使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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祝! 原作再開!


第25話『最初から大決(ラスボス)戦②』

 

「まずは作戦じゃ」

 オスマンは髭をしごきながら、泰然と周囲に告げる。

 ただ、その合間にもエンシェントドラゴンは再起動をし始めようとしていたが。

 脚を再生し、再び起き上がってくる古代竜を見たルイズは大慌てした。

 

「お、オールド・オスマン! フリーレン! 今、今攻撃した方がいいんじゃ……!」

「焦りは禁物じゃミス・ヴァリエールよ。彼奴は草木から生命力を吸って魔力に変え、周囲の塵や破片で仮初の身体を構築しておる。闇雲に攻撃しても精神力を無駄に消費するだけじゃ」

「そうだね。情報の共有は大事だ。特にあいつには正攻法が通用しなさそうだし」

 

 フリーレンも、オスマンの(げん)に同調する。

一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟が有用なのは分かったが、外殻を破壊した瞬間から再生されては意味がない。大規模な魔法を放っても良いが、この様子だとそれが決定打になるとも限らないだろう。

 戦ったことのあるオスマンとの情報共有は、非常に大事だ。それをフリーレンは分かっていた。

 なのでわざわざ、奴が体勢を立て直すこの貴重な時間を、オスマンとの情報共有にあてているのだ。

 

「もう気付いてるじゃろうが、奴は周囲の竜を洗脳する力を持っておる。幸いにも『当時』程じゃありゃせん。あの様子ならば、奴の魔力を疲弊させ続ければ、いずれは保てなくなるじゃろうて」

「要はどうにかしてアイツの魔力を絶たないといけないと」

 フーケも一緒になって分析をする。

「さっきから魔力の流れを見てたんだけど、どうやら奴は足から地面を伝って生命力を吸っているみたいだ。奴を浮かせるか、一時的に足を飛ばすかすれば、魔力の回復は一時的に停止する」

 フリーレンは指先で地面に、絵を書きながら説明する。起き上がる竜を前にして話を進める二人。当然ルイズ達は気が気でなかった。

 だが、二人は経験で今、あの竜は攻撃するより先に起き上がることを優先しているということに気付いているのか、悠々自適に話し合う。

 

「そうじゃな。甲殻も脆いようだし、魔法が通るのならば徹底攻撃もいいのじゃろうが……、奴は魔法を弾く『魔障壁』を持っておる。故にただ魔法を撃っても弾かれてしまう。物理的な攻撃は有効なのじゃが……」

「それについては問題ないよ。〝一般攻撃魔法〟があれば通用するのは分かった。後でやり方を教える」

「ならば、お主が一気に風穴を開けてもらえるか? 時間稼ぎ及びサポート全般はこちらが請け負う」

 

 まあ、現状それが最適解かな。フリーレンは無言でうなずいた。

 今ならまだ、自分の魔力を総動員すれば奴の構築する身体を半分以上消滅させられる。そこから心臓を取り出し封印を施せば、この脅威も止まることだろう。

 するとここで、オスマンは深刻な表情でフリーレンに詰め寄った。

 

(噂では、奴は『虚無』の力を持つ者を積極的に襲う傾向がある。ミス・ヴァリエールばかり狙うのはそのせいじゃろうて)

(それでか、ルイズを食べようとして、ずっと目で追っているのは)

(どうやら彼奴は、『虚無』の力が己をより強化することを本能で知っておるのじゃろうな)

 

 呆然としているルイズを見やりながら、二人は耳打ちで会話する。

「何話しているんだい?」フーケが怪訝な顔をしたので、オスマンは離れた。フリーレンは再び、ルイズ達にも聞こえる声量でオスマンに尋ねる。

 

「前に倒した時はどうやったの?」

「こ奴の剣の持ち手が、あの竜のブレスを上手く回避しながら、心の臓目がけて一撃入れおった。勿論、わしらのサポートありきじゃったが」

 オスマンの肩にかかっている大剣を指さす。

「それ、英雄の剣じゃないの!?」

「持ってきたのですか? オールド・オスマン」

「ああ、確かにあの巨竜にとどめを刺したのはこ奴の刃じゃ。ほれ、デルフ、挨拶せい」

 

 しかし、デルフと呼ばれた剣は答えない。まだ寝ているようだ。

 オスマンはコホンと咳を鳴らす。

 

「では、まずはわしらが巨大なゴーレムを使って奴を抑え込む。その隙にお主の大魔力で消し飛ばす。その隙をついて心臓を摘出。これが作戦じゃ」

「で、でも、あいつ、生命力を奪って魔力を、身体を作っているのですよね!? 先にそれを止めないと……」

「奴の魔力供給を絶つ方法は、一つ思いついた。足を浮かせるとか非現実的な話じゃなくって、ルイズでもできる手法で」

「え、わたし!?」

 

 ルイズは素っ頓狂な顔をした。どうやって止めるのだろうか?

 詳細を聞きたかったが、いよいよ巨竜が足の完全再生を終え、立ち上がり始めた。残念ながら、つかの間の作戦タイムも終わりに近づきつつあった。

「後で教えるよ」フリーレンは自分の長耳を指さしながら言った。『使い魔との耳目の共有』のことを言っているのだろう。

「わ、わかったわ! やってやろうじゃない!」

 それがわかったルイズは、きっぱりと頷いた。

 

「オスマン」

 フリーレンは最後に、二枚の用紙をオスマンに手渡す。

「これはもしや、さっき言っとった〝攻撃魔法〟かの?」

 受け取ったオスマンは首を傾げた。もう一枚は魔法陣、もう一枚は六角形の魔法壁に、ハルケギニア語で色々書かれている。

 

「ハルケギニア用に調整した〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟と、〝防御魔法〟のやり方をまとめた紙だ。読みながら覚えて、今習得して」

「ほ、なかなか無茶を言いおる。わしはまだ、お主の魔法のことすら良く分かっておらんというのに」

「〝魔力探知〟を習得したオスマンなら問題ないでしょ? 曲がりなりにも賢者を名乗るなら、それぐらいやりなよ」

 

 かつて対峙した〝腐敗の賢老〟は、一目見て防御魔法の理論を見抜き、一破片だけでも再現してきた。『賢者』を名乗るくらいなら、それぐらいやってほしいものなのである。

 

「やれやれ、スパルタじゃのう。噂に聞く大魔法使い殿は」

 そう言う割には、心底楽しそうな声でオスマンは言った。別世界の魔法を見れて楽しそうだ。

 フリーレンも、彼の楽しさを分かっているのか、口元に笑みを浮かべながら言った。

「じゃあ行こうか。反撃開始だ」

 フリーレンは杖を手元に呼び寄せる。そしてルイズを掴むと宙に浮き、巨竜と距離をとった。

 

 

 

「ではロングビルよ。わしらはゴーレムを作って奴を足止めする。いいな?」

「はあ、まったく、なんでこんなことになったんだろうね……」

 そう呟きながらも、フーケは杖を振り上げた。刹那、地面から巨大なゴーレムが錬成される。

 そこに今度はオスマンが続く。すると三十メイル越えゴーレムは一気に倍の巨躯。六十メイルと巨竜を見下ろす高さに変貌した。

 

(うっそ……、なんつうバカ魔力だよこのスケベジジイ……)

「操縦はお主に任せるわい。わしはお主の意思に追従する」

 

 オスマンが胸を叩いてそう言うので、フーケはその通りに杖を振ってみる。

 すると、こんなにも巨大であるはずなのに、いつもの要領でするすると動かすことができた。

「確かにこれならいけるな……くらえ!」

 フーケの振り下ろしと共に、ゴーレムも拳を叩きつける。巨竜は頭を凹ませながら、地面に叩きつけられた。

 

 

「それで、フリーレン! わたしはどうすればいいの?」

 一方、巨竜と距離を取ったフリーレンは、ルイズを地面に降ろす。そして未だに疑問符を浮かべる彼女に対しこう言った。

 

「〝花畑を出す魔法〟」

「え?」

「それ使って。今すぐ」

「何言ってんのよ!? 今この状況でそんな魔法、意味なんて……」

 

 ここまで言った時、ルイズはハッとした。

 フリーレンの言わんとしていることに、気づいたのである。

 

(あいつは地面から、生命力を吸収して魔力に変換している)

 

「あ、まさか……」

「ルイズも分かったみたいだね。そういうことだよ」

 フリーレンは不敵な笑みを浮かべると、ルイズの隣に着地し、魔力を整え始める。

 今から、あの巨竜を消し飛ばす魔法を構築し始めた。杖先から膨大なまでの魔力の核が形成されていく。

「じゃあ、任せたよ」

「……わかったわ!」

 ルイズは杖を取りだし、集中した。

 

 

 さて、フリーレンとルイズが会話しているその一方。

 

「ぎゅい……、お姉さま、もうだめ」

「ちょっと、しっかりしなさいよシルフィード!」

 キュルケが叫んだ。数は減ったとはいえ、洗脳された竜の脅威はまだ残っている。

 他の竜とドッグファイトを繰り広げながら(といっても、一方的にシルフィードが逃げているだけだが)、何とかやり過ごしていたのだが、それも限界がきていた。

 

「タバサ! 前!」

 正面から、口を開けて喰らわんと迫る火竜がやってきた。

 キュルケは思わず『炎球(フレイム・ボール)』を放つ。直撃するも、しかし傷どころか怯みもしない。

 

「〝一般攻撃魔法(ゾルトラーク)〟!」

 

 次いで、タバサが杖先から〝一般攻撃魔法〟を放った。

「ちょっとタバサ! 忘れたの! その魔法はフリーレンが『誰かを殺せないように組んでいる』って!」

 フリーレンから聞いた話だと、この魔法は『ハルケギニア用の調整版』。生命力のある者を絶対殺せない術式を組んであると言っていた。

 正直、こけ脅しも良いところだと思った。だがタバサとしても、これに賭けるしかなかった。氷なんて、あのブレスの前には無意味だと知っているから。

 

 だが、次の瞬間、タバサの杖先で描かれている『三枚花弁』の魔法陣の上に、もう一枚『三枚花弁』の魔法陣が構築される。

 魔法陣は重なり、一時的に『六枚花弁』のそれへと進化した。

 

 刹那、暢気に口内で火力を溜めていた火竜の口から尻尾にかけて、綺麗な風穴を開ける閃光が迸る。

 ハルケギニア最強の種族である火竜は、これにてあっけなく絶命していった。

 

「え!?」

「!?」

 

 キュルケもシルフィードも、何ならタバサもこの光景に驚く。

 窮地に陥った極限の集中力で、射程が二メイルから六メイルに伸びた。そのことすら忘れるほどの衝撃。

 あれは間違いなく、フリーレンの扱う〝魔族を殺す魔法〟。そのものの術式だ。

 一体なぜ……?

 

 だが、その疑問を問うより早く、更に竜が上空より殺到してくる。本当に休む暇がない。

「タバサ! 今度は上!」

 タバサは杖を上に向けようとする。しかし次の瞬間、上空にいた竜たちは『地上から飛んできた閃光』により、呆気なく撃ち落とされた。

 

 

「こうかの?」

〝魔族を殺す魔法〟を放ったのは、オスマンだった。ゴーレムに魔力を供給する傍ら、杖先を上空に向けタバサたちの援護をしていたのである。

 

(それにしても良くできておる。人は絶対殺せぬ仕組みを作っておきながら、人非ざる者への脅威に対しては、一時的に殺傷設定になるよう組んでおるのか)

 

 まるで〝誰か〟を欺くかのような感じじゃな。

 あっさりと習得に至ったオスマンは、独自の分析を交えながら先の魔法の軌跡を見やる。

 

 

「はぁ!? もう習得したの!?」

 フーケは驚きの声を上げる。まさかあんな紙切れ一枚でろくに情報すらない状況から、ほんの一分かけずに習得したのか!?

 

「ほほ、ロングビルよ、わしを侮っとりゃあせんか? 仮にもトリステインのメイジの学生たちを一手に預かる長じゃぞ?」

「だったら普段っから威厳のある姿を見せてくれよスケベジジイが」

「ほっほっほ、ヒンメルの奴にもよういわれたがの。こればっかりはもう『(さが)』じゃ。どうしようもないのじゃ」

「……ヒンメル?」

 もしかしてそいつが、かつてあの巨竜を討伐した御伽噺のような剣士なのだろうか?

 しかし、オスマンは「ほっほっほ」と、こんな状況にもかかわらず楽しそうに言った。

 

「ああ懐かしい。こうやって、昔はみんなで戦ったものじゃ。みんな、元気にしとるかのう」

 

 オスマンは杖を『ライト』で光らせ、サイリウムのように振るう。タバサたちに向かって「降りてこい」という合図を送っていた。

 タバサたちも、上空よりは地上の方が安全だと思ったのか、シルフィードに命じてフリーレン達の近くに待機した。

 

 

「きゅい、もうだめ」

 地表に降りるなり、シルフィードは愚痴をこぼした。竜の口から、流れるように人語が零れる。

 タバサはもう、使い魔のお喋りを咎める余力すらなかった。キュルケと共に、心底疲れたような顔をする。

 

「しゃべれるんだね」

 魔力を集中しながら、フリーレンはきっぱりと言った。

「…………」

 タバサも無言で頷いた。

「オスマンがさっき言ってた。あのエンシェント・ドラゴンは『韻竜を除く竜たちを操れる』って」

 タバサはフリーレンの言葉を、無言で聞いていた。

「この世界には、言葉を介する竜がいるって本で読んだよ。『韻竜(いんりゅう)』っていうらしいね。絶滅したとも書かれていたけど」

「その通り、だから隠してた。内緒にしてほしい」

 タバサの言葉に、キュルケとフリーレンは軽く頷いた。

 

 さて、フリーレンが魔力を充填するまでの間、フーケとオスマンは必死になってゴーレムを操り、かつての災厄相手に時間稼ぎを行っていた。

 だが、巨竜もやられっぱなしじゃない。当然ながらその巨躯を活かして暴れ狂う。

 巨大な爪が、巨兵の胴体をいともたやすく裂いていく。一瞬にして、ゴーレムはバラバラになった。

 

「ぐっ!?」

「ひるむんじゃない! 壊されたのならすぐ作り直せばいい! あやつもやっていることじゃ!」

 

 オスマンの声と共に、再び巨兵は稼働を始める。バラバラになりかけた胴体を『錬金』で素早く接着。弾け飛ぶ前に身体を修復した。

 

「とにかくあの巨竜を消耗させるのじゃ! 気張れよロングビル! いやさ『土くれ』のフーケ!」

「っらあああああああああああああっ!」

 

 フーケの叫びと共に、あらん限りの巨岩の拳を、巨竜の頭にたたきつける。

 ハンマーのように振り下ろした拳は、エンシェントドラゴンの右足を砕いた。

 これにはたまらず倒れる巨竜。だがすぐさま相手も同じ原理で身体を修復し始める。終わらぬ堂々巡りに、フーケは冷や汗を流し始めた。

 

「まだかい!」

「もう少しじゃ!」

 やがて、巨竜の動きが、徐々に弱くなっていく。

「へ? なんで……?」

「ようやくか。まずはミス・ヴァリエールがやってくれたのう」

 フーケは思わず、背後を見る。

 そこにはルイズがいた。彼女の後ろは、花畑の街道が生み出されている。

 

「こ、これはまさか……」

「察しの通りじゃ。奴は地面を伝って生命の力を吸い取っておる。ならば、その生命力をこっちが先に消費させてやればよい」

 

 ルイズは〝花畑を出す魔法〟を使って、巨竜の周囲の地面にある生命力を〝花〟に変換し、操作していたのであった。

 見れば、巨竜の周りの地面は枯れてひび割れができている。地面に流れる養分、生命力はルイズが奪って偏らせたため、ドラゴンの足元は草木一本生えない荒れ地と化し始めていた。

 こうして生命の供給源を断ち、魔力の回復を滞らせるのが、フリーレンが示した作戦なのである。

 

「そしてひび割れた地面をこっちは砕いて有効活用し、より精密なゴーレムを作る足掛かりとする。まさに一石二鳥の作戦というわけじゃ!」

 

 そのため、巨竜の周囲の地面にはもう、吸収できる生命力がない。それにより身体を構築、再生するための魔力もまた、徐々に減りつつあることを意味する。

 

「この機を逃すでないぞ! いくのじゃ!」

「だらあっ!」

 

 フーケは再び、杖を振り下ろす。

 それに伴い、巨岩の一撃が竜の頭に直撃。

 今度は、竜の頭が粉々に弾け飛んだ。一瞬、依り代にしているのであろう『火竜の頭蓋骨』が見える。

 本能からか、竜は再び身体を修繕しようとするが、その速度は目に見えて落ちた。

 

 

「フリーレン! 言われた通り、花を咲かせてアイツの供給源は奪ったわ!」

 ひとしきり花を咲かせた後、ルイズは叫んだ。

 

「上出来だ。ルイズ」

 そう言うフリーレンからも、静かに魔力が立ち上る。

「いいよ、オスマン。準備できた」

 フリーレンが静かに杖先を向ける。

 

「では、後は魔法の大先輩に任せるとしようかのう」

 オスマンは一度、ゴーレムを砕いた。

 そしてフーケと一緒に、素早くフリーレンの射線から身を隠した。

 

 

 

 刹那、フリーレンの杖先から膨大な魔力と共に〝極太の黒閃〟が発射された。

 

 

 

 それは確かに、竜の胴体に、巨大な風穴を開ける。

 五十メイルある、山岳級の巨竜の右肩から胸にかけて。向こう側が見えるほどの、二十メイルはあろうかという巨大な風穴が開いた。

 

『魔障壁』は今ので完全に破壊された。抵抗すらしない。それほどまでの膨大な破壊力を凝縮させた一撃だった。

 あまりの破壊力に、フーケやルイズ、観戦していたタバサたちはおろか、オスマンすらも驚いた。

 

(なんちゅう威力じゃ。人が扱っていい魔法のレベルをとうに越えておる……!)

 

 これが〝魔法の高み〟か。

 オスマンは無意識に、口元を緩めた。

 齢三桁に至ってなお、自分はこの高みに気付くことすらままならなかったが、これだから魔法使いは止められない。

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

『そんなに凄かったのか? そのフリーレンってやつは』

『ああ、勿論オスマンも凄い魔法使いだと思うけどね。彼女は何ていうか……自分が吐いた言葉に嘘はつかないタイプでね』

 

 ふと、酒場でかわしたたわいない会話の一幕を、オスマンは思い出す。

 

『魔法も凄いけど、〝魔王を必ず倒す〟って彼女は言い切った。その言葉を素直に信じられるような。薄情でもあるけど、心の底から信頼を置ける不思議な奴なんだ。だから僕も、その言葉を信じて最後まで突っ切れたんだ』

『おまけにエルフとはいえ、綺麗なかわいこちゃんなんだろ? そうだなあ、おれも一度是非会ってみたいもんだな』

『おい、彼女にもセクハラとか、流石の僕もマジギレするぞ。魔法の話で花を咲かせるのは良いけど、そういうのは本当にやめてくれよ』

『冗談だよ、流石にお前の彼女にそんな真似は……うん! 多分、多分しないから……! だからその振り上げている拳を、ほら、ね。暴力反対……』

『普段キレないヒンメルをキレさせるとか、ほんと、その癖だけは早く治した方がいいぞオスマンよ……』

『しゃーねーだろデルフ! これが人の(さが)ってやつだ!』

『大声で宣言するものじゃない気がするけどね……やれやれ』

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 改めて、親友から聞かされた〝千年生きた大魔法使い〟のすごさを、思い知ったオスマンなのであった。

 

 視界の先、風穴と同じ形で削れた心臓が見えた。

 ばっくりと抉れたにも拘らず、まだ稼働を続けている。

 

 一瞬オスマンの目は窄まった。フリーレンも、「やった」といった達成感より「まだか」といったような顔を浮かべる。

 

(直撃の瞬間、核たる心臓を左側に動かして回避したか。魔力で作った身体だからできたんだろうけど、本当にしぶとい)

(まずい、あいつ、この期に及んで魔力を全部消費させて暴走しようとしておる……!)

 

 だが、もう遅かった。

 鼓動を先程よりもさらに上昇させ、膨大な魔力を迸らせながら。

 雄たけびを上げながら、巨竜はここで額に第三の目を開眼させた。

 

「完全な自家発電で、全てを補おうとするか」

 発狂状態となった古代竜は、残った全魔力を集中させ、身体を構築し始める。まだまだ終わらせないとばかりに。

「ここまで往生際の悪いドラゴンは初めてかな。タフさと魔力だけなら、下手な〝大魔族〟や〝将軍〟を上回るかもしれない」

「伊達に厄災といわれとらんからのう。あれでも昔はもっとヤバかったんじゃよ?」

 オスマンとフーケの二人が、フリーレンの元へと駆けよる。

「ほんと、よう退治できたのうあの時のわし……」

「でも、最後の悪あがきだ」フリーレンは今の暴れぶりを冷静に俯瞰しながら、そう告げる。

 

 どれだけ奴が力を以って暴れようとも、周囲の身体は再生どころか崩れ始めている。竜を操る力すら覚束なくなったらしい。上空の竜たちは洗脳が解けたのか、四方に飛び去り始めた。

 

 あれでは今更、誰かから魔力を奪って再生しても、崩壊の方が早いだろう。

 

 魔力の尽きる時が奴の生命が尽きる時。それはもう、約束されたようなもの。

 このまま放っておけば、奴は自然と自滅する。それは確実だ。世界の危機は半分去ったようなものだ。

 

 

 

 ただ……、この近辺の住民たちの村落は、間違いなく助からないだろうが。

 

 

 

「フリーレン……」

 ルイズは困ったような表情を浮かべる。当然ながらそんな真似、見過ごすわけにはいかないといった目。

 フリーレンは、そんな彼女に……幼き弟子の姿を垣間見る。

 

 

『フリーレン様、村の人達、困っていました』

『ヒンメル達みたいなこと言うね』

『私はフリーレン様とは違っていい子なので』

 

 

 それをふと思い出したフリーレンは、ルイズの頭を撫でながら言った。

「分かってるよ。自滅なんか待たない。ここで完全に息の根を止める」

「……うん、ありがとう」

 ルイズは自分の意思を尊重してくれたフリーレンに、屈託ない笑顔で礼を述べた。

 一方の巨竜はもう、ルイズ諸共全てを消し飛ばす腹積もりでいるのだろう。

 大口を開け、外皮を吸い込み、目の前の脅威たる自分たちを吹き飛ばそうと魔力を集中させ始めた。

 ここでオスマンは、口を開く。

 

「見えるかの? 奴の額の第三の目。今度の魔力の要はあそこに移ったようじゃ。あの目を潰せば魔力の暴走は大きく収めることができるじゃろう」

「それはあいつも分かってるんだろうね。ありったけの魔力を集中させて、膜を覆うように守っている。〝魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)〟で狙っても心臓の時のように、目玉を移動させて回避するだろうね」

「それなんじゃが、奴の張る膜は魔力には強いが、物理にはめっぽう弱くてな。おまけにブレス中は隙だらけという塩梅なんじゃ。それはよう覚えておる」

 

 オスマンはそう言うと、肩から『英雄の剣』デルフリンガーをぶん投げ、フリーレンに渡す。

「たまには、噂に聞くその左手の『ルーン』の力に、頼ってみるのもええんじゃないかのう? 『ガンダールヴ』よ」

 するとここで、目を覚ましたのだろう、デルフリンガーが鍔をカチカチ鳴らしてがなった。

 

「おいオスマン! なんでこんなちみっちぇもやしメイジに渡しやがんだ! 明らかに戦士ってガタイじゃねえだろこいつ……」

 

 そうやって喚いていた『英雄の剣』ことデルフリンガーだったが、フリーレンに柄を掴まれた瞬間、喚くのをやめる。

 

「おでれーた、お前『使い手』か? マジでほんと、いつ以来だ……」

「使い手?」

 

 フリーレンは首をかしげる。だが、確かに左手のルーンが、少し共鳴したような気がした。

 まるで欠けていたピースのかけらが、埋まったような感じだ。

「分かったよ、やってみる」

 フリーレンは静かに剣を抜いてみる。

 左手のルーンが光り始め、体に羽が生えたかのように軽くなる。

 加えて、どうすれば効率よく剣を振れるかなどのイメージが、強制的に脳に打ち込まれるのを感じた。

 

 あれ、この記憶は……。

 

「『使い手』なら、まだ何とかなるかもしれねえな。おめえさん、名前は?」

「フリーレン」

「相棒が言ってた『千年以上生きたエルフ』だな? おっしゃ、今から俺がお前さんに、『俺のとっておきの剣士の記憶』を授けてやる。そうすりゃああの程度のブレス、造作もなく回避して詰められるぜ」

 刹那、巨竜が大口を開ける。口内に溜めた外殻と共にブレスも混ぜ、一気に吐き出すつもりなのだろう。

 オスマンの言う通り、その発射の隙は大きいのが分かる。避けて詰められれば、一気に奴を追い込める。

 

「じゃあオスマン、そっちは全部頼んだよ」

「ああ、任せとけい」オスマンは親指を立てた。

 そして最後に、フリーレンは自分をここへ呼び寄せた主人の顔を見た。

「あと、ルイズ――――」

 ここでフリーレンは二言三言、ここで思いついた『最後の作戦』をルイズに告げる。

 告げられたルイズは一瞬、恐怖で顔を青くするも……。続けて言うフリーレンの言葉に、思わず涙を流した。

 そして、何も言わず力強く頷いた。

 

 

「いくぜ! 相棒!」

 デルフが嬉しそうな声を張り上げる。フリーレンも覚悟を決めた。

 仕方ない、今度は『ガンダールヴ』に賭けてみるか。

 竜の口から飛んでくる、数多の質量弾を前に、フリーレンは静かに『英雄の剣』デルフリンガーの全身を、抜き放った。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 それは、勇者との、かつての旅の記憶。

 

「よっし! 勝った!」

「いやあ、今回は強敵でしたね」

 剣を高々と掲げながら、勝利の余韻に浸るヒンメル。多少怪我した彼を癒しの魔法で治療するハイター。

 

「十メートル越え大蛇、かなり面倒くさかったね」

「毒牙もそうだが、なにより俊敏性が凄まじかったからな」

 

 斧を担ぎながら、一息つくアイゼン。先の戦いを振り返り、フリーレンも頷く。

 大蛇が通った樹がたくさん折れていた。それだけで対峙していた魔物の移動能力が凄まじかったのが窺える。

 

「あんなに魔法を回避されたのは久々だった。やっぱりもう少し速い魔法が欲しいな」

「途中から、ヒンメルとアイゼンの独壇場になってましたからね」

「いやいや、的確に大蛇の行く先に魔法を置いてくれたフリーレンやハイターの手腕もあってのことさ。僕ら二人の力じゃない」

 仲間をほめながら、木に寄りかかり髪を撫でつけるヒンメル。こんな時でも格好つけることを止めないのが流石というかなんというか。

 この時にふと思ったことを、フリーレンは口にする。

 

「たまに思うんだけど、戦っている時のヒンメルたちって何が見えているんだろうね」

 

 それを聞いた前衛二人は、うーむと首をかしげる。

「戦っている時か、とりあえず剣を振る。それぐらいしか見えてないし、考えてないなぁ」

「戦では技や力より、『最後まで立っていた方が勝つ』。それが肝要だと俺は思うがな」

「はは、体力馬鹿共のコメントは全然参考になりませんね」

 

 同意を求めるかのようにハイターが言うので、フリーレンも小さく頷いた。

 

「そう言えば、ヒンメルって子供の時からあんなだったんだよね、ハイター」

「ええ、ナイフ一本で魔物を狩っていた時は子供心に『なんだこいつ』って思ってましたよ」

「今は思ってないってことかい?」

「いえ、今でも『なんだこいつ()』って、思う時があります。ってか、さっき思ってました」

「俺も含まれているのか」アイゼンが身を乗りだす。

「刃も病も通らない身体とか、(エルフ)から見ても変だと思うよ」

 フリーレンの冷静な突っ込みに、男性陣は大いに笑った。

 

「まあでも、剣を抜いて斬ると決めた瞬間は〝ただ集中する〟。それだけかな。余計なことは考えない。そして迷わないで動くって決めたときは、視界が世界を置き去りにするような感覚になる。そんな感じかな」

 

 参考になるかい? 

 ヒンメルは笑顔で言ってくる。

 

「いや、全然」とフリーレンは無表情で返す。

「それもそうか」と、ヒンメルはまた笑った。

「でも、それが僕が今表現できる、〝剣士の視界〟さ。まあ、無理に分かってくれとは言わないよ。感覚は人それぞれだろうしね」

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 場面は、再び現在に戻る。

 迫りくる巨岩の破片を、こともなげに回避しながらフリーレンは思う。

 

(そうか、これが……)

「聞いてるぜ、お前さんがかつて〝魔王〟とやらを討った一行の一人なんだろ? ヒンメルの奴、すっごく自慢してたぜ」

 

 デルフの軽口を聞きながら、絶え間なく飛んでくる外殻の連なりを回避する。

 すべてが遅く見えるような視界。世界を置き去りにする感覚。

 デルフの記憶が、魔力となって自分に流れてくる。それにより、『ガンダールヴ』の光はより一層、鮮やかに輝き始める。

 

 

 今私は、勇者ヒンメルの、戦闘時の視界を見ている。

 

 

(やっぱり、ヒンメルの奴、ハルケギニアに来ていたんだな……)

 フリーレンはこの危機的状況にもかかわらず、無意識に微笑んだ。

「さあ、もう一度世界を救いに行こうぜ。『新しい相棒』よ」

 

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