トリステイン魔法学院の食堂は、学院の敷地内で一番背の高い本塔の中に存在する。
食堂の中では長方形のテーブルが三つ並んでいる。百人は優に座れるだろう。
キュルケたちはフリーレンを、真ん中のテーブルの端に案内した。
「すごい人数だね。みんな貴族の生徒なの?」
「そうよ。ここにいるのは国の将来を支える貴族の子供たち。ハルケギニアでは基本、貴族は全員が魔法使いとされているわ」
まあゲルマニアは別だけどね、とキュルケは補足する。
「キュルケはゲルマニアから来たって、言ってたっけ」
「ええ、ゲルマニアはトリステインと違ってお金や実績で爵位を買うこともできるわ。そうやって有力な人材を抱え込んで、他の地域を併呑してのし上がってきたの。勢いならトリステインに負けないと思っているわ」
「『聖地』奪還運動で疲弊した諸侯貴族たちが反乱して、集ったのが国の始まりなんだよね。だから王家三国の中では唯一、ブリミルの血筋が受け継がれていないとか」
フリーレンが後を引き継いでそう答える。キュルケは少し驚いたように目を見開いた。「あんた、いつの間にそこまで調べたのよ」
「さっき図書室に行ってた時に、ゲルマニアの歴史書に軽く目を通したからね」
「すっご、勉強熱心なのね本当に」
キュルケはフリーレンの頭をわしわしなでる。
「調べたいことなんて、それこそ山ほどあるよ。多分あの図書室だけで私は百年くらい余裕で暮らせると思う」
「百年か。エルフの時間感覚って、ほんとにおかしいのね……」
人間の人生、ほぼ全てをあの図書室で費やせると聞いて、キュルケは冷や汗交じりに答えた。
するとここで、給仕たちが食事のトレーを引きながら、此方にやってくる。
「あら、今日は『極楽鳥のソテー』なのね! 大好物なのよお!」
「『はしばみのサラダ』。嬉しい」
「二人は、それが好きなんだね」
まず貴族であるキュルケとタバサの二人に、大皿に乗ったソテーやサラダが並んでいく。あっという間に、机は食事という彩りで満たされていく。
「フリーレン様ですね。こちら、お待たせいたしました」
遅れて、フリーレンの前にも同じ食事が並ばれた。フリーレンは給仕の女の子を見る。カチューシャで纏めた黒髪。あどけない、幼さを残した少女だ。
「ありがとうシエスタ。ちゃんと用意してくれて」
キュルケは軽く手を振った。どうやらちゃんとフリーレンの食事も準備するよう、伝えていてくれたらしい。
「シエスタって言うんだ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ……、では失礼します」
あ、一瞬怖がったなぁ。
フリーレンは内心しゅんとする。明らかに自分の長耳を見て、声に硬さが出ていた。
「あの子も魔法使い?」
「いや違うわ。ここには使用人で何人か雇っているのがいるけど、大体は魔法が使えない平民ね」
「そうなんだ……、ふぅん」
ちょっと思うような仕草で、去っていくメイドの少女の背中を眺めるフリーレン。
「……どうかしたの?」
「いや、別に」
するとここで、祈りの声が唱和される。どうやら食事のたびに行われる恒例行事のようだ。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。ささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
熱心なブリミル教徒でないキュルケとタバサも、一応手を合わせて唱和する。
一応、やっといた方がいいんだろうな。フリーレンもまた、手を合わせてみんなに続いた。
(……やっぱり、ルイズは来てないな)
目を瞑って祈る傍ら、ルイズの魔力を探知したけど、どうやらこの食堂にも来ていないらしい。
あの授業のことが尾を引いているんだろうか……。早く、何とかしてあげよう。
後で、ルイズに食事を届けるようシエスタって子に頼もうかな。色々フリーレンは考えながら目を開いた時だ。
……周囲が、奇異な目でこちらを見ている。
エルフが、ブリミル教徒に祈りをささげる光景が、あまりにも奇特に映っているのだろう。
(なんでエルフがブリミルに祈ってんだ?)
(ってか、神聖な『アルヴィーズの食堂』に堂々足を踏み入れるその神経が良く分からないわね)
(あの子のせいで料理が不味くならないかしら。まったく、主人は何をやっているのかしらね)
そのような囁きが、そこここでされる始末。
(これ、本当にどうしたもんかなぁ……)
正直ここまで異端扱いされるのはなぁ……。それだけエルフとの闘争は根深いものがあるのだろうか。
……まあ、私が会ったエルフも正直まともじゃ無い奴ばっかりだったからなぁ。
正直なところ、針の筵にいる気分だ。
キュルケたちには悪いけど、外で食べた方がいいかな……。と考えがちらつき始めたころだった。
「……タバサ」
キュルケの声に、タバサは杖を振ることで応える。
するとテーブルの左奥、特に強い陰口をしていた女子の一人を、『レビテーション』で一気にこっちに引っ張ってきた。
「いだっ……い、いきなりなにすんのよ!」
「あんたのひそひそ声が一番耳障りだからよ。いい、これ以上友人を陰であざ笑うのは止めてくださるかしら? トネー・シャラント」
いきなりの蛮行に、周囲は唖然としてみた。教師でさえ呆然としていたが、キュルケは見せつけるようにきっぱりとそう告げる。
「キュルケ、いいよ。私気にしてないから」
「いいえ、はっきり言わせて頂戴。あたしいい加減うんざりしているのよ。力がない奴には威張り腐って、気に食わない奴は陰で嘲って陥れるあんたらトリステインどもの品のないやり口に! 言いたいことがあんならはっきり言いなさいよ!」
これにはタバサも、こくこくと頷いた。
「い、言いたいこと? はっ! 可笑しいのはあんたらよ! なんで当然のようにエルフと仲良くしてんのよ! 『聖地』を巡っての敵なのに!」
「その聖地運動自体もう、いつの時代の話だってんのよ。あんたらただ気にくわないだけでしょ、伝統あるアルヴィーズの食堂にエルフが入ってくんのが」
「あたり前じゃない! 言っとくけど、あんたらがやっていることが異常で異端なんだからね! 親戚に宗教庁に勤めている奴がいるから、チクってあんたら共々『異端審問』にかけ――――」
「トネー・シャラント」
ここで、今度はタバサが口を開いた。
キュルケ以上に冷ややかな目と声で、トネーの喚きを一発で黙らせる。それくらいの気迫が、漂っていた。
「今度は原形なくなるまで、切り刻まれてから吊るされたい?」
「――――っ!?」
冗談じゃない。本気でやる。そう思わせる凄みに、遂にトネー・シャラントは泣いてしまった。
どうやら彼女は過去に、この二人に対してトラウマがあるようだった。
「どうしたのですか!?」
騒ぎを聞きつけ、大人のメイジがやってきた。
「あ、ミス・ロングビル!」
「ミセス・シュヴルーズも!」
「物騒な言葉が聞こえてきたと思ったら、何があったのですか?」
ここでやってきた教師シュヴルーズと学院長秘書官、ロングビルが事態を解決せんと話を聞く。
「……なるほど、そんなことがあったのですね」
「わたし何も悪いこと言ってませんよね!?」
ここぞとばかりに、トネー・シャラントは泣きついた。
「確かにそうね、本来、ここ『アルヴィーズの食堂』に、貴族でない者が食事をとれる道理はありません」
ですが――――、と、シュヴルーズは続ける。
「彼女はミス・ヴァリエールの使い魔。貴族の付き人ならば問題ない特例も実はあります。それに彼女はエルフとはいえ、すごく理知的で優秀な魔法使いだと思います。特に私の系統を褒めてくれましたし――――」
授業の事があったため、シュヴルーズはむしろフリーレンのフォローに回っていた。
ロングビルも、眼鏡を上げながら、
「ここは学び舎ですよミス・シャラント。なにも危害を加えてない者を、遠くから馬鹿にしたり排斥するのが貴族の作法と、ご両親から教わったのですか?」
「……ぅぅ」
大人からもそう言われてしまっては、トネーも黙るしかなかった。
「はい、それでは仲直り」
ロングビルはそう言って、トネーをフリーレンの真向かいに移動させる。
「あ、あの……陰口言ってごめんなさい……」
「あ、いいよ。いいから……ね。ご飯食べよう? ね」
あまりに殺気立った周囲に一番辟易していたフリーレンは、泣いて謝るトネーを必死になってなだめた。
「はい、これでおしまい。ミス・ツェルプストーもこれでよろしいですね?」
「ええ、あたしは別に」
キュルケは髪をかき上げ言った。タバサも無言でうなずく。
「メイジにとって使い魔は一生のパートナー。それがどんな種族であれ、尊重を持つのが大事だと私は思いますわ」
「ええ、まったくもってその通りですわミス・ロングビル。できれば今後は、このようなことがないよう、気を付けてください」
最終的には、二人の女性がそう取りまとめてくれたおかげで、殺気立った空気も和やかなものへと戻っていく。
「それではみなさま、引き続き食事の時間を楽しんでください」
そう締めてロングビルは、シュヴルーズを引き連れ去っていった。
「はぁ、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなってよかったわね」
「うん、……ってか、二人ともこわかったよぉ、あんな脅しつけるようなことしなくってもさ……」
「甘いわよフリーレン。あいつらはね、分からせないとどこまでも調子に乗るんだから。ここいらで一発締めておかないと」
「特に彼女は、非常に嫉妬深くて高慢」
まるで知っているかのような面持ちで、タバサも補足した。キュルケも「そうそう」と頷いた。
「それにしてもタバサ、あんたがあんなに怒るだなんてね。一年前の『決闘』の時以来かしら?」
「……あの時本を全焼されたこと、一生忘れない」
「そういえばそうだったわね。あたしだって自慢の一張羅を台無しにされたわけだし。やっぱり脅しつけて正解だったわ」
キュルケはぱくぱくと食事をほおばるタバサの頭をわしわしと撫でつける。タバサは無表情で、キュルケにされるがままだった。
本当に仲いいんだろうな。フリーレンは微笑んで、改めて言った。
「……ありがとうね、キュルケ、タバサ」
「え?」
「図書室でも調べたけど、この世界じゃ
「っそんなぁ、やめてよフリーレン! 友達じゃないのよもう!」
キュルケは照れたような口調で、タバサは無言の頷きで返した。
やがて、食事も終えて。
「あぁ美味しかった。オイサーストの時以来かな。こんなに良い料理を味わったの」
「あんたはやっぱり、色んなとこ回って色んなの食べてきたのね」
「まあね。それでも大体は携帯食かな。最近は流通が渋い地帯を旅していたから、硬いパン食べて凌いできたし」
仕方がないとはいえ、今思い返すとあのパンは食べ物じゃないよな……。ゴトッて。そりゃシュタルクも突っ込み入れたくなるよね。うん。
「あなたの冒険譚をもっと聞きたいし、お仲間のことや街並みについても色々知りたいけど、それはまた今度にしましょうか。今は―――」
「ルイズについて」
タバサが補足してくる。
この頃には周囲も食事が片付いてきたのか、給仕たちが今度はデザートを運びにやってくる。その中にはシエスタもいた。
「あなた、あの時ルイズの何を見たの? あたしたちにはやっぱり失敗したなって、思っただけなんだけど……、あ、ありがとシエスタ」
シエスタがケーキをキュルケ、タバサ、フリーレンへと切り分けていく。
「やっぱり、この学院は〝魔力探知〟を鍛えるような授業がないみたいね」
「〝魔力探知〟?」
「私の世界にある技術で、魔力量の多寡や気配を広範囲で探知する能力。より上のランクを目指す魔法使いにとっては基礎中の基礎だよ。魔物や魔族と戦う上でもね」
それを聞いたキュルケは目を見開いた。タバサもまた、本を閉じて真剣な表情でフリーレンの話に耳を傾ける。そんな技術があるのかと言わんばかりに。
(あの香水、拾った方が……いやでも……)
隣ではシエスタが、真剣な表情で独り言を呟いていた。フリーレンは一瞬だけ彼女に視線を移すも、次の瞬間にはキュルケ達に向けて説明を続けた。
「ただまあ、私もルイズの魔法発動時の一瞬の歪みを拾っただけだから。あれに気付けるのは私の世界でいうところの〝一級魔法使い〟クラスじゃないと無理だろうね」
「あなたの世界では、魔法に関する資格みたいのがあるみたいね」
「まあね。それで、私が言いたいのは魔法発動時のルイズの魔力量。あれは千年以上研鑽を積んだ自分に匹敵する。だから驚いたんだ」
おいギーシュぅ! なんか落ちたぞぉ! 香水かこれは!
何言っているんだいマリコルヌ。それはぼくのじゃないよ。
あれ、それもしかしてモンモランシーの香水じゃないか! じゃあ付き合ってるのってもしかしてモンモランシーだな!?
ギーシュさま、やはりミス・モンモランシーと……、
「千年生きたあんた以上……って」
「確かに、それが本当なら驚愕に値する」
「でも一方で、魔力の操作は圧倒的にお粗末極まりない。それは修行不足とか当人の未熟じゃなくて、何か外的要因……私の世界で言う〝呪い〟の類にかかっているんじゃないかと見ているんだ。今思えば、それくらいぎこちない動かし方だった」
「〝呪い〟?」
「端的に言えば原理が分かってない状態異常の総称かな。ルイズはそれに近しい『何か』のせいで、あんな風になってるっぽいんだよね。どうしてああなっているのかまではまだ、私にも分からないけど」
その香水が何よりの証拠ですわ! さよなら!
ギーシュ、やっぱりあんたあの一年生と……!
誤解だよモンモランシー! 彼女とは一緒にただ―――、
うそつき!
「今のルイズは多分、その〝呪い〟にかかっている所為で、ゼロか百かでしか魔力を操作できないんじゃないかな? 『十』もあれば魔法が発動するのに、『百』の力で叩きつけたら凄まじい余波を生むでしょ?」
「それが爆発という結果に、つながるってことなのね……」
「そんな風に考えたことなかった。これは反省」
「そうね、今までゼロって馬鹿にしてたけど……、そんな理由があったのね……」
マリコルヌゥ! きみのせいで二人のレディの心に傷がついたんだけどぉ!
あぁ! モテねえぼくにそれ言うのかギーシュゥ! ぶっちゃけお前の自業自得だろうがざまあみろぉ!
このぉ……!
「正直、なんとかしてあげたい。ルイズがかわいそうだよ。あんな魔力を持っていて落ちこぼれだなんて……」
「フリーレン……」
「魔力の量は修行の年月で比例するのが常識だけど、あの子はその常識を打ち破ってきた。ものにすれば絶対、大魔法使いフランメに匹敵する逸材になるかもしれないよ」
「フランメ?」
「私の
「あなたの世界って、誰でも魔法が扱えるんだ!? そりゃあすごいわねえ」
「エルフが人間に師事していたというのも、驚き」
許せん! 友達とはいえこの侮辱は到底見過ごせん!
おう! ぼくもお前のキザモテっぷりには一言二言三言言いたかったんだよ!
ほう! そこまで言うのであれば覚悟は出来ているということだな!
いいぜ、やってやろうじゃねぇか! 非モテの力を思い知らせてやる!
「「決闘だ!!」」
「うるっさいわよあんた達! 喧嘩なら外でやりなさい外で!!」
あまりに騒がしくなっていく周囲の声に、思わずキュルケは机をたたいて叫ぶ。
「「はい……」」と、決闘宣言した二人の少年は先ほどの威勢もどこへやら、トボトボと歩いていく。
今日のキュルケ、すっごくピリピリしてるよね……。
こえぇ……。
ただ、ギーシュとマリコルヌ、二人が決闘を始めると聞いて、周囲の歓声は大きくなった。
「おい! ギーシュがマリコルヌと決闘するらしいぞ!」
「マジで!?」
「こりゃあ見ものだな! 場所はやっぱり『ヴェストリの広場』か!」
「早速行くぞ!」
暇を持て余した貴族という人間は、こういった争い事に非常に飢えているのである。
「決闘?」
フリーレンもまた、バタバタと外へと向かっていく生徒たちを見て呟いた。
「たまにある」
タバサは簡潔に答えた。本来貴族同士の決闘は法令で禁じられているが、学生同士が裏でこういったことに精を出すのは基本、珍しいことではない。
タバサもまた、何度かこの学院で喧嘩を売られたこともあった。
「ドット同士のバカ騒ぎよ。正直あんたが見ても得るものはないと思うわよ。フリーレン」
「ふぅーん……」
しかしフリーレンはしばし考えた後、キュルケたちの方を振り向いた。
「キュルケ、タバサ」
「なに?」
「ルイズの魔力、どんなものか実際に見てみたい?」
「見られるの?」
「うん、二人が手伝ってくれればね」
フリーレンの頼みに、キュルケとタバサは顔を見合わせる。
「ルイズのこと、きちんとみんなに知ってもらおうかなって」
「何か考えがあるのね、どうすればいいの?」
フリーレンはキュルケとタバサに、何をするのかを軽く伝える。
数分後……。
「あはは! 面白いわねそれ! いいわ、あたしもあの子には言いたいことがあるし、それにちゃんとあの子のことを知らないとね!」
「キュルケって、仇敵の割にはルイズのこと、きちんと知ろうとするよね」
「あったりまえじゃない! 馬鹿にするならきちんと知った上で馬鹿にしないと! 無知のままあざ笑ったらあたしが最終的に馬鹿を見るだけだもの!」
手の甲を顎にあて、おほほと笑うキュルケ。
「じゃああたしはルイズのところに行ってくるわね。どうせあの子、自室でふて寝してるんだろうし」
「うん、お願いね。じゃあタバサ、一緒に広場に向かおうか」
「了解」
キュルケと分かれたタバサとフリーレンは、ギーシュ達が決闘するという広場に、向かっていった。
ルイズの部屋へ行きながら、キュルケはふと考える。
「それにしてもあたし、なんでこんなにもあの子に入れ込むのかしらねぇ」
確かに。言い分自体はトネー・シャラントの方が正しい。エルフの方に入れ込むことの方が、本来おかしいことなのだ。
でも、キュルケ自身は特に気にしなかった。元々信仰とはあまり無縁なゲルマニア人の気質もあるかもしれない。
ただ、それ以上にフリーレンというエルフは『唯一無二』という点が、自分の心を刺激するのだろうと思った。
「側にいて苦痛じゃない。うんそうね。一緒にいて楽しいと思える子は、タバサとあの子だけだもんね」
敵対することもなく、色んな面白い話や体験談、酒場で話すような下らない話が聞けて、楽しいことこの上ない。
さらに自分とは全く別の魔法、〝民間魔法〟といった別次元の魔法も、たくさん修めているという。
そこら辺の塩梅は、タバサと同じ感じだとキュルケは思った。恋人は多くいるけど、フリーレンの代わりはハルケギニアのどこを探したって、どこにもいないのだから。
それだけに、今のルイズには純粋に言いたいことがあるのだが。
「ちょっと、いるんでしょヴァリエール」
キュルケはそのまま、女子寮のルイズの部屋の扉をノックする。
返事はない。でもいるとキュルケは思った。
キュルケは隣に置いてあった、配膳カートを見る。『ミス・ヴァリエールの分です。シエスタ』と、手紙が一緒に添えてあった。
どうやらシエスタが、気を利かせてわざわざ料理を届けてくれたらしい。
キュルケはため息をこぼした。次いで胸の隙間から杖を取り出す。杖先を扉に向けながら
「入るわよー」
返事を待たずに、キュルケはずかずかと部屋に入っていく。彼女の予想通り、ルイズはいた。
ルイズは今、制服姿のままベッドの上でうつ伏せになっていた。枕を顔に埋め、完全に固まっている。
寝てはいないんだろうな。キュルケは思った。多分先の授業での罪悪感で、顔を上げられないに違いない。
劣等感は仕方がないとはいえ、フリーレンにあんなこと言ったのだから。
でも、キュルケは彼女を慰めに来たわけではない。そんなやさしさは今必要ない。
腕を組んで、冷たくルイズに告げた。
「あんたって、ホントバカで嫉妬深くて、高慢ちきなのね。トリステインの女はそんな奴等ばっかりだけど、あんたはその中でも最低中の最底辺よね」
「…………」
「どうすんのよ。フリーレンにあんなこと言っちゃって」
ルイズは答えない。完全な石になったかのように、固まったままだった。
キュルケは「はぁ……」とため息を吐く。ほんと、フリーレンも大変だわ。こんな面倒くさい女の使い魔にされて……。
「あんたが今考えてること、当ててやりましょうか? フリーレンにどうやって謝ろうか、謝って許してもらえるか、そもそもなんで謝んなきゃいけないのか……とかでしょ」
ルイズは答えない。でも枕を握る指は、より強くなった。
「でもね、あんたがそんな風に悶々としている間でも、彼女はもっと大変な目に遭っているのよ。あの子はエルフで、まったく別の世界から召喚されたせいで今、たった一人ぼっちなんだから」
ルイズは答えない。だが、静かに体全体を震わせ始める。
「さっき昼食一緒にした時も、下らない連中にあの子は絡まれていたわ。本来あなたが庇わなきゃいけないでしょう? エルフというだけでフリーレンは今、周囲から白眼視されているんだから。そんな使い魔を守ってあげるのが主人ってものじゃないの?」
ルイズはゆっくりと、頭を動かしキュルケを見上げる。涙で濡れた鳶色の瞳が、爛々と光っている。だが、キュルケに対してまだ、何も言わずに黙っていた。
キュルケはルイズが反論して来るかと思ったが、何も言ってこないので構わず続ける。
「『召喚』と『契約』は成功して、エルフを使い魔にしたからちょっとは見直したんだけど……、やっぱりあんたは『ゼロ』がふさわしいわ。数少ない成功例を、自ら捨てようとしてるんだから」
ここから先、キュルケは本心でそう言っていた。一応、ルイズを釣り出すっているのは先のフリーレンとの会話で決まったことだけど。
「使い魔はメイジにとってパートナーでしょ? それを大事にできないあなたはメイジ失格ね。まあ、『ゼロ』だし仕方ないのかしらね」
キュルケは思い切り、侮蔑を含めた声でルイズに言った。
それでもルイズは乗ってこない。キュルケはそんな腑抜けたルイズを鼻で笑った後、
「まあいいわ。あの子……フリーレンはあたしが責任もって面倒見てあげるから。せいぜいあんたは『ゼロ』らしく、一人で泣き続けてなさいな」
それを最後に、高笑いして去っていく。
部屋を出て、扉を強く閉めて、数歩歩いた時だろうか。
いきなり扉が、爆発して吹っ飛んだ。
喰いついてきたわね。キュルケは内心にんまりしながらも、表情は苛ついているかのような態度で、やってきたルイズを睨む。
「ふ、フリーレンは……、わたしの使い魔よ! 誰が、あんたなんかに……!!」
涙声で、震える杖先で、キュルケに宣戦する。
「あっそ、それは
「両方……よ!」
「だったらもっとちゃんとなさいな! いつまでもウジウジしてんじゃないの! あんたにはそんな時間すら許されないのよ! それすら分かってないから『ゼロ』って馬鹿にされてんじゃないの!」
廊下中に響き渡らんばかりに、キュルケもルイズも声を張っていた。
ややあって、キュルケは懐から杖を取りだし、毅然とした口調で言った。
「決闘よルイズ。今のあなたにほんのちょっぴりでも貴族としてのプライドがあるのなら、ヴェストリの広場に来なさい。完膚なきまでに叩きのめしてあげる」
そう言い残して、キュルケは去っていく。
キュルケが去った後。
ルイズはただ、呆然としていた。
キュルケに決闘を宣告された。正直に言えば、怖い。決闘なんて初めてだ。
でも、退くわけにはいかない。ツェルプストーに背中を見せないというだけではない。
それ以上にもう、フリーレンに失望されないためにも。……いやもう、失望されているかもしれないけど。
それでも。
(待ってなさいよフリーレン! 今度こそ、わたしの実力を見せてあげるんだから!)
そして、ちゃんと謝ろう。
酷いことを言ってしまったことを。きちんと謝罪したい。
ルイズは涙を拭いて、杖をとって着替え始めた。
そして隣にあった配膳カートに乗っていた料理に、急いで手を付けた。
決闘(フリーレンがするとは言ってない)。
先程確認したら日間ランキング1位!?
たくさんの評価、感想、お気に入り、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
どうか、これからもお付き合いいただければと思います!
よろしくお願いいたします!