第30話『一方その頃』
「っしょ……と」
「おうサイト、そっちはどうだ?」
「いやあ全然ダメ。思ったよりも深いぞこの洞窟」
フリーレン失踪から14日経過。
北部高原、とある村近くにある祭壇跡地にて。
『地球』なる異世界からやってきた少年。平賀才人は額に汗をかきながら、残りの鏡の破片の回収に勤しんでいた。
隣にはシャベルを持ったシュタルクがいる。
「見ろよシュタルク。ぜんっぜん奥が見えねえ」
才人は、自分が一生懸命掘り進めた岩盤の穴を、シュタルクに指さし言った。
さっきまでえっちらおっちら掘っていたら、空洞が見つかったのだが、これが太陽の光が差さないくらいに深い。
「相当柔い地盤みたいだな。下手に降りるなよ。最悪戻ってこれねえかもしれないからな」
「分かってるよ。正面口の方はどうだ?」
「進んではいるんだけどな……。掘っても掘っても落盤してくるから、なかなか目的地にたどり着けねえ」
フリーレンがハルケギニアなる土地に向かったと聞いた、フェルンとシュタルク、そして才人の三人は、全ての謎を結び付けている鏡の破片、それの回収と修復にあたっていた。
同時に、なるべく地盤を刺激しない程度に埋もれた遺跡を探索しているのだが、やはり思うようには上手くいかず。
「とりあえず、現時点で掘り起こせるところは掘り起こせた……って感じかもな。これ以上やるとなると、それなりの人員はやっぱりほしいな」
シュタルクはシャベルを肩に置きながら、一息つく。
「フェルン、そっちはどうだ?」
そして、木の幹で座りながら、魔法を使っているフェルンの方に声をかける。
「シュタルク様たちが集めた破片も全部取り込みましたが……、やはり、あれから何の変化もありませんね」
『私はハルケギニアにいる』
フリーレンからのメッセージも、あれ以降途絶えてしまった。
修復して元の形に戻していくたび、なにか変化があるかと思いきや、そんな兆候すら見受けられない。
不毛のような時間を過ごしているようにも思えたが、まだ始めて二週間ちょっと。フリーレンとの旅路で待たされることに慣れているフェルンの心は、これしきでは容易にくじけない。
「……ん?」
ふと、そんな彼女の背後を軽くつっつくリスが現れた。よく見ると小型の鞄を抱えている。
「早いですね」
フェルンはそう呟きながら、カバンから手紙を受け取る。リスはすぐに茂みの中へと消えていく。
「おいフェルン、それって……」
「お、なんだ、どうしたんだ?」
リスに気付いていたシュタルクと才人も、フェルンの方へと駆け寄った。
「大陸魔法協会から、連絡が来たみたいです」
「また任務とかじゃねえよな? 流石に今の状況で受けられねえぞ」
「多分それは無いかと思いますが……」
そう言いながらも、フェルンは手紙を開く。しばし読んだ後、ほっとしたような表情で手紙の内容を伝えた。
「デンケン様からです。フリーレン様失踪の件で、話したいことがあるからキーノ峠の関所へ向かわれたし。とのことです」
「魔法の協会とかあるんだな! すげえなやっぱりファンタジーだな!」
あの後。
二週間近く滞在していた村のみんなと別れを告げ、旅支度を整えた三人は早速、指定された場所へと歩き始めていた。
その道中にて。
「ここじゃ魔法の資格とかあるんだなー。シュタルクは受けたのか?」
「いや、俺はやってねえ。魔法使いってわけじゃねえし。代わりにフェルンが最近、一級資格をとったんだよな」
「へー」才人は両腕を頭の後ろに回して、先に行くフェルンの背中を追う。
(かわいこちゃんだし、それなりに大きいんだけどな……。なんか母ちゃん見ているみたいでなあ……。ちょっと苦手なんだよなぁ……)
あまり表情を変えないし、自分のだらしないところはあけすけに言ってくるし。
魔法が使えるのは確かに凄いとは思うけど、才人の思春期センサーにはどうにも反応がしづらかった。
それにまあ、明らかにシュタルクに気があるみたいだし。ちょっかいかけるのもあれだよね。
生来鈍感な気質である才人でさえ、何となしに二人の関係はそんなんじゃないかと思っていたのであった。
(魔法協会とかに行けば、もっとかわいい子がいるのかなぁ)
せっかく来た異世界だし、それなりに楽しみたいとも思っている。そんな能天気な才人とは裏腹に、シュタルクはフェルンと会話していた。
「にしても、大陸魔法協会が絡んでくるとはな。でも確かフリーレンって……」
「はい、あの人は落ちましたし、なんなら千年、施設出禁ですからね。この件には絡んでこないのかと思いましたが、デンケン様がもしかしたら動かしてくれたのかもしれませんね」
「千年も出禁って、何やったんだよフリーレンってやつ……」
会話を側で聞いていた才人でさえ、思わず反応する。せずにはいられない。
よっぽどのやべーやつなのだろうか? 思わず耳長の怪物のような表情を思い描く才人に、フェルンは待ったをかけた。
「違います。ゼーリエ様の気まぐれに巻き込まれただけです。むしろこれに関しては、フリーレン様は完全な被害者ですからね」
「そうなの……ってか、ゼーリエって?」
「大陸魔法協会の創始者にして、現在のトップです。フリーレン様と同じエルフですが、魔法の技術に至ってはフリーレン様以上のお方ですよ」
その分、かなりの我が儘で自分が気に入った者にしか入れ込まない、気まぐれな性格なのであるが。
才人は素直に「へー、すげえな」と、とりあえずコメントを返す。
……勢いで感想を言ったけど、まだフリーレンすら良く分かってないのだから、それ以上の魔法使いと言われてもぶっちゃけイメージしづらい。
「ってか、そんなすごい人に頼めば、俺が帰る方法とかフリーレンを探す方法とか、今の状況を一気にひっくり返してくれるんじゃないかな? カナ?」
「ありうると思います。私も、叶うなら是非ゼーリエ様のお力を借りられたらと思うのですが……」
「俺まだ直接会ってねえけど、話を聞くにフリーレンのこと、あまり好きじゃなさそうに思えるんだよな」
当人たちの間でどんな確執があるのかは、シュタルク達には知る由もない。ただ、それでも気のある相手なら千年出禁になんかしないだろうし。
そういう上辺だけの情報を鑑みれば、協力をお願いしても断られるだろうと見ていた。そこはフェルンも同じ感情のようだった。
「そもそも先ほど言ったように、フリーレン様は資格すら取っていないから協会とは無関係ですからね。なので協会自体が動くとは正直、思ってはいませんでしたから」
「んだよもー」才人はぶーたれながら、ため息をつく。
そんな会話を交わしながら数刻、歩いた先。
北部高原、キーノ峠の関所前まで、才人達はやってきた。
「うわ、すっごい混んでんな」
「帝国領の流通が本格的に進み始めたんでしょうね」
初めて来た時より、二倍以上テントや人の往来が増え始めた。そんな周囲を見ながら、フェルンとシュタルクは呟いた。
「思えば俺たち、女神の石碑を解読したその足で帝国領に向かおうって、話してたんだよな……」
「なんだか、遠い過去のように感じてしまいますね」
「そういえばシュタルク達って、どこに向かう予定だったんだ?」
思えば、旅の目的地をまだ聞いたことのなかった才人は、持ち前の好奇心を発揮させながら尋ねる。
「天国に行く予定だった」
シュタルクは軽いノリで言った。
「は? 天国?」
当然、才人は困惑する。
え、天国ってことは……天国だよな?
字面通り受け止めるならば、シュタルク達は『あの世へ行く予定だった』と解釈できるわけで。
もしかしてこいつら、世を儚み気持ちよく自殺できる場所を求めて彷徨い歩いているのではなかろうか?
才人はとにかくヌケている性格である。おまけに一度思い込んだらなかなか止まらない。
完全に
「い、いかんぞキミたち! そ、そんな集団自殺だなんて! キミたちだってほら、若いんだし! 先だってあるんだし! そんな死にに行くような旅なんてしちゃあいかんよ! ねえ」
「何を言っているのですか? 死者と対話するという幻の秘境を求めて、北に向かっているだけなのですが……」
「死者と対話! ダメですよダメ! いかにも怪しい噂に踊らされているだけですよ! そんなあの世に行けばお母さんに会えるとか、下らない噂で人生を投げ出しちゃあいけませんよ! 命には限りというものが――――」
とか、どうのこうのお説教を始める才人。二人はどう説明すれば分かってもらえるか、困惑した表情で互いの顔を見合わせていた。
そんなところに。
「久しぶりだな」
良く通る威厳のある声が、才人の背後からかかってきた。
才人は慌てて振り向く。彼の視界の先には、いかにも「偉いです」と、一目で分かる風格を漂わせた、二人の老人が立っていた。
「デンケン様、それにレルネン様も!」
フェルンは二人の先達の魔法使いに呼びかける。
「まずは先に礼を言わせてくれ。よくあの無茶な依頼を引き受け、無事ヴァイゼを元通りにしてくれた。友を手助けしてくれて、本当に感謝するよ」
「いえ、黄金郷修復はフリーレン様のおかげです。私達は直前まで黄金になってましたから……」
「それでも君たちは、あのマハトと同格といわれる大魔族を、陰で討ち取ったそうじゃないか。それに勝る快挙も中々ない。本当によくやってくれたよ」
老人のうちの一人、髪をオールバックにした長身の老人が、朗らかな声でフェルンたちをほめそやした。
感謝の言葉もそこそこに、彼は切り出す。
「話は聞いているよ。魔王を討ち取った伝説の魔法使い殿が失踪したそうだね。フェルン一級魔法使い」
老人、レルネンは真剣な口調へと一転させ、フェルンに尋ねる。
「はい。それも別の大陸に飛ばされたとかそういう次元じゃなく、異世界『ハルケギニア』なる場所へ飛ばされたそうなんです。レルネン様」
「うーん、ハルケギニアねえ……」
レルネンは顎に手を添えてしばし黙考する。
やがて無言のまま、目線を隣の老人……、
「いや、聞いたことないな」
片眼鏡の老人……、おそらくこいつがフェルンと連絡しあっていたのだろう、と才人は思った――――デンケンは言った。
「私もだ。……ところで、彼は?」
ここでレルネンが静かな目線で才人を見る。
先ほどまで会話に入り込めず、両手を後頭部で組んでいた才人も、威厳ある老人の眼力の前に、慌てて姿勢を正した。
なんだこの人、こええ。
「彼が、報告にも書きました、異世界からやってきたという少年です」
「ふむ」と、レルネンは興味を完全に才人に向けた。
「きみはハルケギニアから来たのかね?」
「いえっ……、違います」
「報告によると、不可思議な魔導書を持っているとあった。それを見せてもらっても良いかね?」
なんだろう、怒鳴られているわけでもない。優しい声の筈なのに。
逆らったらとんでもない目に遭わされるのじゃないかという、そんな、何とも言えない緊張感が、才人の心臓をさらに加速させた。
(魔導書って、スマホのことだよな……。いいのかな、渡しちゃっていいのかな……)
『見せてくれ』と言われただけなのに、早合点して『渡せ』とまで勘違いしている才人。なんならもう、渡したらスマホは戻ってこないのかもしれないとまで、思い始めていた。
極度の緊張で、滝汗を流し始める。不憫に思ったフェルンやシュタルクも、才人を助け船を出そうとした時だ。
「よせレルネン。委縮しておるぞ」
先に助け舟を出したのは、冷静に才人の様子を観察していた、片眼鏡の老人こと、デンケンだった。
「すまないね。怯えさせるつもりじゃなかった」
レルネンは素直に謝罪し、会話役を素直に友人に渡す。
レルネンが一歩引くと同時に、デンケンが前に出た。
「名乗りがまだだったな。儂はデンケン。隣は友人のレルネン。共に大陸魔法協会で一級資格を持つ魔法使いだ」
良く通る声で自己紹介した後、デンケンは尋ねる。
「若造、名は?」
「……才人です。
「なるほどサイトか、ふむ、良い名だな」
名前を褒められたことで、才人は改めてデンケンの顔を直視した。さっきまでずっとプレッシャーで下に顔を向けていたのだが、ようやく上げることができた。
「話は粗方、フェルンから聞いておる。フリーレンと入れ替わりでお前がこの世界に来たこと、魔力は無いが不思議な道具を携えた少年だという事はな」
デンケンはそこまで言うと、才人にズバリと尋ねる。
「先に聞きたいことがある。サイト、家に帰りたいか?」
いきなり核心を突く問答。才人は一瞬、何か含みがあるのかと勘繰った。
だかそれも一瞬だけ。デンケンの目は本気で自分がどう思っているのかを尋ねている。
それに才人は力強く、答えた。
「はい、帰りたいです! 帰ってゲームしたいし、学校に行きたいし、母ちゃんや父ちゃんに会いたい……」
そこまで言った時、才人は泣き出してしまった。こうして本音を吐露したことで、溜めていた鬱憤が一気に爆発してしまった。
フェルンとシュタルクは顔を見合わせる。もはや身寄りがいない自分たちにとって、拠り所がない場所へいきなり放逐された時の心情は、察するに余りある。
ぐしぐしと、必死になって涙をぬぐう才人に対し、デンケンは「そうか……」肩を軽く叩いた。
「案ずるな。儂らは味方だ。必ずお前を元の世界へ戻してやる。だからサイトよ」
デンケンはそう言って、才人の肩をバンバンと叩いたのち、最後にこう告げた。
「お前も、最後まで醜く足掻くんだぞ」
そう言うと、再び離れて会話役をレルネンに譲った。
「……やれやれ、完全に火がついてしまったね。あれは」
苦笑した様子で、友人の瞳に宿る光を見据えるレルネン。
ついこの前まで、黄金にされた故郷を救うために、己の師匠と死闘を繰り広げたのだ。帰りたくても帰れない才人に、思うところは大きくあったのだろう。
なんにせよ、友人が上手く彼の本音を聞き出してくれたこと、此方の警戒度を下げてくれたことに感謝しながら、再び才人達に話しかける。
「実を言うとな、フリーレン様がお隠れになった件について、すでにゼーリエ様から言伝を頂いてね。私がこうして先に出張ってきたというわけだ」
「ゼーリエ様が?」
フェルンが思わず尋ねる。
「そうだ」とレルネン。
「これを、君に渡すようにと言っておられた」
懐から、一冊の魔導書を取り出し、それを差し出す。
受け取ったフェルンは、丸い瞳をさらに丸くした。
「これは……フランメ様の著書ですか?」
「その通りだ」
千年前の大魔法使い、フランメの著書に本物無し。といわれるくらい偽物が蔓延る曰く付きだが、フランメはゼーリエの一番弟子であったことはフェルンも知っている。
フランメの師である
フェルンはパラパラと頁をめくる。魔導書というより、日誌のようだ。
その中の一文に、フェルンは目を奪われた。
『異世界ハルケギニア。あれだけが私の心残りだ。もう一度リベンジしたい。未曽有の厄災が起こる前に』
「これって……!」
「ああ、私たちはハルケギニアがなんたるかを知らない。だが……」
「この書を見るに、どうやら大魔法使いフランメだけは、かの地を訪れたことがあるようだな」
レルネンの言葉に、デンケンも続く。
しかも『リベンジ』と書いてあるあたり、複数回にわたって行き来した可能性もある。
フェルンは思わず身を乗り出した。フランメでこれなら、ゼーリエだったらもっと知っているかもしれない。いや、生ける魔導書とも称される彼女のことだ。〝
「レルネン様、ゼーリエ様はいまどこに? 会って話をしたいのですが!」
「すまないがそれは無理だ。あの方は今、長い休眠に入っておられる」
「え、何してんですかあの人。起こしてください」
思わず辛辣な言葉で突っ込むフェルン。レルネンは苦笑しながら。
「仕方がないことさ。あの方のわがままは今に始まったことではないのだから」
そう言って、こうなるまでの経緯を語り始める。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数日前。
魔法都市オイサースト。大陸魔法協会施設内にて。
「フリーレンが消えた?」
「ええ、デンケン一級魔法使いより、そのような連絡が届きました」
都市の中でも一際高い建築物にて。
エルフであり、大魔法使いの一人。ゼーリエは格式高い玉座で胡坐をかきながら、長年の付き合いである一番弟子、レルネンの話を聞いていた。
「そうか……」
ゼーリエはしばし、長年見てきたレルネンからも珍しいと思うくらい――長考した様子を見せる。
「ゼーリエ様、どうかなさいましたか?」
「レルネン。確かフリーレンの奴、北へ向かって旅しているそうだな」
「ええ」
「ならば今頃、キールの関所あたりか。女神の石碑近くに『あれ』があるな……。原因はおそらくそれか」
ゼーリエはそう言うと、玉座を降りて一度、部屋を出て行く。
「どうしたんでしょう、ゼーリエ様」
「さあ……」
レルネンは、同じく部屋に待機していた一級魔法使い、ゼンゼとファルシュ、二人と共に首をかしげていた。
数刻後、部屋にゼーリエは戻ってきた。一冊の魔導書を携えて。
「レルネン。お前、これをフェルンの奴に渡してこい」
「はっ」
ゼーリエの我が儘に慣れきっているレルネンは、一切の疑問府を浮かべず快諾する。
「それからレルネン、ファルシュ、ゼンゼ。私はしばらく寝る」
「えぇ……、急にどうしたんですか?」
この声はゼンゼだった。さしもの突拍子もない、なんならいつものゼーリエらしくもない発言に、たまらず声が出てしまった。
レルネンも一瞬、目を見開くがすぐに冷静さを取り戻し、尋ねる。
「どれくらい、眠るおつもりですか?」
「さあな、〝道の輪郭〟が、つかめるまでか」
ゼーリエの不敵な答えに、レルネンは一瞬で、彼女も何かしらの意図があって動き出すのだと瞬時に察した。
「フェルンの奴が私を訪ねるようなことがあったら〝寝てる〟と伝えろ。今のあいつならそれで気づく」
というより、気づいてもらわないと困るがな。
何かしらの意味を含めた発言をこぼすゼーリエの表情が、レルネンの記憶に強く焼きついた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そんなことがあったのですか」
フェルンはもう、そう返すことしかできなかった。
レルネンは更に、ゼーリエは今、玉座の間で座りながら寝ていることまで伝えた。
当人は寝る前、『護衛は必要ない』と言っていたが、そういうわけにもいかないのでファルシュやゼンゼ、メトーデあたりが護衛についているという。
「そういうわけでな、ゼーリエ様も今は動けない状態だ」
レルネンの言葉に、フェルンはしばし頭を悩ませる。
そんな中、彼女はゼーリエが言った言葉を、思い返していた。
『〝寝てる〟と伝えろ、それで気づく』
「――――あ」
フェルンは一瞬、フリーレンがまだいた頃の事、あの村での会話の一幕を思い出した。
『
『うちではそうですねえ……、倉庫の隅で、埃をかぶっている魔導書があるのですが、それでよければ』
『どれどれ……、〝みんなと同じ夢が見られる魔法〟。すごいのがあるね!』
『フリーレン様、すごく目を輝かせてますけど、そんなに珍しい魔導書なのですか?』
『これはね、〝カビを消滅させる魔法〟や〝しつこい油汚れを取る魔法〟とか、そういう伝説級に並ぶ古い魔法だよ』
『そうなんですかい。結構昔からあるって魔導書なのですが、どう活用して良いのか分からず……。亡者を片付けてくれるのであれば、持って行っても構いませんよ』
『よし、乗った』
「そうだ、もしかしたら何とかなるのかも……」
今持っている、フリーレンの魔力を微かに感じるこの鏡と、この魔導書があるのなら。
フェルンが真剣な表情で思考を割いている間、男子組は才人のスマートフォンに驚きを見せていた。
「これは……様々な情報を含めた書物……書物? のようだね」
「見たことのない文字だな。この文字は?」
「あ、これは日本語っていいます。俺の国の言語ですよ」
慣れていない老人に最新機器をレクチャーしている気分で、才人はスマホを軽く紹介していった。
当然ながら、電動で文字や様々な画像が出てくる不可思議な魔道具の存在に、一級魔法使い達も驚きを隠せないようだ。
「うぅむ、君のことについて、色々と話を聞きたいところだが、まずは移動しようか」
「どこに向かうんすか?」スマホを携帯バッテリーにつなぎながら、才人は尋ねる。
「この近くに『シュラーフェン』という魔法都市がある。オイサーストほどではないがそれなりに発達した街だ。大陸魔法協会が運営しているから、他国や魔族への干渉もない」
「流石にここからオイサーストやヴァイゼへ戻るとなれば、かなりの日数を要する。だが、あの地ならここから馬車でおよそ十日ほどだ。お前たちの旅路を妨げることもない」
フェルンもその魔法都市の名前は聞いていた。
勇者一行も訪れたこともあるかの地。当時は魔法使いギルドが管理していた街だが、今は大陸魔法協会が街を運営しているという。
街全体が施設のようなものであり、千年出禁にされているフリーレンは入れないためスルーしていた街だが、彼女がいない今なら特に問題はない。
落ち着ける場所が欲しかったフェルンたちは、彼らの好意に素直に甘んじた。
そんなわけで早速、馬車で移動を始める一行。
「そういえばデンケン、グリュック殿の身柄案件はどうなったのだ?」
「帝国内でも黄金郷解決でかなりゴタついておってな。『魔導特務隊』もその対処に追われておるようだ。暫くはわしも融通が利く」
それは、言い換えれば才人の面倒を見れるということ。
相変わらずだな。とレルネンは内心、再燃する友人に苦笑した。
「では、サイトくんの面倒はきみに任せるよ、デンケン」
「そのつもりだ」
そんな風に会話している老人二人をよそに、シュタルクはフェルンが何かに気付いたのを察したようだ。
「フェルン、何か気付いたのか?」
「ええ、もしかしたら、フリーレン様と交信できるかもしれません」
「ホントか!?」
シュタルクもそうだが、これには才人も反応する。
異世界に行ったというフリーレンと会話できるのなら、自分も元の世界に戻れる方法を何か、確立できるかもしれない。
「ただ、それにはいつフリーレン様が寝るのかを把握しなくては。多分フリーレン様のことですから、私がこの考えに辿り着くことにも気づいているでしょうし」
フェルンはそう言うと、懐から鏡を取り出す。
鏡はあれ以降、なんのメッセージも示さない。まるで自分を試しているかのように。
『不可能を可能にする。それが一級魔法使いになる条件』
試験時のゼンゼの言葉を、フェルンは反芻する。
受け身じゃだめだ。こっちからアプローチをかけなければ。
「これからどうすんだ、フェルン?」
「まずはシュラーフェンに行って、落ち着いてから動いてみましょう」
そう言って、更にこう続ける。
「夢の世界で、フリーレン様と交信します」
第二章はルイズとフェルンたちの関係を詰める感じで進めていきます。
どうでもいいですがフリーレンキャラで一番好きなキャラはデンケンだったり。
早く黄金郷編をアニメで見てぇ。