使い魔のフリーレン ~ゼロからの旅路~   作:お団子

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第33話『夢の中で繋がる世界②』

 

 ルイズ達が来るまでの間。

 先に話を始めていたフリーレンたちは、まずはフェルンたちがどうしていたのか、自分が消えた後の話を聞いていた。

 

「じゃあやっぱり、あの鏡からサイトは来たわけだね」

「ああ。……そういうことになるな」

 

 当然ながら、まずは才人の話となった。

 ここまで来た経緯、シュタルクたちとの出会い、この眠りの世界に来るまでのおおよその話を共有する。

 

「魔法のない世界、ニホン、チキュウ、アキハバラ……か」

「聞いたことありますか? フリーレン様」

「いやない」

 フリーレンの断言にシュタルクと才人はずっこけた。

 

「そんな世界があるなら逆に行ってみたいね。『スマホ』という魔導書の事についても、もっと知りたいし」

「魔導書じゃねえんだけど……、まあ、みんなからすればある意味魔法の本みたいなもんか」

 才人ももう、乾いた笑いと共に訂正することを諦める。

 ちなみに夢の世界ということで、『スマホ』自体は今回、持っては来れなかった。是非フリーレンに見せたかったが、こればかりは実際に会わないと難しそうだ。

 

「じゃあ、『スマホ』の件についてはサイトと現実で(・・・)会った時の楽しみにしておくよ」

「随分楽しそうだな」と、シュタルクが呟く。

「ハルケギニアだけでも十分楽しいからね。どうやら世界は、思った以上に広くできているみたいだ」

「そうそう、そのハルケギニアについても聞きたかったんだ。一体フリーレンはどこに飛ばされたんだ? サイトも『そんな世界知らねえよ』って言うんだけど」

「そうだね、まずは私のその後について、話しておかないとね」

 

 ここでフリーレンも、ミミックに食われた先、どうなったかを話した。

 ハルケギニアなる異世界に飛ばされた後、ルイズと主従契約を結んだこと。彼女に魔法を教え始めたこと、その後色んな事件があったこと。それをかいつまんで話す。

 

 

「……契約って、なんだよそれ」

 

 

 話し終わった後、唖然とした様子でシュタルクは、フリーレンの左手の甲を見た。

 確かにそこには、不可解な焼き印が入っている。これがどうやら『使い魔の証』とやららしい。

 今度はフェルンが口を開く。顔こそ無表情だが、声は怒りを静かに湛えた、震えた口調であった。

 拳をぷるぷる震わせながら、師匠の身勝手さに問いかける。

 

 

「……フリーレン様は勝手すぎます。急に消えて、私達がどれだけ心配したと思っているんですか? それなのにあなたは、そんな大事なこと、私達の相談も無しに黙って進めてたんですか……?」

「や、ごめんて、フェルン。お願いだから怒らないで……」

 

 

 フリーレンはあわあわして弟子を宥める。予想できなかったわけじゃないけど、やっぱり怒った。

 今のフェルンは、過去最大級の「むっっっすー」顔になっていた。状況が状況なので、そっぽまでは向かなかったけど。普段ならしばらくは口を利いてくれなかったろう。

 

「仕方がなかったんだよ。あの時はその場の流れってものがあって……」

「どうせ未知の魔法につられて、後先考えずに契約したんでしょう?」

 

 ズバリ言い当てられて、身体を強張らせるフリーレン。

 当時を振り返っても、『どちらか死ぬまで契約は続く』以外に不都合が無かったから、結構軽い気持ちで了承したのは確かだ。

 この条件を表面的にしか見てなかったのは、フリーレンがエルフ特有の長命種族であるところもまた、要因だろうか。

 

「いや、でも今回は俺もフェルンの味方をするぜ。俺たちの旅はどうなるんだよ。そのルイズって子も連れて旅するってことになるんじゃないのか? なあ」

 シュタルクからもそう言われ、しゅんとしおれるフリーレン。

 

(めっちゃ怒られてる……)

 と、遠目で見ていた才人は本当にこいつが、噂に聞く伝説の大魔法使いなのだろうかと、激しく疑問に思っていた。

(本当に俺、元の世界に帰れるのかな? あのエルフっ子に全部任せちゃってもいいのかな……?)

 

 そんな不安を強く抱え始めた頃、コンコンと天井を軽く叩く音が、響き渡る。

 

「あ、そうだった。結界を作っちゃったから、私が呼びかけないと入れないんだ。ちょっと待っててね」

 と、フリーレンはまるでフェルン達から逃げるように式場の隅へと移動する。

 どうやらハルケギニアからのお仲間に呼びかけているらしい。

 

 

 そんな師匠の背中を見て、フェルンは大きくため息を吐いて座り込んだ。

 シュタルクも「なんだよもう……」と疲れた様子で大の字になる。

「……大変だな、お前ら」

 才人は同情するかのように呟いた。

 

「フリーレン様は時間を無駄にするのがお好きなのは知ってましたけど、ちょっと今回は呆れてものも言えません……」

「面倒なことになっちまったな……、これ本当にどうすんだ? もう〝魂の眠る地(オレオール)〟とか言ってられなくなったぞ」

「そうですね……、そのルイズ様の一生も見なければならないとなると……本当に、どうすれば……」

 フリーレンと違い、当然ながらこの契約条件を聞いたフェルンとシュタルクは、心底疲れ果てた表情を浮かべていた。

 フリーレンは長い寿命で平気なのだろうけど、こっちはそうも言ってられないからだ。

 悶々とした、暗い表情で頭を抱えてしまう二人。そんな二人に同情の視線を送る才人。

 

「きゃあっ?!」

「……っ!」

 

 ドタンバタンと。誰かが落ちてくる。先ほどのシュタルクと才人のように。

 そちらを見ると、燃えるような真っ赤な髪を湛えた美女と、青髪の小柄の少女が急に姿を現したのだ。

 

 

 

「もうフリーレン! ずっとノックしてたのよ!」

「ごめんキュルケ、タバサ。今メチャクチャ怒られてたから気づくの遅れちゃった……」

「怒られて……って、もしかしてあの子たちが例の?」

 

 あっちこっちで怒られてしょんぼりするエルフの向こう側。

 淀んだ空気の中、座り込んでいる二人の男子と一人の女子の姿を、キュルケは見つけた。

 キュルケは早速立ち上がり、三人組の前に立つ。

 

「へー、あんたがもしかしてフェルンって子?」

「……ええと、どちら様でしょうか?」

「あ、自己紹介が遅れたわね。あたしはキュルケ。こっちは親友のタバサ。フリーレンからあなたのことは色々聞いているわ。よろしくね」

 キュルケは手を差し出す。

「こちらこそ、フリーレン様がお世話になっております。キュルケ様、タバサ様」

 フェルンは一旦、フリーレンのことを考えるのをやめて、素直に握手に応じた。

 

 

(ふーん、この子がフリーレンの弟子……ねぇ)

 

 キュルケはしばらく、フェルンの姿を上から下まで隅々と見つめる。

 第一印象は『丸っこい、ぽやっとした子』であった。ちょっとイメージと違ったというか。もっと洗練された騎士風かと思っていた。

 物腰落ち着いていて丁寧だが、見かけだけだととても百戦錬磨のメイジとは思えない。まあ平民の子と言われれば納得できる面持ちだ。

 

「キュルケ様は、フリーレン様とどういう経緯で知り合ったのですか?」

「ああ、ルイズって子の『召喚の儀』にたまたま居合わせたのよ。その子とは同じ学年で、部屋も隣同士なの」

「学年……魔法を教える学院にいるということですか?」

「その通りよ。最初は『エルフを召喚した』って、みんな驚いてたんだけどね。話していく内にすっごい面白い子って分かったから、いつの間にか仲良くやるようになってったわ」

「そうなのですね」

 一通り、キュルケはフェルンとたわいない話を続ける。

 それを傍から見ていたタバサもまた、フェルンという女性を静かに分析する。

 

(確かに平民……なのだろうけど、只者ではない風格を纏わせている)

 

 なにせ彼女は、キュルケ(貴族)に対しても全然物怖じしない。

 タバサやキュルケの人生観において、貴族を見た平民の反応は怯えと恐怖だ。

 なのに彼女は、平民のような雰囲気を出しながらも、貴族である自分たちに怯えるようなことはなく、真正面から見据えている。

 敬語口調なのは彼女の謹直さによるもので、決して貴族に対する(へりくだ)りや卑屈さは全く感じさせないのだ。

 例えるなら『堂々としたシエスタ』といったところか。この風格は相応の修羅場を潜り抜けた事にも起因しているのだろう。

 これらを鑑みるとやはり、彼女は間違いなくフリーレンの弟子であると強く感じたタバサだった。

 

「この空間を導いたのは、あなたの力もあるんでしょ? フリーレンが、ことあるごとにあなたのことを褒めてたわよ」

「……そう、ですか」

 

 褒めていた、と聞いてちょっと嬉しそうにするフェルン。

 キュルケは髪をかき上げて、

 

「あたし達もメイジ……、つまり魔法使いですの。得意とする系統は『火』。タバサは『風』よ。いずれあなたとは直に魔法を見せ合いたいものですわね」

「そうですね。その時は是非、私からもお願いいたします」

 

 当たり障りない口調で、軽く会釈するフェルン。

 さて、次いでキュルケはその目を男性陣……、シュタルクの方へ向ける。

 

(でけえな)

(ああ、でけえ)

 

 フェルンと会話している間、男共二人はひそひと声で会話する。

 思春期な男であるからして、やはりどうしても(特に才人が)キュルケの大きく開けた谷間に、反応を示していた。

 

 当然、その視線はキュルケも気づいている。片方の黒髪の男子……は、良く分からないけど、多分その隣の、鍛えているだろう赤髪の少年が、フリーレンのもう一人の連れだろうと思った。

 

「ねえ、あなた」

「え、俺?」

「ええ、あなたが噂に聞く戦士さんなんでしょ? あたしはキュルケ、よろしくね」

「あ……、ええ! こちらこそ、こちらこそよろしくお願いします……へへ」

 一方のシュタルクは、揉み手と遜り口調でキュルケに低頭する。

 相手が貴族だというのは知っていたので、どうしても強く出れなかったのである。

 

(何この子、全然耐性ないじゃないの!)

 

 フェルンが無反応過ぎてつまらないと思っていたので、その分シュタルクの方に強い興味を示したキュルケ。

 自分の美貌にタジタジになっている。そう気づいちゃうともう止まらない。『微熱』の二つ名が、激しく燃え上がってしまった。困った性分だが、仕方がない。

 ちょっとからかってあげようと、キュルケはわざと自分の足をもつれさせ、シュタルクの胸に飛び込んでいく。

 当然、シュタルクは目を激しく瞬かせながら、倒れこむキュルケをがっちりつかむ。

 

「うわっ!?」

「あらっ、ごめんなさ―――――!」

 

 ここで自慢の胸をさらに見せつけようとして……身体が全く動かないことに気づいた。

 

(え、なにこの腕力……)

 

 身をよじらせようとも、身動き一つできない。熊に抱き着かれたかのような恐怖が、キュルケに冷や汗を流れさせる。

 シュタルクも、急に貴族の美女が抱き着いてきたせいで、緊張でガチガチになっている。力加減が少し狂っており、『手放す』という動きがすぐにできなかった。

 

(やばっ、どうしよ、これ……!)

 

 少しやりすぎたかも。

 戦士とはいえ、魔法は使えないという侮りがどこかあったのかもしれない。

 今のシュタルクと同じくらい、内心では慌てる彼女の頭部を、タバサの杖が襲う。

「いだっ、いたいよタバサ!」

 先ほどまで銅像のように固まっていたタバサが、すぐに助け舟を出してくれたおかげで、シュタルクもようやくキュルケを放す。

 

「友人がご迷惑をお掛けしました」

「え!? いや、はい……」

 

 目を白黒させるシュタルクにぺこりと謝った後、キュルケの後ろの襟を引っ張りながら、何度も親友を杖で叩く。

「いだっ!? 痛いってタバサ! 夢なのに痛いって!」

 そう喚くキュルケ。しかしタバサは真剣な表情で、キュルケに顔を近づける。

 

「ここはハルケギニアじゃない。何が起爆剤となるか分からない。軽率な行動は自重して」

 

 そして、杖で改めてシュタルクとフェルンを指す。

 キュルケもそちらを向いた。

 

 

 なあごめんってぇ……、仕方ないだろぉ、急に来たんだし……。

 

 むっすー。

 

 

 見れば、シュタルクはめそめそ顔でフェルンに謝っている。フェルンは顔を膨らませて、そっぽを向いていた。

 色恋において百戦錬磨のキュルケは、その二人を見ただけですぐ察したのであった。

 

(ああなるほど、そういうことね)

 

 確かに、これ以上の火遊びは危険だ。

 キュルケの信条として、『相手の一番はよけて奪わない』というのがある。血みどろの殺し合いになることを、本能で知っているのである。

 故に一番を奪う時は、こちらも命を懸けると決めている。今知り合ったばかりのシュタルク相手に、そこまでする気は無い。

 

 事実、キュルケは慌てていて気付かなかったが、隣のフェルンが無表情ながら殺気を飛ばしていたのを、タバサは見ていたのだ。『雪風』の二つ名を持つ彼女ですら、思わず凍りつくほどの冷たい目。次の瞬間〝人を殺す魔法(ゾルトラーク)〟を無言で撃つんじゃないかと思わせるくらいの。

 過剰にキュルケを殴っていたのは、その制裁でフェルンの留飲を下げる意味合いもあるのだ。

(ごめんねタバサ、苦労かけちゃったみたいね)

 キュルケの謝罪に、タバサは頷くことで答える。

 

「あなたもごめんなさいね。本当につい転んじゃったの。気にしないで」

「ああ、はい……! こっちこそ、どうか打ち首だけはご勘弁を……!」

「気楽にしていいわよ。その変な敬語もやめて頂戴な。あたしもタバサもそういうの気にしないし。タメ口でいいわよ別に」

「そ、そっすか……!」

 そんな感じでシュタルクに謝罪したキュルケは、一瞬ちらと才人を見る。

 彼も自分に見惚れているのは分かっていたけど、さっきの二の舞は御免だったので、軽くウインクをするだけに留めた。

 

 

(なんか、騒がしい連中だなー)

 それを遠くで見ていた才人は、はぁ……とため息をつく。

 先ほどまでキュルケの美貌に見惚れていたけど、あの様子は完全に遊び人のそれだろうな……とは、鈍感な彼でもすぐに気づいた。

 

 なんかいまいち、会話に割り込めない。ちょっぴり孤独を感じ始めていた。フリーレンは最後の一人を呼び寄せている途中みたいだし。

 そうすると、今度は異様にホームシックにかかり始める。

 

(はあ、早く帰りてえなあ……、てりやきバーガー食べたい……)

 一人立ち上がり、ちょっと結婚式場を見渡す。ってか、なんで式場? なんでこんなとこで話してるんだろ、俺たち。

 魔法ってのは良く分からんなー。そんなことを思っていた時だ。

 

 

 

「あんた誰?」

「――――え?」

 

 

 

 才人は目を丸くした。

 いきなり目の前に、少女が現れたのだ。

 

 顔は……。可愛い。

 桃色がかったブロンドの髪と透き通るような白い肌。顔の上ではくりくりと鳶色の目が躍っている。

 身体は……、キュルケと比べて貧相すぎるけど。少なくとも顔は才人のドストライクだった。

 

「あ、そっちから来たんだ、ルイズ」

「もうフリーレン! 勝手に行かないでよ! おかげですっごい迷っちゃったじゃない!」

「ごめんて……」

 才人が何か言おうとする前に、ルイズという少女は横切ってフリーレンに詰め寄った。

(ルイズ……ってことは、あの子が家の前で、変な鏡を作った奴か!?)

 

 その事実に才人が気付いた頃には、ルイズはフェルンたちの方に、鳶色の目を向けていた。

「えっと、あの子がフェルンと、シュタルクだっけ?」

「そうだよ。キュルケたちとはもう紹介を済ませているみたいだね」

「で、あいつは?」

 ルイズは才人を指さす。

「あ、彼はね……」

 フリーレンはルイズにコソコソと耳打ちをする。

 そのしばらく後、

 

 

「ええぇぇぇぇええええっ!? わたしが本来呼び出す使い魔って、あいつだったのぉ!?」

 

 

 あんまりにもあんまりな絶叫が、式場に轟いた。

 しばらくして。ルイズと才人は、互いに向き合っていた。

 

 

「で、あんた名前は?」

「……才人」

「どこから来たの? 中央諸国ってとこ? それともハルケギニア?」

「どっちも違ぇよ。日本ってとこから来たんだ。秋葉原! 東京! 知らない?」

「知らないわよ」

 

 ルイズの尋問のような問いに、これまたムスッとした様子で答える才人。

 んだよ、さっきから『俺が悪い』みたいな態度しやがって……。

 

 顔は可愛いくせに、やたら態度がでかい。性格は最悪といっていい。

 トリステインとかいう国の貴族令嬢らしいんだけど、生憎『貴族』と縁のない生活をしていたせいで、イマイチピンとこない。

 良くも悪くも、デンケンを見たせいで才人の貴族の基準がグンと上がったというのもあった。

 

(貴族ってだけで威張りやがって。デンケンじっちゃんとはえらい違いだな!)

 

「ねえちょっと、聞いてんの?」

「んだよ、聞いてるよ」

「聞いてないじゃない。顔が上の空だったわよ。分かってんの? あんたみたいなただの平民が本来の使い魔だったなんて、なんの冗談よ本当に!」

「知らねえよ! 俺だって迷惑してんだよ! なんだよ使い魔って! そんなんに俺を巻き込むんじゃねえよ!」

「ほらほら、そこまでにしときなさいって」

 

 互いの相性も最悪。

 いつしか至近距離で怒鳴り合う二人を、キュルケが諫める。

 

「ここはハルケギニアじゃないのよ。貴族令嬢とか、ここじゃそんな肩書は通用しないんだから。一旦忘れなさい」

「何言ってんのよキュルケ! 他人事だと思って!」

 

 う~~と唸るルイズを、とりあえず才人と離す。

 

「ごめんなさいね。あの子、色々あってちょっとピリピリしてるのよ」

「いや、別にいいんだけどさ……」

「サイトも、気持ちは分かるけどちょっと落ち着こうぜ、な?」

 才人の方にはシュタルクがフォローに入る。そのおかげでもあって、才人も沸点を下げた。

「わあったよ……」

「ルイズも、サイトとあれこれ話すのは後になさい。まずはこっちの方が重要でしょ?」

 

 

 キュルケはルイズの両肩に手を置いて、回れ右をする。

 くるりと回った視界の先、そこには紫髪の少女……フェルンがいた。

 

 

「……そうね」

 改めて、ルイズはフェルンを見つめる。

 

 噂に聞く、フリーレンの弟子。

 貴族ではないけど、フリーレンをして「とても優秀」と、常々言わしめていた魔法使い。

 この空間を導き出し、異世界を隔ててフリーレンと交信できるその手腕は、こうして体験しても見事だと、やはり思ってしまう。

 間違いなく彼女は、トリステインの教師陣よりも遥かにレベルの高いメイジなんだと。あのフリーレンが認めるのも納得よね……、と。

 

 

(見た目からして、年だってそんなに変わらないはずよね。それなのにこの差はなんなのかしら……?)

 

 

 雰囲気はシエスタに近いのに、体格はキュルケ、風格はタバサ。

 そんな第一印象を、ルイズはフェルンに抱いていた。どれも自分にはないものだ。

 どんな生き方をしたらこんな風になるのだろうか、ルイズは想像ができなかった。

 

 そんな彼女は、さっきから無表情でずっとこっちを見ている。その無言の圧力に、なんか負けそうになる。

 でも負けたくない。ルイズも胸を逸らして、しばしフェルンと見つめ合った。

 

 

(どうでもいいけど、全然雰囲気違うわね。あの二人)

(対照的)

 

 片や、表情や感情の動きが激しい貴族の、膨らみが平坦な魔法使い。

 片や、あまり表情に起伏のない平民の、豊かに膨らんだ魔法使い。

 

(まるで昔のあたしたちみたいね、タバサ)

(……)

 

 静かに見つめ合う二人を遠目で見ていたキュルケとタバサは、そんな話を共有していた。

 

 

「あなたがルイズ様ですね。フリーレン様を召喚し、主従契約を結んだと先ほど聞きました」

「……ええ、そうよ」

「改めまして、フリーレン様の『一番』弟子、フェルンといいます。よろしくお願いいたします」

「ええ、よろしく……」

 

 一番(・・)を妙に強調しながら。フェルンはそう言って、手を差し出す。

 ルイズもまた、素直に手を取って握手した。

 そんな、どことない緊張をはらんだ空気感の中、フェルンは尋ねる。

 

「それで早速、ルイズ様に一つ聞きたいのですが……」

「な、なによ?」

「……フリーレン様が、ご迷惑をかけてないでしょうか?」

「え? え……」

 

 するとここで、フェルンがずいっと身を乗り出す。

 

「すでにご存じでしょうが、フリーレン様はとてもずぼらでだらしがない。おまけに魔法大好きでどんなに下らないお宝にも目を輝かせてしまう。絶対、迷惑をかけていると思っていたのですが……」

「あ、そうね。うん、まあ……うまく、やってはいるわ」

 

 すごく、こちらの心配をされた。

 想定していなかった変化球に、ちょっとしどろもどろで答えを返すルイズ。

 

 

「二人は私をなんだと思ってるのさ」

 遠くから聞いていたフリーレンが小さくぼやくも、

「「世話の焼けるお子様エルフ」」

 と、そこだけハモッた二人の返事に、更にしゅんとした顔となった。

 

 

「良かった。上手く付き合えているのであれば、なによりです」

 そこだけ本当にホッとしたような表情で、フェルンは続ける。

「まあね。色々あったけど、わたしなりに気を使って、やりくりしているとは思うわ」

「そうですか……」

 ちょっと和やかな雰囲気が流れる。ルイズも少し気を落ち着かせた。

 だが……、

 

 

 

「それでは早速本題に入りますが、フリーレン様に施したというこの使い魔契約。できれば破棄、あるいは期限の短縮をお願いしたいのです」

 

 

 

「――――ッ!」

 今度はあまりにも直球な言葉に、ルイズは緊張感で固まった。

 

「私達は今、〝魂の眠る地(オレオール)〟に向かって旅をしている最中なのです。数か月、最悪数年でしたら我慢もしたのですが、流石に『一生』は困ります」

 

 フェルンも、そこは譲らないとばかりに語気を強める。

 遠くで聞いていた才人が、シュタルクに向かって尋ねた。

 

「……やっぱり『一生』は嫌だよなあ。他人事のように聞いていたけど」

「まあな。フリーレンはこれからも何千年と生きるんだからいいんだけどさ、俺達はそういうわけにはいかねえからなあ。ずっとこんなところで足止めを食らうのは嫌だぜ」

 

 シュタルクも才人にそう返した。

 喧嘩別れした恩師(アイゼン)にたくさんの土産話を持って帰ると決めている以上、長時間の足止めはフェルン以上に嫌がっていたのだ。

 なんともいえない、重苦しい雰囲気が流れる。キュルケやタバサも、どうしたものかと、一緒になって悩んでいた。

 ルイズは拳を震わせながら、悔しそうな声で言った。

 

「……できないわよ。『使い魔契約(コントラクト・サーヴァント)』は主従のどちらかが死ぬまで続く魔法。期限短縮も不可。『召喚魔法(サモン・サーヴァント)』も、使い魔が生きている間は発動できない。今日試したんだもの、間違いないわ」

「……そうですか」

 

 フェルンは「はあ……」と、ため息をつく。ルイズはぎゅっと、拳を握り締めた。

 勿論、フェルンの気持ちも分からなくはない。いきなり旅の連れが攫われたのだから。こう言われるのも分かっている。

 でも……と、ルイズだって思ってしまう。

 

(なんでわたし、ようやく『ゼロ』から脱却できたと思ったのに……、フリーレンは事故で、本命はあいつって……)

 

 どこまで始祖はふざけているのだろうか。

 勿論才人に対する申し訳なさも入っている。ドラゴンは高望みとしても、猫やネズミなどの小動物でも全然良かったのに。どうして自分が呼び出すのは異世界の人なのだろうか……。

 フリーレンを元の世界に返すのは全然、決めていたことなのに。いざこうやって詰められると、やはり悔しさが勝ってしまう。

 

「フリーレン様、本当にどうにもならないのですか?」

 

 一方、フェルンはフリーレンに向き直って尋ねる。黄金郷問題を解決した、魔王討伐の英雄が本当にどうにもならないのかと。

 

「……何ともならないってわけじゃないよ。本気で『契約』を破棄しようと思えば、できなくはない。ルイズが可哀そうだから、今まで黙ってたけど」

「え? ……そうなの?」

 遠くで結婚式場の客席に腰かけていたフリーレンは、ツインテールの白髪をいじりながら、物憂げに答える。

 それを聞いたルイズも、思わずそちらの方を見た。

 

「ルイズが言ったように、この契約は『主従のどちらかが死ねば解除される』。それは多分、仮死状態でも問題はない」

 ルーンが刻まれた左手の甲を見せて、フリーレンは言った。

万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)〟すら解析して解除できる彼女である。その彼女がそう言うのならば、そうなのだろうと納得する周囲。

 

「一時的に自死に追い込む……ってことか? そんな魔法もあるのか?」

「あるよ。〝生き物を氷締めにする魔法〟。昔ヒンメルにそれを使って、隠れた魔物を釣り出したことがある」

 ヒンメル達と旅をしていた時、依頼で『死体にのみ反応する魔物』を討伐したことがある。その時はヒンメルを仮死状態にして、囮にしたことがあるのだ。

 

「だから、もしフェルンたちがハルケギニアに来れたら、私が自分に〝生き物を氷締めにする魔法〟をかけて仮死状態に追い込み、フェルンが〝人肌を温める魔法〟を凍った私に使う。そうすれば『契約』の解除はいけるはずだよ。かなり無理やりだとは思うけど……――――」

 

 勿論これは、自分自身にではなく、ルイズにすればフェルンを待たなくともいいのだが、流石に可哀そうだから黙っていた。

 この混乱の原因は自分にあるのだし、やるなら自分が仮死状態にと思っていたフリーレンだった。

 兎にも角にも、あえて自分を死なせることで、ルーンの『契約』を無理やり破棄すること自体は、可能なのだ。

 ただ、それを聞いたルイズはというと……。

 

「じゃあ、今すぐ解除すればいいじゃない……、わたしを仮死状態にすればいいでしょ……?」

「……ルイズ」

「それで、全てことが収まるんだったら、そうするべきよ。……フリーレン」

 やりきれなさそうな表情で、ルイズはフリーレンに向き直った。

 

「待ってよルイズ。私は別にそんなことする気はさらさらないよ。むっちゃ痛いだろうし」

「そうですルイズ様。問題はなにも『契約』だけではありませんし……」

「いいえ、あなたはやっぱり帰るべきよフリーレン! 知ってるでしょう? わたしの国は、世界は……あなたにとって、厳しすぎる」

 

 それを聞いたキュルケとタバサも、やりきれなさそうに表情を一緒に浮かべた。

 

「……どういうことです?」

「……実はね、今いるハルケギニアって世界、エルフ(わたし)は異教徒になるんだってさ」

「はぁ? なんだよそれ!」

 

 ここでフリーレンは、ハルケギニアという世界について、フェルンたちに話す。

『聖地』を巡って争い合った歴史のある世界。その相手はあろうことかエルフであること、戦はある程度沈静化したとはいえ、エルフに対する敵視は未だに色濃く残っていること。

 その実例として、マチルダの事も合わせて伝える。キュルケやタバサも、細部の解説に回った。

 

「うっわ、やっべえなそれ……」

「マジかよぉ……、エルフが敵ってめっちゃピンポイントじゃねえか……」

 聞いていた才人やシュタルクは、やりきれなさそうに呟いた。

 フェルンもまた、何とも言えなさそうな表情を浮かべていた。

 

「だから、あなたはハルケギニアに長く居るべきじゃない。わたしなんか放っておいて、帰る手段を見つけることに専念して。大丈夫よ、わたしだって魔法は使えるし、もう……『ゼロ』なんかじゃ……」

 

 強がってそう言うも、ルイズは涙を零し始めた。

 声を震わせ、本当にやるせなさそうに言葉を吐く。

 

「どうして……、ようやく魔法を使えて、先に進めると思ってたのに……本当は召喚一つまともに成功してなかったなんて……、なんで、わたしにだけこんな目ばっかり……」

 

 ルイズはそのまま、泣き崩れてしまった。

 これには、フェルンやシュタルク、才人も困った仕草をする。

 

「なんか、すごい泣き出したな……」

 と、才人もどうしようかと頬を掻く。

「……実を言うとね、あの子、フリーレンが来る前までは『落ちこぼれ』って馬鹿にされたのよ。何を唱えても爆発ばかりだったから。魔法成功率ゼロってね」

 

 まああたしもそのクチだったけど。

 バツの悪そうな顔で、キュルケはそう続ける。

 

「そんなことがあったのか……」

 才人も困ったような顔をした。ようは学校でいじめられていたということなのだろう。学校生活真っ最中の才人も、いじめの深刻さは当然知っている。幸い自分の周囲にそんなことはないけど、スマホで調べればニュースでよく出てくるのだから。

 まさかあの尊大な態度の裏に、そんな過去があったとは……。と、ルイズに少し同情の目で見る才人。

 

 

「落ちこぼれ……ですか? ルイズ様が?」

 

 

 逆に、すごく反応に困った様子を示したのが、フェルンだった。

「そうよ、無茶苦茶馬鹿にされてたんだから。『貴族たらんとするなら魔法を誰よりも使いこなせるようになるべし』、というのが、大昔からあるハルケギニア貴族(メイジ)の定義なのよ」

「それはおかしいです。だって、お三方の中で一番強い魔力を持っているのは、ルイズ様ですよね?」

「――え?」

 今度はキュルケとタバサが、ぎょっとした顔をした。

 ルイズも涙を拭いて、フェルンを見上げる。

 

 だがフリーレンは、フェルンのこの反応は「当たり前だ」という顔をした。

 なぜなら、彼女はあの大魔法使いゼーリエの〝魔力制限〟すらも見破った天才なのだから。ルイズの魔力の偽装を、見破れないはずがなかった。

 

「ルイズ様、〝魔力制限〟していますよね? 夢の中なので確信は持てませんけど、ルイズ様の魔力、若干ながら『揺らいでいる』のが分かります」

「……揺らいでるって、なに?」

 

 ルイズは疑問符を浮かべる。〝魔力制限〟は聞いていたけど詳細は知らなさそうな声に、フェルンも「何かがおかしい」という表情をしていく。

 

「え? いや、制限特有の揺らぎが……」

「制限? そんなのわたしはしていたの……? どういうこと……?」

 

 フェルンは唖然としたような声で、フリーレンに問い掛ける。

 

「フリーレン様、ルイズ様に〝魔力制限〟を教えたわけでは……!」

「教えてないよ。どうやら天然っぽい」

 

 フリーレンのカラッとした答えに、フェルンは大層驚いた。

 

「て、てんねん……? これだけ優秀な魔力擬装を、天然って……」

「ね、おかしいよね」

 フリーレンが、更ににやりと表情でフェルンにこう続ける。

 

 

 

「ちなみにこの子の本来の魔力量は、魔力解放した私と同等か、それ以上だよ」

「……ッ!!」

 

 

 

 フェルンはもう、ルイズを信じられないものを見る目に変わっていた。思わずルイズから、二、三歩ほど後ずさる。

 ちなみにフェルンは、最初からルイズのことを『落ちこぼれ』などとは、毛ほども思ってなかった。

 

 むしろ、人類では観測すらできないはずの『異世界を隔てる転移魔法』、『師匠フリーレンにも有効な契約魔法』を扱えるという時点で、相当高位の魔法使いだと思っていたのだ。

 なので会う前はレルネンやデンケンのような、百戦錬磨の風貌を漂わせた人物なのかと思いきや、実際は自分と同年代くらいの女の子だったので、まずそこで驚いていた。

 そして最初から魔力制限で実力を隠していたのも分かっていたので、相当な強者だろうと、結構身構えて話していたのだった。

 

 

 ……だというのに、あろうことかその少女は自分を『落ちこぼれ』だの『劣等生』だの自嘲し始めた。

 本気でそう思っている彼女の様子が、フェルンにとっては凄く(いびつ)なものに見えていたのは、言うまでもないことだろう。

 

 

「フリーレン様と同等以上の魔力量……、高度な魔力制限……、異世界を隔てる召喚魔法……、それを天然って……それで『落ちこぼれ』なんですか?」

 

 

 それから、フェルンはまじまじとキュルケとタバサを見つめる。

「お聞きしたいのですが、キュルケ様やタバサ様は学院でも最底辺、ルイズ様以下の落ちこぼれなのですか?」

「はぁ!? 何言ってんのよあんた! これでもあたしとタバサは学院でも超優秀で通ってんのよ!」

「猶更おかしいです。なんですかそれ……! あなた達には一体何が見えてるんですか……!?」

 狼狽するフェルンに、キュルケやタバサも思わず顔を見合わせる。

 シュタルクもまた「フェルンがあんなに慌ててるの、初めて見た」と、隣の才人に告げる。

 

「ハルケギニアには、〝魔力探知〟があまり発達してないっぽいんだよね。誰もルイズの力に気付いてなかったみたいだから」

「だ、だとしても……ありえません。魔法を見る眼が歪んでますよ。誰か気づくでしょう、普通は……!?」

「まあ、向こうは向こうで複雑な事情があるみたいだからね。でも『歪んでる』は私もそう思うよ」

 

 フリーレンの言葉に、本気で頭を抱えて蹲るフェルン。

 そんな彼女の対応に、長年連れ添ったフリーレンすら、不思議そうに眺めていた。

 

 しばし静寂が流れる。

 やがて、ぽつりと、フェルンはルイズに言った。

 

「……ルイズ様はずるすぎます」

「え?」

「ルイズ様が無意識に持っている技術は本来、長い時をかけて練磨しなければ絶対身につかないもの。それを天然で持っているくせに『落ちこぼれ』なんて言葉で逃げて、本当にずるい」

「……フェルン?」

 

 シュタルクが思わず、フェルンに声をかけた。

 今まで見たことの無い、彼女の一面が垣間見えたような気がした。なんならフリーレンでさえ、こんなに感情をさらけ出すフェルンは長年一緒にいて、初めてのことだろう。

 

 だが、フェルンからすれば絶対に譲れないものだった。

 戦争で親を失い、家を失い、死のうとも考えていたところを助けてくれた恩人。

 寿命で先に別れが来る、そんな彼を心配させまいと、血反吐を吐く勢いで生き抜く力を、魔法を鍛えた。

 

 そうやって鍛えた技術を天然で持っている? しかも自分より遥かに強大なものを?

 

 彼女からすれば「ふざけるな」という言葉がどうしても湧き上がってくるのだ。そんな技術を天性で得られるのであれば、じゃあ自分の鍛えてきた時間は、真剣になって練磨してきたあの時間は、なんなんだと。

 

 恩人が倒れたと聞いた時も、ずっとずっと修行に明け暮れた。

 私だって、もっとハイター様と色んな事を話したかったのに! もっと側にいたかったのに! 本当は看病だってしたかったのに!

 

 

 恩人に背を向け自分を苛め抜いたあの時間を馬鹿にされたような気持ちが、ルイズが自虐するたび湧き上がってくるのだった。

 

 

 それに加え、今までに溜めこんだ不満(フラストレーション)……フリーレンが突如消えて悶々とした日々に追い打ちをかける、『契約』という話にシュタルクに抱き着いてきたキュルケ。

 鬱屈とした感情が、ついにルイズによって変な形で爆発したのだろう。感情を制御できてないような様子で、普段なら絶対吐き出さなかったモノを、ルイズに吐露してしまっていた。

 

 

「ルイズ様には分からないでしょうね。その域の魔力制限に達するのに、私がどれだけ研鑽を積んだか……!」

「なによ……、なによ! さっきから聞いてれば好き放題言って! あんただってわたしの気持ちなんて、わっかんないでしょうが!」

 

 

 だが、当然ながらルイズだってこれには激昂した。

 幼い頃から爆発ばかり。何を唱えても魔法は使えず。

 フェルンが自分の何にそんな食って掛かるのかは分からないけど、少なくとも自分が生きてきた世界では、そんな技術を持ってたって、誰も褒めてなんかくれなかった。

 次女を除く周囲からは冷たい目で見られ、学校へ行けば周囲からバカにされ、嘲笑われ……。

 

 あげく『ゼロ』なんて不名誉な仇名までつけられる始末。フリーレンが来てくれなかったら、ずっとその不名誉な二つ名を背負って生きていかなければならなかった。

 公爵家の令嬢で、誰よりも貴族であれと教えられ、それを誇りに思っているルイズだからこそ、『魔法が使えない落ちこぼれ』という烙印(レッテル)は、決して軽いものじゃない。

 

 互いに譲れない背景(おもい)がある。

 いつしか、ルイズとフェルンは互いに睨み合っていた。

 

「こわいよフェルン……!」

 そんな二人を見ていたシュタルクは、思わず才人と抱き合いながら涙目になっていた。

 

「あんただって分かんないでしょ! 何を唱えても爆発ばかりして、馬鹿にされる気持ちが! 誰も、家族も、同級生も、先生にも見捨てられて、それでもなんとか足掻こうとするわたしの気持ちなんて!」

「それは周りがおかしいだけです。卑下しないでくださいルイズ様」

 涙を流して憤慨するルイズの両肩を、フェルンは両手でしっかりとつかむ。

 

 

「間違いなく、ルイズ様はこちらの世界に来たら、歴史に名を刻む魔法使いになります。私が保障します。だから、自虐ばかりしないでください」

「……フェルン」

「ルイズ様が自傷すればするほど、その域に達せてない私の過ごした時間が惨めになってしまうから、お願いだから、もうやめて……」

 

 ルイズの肩を掴む、フェルンの手は震えていた。

 泣いてこそいなかったが、本心からそう言ってくれるフェルンに、ルイズも熱くなっていた心を鎮める。

 

「本当に、そう思うの?」

「……ええ」

 

 フェルンはルイズの目を見て、そう言い切った。

 やがて、二人を見ていたフリーレンが、遠くから切り出す。

 

 

「ねえフェルン」

「……なんですか、フリーレン様」

「ハルケギニアにね、ヒンメルの足跡があったんだ」

「……!」

 

 それを聞いて、今度はフリーレンの方に視線を移すフェルン。

「勇者ヒンメル……が、ハルケギニアに来ていたってことか?」

 驚愕するシュタルクの問いに、「そうだよ」とフリーレン。

 

「あの世界には、私の知らないヒンメルがいる。知りたいんだ。あいつがハルケギニアで、どんな冒険をしたのか」

「で、でもよ……」

「勿論、〝魂の眠る地(オレオール)〟に向かうこと自体を止めるつもりは無いよ。あれは戦友(アイゼン)の約束もかかっているし」

 シュタルクの気持ちも分かるとばかりに、そう言うフリーレン。

「でも、どうせ向こうでヒンメルと対話するのなら、ハルケギニアのことも含めて話したいんだ。土産話は多い方がいいもんね」

「……分かりましたよ、フリーレン様」

 ルイズから離れたフェルンは、何度目か分からないほどの盛大な溜息を零す。

 

 ……フリーレンにとって、ヒンメルという存在は絶対だ。

 彼の死が、フリーレンが『人のことを知ろうと思った原点』なのだから。

 ヒンメルの話題を出された時点で、どうあがこうとフェルンに、勝ち目はないのであった。

 心底疲れ切っているが……何かが吹っ切れたような笑顔を浮かべて、フェルンは言った。

 

 

「私が、そちらの世界に御邪魔する方法を考えればいいのですね?」

「そういうこと。待ってるよフェルン、シュタルク」

 

 

 フリーレンの不敵な笑みを浮かべる、彼女なら、絶対にハルケギニアに来れると、信頼しているが故の表情。

 それを見たフェルンもまた、渇いた微笑みを浮かべた。

 そうして、ルイズの方にまた向き直る。

 

「……え、いいの? フリーレンもフェルンもそれで……?」

「よくはありません。よくはありませんけど……、ルイズ様にも複雑な事情があるのが分かりましたし、今すぐ全てを決めるのも早計だと判断しました」

 

 そう言うと、フェルンは静と頭を下げて、

 

「……どうか、フリーレン様を引き続き、よろしくお願いいたします」

「……分かったわ」

 

 フェルンの言葉に、ルイズも思わずうなずく。

 

「むしろ、わたしの方こそごめんなさい。こんなことになってしまって……」

「いいのです。全てはあの時『ミミックに引っかかるのを止められなかった』私の所為なのですから、ええそうですとも」

「怖いって、フェルン……本当にごめんって……」

 

 ルイズだって、こうなるのを予想できたわけじゃないだろうし、フリーレンの無事も知ったことで、そこまでルイズに悪感情は持ってなかった。

 むしろ、全ての原因は何度言っても構わず宝箱(ミミック)に頭を突っ込む、学習能力ゼロな強欲エルフの所為だ。

 再会したらヘソクリが尽きるまで、彼女の金でおやつを食べよう。そう決心したフェルンは、少し調子を取り戻したような、さわやかな表情を浮かべる。

 

「じゃあ俺とフェルンは、そっちに向かう方法を見つけるってことでいいんだな? 暫くはハルケギニアで旅をすると」

「そうだね。頑張ってね」

「ったく、本当にわがままで自分勝手だよなあ……」

「でもまあ、それがフリーレン様といえばそうですよね」

 

 フリーレンの言葉に、やれやれとするシュタルクにフェルン。

 和やかな雰囲気になりつつあった頃、ここで才人が手を上げた。

 

「ねえ、ところで俺は?」

「忘れてないよサイト。サイトは元の世界に帰りたいってことでいいんだね」

「あったりまえだろ!」

 才人は思わず立ち上がる。忘れられたかと思っていた。

 しかし、フリーレンは「分かっている」という表情を浮かべ、ルイズに向き直った。

 

「あいつを元の世界に帰す方法、何か分かるのフリーレン?」

 ルイズは疑問符を浮かべる。元は自分の召喚魔法の所為だし、帰してあげられるのなら帰してあげたい。

 

「それはまだ。でも、何とか見つけてみせるよ」

「本当かよ、頼むぜ……」

 才人は頭をかいて懇願する。正直不安しかないけど、このエルフしか頼むあてが無いのも事実。

 そこで、とフリーレンは続ける。

「それでね、ルイズ。ここで一つ、今後の事でお願いがあるんだ」

「なによ?」

「サイトとね、ここで『契約魔法(コントラクト・サーヴァント)』を交わしてもらってもいいかな?」

 




ルイズとフェルン、二人のキャラ造形の違いに時代の変遷を感じる今日この頃。
第二章はそんな二人が歩み寄っていく話です。
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