フリーレン召喚から1ヶ月後。
ハルケギニア、トリステイン魔法学院。
フリーレンがハルケギニアにやってきてから月を跨ぎ、
「じゃあ、始めようか」
場所はかつて、『召喚の儀』を行ったアウストリの広場。
時刻は丁度三限目。昼食を取り終え、午後からの授業が始まる時間帯。
日当たりが良いため人通りが多いアウストリの広場も、この時は静寂に包まれていた。
その中央に立つのは、フリーレンとルイズ。御馴染み授業をサボって様子を見に来たキュルケとタバサ。そして手伝いできているシエスタだ。
シエスタは手に、鏡を持っていた。オスマンから貰った
「本当にやるの?」
ルイズはどうにも、煮え切らなさそうな表情を浮かべている。
今からやるのは、春にもやった使い魔を呼び出す魔法。『
一か月前、この呪文を唱えたルイズの前にやってきたのが、何を隠そうフリーレンである。
当然ながら、この呪文は使い魔を呼び出す魔法であるため、契約が終わった今となっては発動すらしない、ただの死に魔法と化す。
今の使い魔、すなわちフリーレンが生きている間は、使えないはずの魔法であった。
「同じことをもっかいやって」と、フリーレンにお願いされたためにここにいるのだが、唱えたとて発動するかどうかの保証などない。
「いや別に、やること自体は良いのよ。あなたの頼みだし。でももしなんも起きなかったらわたし、バカみたいだからね」
あの時は結構、やけくそと勢い任せで呪文を唱えていた節があった。前日にキュルケたちに「召喚だけは自信があるの!」と大見得切ってたのもあって、かなり壮大な文言を使ってたのもある。
今振り返ると結構恥ずかしい。それをこれから、大声で叫ばなければならないのだ。
それに対し、全身筋肉痛から復活したフリーレンは静かに答える。
「召喚魔法時にできるであろう痕跡を辿りたいんだ。多分
「……わかったわよ」
とうとう、観念したかのようにルイズは杖を振り上げる。
精神を統一し、そして叫んだ。
「宇宙の果てのどこかにいる、わたしの
そして振り下ろす。
その三秒後、ポンッ……と小さな煙と共に、間抜けな音が鳴り響いた。
「あーーっはっはっ! 改めて聞いてもすっごい謳い文句ねルイズ! 『召喚』一つにどれだけ気合込めているのよ!」
「それで
改めて聞いても壮大な召喚文句に、思わず笑い転げるキュルケ。
タバサはフォローしてくれるが、口元を本で隠してたり、ちょっと声が震えていたのをルイズは聞き洩らさなかった。
なんなら、シエスタもちょっと陰で笑いをこらえていたり。
周囲の笑い声にルイズは耐えきれず、顔を真っ赤にして叫んだ。
「さあ唱えたわよフリーレン! どう!? なんっっにも起こらなかったでしょ!?」
確かに、
しかし、杖を水平に掲げ、魔力の足跡を辿っていたフリーレンだけはこの結果を笑わず、閉じた目をゆっくり開けて告げる。
「いや、本当に何も起こらないのなら、先の白煙も発生しないはずだよ。……やっぱり何かしらの原因で、『完全に』召喚術が成功してないんだろうね」
「――――え?」
これを聞いた周囲は、頭の上で疑問符を浮かべる。
「確かに、ポンッってかわいい音を鳴らしてたけど、それに何かしらの意味があるのかしら?」
「実を言うとね、ずっと考えてたんだ。私がここに来る経緯。ルイズ達には前に話したよね?」
「ああ、なんか変な宝箱のお化けに食われて、ここに来たってやつ?」
キュルケはフリーレン召喚初日の夜を振り返る。当時その場にいなかったシエスタにもその話を共有しながら、改めて問う。
「それがどうかしたの?」
「その時に一緒に話したよね。召喚される前、誰かにぶつかった衝撃でここに来たって」
「ああ……」
少女三人組は「そういえば……」といった顔を浮かべる。あの時はエルフが召喚されたという衝撃が強くて、すぐ忘れたけどそんなことも言ってたっけ。
「さっきの不完全な『召喚反応』を見るに、多分、
「え、じゃあなに、ちょっと待って……」
それを聞いたルイズはやがて、唇を震わせる。
それってつまりは……、
「わたしが本来召喚するはずの使い魔は、フリーレンとは別の奴だったってこと……?」
「というか、多分私は『邪魔しちゃった側』だろうね。あのミミックは多分、別の出口を繋ぐはずだったんだと思う。奇跡に近い確率だけど、それが起こったってことなんだろうね」
祭壇にあった鏡にミミック。色々疑問符は浮かぶ。
何故異世界を繋ぐ代物があんなところにあったのだろう。
だが今は、そこを振り返っても仕方がない。大切なのはこの反応によって導き出される答えを、手繰り寄せること。
「でもこれは、逆に言えば僥倖なんだよ。多分だけどその使い魔候補は私の世界に入れ替わりで移動した可能性が高い。切れているようで切れていない、『召喚されかけたという因果の糸』ともいえるものが、先のルイズの召喚術と合わさって、こうして残してくれている」
「良く分かんないけど……つまり、その糸を手繰ればあなたは自分の世界へ戻ることも、お仲間と交信することも可能だって言いたいわけ?」
キュルケの問いに、フリーレンは「そうだよ」と返す。
「これだけ条件が整っていれば、交信ぐらいはできると思う。もうフェルンも気づいているしね。あの子がどうやって私に会おうかとしているのかを」
「どうやるの?」今度はタバサが、せっつくように聞いた。
「最後にここへ来る前に、報酬で〝みんなと同じ夢が見られる〟魔導書を手にしたんだ。あの魔法の効力を使って、夢の世界でフェルンたちと交信する」
「そんなこと、できるの?」
「できるようにしているところだよ」
そしてフリーレンは、シエスタが持っている『遠見の鏡』を指す。
魔力を込めることで遠くのものを見ることができる
だが時折、その靄の中に魔法の文字……、フリーレンの世界の言語が飛んでくるのを、ルイズ達は知っている。
「幸い、この鏡のおかげでフェルンとは、軽い文字で情報を交換できている。それに加えて、さっきルイズがやってくれた召喚の足跡を辿れば、いけないことはない」
「この鏡って、結局何なんですか?」
シエスタは疑問符を浮かべる。何故異世界と通信できるのか、何故魔法を通じて文通できるのか。謎は多い。
「私も詳しくは分かんないけど……、私がここに来る前、それと似たような魔力を発する鏡を見たことがある。多分だけど、同じ素材で作られた鏡なんだろうね」
「どうしてそんなものが、あなたの世界に?」
というタバサの疑問には、「分かんない」とフリーレンも素直に返す。
「ただ、もしかしたら私の世界とこのハルケギニアは過去に何回か、交信があったのかもしれないね。ヒンメルも来ていたみたいだし。あり得ないことではないよ」
しかもヒンメルは、年に一回帰れるくらいに安定した帰還手段があったみたいだし。でなければクヴァールを一年おきに確認することなんてできないだろう。
「だから、これらをうまく組み合わせれば、夢の中だけでも向こう側の精神と繋げることはできると思う。幸いあの魔法は神話級だし、多少の無理には応えられる力がある」
後はお互い寝るタイミングかな。
そこまで言った時、フリーレンは気づいた。そういえばルイズは、ずっと項垂れている。
先の会話以降、ひとっ言も喋ってないのだ。
「どうしたの? ルイズ」
フリーレンは問いかけるも、ルイズは小さく首を振る。
疑問符を浮かべるフリーレンに対し、囁くようにキュルケは言った。
「そりゃあショックでしょ。決して口には出さないけどあの子はね、あなたが使い魔ですごく満足していたはずよ。それなのにあなたは事故で来ただけで、今更本命の使い魔がいましたーなんて、知っちゃったらねえ」
「そういうものなの? エルフで良かったの?」
フリーレンの疑問に、「そういうものよ」とキュルケは返す。
ルイズは沈黙したまま、どう切り出そうかと杖をいじいじしていた。
しばらく、気まずい雰囲気が流れる。
その時だ。シエスタの持っている『遠見の鏡』が光った。
「あの、フリーレンさん、文字が浮かんでいるようなのですけど……」
フリーレンは早速、鏡を覗き込む。
『これから就寝』
「上出来だ、フェルン」
フリーレンは微笑んだ。そしてすぐに返信の文字を送る。
今回は行けると。だから準備を進めてほしいと綴った。
そして周囲に「召喚魔法はもう大丈夫」と、打ち切りを告げる。
「さっきのルイズのおかげで、ハルケギニアとフェルンのいる世界、両方の居場所が朧気ながらつかめた。今寝ればフェルンたちと夢の中で合流できるかも」
「え、あなた達の仲間に会えるの!? それってあたしたちも行けるものなの?」
キュルケは思わず尋ねる。
「わたしも興味ある」と、タバサも身を乗り出した。
噂に聞くエルフの弟子。その雰囲気を知りたいという気持ちは、キュルケ以上にあったのだろう。
フリーレンは自分と、三人の女生徒を順々に見ていって、おもむろに頷いた。
「私、ルイズ、キュルケ、タバサ……、四人までなら、まあいけるかな」
「本当!? やった! 何気に知りたかったのよね!」
キュルケは嬉しそうに顔を綻ばせる。そして省かれてしまったシエスタには「ごめんなさいね」と、軽く謝る。
「いえ、わたしは別に」と、シエスタは頬を掻く。
「ごめんね、また今度埋め合わせするから」と、フリーレンも軽く謝った。
最初だからそもそも成功するかもわからないのだ。魔力をちゃんと使える人間の方が好ましい。
(まあでも、シエスタは勿論、この世界の平民も覚醒できれば魔法は使えると思うんだけどね)
貴族平民関わらず、この世界の人々はみんな、未覚醒なだけで魔力を持っているみたいだし。
その事実に今のところ気付いているのは、魔力探知に優れたフリーレンのみだ。まあそろそろ、オスマン辺りは察するだろうか。
「じゃあそろそろ、寝る準備を始めようか。ルイズ、いい?」
フリーレンの問いかけに、若干ルイズはきょどった返事をする。
「え、あ、うん……、そうね、あなたの弟子にも、きちんと会って、その……、謝らないとね……」
結局最後まで、何か引きずっているかのような顔は、変わらなかったルイズであった。
早速、学院に戻ったフリーレンはその足で寮に向かう。
まだ太陽も傾いていない昼日中であったが、恐らく向こうと時間軸に若干のズレがあるのかもしれない。
場所は勿論、ルイズの部屋だ。そこにシエスタら使用人たちが三人分のベッドを運び始める。
これと同時刻に「フリーレン、ちょっといいかい」とロングビルが再びやってきたが、「明日にして」と、締め出す一幕もあった。
「じゃあ、始めるよ」
カーテンを閉め切り、それぞれのベッドで寝転ぶ三人組。
「今から、普通の睡眠魔法をかける。眠ったら意識の流れに逆らわず、ゆったりしていて。上手くいけば、夢の世界を繋ぐ空間を、フェルンと構築できるから」
フリーレンはそう言うと、杖を掲げる。杖先から妖しげな光が漂い始め、それが超音波のように揺らいでいく。
それを浴びていたタバサとキュルケ、ルイズはすぐに睡魔に襲われた。
「抗わないで。眠ったら暗闇の視界で光の点滅が見えるはずだから、それを目指して追いかけて」
その言葉を最後に、三人は深い眠りについていった。
同時刻。
北部高原、大陸魔法協会が運営する街、シュラーフェンのとある宿にて。
こちらの外はすでに真っ暗。誰もが寝静まる時間帯だ。
「では、私たちも寝ましょうか」
「本当に、寝れば夢でフリーレンと会えるのか?」
シュタルクが疑問符を浮かべて問い掛ける。
「自信はありませんが、何事もやってみなければ分かりません」
「まあ、俺は魔法のことはよく分かんねえから、フェルンに全部任せる。頼んだぜ」
既に部屋内には、三人分のベッドが用意されており、そのうちの一つにシュタルクは身体を預ける。
「なんかワクワクすんなー、シュタルク」
と、才人もちょっと楽しげな様子で横になる。
「おう、夢で会話するってどんな感じなんだろうな」
「なー!」
緊張感のない少年二人の会話に、フェルンは軽く嘆息する。ここ数日で思ったけど、才人も年相応にガキっぽい。というかガキだ。
落ち着きないし、思い込み激しいし、かといって言いすぎると激しく落ち込むし。
フェルンからすれば、世話の焼ける弟ができたような感じを覚えていた。
まあ、だからこそ同じ年頃のシュタルクとは速攻で打ち解けたっぽいのだが。
「では、儂はこれで」
その声で、フェルンの意識は現実に引き戻される。
この部屋を準備してくれたデンケンの声だ。フェルンはここまで全て準備してくれた彼にお礼を述べる。
「本当にありがとうございます、デンケン様。助かりました」
「ありがとな、デンケンじっちゃん」
才人も手を振ってお礼を言う。そのあけすけな態度が気になったのか、シュタルクは才人に言う。
「おい、サイト……、あの人はあれでもお貴族様で……、しかもすっげえ偉い人なんだぞ……」
「構わん。この場においてそんな肩書は必要なかろう。事態を究明する、一人の魔法使いとしてここにいるわけだからな」
デンケンの気安い態度に、才人は頬を緩ませた。
最初は怖い人だなーと思ったけど、なんだかんだいって一番面倒を見てくれている。そんなデンケンに才人は、シュタルクと同じくらい懐いた。
デンケンもデンケンで、才人のことはそれなりに可愛がっている様子だった。
部屋の扉を閉める前に、最後にこう言い残して、デンケンは去っていった。
「会えるといいな。フリーレンに」
「……そうですね」
今回、デンケンは参加しなかった。
色々と手探りの段階の中、多量の人間を囲い込める自信がまだないのであった。
とりあえず、今回寝るのはフェルン、シュタルク、そして才人の三人だ。
「……こんな時に言うのもなんだけどさ、俺なんか参加して良いのか? じっちゃんの方がいいんじゃ……」
才人は疑問符を浮かべて問い掛けるが、フェルンは、
「いいえ、逆にサイト様がいてくれた方が助かります。サイト様に付着している召喚魔法の痕跡。その残留思念が、フリーレン様の居場所まで導いてくれる気がするのです」
「そういうもんなんかなー」と、才人は呟く。
ここでフェルンは、祭壇の手鏡の破片を見る。先ほど魔法で、『これから就寝』と、魔法で文字を書いておいた。
そしたらさっき返信が来たので、この魔法の使用に踏み切ったのである。
だが、正直成功するか、自信はない。
それでも魔法に関しては今も追いつけないと思っている、師匠の技術と勘に、全てをかけた。
「では、魔法を使います。眠ったら流れに逆らわず、されるがままでお願いいたします」
そう言うとフェルンが魔導書を開き、そこに記された魔法を使い始める。
すると、シュタルクと才人は、突然抗いがたい睡魔に襲われ始めた。
「そのまま、ゆっくり目を閉じて……」
フェルンの言葉が、子守歌の様に響き渡る。やがて、シュタルク達は大の字になって眠り始めた。
二人が寝るのを確認した後、フェルンも目を閉じ、意識を落とす。
真っ暗闇の中、濁流の中を泳ぐような感覚が、フェルンを襲う。
まずはシュタルクと才人。二人の『意識』という名の光球を手繰り寄せる。もしシュタルクや才人だけでいいのなら、このまま二人を手繰り寄せて部屋を構築すれば、夢の中で会話ができる。
でも、それでは意味がない。今回の目的は異世界に飛ばされたフリーレンとの邂逅なのである。
フェルンは辛抱強く待つ。既にシュタルクと才人の意識は見つけてある。後は自分が、フリーレンの意識を見つけなければならない。そうしないと話が進まない。
(フリーレン様……!)
ここで集中を切らしたら失敗する。魔力の波長を上手く操りながら、気配をさらに広範囲へと広げていく。
やがて、彼女は気づいた。才人の光球から、何か細い糸のようなものが出ていることに。
(すみませんサイト様、ちょっと失礼します)
フェルンは光の球(才人の意識)を手繰り寄せると、そこから延びる糸の方へと、泳ぐように進んでいく。遅れて二つの光球が、彼女を追尾する。
これだ、この感覚。
途中、何度も激しい渦のような流れに巻き込まれながらも、暗闇の中、か細い糸を必死になって手繰り寄せる。
何度か手から零れ落ちそうになるシュタルクの光球を必死になって引き寄せ、ひたすら足掻き突き進む。
どれくらい? 何時間経った?
精神的に半日を過ぎたのではないかと想像してしまうほど。それくらいの疲労がフェルンに、重くのしかかっていく。
そろそろ限界を迎えそうになった時、それは起きた。
必死になってもがいた手を、誰かが掴んだ。
同時に温かいものが、フェルンの精神を優しく満たす。
「よく頑張ったね。フェルン」
聞き覚えがある声が、頭上から降り注ぐ。
その瞬間、フェルンは確かに見た。
自分の手を掴む、己の師匠。フリーレンの姿を。
「フリーレン、様……!」
「集中を切らさないで。今、ここに部屋を構築するから」
今丁度、この辺りが世界と世界を繋ぐ『境目』なのだろう。
そこに今度は、フリーレンが魔力を迸らせ、『部屋』を構築し始める。
魔力は周囲を明るく照らし、夢の中だからこそできる、想像の世界をその場に作り始めた。
いつしかフェルンは、豪華な結婚式場の前に、フリーレンと共に立っていた。
「ヒンメル達と旅していた時に遭遇した二人の七崩賢、〝不死〟のベーゼの結界理論と、〝奇跡〟のグラオザームの〝
無論、上であげた二人の魔法を、完全に解析できたわけではない。特にグラオザームの精神魔法がフリーレンの技術を遥かに凌駕するのは、その身に受けて良く分かっている。
だが、それでも食らったおかげでその魔法の輪郭は、朧気ながらつかんでいる。奇跡を起こせるとまではいかないが、このような限定的な状況に限り、その極一部を流用してみたのである。
その想像によって生み出されし魔法の外殻を、ベーゼが用いていた結界理論で覆う。かの魔法は一度解析し、実際に突破してみせたことがある。
これらの技術を統合させることで、『異世界の人間たちと交流する場を作る』という、小さな奇跡を起こすことに成功したのだ。
「頭の中で思い描いていただけの理論だし、何回か失敗するかとも思ったけど、フェルンが粘り強く手繰り寄せてくれたおかげで、一発で成功したね」
フェルンはここで、フリーレンの姿をまじまじと見る。
離れてまだそんなに経ってはいないはずなのに、数十年ぶりの再会のような、そんな気がした。
「あの、フリーレン様……」
「なに、フェルン?」
「色々、言いたいことはあるのですが、その……」
正直、再会したら何を言おうか。
色々考えていたはずなのに、いざ実際に当人と会うと、言葉が出てこない。
とりあえずフェルンは、今思ったことを正直に尋ねた。
「どうして、部屋が結婚式場なのですか?」
フェルンは周囲を見渡す。天井、地面、壁。全てが白一色に染まった豪華な結婚式場だ。女神様の紋章を象ったステンドグラスからは優しい光が零れており、穏やかで優雅な空間を作り出している。
「グラオザームが作り出した精神魔法の一部を、そのまま転用するしかなかったから。……イメージできる光景がこれしかなかったんだよ」
この魔法を食らった時は、『ヒンメルと結婚式を挙げる』場面を見せられた。
なのでその時の空間をそのまま、転用するしかできなかったのであった。
「……そうですか」
何とも言えなさそうな表情で、両指でいじいじする師を見つめるフェルン。
その時、
「あだっ!?」
「いだっ!?」
フェルンの背後で、誰かが落ちてくる音が聞こえた。
振り返ると、そこには人の姿をした、シュタルクと才人の二人がいた。
「いや、夢の中で『痛え』って、よく考えたらおかしいよな……」
「それ今言うことかよサイト……って、あれは!」
才人と会話しながら起き上がったシュタルクは、フリーレンを見るや、
「フリーレン! お前今までどこ行ってたんだよ! こっちはすごい大変だったんだぞ!!」
大泣きしながらフリーレンに駆け寄った。
「よしよし」と、ひとしきりおばあちゃんのようにシュタルクを慰めた後、フェルンの方を向く。
「そうか、フェルンはちゃんと二人を導きながらここへ来たんだね。……私は見つけてから呼びかければいいやと思って、みんなを置いて一人で先に進んでたんだけど」
「……それでは、そちらの方々は到着が少し遅れるってことなのですね」
「そうだね、結構色んな体験をしたんだよ。ルイズ達が来たら、いっぱい話してあげる」
「ええ、楽しみにしています」
フェルンは呆れたような、あるいは無事で安心したかのような微笑みを浮かべて頷いた。
と、ここでシュタルクが才人を引き連れ、改めてフリーレンに紹介する。
「おうサイト。紹介するぜ。こいつがフリーレン。フェルンの師匠でもある凄腕の魔法使いだ」
(おお、本当に耳長いな……。これがエルフって奴なのか)
さて、才人も初めてのエルフを見て、ちょっと動揺したような表情を浮かべる。
「あ、どうも初めまして。俺才人っていいます。ええっと、その……」
「そっか、サイトっていうんだ」
フリーレンの方も、才人をまじまじと見つめた後、「やっぱり」と、頷いた。
「覚えてる? 別の世界を渡る時、誰かにぶつかったことがあったでしょ?」
「あ!? じゃあやっぱり、あの時ぶつかったのって……!?」
「そうだね。だからこうして会うのは『初めて』じゃないわけだね」
才人は大いに唸った。
目の前の白髪少女エルフが、あの時……東京から別世界に来る時にぶつかった『誰か』だったのだ。