「このように、〝魔力探知〟は、ある程度離れた魔力の察知も可能という技術となります。魔法偽装を見破る力は『ディテクト・マジック』の方が優れていますが、こちらは慣れてしまえば、無詠唱かつ常時展開できるという、他にはない強みがあります」
マチルダはチョークを走らせながら、学生たちに講釈をしていく。
元は大公に仕えた貴族なだけあって、教養も高いものを受けてきたマチルダである。洗練された立ち振る舞い、はきはきとした喋り方、生徒からの疑問にも理路整然として返す頭の回転の速さ。
学院きっての美人秘書官という立ち位置もあってか、彼女の授業もすぐ生徒たちにとっても人気となった。
最初は胡散臭いと感じていた生徒も、彼女の教師スキルと未知なる技術の面白さに、次第にのめりこんでいく。
ちなみに第一回の授業内容は〝魔力探知〟であった。
教えるのであればまずはこれだろうと、強く推したのは当然フリーレンだ。
「なあギーシュ、もしこれが本当だとしたら、これを学んだぼくらは将来、相当レベルの高いメイジになれるってことなんじゃないかな」
「民間魔法の使い手は、常時相手の魔力を『ディテクト・マジック』で確認できるってことになるんだね、向こうの技術も決して侮れないな」
「全く、能天気なこと言ってるなキミたちは」
ここでレイナールがくいと眼鏡の端を上げて、こそっとギーシュとマリコルヌに告げる。
「な、なんだよぉレイナール。そんな賢らに眼鏡をくいっと上げてさ」
「いいかい、この魔法が仮に大陸の向こう側にあるとする。その国の貴族、いわば僕らのようなメイジたちは、ぼくらより遥かに強い魔法技術を持っているってことになる。それは分かるな?」
「うん、それが?」
「そんな国がある日、何かを理由にこっちに攻め込んできたとしたらどうする? こんな魔法を扱う連中なんて戦っても、多分勝ち目なんてないぞ」
「……あ」
確かに、こんな魔法技術を持つ国が攻めてきたとすれば、小国トリステインなどあっという間に潰されてしまう可能性が高い。
「だからこそ、この魔法を学ぶ意義はある」
と、今度はレイナールは人差し指を立ててギーシュたちに続ける。
「いずれこれらの魔法は、近い将来、絶対にこの国の中枢に食い込むだろうと考えているんだ。それだけの利便性がこの魔法にはあると思う。今からこれらの魔法技術を吸収しておけば……」
「王宮から声がかかる可能性が高いってこと!? 『きみらの魔法は強くて素晴らしいから是非とも騎士隊にどうだい?』とか!」
「おおぉ! それってつまり、魔法衛士隊ルートも夢じゃないってことか!」
「ありえなくはないよ。今のご時世、何が武器になるかなんて分からないからね。知識だけでも、民間魔法学は受ける価値がある。少なくとも僕はそう思ったんだ」
「そんな風に考えたことなかったな。ぼくは一刻も早くあのビーム魔法を習得したいとしか考えてなかったのに」
はっはっはと笑うギーシュ。流石に目を引いたのか「ミスタ・グラモン、お静かに」とロングビルもやんわりと注意する。
「はい……」
と、しょんぼりしながらギーシュは席に座る。モンモランシーはそんな彼を見て、ため息をついた。
「ひとまず皆様方には、この〝魔力探知〟を会得する方法について、ご紹介していきたいと思います。これらの技術を学んでいけば、必ずやワンランク上のスキルを得ることができるでしょう。私自身、このおかげで『トライアングル』から『スクウェア』へと上がりましたので」
ロングビルは胸を張る。これ自体は事実だ。一ヶ月に及ぶ修行により、彼女のランクは『土』の四乗、スクウェアクラスにアップしている。
聞いた生徒たちは「おおっ!」と沸き立った。メイジにとって、ランクは絶対的な指標。ランクを上げればそれだけ周囲の評価は高まる。それが分かっているからこそ、彼女の言葉は聞き逃せない。
特に、そろそろ『ドット』を卒業したいと思っていたギーシュやマリコルヌ、モンモランシーなどは俄然身構えた。
「では、その方法について、これから教えていきますね」
ロングビルは笑顔を浮かべて、黒板の方へと顔を向ける。
誰にも顔を見られないと分かると、彼女の顔は一気に疲れたものへと変わった。
(んな楽々に短期間でランク上がるわけねえだろ……、こっちがどんだけ必死になって魔法を磨いたか知らないで、良い気なもんだよこいつらは……)
一瞬、チョークを握る手が震える。
思い出すのは、一か月前に行われた地獄のレッスンの日々であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フリーレン召喚から1ヶ月と2日後。
月は
トリステイン魔法学院。秘密の地下施設にて。
ロングビル教師化計画。修行初日。
ロングビルことマチルダの修行については、トリステイン魔法学院の地下室にそびえる扉、そこにある『秘密の修行部屋』にて行われていた。
「かなり広いね」
入ってみれば、そこはアルヴィーズの食堂と同じくらいの大きさが広がっていた。
おまけに壁や天井自体が青白く発光しており、まるで昼間の中庭のような景観を呈していた。
「学院の中でも知る人ぞ知る秘密の場所じゃ。昔のメイジたちはここで、密かに魔法の特訓をしておったそうじゃ。今でも解禁はしておるんじゃが、そこまでして魔法を学ぼうとする、意欲ある者はいなくなってしまってのう……」
「これだけ広いのは『
研究者目線でここまで広いことの意味を分析しながら、フリーレンは言う。
なんにせよ、この秘密の特訓部屋にてマチルダを、一人前の教師に仕上げなければならない。
早速、彼女の特訓が始まった。
「もし授業で、最初に教えるのならまずは〝魔力探知〟だろうね。やっぱり広範囲の察知能力はあるとないとで全然違うから」
修行部屋の端っこにて。
フリーレンは丸机の上に色んな用紙を置きながら、一緒に様子を見に来たオスマンと会話していた。
「やり方はどうするつもりじゃ? わしは肌感覚で会得しちゃったから、恐らく参考にはならんじゃろうし……」
「『ディテクト・マジック』をベースに敷いて、それを無意識で使っていくような修行方法がいいかもね。もし視覚的な情報が欲しいなら、学習用の魔法陣も既に構築している。それを教材として配って広めて……って感じかな」
「流石だのう、そこまで準備をしてもらっておるとは……」
「だけどまあ、それで会得できるかどうかは結局のところ、やる気次第だからね。無理だってイメージしたらもう一生できない。やる気のない生徒までの面倒は見切れないよ」
ズドン、ドゴン。
うわあぁ! くるなああ!
「それで、次に教えるのなら〝防御魔法〟。〝
「それはそうじゃな。純粋に生存率に直結することじゃし、強力だからのう。
「ただまあ、純粋な物質を使った『質量』にはそれほど耐性がないから、過信は禁物だけどね。ルイズの話によると、マチルダのゴーレムには危うく破られかけたようだし」
「なるほど、確かにそうじゃな。おまけに魔力消費が大きいみたいじゃし」
「『トライアングル』クラスでも、〝防御魔法〟を『全面展開』したら十秒足らずに魔力切れになるからね。タバサがそうだったから」
すっごい必死の形相ね。
あれに囲まれていたら仕方がない。
なんか、ちょっと可哀そうだとも思っちゃうわ……。
「本音を言えば〝
「確かお主の世界では、かの魔法をどれだけ遠くに飛ばすかで一人前か否かを決める物差しにしているそうじゃな?」
「フェルンも同じことをしていたからね。あの子は〝一般攻撃魔法〟一本で一級魔法使いに上り詰めたし。まあそういう風に鍛えたのは私なんだけど」
「うぅむ、魔法試験か、是非わしも行ってみたいものじゃな。今の実力がどんなものか、教えてくれるわけじゃしのう」
「オスマンだったら、一級魔法使いは確実にいけると思うよ。私が保障する」
「ほほ、ありがとう。ちなみにお主は教師側だったのかのう?」
「違うよ。そもそも試験に落ちたし、千年出禁になったよ」
「えぇ……」
ちょっとぉ! 助けてぇえ!
「で、どうルイズ。マチルダは〝一般攻撃魔法〟を習得できそう?」
「う~ん、頑張ってるみたいだけど……」
「未だに無理そうね」
「必死さがない」
この様子を観戦していた三人娘は、各々そう返す。
彼女たちの視界の先には、十メイルクラスの巨大なゴーレム二体と、更にその足元に十数体のゴーレム。それらがマチルダを叩きつぶさんと迫っていた。
このゴーレムの作り主は、オスマンとフリーレンだ。当然ながら、どちらもマチルダの作るそれを軽く凌駕した性能を誇っている。
「ねえフリーレン! あんた言ったわよねぇ! 苦痛を与えることはしないって! それなのにこれなのかい!? 嘘つき! 嘘つきぃ!」
マチルダは逃げ回りながら、一体のゴーレムの巨腕をかわしていた。そんな中彼女の絶叫だけが響き渡る。
「苦痛を与えるつもりは無かったよ。でも、きっかけにはどうしたって精神的に追い詰めなきゃいけないみたいだし」
フリーレンは淡々とそう返した。
修行を始める前、どうやったらより効率よく魔法を覚えられるか、一通りマチルダ相手に試したことがあった。
一応、効果はそれなりに見込めた。曲がりなりにも優秀な『トライアングル』クラス。旅の途中で得た民間魔法については、それなりに習得はできた。
だが、一方でどうしても苦手なものがあった。それがよりによって〝一般攻撃魔法〟なのである。
どうしても『魔力の塊そのものを放出する』というイメージが確立できず、伸び悩みを見せていた。
なまじ優秀なメイジであることもここでは足かせとなった。マチルダの中で確固とした『魔法の構築方法』と、〝一般攻撃魔法〟が絶望的に相性が悪いのだろう。すぐに構想を改変することができず、四苦八苦しはじめたのだ。
「このままじゃ、教師になるのにも十年以上かかるかな」
修行前に一通り実験してみて、やがてフリーレンはそう結論づける。
基礎魔法が使えないようじゃ、流石に話にならない。〝防御魔法〟の習得速度も芳しくないし。
流石にそんなに悠長に待ってられないと、オスマンはフリーレンに「なにか良い方法がないかのう?」と尋ねたところ。
「じゃあやっぱり、ルイズやタバサがやった方針が一番、効率が良いと思うよ」
「精神的に追い詰め、習得速度を速めるということじゃな。よし」
そして数十分後、現在に至るというわけである。
「わしらが作った二体の巨大ゴーレム、その胴体に埋め込んだ魔力の核に大穴を開けるだけじゃ。それだけで動きが止まるんじゃぞ。ほら早く頑張らんかのう」
これは〝一般攻撃魔法〟を会得させるための修行である。
魔法陣による理論は教えたけど、やはりイメージを直接送れるルイズと比べると、どうしたって修得難度に差が出てしまう。
人類にも理解できるほど洗練された術式構造とはいえど、異世界の魔法なのだから無理もないが。
こればかりは、この世界のメイジ達の持つ特性である、『精神力の高ぶり』に期待するしかないわけで。
そのため、今精神的に追い詰めて、何とか会得させようとしているのである。
「だからって! もうちょっとなんかないのか!」
「時間が許してくれるんだったら、私だってもっと穏便なのを考えたよ。でも期限付きだし」
フリーレンはちらりとオスマンを見る。彼は笑顔のまま、静かに首を横に振った。
「駄目だって、頑張ってマチルダ」
「ふっざけんな! やめてやる! やめてやるぞこんなブラック学院!」
マチルダは喚いた。もちろん、本気でやめられる筈もないのだが。
そもそもとして、この修行は贖罪から始まっているのだし、自分のレベルアップには間違いなくなっている。文句を言いつつも、マチルダは前を向いた。
先陣切って襲い来る、二体の巨人ゴーレムは、マチルダを潰さんとその掌を叩きつける。
マチルダは必死になって逃げ惑い、そして距離をあけると同時に杖先を向ける。
「出ろ!」
マチルダは集中する。杖先から光が迸り始めるも、その光は巨兵の胴体まで届かず。
「あー、魔力が離散したね。典型的な魔力の出力不足」
「魔力の流れを見るに、操作技術はかなりのものなのじゃがのう」
「ゴーレム使いだからね。魔力を機敏に動かし操作する技術は自然と身に付いたんだろうね。魔力操作で躓く魔法使いは多く見てきたから、そこは本当に凄いと思うよ」
「今のランクだとどうじゃ? 十メイル以上も飛ばせそうか?」
オスマンの質問に、「どうだろう……」と首をひねるフリーレン。その背景では衝撃音と共にマチルダの悲鳴が響き渡る。
そこでフリーレンは、同じくこの魔法を会得したタバサに向かって尋ねた。
「タバサって、今〝一般攻撃魔法〟をどれぐらい飛ばせるの?」
「体感で、六メイル」
「さっきのは精々二メイルくらいじゃったの。なんじゃ、生徒にも負けとんのかロングビルよ。それはいかんぞ」
「うるさい! そんな簡単に会得できれば苦労はしな――――」
「「あ、吹っ飛ばされた」」
ルイズとキュルケ、二人が同時に呟く。
マチルダはフリーレンの操る巨兵の一撃で、思いきり吹き飛んで行ってそのまま気絶した。
「〝防御魔法〟も〝魔力探知〟もまだまだ未熟じゃのう」
オスマンはやれやれと首を振る。ゴーレムの攻撃は最低限〝防御魔法〟を構築できればやり過ごせるレベルにしている。それで尚、この結果が今のマチルダのレベルなのである。
「まあ初日だしね。むしろ良い線行っていると思うよ。さっきの攻撃も、破られはしたけど盾は展開できた。どうやら〝防御魔法〟の方が習得が早そうだ。珍しいね」
「まああの魔法はかなり魔力を使うからのう。会得も使用時の消費の激しさも、攻撃魔法と比べると辛いのは分かる」
「え、そうなのですか?」
気絶したマチルダを介抱しつつ、杖でつついていたルイズは、疑問符を浮かべて尋ねてきた。
彼女は典型的な、魔力操作技術が底辺だが、出力だけは異常にぶっ飛んでいるメイジである。その上自分の魔力量の高さに、まだ自覚がないらしい。
「〝防御魔法〟の『全面展開』を、五分以上続けて平然としてられるのはルイズだけだよ」
フリーレンの言葉に、オスマンとタバサもうんうんと頷いた。
それだけルイズの魔力量がおかしいことの証左である。普通は『全面展開』なんて数秒が限界。フェルンでさえ、一分以上なんてまず無理だろう。
「だからルイズは、どちらかというと攻撃よりも〝防御魔法〟の方を極めてほしいんだよね。数分以上も防御を展開可能なんて。ルイズにしかできないことだ。突出する癖の改善にもなる」
「うーん、でもさっき言ってたじゃない。〝一般攻撃魔法〟を極めれば魔法に必須な三要素を効率よく鍛えられるって。わたしも爆発する癖を早く治したいんだけど……」
ルイズとしては、『爆発癖』を治したいという思いがあった。みっともないと思っていたのだ。
それに対し、フリーレンは、
「ルイズ、一回あっちに向かって〝一般攻撃魔法〟を撃ってみて」
そう言って、
言われた通りにルイズは杖を構え、〝一般攻撃魔法〟を放つ。
「――――〝
杖先に花弁の魔法陣を展開しながらも、魔力は一気に収縮。
次の瞬間、大爆発と共に二体のゴーレムを粉々に吹き飛ばした。
「おお……」
「すっごい火力じゃな……」
「でも、『エクスプロージョン』?」
キュルケは首をひねった。呪文名が違うような気がするのだが。
「な、なんか癖でそう言っちゃうのよ。こっちの文言の方が、なんかわたしの中で合っているというか……」
「別に、その直感は悪いことじゃないよ。『魔法はイメージの世界』。その文言がルイズの肌に合うというのなら、そっちの方が良い」
フリーレンはそう言うので、キュルケも「ふーん」と、無難に返した。
今後、〝一般攻撃魔法〟を放つ上でのルイズの文言は、これで決まりそうだ。
「それよりも、私が言いたいのはこっちの方」
フリーレンはここで、空中に浮かぶ一枚の映像を、周囲に見せる。
「ほう、鮮明に映った画像じゃのう」
「それも魔法?」
「写真を撮る魔法だ。この映像の中で見てほしいのが、ルイズの魔法陣」
そこに描かれている、ルイズの杖先の魔法陣を、フリーレンは指さす。
しばし周囲は「何が違うんだろう?」と首をひねっていたが、ここでオスマンが懐から〝一般攻撃魔法〟の魔法陣の用紙を見比べて、言った。
「三枚花弁に、五芒星……じゃが」
「あれ、一部分だけ大きくない?」
「そうだね、星の頭頂部分の丸が大きく写ってるね」
フリーレンはそう指摘する。
ハルケギニア用に調整した〝一般攻撃魔法〟は、威力半減を示す三枚の花弁を三角状に敷き、その上に被せるように五芒星のマークが組まれている。更に星の各先端には丸が描かれているという、独特な魔法陣となっている。
これはフリーレンがこの世界に来て、最初に作った魔法陣だ。
だが、ルイズのそれは五芒星一番上の先端部分、そこに描かれている丸の部分が、かなり大きく出ている。更に魔法陣自体も、真っ白に染まっていた。
「これを比較として、次にタバサ。撃ってみて」
「わかった」
言われた通り、タバサも杖を構える。
そして瓦礫となったゴーレムの残骸に向かって、〝一般攻撃魔法〟を撃ち放つ。
こちらは爆発することもなく、真っすぐ一筋の光となって飛び、瓦礫を穿つ。閃光の先端が尖って、『槍』のような形状になっていたが、それ以外は普通の挙動だ。
「で、これがタバサの魔法陣」
フリーレンは再び、写真を空中に浮き立たせる。
そこにはタバサが魔法を放つ瞬間、浮かび上がった魔法陣が映っている。だがルイズと比べるとまた少し模様が違っていたのだ。
こちらは五芒星右側の先端部分、そこに描かれている丸部分が大きくなっている。魔法陣自体の色は、こちらは空色だった。
「さっき見てたら、マチルダの〝一般攻撃魔法〟は茶色の魔法陣だった。どうやら個人個人によって、〝一般攻撃魔法〟の放出形状に差が出ているみたいなんだよね」
「ふむ、つまり撃ち手によって〝一般攻撃魔法〟の特性が、様変わりすることがあると?」
「そう。ルイズは爆発、タバサは槍といったように。当人たちが『魔法を撃つ』にあたって、どういう風にイメージにしているのかが、如実に表れているみたいなんだ」
「ちなみにそれって、あなた達の世界じゃ普通の事なの?」
ルイズが思わず尋ねると、フリーレンは首を振った。
「まさか、ここまで挙動が変わるなんて私自身初めての経験だ。多分だけど、そういう
「というと?」
「私はハルケギニア用に調整する時、あえて余白を多く残したんだ。ルイズ達が、どんな風に魔法を覚えて使用するかがまだ分からなかったから。余白を消してギチギチにしちゃうと、逆に習得や操作の妨げになると思ってね」
「その空白部分に、当人たちの『撃ち方のイメージ』が、書き加えられて性能に個人差が出たと?」
「多分そう。私自身こんな風になるんだって、驚いているんだよ。これでも」
これはブリミルの加護によるものかは分からない。
ただ、どちらかというと当人たちの『魔法を撃つイメージ』に適応できてしまう許容性の高さ。〝一般攻撃魔法〟そのものの性能の高さにも驚いているのだが。
「だから、あまり矯正とかはしない方が良いと思う。『魔法はイメージの世界』。魔法を撃つイメージが割合固まってきているのに、無理に変えると逆に性能が下がったり、制御が利かなくなる可能性が高いから」
「……結局わたしは、どこまでいっても『爆発』の二文字から逃れられないってワケね」
ルイズはガックシと肩を落とす。
「そうでもない。むしろあれだけの広範囲攻撃は、される側にとってはかなり面倒だと思うんだよね。いきなり全体攻撃が飛んでくるようなものだし。きちんと貫通性能もあるしね」
ただ……と、フリーレンは続ける。
「今のルイズの問題は、魔力操作もそうだけど『一回魔法を撃つと必ず魔力探知を忘れること』だよ。撃った後に心を留守にするのは悪癖だ。きちんと魔法を撃った後も、魔力探知を意識しないと」
「う、確かにそれはあるわね……」
「魔法を使う時に魔力探知を切るのは、見習い魔法使いによくあるミスの一つだ。ちゃんと維持しているタバサを見習わないとダメだよ」
「はぁーい」
ルイズは素直に返事する。まともに魔法使いとしての修行を受けられているからか、昔あった反発はそこまで出なくなっていた。
「じゃあ、マチルダが起きるまで、今度はルイズ達の面倒を見よっか」
フリーレンの言葉に、三人娘も杖を構えて、レッスンを受ける準備を始めた。
そんな彼女たちを背景に、横にやってきたオスマンはぼそりと、フリーレンに向かって呟いた。
「いや、お主も魔法を使う時に〝魔力探知〟を一瞬切っておるじゃろ……」
「昔から苦手なんだよね。……ルイズ達には言わないでね。恥ずかしいし」
オスマンの指摘に、両指をいじいじして答えるフリーレンだった。