が必要だねルイズ。暫くはこれでやるしかないね」

「はぁ、課題は山積みだわ……」

「いっそのこと、その爆発を持ち味としていかせばいい」

 タバサのシレっと放った言葉に、周囲、特にフリーレンが頷いてみせた。

 

「ああ、確かにあれは形は違えど〝一般攻撃魔法〟だからね。爆発による広範囲攻撃は今までなかった形式(フォーマット)だから、ありと言えばありではあるね」

「なるほど〝一般攻撃魔法〟ならぬ〝一般爆裂魔法〟というわけね。それでもういいんじゃないのルイズ? 他の魔法は今まで通り使えるんでしょ?」

「さらっと変な技名付けないでくれる!? てか『一般』の意味って何よ? 爆発なんてわたししかしないじゃない!」

「あら、そんなのどうだか分からないじゃないの。あたしも修得したら爆発するのかもしれないし。それになんだったらあなたがその『爆発』を一般的になるよう布教すればいいじゃないの」

「やめてよ! 絶対ちゃんとした魔法にしてみせるんだから!」

 そんな風に語る一幕もあった。

 

 その後も講義は続いたが、大まかに紹介したのはこの三つだけとなった。

 本当は〝飛行魔法〟とかも知りたがったルイズだが、詰め込み過ぎは良くないと、とりあえずこの三点に絞って教える形となったのだ、

 ロングビルは〝魔力の隠蔽方法〟も知りたがったが、フリーレンは「まだ早いよ」と却下したので実現せず。ロングビルは影で静かに舌打ちした。

 

 後はルイズと同じ要領でキュルケやタバサに今回の魔法の会得方法、イメージ方法、魔力操作の技術法について軽くレクチャー。

 そうこうする内、あっさりと日も暮れた。

 

 

「今日はここまでだね」

 フリーレンの言葉に、周囲はぐったりとした様子を見せた。先ほどまでいろいろな修行をしていたので、精神的には結構な疲労が溜まっていたのだ。

 肩から息をしながらも、有意義な一日を送れたと思ったキュルケは、ふと思ったことを尋ねる。

 

「それにしてもフリーレン、随分テキパキと教えてくれたわね。教師に向いてない?」

「フェルンに色んなこと教えてきたからね。その経験が生きているのかな」

 

 フリーレン自身、ここまでスラスラいくとは思ってなかったような顔をする。

 十年以上、フェルンにつきっきりだった経験は、確かにフリーレンの中でも生きているかのようだ。

 

「今日は三つに絞ったけど、まだまだ教えたいことは沢山あるからね。それこそルイズも希望している〝飛行魔法〟とか、〝魔力の隠蔽方法〟とか、……あとは〝魔力制限〟とかね」

「〝魔力制限〟?」

「魔力を常時〝欺かせる〟技術。いうなれば『トライアングル』だけど『ドットクラス』だと常に思われるような技術だね。ここじゃあんまり役に立たないかもしれないけど。魔族がいるんだったら、魔力差の誤認を誘えるから」

「そんな方法があるんだ」

「まあね。とはいえ……それはまた今度の講義にしようか。暫くは今日教えたことを反復練習して、また後日、成果を見ようか」

 フリーレンがそうまとめて、更にこう告げた。

「じゃあ、今日は解散。お風呂入ってご飯食べて明日に備えよう」

 それに、三人娘は素直に頷いた。

「ロングビルも一緒に行く?」

「いえ、私はまだ仕事があるので、今日はこれで」

「ミス・ロングビルも今日はありがとうございました! またよろしくお願いいたします!」

 ルイズは笑顔で会釈した後、フリーレン達と一緒にその場を去っていく。

 

 

 すっかり懐かれてしまったな。授業でも結構、私に寄り添ってきていたし。

 自分が盗賊『土くれ』であることも知らずに。

 ロングビル、否フーケは背伸びする。確かに有意義な講義内容であった。

 しばらく盗賊活動は止めようと思えるくらいに。

 

(それにしても、なんて技術だい。あれじゃあ確かにわたしがフーケだって、すぐ分かっちまうわよね……)

 昨日の『あれ』も、フリーレンの卓越した〝魔力探知〟ならそれを成せるということなのだろう。これがエルフだけの技術であるのなら、フーケもまだ盗賊を止めようとは思わなかったかもしれない。

 

 一番の変心の理由。それはこの技術をルイズ達も覚えることが可能だと、示唆されたことだった。

 

 もしこのまま盗みを続けていたら、いずれ必ず、自分がフーケだと分かってしまう。

 少なくとも、ルイズにはすぐバレてしまうだろう。たとえフリーレンが告発しなくとも。

 

(素直に足を洗えって、あの子なりの忠告なのだろうね……)

 

 はぁ……、とため息をこぼしながら、ロングビルは思った。

 こうやってある程度の技術を開示することで、フリーレンはくぎを刺しに来ていたのだろう。

『告発などしなくとも、成長したルイズ達はいずれ必ずフーケの足跡に気付く。だからもう、今のうちから盗みは止めろ』と。

 ――しかし、懐に収めた宝物庫の整理所は、未だ懐の中で大切に温められていた。

 

 

 その日から1日経過し。

 フリーレン召喚から15日後。トリステイン魔法学院。学院長室にて。

 

「休みをもらいたい、とな?」

「はい。少しだけお暇を頂ければと思います」

 オスマンに『有給届』を出しながら、ロングビルは言った。

 

 これ以上の盗みは自重することにしたが、かといって盗んだ宝を売り払うことまでは止めるつもりは無い。

 実は『契約更新』の期日が迫っていた。『あの子』へ食料や水、生活雑貨諸々の必需品を定期的に送付するように頼んでいる業者へのだ。

 事情が事情なので、一括払いに拘っている件の業者たちは、期日通りに金さえ払えば口は堅いし約束も守る。そうやって『あの子』は何事も無く暮らせているのだ。

 なので、こちらもきちんとそれなりの、まとまった金を用意しなければならない。盗んだ宝をすぐ売り払わず、蓄えていた理由の一つだ。

 

 その盗品を売り払う目途もついたし、休みを取ってアジトに赴き、宝の全てを資金に換えたかった。そのための『休暇』なのである。

 

(時間があったら一度アルビオンにも帰ってみようと思うしね。なんか、最近またきな臭いことになりつつあるみたいだし)

 

 

『サウスゴータで、謎の反乱勢力が暗躍か』

 そんな新聞を広げているオスマンを見ながら、ロングビルはそう思っていた。

 

 空の王国に仇なす勢力が最近、活発になってきているとは聞いていた。

 別に、自分を追放した王政府のことなんざ、潰れようが野垂れ死のうがどうでもいいのだが、同じくこの大陸で暮らす孤児たちのことについては気になっていた。

 仕送りの件もあるし、孤児たちにも会いたかったロングビルは、これを機に一度アルビオンへ戻ろうかとも考え始める。

 

 昨今のアルビオン事情が混沌とし始めるようであれば、新しい居住先も考えなければならない。

 引っ越し先にこの魔法学院のこともちょっと考えたけど、目の前のセクハラジジイに『あの子』が耐えられるとは思えないし……。

 

「帰省かの?」

「そのようなものです。面倒な仕事はすでに片付けてあります」

「相変わらず優秀じゃのうミス・ロングビルや。お主のような有能秘書が、一週間も離れるのは寂しいのう」

 そういって、さりげなくロングビルの尻にすり寄るオスマン。そんな彼の手を、ぱしりとロングビルは叩く。

 

「本当に、訴えますよ」

「ごめんごめん、わしが悪かった」

「まったく、こんなことされるのならもう少し給料を上げてほしいものですわ」

「なんか最近、給金の腐心をするようになったのう。そんながめつい子に育てた覚えは……、いやごめんほんとにやめて」

 

 そろそろ蹴り飛ばしてやろうか。

 眼鏡を白く光らせながら殺気を飛ばし始めるロングビルを、必死になってなだめるオスマン。

 

「まあ、よかろう。しかし気を付けることじゃな。最近のアルビオンは物騒になってきているからのう」

「ええ、肝に銘じておきます」

 

 

 そんなわけで許可をもらったロングビルは、一旦盗賊として根城にしていた廃墟へ向かった。

 重ねて言うが、彼女は本当に盗賊を止めるつもりだった。あの高度な魔法技術を知った上で盗みを働くなど、リスクが高いことは十全に分かったつもりだ。

 もしこのまま何事も無ければ、『土くれ』のフーケは一時トリステインを騒がせた犯罪者として、露と行方をくらませていたことだろう。

 

 

 だが、始祖はそんな彼女を良しと思わなかったらしい。

 更なる試練を、フーケに与えたのだ。

 

 

「クソッ! この豚野郎どもが! 許さないよ!」

 数時間後、廃墟の周りで屯していたオーク鬼たちに、怒りの魔法を振りまくロングビルがいた。

 

「ああああいつら!! せっかく、折角盗んだお宝を……! こんなにしやがって!」

 これも盗みを働いた自分への天罰なのだろうか。ロングビルはただ、声にならない呻き声をあげた。

 

 オーク鬼は全て片付けた。しかし、この廃墟を根城にしてそれなりに時間が経っていたのだろう。既に中は見るも無残に荒らされていた。

 盗み出した魔道具も、全ておもちゃのように壊されたり、糞尿や涎がべっとりと張り付いている。売却品としての価値は既にない。

 廃墟の隣にあった「火竜の骨格」も、バラバラになった骨が至る所に散乱している有り様。

 アシがつかないよう、一括で金に換えようと盗品を溜めていたことがここで仇となった格好だ。

 

 いや、実は一個だけ無傷なものはある。木箱の中に今も収められている『謎の邪気を放つ角』。こちらは無傷だった。

 どうやらこの無法なオーラは、オーク鬼も何か感じるものはあったらしい。

 だが、この角に関しては、まだ買い手(バイヤー)がついてない。業者との契約更新もあと数日に迫った。これを逃すと、仕送りが非常にやりにくくなる。

 

 

 手持ちの給金じゃ全然足らない。すぐにお金が、大金が欲しかった。

 

 

(今からでも何か盗みに行くか? だがもう……、大金にすぐできるようなお宝はあらかた盗んじまったし、警備も厳しくなってきているからねえ……)

 その時、ふとフーケの脳裏に過る、あの言葉。

 

 

『太古の竜にとどめの一撃を与えた伝説の剣……。それを平民の間では英雄の剣として、秘かに崇められているんでさ』

 

『そんな剣が目の前にあったら、一万、いや十万エキュー、いや全財産はたいたって惜しくねえや!!』

 

 

 なんで思い出してしまったんだろう。

 フリーレンやルイズ達メイジがいる中で、魔法学院の宝物庫を狙うなど。

 だがもう、あそこくらいしかすぐ大金に換えられるような、有名な魔法道具はトリステインに存在しない。

 

「背に腹はかえられないか……」

 

 もう賭けに近い、それでも『あの子』たちのためにやらなければならない。

 フーケの脳内は、いかに宝物庫に侵入するか、いかにフリーレンたちを出し抜くかに、思考を割き始めていた。

 

 

 果たしてロングビルは再び、トリステイン魔法学院へと戻っていた。

 勿論、ただ無策で舞い戻ってきたわけではない。きちんと作戦があった。

 

(自身の存在を隠すという魔道具(マジック・アイテム)『隠ぺいのフード』。これを被れば)

 学院に来る前から、この魔法のフードで身を包みながら、フーケは月夜を背にひた走る。

 少なくとも、『ディテクトマジック』には絶対反応しないのは知っている。これを使って何度も、警備の目を欺いてきたのだから。

 それでも、フリーレンの探知まで欺けるかと言ったら、正直未知数なところはある。

 故に、グダグダやらずに速攻で、片をつけるつもりだった。

 

「最悪、『英雄の剣』のみ狙いに行くか」

 

 フーケは再び、夜の帳を降ろしたトリステイン魔法学院へと、向かっていった。

 




タバサで『あの子』に勝てるの? とお思いの方が多いでしょうが、一応この戦いの詳細については後ほど、描写いたします。……いつになるかはまだ未定ですが。
本編で語ったように、タバサが生き残れたのは運と、複雑な事情が多分に占めています。また当人はこの戦いについては『負けた』と思っています。
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