フリーレン召喚から2ヶ月後。
月は
トリステイン魔法学院。
「……というわけで、第一回目の講義はここまでになります」
時は再び、トリステイン魔法学院の『民間魔法学』の教室へと戻る。
〝魔力探知〟やフリーレン世界の魔法についてのなんたるかを、あらかた講義し終えたマチルダこと、教師ロングビルは、最後に魔力鍛錬についてのイロハを簡単に伝えたところで、この日の授業を終了させた。
「今日皆さんが学んだことは、必ず役に立つと私は思っています。しかし、それに対し疑問に思う方も大勢いらっしゃることでしょう」
そう言いながら、ロングビルは教壇の机に手をつきながら、周囲の学生たちを見渡す。
「なので次の授業は一週間後とします。先に言っておきますと、この授業自体に単位は関係ありません。降りるも自由、途中参加も自由。今日学んだことを実践することも、忘れてゴミ箱に投げ捨てることも各々の判断に任せます」
ただ、最後にこれだけは言わせてください。
そう言ってロングビルは眼鏡をくいと上げ、こう告げた。
「『魔法はイメージの世界』。向こうの魔法の地では基礎の基礎とされる教え。今日の授業を受けたことで、自分が成長できると鮮明に思い描けた方は、引き続きこの授業を受けることをお勧めいたしますわ」
それと同時に、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
時間ピッタリ。今日教えるべきことを全て披露し終えたロングビルは、杖を振って黒板を綺麗にし始める。
「それではみなさん、今日はお疲れ様でした。次の授業がある方は遅れずに向かってくださいね」
そして事務的な笑顔を向けた後、悠然と去っていった。
「やるじゃん、マチルダ」
授業を終えた後、立ち上がったフリーレンとルイズは、足早と去っていくロングビル……マチルダを追いかけた。
マチルダは眼鏡を一度外し、ちょっと細めた裸眼でルイズ達を見る。
「ったく、教師なんてガラじゃないんだけどねえ」
「そう? すっごく良くできたと思ってるけど」
ルイズは素直に賞賛した。他の授業と比較しても、ロングビルの教えは理路整然としていて、非常に分かりやすいものだった。
良くも悪くも教師の自慢話が入ることが多いトリステイン魔法学院の授業にて、そういった話を排して、徹底的に分かりやすく説明できていたなと、思っていたのだ。
「ま、あれで『理解できねえ』って言ってくる輩までの面倒までは流石に見ないよ」
「それでいいんじゃない? 何事も、最初は怪訝な目で見られるものだ。師匠の時もそうだったよ」
フリーレンも過去を軽く振り返って言った。
フランメがまだ、人々に魔法の重要性を説き伏せていた頃。
まだ『魔法』が『魔族の技術』として恐れられ、忌避されていた時代にメスを入れたフランメの所業は、今でこそ功績とされているが、当然ながら当時は理解してくれる者が少なかったわけで。
地方によっては『魔族の仲間』呼ばわりしてフランメを追いかけまわす連中だって少なくなかった。最悪命だって狙われた。何ならそれに自分も巻き込まれたこともあった。
そんな滝汗の逃走劇など振り返って、でも今は楽しい思い出とばかりに。
フリーレンは両腕を組んでうんうんと頷いた。
「あんたのお師匠も、相当苦労していたみたいね」
「異端だと騒ぐ連中に取り囲まれて命乞いする師匠の姿なんて、それこそしょっちゅう見てきたからね」
「……あれ、それってつまり、選択肢を間違えたら、最悪私もその末路を辿るってこと?」
何か気付きかけたロングビルの肩を、やさしく叩いてフリーレンは言った。
「頑張ってね、マチルダ。もし必要だったら師匠流命乞い方法についても教えてあげるよ」
それに対し、ひきつった笑みで立ち尽くすマチルダなのであった。
「できればどうやってやり過ごしてきたかについても、セットで聞かせてくれ……」
さて、『民間魔法学』についての反応は様々だ。
ギーシュのように、明確なレベルアップが見込めそうと思っていた生徒たちは、ものは試しとばかりに今日出された課題をこなしたりしていた。
これにはマリコルヌやレイナールといった、一緒に馬鹿をやれる仲間が周りにいたことも大きい。
一方でド・ロレーヌのようにあれは異端スレスレの授業と、忌避する者もいた。
そういった者は修行するギーシュたちを馬鹿にしたような目で見ていたが、だからといってそれ以上行動を起こすこともなく。
彼らは最初からそんな授業など無かったような感じで、空気のように扱うようにしていた。
さて、では教師陣はこの授業をどう見ていたのか、
それはこの授業を改めて時間割に組み込むという、教師だけで行う朝の定例会議時でのこと。
「……私は反対ですな」
真っ先に口火を切ったのは『風系統』の教師こと、『疾風』のギトーである。
彼の両隣の教師たちも、表立ってどうこう言わないものの、同じように反対の意を示している。
「そんな宮廷からお言葉が飛んできそうな授業を許すわけにはいきませぬ。なによりも、その授業が広まり本来の『系統学』への意欲が減ることの方が、問題ではありませぬか?」
ただでさえ、ギトーの授業は評判が悪い。
ランクこそこの学院の中でも最上位の『スクウェア』クラスであるのだが、それゆえに一際、風系統に対する自慢話が多い。それに辟易する生徒が多いのも事実だ。
わざわざ別系統の生徒をあてつけ気味に指名し、自分の風魔法がいかに強力かを披露する癖もあって、生徒からの人気は最底辺。
なので『基礎学』にも関わらず彼の授業をさぼる生徒が多い。その上この授業でさらに人が減るのではと、危惧している面もあった。
「言いたいことは分かりますよ、ミスタ・ギトー。しかし実利の面で見た場合、この魔法の性能は非常に高い。この魔法もあるという知識を授けるだけでも、将来のトリステインの安寧につながるのではないかと私は思うのですよ」
「実利ではなく、信仰が大事というのが分からんのですかなミスタ・コルベール。我らメイジは始祖ブリミルから授けられた奇跡の御力によって今、平民や生徒を束ねる位置に就いている。それを無碍にすることは、魔法を授けし始祖そのものを無碍にするということが分かりませぬか?」
「いや、私は別に信仰の面を疎かにするつもりはありませぬぞ! 排斥ではなく融和、始祖から与えられし力に感謝した上で、他にも何があるのかを常に模索する。それこそが大事と言っておるのです!」
「……あなたの授業は最近、変なものを教えるものが増えてきましたな。『愉快なヘビくん』とか『光り輝くヘビくん』とか、だから何だとは言いませぬが、他者の目から見てもあなたの行動には最近、奇異だと思う者が増えていますぞ」
学院の会議室では、やいのやいのと議論が交わされている。とは言っても、論じているのは現在、コルベールとギトーの二人だけなのだが。
『民間魔法学』。それを授業の一つとして生徒に教えていく。
その論については、すぐに答えが出るものではない。
ブリミルが授けた魔法でない。純正な魔法ではないから異端に当たるのでは。ならばそんな魔法は教えるべきではない。声を高くしてそう言うのがギトー。
一方、コルベールは『民間魔法学』を広めること自体は賛成派だった。あくまで〝
それに対し、信仰の妨げになるのではと再び反論するギトー。二人の議論は、熱は上がるのに平行線の一途をたどっていく。
「さて、他の先生方はどうですかな?」
ギトーはここで、他の先生に議題を振る。大体の教師は首を振ったり否定的な様子は見せながらも、積極的に否定もしない。
「あの、わたしは良いと思います……」
自信なさげに手を上げるのは、『水系統』の担任でもあるミス・イヴリーヌ。
水色の長髪に目が隠れた前髪を揺らしながら、おどおどした様子ながらも意見を出す。
「『民間魔法学』って、あの子……エルフの使い魔の魔法もそれなんでしょう? 授業でよく一緒になるんですけど、色んな面白い魔法を教えてくれて、わたしは好きなんですけど……」
イヴリーヌは年配の多いトリステイン魔法学院の教師において、ロングビルとそう大差ない年頃の女性メイジである。だが実力と知識は確かであり、高い薬学に『トライアングル』クラス、それでいて系統自慢をしないため、『系統学』の教師陣の中では一番学生から人気があるメイジだ(強いて言うならば、あまりにもオドオドした、自信なさげな態度を弄られることはあるが)。
そんな彼女は授業の席にて、フリーレンと薬学談義することが多かった。エルフと聞いた時は死ぬほど怖かったのだが、話してみれば学習にも意欲ある姿勢に感化され、次第に態度を軟化させていったのだ。この経緯はミセス・シュヴルーズと同じ塩梅である。
逆にイヴリーヌは、フリーレンからよく民間魔法について聞いていたため、それ専用の授業を打ち立てると聞いた時はこっそり学びに行こうかと考えていたぐらいである。
コルベールもまた、イヴリーヌの意欲ある姿勢に賞賛の意を示す。
「そうねえ、聞けばミス・ヴァリエールの〝花畑を出す魔法も、民間魔法によるものなのでしょう? 私もちょっと興味あるのよね~」
イヴリーヌに次いで手を上げたのは『土系統』担任にして人気二番手のミセス・シュヴルーズ。今までの経緯から、フリーレンに好感は持っていても悪感情を持つわけもなく。
『民間魔法学』についても、特に文句を言うわけもない、むしろ推奨派でもあった。
だが、逆に言うなら賛成派は彼女らとコルベールを含めた三人くらい。後はどうともいえぬ表情。そして一番の反対派がギトーだった。
「まったく、話になりませんな。とにかく私の目の黒いうちは、『民間魔法学』など認めませぬからな」
ギトーはそれだけ言い残すと、先に部屋を去っていった。
「以上が定例会議の内容となります」
「うむ、ご苦労であった」
コルベールの話を一通り聞いた後、オスマンは大きく頷いた。
場所は学院長室。セコイアの机の中で話を聞いていたオスマンの横、秘書机では修行明けで死んでいたマチルダがいた。
〝一般攻撃魔法〟習得後も、魔力鍛錬の厳しい課題を打ち出されていたせいで、碌に休めなかった。おまけに同時進行で教師をやるうえでの資格諸々も取得せねばならなかった。そのため精神的にも体力的にも彼女は死んでいたのだ。
「ミスタ・ギータにも困ったものじゃな」
「仕方ありませんよ。急に『別大陸の魔法技術』なんて、そうは受け入れられませんから。王宮や宗教庁からもなんて言われるか見えませんからね。あと、ギトーですよ」
やさしさから訂正してあげるコルベール。
会議では揉めたが、彼の気持ちもまた理解しているつもりだ。
いくら民間魔法が将来のためになると力説しても、ブリミルの加護がこのハルケギニアを作っている以上、それに背くのは非常に大きなリスクがいる。
そもそもとして、トリステインは小国である。他国との折衝は他よりもさらに気を遣う状況であるにも拘らず、王宮もまた、完全な一枚岩ではない。
なにせ数年前、トリステイン国王のヘンリーは病で崩御。本来なら王位はその妻であるマリアンヌに移るのが道理なのだが、彼女自身は夫を喪に伏していることを理由に拒否。
妻が駄目なら一人娘であるアンリエッタ姫が王冠を被るのかと見ているのだが、彼女自身もそこまで王権に執着がある性格ではないようだ。
そのため、今のトリステインの玉座は空いている状態。他に王位継承権を持つ者もいないわけでもないが、今のところ一番の継承権を持つマリアンヌ、アンリエッタ親子を押しのけその座に就こうなどという恥知らずなど、いるはずもない。
そんな混迷極める王宮に『民間魔法学』などという巨大な重しを乗っける余裕は、まったくもってないのである。
「ったく面倒じゃのう。はよ誰か王様になれってんじゃ。別にあのお二方でなくともよいじゃろうに」
オスマンはため息をつく。それを見たコルベールはそういえば……といった様子で尋ねる。
「そういえばオールド・オスマン。宮廷では是非あなたに王の座についてもらいたいみたいな声もちらほらあると、首都に繰り出した時、小耳に挟んだことがあるのですが」
「いやに決まっとるじゃろうが! どうせ過去の功績だのそんなこんなで祭り上げたい奴がいるんじゃろう! 何度も言うがわしは絶対玉座に座る気はないぞ!」
オスマンは心底嫌そうな表情を浮かべて怒鳴った。
実を言うと、オスマンもまた、公にはできないが隠れた王位継承候補に入っているのである。
血筋というわけではない。過去の功績、そう、かつてヒンメル達と旅した時の、宝のような煌びやかな功績がそうさせた。
世界を震撼させた古代竜討伐もさることながら、アルビオンで活動していた屈指のペテン集団『レコン・キスタ』壊滅に大きく寄与、水の精霊の暴走を鎮め、トリステインのグーヴィル伯爵の陰謀を暴き……。
ヒンメルと別れた後も、エスターシュの反乱鎮圧を裏から補助、そのほかピエール・ド・ラ・ヴァリエールを始めとした数々の有名メイジを、トリステイン魔法学院の教師として輩出してきた実績。
正直、功績の数だけでいえばかの『烈風』カリンすらも上回るとされる。幼き時の国王、後の英雄王と呼ばれるフィリップ三世も、彼と平民剣士が築きあげる、伝説のような冒険譚に非常に憧れていたのだ。
時の王のお気に入り。それに加え今の王宮には所謂『オスマン・シンパ』と呼ばれる、彼を支持するメイジは決して少なくない。そんな、若い頃に作ったカリスマ性。
故に血筋は関係なくとも、彼に王をやってもらえれば……。という貴族は決して少なくない。なんなら今でも王冠を狙ってはどうかという、使者からの囁きまであったりする。
まあ、当人が頑固に首を横に振る以上、それは実現しないのであるが。
「まったく王位と関係のない、しかも老い先短い老人を急場に据えて上手くいく国なんてありゃあせんわい! 連中も過去の功績ばかりでものを見てないで、未来を見ろっちゅうんじゃ! 民間魔法が広まれば、また新しい可能性を模索できるというのに!」
バァン! とオスマンは拳で机を叩く。その音に目覚めたマチルダは、膨らんでいた鼻提灯を思わず割った。
「なに! なんなのさ!」
目を白黒させて起き上がるマチルダ。それに構わず、オスマンは懐から水キセルを取り出し一服。
「あーすまんマチルダ。ちと熱くなっちまった」
若い頃の口調に戻りながら、オスマン。コルベールとマチルダは、そんな校長の意外な一面に揃って互いに顔を見合わせる。
「……まあ、そんなわけで『民間魔法学』に関しては、やはり細々とやっていくのが正解かと思います。学院内でも全員が理解を得られないとなると……お上に目をつけられてはあれですしね」
「あー、そういう話ね」
事情の大体を把握したマチルダは、ため息をつく。
「とりあえず講義自体はやるつもりだけどさ、実際問題宮廷や宗教庁という課題をクリアしないと、浸透は難しいとは思うんだけどね。それでもやるつもりなんだろ?」
「当然じゃ」オスマンは巌とした態度で答えた。
コルベールは思った。教職に就いて数十年。伊達に普段から学院長を見てきたわけじゃない。この顔は何か考えがある顔だ。
「何か手があるのですかな?」
「宗教庁はともかくとして、宮廷に『民間魔法学』を認めてもらう手段は一つある」
「というと?」
「わしが推薦するある男に、トリステインの王様をやってもらう。そのうえで『民間魔法学』への認可を下ろしてもらうんじゃ」
コルベールはあんぐりと口を開けた。マチルダも「ありえねえだろそれ」って顔をする。
あまりにも荒唐無稽な計画に、開いた口が塞がらない。
それでも必死になって顎の筋肉を動かしながら、コルベールは言葉を紡いだ。
「い、一体誰なのです? その『ある男』というのは……?」
「お前もよく知っている家柄じゃ。現在王位継承権第三位の男」
「第三位って……まさか!?」
コルベールは目を見開く。
「若い頃はわしの拳骨で育ち、魔法衛士隊に入った時はマンティコア隊に所属。峻烈の英雄『烈風』カリンと共にエスターシュの反乱を大立ち回りで防ぎ切り、その血筋は元をたどれば王の庶子。聞けばあいつの子はアンリエッタ姫とも懇意だとも聞くぞ?」
コルベールは滝汗を流し始めた。マチルダも思わず唾を飲み込む。
オスマンは水キセルに口をつけ、紫煙をくゆらす。肺から煙を一気に吐き出したのち、言った。
「ピエール・ド・ラ・ヴァリエール。ミス・ヴァリエールの実の父で王の血を受け継ぐ者。奴なら格、実績共に次の王にふさわしいじゃろうて」
「……やってくれると、思うのかい?」
思わず、マチルダは尋ねた。
「あいつはマリアンヌ、アンリエッタ両人とも面識がある。ピエールの奴が王位に就いて好き勝手する性格じゃないのは良く知っておろう。いや、お二人の心境を考えると代わりを務めてやった方が良いまであると思っておる」
「いや、そうじゃなくってさ……」
「当人の気持ち、じゃろ? 無論分かっておる」
そういうと、オスマンは手紙の用紙を机の引き出しから取り出す。
そして、羽ペンを持ち出し文字を書き始めた。
マチルダは立ち上がって、オスマンのところまでやってくる。会話の流れから、おそらくヴァリエール公爵への手紙だろうとはすぐに分かる。
(いったい、どうやって説得させるつもりなんだ?)
気になったマチルダは、コルベールと一緒にこっそりと手紙を盗み見る(オスマンも気づいているようだが、気にせず文字を書いていた)。
最初の手紙には、大文字でこう書かれていた。
『おうさまやりなよ』
『P.S.お前の末っ子、系統は虚無だから、あとエルフを使い魔にしたから』
((ヒェッ……))
コルベールとマチルダは、一気に顔を青ざめさせた。
流石に次の用紙に、事ここに至るまでの詳細や『民間魔法学』について書き足しているようではあるものの、あの文面は衝撃という言葉では飽き足らない。
何でもない只の用紙なのに、今のロングビルとコルベールには、あの手紙から〝人を殺す魔法〟と同質の魔力が強烈に漂っていると、思わせた。
あの一文だけで、どれだけの爆弾がつぎ込まれているのだろう。コルベールは今からでも、この文を読むであろうヴァリエール公爵の胃腸を心配し始めていた。
だけど、確かに効果的とも思った。
もし公爵が娘ルイズの身を案じる性格であるのであれば、絶対に放っておけない内容がつぎ込まれているのだから。
『虚無』に『エルフ』。これらの内容がもし他の貴族や民衆に漏れれば、彼女を狙う輩は一気に増える。それを守る意味でも王をやって、助けてやれと。
何が酷いって、オスマン自身は特に脅しつけるような文言を入れていない事。書き連ねた内容自体は本物だというのも質の悪さを助長させた。
それにこれらの要素は、黙っていたっていずれバレる。ならそれを最大限利用してやろうというのだろう。とんだ狸ジジイである。マチルダは心底そう思った。
「よしできた。これを後はピエールの奴に送るとするかのう」
(ヴァリエール公爵、どうか、どうか気を確かに持ってください……!)
コルベールの切なる祈りが同封された手紙は、愛する使い魔モートソグニルの背に括り付けられ、この日の夜に送り届けられることとなった。
祈りの効果があったかどうかは……定かではない。
これが本当の〝